無垢の守護者と甘い恋   作:しゃべる

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マジで今回恐ろしく長いです。


回帰

あれから進は数日間の入院生活の後無事退院した。一応私生活は気を付けてと忠告されたが、今のところ問題は起きていない。こうしていつもの日常が戻ってきたわけだが、変わったこともあった。

 

先ず、市長が進の住んでいるアパートの電気代や水道代、ガス代等を肩代わりしてくれるという点である。直接顔を見せて会話をしてはいないのだが、カイトを通してそう伝えられた。どうやら、市長としての責任を果たすためらしい。住民にクリーチャーの存在を隠していたのは市長本人の意向である。予め予備知識が進に備わっていればある程度警戒出来た事件だったため、そこに責任を感じていたらしい。

 

最初はカノンが住んでいるような豪華なマンションをタダで貸してくれるという提案だったのだが、さすがに断った。そもそも進は市長の提案自体を断るつもりだったのだが、それは納得ができないとのことで押しきられてしまった。それでなんとか妥協された案がこれなのだ。

 

何故断ったのかとダピコに訊かれたが、進は澄ました顔で

 

「それじゃ、あんまり働いている意味を見出だせない。」

 

と言うのだった。

 

話を聞けば誰もが羨むかもしれないが、実際のところ市長の提案を受け入れると働く理由が食べ物と娯楽だけになってしまうという懸念点があった。家庭用品を買うこともあるだろうが、進はそれだけでは物足りなく感じてしまうのだ。それに、この制限された中で生きていく環境が好きだったりする。さらに言うと、進が"シティに来た目的"が叶わなくなってしまうのだ以上の理由から進は市長の提案を断ったのである。

 

場面は変わり、喫茶店 拘りブラック。ここは人気の無い路地裏に展開している喫茶店で、知る人ぞ知るといった隠れた名店である。常連の間ではブラックの愛称で親しまれている。そんな店に、二週間ほど顔を見せていなかった二人が姿を現した。

 

「ど、どうも~……」

 

「お、おはようございます……」

 

声の主は白守進とカノンのものであった。気まずそうに入店する2人。しかし、返事が返ってこない。店長の存在を確認しようと辺りを見回すも、人の気配がしなかった。どうしたのだろうかとカノンと話していたその時

 

ドサッ、と何かが地面に落ちる音が響いた。

 

突然のことに驚き、2人は音のした方向へと顔を向けるそこに居たのは

 

「お、お前ら……!」

 

「あっ、店長……」

 

「て、店長さん……」

 

ブラックの経営者である店長その人であった。どうやら店の仕込みに必要な物を運んでいる最中だったらしい。

 

「ったくお前ら心配させやがって!」

 

「す、すみません……」

 

「ごめんなさい……」

 

店長が慌てて駆け寄る。心配させてしまっていたことに罪悪感を覚える2人。

 

「聞いたぞ、大変だったんだってな!」

 

「えっ、し、知ってるんですか!?」

 

思いがけない言葉に驚く進。困惑していると、そこにカノンが割って入ってきた。

 

「私が説明したんです。」

 

「よ、良かったのか!?」

 

市長が必死に隠してきたクリーチャー事情を全て話したということなのだろうか。となると、カノンの事情も知られてしまっていることになる。進にでさえあんなに話すのを躊躇っていたのに、店長にまで話してしまって良いのだろうか。そんな不安が芽生えるも、次の瞬間には杞憂に終わった。

 

「はい、許可はもらってますから。それに、ずっとお世話になっているのに突然何も言わず3週間はバイトに行っていませんでしたからね。このくらいのことをしなければ私にバイトをする権利は無いと思ったんです。」

 

なんと真面目なのだろう。隠し事の最上級と言っていいほどの事を、カノンは誠意で公開していた。嫌だったろうし、少なからず不安だっただろうによく言えたものだ。

 

「はっはっは!!そんな深く考えねぇでもいいんだがな!世話になってるのはお互い様なんだ!別に理由を言わずともいつも通りバイトに来てくれりゃそれでいいさ!」

 

「店長……!マジで一生着いていきます!よっ、漢の中の漢!」

 

「なんだぁ急に?お前そんなこと言うキャラだったか?」

 

「あっ、いや……ノ、ノリでつい……」

 

「へっ、まぁ悪い気はしなかったけどな!なんならもっと言ってくれてもいいぜ?ほらっ、来いよ!カモンカモン!」

 

「ちょな、なに言ってるんですかwなんか様子可笑しいですよww」

 

「うるせいやい!久しぶりにお前らに会えたから嬉しいんだよ!ここは素直にノッとけ!」

 

茶番を始める2人。蚊帳の外に追われてしまったカノンだったが、目の前の光景が可笑しくてつい笑ってしまった。

 

「にしても市長はとんでもねぇこと隠してたんだなぁ。聞いたときは本当に驚いたぜ。それにカノンちゃんのこともな。あぁ、安心しな。別に、カノンちゃんが何をしてようが俺には関係ねぇ。これからも普通に働いてもらうぞ。」

 

「ありがとうございます!これからもよろしくお願いしますね!」

 

「おう!頼りにしてるぜ!」

 

かくして、身支度を整えいつもの定位置につきいつも通りの仕事内容をこなす日々が始まった。変わらぬ作業、変わらぬ客人の顔ぶれ、変わらぬ掛け声。全てが新鮮に感じる。カノンはこの変わらぬ日々こそが幸せなのだと、バイト中にも関わらずその幸せを噛み締めていた。

 

「ご注文はどうなさいますか?」

 

カノンは席に座っていたとある人物からオーダーを取る。彼はこの喫茶店の常連客で、普段はパソコンを使い作業に勤しんでいる。だが、時には店長との他愛ない会話を交わし、時にはカノン達にも話しかけ世間話をしたりしていた。だからこそ

 

「あれ、カノンちゃん?」

 

久しぶりに顔を見せたカノンに気がついた常連客は、驚いた様子で声をかけてきた。

 

「えっ……あっ!」

 

一瞬何故名前を呼ばれたのだろうと思ったカノンだったが、直ぐに彼の事を思い出し声を上げる。

 

「いやぁ突然いなくなっちゃったから少し心配してたよ!」

 

「あー……す、すみません……心配かけてしまって……」

 

「いやいや、謝ること無いって!元気そうで安心したよ。それにカノンちゃんが居るってことは……」

 

そういって辺りを見回す。そして、とある人物が目に入った時、彼はまたしても嬉しそうに声を上げるのだった。

 

「やっぱり!進君も居るじゃないか!進君!久しぶりー!元気にしてたかー?」

 

「ん?……あれっ!?あ、貴方は!」

 

突然声をかけられ硬直する進。しかし、顔を確認した瞬間進はカノン同様誰かか気づいた様な表情を浮かべた。

 

「こっち来なよー!少し話がしたいな!」

 

「え……で、でも……」

 

現在店内には客は1人しかいない。今の進には仕事が無いのだが、もしもという時もある。どうしようかと店長のほうに顔を向けてみる。すると

 

「大丈夫大丈夫!行ってやれ!」

 

と満面の笑みを浮かべながらそう言うのだった。店長が言うのであれば仕方ない。進は言葉に甘えることにした。

 

「じゃ、じゃあ行ってきます。」

 

「おうよ!」

 

そうして、進は常連客の前へと赴いた。

 

「いやー久しぶりだ!また君の顔が見れて嬉しいよ!」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

完全に常連客のペースに乗せられる進とカノン。この店は目立たない場所にある故に、なかなか個性のある人が多く来る。彼の場合は、その卓越したコミュニケーション能力だろうか。どうやら進達が働く以前から通っていたらしい。進が働き始め初めて彼と出会ったとき、初対面だと言うのに随分とフレンドリーに、突然話しかけられたのを思い出す。

 

「若いっていいなー。やっぱ華が無いとね。君たちがいないとこのお店にはおじさんしか残らないから物足りなかったよ。」

 

「んだとー!お前もおじさんだろうが!!」

 

「おー怖い怖い。まぁ、確かに俺も人のこと言えないか。」

 

「はぁ……お前はカノンちゃん達が来てもいつも通りだな!」

 

「そう?俺から見たら店長さんもあんまし変わってないように見えるがなー。」

 

「そうかいそうかい……言ってろ。」

 

内容だけ見れば仲がよくないように思えるが、普段の2人の距離感はこれなのだ。なんなら正常である。いつもと変わらぬ雰囲気に2人は何処か安心感を覚えた。

 

「っと待たせちゃってごめんねカノンちゃん。さっさと注文しちゃおうか。といっても、何時ものだから取る必要もないんだけどな!」

 

「い、いえ。そこまで待っていた訳でもないので大丈夫です。それで……いつものでしたね?」

 

「うん。じゃあ頼んだよー。」

 

「はい!任せてください!」

 

仕事を再開して最初の注文。カノンはいつも以上に張りきっており、元気一杯に返事を返した。そうしてオーダーを受け取ったカノンは店長の元へと駆け寄っていく。

 

「俺ここ来た意味ある……?」

 

1人常連客の前に取り残された進はつい心の仲で思ったことを口にしてしまった。

 

「あぁ、悪い悪い。あるある、十分あるよ。」

 

「あ、す、すみません。聞こえちゃってました?」

 

口のようなものを溢してしまったため、それを聞かれてしまったことに罪悪感を覚える進。しかし、常連客は嫌な顔一つせず話を続けた。

 

「全然大丈夫だって!前から言ってるけど、進君何でもかんでも考えすぎだぜ?」

 

「そう、でしたね……」

 

「うんうん、分かればいいよ。んで、進君を呼んだ理由なんだけど……」

 

次の言葉に備える進。どんなことを言われようと返答する準備は出来た。そう考えていたのに、進に投げられた言葉は予想の斜め上になることになる。

 

「どう?カノンちゃんとは上手くいってる?」

 

「へ!?」

 

「おっ、その反応、やっぱなんかあったんだな!」

 

「あっ、や、べ、別にそう言うことじゃ……」

 

なんとか取り繕うと言葉を選ぶが、焦りを隠せなかっため隠し通せなかった。カノンと進の関係性は常連客達の間では割りと話題に上がったりしているくらいにはメジャーな話題になっている。尚、進達はこの事実を知らない。しかし、今回の常連客は普段から結構しつこく関係性を訪ねてくるので、この質問にとくに違和感を抱くことはなかった。常連客はニヤニヤしながら進に耳打ちした。

 

「なぁなぁ、ちょっとだけでいいからさ……何があったか教えてくれない?」

 

「えー……」

 

正直気は乗らない。しかし、この人は気になったことは知るまで簡単に引き下がることはない。その癖、本当に知られたくない秘密は何故か聞いてこないのを見ると、そこら辺の線引きはできているのだろう。

 

「うーん……そうですねぇ……」

 

店長に知られてしまったのはいいにしても、この人にまでクリーチャーの事件やら何やらを全て知られるのは色々と不味いだろう。では、何を話そうか。そうこう思案している打ちに、一つの案を思い付いた。

 

「分かりました。ちょっとだけですよ?」

 

「お!待ってました!」

 

「でも!くれぐれもこの事は内密にお願いしますね?」

 

「分かってる分かってる!」

 

嬉々として応える常連客。どうやら相当ワクワクしているらしい。

 

進の思い付いた案。それは、事実を織り混ぜ重要な部分は隠すというものだった。これならば大丈夫だろう。疑われることもなければ、何か問題事が起こるわけでもない。一つ懸念点があるとするなら、死ぬほど恥ずかしいということだろうか。

 

「よし……じゃあいきますね。あれは、3週間くらい前の出来事でした……」

 

こうして、進のカノンとの関係性講演会が始まったのだった。あの時のことを思い出しつつ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カノン達がブラックに復帰するまでにいったい何があったのか。入院してから2日後には退院できたのだが、その間進はカノンに付きっきりで世話をされていた。一度家に帰ってカノンも休んだほうがいいといったのだが、「駄目です!私はもう先輩の彼女なんですよ?安心して退院できるまでは私が見ておかないと何が起きるか分かりません!」と拒否されてしまった。

 

だが、心配なものは心配だ。なにせカノンの体が以前に比べ明らかに痩せ細っていたのだから。抱き締められたときも感じたが、力も出ておらず髪も結構痛んでいたし、目の下の隈も酷かった。恐らく、進が死んでからまともな生活を送ってこられていなかったのだろう。

 

だからこそ事件は起きてしまった。

 

進が無事退院し、カノンと一緒に店長の元へ行きバイトをすっぽかしてしまったことを謝ろうと計画を立てた。そして、いざ実行しようと翌日に備え眠り、次の日を迎えたのだが……そこに、電話の着信音が鳴り響いた。スマホに映っていた名前はカノン。どうしたのだろうと電話をとり耳をスマホに当てると、次の瞬間カノンから驚くべきことが告げられた。

 

「す、すみませゴホっ!……わ、私風邪引いちゃったみたいゴホっ、なんです……」

 

驚きはした。しかし、心の何処かで何となくまぁそうだろうな、と思っていた。そりゃあんな状態で看病をずっとしていて、それに10月下旬だというのに遊びにいったときと全く同じ格好だったのだ。あれでは少々肌寒いだろう。ウェディングは何をしているのかと言いたくなるが、ここ一週間いや、進が死んでしまったあの日から常に気を張っていたらしい。それに、カノンの面倒を見ながら葬式等の知識も詰め込み、食べ物もろくに口にしていなかったとのこと。なので、カノンが元気(精神的に)なった時、安心したウェディングは疲れからかカードの中で少し眠ってしまった。

 

その際に「カノンの事、暫くは任せましたよ。」という言葉を投げられたのだが……それをさっき思い出してしまった。

 

「待ってろ、直ぐ行く。」

 

「え?ま、待ってくださ」

 

カノンが何か言い終わる前に電話を切る。進はいても立っても居られなかった。言われようのない義務感に襲われる。元々進は思うよりも先に体が動くタイプなのだ。

 

「すまねぇ、カノン……!あの時もっと強く言ってれば良かった……!」

 

病院生活中の進を恨む。カノンがお人好しだというのは分かっていたのに何故事前にここまで予測しておけなかったのだろうか。後悔の念に苛まれつつも、進はカノンの住んでいるマンションへと歩を進めた。

 

「……ここに来るのも久しぶりだな。」

 

カノンのマンションで1人呟く。急ぎ足だった為、意外と着くのに時間はかからなかった。進の記憶通りだとしたら、ここに来たのは大雨の日以来か。

 

「っと、感傷に浸ってる場合じゃねぇな。確か……ここだ!」

 

遂にカノンの家に繋がる玄関口を見つけた。

 

「まてよ……?カギ閉まってんじゃねぇのかこれ……」

 

取っ手に手を掛けようとして、進は思い止まった。そう、あの真面目なカノンならば戸締まりはきちんとして居るはずなのである。いや、していないほうが可笑しいのだがまぁ今回のその突っ込みは野暮なものだろう。兎に角、進はここに来て不安になってしまっていた。

 

「うーん……カノンに電話して開けてもらうか……?いいや、駄目だ。あんなにきつそうにしてんのにわざわざ開けさせるなんて……これじゃ俺が邪魔しに来たみたいになっちまう。どうしたものか……」

 

腕を組み扉の前で右往左往しながら考える。その時、何を思ったのか進は取っ手に手を掛け、本当に閉まっているかどうか確認しようとした。まさか開いているなんてことないだろう。

 

「うそだろ……!?」

 

進は今起きたことに目を見開き驚いた。なんと、カギが閉まっておらず扉は意外にもすんなりと開いてしまったのだ。何故開いているのか分からないが、中で何かが起きているかも限らない。一気に不安に襲われた進は勢いよく扉を開き、家の中へと入っていく。

 

「カノンー!何処だー!」

 

まだいまいち理解できていない家内構造なので呼び掛けてみる進。病人に無理に返事をさせるというのも酷だろうが、彼にはこれしか確認方法が思い付かなかった。すると

 

「こ、ここですー……」

 

「っ!カノンッ……!」

 

若干枯れてしまった喉を使い、消え入りそうなほど弱々しい声音ながらも精一杯返事をしたカノン。その声が耳に入った瞬間、進は聞こえた方向に急いで向かうのだった。

 

「大丈夫か!?」

 

「あ、せんぱい……」

 

向かった先はカノンの部屋であった。カノンはベッドで横になっており、とろんとした目付きで進の事をじっと見つめている。呼吸が少し荒くなっており、顔も赤かった。

 

「ほ、本当に……来てくれた……」

 

「当たり前だろ。来ない奴が何処に居る。」

 

進の顔を見たカノンは幾らか安心した様子だった。付き合っているというのに来ないと思われていたのには少しショックを受けるも、今はそれどころではない。

 

「悪い、ちょっとキツいかもしんなけど話せるか?」

 

「は、はい……なん、とか……」

 

「ありがとな。返答は必要最低限でいいぞ。」

 

会話が出きることを確認し、進は次の質問をした。

 

「熱は測ったか?」

 

「い、いえ……」

 

「朝起きたら発熱してた感じか?」

 

「は、い……」

 

「なるほどな……わかった、取りあえず待ってろ。」

 

「?」

 

そう言って部屋から出る進。何をするのか分からず頭にはてなマークを浮かべるカノン。暫くすると、進が再び部屋の中へと入ってきた。

 

「体温計を持ってきた。此で先ずは熱を測ろう。1人で測れるか?」

 

「大丈夫で……いっ!」

 

「っ!?どうした、なんかあったか!?」

 

突然唸り声を上げるカノン。進が焦って近寄るも、カノンはそれを静止して辛そうな声で話をした。

 

「じ、実は……身体中が痛くて……手を動かすだけでも痛みが少し……」

 

「マジか…関節痛とかか……?筋肉痛ってこともあり得るな。」

 

「すみません……で、でもこれくらいは1人でできますから、気にしないでくだ「分かった、じゃあ俺がやろう。」……え?」

 

「いま、なんて……」

 

思わず訊き返すカノン。進はさっき何て言った?俺がやろうと言ったのか?まさかそんな筈は……そんなことを考えるカノンだったが、次の進の言葉でその考えは否定されることとなる。

 

「ん?俺がやろうかって言ったんだけど……」

 

「そ、そんなの悪いです!大丈夫ですから!私1人でできまっ……ゴホっ!ケホっケホっ!」

 

「おい、あんまり喋んな。心配しなくてもこんくらいできるから、安心してくれ。カノンは暫く安静にな。」

 

「は、い……うぅ……」

 

「?」

 

頬が紅潮するのを感じる。今すぐにでも顔を手で覆いたい気分なのに、腕一つ動かせない自分の体に嫌気が差す。幸い、熱によって頬が元々赤みを帯びていた為進に気づかれることはなかった。

 

何故羞恥心がカノンを襲ったのか。

 

(このままいくと先輩は……!)

 

それはカノンの妄想に起因していた。体温を測ってくれるという申し出は素直に嬉しい……のだが一つ問題点があった。体温を測ってくれるということは脇に体温計を刺してくれると言うこと。この一連の動作がカノンにとってはとても恥ずかしいことだったのだ。何故なら

 

(私、汗をいっぱいかいちゃってる!)

 

ベッドから一歩も出られていないカノンは大量の汗をかいていたからである。電話をした時も、体を動かすのが辛すぎて毛布の中でスマホを扱っていた。つまり今日は一度もベッドから出られていないのだ。

 

これはカノンにとって重大な問題であった。臭く思われないか、汚いと思われないか。嫌な思いをさせてしまうかもしれないという可能性があるのがカノンにとっては辛いものだった。それに、言わずもがなではあるが単純に恥ずかしい。だから断りをいれようとしたのに、喋りすぎたせいかタイミング悪く咳が出てしまった。

 

「咳も酷いな……悪い、寒いかもしれないけど我慢してくれ。」

 

「っ!?」

 

そういって進はカノンの毛布を肩から胸辺りまでが出てくるように捲った。寝間着姿を見られてしまうというのも少し恥ずかしく思ってしまう。だが、カノンの思いに反して進はなんの反応も示さず淡々と作業を進めていた。

 

「よし、じゃあ測るぞ。」

 

進の手がカノンの右腕を掴む。そしてそのまま進は体温計が差し込みやすくなるように、少しだけ脇の間を開こうと動かした。その隙間に体温計が刺さった。

 

「ひゃっ……」

 

色々言いたいことがありすぎて声が漏れる。だが、言いたいことを纏められず上手く言葉にできなかった。

 

「どうした、やっぱり寒いか?」

 

「あ、えと、その……」

 

真剣に心配してくれている進にカノンはしどろもどろになってしまう。カノンの心配事が熱による痛みなどではなく、進が汗をどう思っているのかとか嫌な思いをしていないだろうかなどを心配している、なんて言えるわけがなかった。

 

「なんかキツいことあったりしたら直ぐ頼ってくれていいからな。遠慮なんてしなくていいぞ。」

 

「えっと……あ、ありがとうございます……」

 

そんな深刻な事情ではないと弁明しようと思ったが、熱が辛くてできなかった。

 

(ち、近い……!)

 

微量ではあるものの進の鼻息が肌に当たる感覚がするくらいには距離が近まっていた。カノンは進の顔を直視していたのだが、当の進は真剣に体温計だけを見つめている。その横顔がとても頼りに見えて……それでいて何だかかっこよくも見えた。

 

(心配、されてるんだなぁ……)

 

今、進の頭の中にはカノンの事しか考えていないのかもしれない。そう思うと何故だかとっても嬉しくて、気づけば心臓の鼓動がうるさいくらいに鳴り響いていた。進は気づいていないようだったが、カノンにはしっかりとそれを感じとることができていた。

 

「お、測り終わったみたいだな…………よし。」

 

ピピピっと電子音が辺りに響き渡る。それを聞いた進はカノンの脇から体温計を抜き取った。

 

「あっ……」

 

再び布団を掛けられ、進がカノンの元から離れていく。それだけだというのに、カノンにはそれがとても寂しく感じられた。手を伸ばしたいのに痛くて動かせそうにもない。弱々しいカノンの声は、進に届くことなく虚空へと消えていった。

 

「マジか……38.4もある。」

 

深刻そうな表情を浮かべそう呟く進。

 

「困ったなぁ~……確かあそこの病院って今日休みだったし……近場の病院がないんじゃ流石に厳しいな。あそこだったら行けるだろうが遠いからな~……どうしたものか。」

 

ブツブツと独り言を漏らす進。熱で頭の回らないカノンでも進が自分のせいで困ってしまっていることは理解できた。頼ってくれとは言われたものの、やはり申し訳なく思ってしまうカノン。あまり消耗したくない体力を進に謝ろうとするのに使おうと口を開きかけたその時

 

「あ、カノンさっき俺に謝ろうとしただろ?」

 

ピンポイントに指摘をする進。

 

「え……?な、なんで分かって……?」

 

「うーん……何となく、だな。根拠はないけど、カノンはこういう時すーぐ謝るからな。どうせ悪いな、なんて思ってたんだろ?」

 

全てを見透かされてしまっていた。進の言いぐさからして、カノンの発言は許されそうではなかったようだ。

 

「さっきも言ったけどさ、遠慮しなくていいんだぜ?なんたって俺、カノンの彼氏だからな!」

 

「っ!」

 

入院生活中の進の面倒を見ていたカノンと似たような台詞を吐く進。進の発言にカノンは過去の自分の言葉を思い出した。

 

「へっ、気づいたか?」

 

「っ……はい……」

 

「んまぁそういうことだ。あの時のカノンみたいに俺もカノンに恩返しさせてくれ。」

 

進はカノンが面倒を見られることを拒むのを予測していた。だからこそこのような言い方をして、カノンが心の底から納得できる理由付けをした。これならばカノンが申し訳なく思うようなこともないだろう。

 

「まぁ、彼氏だから世話するってのも可笑しな話だけどな。」

 

「?」

 

言っている言葉の意味が分からず訝しげな表情を浮かべるカノン。それに気づいた進は

 

「彼氏どうこう言う前に俺はお前のことが大好きなんだ。それだけでもこういうことする理由になると思うぜ。」

 

「あ……」

 

満面の笑みでそう語る進。その顔を見たカノンは心臓が、心がきゅーっとなるのを感じる。とても幸せで、とても心地の良い感覚が広がる。落ち着いてきていた鼓動が再び早くなっていく。

 

(私……無理、しちゃってたのかな……)

 

今までの自分を振り返るカノン。思えば入院中の進を世話していたのも、彼女としての自分の責務を果たさなければいけないという気持ちがあった。勿論、好きだから世話をしているというのも十二分にあるのだが、それ以上にカノンは"彼女"という存在としての自分に重きをおいてしまっていたのかもしれない。多分今まで気を張りつめてきてしまった時の癖が出てきてしまったのだろう。なんでもかんでも重く捉えてしまう、そんな癖が。

 

「簡単にそんなこと言うの……ほんとうにずるいなぁ……」

 

自分で全て抱え込んでしまうカノンの悪い癖。それを進はいとも容易く溶かしてしまう。カノンは進と一緒にいる時だけは、遠慮なく素直な自分をさらけだせてしまうかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。だって

 

「ん、なにか言った?」

 

「あ、いえ……先輩。」

 

「?」

 

「今日は……お願いしますね?」

 

こうして進に対し遠慮なく言えるのだから。

 

「っ!あ、あぁ!えーっと……ま、任せとけ!」

 

何故か少し頬をを赤く染める進。理由は分からないが、その様に焦っている進がちょっぴり可愛くて、何だか少しだけ満足。

 

「っと悪い、喋らせ過ぎたな。今日は病院無理そうだから……食欲はあるか?」

 

「はい、少しだけなら。」

 

なら問題ないか。よし、じゃあ俺必要なもの買い揃えてくるわ。少しまっててな。」

 

「わかりっ、ゲホッ!ゴホっ!……ました…」

 

「ごめんな。直ぐ戻ってくるから。」

 

そうして進はカノンの部屋を後にした。静けさだけが残る部屋に、カノンは何処か虚しさを感じる。寝ていようとも思ったのだが、喉も痛くて身体中の痛みに、頭痛も酷い。こんな状態で眠れるわけがなかった。

 

(はやく……来ないかな……)

 

今か今かと進を待ち望むカノンの姿は、さながらクリスマスプレゼントを求める子供のようだった。倦怠感と気持ち悪さに見回れながらもカノンは眠ることなく待ち続ける。眠れるのならはやく眠ってしまいたいのだが、進が来たことによって目が覚めてしまった。暫く時間が経った後、玄関のほうから扉の開く音が聞こえてきた。

 

(帰ってきた……!)

 

その事実が嬉しくて、風邪だと言うのに心が沸き立つ。進がいてくれると言うだけで元気が出てくるような気がした。

 

「帰ったぞー。」

 

「おかえり、なさい。」

 

「お、おぅ……」

 

頭を掻きながらぶっきらぼうに返事を返す進。何故か少々面食らっている様子だったが、深入りする気力もないので大人しく横になっておくカノン。

 

「朝、なにも食べてないだろ?食欲がないならゼリーか何かを食べさせようと思ったんだが、少しあるっていうんでお粥でも作ろうかと思う。」

 

「お粥、ですか?」

 

「あぁ。大丈夫そうか?」

 

食べられるかどうか確認をとる進。しかしここで予想外のアクシデントが起こった。

 

「あの~……」

 

「どうした?やっぱゼリーにしとくか?一応5個くらい買ってきてはいるぞ。」

 

申し訳なさそうに声をかけるカノン。お気に召さなかったのだろうか。やはり38.4度もあるのだ。いきなり食欲があるなくなってしまうなんてこともあり得る。だが、進の予想は大きく外れることとなる。

 

「その、お粥ってなんですか?」

 

「えっ」

 

思ってもいなかった質問に固まる進。

 

「すみません……私がもっとこの世界のことをお勉強しておけば……」

 

「え、あぁいや、気に病む必要なんてないぞ。まだ来たばっかだもんな。」

 

「ごめんなさい……」

 

「謝ることないって。無理もないからな。これから色々なこと知っていければいいし。」

 

「はい……」

 

恥ずかしそうに話すカノン。進からするとしょうがないことのように思えるのだが、カノンからすると皆が知ってて当たり前のことを自分だけが知らず、周りにあり得ないと言われる時のような恥ずかしさがあった。

 

「しっかしまぁ、クリーチャー世界とこの世界って文化が結構違うんだな。一回くらい行ってみたいもんだ。」

 

カノンがクリーチャー世界の何処で育ったのかは分からないが、恐らくこの世界とルールや食べ物などは大きく異なるのだろう。背景ストーリーだけではうまく世界観にのめり込めなかった進は、実際にその世界で生きてきた人物の反応に興味を引かれる。

 

「あ、悪い悪い。お粥だったな。どう、やっぱ全く想像付かない?」

 

「はい。どのような食材を使うのかも全く…」

 

「なるほどね……じゃあお粥は今回のお楽しみにするか!」

 

「?」

 

体は動いていないものの、カノンの頭に?が浮かんでいるのは一目見て分かった。進は自身の考えを素直に述べる。

 

「事前情報なしで食ってみるってことだ。こう見えても母さんが作ってきた料理なら一通り作れるんだ。味には自身がある。だから楽しみにしててくれ!」

 

「!はい……!」

 

辛そうな表情だった時とはうって変わり、ぱあぁぁと表情が明るくなるカノン。どうやら相当期待しているらしい。

 

「じゃ、台所借りるな。なるべく早く作るから暫く待っててくれ。」

 

そんな言葉を最後に進は部屋を後にした。静けさが辺りに満ちる。先程までだったら寂しさがカノンを襲っていただろう。しかし、今回は違っていた。

 

(先輩の作るご飯……楽しみだな。)

 

待つ時間が増えれば増えるほどその期待感は高まっていく。きっと、先輩の作るご飯はこの世の中の食べ物全てを凌駕する美味しさに違いない。考えれば考えるほど楽しくなってくる。此が恋の力と言う奴だろうか。

 

(私、この世界のことまだなにも知らないのね。)

 

お粥の件もそうだが、カノンはまだまだこの世界のことについては無知だ。ウェディングも本をよく読んでいるが、見せてもらうとそこには人間の歴史における文化の発展が書かれていたのを思い出す。クリーチャー世界とこの世界とでは過去の成り立ちからして違うのだ。そこに興味を持ったのだろう。

 

だが、そのせいか余り現代知識を持ち併せておらず、私生活でその知識を生かすことはまずまずない。というより、電子機器などの使い方や基本的なルールへの知識を除けばカノンとウェディングに差は殆どないと言っていいだろう。

 

(そういえば、この気持ちに気がつけたのはウェディングのお陰なのよね。)

 

ウェディングの持っていた本の中にあった一冊の本。暇だった時に何となく借りて読んでみたのだが、その内容に驚いたのを覚えている。

 

(恋愛、だったかしら。)

 

その本には、男女2人の恋模様を描いたハートフルなストーリーが展開されていた。何故女の人が恥ずかしがっているのか、何故男の人が女の人を求めてしまうのか。最初は分からなかった。何故ならその感情に対する説明がなかったからだ。

 

違和感を覚えたのは2人の心理描写だった。感情の意味は分からないが、思っていることは事細かに描写されていた。そこにカノンは既視感を覚えた。女性の考えにカノンは酷く共感出来てしまうのだ。偶然だろうと思っていた……その時は。

 

(今思い返してみても……本当に遅かったな……)

 

進の死後、カノンは1人部屋の中に籠りっきりになり、無駄なことを夢想する時間が多くなった。

 

その時、ふと考えたのだ。

 

森で皆と会話していたときの、あの気持ち。私は先輩である白守進……彼の後輩でしかないのだと思ってしまったあの時。私は"嫌"だと思ったのだ。その時はいずれ分かるのだろうと余裕ぶっていたが、進が死んだことでそれも叶わなくなってしまった。

 

(必死に、必死に考えたわよね。)

 

違和感の正体を突き止めろと本能が叫んでいる気がしてならなかった。だからカノンはあの暗黒の一週間の時間を、違和感の答え探しに費やした。結果、あの本で読んだ女の人とカノンの心情が同じだったことに気がついたのだ。

 

状況や好きな人物が違えど、想う気持ちは最終的には同じなのだ。そこに差など存在しない。だからこそ気づくことが出来たのだ。だが、好きな理由は各々で異なる。本に書かれていた女の人は、男の人の優しい一面に惹かれていた。一方でカノンはと言うと

 

(私の先輩の好きなところ……それは)

 

「おーい、出来たぞー!」

 

「わっ」

 

物思いに更けり過ぎたせいか、進の呼び声に思わず声が出てしまうカノン。一気に現実へと戻されるカノンだった。

 

「どうした?」

 

「な、なんでもありません!」

 

「そう?ならいいんだけど……ほら、これがお粥。」

 

好きだと伝えたのであっても、やはり直接言うのは気恥ずかしい。誤魔化したカノンに進は疑いの目を向けることはなかった。進はお盆にのせてあるお粥を側にあった机に置きカノンに見せる。

 

「これがお粥ですか……!」

 

興味深そうにお粥を見るカノン。

 

「お米を使った料理なんですね。」

 

寝ているためよく見えないが、お米を使っていることは確認できた。

 

「あぁ。それに、病人が食べやすい食べ物なんだ。体にもいいんだぜ。」

 

「へぇー」

 

食文化とはなんとも面白いものだ。パフェを食べたときもそうだが、どうしてこうもこの世界の住民は素敵な物を作れるのだろう。クリーチャー世界にもいいところはあるが、少し殺伐としすぎているため、やはり人間のカノンとしてはここでの生活のほうが好みだった。

 

「食べてみたい……んですけど、やっぱり体が痛いです……」

 

痛みを訴えるカノン。迷惑をかけまいと精一杯動かそうとするも、どうしようもない程の激痛がカノンを襲う。動かせるのは精々首くらいか。この痛みに耐えながらの食事では料理を味わうことが出来ないだろう。

 

「あーそうだな、じゃあ俺が食べさせよう。」

 

「!?」

 

どうにかして自分で食べようと考えていた為、進の発言にぎょっとするカノン。他人に物を食べさせてもらう行為……これもあの本の中に登場してあった。それを思い出し赤面するカノン。しかし

 

(……してもらいたい……かも。)

 

何処かその行為に魅力を感じていた。正直、その行為が何故気恥ずかしくなるものなのかはわからない。別に他の人に食べ物を食べさせるなんて恥ずかしい行為ではない筈だ。だと言うのに、あの本で変な知識を蓄えてしまったので、少し意識してしまう。進の提案に悩める少女、カノンの出した答えは……!

 

「お願い……します……!」

 

勿論、YESだった。

 

「分かった。じゃあ体が起こすから支えるぞ。」

 

そういってベッドに寝た状態のカノンの頭の後ろに手を回す進。

 

「んっ」

 

触れる進の手の温もりが気持ちいい。中途半端なお姫様抱っこのような状態になりつつも、何とか顔を横から縦にすることが出来た。これで食べられる。

 

「?先輩、この真ん中にある赤いのはなんですか?」

 

先ほどはよく見えていなかったが、今度ははっきりと観察することが出来る。そこには、お粥の真ん中に真っ赤な球状の謎の物体があった。

 

「これ?これはな、梅干しっていうんだ。」

 

「梅干し、ですか?」

 

「そう、結構酸っぱい。」

 

「酸っぱい……お米に合うんですか?」

 

食べたこともないので想像が付かない。すこし不安になって質問してしまうカノン。未知の食べ物を食べるのにはほんの少しだけ勇気が必要な場合も出てくることもあるのだ。

 

「勿論!なんなら相棒と言って良いくらい相性抜群だぞ!」

 

「そうなんですね!」

 

自信満々に語る進に安心するカノン。そうきくと何だか美味しそうに見えてきた。

 

「じゃ、食べようか。」

 

進がスプーンを使いお粥を掬う。湯気を立ち上らせながらカノンの口へと迫る。

 

初めて食べる料理。それも進の手作りだ。さらにこのシチュエーションは俗に言う"あーん"という行為になる。初めてのことだらけすぎてドキドキが止まらない。楽しみだし恥ずかしいという何とも複雑な感情を抱えつつも、カノンは流されるままに口を開き

 

「あーんっ……」

 

お粥を頬張るのだった。

 

「……んっ!」

 

瞬間、口内に広がる酸味にほのかな甘味。強烈すぎない優しい酸味にお米の甘さが絶妙にマッチしていた。初めはすこし酸っぱくて口元をきゅっとしてしまったが、それも徐々に慣れてくる。味わったことのない食べ物にカノンは意識を完全に奪われていた。

 

「…………ゴクン」

 

余り噛まずとも飲み込める為、咳によって喉が痛かったカノンでもすんなりと食べることが出来た。後味もよく、お粥が肌寒い時期に合った温かさだった。

 

「おいしい……!」

 

「ほんとか!良かった。」

 

ほっと胸を撫で下ろす進。女の子の、それも彼女に手料理を食べてもらうのは初めてだったので少し不安だったが、喜んで貰えたようだ。

 

「まだ食べる?」

 

「うん…!」

 

「!……オッケー!」

 

それから進はカノンの元へお粥を運び続けた。口にいれる度においしい、酸っぱい、等のリアクションをしてくれるのが嬉しかったし、何より可愛らしかった。

 

「はむっ……はぁ~……温かい。ウェディングにも食べさせてあげたい位。」

 

「そこまで言ってくれると少し照れるな。」

 

時々談笑を交わす余裕があるくらいにはカノンの体力は戻っていた。それからカノンはものの数分でお粥を完食してしまった。病人の割には食べてくれたので、元気はあるようで安心した。

 

「ごちそうさまでした!」

 

「はい、お粗末さまでした。」

 

「ありがとうございます。何だか少しだけ元気が出ました。」

 

「そうか、そりゃあよかった。元気になってくれるんならそれが本望だぜ。」

 

さっきとはうってかわり、喋り方も何処かハキハキしているように感じる。咳は……まだ止まっているわけではないが、マシにはなっただろう。

 

「おし、じゃあ下げてくるわ。」

 

そういってお盆に茶碗を乗せて部屋を出る。次に入ってきたときには、進は手に何か箱のようなものを持っていた。

 

「はいこれ、薬。」

 

「えっ……そ、そこまでしてくれるんですか?」

 

「当然。なんならカノンが治るまで今日はここに居ようかと思ってる。」

 

「えぇ!?」

 

予想外の返答に驚くカノン。流石にいきなりすぎる報告だったので、進もやってしまったと言わんばかりの顔を浮かべていた。

 

「わ、悪い。勝手に居座るのは流石に不味いか。軽率だった。」

 

すぐさま謝る進。

 

「あ、や、えぇっと、そのー……だ、駄目とかではないんですよ?ただその、ちょっと吃驚しただけで……先輩がお家に居てくれるなんてこんなに心強いことはありません!」

 

「そ、そう?」

 

「はい!それに言ったじゃないですか。今日はよろしくって!」

 

「あっ……そうだったな!俺、カノン直々に頼まれてたんだった。なら、帰るなんて出来ないよな。」

 

カノンがフォローし何とか立ち留まらせることに成功した。この時、カノンは内心少しだけ焦っていた。

 

(絶対に帰られたくない……!)

 

面と向かって言うのは余りに恥ずかしいため言えないが、カノンは進に帰ってほしくなかったのだ。何故なのかはわからない。だが、進が居ないだけで何故か心細くなるし、寂しくなる。只それだけだった。病気だから精神が少し弱っているのだろうか。

 

兎も角、カノンは進を引き留めることに成功し、心のなかで思わずガッツポーズをしたのである。

 

「っとそうだった。改めて……はいこれ、痛み止めと風邪薬。一応咳止めもあるぞ。ちゃんと服用する際の注意書を読んでくれな。自分で飲めるか?」

 

「少しなら動けます。大丈夫ですよ。」

 

進がカノンに市販の薬を手渡す。それと一緒にスポーツドリンクもあげてくれた。少し痛みに慣れつつあったので、薬を飲む動作くらいは出来るようになっていた。余り痛まないように慎重に動いて薬を飲む。

 

「んっ……飲みました。」

 

「よーし、取りあえず出来ることはやったな。あとは……」

 

顎に手をやり考える仕草を取る進。

 

「ご飯も食べて薬も飲んだから寝ようか。」

 

進は一般的な考え方と言えるだろう案を提示した。その言葉に頷くカノン。

 

「あっ、でも流石に起きた状態から寝るまでの動きはキツいか?」

 

「あー……そう、ですね。流石に痛いかもしれません。」

 

お粥を食べるために起こして貰ったので、その逆もまた然りということだろう。

 

「わかった。じゃあまた俺がカノンを動かすよ。」

 

そういってまたカノンに接近する進。

 

「失礼して……んっしょっと。」

 

(まただ……先輩、近いな……ふふっ、先輩の匂いがする。安心する、いい匂い。それに、お手々も温かい。大きくて、私を優しく触ってくれる……大好きな手。私を守ってくれた、大好きな手。)

 

「…………ふふん♪」

 

少しにやけてしまっているかもしれない。もしそれを先輩に見られてしまっていたら……ちょっと恥ずかしい。けどしょうがないよね。だって、今こんなにも幸せなんだもん。抑えるってほうが無理な話だよね。本当はもっと甘えたいけれど……熱のせいで少し厳しい。だから治った暁には、今日出来なかった分すっごく甘えさせて貰おう。

 

と、密かにそう心に決めるカノンであった。

 

「そーっと……っし!寝かせられたぞ!どこも痛くないか?」

 

「先輩のお陰で平気でした。ありがとうございます。」

 

「ほっ……良かった。じゃあ俺は部屋から出とくわ。眠りの邪魔しても悪いしな。」

 

ノブに手を回し、ドアを開けようとする進に、カノンはなにかを思い出したかのように慌てて声を掛けた。

 

「あっ!そ、そうでした……!先輩!」

 

「ん、どうした?」

 

そういってカノンの方へと顔を向ける。なにか言いたいことがありそうにしている。だと言うのに、カノンは一向に次の言葉を口に出さず、何故かもじもじしているだけだった。頬も若干だが赤みを帯びている。

 

「そ、そのぅ……えと……」

 

「?」

 

進が首をかしげる。その時だった。それと同時にカノンが口を開くのは。

 

「やっぱまだ何処かいた「私……あせ、拭きたいです……」……えっ」

 

一瞬何を言っているのか頭が追い付かなかった。だが、相手は病人だ。言いたいことの意味がハッキリと伝わるのにはそう時間はかからなかった。

 

「……でも……ま、まだ身体中の痛みが取れてないんです。だから……ね?」

 

「オーマイガー……」

 

「お、おーまい?」

 

「えあ、こ、こっちの話だから気にしないでくれ!」

 

「?はい?」

 

並々ならぬ情報量に遂に進の脳がキャパオーバーしてしまった進。

 

(薄々勘づいてはいたが、まさかそこまでのこと言ってくるなんて!!や、やべぇよやべぇよ……俺、流石にそんなこと出来ない!)

 

カノンに頼まれた事。それを実行に移すにはかなり勇気を持たなければならないだろう。いや、なんなら人生1かもしれない。勇気どころか男気も試されそうだが、進にそこまでの度胸はない。

 

(なんで焦ってるんだろう……?)

 

進の対応に疑問を抱くカノン。一方の進はというと

 

(これあれだよな!?もしかしなくとも、体を拭いてくれとかそういうこと言ってんだろ!?)

 

ここに、壮大な勘違いが起きていた。

 

(確かに俺も小さい頃母さんにお湯で濡らしたタオルで体拭いて貰ってたりしたけども!あれはまだ幼かったからして貰ってただけであって!この歳にするのは色々と不味いだろ!)

 

進はカノンの事を自ら拭くのだと思っており

 

(どうしたのかしら。はっ、もしかしてタオルの場所がわからないんじゃ……!)

 

カノンは体が痛いから変わりに進にタオルを取って貰い、それを使って汗を拭き取ろうと考えていたのだ。服はこの際どうでもいい。

 

(い、いーやビビるな進!これはカノンから誘ってきた事なんだ。きっと俺のことを信頼してのお願い!それを無碍にすることが一番不味い!だったら俺も腹括って漢、見せるしかねぇよなぁ!?)

 

そう決死するや否や、進はすぐさま動き出す。善は急げ、である。

 

「オッケー、任せとけ!ちょっと待っててな!」

 

「え、あっは、はい?」

 

焦っていたのが嘘かのような急変した態度に困惑を隠せないカノン。それを気にすることなく、進は部屋を出てしまった。

 

(大丈夫かしら。場所わかるかなぁ……)

 

仰向けのまままた暫く進の事を待つ。少ししてから足音が近づいてきて、そのまま扉が開く音がした。

 

「持ってきたぞー。」(平常心平常心平常心平常心平常心)

 

「あっ、ありがとうございます!」(見つかってよかったぁ~)

 

進を見ると、その右手には白いタオルが握られていた。進は迫るとんでもイベントへ向けて精神を統一させている。カノンは無事タオルを見つけられたことに安堵していた。薬のお陰か、体の痛みが少し楽になって来たので何とかして体を起こし、タオルを受け取ろうと片手をタオルの方へと伸ばす。しかし、そう簡単にはいかなかった。

 

「よし……準備はできてる。カノン、俺が言うことでもないのかもしれないが……服、そろそろ脱がせていいか?」

 

「……へ?」

 

真っ白になる頭。さっきまで考えていたことが全て消え去った。

 

服を脱がせる?進が?彼は本当にそう言ったのか?

 

「い、いま何て?」

 

「……何度も言わせないでくれ……服をぬ、脱がせるぞ。」

 

「え……えぇぇぇぇ!?」

 

「ご、ごめん……!やっぱ口で言うのはデリカシーなかったよな……も、もう何にも喋らないから……真面目にやるから許してくれ。」

 

尚、本人はいたって真剣である。なぜこんな変態染みたことを言ってしまったのか。それには重大な意味が…

 

(俺が先導したほうがやりやすいかなって思ったんだけど……やらかしちまったな。)

 

前言撤回、重大な意味などなかった。

 

「ど、どうしちゃったんですか……!?脱がせる必要なんてありません!」

 

「えっ」

 

「えってなんですか!私のことも、もしかして最初からそういうことをするためにお世話してたんじゃ……!」

 

「あ、え?そ、そういうこと……?」

 

顔を赤らめながら必死に抗議するカノン。思っていた反応と違い思考が止まる進。しかしどうも話が噛み合っていないように感じる。ここで自分が盛大な勘違いをしているのではないかと考え始めた。

 

(もしかして……俺やばいこと言った……?)

 

「な、なぁ。」

 

「……何ですか。」

 

ムッとした表情でジトッとした目付きのまま相槌を打つカノン。

 

「このタオル……もしかして使える?」

 

「もしかしなくとも……それくらい使えます。」

 

「あー…………」

 

「…………」

 

気まずい空気が辺りに漂う。ここまで死にたいと思った事はないのではなかろうか。進は現在進行形で焦りに焦っていた。

 

(終わった……)

 

多分今の進はカノン以上に汗をかいている事だろう。出きるならば過去に戻りたい。そして、その過去の自分を殴り倒してやりたい。そんな気分だった。

 

「すみませんでした。」

 

「っ!」

 

取りあえず出来ることは誠心誠意謝ることだけだ。頭を下げる進に少々面食らうカノン。それと同時に罪悪感も芽生えてしまった。

 

(あっ……わ、私……言い過ぎちゃったのだわ……!そんなこと先輩がするはずないのに!)

 

先程の言葉は取り乱してしまったが故に出てきてしまったものだった。恥ずかしさの余り突き放してしまうような物言いになってしまったのだ。心ではそんなことないとわかっているのに何故こんなことを言ってしまったのか。後悔の念が収まらない。

 

(私……やっぱり嫌な女ね……うぅ……)

 

そもそもとして、カノンが体調管理を怠らなければ今日のような出来事は起こらなかった。本当は今日店長さんの元へ戻るつもりだったのに、それを台無しにしてしまった。あまつさえ、進に自分の世話をさせている。余りの情けなさに自分が嫌いになってしまいそうだ。

 

「えっと……か、顔を上げて…下さい……」

 

「は、はい……」

 

わなわなと体を震わせながら顔を上げる進。どうやらカノンが怒っているのではないかと思いビクビクしていたらしい。その様子に心を痛めるカノン。つくづく罰当たりなことをしてしまったと痛感する。

 

「その……先輩は私にい、いやらしいこと……をしようとした訳じゃない、ですよね?」

 

「も、勿論勿論!!そんなこと絶対しない!神に誓って絶対しない!」

 

「そう……ですよね……」

 

やはりというべきか、進に破廉恥な行為をしようと言った意思は見えてこなかった。ということはこれが本心と言うことで間違いなさそうだ。恐らく勘違いかなにかをさせるような物言いをしてしまったのだろう。より一層罪悪感が深まるカノン。

 

(どうしよう……先輩、嫌だったろうな……きっと私のことを思っての行動だったのに、私はあんなことを言ってしまって……)

 

「私の方こそごめんなさい。先輩の善意を無碍にするようなことを言ってしまいました……お世話をして貰っている立場なのに……きっと私が勘違いさせてしまうようなことを言っちゃったんですよね。なら、悪いのは私です。先輩が謝ることはありません。」

 

「なっ!お、おい、そんなカノンが謝る必要なんてどこにもないって!」

 

「え?」

 

「病人は迷惑かけてなんぼって言うだろ?別になんとも思ってないし、勘違いした俺にも落ち度があるってことだ!それにカノンは1人でも体を拭けるんだろ?なら良かったよ!少しは楽になったって事だもんな!後はしっかり寝て、ちゃんと風邪治そうぜ!」

 

謝られ返すとは思っていなかった進。風邪を引いている、それも大好きな彼女にこんな形で謝れるのは少々辛い。カノンの事だろうからまたきっと心のなかで何かを抱えてしまっている筈だ。なら、なるべくそれが残らないようにフォローしよう。そう考えた進であった。勿論、本心でもあるのだが。

 

「……やっぱり、先輩は優しいです。」

 

「そ、そう?カノンの方が何倍も優しいって。こんなことしても許してくれるのはもはや女神様じゃん。」

 

「ふふっ……女神様、ですか。なら先輩は男神(おがみ)様ですね。」

 

「男神って……俺そんな大層なことしてないよ……」

 

「謙遜しないでください。私からすれば先輩は神様みたいな、そんな人なんですよ。」

 

「そ、そう?へ、へへっ。なんか照れ臭いな。」

 

妙に褒められるので照れる進。実際のところ、カノンもカノンで中々に進の褒め方は効いていたのだが、お返しと言うやつだ。中々に良い反応を見れて満足した。

 

「じゃあ俺部屋出とくから体拭いたら寝ろよ。」

 

そう言って部屋を出ようとする進。

 

「その……め、目を瞑っていただければそれで良いから部屋に居てくれませんか?」

 

「!?」

 

突然のお願いに動揺する。なんて恐ろしい爆弾発言だ。見てないとはいえ隣で好きな人が着替えるなんてそんなことあって良いのか!?

 

「い、いいの?」

 

「先輩だから良いんです。それに見られてもいいし……

 

「そ、そんなもんなのかね……」

 

納得できない部分もあるが、素直にカノンのお願いを聞いておこう。そうして進は目を瞑った。その次の瞬間、布の擦れる音と共に、タオルが人間の体を拭く音が進の耳に入ってきた。小さい音だというのに、やけに聞こえが良い。耳も塞ごうかと思ったが、それでは不審がられるのであえてしないでおこう。

 

(いくら付き合ってるからって言っても恥ずかしいことは恥ずかしいな……)

 

そう思いつつカノンが拭き終わるのを待っていると

 

「もう大丈夫ですよ。」

 

と声が掛かった。ゆっくりと目を開けると、どこかスッキリした様子のカノンがそこにいる。激しい心臓の鼓動がなりやまないのはきっと気のせいだろう。カノンの羞恥心の基準はどうなっているのだろうと思った時間だった。

 

「じゃあ、私はそろそろ寝ようと思います。」

 

「そうだな。悪化したら元も子もない。タオルは俺が持っていこう。」

 

そういってタオルをとろうとカノンの前に手を差し出す。

 

「わかりまし…ゴホッ!ケホッ!」

 

再び咳き込むカノン。咳止めが効いてきた筈だが、やはりここまで喋るとなると喉への負担は凄まじいものになっていた。

 

「あー……悪かったな。無駄に喋らせちまって。じゃあ俺は部屋出るから、ゆっくり眠れよな。」

 

そう言ってカノンの頭を撫でる進。なんとなく撫でたくなった。

 

「んっ……」

 

(あっ…なんか気持ちいい……)

 

何気に撫でられるのは初めてな気がする。ダイレクトに進の体温が伝わる。それに、撫で方も眠気を誘うような優しいもので心地よかった。

 

「あっ……」

 

故に、その手が離れてしまうのが寂しく感じられた。

 

もっと撫でられたい。なんならずっと側にいてほしい。

 

そんな欲望が渦巻く。眠いからなのか、熱のせいでそんなことを考えてしまっているのか。どちらにせよ、今のカノンは進に飢えていた。我が儘だとは思っている。あんなによくして貰ったと言うのに、まだなにかを求めるのかと言う気持ちも分かる。だが、それでもカノンは進がもっとほしかったのだ。

 

理由は単純。進がいるだけでカノンは

 

(何だか……安心する……)

 

心身ともに、全てが安らぐからだ。

 

「ん?」

 

部屋を去ろうとした進だったが、なにかに袖を引っ張られている事に気づいた。袖の方を見ると、カノンが必死に引っ張っている様子だった。

 

「どうした?」

 

何かほしいものでもあるのかと思い立ち止まる。出来ることはなんでもしてあげたいのだ。カノンの口から紡がれようとする言葉を待つ。するとカノンは

 

「行かないで……下さい。」

 

と、痛んだ喉を使い消え入りそうな声量で甘えるようにそう呟くのだった。

 

「……別に良いけど、ちゃんと寝れるのか?」

 

「先輩がいた方が、ぐっすり眠れます。」

 

「ふーん……そうか。」

 

あっさりと了承する進。

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「もっと、撫でてください。」

 

「っ!?」

 

上目遣いでそうお願いされる進。前回もそうだったが、カノンが甘えるときの破壊力が半端でない。声も可愛ければ仕草も可愛い。ていうか全部可愛い。そんなお願いの仕方をされてしまっては聞くしかないじゃないか。

 

「わ、わかった。」

 

カノンの頭へと手を伸ばす。そして、なるべく眠りの邪魔にならないように優しく、上下左右にゆっくりと手を動かした。

 

「んっ……んふふっ……」

 

目を瞑ったまま時折嬉しそうに声を漏らす。

 

(あった、かい…………あっ……そこ、いいかも…………)

 

そうこう考えている内にも眠気は徐々に徐々に迫ってきていた。意識が保てなくなってくる。段々頭の中がふわふわして、幸せな気分に包まれながら

 

「せんぱい……だいす、き……です…………すぅ……すぅ……」

 

最後に言いたいことを口にして意識を手放した。

 

「…………」

 

幸せそうに眠るカノンを見つめながら呟く進。面と向かって、眠さでふにゃふにゃになっている女の子の大好きの一言は流石にやばい。進から見なくてもカノンは世間的には可愛いし美人な部類の子になるだろう。そんな子からの一言。それも自分に向けられた言葉である。そんなの

 

「くぉぉぉ……!こ、これやべぇぇぇ……!」

 

カノンの可愛さに悶々としてしまうに決まっている。その後、進は意味もなくカノンの頭を一時間は撫で回したと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなことがあったんですよ。」

 

「うそぉ……おじさんびっくり。」

 

場面は変わり、進と常連客。衝撃のエピソードに言葉を失う常連客。

 

「まさかもう付き合ってたなんてね……」

 

コーヒーを嗜みつつ話を聞いていたが、どれもこれもおじさんと化してしまった常連客には新鮮なものばかりだった。

 

……コーヒー?

 

「でも、まさか進くんがインフルエンザになっていたとはね。その後にカノンちゃんもかかっちゃったと……災難だったね~。」

 

クリーチャー関連の日の出来事は全てが進のインフルエンザということで誤魔化した。これで秘密は守られたわけだが……いまはそれどころではない。気になることがひとつあるのだ。

 

「そ、そのコーヒー……」

 

「ん?コーヒー?それがどうかしたのかい?」

 

進の言葉に首をかしげる常連客。進は顔を青ざめさせながら質問した。

 

「誰が、運んできました?」

 

「そんなのカノンちゃんに決まって……あ。」

 

背筋が凍る2人。何やら禍々しい気配を感じとる。尚、この気配は2人の気のせいである。

 

「せ ん ぱ い ?」

 

「ひっ!」

 

「わぁお……」

 

並々ならぬ恐怖が進を支配する。多分サスペンスより怖い。思わぬ修羅場に常連客も若干引いていた。

 

「後で……お話しましょう?」

 

「いや、でも「お話しましょう?」だから「しましょう?ね?」……はい」

 

その言葉を最後にカノンは店長の元へと去っていった。

 

「な、なぁ進君。」

 

「……はい……なんでしょうか……」

 

「何でカノンちゃんあんなに怒ってるの?」

 

あそこまで目を光らせて怒るカノンを見たことがない彼は純粋な疑問をぶつける。それに対し進はテンション低めに項垂れるように話した。

 

「あの日のあとカノンに言われたんです。あの時間は2人だけのものだねって。これからもこうして過ごす時間がほしいなって、そう言われました。」

 

「あー……なるほどね。そりゃ知られたくないわな。でも、じゃあ何で俺に言ったのさ。嫌なら断っても良いよって言ったけどなぁ。」

 

「それは……その……」

 

言い辛そうに言い淀む進。何か深い理由でもあるのだろうか。

 

「カ、カノンの可愛さを知ってほしくて……言っちゃいました。」

 

なかった。これは只の惚気だ。

 

「うん。いっかいカノンちゃんにしばかれておいで。」

 

「酷い!」

 

「当然でしょ。」

 

「そんなぁ~……」

 

残酷な世界を恨む進であった。因みに、カノンは怒っていたのではなく、只の照れ隠しだったのだが、それを知らない進はお話をするまで死を覚悟していたという。




マハラジャドラゴン出番なさすぎるから出したくてもなんて喋らせれば良いかわかりません……なのでカイトに伝書鳩みたいなことさせました。
あと、カノンは日本食あんまり知っててほしくない(願望)オラクル教団とかは宗教文化的に仏教みたいなものではないと思うので和には無知識だと思うんですよね。解釈違いだったら申し訳ないです。

皆さん前回のアンケートに答えていただきありがとうございました!本編と平行して番外編も作ることにします!

1/4
※途中抜けてる文章があるのに気がつき訂正させて頂きました。違和感のある展開を読ませてしまい申し訳ありません。……多分寝ぼけてました。なにやってんだよぉぉぉぉ!!!!
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