カノンが来てから一週間ほど経った。そろそろバイトに慣れてきたようで声も前より張ってきているし、自然と笑顔を出せるようになっていた。順調に今日も仕事が終わると思っていたその時、事件は起きた。呼び鈴がなりカノンがとある席へと赴き注文をとる。
「お待たせいたしました。ご注文はどのようにいたしますか?」
「その、この店長特製ブラックコーヒーの砂糖多めで頼めますか?」
どうやら、一人できていた男性のお客は店長特製ブラックコーヒーを頼んだようだ。しかしこのブラックコーヒーにはあるルールがある。それは砂糖禁止というものだった。普通に考えると砂糖禁止なんてあり得ないと思うかもしれないが、それがこの店のいいところでもある。禁止の理由としては店長の拘りの一杯が砂糖に味変されるのを、店長自信が嫌っているからである。その代わり、遠くから取り寄せた本格的なブレンド豆を使った味わい深い一杯となるのが特徴となっている。進も一杯飲んでみたがコーヒーが(というか苦いもの全般)苦手な進でさえも美味しいと感じるほどである。ここでカノンがお客にたいしての対応を始めた。
「え?えーと、そのっ申し訳ありませんが当店メニューのこの特製ブラックコーヒーは砂糖が禁止となっておりまして……」
ここまで聞くと店長側の事情を知らないお客は、何故なのかと思うかもしれないだろう。しかしこの店のメニュー表には大々的に特製ブラックコーヒーの砂糖禁止の注意書を目立つところ書いているのである。その見出しには「至高の一杯!味を変えるなんてもったいない!」とかいてある。だが、なら砂糖をいれたい人はどうすればいいのかと思うかもしれない。しかしちゃんと普通のブラックコーヒーには砂糖を入れることができるので問題はない。進はお客様がちゃんと見出しをみていなかったのか、なんて思いながら会話を聞いていたのだがこの予想はいやな形でうち壊されることとなる。
「いや、だから砂糖ほしいんだって。いいだろべつに。な?」
進はその言葉の意味がわからず暫く愕然としてしまった。今の言いぐさ的にもしかするとこのお客はわかってていっているのか?そんな考えをよそに会話は続く。
「へ?いやっだからそのっと、当店では特製コーヒーへの砂糖の使用は禁止に……」
「だから、砂糖くらいいいだろべつに!こんな簡単なこともできないのか?この店は!」
「ッ……!」 ビクッ
なんとさっきまで普通に話していたお客が急に語気を強くして脅すような話し方へと変えてきたのだ。カノンは突然変わったお客の口調で少しびっくりしたようだった。必死に普通のブラックコーヒーでは砂糖を入れることは可能だと説明していたが努力虚しく水の泡となったようだった。そこで進は理解したかのように呟く。
「なるほど……あいつ意図はわからないが、少なくとも悪意のある意地悪をしてるって感じだな……」
自分で言ってて怒りが沸々とわいてくる。何故そんなことをするのか、進にとっては知るよしもない事だが今はとにかくカノンを助けたかった。店内も注目が集まりカノンの心が心配になる。しかしどうにかしてはやりたいものの下手に動いてはなにが起こるかわからない。もしかしたら自分が原因でこの店に何かしらの支障をきたすかもしれないと思うと思うように行動できなかった。いや、これは只の言い訳なのかもしれない。自分だってなにをされるかわからないから怖いとは思っていた。しかしそれよりも若干怒りが勝っておりどうにかできないかと店長の顔をチラッと見ると、店長が顔で「行け!大丈夫だから!」といった感じで顔をお客の席へと振っている素振りを確認した。ここで進の覚悟は決まった。そうと決まれば早速行動へと移そうと進はお客のいる席へと向かって
「失礼しますお客様。」
「せっ先輩!?どっどうする気……」
とカノンが言いかけたところで小声で短く事を伝える。
「大丈夫。俺が何とかするから。」
「…………」
それを聞いたカノンは無言でコクリ、と頷き黙ってしまう。
「あ?んだよ?あんたここの責任者かなにかか?ハッこんなガキが責任者なわけねぇよなぁ?なんのようだガキが!」
威圧的な態度をとられているが気にしない。普段の自分なら怖じ気づいていたかもしれないが今は怒りの方が上なのでノーダメージである。
「お言葉ですがお客様。お客様のような騒ぎかたをされると他のお客様の邪魔となります。少し落ち着いてみてはいかがですか?」
あくまでも問題が起きないように穏便にすませようと試みる。
「あん?んだとガキ。お客様が邪魔ってのかよ?そんなこと言える立場なのかお前たてつくなよ。なぁ?」
しかしそんな試みは失敗となったようだ。こうなれば仕方がないこっちにだって考えがある。
「なるほど……ではこうしましょう。」
「はぁ?」
進は突然質問を始めたのだ。その内容というのが
「お客様。ここはどこだと思いますか?どんな名前のばしょなのでしょうか。」
「クソッてめぇ舐めんのもいい加減にしとけよ!本気でボコられてぇのか?あぁ!?」
怒鳴り付けられるが冷静に答える。恐怖などとっくのとうになくなっていた。
「申し訳ありません。しかし、本当に答えることがでいないのですか?良ければ答えていただきたいのです。返答よろしくお願いします。」
「あぁクソがッ!わかったよ!ここは!喫茶拘りブラックだろ!?これでいいかよ!おい!クソガキが!」
男は喫茶店の名前を問われたのだと思ったのだろう。しかし進の返答は男の予想を裏切る回答であった。
「拘りブラック?はて?そのような名前でしたかね?まさかわからない、なんて事ないですよね?」
「は?ちがうってお前なにいって」
困惑する男に向かって進はまだわからないのかと言わんばかりの呆れた顔で答えた。
「はぁ…………お客様。ここは『デュエマシティ』ですよ?」
「な!?」
ようやく理解したのかといった様子で進は話を続ける。
「どう言うことか理解できますか?」
「ど、どういうことなんだよ!さっさと答えろ!」
「つまり賭けをしよう、ということです。」
「え!?そ、そんな…!」
「オイオイマジかよ…!傑作だなこりゃぁ!」
カノンが声を出して驚き男がニヤニヤしながら言葉をはく。
「なるほど。ガキにしちゃ考えたな!お前みたいなやつに負けるわけねぇだろ?アホか?……まぁいいぜ。やってやろうじゃねぇかその賭け。報酬はなんなんだよ。ん?」
どうやら相当自信があるようで進を煽る男に対し進は余裕といった表情で受け答えをする。
「お受けいただき誠にありがとうございます。賭け、の内容でしたよね。はい、この賭けに勝ったのならば……」
そこで進の口からとんでもない事が出てくる。
「砂糖を特別に、店長のコーヒーに入れる許可をお出しします。これでよいですか?」
「え?そっそんな!先輩!」
カノンが不安そうな目でこちらをみてくる。そう何せこのコーヒーは砂糖を一回もいれたことがない言わば純粋なものなのだ。それを汚すことになるかもしれない。それも自分のせいでと自責の念にかられてしまうのも無理はない。しかし進はカノンに静かにサムズアップをするだけだった。
「ッ……!」
カノンが進の目をみて相槌をうつ。どうやら進の覚悟の決まった目をみて信じてくれたようだった。カノンは手を合わせ祈るような仕草を見せる。
「ほう?そんだけかぁ?お前俺はどんなやつだったか覚えてるかー?なァ?『お客様』だよなぁ!?」
男はその様なことを進に対して声をあらげながら話す。どうやらもっと条件がほしいようだ。そこで進は
「わかりました。ならば、あなたが私に勝利した暁には私がこのお店をやめる&土下座、というのは?」
「ははは!言えばできるじゃねぇか!そうだよ!それがほしかったんだ!いいぜ……それで乗ってやる…ククク……」
ここまで言われた進だが不気味なほど表情が変わらない。そんな顔で進は高らかに宣言するのだった。
「準備はできてますか?では…………デュエマ!スタート!」
どうやら、賭けとはデュエマの事だったようだ。
(相手は赤単レッゾか……)
「おらおらぁ!もうおわっちまうぞ!おぉい!土下座くるかぁ!?へっへっへっ!」
4ターン目の相手ターン。相手は順調に侵略をこなし盾を0枚まで削りきっていた。
「先輩ッ…………!」
それをみていたカノンは祈っていた手を更に強く握った。
相手のシールドは5、対して進はシールド0トリガーもなしにマナも4マナしかない。逆転は不可能かのように思える。
(へっ、しょうもねぇガキだったなぁ!あんな自信満々だったくせにシータデッキで事故ってやがる!マナが次で5になるがそんなのこのデッキならごり押せる!あぁ土下座、たのしみでしかたねぇ……)
そのように思っていることなど進にはお見通しなのだが男は気づいていない。
ターン5
「おいおい!さっさと降参したらどうだ?このまま恥さらすよりもよっぽどましだぜ?どうした?見栄張ってんじゃねぇぞ!!」
罵声が次々と飛んでくる光景をみてカノンはひどく震えていた。これをみた進は、目の色がかわり
「ハッ!しょうもうないのはどっちかな!」
「なに?負け惜しみでも言うつもりか?最後までだっせぇやつww」
「違う!ダサいのは、お前だ!」
そう言って進はひとつのカードを取り出した。
「!?」
「フッ!その顔がみたかったぜ!こい!『もえるメラッチ』!」
そう、進はここまで頑なにマナをためなかったのは事故に見せかけたブラフでありその作戦はドギラゴンを隠すための罠だったのだ。
「お、おいうそだろ?まさかも、持ってないよな?あのカード……」
男が突然顔を青くし震え出す。しかし
「察しがよくてたすかるぜ!お前の想像通りだ!こい!ドギラゴンッッッ!!!!!」
燃える革命ドギラゴン、ドラゴンを越えしドラゴン。彼は逆転の力をもった革命軍の希望である。その能力とは
「え、、ゲームにまけない!?それに……このテキスト通りに動くとすると……」
カノンがそこまで呟き驚く。そしてついに、進がドギラゴン最大の能力を宣言した。
「そう、こいつはとまらない!無限だ!無数の剣がお前を討つ!」
「あ、あぁ……」
もはや勝負は決まっているも同然だった。そこに更に追い討ちをかけるように
「あぁ、そういやあんたが負けたときの条件話してなかったな。」
「……!」
そこまで聞き男が泣きそうな顔になりながら進の言う条件に耳を傾けた。
「条件は…………喫茶拘りブラック一生の出禁!更にカノンに土下座なりなんなりして誠実な対応の謝罪だ!」
「クッ……!くそぉぉぉぉぉ!」
声にならない雄叫びをあげる男
「ほら、さっさと降参したらどうだ?このまま恥さらすよりはマシだと思うぜ?」
「ぐぅぅぅ……!!」
さっきとは立場が逆となってしまった男と少年。そんな光景にカノンはひどく安心していたようだった。
「ほらほらほらぁさっさッと降参しない?しないならもうダイレクトアタックしちゃおっかな~」
「わ、かった!こ、降参する!降参するから!」
いまここに少年と粗悪な男の決着がついた
「さぁ~て、と」
「ッ……!ひっ!」
「お前、まずはカノンに謝れよ……!!」
「は、はぃ~!!」
カノンからみてこのやり取り、もはや進の方が若干怖かったと思ったのはないしょである。そしてついに男が土下座をし泣きそうな声音で
「こ、この度、はっ!カノン様及び回りの皆様へのただいなるご、ごめいわくをっ!おっ、お掛けしたことをお詫び!致しますっ…………!!」
いざやられてみるとなると、どう答えればいいのか返答に困ってしまう。なんだか少し可哀想に思えてきたし、一生の出禁なのも少し酷いなと思った。それにこれを機に性格を改めてくれるかもしれない。そんな希望をもったカノンは
「え、えっと……確かに今回の出来事で多大な迷惑がかかった事は事実です。で、でも貴方はもう反省しているんですよね?ならっ………一生出禁っていうのは私はゆ、許したいとお、思っています……ね?先輩もいいですよね?」
「え、え?な、なんで?」
男も出禁になることを覚悟していたのだろう。ひどく困惑した様子の顔をしていた。このとき見せたカノンのはにかみ笑顔が進にとっては女神かと思えるほどに美しく見えたのだが
「いや、ダメだ。」
それでもこれだけは何故か進は譲らなかった。
「ッ……!ど、どうしてですか先輩!な、なにか理由でもあるのだ「あぁ、だからその男は出禁にしなきゃ行けない」……!」
「く、くそっ」
男は落胆したような声をだし、カノンはまさかあの進からこのような言葉がでるとは思わず押し黙ってしまう。そして目線を進から男に変えたとき
「!?」
そこに、もう男はいなかった。元々いなかったかのように姿を消したのだ。
「すまんカノン、事情はあとで話すから。今は仕事を終わらせよう。」
「……わ、わかり、ました……先輩……」
少し暗い空気が流れていたが、進が声を張り上げ頭を下げて
「皆様、此度は御迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした。引き続きコーヒーのお味をお楽しみください」
といってその後進は、仕事に戻るのであった。それをカノンは不安そうな悲しそうな顔で眺めていた。
因みに店長は男です。店長からみて2人は結構言い感じに見えるらしく関係を崩したくないのかあまり仕事中は声を掛けず2人の空間を作ってくれているようです。進がカノンの提案を断った理由はまた次回で。