無垢の守護者と甘い恋   作:しゃべる

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番外編:交わした者

「っ……ここ、は……」

 

見覚えのある景色が広がっている。暗闇の空間がそこにはあった。

 

「はっ、ははっ……また、戻ってきちまったのか。」

 

自身を嘲笑し、嘆く。

 

「おーい……サスペンスー?」

 

試しにとある人物の名を呼んでみる。しかし、返事は帰ってこなかった。

 

そう、この空間はサスペンスが作り出した精神世界に非常に似ていたのだ。何故ここに居るのかは分からない。だが、思い当たる節なら幾らでもあった。

 

「居ないか……はぁ……あーもう!!なんで気ぃ抜いちまったんだ!!!馬鹿っ!馬鹿っ!俺の馬鹿やろう!!ちくしょおおおお!!!!」

 

突然発狂しだす進。思い出すは、サスペンスが最後の力で進の腕を貫く苦い光景だった。出血多量か体が機能を停止したのか、原因は幾らでも思い付くが一つ言えるとするならば

 

「ハァ……ハァ…………もう一度、カノンに会いたい……」

 

あの時、白守進は死んだということだった。

 

「ここどこだよぉー!!」

 

出鱈目に発狂する。もうそれしかできなかった。やり場のない後悔や怒り、少しの喪失感が進を襲う。叫んでいる自分が情けなくて、時間が経つごとに自分は死んでしまったのだと再認識させられる。まだなにか方法がある、なんて希望的観測すら許されない雰囲気がこの空間には満ちていた。

 

「うぅ……かのんっ、かのんっ……」

 

涙が止めどなく溢れ出てくる。目を閉じれば誰よりも愛おしくて、それでいて美しいと思った、この世のどんなものよりも大好きだったカノンの顔が思い出される。

 

「一人は嫌だっ!…………誰かっ……!誰かいないのか!?」

 

カノンの事を思っていると、次に進を猛烈な孤独感が襲った。何に対して嫌気がさしているのか。何故人肌を求めてしまっているのか。理由はわからない。集団に生きる人間と言う生命体に備わっている本能なのだろうか。

 

「1人に……しないでくれよっ……!」

 

いっそ死ねれば、意識が失くなってしまえればどれだけ楽なことだろう。苦しみから解放されたい。そんな思いが強くなる。

 

「……くそっ」

 

弱々しく呟く。こんな思いをしたのは何年振りだろうか。過去にも孤独感に苦しまされたのを思い出す。だが、今の状況は其の比ではなかった。

 

「…………」

 

もう、なにかを口にすることすらできなくなってしまった。いや、したくないと言った方がいいか。無気力になり体に力が入らない。座り込んで暗黒の一点を見つめることしかできなかった。アイツが来るまでは。

 

「惨めだな。」

 

「っ!?」

 

聞いたことのある声だった。嫌みったらしくて、自分こそが全てだと慢心しきった傲慢な性格のヤツ。ソイツは……

 

「サス、ペンス……?」

 

「なんだ。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして我を見つめおってからに。貴様が呼んだのではないか。」

 

確かにサスペンスの名は呼んだ。だが、以前いた精神世界と似ていたから何となく呼んだだけであり、別に本当にコイツを望んで呼んだわけではない。飽くまで、手がかりがないかどうかを探っていたにすぎない。

 

「なんで居るんだよ!お前っ、消滅したはずじゃ……!」

 

「貴様は相変わらずせかっかちだな。少しは冷静になってみてはどうだ?」

 

「…チッ、お前もお前で全くといって良いほど変わってないな!お前は少し礼儀ってもんを身に付けたらどうだ!?」

 

「挑発に乗る時点で既に貴様は劣っている。それに、我はゼニスであり頂である存在なのだ。礼儀を覚えてどうする。使いどころがまるでないぞ。しっかりと物を考えてから発言しろ。」

 

「こいつ……!」

 

「ふん。」

 

どうやら本物らしい。偽物のサスペンスとは口の回り方が段違いだ。多分偽物だったら進の言葉ですら怒りに支配される。もしかすると、これはセレス化の弱点なのかもしれない。

 

「……まぁいい。そんなことより、なんでお前ここに居るんだよ。死んではないけど、体は消滅した筈だよな?実体化出来る程の力はもうないと思うんだが。」

 

率直に思ったことを述べる進。それに対し、サスペンスは少し不服そうに声音をワントーン下げ話をした。

 

「その事か……はぁ、非常に解せないことではあるのだが……言わないのもそれはそれで面白くないからな。話してやろう。」

 

露骨に嫌な雰囲気を作り出すサスペンス。どうやら相当にご立腹らしい。ここまで怒ることがあっただなんて、一体なにが起きたのだろうか。

 

「貴様と同化した我は、確かに力の全てを譲渡した。その際、実体化する力もなくなり我は正真正銘意識だけの存在へと成り果てた……筈だった。ここで1つのイレギュラーが起きたのだ。それは、力を渡すことができても、我の精神までは完全に1つになりきれなかったと言う現象だった。理由はわからん……が、結果貴様と我は同じ精神世界に共存し、力を扱う人外へと変化したのだ。」

 

相変わらず小難しいことを話すクリーチャーだ。だが、何となくは理解できている。

 

「えーっと、つまりお前は俺と完全に同化しきれず、そのせいで二重人格みたいに俺とお前の精神がおんなじ場所に居ることになっちゃったってこと?」

 

「厳密には違うのだが……まぁ、そのようなものと解釈してもらって構わない。こうなれば説明も着くだろう。言わずもがなわかることだ。ここはお前の精神世界だと。」

 

「なるほどな……」

 

まさかそんなことが起こっていたとは知ら無かったので驚愕する。だが、ここで1つ違和感を抱いた。

 

「でも、その現象のお陰で俺の戦いの最中にお前のサポートを受けられたってことだろ?さっきはイレギュラーがどうのこうの言っていた気がすんだが、なんでそんな顔色1つ変わらなかったんだ。」

 

進の疑問はこうだ。何故あの時のサスペンスが冷静だったのか。サスペンスはこう見えて割りと感情的なリアクションを取ったりする。本人に言えば即あの世行きだろうが、進の疑問はかなり的を射た発言であった。

 

「そうだな……恐らく、と言うよりほぼ確実にわかっていることがある。それは、同化には相性があるという事だ。以前我がイズモと強制的に同化……もとい吸収されてしまった時もだが、我は完全に吸収されることはなかった。それはイズモが我の力を完全に引き出すことができず、お互いの力が反発しあっていたからだ。所詮、偽りの神の力だったというわけだ。貴様のこの現象はそれに似ている。貴様の中の何かしらが我の力と反発し、結果完全に同化しきれなかった我は貴様の精神の中へと潜む羽目になったのだ。焦っていなかったのは、その可能性もあるだろうと予め予測していたからだな。」

 

「案外単純な仕組みなんだな。」

 

「はぁ……単純、か。世の明らかになっている事象など、仕組みさえ理解できればどれもこれも難解さは変わらぬ。」

 

「そうかもな。」

 

サスペンスの言葉に納得する進。兎に角、これで何故サスペンスがこの場に居るのかはわかった。だが

 

「でも、俺多分死んだんだよな。俺の精神世界とは言っているが、俺が死ねばその精神世界は消えるんじゃねぇのか?」

 

それでも、何故進がこの場に居るのかは理解できなかった。死んでも尚居ることのできる精神世界等あるのだろうか。

 

「良いところに気がついた。今回我がこの場に居る理由はそこにある。」

 

なるほど、これが本題だったか。

 

進はサスペンスのいうことを一言一句聞き逃さまいと耳を澄ました。

 

「さっきも話した通り、我と貴様は完全に同化していない。しかし、その半端な力を行使する権利は貴様にある。何故なら、その力を使う媒体が貴様の体だからだ。此が今回の話の核となる。」

 

神妙な面持ちで話を進めるサスペンス。

 

「貴様は確かに死に直結する程の攻撃を受けた。実際、あの状態から死なん生物などほぼ居らぬ。だが……貴様は例外だった。」

 

「……なに?」

 

思わず声が出てしまった。

 

俺が……例外?記憶が正しければ、腕をちぎられていた筈だ。血も止めどなく流れ続けていて、今思い出しても吐き気がする。幸い、あの時の痛みは覚えていない。アドレナリンが出ていたのか、それとも死の淵に立たされた人間は痛みを感じられなくなるのか。兎に角、サスペンスのいうことは謎だらだ。これから分かっていくのだろうか。

 

「瀕死の肉体は、必死に生きようと踠いたのだ。貴様も生きている、だからこれは自然なことだ。だが、人間の肉体ではやはり限界が来るのだ。普通ならば体の機能を停止し、死に絶える。」

 

「まぁ、そうだな。」

 

「しかし……貴様の肉体は違かった。普通の人間と違い、貴様の肉体は生きる手段を見つけたのだ。」

 

「なっ……!?」

 

「驚くのも無理はない。我もあり得ないことだと思っていたのだからな。して、その生きる手段とは何なのか。それが……」

 

唾を飲み込む。ここまでためて話されると少し緊張する。自分の体の事だと思うと尚更だった。

 

「我のもう半分の力……同化しきれなかった部分を使い、肉体の再構築をする……言うなれば、『復活』か。これこそが貴様を生かす手段だった。」

 

「復活……」

 

「貴様の肉体は復活を果たすため、我の残りの半分の力を使おうとした。だが、それにはかなりの時間が必要となる。その間にも血液は流れ続け、何れは肉体にガタがくる。そこで、貴様の肉体は一時的にではあるが、仮死状態になったのだ。」

 

余りにも突飛な話しに着いていけない。進は順を追うようにして内容を噛み砕き、何とか理解しようと脳を働かせる。

 

「ま、まてよ!仮死状態って、血が流れ続けてるのにそんなことできんのかよ!人間以外ならできる動物も居るだろうが、少なくともそれは人間業じゃないぞ!?」

 

進の意見にサスペンスは待ってましたと言わんばかりの声音でこう答えるのだった

 

「思い返せ。貴様は今、完全なる純粋な人間か?」

 

「あっ」

 

そう、だった。俺はもう

 

「そうだ。貴様の思うように、今の貴様は我と同化した半クリーチャー半人間であり、純粋な人間ではないのだ。器用ではあるが、血流を止め、体の活動領域を最低限にまで落とした。これにより、復活するまでの時間を稼ぐ事に成功している。」

 

人じゃ、無かったんだ

 

「だが、これに伴い我にとって忌まわしい出来事も起きた。」

 

「忌まわしい……?」

 

「そうだ。非常に不愉快この上ないのだが……復活をするのに残りの半分の力を使う上に、負荷が恐ろしく掛かる。その負荷を、我が負う羽目になってしまったのだ。」

 

サスペンスの発言に進は耳を疑った。

 

「は…?お前、そんなことするヤツだったか……?」

 

サスペンスが負荷を負うなど、天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。第一、人間を死ぬほど嫌っているのだ。こんなことをしても良いことなんて1つもない筈だ。だというのに、一体何故そのようなことになってしまったのだろうか。

 

「我とて負いたくはないわ!だが……これは決定事項なのだ。逆らうこともできぬ。」

 

「決定事項?誰がそんなこと決めたんだよ。まさか、お前実はヤバイ趣味持ってるとか?」

 

「黙れっ!!誰が貴様ら人間どものような趣味を持つというのだ!?なんだ、我がマゾヒズムとでも言うのか!?我を愚弄するのもいい加減にしろ!!!」

 

「そ、そこまで言ってないじゃん……」

 

進の何気ない一言に取り乱すサスペンス。相当不服に思っているらしい。仕方ない気もするが、今までの行動を振り返ってみたら自業自得でしかない。やはり、同情の余地などサスペンスには一切無いのだ。

 

「……話が逸れた。我が全ての負荷を請負う理由だったな。」

 

取り乱したかと思えば直ぐに落ち着きを取り戻し、話を続けるサスペンス。情緒不安定なサスペンスに進は若干ではあるが引いていた。

 

「我の請負う負荷……それは、人格の消去だ。それに伴い、力の半分を使うことで肉体の高速治癒に、必要な部位の再構築を果たすことができるのだ。」

 

「なっ……!?人格の消去!?」

 

思ったよりも厳しい負荷に背筋がぞっとする。

 

「さっきも言ったが、我の力の行使権は貴様にある。と言うより、貴様の体は貴様の体が全て何とでも操作できるのだ。元より、我が支配するなどできようもない。つまりだ、生きるために生物としての本能が下した判断は……我の人格を犠牲にするということだったのだ。これが我の抵抗できない理由になる。」

 

「そう言うことだったのか……」

 

「チッ……何故我が貴様のような人間にここまでの助力をせねばならんのだ。虫酸が走るっ……!」

 

流石の進も、自業自得とはいえ苦しみに悶えているサスペンスを見て罪悪感を覚える。どれだけ悪人だろうと悲痛な叫びを聞くと良心は痛むらしい。暫くの沈黙が二人の間に流れる。カノンを苦しめたヤツと仲良くする気はないが、これでも今回はコイツが居なければ詰んでいた。ずっとなにもしないと言うのも暇なので、進は思いきって声をかけてみることにした。

 

「なぁ、俺っていつ頃起きるんだ?」

 

「ん?貴様、良く話しかけようと思ったな。呆れるぞ。」

 

「まぁまぁ、滅茶苦茶暇なんだよ、少しは付き合え。」

 

「はぁ…………分かった。少しだけなら……良いだろう。」

 

凄く嫌悪感を顕にしながらも進の提案を承諾するサスペンス。だが、進はそんなことなど気にも止めず話を続けた。

 

「やりぃ。じゃ、改めて教えてくれよ。俺、どんくらい経ったら起きるんだ?」

 

「そうだな……ここにいる時間は長いと思うが、現実ではそこまで経っていないことを考えると……大体倒れてから二時間後には起きる計算になるな。」

 

「マジかっ!んじゃあ、直ぐにカノンと会えるんだな!」

 

「そうだな。大変恨めしく思う。」

 

「初めてそんな言い回され方されたわ……」

 

普通、大変喜ばしく思うとかじゃないだろうか。どれだけ人間のことを嫌っているのだろう。

 

「でも、そう言うことなら安心だな!」

 

「安心、だと?」

 

「あぁ。だって、俺仮にも死んでるんだろ?カノンは優しいからな……きっと泣いてるんじゃないかなと思ってな。なるべく早く会いたいんだよ。」

 

「気色の悪いことを言うのだな。貴様の為に泣くと言いきるその性格、少々自意識過剰が過ぎるのではないか?」

 

「うぐっ……そこまで言わなくてもいいだろ!……まぁ、両想いってのは無理があるかもしんないけどさ。流石に友達位の仲にはなれてると思いたい。」

 

実際、今カノンに好きだと告白しても確実に振られるか引かれるかの二択だろう。関係値も全然無いのに、何を調子にのって告白しているのだと軽蔑される自信がある。

 

……悲しい自信だなぁ。

 

だが、これは紛れもない事実なのだ。だって、死に際にカノンが己れの事を好きだと言ってくれてはいたが、それは異性に向ける好きではなかったのだから。その証拠に、進がカノンに異性として好きだったと告げたとき、カノンは面食らったような顔をしていたのだ。これはほぼ確実に自分に気はないと考えて良いだろう。それでも、彼女は優しいのだ。こんな自分でさえも死んでしまったら悲しんでくれる。だから、少しでも早く復活してカノンを安心させたかった。

 

「でも、直ぐに復活するってことは俺は病院に運ばれているか、未だに森の中でカノン達に囲まれながら移動してるかのどっちかだよな。」

 

仮にも進は死体なのだから病院に運ばれることは確実だろう。だが、約二時間で運びきれるのだろうか。覚えている限りでは皆は満身創痍でボロボロだった気がする。そんな状態で森の中を歩けるのだろうか。なので復活した際の進の居場所としては

 

1.病院の中で死体安置所か手術台、もしくはベッドに寝かされているかのどれかの状態で目が覚める

 

2.カノン達は進を運びきれておらず未だに森の中で、その運んでいる最中に目が覚める

 

のどちらかである。

 

「そんなこと考えてどうする。」

 

サスペンスは不思議そうにこちらを見つめながら質問する。珍しくあちらから話しかけてきたので驚くが、進は口角を少しあげながらこう応えるのだった。

 

「目覚めた瞬間、絶対皆暗い雰囲気になってると思うんだ。だから俺がそれを和らげようかなって思って。」

 

「和らげる?」

 

「そう。こう、せっかく復活したのにずっと暗かったらあっ、何かもう一度死にましょうかね……?みたいになるかもしんないじゃん?」

 

「いや、ならないと思うが。」

 

「俺はなるの!元々、暗い雰囲気ってのがあんまり好きじゃなくてさ。ああいう重苦しい場所にいたらなんか死にたくなっちまうんだよ。」

 

進の言うことがいまいち理解できないサスペンス。死にたくなる生物など居るのだろうか。そんなの、生きている意味がないのではないだろうか。そんな、至極当然の疑問を持つサスペンス。

 

「理解できんな。」

 

「そうだろうな。俺も分からない。」

 

「分からない、だと?」

 

「うん。昔からの癖って言うの?昔はあぁ言うくっらい雰囲気の世界に閉じ込められててな、毎日生きてても楽しくなくて、死にたいなぁってずっと思ってたんだ。でも、そうは思っても実行に移せるヤツなんてほんの一握りしかいないし、そう言うヤツはどこか頭のネジが飛んでるんだ。俺は良くも悪くも普通の人間だったらしいからな。普通に毎日陰鬱な生活を送ってたよ。だからかな、暗い雰囲気に当てられたらそう思っちまうようになったのは。」

 

余り、思い出したくない。施設でのあの暮らし。今が幸せだからこそ余計に気分が悪くなる。本当に唯さんが、母さんが助けてくれてよかったと、今でも感謝が尽きない。

 

「やはり、人間はめんどくさい生き物だな。」

 

「はっ……否定はできないな。」

 

ゼロ計画を聞いたとき、進は良くない計画だと、なんて悪いことなんだと、そう思った。だが、そこまでしてでも世界を変えたいヤツが居るってのも、それはそれでしょうが無いとも思った。理不尽に壊され、理不尽に殺される。そんな人間はきっとごまんといるだろうから。そんなヤツの一人や二人でできてもおかしくない世界だから、理解はできなくても納得はできた。

 

だから、サスペンスのいう面倒くさいという感想も分からないものではなかった。

 

「貴様の話しは気になるが……敢えて詮索はしないでおこう。」

 

「お、なんだなんだ?俺に気ぃ使ってんのか?何だよ、案外良いとこあんじゃんか!」

 

「っ!口を慎め!!誰が貴様なんかに気を遣うものか!我は貴様の講釈などもう聞きたくないと暗に伝えただけに過ぎん!余計な解釈をするなっ!!」

 

「お、おぅ……そうか。」

 

少しからかってみただけなのだが、想像以上に過激に反応されてしまい驚く。予想していた対応と違ったのに違和感を覚えるも、気のせいかと思い追求することはなかった。

 

「そうだ。1つ言っておこう。」

 

「?」

 

「復活が終わるのと同時に貴様は只の人間へと戻ることになる。力の半分が無くなるのだから、当然ではあるな。だが、残り香として、一度だけだが力を解放することができるのだ。解放した瞬間、一時的に身体能力がクリーチャー並みとなる。それに、ゼニスレクイエムの効果をあのときのまま引き継いで使うこともできるぞ。念のため覚えておけ。」

 

「おっけー。覚えとくよ…………。ふぅ、なんか疲れたなー。」

 

もしその力をまた使うのだとしたら……そんときは、カノンを守るときなんだろうな。そんな事を思いながら進はサスペンスの言うことを頭の片隅へとしまった。

 

「って!お、おい!何かお前光ってるぞ!?」

 

話し込みすぎた為、一息着こうと思っていた矢先事件は起きた。

 

「む、そろそろ時間が来たか。」

 

そう呟くサスペンス。そのサスペンスの体が、淡い光りに包まれるようにして発光していたのだ。

 

「時間って、もしかして……!」

 

「あぁ、そろそろお目覚めの時間だぞ。」

 

「そうか……」

 

「どうした?甦ると言うのに、何処か不服そうに見えるな。何かあるのか。」

 

気分屋って言われるかもしれないし、矛盾してるって指摘されるかもしれない。だが、いざ目の前にいる命が完全に終わろうとしていると自覚すると、どうしても落ち込んでしまう進であった。

 

「いや……別に。」

 

「そうか。」

 

やはり、人間とは複雑な存在である。だって

 

「な、なぁ。」

 

「?」

 

「もし、よかったらなんだけどさ……」

 

最後に、俺にできることはないか?

 

こんな極悪人でさえ、最期がこんな呆気ないだなんて余りにも哀しくて……見過ごせなくなっちゃうんだから。

 

「なに……?」

 

「だ、だから……一応、お前が居なかったら俺詰んでたんだし……なんか最期に恩返しさせてくれよ。できることならなんでもするからさ。」

 

何だか照れ臭くって、思わず頭をかく。散々言い合ってきてはいたが、やはり恩義は感じていた。カノンを苦しめたヤツだとは言うが、サスペンスだってシャングリラがあんな歪んだ存在でなければこんな目には会ってなかったかもしれないのだ。そう考えるとある意味ではサスペンスも被害者なのかもしれない。

 

きっと、サスペンスは今まで一度も誰かに感謝なんてされてきてないし、善行を行ったこともないのだろう。しかし、今回は違う。サスペンスは進から見ても十分なほどの善行したのだ。ならば、お礼くらいはしておかなければ気が済まない。

 

「舐めたことをっ……!人間ごときが我に恩返しだと……!?自惚れるのも大概にしてほしいものだな。」

 

「っ、そうだよな……嫌なら別にいいん「だが……」?」

 

「どうせ消える命だ。一度くらいならば……人間にお礼とやらをされても、良いのかもしれぬな。」

 

「!そうこなくっちゃ!良いぜ、どんなことでも構わない。遠慮せず言ってくれ!」

 

サスペンスの言葉にぱぁと進の表情が明るくなる。心残りがなくなると言うのはやはり嬉しいことなのだ。サスペンスはニヤリとほくそえむと、進に対し

 

「では、1つ頼まれてほしいことがある。」

 

と1つのお願いを提示し始めるのだった。

 

「あぁ、いいぞ!」

 

「では、遠慮なく言わせてもらう。その願いだが……カノンどもに我の事は内密にしておいてほしいのだ。」

 

「えっ」

 

斜め上の願い事に思わず声が漏れる。固まっているとサスペンスは愉快そうな声で

 

「どうした?やはり無理か?」

 

と煽った

 

「い、いや!そんくらいできる!けど……なんでそんな事を?もう少し位遠慮せずに言ってくれてもいいんだがな。」

 

サスペンスの頼みに戸惑いを隠せない進。何処に意味があると言うのだろう。こんなことを頼んだところで、サスペンスに良いことなど1つもない筈なのだが……

 

「そんなこと等ではない。我にとっては重要な事だ。いいか?良く聞け。癪ではあるが、貴様が我の事を全て話せば……カノンは確実に我に感謝の意を示すだろう。これだけは断言できる。ヤツはそう言うことをする人間だ。それが我にとっては苦痛で苦痛で仕方がないのだ!!葬られた者に感謝されるなど言語道断!我はこのような形での感謝は望まん!我が感謝される時は、世界がゼロに作り替えられた時のみだ!それ以外は断固として許さん!」

 

「……なるほどな。」

 

プライド、と言うヤツだろう。感情はなくとも、サスペンスにはサスペンスなりの生きざまと言うのがあったのだ。サスペンスの納得できないことが起こる前に、サスペンスは事前に進に警告いれることで阻止しようとしていたのだ。

 

進はサスペンスの意図を汲み取る。もう、変に口を出すのはやめた方が良さそうだ。

 

「わかった。お前の頼み、引き受けたぞ。」

 

「そうか。ならば、もう思い残すことは……まだまだあるな。」

 

「はっ!最期までかわんねぇな、お前は。」

 

「うるさい。からかうのもいい加減しにろ。」

 

「はいはい、わーったよ。」

 

「全く……」

 

ため息を吐くサスペンス。だが、そのため息には不快感が籠っておらず、何処かスッキリしたように感じた。

 

より一層光の輝きが増して行く。もう、復活の時は近いのだろう。進も覚悟はできた。そして遂に意識がもうろうとし始めてきて……そろそろだと身構えたその時、小さな声で

 

我をからかったこと、後悔するがいい

 

とサスペンスの呟きが聞こえた気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが進を見ている。誰もが歓喜に打ち震えている。だが、進はそんなことなど気にも止めず真っ先に気にしたことがあった。

 

「あー……アイツやりやがったな……」

 

『ふん。我をからかった罰だ。最低限の抵抗はさせてもらったぞ。起きる時間帯を操作させてもらった。これで少しは困るだろう?』

 

聞こえる筈のない声が頭の中に木霊する。いない筈なのに、サスペンスらしい小難しい言葉を並べ説明する様は、精神世界で見ていたサスペンスと何一つ違いはなかった。

 

これが、只の幻聴だったのかどうなのかは分からない。しかし、これ以降サスペンスの声が聞こえることは進の人生において一度たりとも訪れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

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