デュエマシティ
人間、クリーチャー、しまいには別世界の住民と魑魅魍魎の存在が跋扈している不可思議な街である。その事を知る者もいれば、知らない者もまたいた。
以前の白守進ならば、知らない者側に分類されていただろう。しかし、ひょんなことから進は最高に可愛い少女と出会いその少女経由でクリーチャーの存在を認知してしまったのだ。晴れて知っている者達の仲間入りである。
だが、進はまだまだこの界隈に入ってきてから間もない。所謂新参者というやつである。断片的に守護者達から情報を教えては貰っているものの、それでも分からないことの方がまだまだ多かった。だから進は思った。
もっともっと色んなクリーチャーを見てみたい。関わってみたい。この街のことをもっと知りたい、と。
何も知らずに生活していた頃と比べて随分進の視野は広がっていた。クリーチャーの存在を認知してからは物の見方が変わってしまったのだ。街行く人々をよく観察することが多くなった。不思議な雰囲気を醸し出している人物はいないかと探してしまったりもしていた。だが、進の力だけでは限界があった。元より、素人目からみて分かる等というのはあり得ない話だったのだ。だからこそ今現在進は
「お、あっちにクレープ売ってるぞ。行ってみるか?」
「!ク、クレープ……!勿論よ、早く行きましょう。」
カノンと共にデートをしながら街を散策していた。
「ん~っ!ここのクレープ屋さんもかなり美味しいわ。覚えておこうかしら。」
幸せそうにクレープを頬張るカノンに進はつい笑みを溢す。視線を緩めながらカノンを見つめる進は、この間カノンが自分に言ってくれたことを密かに思い出していた。
曰く、クリーチャーの皆はかなりの頻度でシティに現れている
曰く、癖の強い者もいるがほんの一部を抜いて殆どのクリーチャーが友好的である
曰く、カノンはその容姿を見ただけで人間かクリーチャーか見分けることができる、と
これは進がカノンの側でふと『もっと色んなクリーチャーに会ったりしてみたいなー。後は……この街のことももっと知りたいぜ』と何となく呟いたときに教えられた情報である。そしてその情報を聞いた進は直ぐ様行動に移そうとしたという。それを食い止めたのはカノンだった。いきなり見ず知らずの人間が話しかけてきも困るだろうから私も一緒に行かせてと、そう言われた。
確かに、見たこともない人間がクリーチャーの存在を知っていたら警戒されるだろう。それがシティの事での出来事であれば尚更だ。このシティにはクリーチャーの存在を知っていて且つ悪巧みをする奴がいるらしい。クリーチャー側の悪ではなく、人間としての悪である。
どんな奴なのかは知らないが、取りあえずそんな人物と間違われる可能性もあるわけで……そのリスクを負わないためにカノンは着いていきたいと言ってくれたのだ。カノンが側にいれば疑われることはないとのことで、どうせならということで進はお言葉に甘えることにした。
「いやー今日は休日だからなのか人多いなーこのモール。」
「そうね。皆羽を伸ばしたいんじゃないかしら。」
見渡す限りの一面に広がらんとする量のある人々。その誰もがデュエマをしているのだというのだから驚きだ。シティの事をまだ深く理解していない進は、己の育ってきた場所との余りの違いに脳がバグったような感覚がしたらしい。
「それにしても……なぁなぁカノン、少し訊きたいんだが……」
周りに聞こえないように声のボリュームを落として話し掛ける進。その理由を汲み取り、更にはその先の質問までもが予測できたのでカノンは進の言葉を遮り
「ふふん、待って、言われずとも分かるのだわ!当てて見せましょう。ズバリ、道中にクリーチャーが居たか知りたいんじゃないかしら?」
と人差し指を立て進の方を指しながら得意気に考えを言うのだった。
「嘘、俺そんなに顔に出てた?正解だ……」
簡単に思考を読まれてしまい進は少し恥ずかしくなった。己の考えが見透かされるのは普通に恥ずかしいのだ。進曰く、服を脱がされたような感覚がするらしい。
「ふふっ、忘れたの?私がここにいるのは進がクリーチャーに会えるのを手伝うためなのだわ。それに、貴方はきっとさっき歩いていたときもずっとクリーチャーの事を考えちゃうと思ったの。そんな状況の中の話題なんて、一つだけに決まってるじゃない?」
「す、すげぇ。そこまで俺の事を考えて推理したのか。」
「勿論!私だって進みたいに色々考えるのよ。それが貴方の事なら尚更なのだわ。」
「ははっ、こりゃ敵わねぇ。」
ドヤッとしながら自身ありげに語るカノンは進からみても大変可愛かった。というより、カノンは何をしても基本可愛い。正直ずるいと思う。それに加えて優しいなんて好きになるしかないじゃないか!
そんな内なる思いを表に出すことなく進は平然としながらカノンの話を聞く姿勢に入った。
「結果から言うけれど……クリーチャーはどこにもいなかったのだわ。それらしい気配もなかったし、見逃したなんて事は多分ないと思うのだわ。」
「あ~マジか~。」
カノンの報告に進は少しだけ落ち込んでしまった。悟られないように表情には出さないように我慢する進。
「ここまでの人だかりがあって一人も居ないのか。偶々居ないだけなのか、もしくは運が悪いのか……」
「う~ん……でも、本当に休日はよく見かけるのよ。ここならクリーチャーの一人や二人いてもおかしくはないはず何だけど……」
「ま、地道に探そうぜ。その友好的なクリーチャーってのはどんくらい居るか分からんけども、少なくとも仲良くはなれる筈……だと思いたい。」
「そこは安心して。クリーチャー達も意外と人間と思考が変わらなかったりするの。だから余程の事がない限り基本皆喋ったり出来ると思うのだわ。」
カノンがクリーチャーの知識を進に教える。クリーチャー関連の事だけに関しては、普段この世界の事やこの世界にしかない食べ物などを紹介している時の進と立場が逆転するようだ。
この世界の事をカノンはよく知らない。当たり前ではあるのだが、それでもこんなものすら知らないのかとクリーチャー世界とこの世界でのギャップを感じざるを得ない時も少なくなかった。ともかくまぁ、この世界に住み慣れている人間からするとカノンの反応はやはり新鮮なもので。
だが、それは逆も然りである。
クリーチャー世界の住民がこの世界の事を知らないのならば、当然この世界の生き物もクリーチャー世界の事を知らないのである。
(だからなんだろうな。俺がカノンと毎日一緒にいても全く飽きないのは。)
別にカノンのいない日々も暇だったと言うわけではない。しかし、圧倒的に今の方が充足感があったのだ。手の届かない部分が満たされる感覚に進は毎日心を踊らせるばかりである。
閑話休題
少々己の人生について感傷に浸ってしまっていたが、話を戻そう。今現在、二人はクリーチャーを探している。カノン経由で話をしてみて、できれば仲良くなりたいというのが今回の目標である。しかし、中々見つかる気配がしないのが現状の課題だった。解決をするには歩き回り続けるしかないのだろうか。ちょっと面倒な気もするが、背に腹はかえられぬのだ。これくらい我慢して頑張ろう。そう意気込んだ進は再びシティ内の散策を再開した。
暫く歩き回っていた二人。そんな二人に漸く新たな出会いが訪れた。
「あら、進にカノンじゃない。二人して何を歩き回っているのかしら?」
「ルカ!」
「おぉ、ルカか。」
正面からバッタリと出くわしたその相手は、闇の守護者であるルカだった。そしてその隣には
「カノンじゃない!久しぶりね!」
「貴方は……!ほんとね、シティに来てから久々に会えたのだわ!」
まるで人形のような見た目の少女が居た。ルピコと同じ身長くらいのその少女はどうやらカノンと面識があるらしく、久々のカノンとの再開に喜んでいる様子だった。
「カノン、その子は……?」
「あっ、ごめんね。久しぶりに顔がみれたから舞い上がっちゃった。この子は───」
「あーっ!!アンタがルカ姉の言ってたカノンのコイビトって人ね!ふーん、アンタがクリーチャー退治をねぇ……本当なの?」
カノンの言葉を遮るようにして少女は口を開いた。疑わしいと言った目で見つめてくる少女に進はひたすら困惑するばかりである。
「こらJJ、初対面の人にそんな目をむけちゃダメでしょう。お行儀が悪いわよ。」
「はぁ~い。」
JJと呼ばれたゴスロリ姿の少女は、ルカに咎められたからなのかその訝しげな視線を進に送るのをやめる。ルカが申し訳なさそうにしながら進の方へと向き直り、話を続けた。
「ごめんなさい。悪気はないのよ……多分。」
(多分……)
「この子はJJ。詳しく話すと長くなるから今回は話さないけれど……まぁ、家族のような存在と言ったところかしら。最も、住み始めたのは最近なんだけどね。」
「家族のような?それも最近住み始めたって……」
そんなの、昔の俺みたいじゃないか
そんな考えが一瞬頭に過ったが、今関係のある話題じゃないので一旦この思考は頭の隅っこに置いておくことにした。
「フフフ、ま、分かんないわよね。私とルカ姉の関係をそう簡単に理解されても困るわ!」
自信満々に告げるJJ。勝ち誇ったかのような声音に進は更に頭を悩ませた。最近住み始めたと言うのに家族同等に接することなど出来るのだろうか。最近住み始めたにしてはかなり信頼を寄せあっているように見える。一体何があればそれほどまでの関係値を築けるのだろうか。
……いや、築けはするか
もし仮にJJが昔の進のような存在なのだとすると、短い期間で誰かを信頼すると言う話しも無くはないのだ。何故なら──
(これは今考えることじゃないな。)
今はクリーチャーを探しているのだ。こんな暗い話題を考えてどうする。そう思いながら進はネガティブ思考を取っ払うようにして頭を横に振った。
「ま、JJの事は此れくらいにしておきましょう。それで?貴方達は一体ここでうろうろして何をしていたのかしら?」
ルカの質問に二人は少しだけ考える素振りを見せる。素直に言ったところで問題は特に無いだろうと考えた進は、少しの間が空いた後口を開き説明を試みようとした。しかし
「あっ」
何に気づいたのだろうか。突然そんな声を上げるカノンに気を取られてしまい、口が止まってしまった。当然カノンはルカとJJに注目される。視線がカノンに集中しているなか、彼女はその視線を気にすること無く満面の笑みを浮かべながら話を続けた。
「私達、ここでクリーチャーを探しているの。」
「「クリーチャー?」」
思ってもみなかった返答に二人は声を揃えて言葉を口にした。
「進がね、もっとたくさんのクリーチャーを見て話してみたいって言ったの。でも、一人で探しにいこうとするからこうして私と一緒に行こうって提案して、そして今に至るのだわ。」
「なるほどね。なんともまぁ、進らしい考えじゃない。」
「ちぇ、なんだそう言うことだったんだ。少し期待ハズレー。もっとこう、イッチャイチャしてるんじゃないかなって思っちゃった。折角お話聞こうと思ったのになー。」
詰まらなさそうにするJJ。何故そこまでして気になっているのかと進が訊いてみると
「だって、なんか面白そうじゃない!カップルなんてあのドラグナー……いや、あれはまだ違うのかな?まぁいいや。兎に角、貴方達みたいな男女の二人組なんてすっごく珍しいの。だからカノンから少しでも情報を抜き取ってそれを参考にイタズラでもしてみようかなって!例えば~」
「そ、その辺で止めときなさい。」
JJが何やら物騒な事を計画していたらしく、それを察したルカが急いで止めに入った。例えの部分で既に嫌な予感がする。ルカの勘がそう言っていた。
「え~、カップルにイタズラなんてしたこと無いからどうなるのか気になったのになぁ。でも、ルカ姉がやめろって言うんだったら今回はやめとこ。」
ガッカリした表情でイタズラを諦めるJJをみてルカはほっと胸を撫で下ろした。
この一連の流れをみていて進は『仲いいなぁ。もしかして親戚の子なのか?』と思った。雰囲気が何となくルカに似通っているし、小悪魔的な笑みが闇文明らしさを想起させた。
一つ引っ掛かるのだとしたら、JJの容姿がとある人物に滅茶苦茶近いという事くらいだろうか。だがまぁ、恐らくコスプレかなにかだろう。ああいうコスプレをしてみたくなる時期でもあるだろうし、深く考えることではない。
そんなことを思いながら進は話を次へと進めるために口を開こうとした。簡単な紹介もしてもらったし、もう疑問に思うことも無かったからだ。しかし
「ねぇルカ?少しお話があるのだけれど……いいかしら。」
「?」
「えぇ、構わないわ。どうしたのかしら。」
進のだそうとしていた言葉に、カノンが重ねるようにして声を乗せて話し始めた。突然のことに進は頭の上に疑問符を浮かべている。一方でルカは、一切動じること無くカノンのお願いを快く了承していた。どっしりと構えるルカに対して、お願いを聞いてくれてカノンは嬉しいのか意気揚々としながら次の言葉を紡いだ。
「JJって一応クリーチャーじゃない?もし進とお話しさせてくれたら、目標を達成できるのだけど……時間空いてるかしら?」
「!?」
「あー、言われてみればそうだったわね。」
カノンの発言に進は言葉を失う。驚いた表情のままJJの方へと視線を移す。ルカの側でカノンの話しに耳を傾けているJJ。ふんふん、と頷きながら真剣に聞いているようだった。そんな様子を目撃し、進は更に困惑してしまう。
(マ、マジで?クリーチャーなの?この子が???)
どこからどう見ても少女にしか見えな……いや、よく見ると所々にヒントが隠されてあった。
(あ、そういやJJの目、白目がない!それにあのコスプレだと思っていた服装!あ、あれはもしや?!)
見覚えがあった。デュエマをするときに嫌と言うほど見てきたあのカードのクリーチャー。逆転の芽を何度も何度も摘んできた、ある意味では最強なのかもしれないあのクリーチャー。相手に使われたら面白くないのに、自分が使うときは最高に楽しいあのクリーチャー!!!そうとなると、ここで呆けている暇などない。早く話してみたい。早く喋ってみたい。そう思った時には、もう既に自身の体は自然と動いてしまっていた。
「き、君はまさかっ!ジェニー!?ジェニーなのか!?!?」
「わっ!もうっ、ビックリしたじゃない!急に両手掴んで来て……ってど、どうして私の事知ってるの!?」
「知ってるもなにも、逆に知らない方がおかしいだろ!だって君──」
特攻人形ジェニーそっくりだし
「「!!」」
「わぁ。やっぱり進はデュエマの知識についてはピカイチなのだわ。」
カノンが感心の言葉を漏らす。逆に、ルカとJJの二人は言葉を失っていた。
今まで会ってきたクリーチャーの内、名前を一言一句間違わずに呼ばれた上に、初対面で正体がバレた奴なんていない。敵として対峙することになったりしたのならば勘づくのだろうが、所詮はそれだけである。こうして対面して、困惑はしつつもクリーチャーと分かったや否や名前を当ててくるなんて初めてのケースだったのだ。だから二人が動揺するのも無理はなかった。
「うっそ、こんなにピンポイントで当てられることなんてある…?」
「……プレイヤーとは別のベクトルでデュエマバカかもね。」
JJは絶句していた。ルカはデュエマへの愛がプレイヤーの持ち合わせている"それ"に非常に似通っていたのに気づきほんの少しだけ呆れていた。
「!ってことはやっぱ君はジェニーなんだ。うわぁ~、スッゲぇ!ジェニーってこんな声してんだ~!想像通り可愛い!近くで見るとより人形って感じがするぜ。ん?でもカードのジェニーって関節部分に繋ぎがあったような……どう言うことだ?こんな人間っぽい見た目だったっけ。ま、それはいいや。いや~、この目も色合いが意外とかっこよくて好きなんだよな~!」
早口でぼそぼそと呟きながらJJを隅々まで観察する進。
「あ、え、えっと、えぇ……?声が可愛い?め、目がかっこいい?ちょ、ちょっと待ちなさいよ!やめてよね!見世物じゃないんだからジロジロみないで!こ、この……変態!」
斜め上からの称賛の言葉にJJは困惑するのと同時に、少しの羞恥心からか顔を赤くしてしまっていた。照れているのか、それとも只恥ずかしいだけなのかは定かではないものの、今のJJは明らかに進に構ってほしくなさそうにしていた。しかし、いくら止めろと伝えてもその声が本人の頭に直接入ることはなかった。本物のクリーチャーを目の前にして進は興奮のあまり周囲の声が聞こえなかったのだ。恋も盲目だし、憧れも盲目であるのがこの男なのである。
「うーっわ!すげぇよこれ!カードの絵まんまの服じゃん!よく見ると凝ってるよなぁこれ。これ自分で作ったとかそんな感じの設定ないのかね?正直めちゃめちゃセンスあると思ってるんだよなこれ!ってか身長も俺が想像していた位なんだな。全く、これだからクリーチャーは最高だぜ!特にジェニーはな!」
「うぅっ……うぅぅぅぅぅぅ……!!!!な、なんなのよこれぇ……。やめてって言ってるでしょぉ…そ、そんな褒められ方されたことないから……むず痒くてしょうがない……!」
「はぁ……進ってあんなキャラだったかしら。まぁ、いいわ。JJも困ってる様だし、そろそろ助け船を出しましょう──っ!?」
困惑しているJJを助けようと行動に移そうとしていたその瞬間だった。背後から禍々しい気配を感じ取ったのは。本能が逃げろと警鐘を鳴らす。だが、逃げる前にその正体を確認したかった。そう思い立ち、ルカは勇気を振り絞って振り返る。そこには
「じょ、冗談でしょう……?」
「………………」ピキピキピキ
清々しいほどの笑顔を浮かべその顔に見合わない青筋を立てている(様に見える)正しく般若と言うべき表情をしているカノンがいた。
明らかにキレていた。それも、ルカが心の底から震え上がるほどには。冷や汗をかきながらルカはその怒りの元凶である人物をチラリと横目に見る。
「この服って誰が作ったんだ?生まれたときから既に着てるのか?それともルカが作ってくれたとか?て言うか待てよ、そもそもデスパペットって誰が生んでるんだ?てかそもそも人形なのに生物って枠組みに入るのか?でも、そしたらこの髪の毛地毛じゃないって話になってくるよな……背景ストーリーになんかあったかなそんな話し……。うーん、分からん!てか、それより髪がほんとに綺麗だ!マジで感無量だわ……実物見るってのはこうも印象が変わるんだなぁ~。なぁ、ジェニーはさ──」
(白守進……それはダメよ……。)
手遅れだった。もうカノンの怒りを納めることはできないだろう。恐らく本人に他意はない。本当に、純粋に気になって質問して、純粋にクリーチャーを目の前にして興奮しているだけだ。だが、あまりにもこれは度が過ぎていた。ルカは擁護する気にもなれず、暫く静観してみることにする。こうなりゃもうヤケだった。
「あ、アンタっ!そろそろいい加減にしないとこのカットちゃんでズタズタに切り裂「楽しそうね~、進?」え?………ひっ!」
声が聞こえたので、その方向へと目線をやるとそこには例の状態であるカノンがいた。そのあまりにも恐ろしい形相にJJは思わず小さい悲鳴を漏らす。闇文明のクリーチャーですら恐怖を抱くカノンに最早敵など居ないだろう。
「あっ、ごめんな!いきなり迫っちまって。困らせるつもりはなかったんだ。よかったらでいいんだが自己紹介しないか?まずはそこから始めようぜ?俺の名前は白守進って言うんだけ「バ、バカッ!!!なに自己紹介とか始めてんのよ!?アンタまさか気づいてないの!?」ん?気づいてないって何が?」
突然青い顔をしながら取り乱すJJ。鬼気迫るJJに進はひたすら困惑するだけだった。すると
「アンタ正真正銘のバカね!!後ろっ!後ろ見てみなさいよ!!」
と何故か焦りながら警告してくるので
「後ろ?一体なに言ってん……っ!?」
くるりと半回転してみた進は、次の瞬間過去の自分をぶん殴ってやろうかと後悔した。
「ふふっ……随分と楽しそうだったわね。す す む?」
「……Oh」
「はい……はい……本当にもう、全部カノンさんの言う通りです……。本当に反省していますから……だからどうか機嫌を直していただいては貰えないでしょうか……?」
「ごめんね、進。今回ばっかりは無理……なのだわっ♪」
「ハ、ハハハハ……で、ですよねー。そうですよねー……」
「……もう、暫く口聞いてあげないのだわ。」
「?!そ、それだけは勘弁してくれぇぇぇ!!!」
「……ルカ姉、これが俗に言う修羅場ってやつ?」
「……ええ。」
「うわぁ……」
あの後、進は滅茶苦茶怒られた。初対面の人に対してデリカシーが無さすぎるとか、言い寄りすぎだとか、色々と言われていた。道行く通行人達は、進に哀れみの目をしながら見つめて通り過ぎていっていた。一部始終を見ていた通り人らは、明らかにどちらに非があるのか分かっていたからである。
そして何より、彼女の前で取る行動ではなかった。
カノンが怒っている姿を視認した進は、その瞬間に一体自分はなんと言うことをやらかしてしまっていたのだと、瞬時に原因を察知し後悔したらしい。我に帰るとはまさにこういう状況のことを指すのだろう。あまりにジェニーに夢中になっていたが故の悲劇だった。
「それにしても、カノンは何で自分が怒ってるのか理由が分かっているのかしら。感情の知識に疎いカノンなら半端にしか理解できていない可能性があるわね。」
「あー……あり得そう。でも、なんでルカ姉はそんなこと気にしてるの?」
修羅場を目撃している二人。だが、もはや二人はもう蚊帳の外であった。目の前に繰り広げられている痴話喧嘩(?)にも近い何かが終わるまで下手に発言はできなかった。この場合、時間を潰すのに最適な手段は駄弁ることくらいしかないと思われる。
「そうねぇ。やっぱり、自分の抱いている感情がなにか分からないって色々と不便なのよ。人って言うのはね、どう頑張ったって機械みたいにずっと合理的に物事を考えて動くことなんてできないし、必死に心を無にしたりしたとしてもどこかで必ずガタがくるもの。最も、これは人間だけの特徴なのかと言われるとそうじゃないんだけどね。」
「ふーん……でも、それのどこが不安なの?」
「さっきも言ったと思うけど、感情が分からないって本当に不便なの。感覚的には怒っているはずなのに、何で怒っちゃうのかわからない、ってね。普通、人が感情を露にするときはあらゆる対象に対して色んな物事や事象をちゃんと理解してから、その先にある自分の抱くべき感情を見つけて、そして自覚するのよ。カノンはこの過程の内の『色んな物事や事象を理解する』っていう事項をすっ飛ばすことがたまにあるようね。この事項を飛ばすとどうなるか……分かる?」
小難しい話についていけないJJは頭が混乱する。ルカの言う、感情を得るまでの間にある過程の一つをカノンはすっ飛ばしている話を。ある程度までは理解できたのだが、それでもJJは答えを聞かざるを得なかった。
「ううん、ちょっと分からないかなー。」
「ちょっと難しかったかしら。では、答えを教えてあげるわね。この大事な過程を飛ばすと──自分の抑えが効かなくなるの。」
「抑え?」
「ええ、抑えよ。例えばそうね……じゃあ、仮にとある町で大事件が起きたとしましょう。その事件の犯人は一人で、誰一人として素性を知る者はいない。なんの情報も得られず事件は一向に解決されなくて、日が進む度に住民達の不安は募っていき不満の声を漏らす人達も日に日に増していく。こんな時、もし突然犯人の顔が判明したらこの町の人達はどうなるかしら?」
「うーん、顔が分かったら…………少しだけ不安じゃなくなる、とか?」
思ったことを率直に伝えるJJ。自信無さそうに答える彼女であったが
「ふっ、流石はJJね。大体合ってるわ。」
「えっ、ほんとう?私合ってたの?」
JJの問いにルカは笑みを浮かべながら静かに頷いた。途端に上機嫌になるJJ。ルカから褒められたのが余程嬉しかったのだろう。
「なにもわからないのと、ほんの少しでも何かを知っているってのとでは天と地ほどの差があるのよ。犯人の事を少しでも知っているだけでも、どうすればいいのかとか思考を挟む余地が生まれるの。」
「なるほど……」
「ここで話を戻すけれど、この『犯人』をカノンが怒ってしまう『理由』と仮定してみましょう。現状を見てみるにあのカノンは、犯人がどんな奴で何をしたのか全く分かっていない状態で怒っていることになるわよね。犯人を知らないと言うことは、イコールで町の人達の不安が少しも解消されないという意味にもなってくる。」
「あ……そ、それって……じゃあカノンは……!」
ここまで話して、漸くルカの言いたいことを察したのかJJが驚きの声を上げた。
「えぇ、貴女の考えている通りよ。何れカノンは自分の抱いている感情が何なのか知らぬまの内に爆発してしまい、もしかするとふとした拍子に……なんて事も無くはないってこと。今回の感情は俗に言う嫉妬って奴ね。ま、進が今後あんな事しなければいい話だし、この心配事も杞憂なんでしょうけど。第一、あの二人は並大抵の事では別れないと思うし。」
「嫉妬かぁ、無理もないわね。私にあーんなことしたんだもん!ほんと、デリカシーのない奴!」
頬を膨らませながらプンプンと怒っているJJに思わず笑みをこぼしてしまう。ルカは、今もまだ言い合い(一方的)をしている二人を眺めながら、JJにとある質問をしようと思い立った。
「ねぇJJ。嫉妬って感情はカノンに教えてあげた方がいいのかしらね?私の見立て……というかほぼ確実だと思っているんだけど、カノンはまず嫉妬という感情の概念を知らないと思うのよね。どうかしら?貴女の意見を聞きたいわ。」
「えっ……(ル、ルカ姉が私を頼りにしている……のかしら!?い、いいとこ見せなきゃ!)うーん、そうだなぁ。やっぱり教えてあげた方がいいとは思う……かな?だって嫉妬って怖いもん。簡単に人を、感情を持っている生き物をぐちゃぐちゃにするから。」
決まった!的確な理由を添えつつの意見の提示!自分の思ったことを素直に言ったし、すこし見栄を張るために曖昧なイメージだった理由もちゃんと言語化できた。これにはルカも満足するはずだ!
「そうよねぇ。あまりこう言った助言はやめた方が二人のためになるのかもしれないけれど、流石にこのレベルだとね。それに、自分の気持ちに気づけたら抑えきれない想いってのにも対策を取ることができる。はぁ……手が掛かるわ、ほんとに。出来るのなら進が教えてほしいんだけどね。ありがとうJJ。貴女の意見でやることが出来たわ。」
「えへへ、役に立てたならよかった!」
にへらと可愛らしい笑顔を見せるJJ。ルカに褒められたと言う事実が彼女の心を満たしていた。
「それにしても……カノンはゼニスではないにしろ、生き方が生き方だったから一般常識が少し欠けている節があるわ。無知は罪とはよく言ったものね。だとしてもこの街にいるクリーチャーや変人なんかと比べると……いや、比べるまでもないわね。カノンは常識人寄りで一緒に居て余り疲れないから接しやすいわ。」
守護者としての立場上、ルカはかなりの頻度でクリーチャーやその事情を知る人間と関わることが多い。しかし、何の因果なのかその顔を会わせる者達は相当な確率で癖の強い人物だったりするのだ。ポジティブに考えると暇しないと思ったりするのだが、正直なところ普通に疲れる。嫌ではないのだが、ああいう色物達と関わり続けるというのはルカの性にあわない。
「あー……ルカ姉も大変なんだね。」
「ふっ、そうかもね。でも毎日楽しいわ。それに、多くの人達と関わることでこの街を守る理由も増えるし、悪くはないと思ってる。」
「うふふっ、流石はルカ姉!」
やめなさい、と言いつつも満更でもなさそうなルカ。そんな親子のような会話をしている二人の近くでは、未だに言い合い(一方的)をしているカノンと進がいたのだった。
この後結局ルカが仲裁に入り場を収めた。注目を集めていたので取りあえず近くの喫茶店に入ることにした。そしてまずはルカとJJが進のやったことに対して苦言を呈した。
本人も何故こうも自分が責められているのか分かっていたようで、何度も何度もJJに謝っていた。そりゃそうだろう。セクハラ紛いの行為と言っても過言ではなかったのだ。どんなに咎められようとも反論の余地はなかった。問題はこの次の話題である。
「カノン、貴女は何故あんなに怒っていたのかしら。」
「え?」
ポカンとした表情を浮かべるカノンに、ルカは続けて話をした。
「怒るのなら普通、被害者であるJJが怒るべきじゃない?だというのに、カノンはまるで自分が被害者かのように錯覚するくらい怒っていたわ。飽くまで第三者だったというのに、何故進の行動を咎めるだけに止めておけなかったの?」
そう、注意をするくらいならばまだ分かるのだ。人間、他人から見て貰わないとわからない欠点が幾らでもある。それを指摘してくれて、助かったという経験をする人も少なくない。しかしカノンの言葉は凡そ注意の言葉の範囲を越えてしまっていた。
「…………確かに。何であんなに怒ってたんだろう。」
少し冷静さを取り戻していたカノンは、ルカの問いに対して深く疑問をもった。確か最初進がJJの元の名前を当てたときは怒りなんて沸く気配すらなかった筈だ。なんならデュエマへの愛がこちらにも伝わってきて尊敬したくらいだった。だというのに、進が必要にJJに詰め寄っているのを見ていたら何故かそれが許せなくなってしまっている自分が出て来はじめていたのだ。
「今思い返すと、私あんなに怒る必要無かったわよね……。進に悪いことしちゃったな。えっとその、ごめんなさい。」
「え!?いや今回は完全にこっちが悪いし、カノンが謝る必要なんて──」
「はいストーップ!両方恋人思いなのはいいけど、謝り合戦になるのは勘弁してよね!特に進!アンタはもう謝ってたんだからいいでしょ?ごめんに対してごめんなんて言い合ってたら収集つかなくなるわよ!」
「お、おう?そ、そうだな……?」
何がダメなのかよくわからないがJJに待ったを掛けられてしまった進。その勢いに押されて進は押し黙った。
「それで?話を戻すけど、カノンはなんで怒っちゃったのか心当たりがないってことでいいかしら?」
「えぇ。気づいたらついカッとなってたっていうか……何かが爆発したみたいに、自分自身の制御が出来なくなっていた?のかしら……ごめんなさい。私も上手く説明できないのだわ。」
「ふふっ、そうでしょうね。これで貴女が詳細な説明をしてきたら軽く恐怖を抱くわ。」
「?」
どこか含みのある笑いを起こすルカに、カノンはただ疑問符を浮かべることしか出来なかった。その余裕そうな振る舞いは全てを分かった上での余裕なのか、それとも本人が元々そういう振る舞いかたをする人間なのか。真偽は定かではない。ただ、今カノンにできることはルカの言葉を待つことだけだ。
「よく聞きなさい。貴女の抱えていたその怒り、その感情の持つ名前はね──」
嫉妬、って言うのよ
「嫉妬…それって確か……」
「あら、もしかして知ってたのかしら。」
カノンが知らない前提で話をしていたので、意外な反応が返ってきてルカは少し驚く。
「うん、意味は分かるわ。」
「意味"は"分かるって、それじゃあまるで──」
「ええ、意味は分かるってだけで理解は出来ていないのだわ。」
「ふむ……なるほど、ね。」
顎に手を添え考える仕草を見せるルカ。想像とは少し違った運びとなってしまったが、それも誤差の範囲内だとルカは確信した。
「じゃあカノンは何故嫉妬を理解できないのかしら?」
「うーんそれは……」
話す内容を考えているのか、暫く黙るカノン。ほんの数秒の後、カノンはルカの目を確りと見据えたまま口を開いた。
「誰かが私よりも強い思いを向けられていたとしても、何か問題がある訳じゃないかなって思ったからかしら。だってそうじゃない?例えばプレイヤーが私よりもルピコを優先していたとしても、私は別に何か思ったりしないのだわ。もし私が我儘をいって構って欲しいって言ったりしたとして、それは二人の関係を無理やり切るようなこと何だから嫉妬なんて出来ないわ。寧二人にはもっと仲良くなって欲しいもの。」
「つまり、貴女は嫉妬という感情を抱く意味がないって思ってるってことで合ってるかしら。メリットが何一つとしてないからそもそも論として、抱く人の気持ちが理解できないと……そういう解釈でいい?」
「ええ、その通りなのだわ。」
ルカの考えを肯定するカノン。その瞳には嘘偽りのない純粋な眼差しが秘められていた。
「なるほど。これは……覚悟はしていたけど、説明するのが相当難しいわね。白守進、貴方は何か言いたいことあるかしら。出来ればカノンが理解できる説明をして欲しいのだけれど。」
「いや、俺に言われても……俺だってどこにどう嫉妬していたかなんてわかんねぇよ。まぁ、大体検討はつくけどさ……それをカノンに説明するってのはちょっと、なぁ?流石にキモいと言うかなんと言うか……」
「……意気地無し。」
「JJさん?マジで効くから止めてください……」
ルカとカノンが話し合っている間に、いつの間にか仲良くなっていたJJが情けない進をみて突っ込みを入れる。その辛辣な言葉に進は普通に傷付いていた。
「カノン、貴女は運がいいわ。こうして嫉妬という感情を指摘されるなんて滅多にないことよ。今からじっくり教えてあげるからちゃんと聞きなさい。」
「え、えぇ。了解したのだわ。でも一つだけ聞いてもいいかしら?」
わからないことがあるのか、眉間に皺を寄せているカノン。若干ルカから言われたことに理解を示せていなさそうな返事をしていた。難しい表情を浮かべながらカノンはとある質問をルカに投げ掛ける。
「その、何故そこまでして嫉妬を私に教えようとしているの?仮に私が嫉妬していたとしても、そこまで慎重になる必要があるのかしら。」
それは、嫉妬を理解できないからこその質問だった。カノンから見ると、ルカの話し方は少しだけ、ほんの少しだけ必死に見えていたらしい。そんな疑問にルカは真剣な眼差しでカノンを見つめながら口を開く。
「そうねぇ。一言で言うのならば、貴女達が別れてしまう唯一の原因になりうる可能性があるから……かしらね。」
「!?」
ルカの衝撃的発言に目の色が変わるカノン。そんなの、カノンからすると死ぬほど嫌に決まっている。別れるなんて非現実が嫉妬によって引き起こされるかもしれないだと?許される訳がない。いや、そんなことは絶対に許してはならないのだ。
何故なら、進はカノンにとってはじめて出来た大っ好きな恋人であり、とてつもなく大切な人なんだから。
そんな許されざる出来事が起こりうるかも知れないのなら、それを防ぐためになんだってやってやる。カノンはそう強く思った。そこからの行動は早かった。
「お、お願いっ!私に嫉妬を早く教えて!!進と別れるなんて……私っ、そんなの嫌だ……!」
カノンの変わり様にルカとJJは目を見開く。
「ふふっ、貴方随分と愛されているのね。良かったじゃない。」
妖艶な笑みを浮かべながらからかう様にしてルカは進に言葉を掛ける。それに対して進は少し恥ずかしそうにしながら「や、からかうなよ……」とたじたじになってしまうのだった。
そんなやり取りに一切気を取られず、ルカからの説明を今か今かと待ち続けるカノン。その集中力は進に対する愛から来る故のものなのだろうか。そんなどうでもいいことを頭の片隅に置いて、ルカは再びカノンの方へと向き直る。そして、嫉妬という感情についての説明を懇切丁寧に始めるのだった。
「……と、言うわけよ。どうかしら、何となく自分が何で嫉妬しているのか自覚できた?」
「……うん。」
「良かったわ。こう言ったデリケートな事情に首を突っ込んだのは始めてだったから少し不安だったけど、上手く行ったみたいね。」
説明を一通り終えたルカは満足そうに呟く。そんな反応とは対照的に、どこか元気がないように見えるカノンにルカは違和感を覚えた。
「ええと、カノン?さっきから少し元気がなさそうだけど大丈夫?」
「えっ!?い、いえっ別に何でもないのだわ!少し考え事をしていただけよ。大丈夫。」
「ふーん……それにしてはやけに焦っているように見えるけれど。」
疑いの目を向けるルカ。その威圧感のある視線にカノンは思わずたじろいでしまう。
「あ、えとっ、そ、それはぁ……その……」
しどろもどろになってしまっているカノンをみて、思わず2人の間に割って入ってしまった人物がいた。
「ル、ルカ?そこまで詰める必要はないんじゃないか?」
カノンを庇うようにして声を上げたのは、白守進だった。
「あら、ごめんなさいね。思わず熱くなってしまっていたわ。私らしくなかったわね。まぁ、こんな話題での相談事なんて余りなかったししょうがないと思うけどね。」
(こんなルカ姉見たことない。やっぱり恋ってのは乙女の心を乱すわね!!ここまで熱心になっているルカ姉は珍しいし、ここはじっくりと観察させて貰おうかしら!)
3人が3人それぞれ別の目的をもって行動しているなか、只カノンだけが何故かもじもじしながら俯いていた。
「えーっと……カノン?あー……まぁかなり恥ずかしい思いをしたとは思うんだが俺もほぼほぼルカの言う通りだと思う。俺がカノンに嫉妬を指摘できない理由がここに詰まっていると言っても過言……どころじゃないな。うん、俺すら恥ずかしい思いしちまうもん。」
顔を赤く染めながら俯くカノンに進はフォローを入れる。しかし、そんなフォローでカノンは元気になることは無くそれどころか余計に
「へ、変に気を遣うのは止めてっ。嬉しいけどっ、嬉しいけどぉ…!でも、まさか嫉妬していたときの私の心情を丸々説明されるとは思わないのだわ!!!うぅ……しかも進の前でぇ……」
彼女の羞恥心を煽るだけだった。
「で、でもよ!俺は何て言うかその……カノンの思ってることが分かってメチャメチャ嬉しかったぞ!!」
「え…ほんと……?」
「あ、あぁ!良いじゃねぇか、ちょっと位独占したいって思っても!」
「!っ、もう!や、止めて欲しいのだわ!あまり口にしないで!」
「どうして!俺本当に嬉しかったんだぞ?決して悪い感情なんかじゃないんだからもっと胸を張ってくれよ。」
「……ルカ姉、何で私達唐突にこんなイチャイチャを見せつけられてるの?」
「あー……JJには言ってなかったけど、2人って思っているよりもかなり距離が近いしラブラブなのよ。だからまぁ、その……結構簡単に2人の世界に入り込んじゃうのよね。それも場所を考えずに。」
「うわぁ……なんかムカつくー。」
今度は修羅場ではなくイチャイチャを見せつけられる2人。余りの2人の雰囲気の甘さに若干JJはイラついていた。2人は意識していないのだろうが、こう言うやり取りを間近で見せつけられると言うのは思ったよりも堪えたりする。やるならもう少し場所を弁えて欲しいと思うJJであった。
「フフッ、お互い知らないことが多かったり分からないことがあって伝えたいことが言葉に出来なかったりと、なんとも不器用なカップルね。でもここまで純粋なのも珍しいし今回は大目に見てあげましょう、JJ?」
「はぁ……そうね。ルカ姉がそう言うんだったら私も大目に見てあげる。でも次また見せつけられたときはこのカットちゃんで──」
「それは止めなさい。」
「ちぇ……ハ~イ……」
物騒なことを口にする前に静止するルカ。残念そうに手に持っていたカットちゃんをしまうJJに思わず苦笑いしてしまう。そんな光景を尻目に、ルカは未だ言い合いをしている2人を見る。
「だって、だって私ぃ……独占だなんてふしだらな考えを持っていたなんてっ…!さっき自信満々に嫉妬は理解できないとか言ってたのに……もう私恥ずかしすぎてどうにかなっちゃいそうなんだもん……」
「いやだからね?俺はそれがもう本当に天にも昇るような気分になるくらい嬉しいと言うか、何だったら更にカノンが愛おしく見えてくると言うか……なんかもう…うん。簡潔に言うと最高だってことなんだよ。」
「うぅ~///私の気も知らないでどうしてそんなこと言ってくれるのだわぁ…///」
頭が回っていないのか語尾がふにゃふにゃになってしまうカノン。それを見てルカは
「……思ったよりもガッツリいくのね。」
と感嘆の言葉を漏らすのだった。
「やっぱりもう切っていい?」
「お願い、我慢してちょうだい。」
苦労人ルカ。JJの機嫌を取りながら2人の寸劇を見させられる事態に遭遇。この時間はもう少しだけ続きそうだった。やはりデュエマシティは愉快な街である。
皆さんはプレイスアリーナやりましたか?作者は惜しくもファイナルステージでユニバースに轢かれました。
そんな感じで小説を書く時間を削ってデュエプレをするからこんなに投稿遅れちゃうんですよね……でも楽しいから後悔はしていない!