ルカ達と別れてから少し、進は寂しそうに帰る2人を見送っていた。そんな進を見ていたカノンはついムッとしてしまう。その時カノンは気がついた。先程の話し合いが功を奏したのかは分からないがこれが嫉妬という感情なのかと、この瞬間カノンは初めて明確に自覚できたのだった。
そんなこんなでクリーチャー探しを再開する2人。結局JJとは余り話せなかったらしい。ルカ達もまた別の用事があるから急ぐと言っていた為だと言う。それでも進は満足していた。
今まで見てきたクリーチャーはサスペンスを除いて殆どが人型のものだった。ルピコやウェディング、キリコにダピコとクリーチャーではあるものの如何せん進の知っているクリーチャー像とはかけはなれている者ばかりだったのでイマイチ驚きというか、かっこいいクリーチャーを見て興奮するような感覚になれなかった。だからこそ今回のJJには心底驚いたし、それと同時に酷く興奮出来た訳だ。やはり見知った姿のクリーチャーと言うのは良い。ロマンが詰まっている。未だ覚め止まぬドキドキを抑えながら進は散策する。
「うーん……中々特徴的な奴が居ないな~。今日はやっぱダメな日なのかも知れない。」
歩けど見回せど目には入るはどれもこれも人間ばかり。そろそろ異質な風景を見せて欲しいものだと柄にもないことを思う進。すぐ後に、なんか悪者みたいなこと思っちった……と心の中で反省する。
「むむぅ……本当に駄目かも知れないのだわ。どうしましょう。」
カノンは内心焦っていた。ここに来れば殆どの確率で会えると豪語してしまっていたので、進の期待を裏切ってしまっているのではと不安になっているのだ。
誰か、誰か顔見知りはいないのか。クリーチャーであれば誰でも良い、なんなら顔見知りじゃなくても良い。何故なら、そこから広がる交友関係があっても良いと思うから。もはややけだった。
そんなことを考えていたカノン。しかし次の瞬間、それまでカノンが頑張って来たからなのか遂にその想いが報われることとなる。
「カノン!」
「え?」
突然後方からかけられた声にカノンは思わずすっとんきょうな声をあげてしまう。進もいきなりのことで少し驚いたようで、振り向こうとしていた。カノンもそれに続くようにして後ろへと振り向く。そこにいたのはなんと
「久方ぶりじゃな!元気にしておったか?」
「ちょ、ねーちゃん急ぎすぎだろ!」
「姉上……カノンはそんなに焦ろうとも逃げませんよ。」
「プ、プリンプリン!?それに鬼丸に修羅丸も!?」
かつて相対し、そしてカノンを救ってくれた人たちである
プリンプリン、鬼丸、修羅丸だった。
プリンプリンが急ぎ足でこちらに駆け寄って来ているその後ろを鬼丸達が急いで追いかけている。だが、プリンプリンは2人の苦言を全く気にしている様子ことなく只々カノンとの再開を喜んでいた。
「ふふっ、その様子を見るに上手くやっとるようじゃの!」
「え、えぇ……お陰さまでね。って、そうじゃないのだわ!?ど、どうしてここに居るの!?」
困惑が隠しきれないカノン。
「ほら、だから言ったじゃねぇか。やっぱこうなんだよ。」
その様子を見ていた鬼丸は呆れたように嘆いていた。
「やはりちゃんと計画を立てて来るべきだったか。」
「ふんっ!言っておれ。今に見せてやるのじゃ。わらわの考えが正しかったということをな!」
修羅丸の言葉にプリンプリンは張り合うように返事をした。どうやら何らかの意見の食い違いがあったらしい。
「おっとすまん。話が脱線してしもうたな。わらわ達がカノンの元へ来た理由、それはじゃな───」
「ちょちょちょ!ストーーップ!!!」
「?な、なんじゃ?」
「ん?」
「む?」
聞きなれない人物の声に3人は疑問符を浮かべる。
一体誰だ?カノン以外にこの場に誰かいたか?
3人が思ったことは共通してこの2つだった。残念なことに、3人の眼中にはカノンしか写っていなかったらしく進を認識出来ていなかったらしい。"なんで途中で話を遮るんだ?"といった思いが込められてそうな声音に進は若干ショックを受けるも、話を続けた。
「は?ん?……えぇ?マ、マジで言ってるのかこれ?夢……じゃないよなこれ?」
「な、何者じゃお主。いつからそこに居ったのじゃ?それに何故か錯乱しておるようじゃし……」
「あー、もしかしてあれか?俺達目立っちまってたのか?」
「ふむ、なるほどな。感覚が麻痺していたが、この鎧も鬼丸の図体も凡そ人間のそれではない。姉上はまだ疑われることはないだろうが……鬼丸の言う通り、もしかすると不味い状況かも知れないな。」
前言撤回、話し合いにすらなっていなかった。進は話をする以前に、目の前の光景が信じられず何故か自問自答を繰り返しているし、プリンプリンはその光景を不気味そうに見つめていた。鬼丸と修羅丸は的はずれな考察をし始めるしで状況は正にカオスという他ない。
それを1人傍から見ていたカノンは頭を抱えた。JJであんなに興奮していた進だ。そんな進にとって恐ろしいくらいの劇薬となるクリーチャーが近づいてきてしまった。これから先どうなるかなんてカノンには容易に想像できてしまう。だからこそこの先の展開に対して覚悟をするしかなかった。
「ねーちゃんさっきの話聞いてたか?」
「うむ、バッチリ聞いとったぞ。そうじゃな、まずはこちらの対処をしてからカノンと話すとしよう。よしっ!そうと決まれば……お主、どうやら困惑しておるようじゃが誤解するでない。わらわ達、実は只のこすぷれという奴でな。お主が思っとるようなものでは──」
「ウォォォォォォォォォ!!!!!」
「「「!?」」」
「進……やっぱりこうなるのね。」
雄叫びにも近い絶叫が辺りを木霊する。幸い周囲に人は居らず、この一部始終を目撃している者は存在しなかった。
突然のことにプリンプリン達は唖然としてしまう。どれだけのことが起きようと即座に切り替え対応していた鬼丸や修羅丸でさえも言葉を失っていた。一方カノンは想像通り……いや、少し想定外な喜び方をする進に対して余り驚きはしなかった。
別に面倒臭いだとか呆れてるとか決してそう言うわけではない。ただ、また進がクリーチャー達の前で何かやらかしてしまわないかが心配(主にカノンが嫉妬するようなこと)だった。思えば、JJと会えた時点でクリーチャー探しは止めておくべきだったのかもしれない。こういうことになるのは予想できた筈なのに、何故こうもカノンは進に尽くしたくなってしまうのだろうか。
いや分かっている。やはり好きなのだ。好きで好きで堪らないんだ。気づいたときにはカノンは進に近寄っている。気づいたときには進に尽くそうと全力を出してしまっているんだ。もうどうしようもないところまで来てしまったんだ。もう、止まれないんだ。
(私、変わっちゃったなぁ。)
「ふふっ」
誰かを愛し、それに依存してしまう。どうしようもなく心地よくて、もうなにもかもどうでもよくなっちゃうくらい幸せで、ずっと側にいたいって思える。構って欲しくて、甘えさせて欲しくなる。こんなの以前の自分では考えられないような変化だった。
それが何だかおかしくて、プリンプリン達が困り果てているのにも関わらずカノンは少し笑ってしまった。
「ん?どうしたカノン。何かおかしいとこでもあったのか?まさか、この状況を楽しんでたりしてんじゃねぇよな……?」
似合わない行動に鬼丸が怪訝な表情を浮かべながらカノンに言葉を掛ける。
「馬鹿言え。そんな訳がないだろう。きっとカノンなりの考えがあって笑ったのだ。」
「バッ、兄貴っ……!?喧嘩売ってんのかぁ!?」
「違う。私はただ、お前の勘違いを訂正してやっただけだ。」
「ハッ、そうかよ!だからなんだ!?俺はさっきの前者の言葉が聞き捨てならねぇんだよ!丁度良い、最近復興作業ばっかで辟易してたんだ。久しぶりに付き合え、兄貴ぃ!!喧嘩だぁぁ!!」
「はぁ……仮にもゴールデンエイジのリーダーともあろうお前がそのようなことを口にするとは。良いだろうっ鬼丸!その喧嘩、買わせてもらうぞ!!兄として少しお灸を据えてやる!」
何故かカノンの話題から兄弟喧嘩に発展してまう2人。進はクリーチャーと対面できて理性を失い掛けているし、鬼丸と修羅丸は喧嘩を始めだす。ここまで滅茶苦茶な状況も余りないだろう。状況を読まず笑ってしまった自分にも非があると考えたカノンは仲裁しようと2人に近づこうとする。その時
「うるさーーい!!!」
痺れを切らしたプリンプリンの怒号が辺りに響いた。
「お主ら全員少し静かにしておれ!!わらわはもう何が何だかサッパリじゃ!順を追って一つずつ解決していくからそれまで誰も何もするでないぞ!わかったな!?鬼丸、修羅丸!?」
「で、でもねーちゃん!俺は兄貴に馬鹿だっていわれ──」
「静かにと言ったであろう!話は後で聞くから今は我慢しておるのじゃ!鬼丸が絡んできたら余計面倒臭いことになるからの。今は待機しておくのだぞ。良いか?」
「くっ……わ、わーったよねーちゃん…」
「修羅丸も、余計なことは口にしなくて良い!」
「す、すみません……」
「うむっ!それでこそ我が弟たちじゃ!」
(あ、あそこまで怒ってるプリンプリン久しぶりに見たのだわ。怖かったぁ……)
プリンプリンの気迫にカノンは若干恐怖を感じていた。戦場に駆り出している時のものとはまた違う、人を叱りつけるような声音。これは鬼丸や修羅丸が押し黙ってしまう訳だ。しかもついでかのように進も静かになっていた。流石の進も空気を読んだらしい。エイリアンの姫は伊達じゃない。
「それじゃまずはお主の問題を解決しようかのう。」
進へと向き直るプリンプリン。その様子を鬼丸と修羅丸は神妙な面持ちで静かにじっっっと眺めていた。
「さきはすまなかったの。お主も置いてけぼりで何が何だか分かっておらぬ筈じゃ。だから、今からわらわがそれらを全て分かりやすく説明してやろう。良いか?よーく聞いておくのじゃぞ?分かったか?」
「え、あ、あぁ?」
流されるような返事を漏らす進。その表情には困惑の感情が明らかに乗っていた。
「わらわ達はな?デュエマのクリーチャーのような格好をしておるが、決して本物と言うわけではない。所謂コスプレという奴じゃ。余りにも出来が良すぎる故に偶に本物かと問うてくる者がいての。今のようにわらわ達は毎回説明をしているのじゃ。恐らくお主はわらわ達の姿に驚いてつい話しかけてしもうたんじゃろう?残念じゃが、クリーチャーはこの世には居らんのじゃ。分かってくれたかの?」
申し訳なさそうな表情を浮かべながら進の顔を見つめるプリンプリン。
(見たか、弟たちよ!わらわはこの様な緊急時に備えて予めカスミとカイトと共に絶対に誤魔化せる言い訳を用意しておったのじゃ!さっきは突然のことに固まってしもうたが、上手く軌道修正できた筈。その後の言い訳の文言も一言一句間違ってない、完璧なものだったのじゃ!ふっふっふっ……これは"貰った"のじゃ。)
しかし実際は申し訳なさなど微塵も思っておらず、以前から練習して暗記していた緊急用の誤魔化し文言を言えたことに狂喜乱舞しており、愛する弟たちにかっこいいところを見せられたと舞い上がっていた。
して、肝心の進の反応はというと
「……?」
首をかしげ、訝しげな表情を浮かべながら理解できないといった様子でプリンプリンを見つめていた。
(……あれ?)
余りにも静かすぎるため流石のプリンプリンも違和感を覚える。手応えがなかったのだ。何故なら相手が納得してくれて、そういう事だったか、なんだ勘違いだったのかと解散していく様なあの独特な雰囲気が漂ってすらいなかったから。
(な、何故じゃ?何故目の前の者は何の反応も示さないのじゃ?わらわ達をクリーチャーと勘違いした訳ではないのか?)
想定外の展開に思考を巡らせるプリンプリン。正直、目の前の少年がクリーチャーと勘違いしていなかったのならそれはそれで良かった。プリンプリンの勘違いというだけで終わる話だから問題も起きようがないし、そこでこの話は終わりだと区切ることが出来るから。
だが、そうは言っていられない事情がここにはあるのだ。まず第一に、少年が話しかけてくる理由がない。以前の発言から考えてみても、少年がクリーチャーに出合ったことを皮切りに声をかけてきたことは確実という他ない。というかそれ以外の理由が思い浮かばないのだ。
では、何故このような状況となってしまっているのか。
(それが分かれば悩んでおらん……)
考えれば考えるほど謎が深まっていく。今率直に話しかけてきた理由を聞いても良いのだが、変に勘ぐってしまうと逆に怪しまれる可能性もあるので下手に口を開けなかった。出来ればカノンに聞いて欲しいのだが、耳打ちできる距離にカノンはいないしそれを見られれば怪しまれるのは避けられない運命だろう。
どうしたものかと頭を悩ませるプリンプリン。彼女の悩みを何となくだが感じ取っていた鬼丸と修羅丸も同様にどうすればこの状況を切り抜けられるか考えていた。そんなときだった。
「あー、そう言うことね。」
「?」
少年……もとい白守進は今自分の置かれている状況を理解したのか意味深な言葉を呟く。少し気まずそうにしている進にプリンプリンはひたすら疑問を抱くことしか出来なかった。
「うーん、なんて説明したら良いのか……」
先程のプリンプリンの様に悩みだす進。様子を見るに、説明しようとはしているがそれを進が渋っているようだった。それに何故か少し頬を赤く染めている。
「おいおい、何がどうなってんだよ。もう俺は訳わかんねぇ。」
「あぁ、私も同意だ。私の見立てでは、情報が錯綜しているように思えて仕方がない。一旦整理するのも良いかもしれんな。」
何となくではあるが、その鋭い勘を持って修羅丸はお互いの主張が食い違っている可能性を指摘した。ついでにそれを解決する方法も添えてある。
「そうね。私からも話したいことが一杯あるし、一先ずどこか休める場所を探しましょう。」
修羅丸の意見に同意するカノン。進も静かに頷いていた。
「くっ、わらわの活躍が……」
一方で、かっこいいところを見せられたと思っていたのに結局修羅丸に良いとこ取りをされてしまったプリンプリンは、人知れず落ち込んでいた。
「おぉー!ここがカノンの家か!」
「お前は姉上の話を聞いていたのか?」
鬼丸の驚嘆した声が辺りに響く。その余りの声量に修羅丸はツッコミを入れていた。
「ごめんなさい、かなり歩かせちゃったのだわ。」
「気にするでない。カノンの意見を呑んだのはわらわじゃ。そなたの近況を知るに良い機会じゃとわらわも思っとったからの。丁度良かったのじゃ。」
お姫様らしい上品な笑みを浮かべるプリンプリン。それに対してカノンも微笑み返した。
現在一同はカノンの家へと赴いていた。事の始まりは、なかなか腰を下ろせる場所が見つからなかった時にカノンがとある提案した時である。
もういっそのこと私の家に来ないか
最初は酷く驚かれた。全く知らない奴を家にいれて良いのかと小声でプリンプリンに言われたのを思い出す。他2人も口にだしてないだけで同意見だったと思われる。しかし、カノンが大丈夫だから心配しないで欲しいと言うと、簡単に引き下がった。恐らくカノンの表情を見て何かあるのだと察してくれたのだろう。
提案をしたのには理由があった。街を徘徊し休める場所を探すところまでは良かったのだが、カノンにとってその時間が如何せん気まずすぎたのだ。姉に怒られ口を開かなくなった鬼丸と修羅丸。JJの時のような過ちを犯さないように必死に自分を押し殺す進。それに気づかず明るく振る舞いカノンに話しかけてくれるプリンプリン。
それがカノンにとってとてもやりにくかった。進との関わりが皆無に等しい為違和感に気づかないのはわかる。鬼丸達が黙っているのもわかる。でも、それでもプリンプリンとばかり話していると他3人に対してカノンは凄く申し訳ない気持ちでいっぱいになってまうのだ。だからと言って鬼丸達に私達に構わず喋っても良いよと言うのも違う気がした。そもそも、多分今から話すことは割りと重要なものになるとカノンは予想していた。しかもプライバシーという言葉を最近知ったカノンは、そう言った細かい気配りをせざるを得ないような衝動に駆られていた。
まぁ、簡潔に言うと誰の人目にもつかない場所に行きたかったのだ。只でさえプリンプリン達のせいで目立っているのに、誰かに盗聴なんてされようものなら……と考えるといても立ってもいられない。
そして、それを踏まえた上で休める場所がなかった。そこでとっさに出した案がカノンの家に行こうというものだったという訳だ。
「それにしても……あやつら、外では全く喋ってなかったというのに、カノンの家に入った瞬間にはしゃぎおって。幾らわらわが許可したからとて、些か意識が足りないのではないかの。」
2人に聞こえないようにカノンに愚痴を溢すプリンプリン。カノンはそれに対して苦笑していた。
「………………」
2人が騒がしくなったその近くで、未だに一言も発さない進。その表情にはカノンにしか分からない葛藤が現れていた。
(進、とっても我慢しているのだわ。きっと私が嫉妬しないように気にかけて…自分を、抑えているのよね……)
カノンの事を想ってくれているその心は嬉しかった。だが、喜んでいる場合ではないともカノンは思っていた。
(私のせいで進は好きに自分を表にだせなくなっている。そんなのはきっと苦しいだけよ。だから、ちゃんと伝えなきゃいけないのだわ。)
罪悪感に押し潰されそうになるカノン。以前のカノンまでなら、ここで"こんな私と付き合うなんて嫌だよね"とネガティブな気持ちになっていた筈だ。しかし、それは飽くまでも以前の話である。もう今のカノンはあの弱気なカノンではなかった。
(今日ルカが教えてくれたから私は嫉妬という感情を初めて自覚できた。そのお陰で私は己の抱く感情と向き合う事が出来たのだわ。だから、ある程度それを抑えることも出来るようになった……筈なのだわ。)
自信がないのは、感情というものが如何に未知数なのかをカノン自身が理解しているからだ。それでも、それを踏まえてでも進に伝えないといけない。
(私は大丈夫だって、そのくらいで嫉妬なんかするもんかって、そう伝えなきゃ。じゃないと、進が私のせいでまた苦しんじゃうから。)
何時までも進に気遣われて、助けられるだけの自分は嫌だった。進から頼られずとも、進に良い思いをして貰うために少しでも自分で考えて行動したい。今のカノンはその気持ちで頭を埋め尽くされていた。
「どうしたのじゃ、カノン?」
「っ、なんでもないのだわ。ちょっと考え事してただけだから。」
顔に出ていたのか、プリンプリンに心配されるカノン。思わず面食らってしまうが、何とか誤魔化せた。「なら良いのじゃが。」と良いながら鬼丸達を追って部屋の中へと消えていくプリンプリンを見つめながら、カノンは密かに決意を固めていた。
「はぁ~。やっぱり俺たちの世界とはかなり文明の発達がちげぇんだな。時々シティに来てはいたが、まだまだ知らないことだらけだぜ。」
「ふむ、一般的な住居はこの世界ではこうなっているのか。思えば、我々の回りには普通の人間が居ないからかこういった平凡な場は見たことがなかったな。この世界での暮らしというものに興味が尽きん。」
「ほう、中々整った内装じゃな!見たことのない機械や設備もあるのじゃ!今すぐにでもカノンに聞いてみたいところではあるが……それは今はお預けじゃな。」
「取り敢えずそこのテーブルで話しましょう。私はお茶を持ってくるのだわ。皆待っててね。」
何時かのウェディングが進にしていた事を真似するかのようにカノンは冷蔵庫へと向かう。しかし、それをプリンプリンが引き留めた。この人数を用意するのは時間が掛かるし、用事が済んだら直ぐに出ていくから心配ないとの事らしい。最初はその優しさに遠慮していたカノンだが、プリンプリンの押しの強さに負けてしまい渋々お言葉に甘えることにした。
そして一同が席へとつく。プリンプリンと鬼丸と修羅丸が並ぶようにして座り、カノンと進がそれに向かい合うようにして座っていた。遂にこの状況整理もとい説明の時間が始まった。
「では、改めて説明を聞くとしようかの。そなたの知っておること、そしてカノンの隠していることを。恐らく共通な話題なのであろうがの。」
「は?カノンの隠してること?」
プリンプリンの第一声がこれだった。それに対し鬼丸が素直に疑問をぶつける。突拍子のない謎の考察に鬼丸は少し混乱した。
「不思議には思わなかったのか、鬼丸。私達がカノンと話していた時に突然現れた少年。いきなりのことで普通の者ならば少しは驚く筈だ。そうでなくとも何か反応は示す筈。だが、カノンはその時余りにも冷静すぎていた。当時の私はそこまでの考えには至らなかったが、今振り替えって見ればわかる。明らかにカノンはこの少年を知っていたのだ。でなければ説明がつかない……ですよね?姉上。」
「うむ、修羅丸の言う通りじゃ。かなり曖昧な考察であるというのは自覚しておる。じゃが、視覚から読み取れる情報だとこの程度が限界だったのじゃ。どうかの、カノン?わらわの考えは合っておるか?」
真剣な眼差しで確認をとるプリンプリン。その血気迫る迫真の表情が妙にカノンに圧をかけた。
「え、えぇ。その通りなのだわ。」
「……へぇ、そう言うことかよ。なるほどな、ねーちゃんの言いたいことが分かったぜ。」
鬼丸は姉の言いたいことを理解した。だが、その瞬間の表情が進にとって何故か恐ろしく感じてしまっていた。ゾクリ、とえもいわれぬ気持ち悪さに襲われる。
「修羅丸、鬼丸」
「はい」
「おう」
「「?」」
プリンプリンの呼び掛けに対して2人が返事をする。それの直後に小さく3人で頷いた。まるで何かの確認をするかのように。その奇妙な光景にカノンと進は首をかしげた。
「単刀直入に聞くとしよう。カノン、お主───」
一拍置くプリンプリン。そして次の瞬間、その言葉は紡がれた。
「一体どのような事件に巻き込まれたのじゃ?」
「「っ!?」」
鋭い言葉に2人は息が詰まる。言葉が出なかった。
「その反応を見る感じ、黒で良いってことか?」
「これ、早まるでない。先ずはカノンとこの者からの情報を聞き出すのが先じゃ。じゃが、何か知っておるのは確実なのであろうな。遠慮はいらん、話せる範囲で無理なく話して貰えればそれで良い。」
先程よりも幾分かやわらかくなった声音で諭すプリンプリン。それでも、本人達は気を緩めている様子はなかった。
「……わかったわ。私がここに来てから起きた事件、今から話すのだわ。少し長くなるかもしれないけど大丈夫?」
「ふっ、そのくらいどーってことないわ!安心してどんどん話し欲しいのじゃ!」
「ありがとう。それじゃあ話すわね。あれはこの少年……進が変なクリーチャーを見つけたときから始まるのだわ。その日は進がね────」
「──そしたらそこに居たの。進の言うクリーチャーらしきモノっていうのが。」
「「「…………」」」
誰かがゴクリと唾を呑む音が聞こえる。カノンから繰り出されるエピソードは3人にとってかなり強烈なものだった。カノンの隣にいるこの平凡な少年が経験するには余りにも恐ろしすぎる体験に最初は耳を疑っていた一同。しかし、カノンの真剣な表情にこの話しは紛れもない真実であり、実際にこの現実で起こってしまったのだと察するのに時間はそうかからなかった。
「そのクリーチャーなんだけどね……あれは明らかにサスペンスだったのだわ。」
「なぁ!?」
「はぁ!?」
「なんだとっ!?」
衝撃の名前の登場に一同は一際大きな驚き様を見せた。
「ど、どういうことだよ!サスペンスは俺たちが倒した筈じゃあっ!」
「見間違いではなかったのか?そいつは正真正銘、本物だったのか?」
「ううん、見間違いなんかでは決してないのだわ。その姿を目にした瞬間、真っ先に反応したのがウェディングだったもの。『あなたは……サスペンス!?』って。」
「なんと……事件の首謀者がサスペンスじゃったとはな。流石に驚いたのじゃ。」
三者三様の反応をするプリンプリン達。あのゼロ計画の渦中の人物といっても差し支えない存在であるサスペンスが、シティで残酷な所業を行っていた事実に憤りを隠せない様子だった。
「しかし、サスペンスに生物を石に変える力等なかった筈だが……」
「確か"水晶の華"って言うんだと進は聞いたんだろ?心当たりはねぇのか、兄貴?」
既に進の事を呼び捨てにしている鬼丸。その事について誰も触れようとしないのはそれだけカノンの話が衝撃的だということなのだろうか。当然修羅丸も名前の事を気にしている様子はなく、鬼丸の質問に対して返答を考え即座に返した。
「いや、全く聞いたことがないな。もし仮にサスペンス固有の能力だったのだとしたら何故あの戦いの時に使わなかったのかという話しになる。それに、ゼニスに宿る力にしては余りにも弱すぎる気がするのだ。」
「どういうことじゃ?」
「そうですね……本来ゼニスの力はシャングリラのものです。そのシャングリラの矛盾が力の片鱗となり、従順なゼニスが産み出されます。そのゼニス達は基本何らかの頂として力を振るう為、必ず何処か特出した能力や特徴があるのです。この事を踏まえて言わせてもらうと、今回サスペンスが使用していた能力はゼニスに宿る力としては余りにも地味であり、強力なものとは言えません。」
「地味っていっても生物を石に変えるなんてかなり脅威的な気がするけどな。」
「ふむ、それはそうなのだが……なんというか不自然なんだ。完全な主観なんだが、その力はゼニスが得るべき力ではないような気がしてならない。ゼニスの力はもっとこう、派手なんだ。それに、サスペンスには既に呪文を奪い取れるという能力が備わっていた。奴は呪文を巧みに操るその頂として戦っていたのだ。だからこそなにか裏があるのではないかと疑わずにはいられない。」
本人がゼニスとして活動していたことも相まってか、かなり不信感を抱いている修羅丸。
「なるほど、そういった見方もあるのね。」
修羅丸の考察に感銘を受けるカノン。それと同時に心のなかで僅かに感じていたモヤモヤも晴れた気がした。実は、カノンも何となくではあるが、サスペンスの力に対して得たいの知れない不信感を抱いていたのだ。だが、言語化できるほどの考察を出来なかった為そのモヤモヤは晴れることなくカノンの中で取り残されることとなってしまっていた。尤も、カノンにそのような考察をする余裕など当時はなかったので仕方のない事なのだが。
「確かにゼニスにしては能力が地味かもしれないわ。けど、それでも恐ろしい能力ではあったの。」
「というと、やはり石化だけが奴の力ではなかったということか?」
「えぇ。私達はサスペンスと対峙したのだけど…皆覚えてるかしら?」
「んー悪い、なんだっけ?」
「その水晶の華をサスペンスは食べていたって事よ。」
「あぁ、それか。忘れるわけねぇじゃねぇか。んな惨いやり方超獣世界でだって中々見ねぇからな。」
進が目撃したというサスペンスによる石化した住民の捕食行為。その異彩を放つ始末の仕方を一同は忘れることなどなくちゃんと覚えていてくれていたようだ。
「まさかとは思うのだが、その水晶の華は奴の能力を底上げしたり出来たりするものなのか?」
やはりというべきか、この不気味な行動に違和感を覚えていたらしくその点を指摘してくる修羅丸。それに同意するようにプリンプリンと鬼丸も頷いていた。
「ううん、確かにサスペンスの能力も上がったりはするのだけど、それはついでみたいなものなのだわ。水晶の華を食べると得られる能力があるの。」
「得られる能力、とな?」
「その能力の名前は、エターナル・Kっていうの。」
聞いたことのない能力に3人は疑問符を浮かべる。このときカノンは3人の内誰かが何かを知っていればいいなと淡い期待をしていたがその思いは密かに打ち破られた。
「この能力はサスペンスが瀕死になる程の攻撃を受けて体が満身創痍になったとき、水晶の華が3個それを肩代わりしてくれる能力なの。しかもその能力を使ったサスペンスは無傷にも等しい姿になってて、そのまま襲ってくるのだわ。」
「それは何とも…実に厄介な能力じゃのう。」
「あの強さでダメージ無効化するって事かよ。やべぇなそれ。」
「エターナル?ダメージ無効化……ふむ。」
それぞれの感想を口にする3人。プリンプリンは怪訝な表情で顎に手をやっている。鬼丸は単純なその能力の強さに酷く驚いていた。その中でも修羅丸だけは何やら納得したような顔付きで一人思考を巡らせているようだった。
「どうしたのじゃ?修羅丸。」
「いえ、エターナル・Kという能力は聞いたことがありませんでしたが、それに似た能力に心当たりがあるような気がしまして。」
実はいうと、修羅丸は元ゼニス達の一員である。過去に鬼丸との衝突で3人の仲は良好なものへと変化していっていたのだが、その際に修羅丸は完全にゼニスの力を失くしたと思われていた。しかし、修羅丸の身に付けている鎧がゼニスの力を引き出していたことが判明する。結局完全に壊すことはできず、修羅丸はその力を逆に制御する形をとることにしたらしい。そんな修羅丸に何処か思い当たる節があるという。
「ほう、言ってみるのじゃ。」
「私達ゼニスと戦った際、何か感じた事はありませんでしたか?」
「感じたこと?う~む…わらわは余りゼニスとは対峙しておらんからの。実感があるなら鬼丸の方なのではないか?」
プリンプリンからの指名に鬼丸は脳を働かせる。あの戦場を明確に思い出す。忌々しい記憶であると共に、皆で世界を守り抜き絆を深め合うことも出来た少し誇りと思える思い出。複雑感情が渦巻くが、重要なのはそこではない。あの戦闘の違和感や微かな変化、読み取れることを考える。思うところはないかと鬼丸は必死に記憶を読み漁った。
「そう、だな。俺が戦ってたときは……」
言葉が詰まる。さっき修羅丸にゴールデンエイジのリーダーとしての自覚の無さで叱られていたことを今唐突に思い出してしまった。だから生じてしまった、鬼丸の迷いが。
次に口にしようとしていることは果たしていまの立場の自分からして正しいものなのだろうか?話してしまっても良いのだろうか?
一瞬の迷いが鬼丸に沈黙を与えた。皆に考えるような仕草を見せてみる鬼丸。変に疑われないように気を付けながら鬼丸は
(だーもう!んなとこで言い淀んでる場合じゃねぇだろ!深く考えすぎちまう何て俺らしくねぇ!しゃっ、思ったことを率直に伝えるか。)
小さな悩みを持ち前の頑丈な精神で解決させた。覚悟は固まったようだ。
「正直、もうそろそろ倒れてくれよって思ってたな。ゼニスの方が力は上だったかもしんねぇが、俺達は数では勝っていた。それこそウェディングと戦ったときだって少なくないダメージは与えていた筈なんだよ。だってのにアイツらはぜんっぜん倒れる気配がしなかった。だからまぁなんだ、俺的にはゼニスはタフな奴らってイメージがあるな。」
「ふむ、なるほどな。」
二つ返事で頷く修羅丸。その味気ない反応に鬼丸は目を見開いた。
「どうした鬼丸。そんな驚いたような表情を見せて。」
「いやだって…あ、兄貴は何とも思わなかったのか?」
「何とも…?どういう意味だ?まだ何か言いたいことでもあるのか?」
「はぁ…兄貴、そういうとこは鈍いのな。普段はあんなに頭が回って物事良く見てる癖によ。」
鬼丸の発言に修羅丸はただひたすら理解を示すことが出来ず疑問符を浮かべるばかりだった。その光景を横で見ていたプリンプリンがフッと笑うと、鬼丸をフォローする為に口を開いた。
「聞け、修羅丸。鬼丸はな、負い目を感じておったのじゃ。」
「負い目ですか?」
「うむ、鬼丸の内情は今初めて知ったが何故修羅丸にさっきのような問いをしたのかは理解した。そしてそれは非常に鬼丸が口に出しにくい事な筈。じゃからわらわが代わりに説明してやろう。」
「ちょ、ねーちゃん!べつに兄貴が分からないんだったら俺はそのままでも良い──」
「なんじゃ?ここまで感情を吐露しておいて、今更引き返すと言うのか?率直に事を伝えたというのにもったいないの~。」
「ぐっ、そりゃ卑怯だろ…!」
「卑怯もなにも、わらわはお主の気持ちを代弁してやろうとしておるのだぞ?鬼丸に勇気がないのが悪いのじゃ。それにわらわはその思いを一人で抱え込むべきではないと思っておる。鬼丸が止めろと言うのならわらわは卑怯な手でもなんでも使って修羅丸に伝えてやるのじゃ。」
そういうとプリンプリンはイタズラな笑みを浮かべた。簡単に丸め込まれてしまった鬼丸は言い返す気もなくなってしまう。渋々ではあるが、鬼丸はプリンプリンに代わりの説明を頼むことにした。頼まれたプリンプリンは「任せるのじゃ!可愛い弟のためにも一肌脱いでやろうかの!」と元気良く意気込んでいた。
「という訳じゃ。引き続きわらわが話をするとしよう。修羅丸、先程も言ったことだが鬼丸は負い目を感じておった。ここまでは聞いておったな?」
ゆっくり頷く修羅丸。一言も発っさずにプリンプリンの言葉を一言一句聞き逃すまいと集中しているようだ。
「修羅丸の言いたいことは分かっておる。一体どこに負い目を感じる必要があるのかと、そう思っているのじゃろう。あの戦いでの鬼丸はゴールデンエイジの誇りじゃ。鬼丸が居なければ今のわらわ達、カノンはどうしようもない末路を辿っていたといっても過言ではない。あの戦いは誰一人として欠けてはいけないものだったとは思うが、中心となる人物は鬼丸以外にはあり得なかったと今でも思っておる。」
「なっ、言いすぎだろ…俺はずっと戦ってただけだぜ?褒められるべきはプレイヤーとかルピコとかその辺だろ。アイツらは全く関係なかったんだぞ?巻き込まれただけだったのに俺達の力になってくれて、カノンの心まで変えちまった。それによって戦況は大きく変わったし、実際あいつらの功績がなけりゃ俺がどれだけ戦ってようがジリ貧で負けてた。俺にはあんなすげぇ事できねぇよ。」
珍しく謙虚に振る舞う鬼丸。普段が普段なだけに、その様子を見て修羅丸は少し驚いていた。
「それに、柄にもなく早く倒れてくれなんて願っちまってよ…リーダーとして在るべき姿ですらない。これじゃカシラに顔向けできねぇよ……」
「!そういうことか。」
鬼丸の発言で修羅丸は全てを察した。それと同時に確かに私は鈍いと己の至らなさに嫌気がした。
「鬼丸、お前の抱いた思い、それは至って普通のものだ。そこまで己を卑下するようなことではないぞ。」
「え?…な、なに言ってんだよ兄貴。俺はカシラの意思を受け継いだゴールデンエイジのリーダーでしっかりしなくちゃ──」
「バカなことを言うな。」
冷酷に、きっぱりと言い切る修羅丸。そのバカという言葉には、先程鬼丸に言っていたものとは違って謎の温かみを秘めていた。
「お前がしっかりしていないと言うのならこの世の全ての生き物はしっかりしていないことになるぞ。何故心の中で少しでも弱音を吐いただけで情けないと思うのだ?完璧な奴など存在しない。何度でも言うが、お前のその抱いた思いは至極普通の事であり、なんの問題もないのだ。負い目を感じるほどの事ではない。どうせ自分の思ったことを私に言えば、私が説教じみた言葉を投げると思ったんだろう?心外だな。私とて物事の分別くらい出来る。だからこそお前の抱いた思いが仕方のないことだったと、そう結論付けるのも難しくないぞ。」
「へっ、へへへ……なんだよ、それ。」
半笑いで呆然とする鬼丸。笑ってしまう理由も、その場で固まってしまう理由も本人が一番理解できていた。だからこそ鬼丸は
「兄貴、ちょっとはその回りくどい言い回しをやめろ。俺だから伝わったものの、他の奴らだったら変に誤解を招くかも知れないぜ?」
その場の雰囲気を笑い飛ばすようにして──実際に本人は笑いながら冗談を言った。
「すまなかったな。私の鈍さ故に変に話が脱線してしまった。進も何を聞かされているのか分からなかっただろう。話についていけなくて不安になったかも知れないが、気にしないでくれ。」
「あ、あぁ…。」
修羅丸の謝罪に進は一言返事をするだけだった。それ以上のリアクションは特にとらず、再び真顔で次に来る話を聞こうと待ち構え始める進。明らかに異常だった。余りに元気が無さすぎるのだ。流石の3人もその異変に違和感を持ち始めるがそれでも微々たる疑問のようで、優先すべき話題があることを思い出すと直ぐ様頭の中を切り替えた。
「して修羅丸よ、結局鬼丸の話を聞いて一体どんな意味があったのじゃ?一応いっておくが、わらわもあの戦いでの期間少しではあるが早く倒れてくれと願ったことがあるぞ。対峙こそ余りしてないものの、ゼニスとの戦いは些か骨が折れるものじゃったのも記憶しておる。話を聞く限りではわらわも鬼丸と近い感想を抱いていたと思ったため報告しておくのじゃ。」
「なんだよそれっ!ねーちゃんも俺と同じって…んじゃさっきの時間マジで無駄だったじゃねぇか!」
ついでのように吐かれた情報に鬼丸は突っ込む。ただ自分が恥ずかしい思いをしただけという事実に頭を抱えた。
「そうですか、やはり姉上も…引き伸ばして言う必要もないので単刀直入に申しましょう。」
修羅丸の口から紡がれる話を聞こうと一同は今一度静まり返る。妙な緊張感が辺りを呑み込んだ。
「ゼニスには共通してある能力が備わっている。その能力とは、他のクリーチャーに比べ防御力や生命力が段違いに高くなると言ったものだ。」
「つまりゼニスの奴らは軒並みタフってことか?」
「そう捉えてもらって構わん。」
「そういえばウェディングも言っていたのだわ。ゼニスは余程の事がない限り死なない、ゼニス同士が何年も懸けて戦い続けるみたいなことじゃないとあり得ないことだって。」
修羅丸の情報を補足するかのようにカノンが続けて情報を繰り出す。
「サスペンスの場合は私達が単純に総攻撃を仕掛けたのと、戦闘力が勝っていたから葬ることができただけのため除外するが、ゼニスの力の一部にはこのような能力もあるわけだ。」
「なるほどの。じゃからわらわや鬼丸が倒れてくれと願ってしまうのは仕方のないことだと修羅丸は言っておったのじゃな。長期戦での精神の疲弊も考慮してのあの"抱いた思いは至極当然のもの"発言だったと言う訳じゃ。尤も、ゼニスにそこまでの精神攻撃を仕掛ける作戦は作れんじゃろうがな。己の能力が知らず知らずの内に相手の精神をすり減らし、結果的に勝利へと導く要因の1つとなる……感情を嫌っておるゼニスが感情に助けられるとは何とも皮肉なことじゃな。」
「それで?ゼニスの固有能力的なもんがあるってのは分かったが、それとカノンの言うエターナル・Kとなんの関係があるってんだ?」
「多分、大有りだ。少なくとも私はそう思っている。」
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの声音で鬼丸の質問に応える修羅丸。
「この固有能力、実は名称があるのだ。その名をエターナル・Ωと言う。」
「「「!?」」」
修羅丸の発言に進以外の全員が驚く。
「なっ…!?そ、その名前って、サスペンスの言うエターナル・Kってやつにそっくりじゃねぇか!」
「どういうことじゃ?分からないのじゃ。力が全く似ておらぬというのに何故名を寄せて……?サスペンスのセンスの問題か?それとも何かしらの意図が裏に隠されておるのか?」
「そう、だったのだわ。私、ウェディングと出会ったばかりの頃に教えられていたのだわ。でも……あの時の事を思い出したく無くて、考えたくなくてそこまでの事に気がつかなかった。ダメね、私…。」
2人が名称の既視感に違和感を覚えているのに対して、カノンは自信の頭の足り無さを自責してしまっていた。その言葉を聞いた進以外の3人は考察に夢中になっていることに気付く。
そうだ。今はカノンの話を聞いているのだ。恐らく件の内容はこの先にまっているのだろう。カノンの語り口を聞くにまだ序盤な筈。だから、一旦ここで能力についての話題は区切りカノンの話に集中しようと、3人はそう思った。
……だというのに、何なんだろうか。この予感は。先の内容なんて知らない筈なのに、何故か覚悟をしなければいけないような気がするこの予感は。
「考えたくない、とな。ふむ…カノン、お主無理はしておらんのか?聞きたいと頼み込んでいるのはわらわ達じゃ。もし苦しいのであれば言ってほしいのじゃ。その時は直ぐ様この話題を打ち切る。」
「ううん、それに関してはもう大丈夫。ありがとう心配してくれて。今はもう吹っ切れてるって言うか…確かに嫌な思い出だけど、全部が全部悪かったって訳じゃないから。だから気にしないで。」
「ふっ…カノン、何だか以前よりも勇ましくなったのじゃ。短い間にお主は相当成長したようじゃの。」
嬉しそうにプリンプリンが呟くと「そうかもね。」と一言カノンも言葉を返した。
「一旦この話題は中止じゃ。取り敢えずはカノンの話を聞こうではないか。」
「わかったわ。じゃあ、そろそろ本題に戻るのだわ。」
カノンの言葉で辺りの空気が張り詰める。長くなってしまったがいよいよ全てを知ることになる。そう思うと体が強張ってしまうプリンプリン。鬼丸や修羅丸も強張りはしないものの姉と同じくらいの緊張感を持っていた。
「私達は戦った。シティをサスペンスが滅茶苦茶にしてしまう前に何とか倒そうとしたのだわ。そして遂に皆と協力して致命傷となる攻撃を与えたの。でも倒れなかった。そこでサスペンスがエターナル・Kの事を喋った。それでも私達は絶望なんてせずに戦ったのだわ。」
ゴクリと誰かが唾を呑む音がした。
「でも、駄目だったの。」
「「「……!」」」
やはり、嫌な予感は的中してしまった。取り返しの付かないようなことが起きていないでほしいと願いながら次に紡がれる言葉を集中して聞き取ろうとする3人。
「一気に畳み掛けて攻撃したら復活なんて関係なく倒すことが出来るって、そう考えていたの。ルカがトドメの呪文を唱えて、私も呪文を唱えた。エレナがサスペンスを拘束して、これで終わりだって、皆思ってたのだわ。」
「…そういうことか。」
ゼニスの内情を知っている修羅丸だけがいち早く結末を予想してしまい、その残酷な結果にやりきれなさそうに小さく呟いた。
「甘かった。サスペンスは呪文を奪える能力を持っていたの。当然私達の呪文を奪ってきて、皆一瞬の内にやられてしまったのだわ。」
「そう、か…い、一応聞いときたいんだが…ウェディングは何も教えてくれなかったのか?仮にも仲間だった奴だろ?サスペンスの手の内くらい把握してそうなもんだけどな。」
歯切れの悪そうに質問する鬼丸。内容が内容なだけに明るく振る舞うことなんてできなかった。
「ウェディング、サスペンスとは昔から仲が悪かったみたいなの。何を考えているのか分からないような人に自分の力を明かす程のリスクは負えなかったんだって。その代わりウェディングもサスペンスの力を聞かされていなかったの。」
「なるほどな。確かにあの2人は絶対に相容れないか。わかった。ありがとな、続けてくれ。」
カノンの話に納得すると、鬼丸は手を引いた。
「……この後は、ね。」
居心地の悪い間が空間を支配する。今の状態ですらもう既に良い話とは思えていない3人。だが、これまでだろうとも考えていた。カノン達が負けたのは最悪中の最悪の出来事ではある。しかし、言い換えるならばもうそれ以上の不幸はないと言うことでもあった。目の前にカノンは居るのだし、何だかんだで逃げたしたかできたのだろうと誰もがそう思っていた。
「今でも……思い出したくない瞬間だったのだわ。サスペンスに跪いて、逃げる暇すらない。私だけが無傷で、でもそれ以外の皆は満身創痍。絶望するには十分な環境だった。そしたらサスペンスが言ったの。スペシャルゲストの登場だって。」
「スペシャル、ゲスト…?」
無意識にか怒りで声が震えているプリンプリン。大切な友を傷つけられた挙げ句にスペシャルゲストなどと舐めたことを言っているのだ。憤りを感じない理由はなかった。だが、その熱もすぐに冷めることとなる。
「次の瞬間、私の目の前に現れたの。その時で一番その場に居てはいけない人が。それが……隣にいる彼、白守進だったのだわ。」
「「「……!?」」」
カノンから事前に聞かされていたバイト先の先輩であるその人物。そしてこの事件の目撃者だということも。情報として伝えられていたのはそれだけだった。だからこそ3人は身震いしてしまう。どうして怖がりながらカノンに相談していた者がそこにいるのだろうと。得たいの知れない不気味さを感じていた。それと同時に理解した。この事件は普通ではない、と。