カノンが客とのトラブルにあってから暫くは仕事をしていた2人だったが、トラブル発生時にはすでに仕事が終わるまでの時間が1時間を切っていたためとくに問題なく仕事を終わらせることができた。
「2人とも!そろそろ仕事上がっていいぞー」
5時を過ぎた辺りで店長がそう声をかけてくれた
「はーいわかりましたー!よし、お~いカノン~そろそろ切り上げるぞ~」
「………………」
店長から上がってもいいと言われたのでカノンと一緒に一先ず休憩室に行こうと思い声をかけたのだが、カノンはなにか考え事をしているかのようにぼーっとしていた。
「?カノン?おーい帰るぞ~?おーい」
声が聞こえてなかったのかと思い再び話しかける進はカノンの考え込むひょうじょうをみて、まぁ無理もないかとさっきの出来事を振り返る。
(あいつ、とんでもねぇやつだったな……出禁にできてほんとによかった……)
心のなかでそんなことを思っていると
「へ?あっお、終わりですか?」
どうやらこちらの声に気づいたらしく、さっき店長と進の言っていた聞こえてなかった内容の部分をもう一度進に聞き返してくる。
「おう、おわりおわり。だから荷物とりに休憩室行こう。」
カノンはバイトが終わったことを理解し考え込むような表情をやめる。そして休憩室へと向かう途中
「店長さん!お疲れさまでした~」
「あぁ、お疲れな~カノンちゃん!ありがとうな~」
とお互い労いの言葉を交わし職場をあとにするのだった。
荷物をとり帰ろうとしていた進はふとカノンへ先程の事件の説明をしてなかったことを思いだし、同じく荷物を手に取り帰ろうとしているカノンへと声をかける。
「なぁ、カノン。さっきの事なんだけど……」
「……はい。どうしました?」
心なしかカノンの声がいつもより暗く聞こえてくる。進はさっきの事件、男を出禁にした辺りからとくに元気がなくなっていることから思ったことを口に出す。
「も、もしかして……俺がさっきの奴出禁にしちゃったの、怒ってます……かね…?」
それに対しカノンは目を伏せながら、少し間を空けてしぶしぶ話し始める。
「いやっ別に怒っている、わけじゃないです……」
怒ってないとは言ったものの、何か引っ掛かると言った声音に進も同調して話を進めた。
「わかるよその気持ち。俺も出禁なんてあまりしたくはないし改心するならもう一度チャンスをあげたいとも思っているしな。」
「えっ?な、ならなんで……?」
そこまで話して進はさっき約束したあとですると言った説明を開始する。
「カノン奴はな、ここを何度も潰そうとした店長のライバル店の回し者だ。」
「回し、者……?つ、潰そうとした?」
予想のできなかった回答にひどく混乱するカノン。それを傍目に進は説明を続けた。
「あぁ、そうだ。潰そうとしたんだ。ありとあらゆる手を使ってな。」
「なんで……そんなことっ」
当然の疑問を抱くカノン。カノンは理解できなかった。どうして?何故そこまでして?なんでそんなひどいことができるのか?頭の中で様々な考えが交差する。しかし、わかったことなど何一つとしてなかった。
「話せば長くなるんだが……聞いてくれるか?」
「…………もちろんです!店長さんもなにか知っている様子でしたし………何より、私も知っておきたいです!一体なにが起きていたのかを。だから……説明、お願いしますね?先輩?」
覚悟はできたようだった。それを察した進は再び説明へと戻っていく。
「実はな、この店は昔は人気のある普通の喫茶店だったんだ。それもこんな目立たないような場所にあるんじゃなくて、誰もが目にすることができる広い場所にあったんだよ。けどな、ある日やけにプライドの高い奴にな、勝負事を持ちかけられたんだ。どっちの方が多くコーヒーを売ることができるかって。そいつもそいつで中々に腕か立つらしく、店長も味は認めているくらいだった。」
「なるほど……でもここまででなにかしらの不審な点というのは見当たりませんね。一体なにが……」
話の見えてこないカノンが思ったことを口にだす。
「だよな。別に何かあるわけでもないから店長自身も腕試し的な感じで快くその勝負を受けたんだよ。それがダメだった。結果は店長が僅差で勝利。ソイツはすごい悔しがってたらしい。ここまではなにも問題ないんだけどな?後日事件は起きたんだ。」
「じ、事件……ですか…?」
不穏な空気が流れる
「そう事件。勝負事の次の日だった。いつも通り仕事をしていた店長だったんだがいきなり店内に黒いスーツの男が入ってきたんだ。そしてこう言った。『今日からこの店、及び土地の所有権は壊白(かいしろ)様の物だ!』てな。」
「そんなっ……どうしてそんなことを……!」
「勿論店長は抗議した。こんなの認められない、何故あいつのものになるんだって。でも結局、店長は店追い出されてその店で壊白が喫茶店を経営し始めたんだ。丁寧にリニューアルという形でな。人気があった喫茶店がいきなりなくなるなんて変だと思われるだろ?だから表では移店するってことにされた。店長はもう一度同じ広場で店を開こうと思ったんだが、何故か店長が契約する際に自身の名前をだすとことごとく土地の購入を拒否されたんだ。だから店を開くことができなかった。次第に金もなくなってきて小さな店でもいいから開こうということで、こんな目立たないような場所に店を開いて今に至るってわけだ。」
進の説明が終わった。それと同時にカノンは疑問に思ったことをすぐに口にする。
「そんなことが……でも、その話とさっきの事件となにが関係あるんですか?だってもうその土地での経営はしていないし……邪魔になるようでもないと思うんですけど……」
「そう!そこなんだよ!それがさ、俺がここで働くことになったその翌日!今日みたいなことが起こったんだよなー」
「え!?きょ、今日みたいなこと?それってさっきの人が変な言いがかりで迷惑をかけたってこと、ですか?」
「そうそう。んで、俺もカノンみたいな感じになっちゃってさ。結局店長呼んで助けてもらったんだけど、そんときに店長が怒鳴りに怒鳴りまくってさ、次はもうないぞっ!て言って追い出したんだよ。だから、もう来ないとおもってたんだがなぁ。その後、店長にあれはなんなのかって聞いたらさっき話したようなことを聞かされたんだよ。」
進自信もカノンと同じような体験をしていることに多少驚きながらもカノンが反応を返す。
「先輩も被害に……でもさっきも言った邪魔をする理由、というものには繋がらないんじゃ……」
そこまで言っていたカノンの話を進が静止する。
「いや、店長が言うには、店長がまた喫茶店を経営し始めたことが壊白にばれたらしく、性懲りもなくまた店を潰そうとし部下を雇ってたまに嫌がらせをしてくるらしいんだ。それはもう、俺がくる前からあったことなんだ。」
「何故そこまでして潰したいんですか……」
「どうもそいつ、プライドがホントに高いらしくて負けたときの屈辱を果たしたくてしてるっぽいんだよな。された嫌がらせを聞くと、なんかどれもこれも店長が誇りにおもってることを傷つけるものしかなくってな。ほんと、ひどい話だよ。」
「なるほど、だからさっきの男の人も砂糖をあんなに頼んで来たんだ……」
ここまでの話を聞きやっとカノンは今回の事件の詳細を理解できたようだ。しかし、謎も多くのこっていた。
「でも、土地の所有権や、広場の契約ができなかったのは何故なんでしょうか?そんなことを壊白ができるとはおもえませんし……」
「それが、さっぱりなんだよなー。なんでそんなことができるのか、店長もわからないらしいし。」
「店長さんでもわからないんですか……」
ここまで話していて進が、ふと時間をみると話し始めて30分ほど立っておりそろそろ帰ろうと休憩室の出入り口へと赴く。そしてカノンの方へ振り返り最後に一言といったようなかんじで話し始める。
「まぁ、多分もう来ないとおもうけど一応カノンも今後は気を付けてな。怪しいやつがいたら俺か店長に知らせてくれ。あっ言い忘れてたけどあいつを出禁にした理由は壊白に対する見せしめでもあるんだ。もう許さないぞっていうな。そんなことだからじゃあなカノン!今日はゆっくり休めよ!」
「はい!先輩もお疲れさまでした!」
そう言って進は部屋を出てしまった。そしてカノンも帰ろうと思ったのだが
「あ、先輩に助けてもらったのにお礼してない!それにまだ言いたいことがあるし、ありがとうくらいは言わなきゃなのだわ!ま、まってくださいせんば~い!」
まだお礼を言っていなかったカノンは進へ感謝のお礼を言うため急いで外へと出るのだった。
カノンが急いで出るとまだ遠くには行ってなかったようですぐに進は見つかった。急いで進そばへと駆け寄るとカノンは進を大きな声で呼ぶ。
「せ、先輩ー!ちょ、ちょっと待ってくださ~い!」
「?…カノン?ど、どうしたんだよ?そんな必死に走ってきて?」
進は困惑したような眼差しでカノンを見つめる。そんな彼の顔を見ながらカノンはおじきをしながら
「さ、さっきは助けてくれてありがとうございました!」
そんな言葉を聞いて進は目を丸くした。そんなことのためにここまで必死に走ってきたカノンのことを想像すると少し笑みがこぼれてしまう。
「いや、いいっていいって。俺もおんなじようなことされたからちょっとムカついてやっただけだし。でも、守れてたんならよかっ」
よかったと言いかけたその時、進の声に合わせるようにカノンがしゃべり始める。
「でもっ」
「?」
一体なんだろうと思い言いかけた言葉をすんでのところでおさえ話を聞こうとする。しかし、その口から放たれた言葉は、想像以上のものだった。
「今回の事件っ私がもう少し上手く対応していれば、あそこまで大きくならなかったと思います。上手くできていれば出禁なんてことももしかしたらなかったかもしれません。これは私の失敗です。なので……すいませんでした!」
どういうことなのか理解するのに少しの時間を要した進は、少しの間固まってしまった。どうしてカノンが謝る必要があるのだろうか?明らかにこの事件の悪い人物は男がわの方であろう事は火を見るよりも明らかである。カノンが謝る姿を見るのは少し胸くそ悪かったので、フォローしようと試みる。
「え?い、いやカノンが謝る必要なんてないと思うけどなぁ。別に出禁だって俺が対応しに行った時点でするって決めてたし、そこまで深刻に考える必要ないって。」
しかしカノンは引き下がることなく、言葉を並べ話し始める。
「いや、私がもっと上手く…もっと上手くできていたらきっともっと穏便に事を受け流せたはずです。わたしの……わたしのせいで、もしお店に来てくれるお客が来なくなったりしたら……そう考えると、きっと私は失敗してしまっているのだからちゃんと謝らないとって思って……!」
そこまで言ってカノンは黙ってしまった。進は理解する。そうだ、俺は確かにカノンを助けはした。しかし、カノン自身、カノンが上手く事をおさめることができていたのならば俺がでなくても平和に終わって、出禁もなかったも知れない。そんなもしもが頭の中で回って、回って、ずっと不安だったんだろう。だから、俺にも迷惑をかけたと思っているんだろう。だが今回は状況が違う。確かに普通の迷惑客であれば上手く立ち回れば穏便にすむこともある。しかし今回はそんな迷惑客ではないのだ。なのにそれを失敗と言っている。
それは、違うだろう。
ならばやることはひとつ。カノンは悪くないし俺もそんなことは気にしてないと伝えて上げよう。それでカノンは安心してくれるといいな。
「カノン」
「はっはい?」
次からは気を付けてくれ、何て言われると思っていたのかはたまた怒られると思っていたのか、カノンは若干震えていたが進が自身の名前を読んだことで困惑の声を上げる。
「カノン、あのな今回の事をお前はなんにも悪くないと思っているぞ。少なくとも俺は、な。」
「へ?で、でも……これは私のせいでこうなって………」
「ちがう!」
「ッ…………!」
つい声をだしてしまったが話を続ける
「カノンは被害者だ。だってこんな事情誰が知ってるんだ?それに知ってたところで、問題になる事は避けられない。カノンは確かにバイトを始めたばっかりで分からないところもあると思う。けど今回ばっかりは失敗なんかでは絶対にない!俺が保証する!」
そんなことをいわれるとおもってなかったのか、カノンは目を見開きとても驚いているようだった。
「でも、だってこ、これは、私が注文を取って、き、機嫌も悪くしちゃって、そこに先輩が来て助けてくれたってだけで……機嫌悪くしたのは私だし…やっぱり対応のしかたが……」
「カノン!それは、違う。違うぞ。」
「ち、違うってなにが……」
「失敗っていうのはな、俺みたいに注文内容を間違ったり、誤ってカップを落として割ったり、そんなことを失敗っていうんだ。カノンのは失敗じゃない。しょうがなかった。ただそれだけなんだよ。」
「で、もっでも!だって…私は……」
ここまで言ってもダメなのか?一体なにに拘っているんだ?流石に俺も我慢出来なくなってきたぞ。とにかくカノンは悪くないこれを分かってほしいだけなんだ。ここは1歩踏み込むしかないか。
「なぁカノン。いったい何をお前がそうさせるんだ?そこまで思い詰める必要があるのか?流石にそこまでいわれたら俺も……」
ここまで発言した俺の言葉を聞いてカノンの目がより一層罪悪感にとらわれたものへと変化していく。
「私、は……つ、償いを……皆に、デュエマシティに掛けため、迷惑を……償いを……しなきゃいけないのに………………!」
何かを小声で呟いているがよく聞こえない。ただ償いをしなきゃ、という言葉が聞こえたところでいつに限界を向かえてしまった。
「さすがに、悲しいよ。俺。」
「……ぇ?」
泣きそうになっているカノンを見つめ言葉を紡ぐ
「俺カノンが怒鳴られてたときさ、何故かわからないけどすごく助けなきゃって思ったんだ。最初は怖かったさ。けど途中から怒りが恐怖をこえててさ、とにかく助けたくなったんだよお前を。」
「ッ!」
「お礼を言われたくて助けたわけじゃないけどさ、俺も結構怖かったし、そこまでして助けた結果ごめんなさいってのはちょっと悲しいかなってそうおもったんだ。いや、ごめんね。こんな話し方だと、逆に考えてみてお礼がほしいって言ってるようなものか。」
「…………」
「まぁ、だから、さ。とにかくあんまり自分を卑下しないでほしいな。カノンが悪いと思ってても俺は悪いと思ってないから。それだけ言いたかった。」
ここまで話してカノンはうつむいたまま暫く気まづい時間が過ぎていく。
「…………」
「…………」
いよいよここにいるのが辛くなってきて進が帰ろうとし、振り返ったその時
「せ、先輩!」
「……!」
カノンが背中に抱きつく。そして言葉を紡ぐカノン。
「そのっ!わ、私……先輩が戦っているとき、とっても不安だったんです………負けたらどうしようって。せっかく働いてきたのにそれがなくなっちゃうなんてって……それは全部上手く対応できなかったの私のせい……私のせいで先輩が辞めるかもしれないって思うと……もう心が張り裂けそうで……!」
「……うん」
泣きそうな声音で話すカノンの話を静かに聞く進
「でも、先輩は気にしてないって、そう言ってくれて……!けど私は、償わなきゃいけないのに……逆に気を遣わせてしまって……私は、もしかしたら邪魔なのかもって不安になって……!」
「…………」
「…………けど」
今まですぐにでも泣きそうな声音だったカノンの雰囲気が変わるのを感じた。きっと自分の中でも結論が決まったのだろう。それをよく聞こうと、進はそう思った。
「先輩は、本当に本当に私の事を気にしてなんてなくて、しょうがないことだったんだっていってくれた。私は逃げてたんです。自分で何とかしようと必死になって、先輩の助けが勝手に罪悪感としてのし掛かってきて、自分でどうにかしないといけないのに誰かに迷惑かけてどうするんだって……!そうやって先輩の優しさから逃げていた…!」
「……そうか」
「でも、先輩が助けたのにあやまられてばっかりで悲しいって言っているのを聞いて、気づいたんです。何て失礼なことをしていたんだって。」
やっと、わかってくれたようだ。俺の言いたいことが。
「だから……先輩!そのっ……」
そう言ってカノンは抱きついた手を離し、進の前まで移動してきて顔を見つめながらこう言った。
「先輩っ!私を助けてくれて、ありがとう、なのだわ!」
「……!……………あぁ!どういたしまして!」
その時にみたカノンの笑顔は今まで見てきたどの笑顔よりも特に可愛くて美しく光っているように見えた。
一応設定としては迷惑をかけた皆のためにデュエマシティでバイトをしてるってことになっていますが違和感ありますかね?そこら辺も感想ください