「ルカさん!おはようございます!」
「あら、ルピコ。おはよう。朝から元気がいいわね。」
「えへへ、私の取り柄は元気なとこですから!……なんちゃって。」
「ふふっ、そうね。」
デュエマシティのとある場所にて。そこで、微笑ましいやり取りが繰り広げられていた。闇の守護者ルカにナビーゲーターのルピコ。側にはプレイヤーもいる。その他にも、カイト、グレン、チュリン、エレナとよく見る顔馴染みの面子が揃っていた。
ここはカイトの研究所である。何故このメンバーが集まっているのか。その理由は、一昨日一同がカイトに突然呼び出しをくらったという、只それだけの事だった。
「皆良く来てくれたね。」
「まぁ、最近平和だったしな。丁度暇してた所だからなんて事ねぇよ。」
「そうだね~。」
グレンの言う通り、最近のデュエマシティは比較的平和である。特に大きな事件も起きなければ、面倒事を起こすクリーチャーも居なかった。
「早速だが、本題に移させてもらってもいいかい?」
「えぇ、早く聞かせて頂戴。」
カイトの表情が若干曇った気がした。気のせいだろうと思いたい一同は嫌な予感がしつつも、次の言葉を待った。
「落ち着いて聞いてくれ……近い未来、シティで災厄が降りかかるかもしれない。それも、世界が滅びるレベルだ。」
「「「「「!?」」」」」
突拍子のない情報に驚愕する一同。カイトも少し冷や汗をかきながら話を続けた。
「僕のパートナーであるキリコのことは知っているね?キリコは当然人間ではなくクリーチャーだ。その中でも、キリコには特別な力があった。それが未来を演算する能力だ。」
「まさかっ…その力で災厄が来ることを予知して……?」
「それがな……わからないんだ。」
「えっ?」
すっとんきょうな声を上げるルピコ。
「おいおい、話が見えてこないぜ。つまりどういう事なんだ。なんでわかんねぇことをそんな確信めいたかのように言えるんだ?」
全員が思った疑問をグレンが代弁する。すると、難しそうな表情を浮かべながらカイトは口を開いた。
「少し難しい話をしよう。まず大前提として、キリコは大雑把だが未来を演算し知ることができる。ここまではいいな?」
「ええ。」
相槌を打つルカ。その声には幾分かの緊張感が走っているように感じた。
「省略するが、この未来演算システムはこの世の流れ……所謂因果を読み解いた上に成り立っているんだ。因みに因果とは、原因と結果の関係のことを意味している。」
「???」
グレンが頭をかきながら話を聞いていた。それを見たカイトがもう少し詳しく説明をすることにする。
「分かりやすく言うならば……例えば僕が一枚の紙を持っていたとしよう。それを持ち上げ、そして手放した。するとどうなる?」
「そりゃ落ちるに決まってるだろ。」
「そうだな。じゃあその紙が落ちた理由、もとい原因は一体何なのか分かるかい?」
「紙をカイトが手放したからだな。……あーなるほど、原因と結果の関係ってそういうことか。原因があるから結果が起こるみたいな、そんなところか?」
「ああ、分かってもらえたようで何よりだ。」
「お、合ってたのか。まぁこんな所でお前らの足引っ張れねぇからな。」
何とかグレンの理解を得るのに成功したカイト。これで漸く大本の話題へと切り替えることができる。そうしてカイトは再び言葉を紡ぎ始めた。
「キリコはあらゆる可能性を計算し、その中で最も確率の高かった未来を取捨選択してきた。大雑把な未来までしか予測できないが、それでも外れたことは殆どなかったらしい。外れるとしたならそれは、キリコ自らが変えようと行動した時のみに該当するだろう。それくらい優れた能力なんだ。」
「ふぅん、でも何か引っ掛かるわね。災厄が来るんでしょう?恐らくその未来予知もキリコの力あっての情報の筈。ならなぜ分からないなんて曖昧な物言いだったのかしら。」
「そこがこの話の肝だ。僕が災厄の話を聞かされた時、キリコは妙なことを話していた。」
思い出すはあの状況だった。切羽詰まった様子のキリコに酷く動揺したのを覚えている。
「キリコ曰く、元々災厄が来ることは遠い昔既に予知していたらしい。その災厄に備えるために今の今まで裏でコツコツと準備をしていた。それに来る未来の予測も今に至るまでに時々していたんだ。だが何をしても未来が変わることは決してなく、月日は流れて行くばかり。」
「そんな……!」
「しかし、その時異変が突然起きた。」
「異変、ですか…?」
エレナが若干声を震わせながら問いかける。恐怖というよりかは、これから起きてしまうかもしれない被害に対して行き場のない感情を我慢している所から来るものだろう。
「それが……突然キリコが全く未来を予測できなくなってしまったんだ。いや、演算できなくなったと言う方が正しいか。」
「なんですって…!?」
「…一体どうしてですか?」
ルピコが尤もな質問を繰り出す。その問いに対しカイトは
「それが何とも……まだ全容は分かっていないんだ。分かることがあるとするならば…近いうちに災厄が来る確率が今から、恐ろしく高くなるということだけだ。」
辺りがしんと静まり返った。世界が滅ぶレベルの災厄。それが回避しようのない未来だときた。言葉が出なくなるのも当然だろう。
「あ、あの!」
「どうしたんだい、ルピコ。」
「その、カイトさんは先ほど因果のお話をされていましたよね?きっと何か関係があると思うのですが……その未来というのは、ちゃんとそうなってしまう原因があるんですか?もし原因があるなら、早く何とかしないといけませんよね!?」
ルピコは藁にも縋る気持ちでカイトに訪ねる。しかし、帰ってきた言葉は酷く無情なものだった。
「確かに、さっき僕が話した理論通りに行くのなら災厄のある未来を回避する方法もあるんだろう。」
「…だろう、だって?」
ピクリと、グレンの顳顬が動く。
「……残念だが、回避する方法はない。」
「っ!嫌な、予感はしていましたが…」
「カイトの口から聞くと説得力がありすぎてキツいなー……」
エレナとチュリンも深刻な状況を改めて理解し落ち込んでいた。
「理屈も何もない、滅茶苦茶な理由なんだが…キリコによると、その災厄は如何なる未来の改変、因果の流れを変えようと意味がないらしいんだ。災厄はどんな状況でも絶対に来る。これは変えられない未来として既に確定しているんだよ。」
「じゃ、じゃあ一体どうすりゃいいってんだよ!世界が滅ぶレベルの災厄って、そんなの俺たちに対処できるのか!?お前に限って、まさか何の算段もなく俺たちにこの事を伝えるためだけに集めたなんて訳じゃねぇんだろ?」
「…すまない。まだ打てる手立ては無い。一応、今もキリコがどうにかできないか計算しているんだが……」
グレンから目を反らし辛そうにそう告げるカイト。
「…わりぃ、少し取り乱した。いきなり世界が滅ぶって言われたら、いても立っても要られなくなっちまってな……」
「グレンさんがあんなに焦るなんて…」
「しょうがないよ。グレンはこの街が大好きなんだから。気持ちが先に行き過ぎるのは僕も分かるな。今だって、黙ってなんていられないのを僕も必死に我慢してるんだしさ。」
「チュリンさん……」
突然の事に気が動転してしまうのは生物であれば何者でも起こり得ることだ。守護者とて完璧な存在ではない。人並みに泣くこともあるし怒ることもある。それが世界滅亡となれば尚更だ。ルピコはプレイヤーの顔色を確認してみる。するとやはりと言うべきか、ルピコは今まで以上に険しい表情を目にすることとなった。
「確定している、か。…………?ねぇ、カイト。その話ちょっといいかしら?」
「あぁ、構わないよ。」
「じゃあ言わせてもらうけれど…何故、災厄の来る可能性が今から高まると言ったのかしら?」
「それは……どういう意味だ?」
「言葉通りの意味よ。加えて言うのだとしたら……どうして未来を観測できなくなってしまっただけでそこまでの事が分かるのかが気になるってとこかしら。」
「成る程、確かにそうですね。カイトさんは余り曖昧な事を仰られません。何時かの非常事態でも、私たちには可能性を示唆し警告してくれるだけで言い切ることはしませんし、このような状況においてのカイトさんは粘り強く、誰よりも諦めず最後まで足掻ける可能性を探し続けます。なのに今回は確かに災厄が"来る"と……そう仰っていました。」
ルカの疑問提議、エレナの鋭い指摘にカイトは動揺することなく、寧ろ待っていたと言わんばかりの勢いで口を開いた。
「さっきも言ったが、キリコは度々災厄の未来予知、いやこの場合は予測か…をしてきた。何度演算し、何度別パターンで未来を歩ませても変わることはなかった。そこでキリコは結論付けたんだ。災厄は、未来を固定することができるとね。勿論、仮説にすぎないからまだ分からない。しかし、キリコほどのクリーチャーがそう言うんだ。経験や場数の違いからしても、キリコの言葉は信用するに値する。」
「そうね。貴方の言う通りよ。私達はキリコやカイトのように頭が良い訳ではない。貴方にしか分からないことも沢山あるでしょう。でも、それでも可笑しいと思わざるを得ない部分が合ったのも事実。幾らキリコの言うことの方が正しい可能性が高いにしても、未来を演算出来なくなってしまったのよ?確実に当たっていた未来予知が、しかも大雑把にしかできない予知の力を同じ場面で何度も何度も試していたものが、変わらない場面を何回も見てきたというのに突然できなくなるなんてあり得るのかしら。もしかすると、未来が予知できないというのは、まだまだ何とかできるかもしれないという意味を標している可能性もあるんじゃないの?」
ルカの考察を飲み込めている者は半々に分かれていた。ルピコとエレナは理解できたが、グレンとチュリン、プレイヤーは微妙な表情を浮かべている。
「それに関しては何とも言えないね。できなくなったのは災厄の力のせいかもしれないし、もしかしたら本当に何とかできる可能性を示唆しているのかもしれない。はたまた別の理由があるかだが。だから、ここからはもしもの話になってくる。頭が痛くなるかもしれないが、付き合ってくれないか?」
カイトの言葉に一同は力強く頷いた。
「確かに、どうにかできる可能性もあるかもしれない。だが、僕はキリコを信じようと思うんだ。ここにきてキリコが可能性の低い話を僕にするとは考えにくい。それに、キリコは大切なパートナーだしね。その上で聞いてほしいんだが、信じたくはないが、仮に災厄の能力が未来を固定することにあるとした場合、なぜ確定した未来なのにも関わらず未来を演算できなくなってしまったのか。僕なりの結論から言うと……確定した未来に行き着くまでの間、つまり過程の因果が崩れ去ってしまったからではないかと考えたんだ。」
「過程の因果、ですか?」
「あぁ。結果を予測するには過程が必要不可欠だ。手に持っていた紙がいつの間にか地面に落ちていた何て事はあり得ない。そこにはそうなるに至った過程が必ずあり、そして発生した原因から起こり得る過程を何万通りと予測しなければ結果は導き出せない。では、その過程が崩れ去ってしまったなら………」
「結論は、導き出せない…?」
「そうだ。結論が導き出せないのなら未来予知もなにも無いだろう。ということはだ、キリコが未来を見れなくなった理由は……個としての限界といった所なんじゃないかと、そう思ったわけだ。それに、災厄の来ない未来になったのだとしたら尚更見れなくなるのは可笑しいだろう?確実に災厄は我々に近付いている。恐らくな。」
「………有り難う。未来には納得できないけれど、理屈は納得できたわ。はぁ…やっと最近平和になってきたと思ったのにね。」
ルカのため息が木霊する。今回のため息は本当に呆れていそうなものだった。
「どうにかしようとは思ってるんだが如何せん方法が分からなくてね。まだ模索している所なんだ。何しろ未来の話だ。この世の全生命体が知らない世界の話なんて、対処のしようがない。あのキリコでさえ、視ているのは飽くまで演算上の架空の未来なんだよ。」
「ってことは、僕たちにその話をしたのはその災厄の対処法を考えてほしいんじゃなくて、もしかしていつ来るか分からない災厄に備えててほしいから話したってこと?」
「まぁ、そんなところだ。黙っておくよりずっと良いだろうしね。」
「成る程……そういうことだったんですね。」
ルピコが今回の集会の目的を理解し深く頷いた。
「んだよ、そういうことか。早く言ってくれりゃ良いのによ。任せとけ、只でさえ最近守護者としての面子が立たねぇと痛感してた所だ。油断せず常に警戒しておくぜ。」
「私も気を付けておくわ。何かあったらすぐに連絡するわね。」
「カイトさん、貴重な情報感謝します。私もできるだけのことをしてみます。何かあった時用の準備など、そういった作業をしておきましょう。」
「警戒は得意分野だよ!森で育った危機管理能力?防衛本能?を存分に生かしてみるよー。」
「わ、私達もできることは少ないですが、頑張って市民の皆さんを守って見せます!」
一同の思いが強く重なった。心強い仲間にカイトは胸が熱くなるのを感じた。それと同時に、カイトもまた心にも火がより一層強く灯された。
「あぁ、有り難う皆。頼もしいものだな。期待、しても良いんだろう?」
「へっ、あたりめーじゃねぇか。俺らの実力はお前がよく知ってるだろ。」
「フッ、それもそうだな。」
グレンの一言にカイトは小さく笑った。
「よし、今日はいきなり呼び集めて悪かった。今後何か起きたり分かったりしたことがあったら直ぐに報告してくれ。では、解散だ。」
こうして会議も終わり、今日も今日とてシティは1日が流れ過ぎて行く────
「……そうだったわ。」
──各々が帰るべき場所へと歩を進めようとしていた一同の動きを、ルカの声が引き留めた。
「あぁ、ごめんなさい。別にさっきの話と関係ある訳じゃないわ。」
注目を集めるルカが弁明する。それを聞いたカイトが純粋に
「どうかしたのかい、ルカ?何か聞きたいことでも?」
と問いかけた。それに対し、ルカは何処か話辛そうにしながら言葉を紡いだ。
「その、こんな時に聞くべきじゃないのかもしれないけれどどうしても気になったから聞くわ。それに、皆も疑問に思っていた事だと思うしね。」
「私達も疑問に思った事……ですか?」
「ふむ、一体どんなことなんだ?」
ルピコが不思議そうな表情でルカを見つめている。カイトも興味深そうに訪ねていた。
「カイト…貴方、唯さんが初めて私達の前に顔を出してくれた時の事覚えている?」
「あ、あぁ。勿論だ。」
話の出だし時点で、何故かカイトの反応がぎこちなくなる。ルカ以外の者は違和感を抱くも、水を差すようなことはしなかった。
「単刀直入に言うわ。貴方、あの時何故───」
唯さんの事を、養母として紹介しなかったのかしら?
「…ん。あれ、私……?隣に誰かい…!?す、進!?」
「おや、目が覚めたようですよ。」
「あら、おはようカノンちゃん。」
唯とウェディングが目に入るカノン。咄嗟に離れてしまった進の肩に、頭を預けていた感覚が五臓六腑に染み渡っているカノンは、未だ止むことの知らぬ心臓の鼓動を胸に押さえながら少々刺激的な脳の覚醒を体験する。
「にしても、進は何時まで寝てるつもりかしら。こーんなに可愛い子と一緒に居るのに。」
「か、可愛いだなんてそんな…」
(あらーデレデレしちゃってー!カノンちゃんってもしかして表に出やすいタイプかしら?)
寝起きの事といい唯の言葉といい心臓に悪いことばかり連続して起きるので、カノンは顔を赤くしてしまっていた。進が見れば失神級に可愛い反応である。
(そういえば今どこら辺なのかな)
ふとそんなことが頭に過るカノン。そうして窓の外の景色を一望しようと顔を横に向ける。そこには
「っ!?わあぁ~~!!」
大海原と真っ赤な夕日があった。光が水面に反射し、まるで天国のような神々しさすら感じる。
「すごいです!私、こんな素敵な景色初めて見ました!」
「ふっ、やはりカノンも驚きましたか。私もここまで壮大な景色は久しぶりに見たので衝撃がすごかったですよ。」
「そうでしょ?ここの海岸沿い道路は丁度今みたいな時間帯になると海がよく見えるようになってるのよ。太陽光の位置とかも調整してね。」
「うわぁ……綺麗…」
余りの景色に圧巻されるカノン。ここに来るまでにも沢山のものを見てきたが、この景色はそのなかでもピカイチのものだった。
「窓、開けましょうか。空気の入れ換えをしたいし。ちょっと寒いけど我慢してね。」
そう言って唯は四方の窓を下げ始めた。軈て窓は全体の三分のニを隠したところまで下がったり、停止する。瞬間、カノンの鼻の奥を潮の匂いが刺激した。自然豊かな森とはまた違う新鮮な空気にカノンは興奮を隠せない。
「これが…これがこの世界の海かぁ…!何だか、デュエマシティに居たときとはまるで違う気分になりますね。」
「そりゃーそうよ。ここからシティはかなり遠いし、土地だって全然在り方が違うもの。多分、カノンちゃんが初めてこの世界に来た時もそんな感覚だったんじゃないかしら?」
「はい…確かに、あの時の衝撃に似ているような気がします。ここはいい場所ですね、唯さんっ!」
「うふふっ、気に入ってもらえたなら嬉しいわ。それでこそ連れてきた甲斐があったってものよ。」
カノンは一瞬でこの場所の虜になってしまった。心を奪われたと言ってもいいだろう。それくらい、今の景色は素晴らしいものだった。
──ここは、進が唯に育てられた故郷と言うべき土地だ。
シティに比べかなり田舎なのだが、その分海の幸や山の幸取り放題、ここにしかない観光スポットの充実など、都会の要素だけでは補いきれないほどに穴場の多いスポットだった。
「あ、カノンちゃん。そろそろ着くから進の事起こしてもらえるかしら?」
「え、あっはい!」
「ごめんねぇ、手間かけさせちゃって。ほんと、この子車の中だとかなり寝るからねぇ。」
「ふふっ、大丈夫ですよ。それに、私もこの間似たような経験をしましたしね。」
困ったように呟く唯に、思わず笑ってしまうカノン。唯の微笑ましい悩みと、進の可愛らしい一面を垣間見たカノンは高い満足感を得ていた。
「ねぇねぇ進っ!すーすーむ!おーきーてっ!おーい!」
ゆさゆさと肩をつかみ揺さぶるカノン。そして、時は突然訪れた。
「ん……ふぁぁぁ……」
進がゆっくりとその重い眼を開け、起床した。しかし、その後に待ち受けていたのは、誰しもが思いもよらぬ開口一番の言葉だった。
「……あれ?メイドのカノンは…?」
「「「!?」」」
それは寝ぼけて言うには余りにも健気で、そしてカノンにとってのとてつもない爆弾発言だった。
「んー…………あれ?ここは……」
「あ、あっ…進のばかぁぁぁ!!」
「うおぉぉ!?!?」
顔を真っ赤にしたカノンが進の胸板をぽかぽか叩いてくる。進は、寝起き直後の出来事だったために声を上げて驚いていた。
「どうしてよりによって唯さんの目の前で言っちゃったのよぉ…うぅ……」
「…あ。」
「あ、じゃないのだわぁ!」
「……あー、ウェディングさん?カノンちゃんって結構穏やかな子だと思ってたんだけど、意外と表情豊かなだったりする?」
「どう…なんでしょう。穏やかというのはその通りですが、感情の起伏が激しいかといわれるとそうでもないと私は思っていますが…いや、しかし最近はそうでもなかったですね。確かに表情の変化は目まぐるしく変わっていた印象があります。ふむ……難しい問いですね。」
「成る程ねぇ…」(しまった!ウェディングさんは感情がないんだった!聞く人間違えたわ!ウェディングさんまで悩ませてどうするのよ、私!)
二人にバレないよう密かに会話をする唯とウェディング。初対面時を除いて、カノンのイメージは穏やかなものと認識していた唯が気になり質問をしたのだが、した相手がした相手だったので気を遣って納得した素振りを見せるしかなかった。それによりウェディングの思考回数も減ったら良いのだが。
「そのー、カノンちゃん?私あまりそういったものは気にしないから大丈夫よ?寧ろメイド服なんてカノンちゃんにすごく似合いそうで良いじゃない!恥ずかしがることなんて無いわ。」
「うぅ……止めてください…私あの時の事思い出すと、ほんとにっ、ほんとにっ!あ、あぁー!!」
「えぇー…?進、あんた一体カノンちゃんと何したのよ…」
「多分話したらトドメを刺す事になるから教えない。」
神妙な表情を浮かべる進に、唯は何となくだが二人にとって禁忌のような話題なのだと察した。
発端は、例の作戦を行った翌日だった。カノンは改めて己の行った行動を思い返し、見事に黒歴史を生成したと、そう自覚したのだ。黒歴史といっても、進と過ごした時間が悪かったかといわれるとそうではない。単純に、カノンはウブなだけだった。だが、それ故にダメージも大きく、何より好きな人の前で半端な猫の真似事をしたという事実が黒歴史を黒歴史たらしめてしまっていたのだ。
これを断片的ではあるが唯に知られてしまった。彼氏の親にだ。もう一度言おう、彼氏の親にだッッ!!!カノンのような反応になるのも理解できるだろう。今のカノンは、可哀想と云う他なかった。おいたわしや、カノンである。
と、そうこうしている間にも着実に目的地に近付いている。進たちは、いよいよ旅館に泊まることになるのだ。そんな未来も、あと少しで訪れる。
白守進に関してのメモその2
進の故郷は白守家が支配している