どこまでも続いている線路。それは新たな旅路を示しているのか、それとも元居た故郷への帰郷を示しているのか。人によってその見方は真っ二つに分かれることだろう。
ある駅に三の影があった。一人は巨大な女性、二人は小柄だがどこか力強さを感じさせる少女、三人は何処か切なく見える少年。誰かの主観という訳ではなく、客観的に見た事実を述べている。その前述の表記に伴うその人物とは───
「おっ、来た来た。この線の電車に乗れば良い筈だ。」
「…早い、ですね。人間の科学力には心底驚かされます。」
「すごーい!此ならあっという間にシティに着くかも知れないのだわ。」
白守進、「祝」の頂ウェディング、無垢の守護者カノンであった。
現在三人は、白守豊子の運営する山海峡行 癒白庭から離れ地元の駅へと訪れていた。心配性の唯に色々と言われたが、耳が痛くなるので正直話し半分でしか聞いていない。だが、そこにある愛は確実なもので、確かに感じとることはできた。
時刻は正午過ぎ。このまま行けば恐らく五時間後にはシティに着くだろう。
「うおー…スッカスカだな。」
電車内へと足を踏み入れた矢先、進がそんなことを呟く。
「やっぱもっと地元PRとかした方が良いんじゃねぇのかな。」
ポロッと溢した愚痴には、その地域に住んでいる人にしか分からないような思いが見て取れた。その言葉にカノンが「今度、シティで紹介するのもありなんじゃないかしら。」と何か参考になればと考えたことをそのまま口にしていた。
「んしょっと…ハァ~……なんか疲れたなぁ。」
座席に座るや否や、自身の思いを吐露する進。
「何を言っているのです。十分な睡眠を取り、美味しい朝食まで提供されておいて疲れがあるわけ無いでしょう。」
「あのなぁ…昨日言ってたろ。平気だって思っててもその実、体は疲れてることがあるって。それでカノンに気を遣ってたんじゃねぇか。」
「まぁまぁ、ウェディングって見ての通り体が頑丈なの。それにクリーチャーだし…私達との違いに気付けないのも無理はないのだわ。」
「…………そういうことです。」
カノンのフォロー(?)にウェディングは自覚のない精神的ダメージを少しだけ負う。だがしかし、ここは流石ゼニス。感情を表に出すこと無く見事スカすことに成功するのだった。
「それよりも、聞きたいことがいっぱいあるのだわ!」
「お、もしや"アレ"か?」
「えぇ、そうよ!ねぇねぇ、アレは結局どういう用途で使うものなのだわ?」
対面座席へと着席すると、カノンが興味津々に進への質問を投げ掛けた。
「ハハッ……あの時は説明する暇すらなかったもんな。んで、アレについてだな。そう、母さんからすこーしだけ聞いているとは思うがアレは文字通り───」
そこまで口にして喋りだそうとした進だったのだが
「少し待ってください。」
「ん、どうした?ウェディング。」
それをウェディングが制止した。
「あの、仮にも名前があるのですしアレ呼びはやめませんか?頭が痛いです。」
別にどうと言うことはないのだが、少しだけ…ほんの少しだけ気になったことだった。
「あー、それもそうだな。んじゃちゃんと"入浴剤"って言うか。」
ウェディングの指摘を受け、進はその例のアレの名を改め入浴剤と言葉を口にする。
時は遡ること三時間前。朝食をとり、帰宅する支度を済ませ電車に間に合う時間に出発しようとしたところだった。駅はかなり遠く、バスを経由しなければならないのだがその過程で長閑だった田舎風景は段々ちゃんとした住宅街へと変わっていく。大体予定通り駅に着き、カノン達に切符の買い方を教えていた時に、事は起こった。
カノンとウェディングが改札を潜り、進も切符を通そうとしていたその瞬間、後方からある人物の声が響いたのだ。その正体とは…絶賛、仕事中の筈だった白守唯だった。どうも渡し忘れていた物があったのを思い出したらしく、急いでここまで来たと言う。改札口の奥でどうしたのだろうとカノン達が見ている中、唯は例のアレ……そう、入浴剤を手渡したのだ。だがその外見は分からず、立方体の形をした何かに包装紙が包まれてあるのみで、情報がいまいち呑み込めない。そんな時に唯が発した一言が
……これ、入浴剤。皆で分けてね。
だった。恐らく、忙しい中来てくれたのだろう。唯は進の呼び止める声に耳を傾けること無く、このあとそそくさと車に乗って帰ってしまったのだった。これが入浴剤を受け取った一連の流れである。
「入浴剤ってのは、言わば俺らの入る風呂を更に良くしてくれる……何て言うんだ?風呂にとっての薬?みたいなものなのか?」
「随分と曖昧な説明ですが…具体的に、良くしてくれるとはどう言った例があるのです?」
「うーん……入浴剤って言っても千差万別だからなぁ。物によって色々変わってくるが、分かりやすいので言うと体が芯まで暖まりやすくなるとか、後は美肌効果があったりだとかがあるな。悪い、俺も実はそこまで詳しくないんだよ。」
「ううん、十分理解できたのだわ。へぇー、入浴剤かぁ。この世界には本当に色々なものがあるのね。」
進の説明に関心を示すカノン。下手な説明をした自覚があった進は、こんな説明で納得しているカノンを見て少し不甲斐なさを感じていた。
「ふむ、お風呂場を変化させると…この世界の人間は、お風呂にですら多くの娯楽的要素を生み出しているのですね。」
クリーチャー世界だって、風呂は多くの者が癒しの場であり体を洗い流すだけではない特別な所だと考えているが、こうなにも様々な楽しみ方はなかった。
「でも一体どんなものなのかしら?」
「多分うちの入浴剤じゃないかな。あの旅館の温泉を再現できるやつだと思う。」
「おぉ!ってことはあの独特な肌触りのお湯にお家でも入れるって事なのだわ。」
「なるほど。しかも、疲れが取れるオマケ付きですよ。」
(なんかテレビショッピングみたいな会話してんなぁ。)
カノン達に言っても絶対に理解されない突っ込みを入れる進。そんな感じで、ほのぼのとした時間が過ぎていった。
「いやぁ買ったなぁ~!」
「いやはや、まさかこんな出会いをするとは思いもしませんでしたよ。」
「ふふっ、ほんとね。」
乗り換える予定であった電車内で、進達の声がヒソヒソと聞こえてくる。がらんとした中で、話を続ける進。
「にしても、そんなにうまかったのか?塩キャラメル。」
「勿論なのだわ!逆に進は美味しいと思わないの?」
「え~…?まあフツーに美味いとは思うけど……買いすぎじゃね?」
カノンの両手には、大量の塩キャラメルが詰まった袋が手に下げられている。はち切れんばかりのそれは、進を少し引かせてしまう事くらい訳なかった。
「別に良いではありませんか。カノンのお金なのです。どう使おうがカノンの勝手でしょう?」
「ん~…ごもっとも。いや別に、ダメって言ってる訳じゃないんだ。ただ、まさかこんなにハマるとは思わなくってさ。カノンもこういうところあるんだって思ってただけなんだよな。」
「…私にだって、それ相応の欲くらいあるもん。……それにしても、その地の名物って言うのはやっぱりその名に恥じない品質の商品になっているのだわ。」
カノンの言う名物とは、それ即ち塩のことである。乗換駅にいた頃、次の電車が来るまで相当な時間があったことからお土産を更に買っていかないかと進が提案していた。当然否定されることなど無く、快く了承を得られた進。その暫く後が、このカノンであるのだった。
取り敢えず買ってみた一箱の塩キャラメル。当時はパッケージには限定品とデカデカ表示されていたのを見ており、手に取ってしまうのも仕方がなかったと思っている。少し何か食べたい気分だったので、一粒だけ食べてみようと思ったのが事の発端だった。
頬張った瞬間、己の感覚器官の内が一つ、味覚が程よい甘さと塩味の効いた味を感じさせてくる。その次に、滑らかな舌触りと確かな固形を口の中に含んでいると言う現実感が一気に迫ってきた。少し噛んでみたりすると、まるでジューシーな肉を食べているのではと錯覚するほどに、液化したキャラメル部分が更に味覚を満たしていく。
こんなの、好きになる要素しかなかった。この一粒一粒には幸せが詰まっている。そう確信するや否や、カノンは三箱程度で納めていた塩キャラメルを更に追加で大量購入すると言う、所謂衝動買いと言った行為をしてしまったのだった。
「そりゃあそうだ。じゃないと限定なんて太鼓判押さないだろうしな。気付いたか?今日の朝食だった魚にも塩がふられてたんだぜ。」
「成る程…道理で美味しいと思いました。普段口にする魚と全然味が違かったのはその為ですか。」
海が近い故の特産品。それは二人を虜にするのにそう難しくなかったようだった。もう既に旅館での出来事が過去のものとなっている事実に少し寂しさを感じる。なんだか旅の終わりを示している気がして……もう少しだけこの時間が続けば良いのにと、密かにカノンは想うのだった。
「うおぉぉぉぉ!!!」
「ハアッ!」
シティに響く、熱き男たちの声。その正体は、火の守護者グレンとグレンモルトの二人だ。
「何度同じ事を繰り返すつもりだ。」
それに応えるは、天災 ギュウジン丸である。
「っ!?クッ!!」
「っ、モルトッ!!!」
「なっ、おい!大丈夫か!?」
「あぁ……まだまだやれる。」
「もうっ…考えなしに突っ込まないでよね。」
ギュウジン丸に攻撃を仕掛けた二人。だが、例のごとく時間を戻されグレンモルトが追撃をくらってしまっていた。持ち前の気合いと根性、そのフィジカルでなんとかなっているものの、このままではジリ貧も良いところである。
「話には聞いていたけど…時間を操るなんて、無法もいい所ね。」
「同意いたします。それに厄介なことに、私たちが召喚したクリーチャーの一部も突然消えたりしているようです。」
現状を鑑みるに、勝ち筋はほとんどないと言っていいだろう。だが、それは相手からしても同じことであった。
負けないが、勝てもしない。ギュウジン丸にはこの精鋭達を自らの手で下す手段が無かったのだ。
「だが、相手も決定的な致命打を与えることは出来なさそうだと見た。きっと恐らく……それが出来ない弱点のようなものが存在しているんだと…思う。」
それは、既に勘のいい者らに察知されていることだった。カイトの発言に思うところがあった者たちだけは、その言葉に心の中で深く頷いた。戦っている最中のことなのだ、本来ならば悠長に話す暇などない。いや、目の前の敵に集中するあまり、会話をする余裕がないと言った方がいいか。
『オォォオオォ!!』
『────!!!』
「っ……これじゃまるで…シティが戦場と化したみたいです…」
響き渡る怒声、士気をあげるための歓声、儚く散っていく仲間達や敵の悲鳴。この世の地獄が入混ざった混沌が、ルピコの目の前には広がっていた。
大好きなシティが、思い出の詰まった場所が、形だけとはいえ崩れ去っていく。どうにかしようにも己の体は1つしかない。今は目の前の敵に集中せねばならない。悲しい気持ちを胸にしまって、ルピコは密かに気合いを入れ直した。
「いい加減、貴方の目的を話しなさい。まさか天才がこーんなことをする為だけにシティを襲撃した、などとは言いませんよね?」
いつまで経っても身を守ることしかしないギュウジン丸。進展しない戦いに、ついに痺れを切らしたのかQ.E.D.がこの事件が起きてしまった真相を追求するべく問いかけた。
「お前ほどの実力があれば、私達の内誰か一人は倒せていたんじゃないのか?手を抜いてるようにしか見えないんだが…」
ダピコの鋭い指摘に、ギュウジン丸は得意げに小さな笑みを浮かべると
「別に、話してやってもいいが……1つ言うならば───Q.E.D.よ、天才とは爪を隠すものだ。貴様も分からなくは無い話だろう?貴様ら風に言うならば…切り札、といったところか。バカ正直に答えるやつは居ない。」
とこちらを明らかに見下しながら返事をした。
「ふんっ、鼻につくやつじゃのう。ま、結局どんな秘密を隠していようと、この現状がお主の目的は下らぬものだと証明しているようなものなのじゃ。」
柄にもない台詞を吐くプリンプリン。だが、そこにもしっかりとした真意が隠されていた。
「ほざけ、それなら意味としては逆になるだろう。この大人数を相手にし、尚も戦況は変わらぬまま。だが、貴様らにジリ貧だとまで思わせているこの私の、目的が下らななどと言う道理はないだろう?」
「…姉上、この者の戯言に耳を貸す必要などありません、」
「うむ、そのようじゃな。」
冷静さを欠かせる為か、煽りを入れるギュウジン丸。そこに割って入る修羅丸だったが、その声音には強めの怒気と明らかなる敵対心が混在していた。
(くっ、強情な奴じゃの。これでも焦り一つ見せぬとは……思わぬボロは出そうにないのじゃ。)
プリンプリンの狙いであった目的の確認。心を揺さぶり情報を抜き取ろうと画策するも、その思惑は見事打ち砕かれてしまった。
何故こんなことをするんだ、もう辞めてくれ、なんて常套句はもはや通じる相手ではないことを悟る一同。ルピコやエレナ辺りがいいそうだったワードを封印された今、マトモな対話はもはや不可能に近いだろう。そうなれば後は───拳を交えるしか、選択肢は残されてはいなかった。
「…っ!!!!キリコッ!!!」
「YES、マスター!!!」
なんの脈絡もなく、突然ギュウジン丸を襲うのは──この場で1番手を出さなそうだったカイトとキリコであった。不意打ちとは、この世界というものができてから歴史的に見てもかなり効果のある攻撃方法だ。神事である相撲にも用いられるし、自然界ですら直接やり合う生物は少ない。色々と工夫して、油断や隙をついた末の攻撃がこの不意打ちという戦法なのだ。
だが、ギュウジン丸には死角など存在しなかった。無駄に焦ることはなく、そして速やかに───
「……なっ」
「哀れなものだ。」
「キリコォッッ!!!」
「っは、ァっああッ!!」
「!?何だと……?」
始末したと思っていた。だが、それは失敗に終わることとなる。
時間操作からのカウンター。もっと言えば、過程を無かったことにし、相手を初期状態に戻し呆然としているその隙をつくという、卑劣極まりない戦術。それは単純ではあるが、だからこそ強力なものでもあった。
恐らく、原理はルピコ達にバレてはいないだろう。しかし、時間系の能力だということはもうバレている。
(だからどうしたというのだ。分かったところで、どうしようも無いことなど沢山ある。この力を前にして対抗できる者はこの世の何処にも存在しない!VV-8を倒せるのはVV-8自身か、来る災厄のみだ。)
ゲーム機を上手く扱える者が、必ずしもゲーム機に詳しいとは限らない。上手く扱えるからと言っても、それは遊ぶ時に限定されたことであり、壊れてしまえばそれまでだ。その道の専門家に直してもらう他ない。そう、時間操作の原理はギュウジン丸が解析し、自己解釈を施した後に創造したもの。知り尽くしているのだ、ギュウジン丸は。VV-8を。その全てを。そして───
───この世界の、行く末を。
根幹を理解していない者は、VV-8を確実に対処できない。研究者としてすべきではない宣言を、今だけなら許される。奴らはギュウジン丸に………"絶対"に、勝てないのだ。
「何故だ?何故貴様は無傷でいられる?避けただと?私の攻撃を?」
故に、気になってしまう。予測を完全に上回った目の前の事象に。
キリコのスペックを把握しているギュウジン丸からすると、今起きた出来事がとても信じられなかった。何故なら、確実に当たるよう計算された攻撃を寸でのところで避けたのだ。結果には必ず理由が付きまとう。偶然とは、偶然であって偶然ではない。ある意味では必然とも捉えられるのだ。
理由は分からない。が、ギュウジン丸は今回の疑問に微かな違和感を覚えた。どこか少し不気味で、考える度に脳内が得体の知れない気持ち悪さで満たされていく感覚がした。
──もしくは、"あの"件が今回の事象と何か繋がりがあるのかもしれないが……
(いや、考え過ぎか。)
そこまで思考し、考えをシャットアウトする。ギュウジン丸は誰よりも無駄を嫌う。非効率的な行いは一切しないのだ。なんせ、彼は唯一無二の天才なのだから。
「くっ…ここまで来てまだ知識を求めるのか。はっきり言って、気持ち悪いな。」
キリコを心配しながらギュウジン丸に睨みを効かせるカイト。
「お、おい!いきなり攻撃するなんてびっくりするだろう!」
「そうだぜ!なんの考えもなしに突っ込むなんざ、お前らしくねぇ!」
ダピコとグレンがカイトにそう言い寄る。キリコは、カイト以外にも大切な存在だとキチンと認識されている。だからこそ、軽率な命令でキリコを傷つけそうになった行動を取るカイトに苦言を呈するのはごく当たり前のことだった。
「すまなかった。だが、これには理由があるんだ。奴の前だから今は言えないが……」
「へぇ〜、理由ねぇ。それって、アイツを倒せることに繋がるものなのかしら?」
「どう、何だろうな。倒せるのかもしれないし、全くの無意味なのかもしれない。」
「……でも、ゼロでは無いのよね?」
「まぁ…そうだな。」
曖昧な応えはあまりしたくない。カイトはルカに対し何処かしゃべり辛そうにしながら返事をしていた。
「分かった。なら私は貴方に賭けるわ。」
「なっ…」
唐突な宣言に言葉が詰まるカイト。
「何ぼーっとしてるのよ。現状勝てそうな要素がそこにしかないのでしょう?なら賭けるしかないじゃない。時間が惜しいわ、やるのなら早くしてちょうだい。」
「早くするって、一体何を───」
「そんなの決まってるでしょ。カイト、貴方の考えを試すのよ。分かってる、貴方が危惧していることも、そして多分……この行為自体は無駄じゃないってことも。」
「……本当に良いのかい?」
「えぇ、勿論。」
力強い言葉に、カイトは身が引き締まるのを感じた。
「皆も勿論いいわよね?」
ルカの言葉に一同は
──当たり前だと、そう叫んだ
「策だと……?貴様ら、余りVV-8を舐めるな。」
静かに憤るギュウジン丸。明らかに様子がおかしかった。
(何だ、ギュウジン丸が感情的になっている様な気が…?)
余裕を持っていたはずのギュウジン丸が、今微かにだが動揺を見せた。些細な変化すぎて気づいていない者もいる程に小さい動きだったが…それを修羅丸は見逃さなかった。ほかに気づいている者は居ないだろうかと、誰にも気づかれることなく周囲を見渡す。すると、この場にる人物のうちQ.E.D.とルカ、カイトとキリコ、エレナが神妙な面持ちで何か思案するような表情をしているのを確認できた。恐らく、自分も今そんな表情を見せているのだろう。尤も、鎧のせいでその顔を確認できる者は居ないのだが。
「舐めてなんかいないさ。逆に、よくそんな技術を作り行使できるなと尊敬すらしているよ。」
「巫山戯るな。私はお膳立てを聞きたいわけじゃない。さっさと本題へと移れ。」
「そうか、ならそうさせてもらうよ。」
「───皆、一斉に奴にかかれ。」
「…なっ!?」
瞬間、ギュウジン丸を囲っていたルピコ達の姿が消えた。
「くっ、VV-8ッッ!私への脅威を全て排除しろ!!!」
動揺を隠せないギュウジン丸は、焦りながらもVV-8へと指示を出す。
「はい、お父さん。」
無機質な声と共に、いつの間にかギュウジン丸を打ち倒さんとする攻撃の手が消え去る。
「っ、初めて受けたけど時を戻されるって変な感じだね。」
「うーん……何この感覚。気持ち悪〜い…」
「奇妙と言うには、少しばかり強引な力な気もするな…」
まず最初に、ギュウジン丸から1番距離の近かったアイラ、JJ、ダピコの3人が標的となり、そして各々が元いた場所へと戻されていた。それからなし崩し的に時間が戻されていき、戻された者から待機していたギュウジン丸の手下に襲われていく。
「…ふぅ……やはり、完全に私の事を舐めているではないか。」
複数を相手にしたからか、対処が完了した後でギュウジン丸は一息ついた。
「全く……解せぬ。集中攻撃、しかもVV-8と私で1組として纏められている訳でもなく……まさか本当に私のみを倒そうとしているとは。」
さっきから、攻撃の手がギュウジン丸にしか伸びていない。まぁ……原因は分かっているのだが、それが如何せんギュウジン丸に多大なストレスを与えていた為、思わず頭を抱えてしまう。
「しょーがないでしょ!アンタはムカつくからぶっ潰すって決めてるケド、なんかヴィヴィの方は助けたくなっちゃったの!」
「デスパペット風情が、助けるだと?冗談にも程がある。第一、コイツに感情なんてものはない。ただのあやつり人形だ。それに、機械は創造主の思う通りに動けるのが一番の幸せではないのかね。」
「チッ……も〜あったまきたわ!ますますムカついてきちゃった!カイトッ!このまま攻撃してもいいわよね!?」
「あぁ、構わない。体力のある限り続けてくれ。」
「やった〜!久しぶりにやりたいことの許可が取れた!カットちゃん、今まであのバカップル達に我慢させられた分を発散させちゃいましょう?」
そう言って、JJはまた攻撃をしかけに行った。
ギュウジン丸が襲われ続ける理由は、JJの助けたい発言から来ていた。当初はヴィヴィを助けるなんて言われても頭の上にハテナマークを浮かべることしか出来なかったが、今なら分かる。
戦いとは、己の敵と対峙すると必然的に相手の観察が欠かせなくなる。観察とは、相手の癖を見抜き、感情の裏をかき、揺さぶりなどをかけて勝利する、この3つの要素を全てを起こすことが出来るかもしれない位、大切なものだった。それ故に、一同はVV-8の表情も確認することとなる。それと同時に抱いた感想もまた───不思議なものだった。
どこか、物悲しそうに見えて仕方がない
そう、無機質な表情には何も込められていない筈なのに、何故か寂しそうで、何処か切なく見えて仕方なかったのだ。ある種の、庇護欲とでも言おうか。JJの言う通り、その場にいた全員がヴィヴィを何とかしてあげたくて堪らなくなっていたのだ。だから、だからルピコ達は
「くぅっ……」
「無駄だ。幾ら手を出そうと、私に触れることすらままならん。」
「それでも、それでもっ!!!私達はッッ!絶対に諦めません!!」
下を向かずに、前へと歩き続けるのだ。
「っ!?なん、だとッッ!?コイツら、突然息が合い始めた……?」
さっきまでバラバラに動いていたルピコ達が、同時に、タイミングのズレが誤差程度に思えるくらい正確に攻撃してきた。ダピコとJJの凶刃が四方から迫ってくる。グレンモルトとアイラの武器がギュウジン丸の身を切り裂かんと振るわれる。守護者達の召喚したクリーチャー共が一斉に襲いかかってくる。そして──
──いつもいつもその中心にはプレイヤーの存在が有って。修羅丸、プリンプリン、Q.E.D.、ルピコの普段は力を合わせる機会の無い4人が、プレイヤーと協力しギュウジン丸を討ち倒さんとしていた。
(不味いッ!このままではVV-8の能力発動まで間に合わん!チッ、私としたことが!まさかこいつらにまだここまでできる体力が残されていたとは…!)
何故ギュウジン丸が攻撃を避け続け、直接的な手を下さなかったのか。VV-8という強力な力を持っていて尚、どうして一人も倒せずにいたのか。それには、とある思惑が関係していた。
世の中というのは、常に理不尽で無ければならない。でなければ、何もかもに理由を求めたくなってしまう。仕方の無いことなんだと、忘れるべきなのだと、そう思えるような逃げ道を確保しなければ、それだけで世の均衡はきっと乱れてしまう。
私だってその一人だった。何をした訳でもないのに、覗き見る未来は全て私の死で彩られている。天才だと思っていたのに、その天才の頭脳ですらどうにも出来ない状況が自分自身に迫ってきている。その事実が酷く私を歪めたのだと思う。
まぁ、簡単に説明するとこうだ。
私はある日、VV-8を拾った。VV-8は、かつて見た禁断と龍の戦いにおいて、強大な力を持っていた禁断側の力を持っていた。禁断の力に魅入られていた私は、何年も何年もVV-8の研究へと己の身を投じた。
そこでわかったのだ。VV-8は、時間を"組み替える"ことができるのだと。その時はまぁ……正直、酷く興奮していたと思う。世の理を超えた力。全てを消すこともできるし、支配することだって容易だろう。それをこのVV-8は機械の体を為して存在している。言うなれば、技術の究極系。知恵の果てだった。
これで終わればよかった。私がこの力を行使し、世の中を創り直す。天才は、なるべくしてなるものだ。他の追随を許さない圧倒的な能力は、知的生命体の大いなる発展に役立つ。ならば、凡人は天才によって支配されるのが何よりの幸せのはずなのだ。そう思い、私はVV-8に触れた。
その瞬間だった。
脳裏に突如見知らぬ映像が流れ出す。私視点で流れる映像は、それはもう残酷なものだった。明くる日か来る禁断の到来により、私は完全に燃え尽きていたのだ。
その場で呆然とするには丁度いい体験だった。
『あり、えないっ!!この私が、こんな呆気なく消え去るなど!!』
何度も何度も試しVV-8に触れるも、結果は変わらずじまい。正しく理不尽なものだった。
そこからはよく覚えていない。生きる気力を失い、自堕落に過ごす日々。やる気が起きず、ただ死なないために生きているだけ。
VV-8でどうにかしろ?当然利用した。だが、未来は変わらなかったのだ。恐らく、禁断には因果律をも超える超常的な何かがあるのだろう。
兎に角、何もせずに生きていた。そんな時だった。私の作り出した鍵で制御されているVV-8が、突然何かを口走ったのだ。
『お父さん、そこに次元の穴が開きます。』
『……あー、そうか。』
私は特段驚くこともなく、かと言って動じていないのかと言われればそうでもない反応を示していた。
多分、失敗したのだ。
VV-8は、時間を跨ぐこともできる。その力によって行った別の時間軸は、ある意味ではパラレルワールドと言っても過言ではない。私は過去にこの力を使って禁断をどうにか我がものにできないかと考えたこともあった。しかし、冷静になって考えてみればVV-8ですら完全に操れていないのだ。と言うのも、"この"VV-8…実は感情があるようなのだ。機械なのに感情があるとは流石に驚きだったが、これでは一つ問題が生まれてしまう。
もし、VV-8が禁断同様に凶暴な性格だったら?もし、VV-8が私の事を嫌うような奴だったら?可能性はゼロではない。そもそも、禁断自体が割と未知数な奴らだ。今のうちに危険要素は無くしておくべきだろうと判断した私は、VV-8に鍵穴作った。この鍵穴に鍵を入れ、力を解放……禁断解放と言うべきか。をすることで、VV-8は禁断の力を振るうことができるようにした。だが、当然それだけではない。禁断解放をすると、VV-8の感情機能は消え去り、私の命令だけを聞くラジコンにできるようにしたのだ。尤も、禁断解放を封印すれば感情も元に戻るだろうが。
私はVV-8が感情的になった場面を見た事がない。常に禁断解放をしており、1度たりともその鍵を反対へと回さなかったからだった。
…………話が逸れてしまったが、結局のところ何が言いたいのか。簡潔に話そう。
この時間軸の私はVV-8すらまともに制御できてない現状に疲れ果て、何もしない生活を送った。だが、別の時間軸の私は恐らく……世界征服かなにかでもしたかったのだろう。それを正体不明の何者かに阻止され、そして多分、最終手段として各時間軸の私を"あの" 空間に呼び出し、全てを滅茶苦茶にしてやろうとした。それに私は呼ばれたから、今こうしてVV-8が次元の穴が開くと警告したのだ。
余りにも予測が過ぎるという者もいるだろう。だが、私のことは私が一番分かっている。この自堕落に過ごしてきた日々の間に様々な夢想をしていた。無駄に思えた日々も、強ち無駄ではなかったという事なんだろう。
恐らく、別の世界の私はこう計画しているはずだ。各次元の私達よ、全てを滅茶苦茶にしてしまえ…と。
『はぁ……』
呆れる。どこのどいつが邪魔したのかは知らないが、時間を組み替える力を持ってまでやらかすなんて馬鹿でも出来ない芸当だ。天才だと信じてやまなかった私のプライドを、ズタズタにするには十分すぎるくらいの出来事だった。
……どうせ、この世界にいてもいつかは滅ぶだけだ。こうして無気力に過ごしてきた私がどれだけいるのかは分からないが、少なくとも私はこう考える。
もう、どうにでもなれと。
思考放棄だった。美しいくらいの投げやりっぷりに最早笑えてくる。
『だが……だからといって、どうすれば良かったのだ?』
自問自答をする。これもこの日に至るまでに何度も何度も行ってきた。その度に、答えがでず悶々の苦しむだけで終わる。そこには一定の虚しさだけしか残されていなかった。だが──
『おと、う……さん…』
『!?』
その日は、少しだけ展開が違った。
『私、の…力ならっ……解決、できる。』
『……は?』
私は、目の前で起きた事象が信じられなかった。何せ、VV-8は──
──己の意志を持っていないからだ。
『どういうことだ?自立機能は備え付けていないはず…こうして進言するなど、今の今まで無かった事例だ。…………もう一度話しかけて──いや、向けられた言葉には反応するか。』
では、どうするべきか。そう考えて、直ぐ様答えを導き出す。
『そうか……独り言だ。同じシチュエーションで、再び試してみるとしよう。』
研究者らしいといえばらしいんだろう。行ってきたことは常軌を逸しているが、行動だけ見ると本職そのものだった。
だが、何度やってみても先程のようにVV-8が口を開くことはなかった。何度も、何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。いくらやってみても帰ってくる反応は無だった。そんな時だった。
『っこれは…』
遂に、次元の穴が開いた。実際の名称は知らないが、ここではそう呼んでいるそれは…早くくぐって来いと、ギュウジン丸とVV-8に、そう呼びかけている気がしてならなかった。
そこで、先程までの思考の一切を捨て去る。そもそも、VV-8が異変を起こしたからどうしたというのだ。コイツは元より禁断の使者の一人。何が起きたって不思議ではない。それよりも考えるべきは、今何をするかだ。
『気は進まないが……どうせなら、最期は禁断の力でもふんだんに観察して一生を終えるとしようか。』
そう言うと、私はVV-8を引き連れて次元の穴へと向かっていった。
場面は戻り、再び戦闘へ。ルピコ達の息が合わさりVV-8の巻き戻しが間に合わないと危惧していたギュウジン丸だったが、その心配はギリギリのところで杞憂に終わっていた。どうやら、ギュウジン丸自身もまだVV-8の全てを把握しきれてはいないらしい。
(私は、何れ来る禁断の力を見てみてたい。その為にはある程度の指標が必要なのだ。)
ギュウジン丸の思惑はこうだ。
目的は禁断の力を目撃する事
↓
だが、力を見る為にはある程度戦える者が必要
↓
シティの実力者を集めるためにわざと騒ぎを起こす
↓
後は時間が来るまで耐え続ける
これが、ギュウジン丸の全てである。耐え続けるというのは、その言葉通りルピコ達からの猛攻を対処するという意味である。基本は避けに徹するが、それだけで体力を消耗させれるとは思っていない。だから、たまに手下を使い攻撃をしていた。
(しかし、鬼丸の攻撃は少し焦ってしまった。流石ゴールデンエイジのリーダーと言ったところか。戦闘力はグレンモルトよりも上かもしれないな。……勿体ない。)
唯一大きなダメージを与えてしまった鬼丸。それは、ある意味では強者だと言う意味の表れでもあった。何故なら、VV-8を使って尚警戒を怠れないのだから。故に悔いる。禁断との勝負を見てみたかったから。
それに、キリコだって本当は始末したかった。VV-8同様、未来を見るという行為はこの世の何者にも変え難い唯一無二の能力だ。これだけで勝敗を喫することも有り得る。言わばズル技だ。
(ま、どうせ禁断には勝てんだろうが。)
だが、もしもということもある。一や二の変数は許すが、それが十や二十になってくると話は変わってくるのだ。さっきは攻撃を避けられ驚いてしまったが、冷静に考えてみればこれもキリコの未来予測を使った結果だったのかもしれない。
ギュウジン丸は完璧に整った状態での激突を望んでいた。
「クソッ、ここまでやってんのに全然攻撃が通る気配がねぇ!」
「JJの意見には賛成するが、こちらが先にやられては本末転倒だぞ!」
「くぅ…!情けないの…わらわは、弟の仇すら取れんと言うのかっ……」
グレンとダピコがどうにもならない状況に思わず愚痴る。プリンプリンが何も出来ない自分を責めるような事を呟くと、背後から『気にすんな、ねえちゃん!』と少し元気になった鬼丸の声が聞こえてきた。
(どこだ、どこにあるんだ!この言葉にできない違和感……確実にあるはずなんだ、弱点が!!)
「もう諦めろ。」
「……何だと?」
カイトが必死に攻略法を模索していると、そこにギュウジン丸が口を挟んできた。この状況において、1番してはいけない行動をしろと、そう語りかけられる。カイトの神経を逆撫でするのに非常に適した言葉だった。
「VV-8は無敵だ。それはもう身に染みて分かっただろう?だが、残念なことに私にも決定打がない。ここはお互い、一旦身を引こうではないか。」
「ふざ──」
「巫山戯ないでくださいよ、ギュウジン丸。」
「ほぅ……Q.E.D.か。どうかしたのか?そこまで貴様を苛立たせるセリフを吐いた覚えは無いのだが…」
カイトの言葉を遮り発言したのはQ.E.D.だった。彼女にしては珍しく怒りの表情を見せており、その姿は普段どちらかといえば陽気で明るい(?)彼女がドラゴンだったのだと再認識させてくれる。
「ハッ、笑止。舐めているにも程があります。」
「何を言う。VV-8は居るが、貴様らを舐めているつもりは無いぞ?貴様以外の頭脳は未熟ではあるが、実力は本物だ。時間を操る能力がなければ今頃蜂の巣だろう。」
「……ズレてますね。私の言う舐めているとは、そんなどうでもいいことではありません。」
「何だ……無駄に焦らすんじゃない。言いたいことがあるならさっさと言ったらどうなんだ。」
そう言うと、次の瞬間Q.E.D.は一拍置いてから『良いでしょう。』と前置きをすると
「天才だと謳っておきながら、痛み分けで終わるのが私には理解できない。貴方、もしかしてただの秀才ですか?」
真顔で、冷酷にそう言い放った。
「っっっ!!!!!!!」
ギュウジン丸にとって、秀才とは最大限の侮辱に値する言葉だ。秀才なんて、所詮は凡人が天才に憧れただけのその成れの果てだ。努力をしても、してもしても決して届くことのない巨大な壁。天から授かった才で天才。そんなものに勝てるわけが無いのに、それが無いものが何故か無駄に努力をしようとする。それがギュウジン丸には哀れで、そして滑稽に見えていた。
それを目の前の女はなんと言った?私と秀才は同じだと?そうカテゴライズしたということなのか?
今まで見せた何よりも表情や態度に変化が訪れるギュウジン丸。プライドを気づつけられた彼は、冷静さを少しだけ失っていた。
「何を、どう解釈したらそうなる。」
怒りを抑えながら途切れ途切れに質問するギュウジン丸。
「いや何、単純に思っだけですよ。ボードゲームによくある詰み盤面のように、どうしようもない状況下であれば私も何も思いません。ですが、今の状況はそうでもないはず。私たちだって簡単にやられはしないですが…多分、一人くらいは確実に葬れる力なはず。なのに貴方はそれをせず、わざわざ逃げるような宣言を突然するのです。恐れをなして私達から逃げているようにしか見えないんですよ。」
「……」
「天才は、どんな状況においても常に思考を怠らない。余程でない限り、私達は必ず答えを導き出していますよね?そんな天才さんが逃げ出すのですから、同じ者として少し恥ずかしいですし、同時に本当に天才なのか?と疑わずには居られませんでした。」
捲し立てるように次々と強い言葉を投げかけるQ.E.D.。
「くっ……言わせておけば!」
(きたっ…!見事に食いついてくれましたね。天才とは、その能力の高さ故にプライドも高いのです!それは私が一番理解してますからね。)
逆上するギュウジン丸を前に、Q.E.D.は心の中でほくそ笑んでいた。
(カイトとの無意識的な連携、になるのですかね……確かに現在あのVV-8とやらを突破する術は現状ない。)
だからこそ、Q.E.D.はその点に着目した。もしかしたら攻略法を見つけたかもしれない。そんな事をカイトは言っていたが、恐らくそれはある作戦を完遂させる為のブラフである可能性が高い。この意図の証明は一瞬だけこちらに目配せしてきたキリコがしていた。
(何らかの合図……いえ、意思疎通を図るアイコンタクトと言うべきか。それをなぜ私にだけしてきたのか。普通であればそこまで考える余裕はこの戦場において無い………しかし──)
作ることは、容易に可能
(ですよね?カイト。いえ、キリコ…?まぁ、今はどちらでも良いです。そのお陰であの謎のアイコンタクトの意味を理解できましたし。それよりも)
「おっと、ここで怒ると更に惨めですからね。」
「ぐ、ぬぅう…!」
「おー怖い怖い。そんなに頭にきたんでしたら、何か一つ自分が本当に出来るやつなんだという説明でもして納得させてみてください。そうですね……例えば"この事件を起こした理由"なんかどうでしょう?己の凄さを誇示するには良い判断材料になりますがねぇ。」
(目的の確認、これこそが今我々が最も欲している情報です。カイトらはそれを知りたいがために私を頼ったのでしょうね。)
ここまでして目的を知ることに固執するのには、ある理由があった。
(禁断…のこともあります。ギュウジン丸が関与しているのかしていないのか、真実は未だ定かではありませんが、聞き出しておいて損は無い筈。単純な支配や滅亡を望むのならば、打ち倒す事だけを考えればいい。ですが、禁断の事を知っているのならば話は別。厄介ですが、全てを聞き出すまでは倒すことはできなくなる。)
だが、それをしないといけないくらい禁断という存在は大きかった。それこそ、目の前の敵やルピコらが人間から見たアリのように見えるくらいには。
それに、確信はしていないが妙な予感はしていたのだ。完全なる勘だが、この男はなにか知っている気がしてならなかった。それはQ.E.D.やカイトとキリコだけの考えではなく、その場にいた全員が薄々思っていたことである。
(さぁ、ここが正念場。話すか話さないか…後はギュウジン丸次第です。)
「おのれっ…好き勝手言うのもいい加減にしろ!!……良いだろう、私の目的ごとき話したところでどうということはない。」
「良く聞け!私の目的は───」
その瞬間、ギュウジン丸にとって一秒が十秒に十秒が100秒に思えるほど、世界が遅くなった。
……待てよ?
この一瞬の思考が、戦況を大きく動かすことになる。
(冷静になれ。Q.E.D.は敵対こそすれど、私の能力自体は評価しているはず…それを秀才だと罵るのは些か不自然だ。まさかとは思うが…私を倒す方法などはハッタリで、目的を聞き出すことこそが真の思惑、なのか?)
「…………」
「?な、何を急に黙っているのですか。」
「…………」
「お、お〜い!ギュウジン丸さ〜ん!!!耳、聞こえてますか〜!?……この土壇場で何なんですか、もうっ!」
「さっきから見ていたが、あれは何をしてるんだ?」
「さ、さぁ…?Q.E.D.さんのことですし何か裏があると思って黙っていましたが……これは想定外って事なんですかね。」
「…今じゃないの?チャンス。」
「あ、JJも思った?もうそうだとしか思えないよね〜」
ダピコのツッコミにルピコは苦笑いを浮かべる。JJがここぞとばかりに襲いかかろうとしていたが、キリコに「ダメ、これがマスターの言ってた攻略法。」とさらっと衝撃の事実を突きつけられ足止めされていた。チュリンが「え゛っなにそれ」と驚いていたが、攻略法=目的を聞き出すなので仕方がない。
「何を迷っているんだ。何故何も話さない?」
「…なるほどね。貴方のやりたい事は何となく分かったわ。」
「確かに、気になる点はありましたね。今は別の問題もありますし……私自身、少し焦っていたのかもしれません。カイトさんは良くそこまで頭が回りましたね。」
「???どういうことだ、アイラ。」
「ごめん、私もわかんない。ちょっと皆頭良すぎるよ…」
「安心しろ!俺も分かんねぇ!」
「自信満々に言うことじゃないじゃろ。」
「呑気にツッコんでいる場合ですか、姉上。」
こんな状況でも、シティはシティだった。だが、そんな喧騒もギュウジン丸の耳には入ってこない。一同がギュウジン丸を眺め続けて、20秒ほど経った頃だった。
「ふぅ……前言、撤回だ。」
「なっ…」
Q.E.D.が驚きの余り絶句する。
「危なかった。思わず貴様の口車に載せられそうになったぞ。流石だな。」
「……すみませんカイト、キリコ。しくじりました。」
「いや、いい。寧ろよくここまで粘ってくれたね。私は奴の精神力を少々侮っていたようだ。」
苦虫を噛み潰したような表情で悔しそうにカイト達に謝るQ.E.D.。
「チッ、いつから考えていたのか分からないがやはりグルだったか。姑息なやつだな。」
「姑息…ね。私には、お前の計画の方が姑息な気がしてならないんだがな。ま、飽くまでも勘だけどね。」
「奇遇ですね、カイト。私もそう考えていましたよ。探りを入れた瞬間の貴方の雰囲気、何となくくだらないような感じがしてたまりませんでした。案外、聞き出す必要も無いのかもしれません。」
「よく飽きないものだな……貴様。」
今度は裏表のない純粋な煽りをされるギュウジン丸。それを呆れた顔でギュウジン丸は嘆くのだった。
「ま、良いだろう。結局貴様の言う攻略法もハッタリだったと言うわけだ。これで証明できたな───」
貴様らは、私に勝つことなどできないと
「ッく……!」
頼みの綱が引きちぎられた事による焦りが、ルカの表情から見て取れた。最初に信じたからこそ、その分活路が導き出せなかった事実に人一倍のショックを受ける。
「そ、そもそも!時間を操るなんて強すぎるのよ!元はと言えばただの機械なんでしょ!?機械って時間を操れるものなの!?」
JJが愚痴にも似た文句をぶつける。彼女らしい言葉を意に介する事なくギュウジン丸は、再び余裕を持ち口を開く。
「一番つまらない考え方だ。機械だからこうだ…と言った固定観念ほど研究を阻害する要素はない。まぁ、この時点でハッキリとしたな。私と貴様らの頭脳は、根本から違うのだと。無論、わかると思うが私の方が上だ。」
煽り癖があるのだろうか、とそんな感想を抱くルピコ。いや、多分違う。恐らくギュウジン丸に煽り癖があるんじゃなくて、頭が良いが故の慢心から来る純粋な言葉に過ぎないんだと思う。
(って、これは流石に酷い偏見ですね。でも……)
決めつけは良くないと、己を律するルピコ。だが、一つだけ言い訳をさせて欲しい。何故こんなことを考えてしまったのか。その理由を───
───目の前に、根拠になりそうな人……いや、ドラゴンがいるんだよなぁ…
「た、確かに凝り固まった思考は良くないですがっ……!その私が上だという発言は頂けませんねぇ…!!!覚えていますか、私が最初貴方に天才に伴った行動をしてない時点でマイナスと言ったのを!この理論で行けば、明らかに私の方がレベルが高いのは明白でしょう…!?」
「…………」(貴方だってその頭脳で私達に迷惑かけたことあるじゃないですか!)
ルピコは、変なところに憤っているQ.E.D.をいつの間にかジト目で見つめており、その場の誰もが思ったことを一早くに考えるのだった。
「もう良い、どうせ貴様らはVV-8にすら手を出せんのだ。その時点で引き分け以上は確定している。諦めろ。」
呆れたように言い放つギュウジン丸。誰かが歯ぎしりしたようた音を鳴らすのが聞こえてくる。だが、そんな停滞気味だった戦況の中に、とある人物の声が突如響き渡った。
「いや、悪いが攻略法はハッタリでは無い。」
「……なんだと?」
その正体は、水の守護者カイトその人だった。訝しげな表情でギュウジン丸がカイトに圧をかける。
「ここにまで来てまたくだらん嘘か?惨めだ──」
「ふむ、少し語弊があったか。正確には……たった今、ハッタリではなくなったと言ったところかな。」
「なっ…ま、まさかっ!カイト、もしかしてQ.E.D.が余計なことを話してる間に奴の弱点を…っことか!?」
「何が余計ですか!後半の反論は私の意思ですよ!!」
ダピコの言葉にQ.E.D.が猛反発する。その姿はまるで獲物にかぶりつく獰猛な犬のようだった。
「多方その通りかな。Q.E.D.、助かったよ。」
「ふ、ふんっ!少々想定とは違った展開ですが……まぁわかったのなら良いでしょう。」
「巫山戯るなッッ!!!!」
『!?』
今までの比にならないくらいの怒鳴り声を上げるギュウジン丸。こめかみに青筋を立て、これ以上ない動揺を見せていた。
「本気になれば貴様らなどすぐに消すことも出来るのだぞ!それを攻略法を見つけただのなんだのと…下等生物が図に乗るな!!」
「そうか、なら……これ以上の対話ももう不要だな。」
「あぁ、その通りだ──」
「皆、攻撃パターンを変える。一人ずつ、間髪入れずに攻撃を仕掛けてくれ。いいかい?相手に暇を与えてはいけないよ。」
「……なに?」
柄にもなく、油断していた。
───戦場の、雰囲気が変わる。
「ウラァァァァ!!!」
「っ!?VV-8!!」
グレンの雄叫びと共に召喚されたクリーチャーが一斉に襲いかかってくる。VV-8を怒鳴り、対処を促すギュウジン丸。
「……くぅ!?まだ、攻撃は通んねえか…!」
クリーチャーが召喚された事実を消し去り、全てをむにかえす。その隙を突いたギュウジン丸は、手下のクリーチャーを特攻させた。勿論、死なない程度の攻撃力で。
「馬鹿め、また無鉄砲に突っ込むなど無謀にも程があ」
「喋る暇が、あるのかしら?」
グレンがクリーチャーの対処におわれているのを見て、優越に浸るギュウジン丸だったが、そんな束の間にルカの声が響いた。
「馬鹿はどっちかしら!?ねぇねぇ!カイトが言ってたよね!?間髪入れずに攻撃を入れてって!……行くわよ、カットちゃんッッ!!」
「グッ、小癪なっ!!VV-8!」
「……はい、お父さん。」
JJと連携して来るルカのクリーチャー。若干苛立ちを見せながらも、ギュウジン丸は再びVV-8に対して命令を下した。全てがまた戻り、その隙をまた手下が襲う。その様子を見ていたギュウジン丸は、今度こそ──まぁ、ほんの少ししか安らぎは得られないだろうが一時の安全に心を落ち着かせて……何てことは、許されるはずもなかった。
「チッ!!貴様らっ、しつこいぞ!!」
「悪いけど、私は仲間を信じてるんだ。カイトがやれって言うんだったら、私は喜んでやるよ。ね、モルト!」
「あぁ。そういうことだ!っ…!……オォォオオォオォッ!ハァッ!!」
今度はドラグナーであるグレンモルトとアイラの手がギュウジン丸へと迫って行った。だが、それもまたVV-8の力により無駄となる。だが
「次は、私がやらせてもらおう。」
カイトの言う通り、間髪入れず次にダピコが大鎌を振り下ろしてきた。
(何だ、何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ)
コイツらは、何をしている?
『やあっ!』『えいっ!』『そこだ!!』『絶対にシティを守る!』
そこら中から、声が聞こえる。VV-8の力に対し奮闘して、そしてギュウジン丸を常に狙わんとする敵意に満ち溢れた意志の籠った力強い声だ。それはギュウジン丸の逃げ道を潰し、周囲を囲って蹂躙しようとしているように思えた。まるで、虐められている子供のように。
カゴメカゴメという歌がこの世界にはあるらしい。稚児が無邪気に歌い、一人を数人で囲い回り回る。その様は正に鳥籠のようだという。今のギュウジン丸は、その状態と等しく変わらない気がしてならなかった。
(…?これ、は……恐怖?手が、肩が……?震えて、いるのか?)
未だ攻撃の手は緩まれておらず、だがしかしギュウジン丸に被害は及んでいない。だと言うのに、彼は今明確に恐怖心を抱いていた。そして、その恐怖した理由も彼はまた知っていた。でも、それを考えてはいけない。考えるが最後、一生その思考回路に囚われてしまうから。戻れなくなるから。だから彼は、自身の身を守るために一時的に脳を働かせるのを辞めた。
(……大丈夫だ。そう、平気だ。VV-8は禁断クリーチャー。敵う者など居はしない。)
荒くなる呼吸を整え、空っぽになった脳みそに再び自身の思考を入れ込む。考えることをやめたお陰で、ある意味冷静になれたギュウジン丸は、状況分析を始める。
(第一、時間操作に勝てるわけが無い。幾ら意思が強かろうと、肉体的なスタミナはいつか底を尽きる。なんだ、諦めさせるよりも簡単じゃないか。そうだ、最初からこうしていれば良かったのだ。注目を引き、攻撃を避け続けて心を折るのではなく、単純な疲労を蓄積させれば良かった。ハハ、何故こんなにも簡単な結論に辿り着かなかっ)
「…………は?」
思考しなかった反動で長考していたギュウジン丸の視界に、グレンモルトの持つドラグハートウェポンが映った。それも──
眼前に
スッ
「……当たっ…た?」
誰かの声が静まり返った戦場に響く。目の前の事実を理解するのに、この場にいた全員は少し時間がかかっていた。
ドラグハートウェポンを振り回した際に発生した風切り音。だが、そこに明らかな異音が混ざっていたのだ。皮膚を刃物で切る音。不慮の事故で少し包丁で指を切った時くらいにしか聞けない……そんな音が、微かだが確実に聞こえてきたのだ。
「な…ぶ、VV-8…?」
「……はぁっ…………はぁっ……ごめん、なさい。お父さん。」
「は…あァ…?」
状況が理解できないギュウジン丸を他所に、カイトは堂々と声を上げ話しかけた。
「理屈が、分からないかい?」
「……」
目を伏せ、まともに顔を合わせようとしないギュウジン丸。プライドが傷つけられ悔しいのか、肩をわなわなと震わせている。
「オーバーフロー、って知ってるか?」
「っ!!!」
カイトの言葉に、目を見開くギュウジン丸。
「許容量を超え、限界を迎える。それが機械は顕著に現れるんだが……やはり、ヴィヴィにもその許容量があったみたいだね。私の抱いた違和感は、そのヴィヴィが機械の筈なのに徐々に疲弊しているように見えたのが原因だったようだ。」
「なるほど。その考えがありましたか。基礎中の基礎なのですっかり頭から抜けていました。さしずめ、荒い呼吸は排熱の役割を担っているとでも解釈するのが妥当と言ったところでしょうか。して、ギュウジン丸さん。貴方はこの子の開発者だと言っていましたが……まさか、貴方のような者に限って性能を理解していない、なんて事は有り得ませんよね?」
「く、ぐぁ……」
詰め寄るカイトとQ.E.D.に対し、ギュウジン丸は呻き声をあげるのみ。先程までの威勢はどこへやら、覇気のなくなった彼には、最早威厳も何も感じられなかった。
「なんだ、そんな簡単な事だったのね。ま、時間を操るくらいの力なんだからその分の負担も大きいはずか。はぁ…もっと頭を柔らかくする必要があるかもね、私も。」
「か……簡単、だと…?」
「何をそんなに気を落としているのか分からないが、お前が慢心する程の理由がその体にはある……ということで良いか?」
「っ!!!」
「調子に乗る理由ってことですか?そんなの知ってどうするんでしょう。」
カイトの指摘にルピコが首を傾げる。落胆とも近い落ち込み具合を見るに、それ相応の意味があるのだと察せられたカイトは、カマをかける感覚で軽く尋ねただけだった。だが、その質問こそがギュウジン丸の心の内を乱すのに最適なものだった。
(不味いぞ…!禁断の事を知られる訳にはいかない!そこまで知られてしまうと…Q.E.D.やキリコが何かしでかす可能性がある!!こうなれば……!!!)
なるべく禁断とは無知の状態で戦って欲しい。そこから来る焦燥は何物にも代えがたい息苦しさを伴っていた。不本意ではあるが、最終手段さえも辞さないと思えるほどには。
「それは今から分かることだ。もしかすると私達にとってとても貴重な情報を持ち合わせているかも知れないからね。」
「貴重な情報?」
「……禁断、のことかの。」
「そうなるな。」
「なるほど、望みは薄いですが、有り得なくも無い話ではありますね。」
エレナの言う通り、この予想は外れている可能性の方が高い。第一、未来を観測できるキリコがあまり分からない存在の時点で、情報が少ない事は確定しているようなものだ。それを知っているなど、万が一にでも有り得た方が奇跡かもしれない。
「んじゃ、倒すんじゃなくて無力化すれば良いのかな〜カイト?」
「あぁ、出来ればそうしてもらえると助かるよ。」
「ってことだから、アンタ覚悟しなさい!攻略法が分かった今、もう怖いものなんてこっちには何も無いんだから!それに、ヴィヴィも自由にさせてもらうわよ!」
JJはそう言うと、ギュウジン丸へと距離をじわじわと詰めていく。傍から見たら完全に詰み、逆転の芽は摘まれたようにしか見えなかった。実際、頼りにしてたVV-8は最早使い物にならない。幾らかは持つかもしれないが、流石に能力を使いすぎた。ここまで早くガタが来るとは思わなかったが。
(だが、VV-8は禁断だぞ?何がそこまでしてVV-8を衰弱させるに至ったのだ。私の見込みが甘かったのか、それとも別の理由が…思い当たるのはやはり"アレ"しかないが……クソッ、今はこんなこと考えてる暇じゃないな。)
いよいよ身の危険を感じるギュウジン丸。先程カイトが対話は不必要としたせいで口での解決も不可能に近いだろう。ならば───
「さぁ、そろそろ観念して下さい!ギュウジン丸さん!」
ルピコが声を上げる。その力強い声音に、一同のやる気もまた出てくる。そんな時だった。
「……敵対心を」
「え?」
素っ頓狂な声を上げるルピコ。
「煽るような真似は余りしたくなかったんだがな。」
「……どういう事。」
眉間に皺を寄せながら、その言葉の意図を問うアイラ。何故だか分からないが…妙な胸騒ぎがした。
「…くっ、ははっ……ハハハハハ!!」
「気でも狂ったか?」
「いや……彼奴が意味の無い行動をするとも限らん。警戒は怠らないことじゃ。」
奇行。突然の大笑いに困惑する修羅丸。だが、それをプリンプリンが姉として注意した。
「お前らのせいだ。後悔しても、もう遅い。」
「そう。」
ギュウジン丸の言葉に、キリコが無機質で冷酷な返事をする。
「どの道貴方はVV-8…いや、ヴィヴィが居ないと何も出来ない。これは揺るがない事実。件の話と関係あるかは知らないけど、一つ言っておく………今の貴方はとても、みっともない。」
「……そうか。」
キリコから苦言を呈されるギュウジン丸。しかし意外にも反抗はせず、寧ろそれを受け入れてすらいる様に見えた。
「…無駄な抵抗はなるべくしないでくれ。そうすればこちらも危害は加えな───」
助けてー!!!
『!?』
事態が収束するかと思った矢先の事だった。
「だ、誰の悲鳴だ!?」
「え…?え?」
ダピコが驚きの声を上げる。突然のことにルピコは困惑するのみだった。
「メタルアベンジャー!!ここら一帯に人間の生体反応はなかった」
Q.E.D.がギュウジン丸の率いるクリーチャーを抑えておけと命令したのが、ドラグナーであるメタルアベンジャーである。Q.E.D.が席を外している間、こっちの世界から連れてきた大量のクリーチャーのリーダーは実質的にメタルアベンジャーのものとなっていたのだ。
そんな彼に戦況を訪ねようと、未だ少し離れた背後で戦闘をしていたはずの彼を見つけようと振り返ったのだが
「はず……で、は…?」
「な、何よ…何よアレ!?」
目の前に広がる光景に、Q.E.D.の口が止まる。JJが動揺を隠せず、酷く嘆くばかりだった。だが、それも仕方の無いことだった。何せ一同の前には今……
───避難させた人々がここへ走り、駆け寄ってくる姿が見えているのだから。