無垢の守護者と甘い恋   作:しゃべる

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劣勢の定義

「いやぁ…マジでごめんな。」

 

「もう、それで何回目?大丈夫、気にしてないのだわ。」

 

「しつこい男は嫌われますよ。」

 

「で、でもさぁ…」

 

シティから約5キロメートルほど離れた場所にて、進がカノンに対して謝罪の言葉を口にしていた。

 

「そんな日もあるわ。偶々、私達はついてなかっただけ。そうでしょう?」

 

「うーん…ま、まぁそうなんだけどな…」

 

「第一、そこまで気にする事でもないでしょう。もしくは、何か引っかかることでもあったのです?」

 

浮かない顔をしている進に、ウェディングが疑問を口にする。

 

「いや、確かに気にするって程の話でもないんだがな?でも…ちょっと妙じゃないかって思って。」

 

「「妙?」」

 

顔を合わせ、二人同時に呟くカノンとウェディング。思い悩む進を不思議そうに見つめながらカノンは進の返事を待った。

 

「だって変じゃないか?なんで何処もかしこも──シティ行きの交通手段が断たれてんだ。」

 

「それってそんなに可笑しいことなのだわ?」

 

「あぁ、めっちゃくちゃ変だし不自然だぞ。」

 

「別に急な予定変更など良くあることでは?」

 

住んでいる世界線が違う二人には、少々違和感がなかったらしい。

 

(まぁ、この世界ってデュエマ世界と比べたらとんでもないくらい真面目だもんなぁ。ちょっと時間がズレるだけで大事だし……それだけが理由じゃないけど。)

 

この世界の常識を部分的に知らないからか、二人はどうもここで起きたことを純粋に信じ込むことがある。ここではこれが普通なのかと誤認することが稀にあるので、その度に進が説明をしていたのは記憶に新しい。

 

「ないない。それは本当に緊急時に限ることだぞ。」

 

「ふむ……まぁ確かに少し…言われてみれば、ですが…こうも突然予定が狂うというのは、この世界にしては珍しい気がしなくもないです。」

 

「あの時の進、すっごく焦っていたものね。……ふふっ」

 

カノンの言うあの時とはつまり、駅から出た時のことであった。そもそもの経緯が、まずシティ行きだった線が運行休止となっていたことが始まりとなる。

 

乗り換える駅に着いた後、電光掲示板を見ながらシティ行きの電車が止まるホームを探していたのだが、そこに突然何故かシティへと繋がる電車が全て運行休止しているというアナウンスが流れた。

 

焦った進は、他の道がないかと模索した。結果見つけたのが、その時にいた駅直通のバスだった。時間は掛かるが致仕方なしと思い、バスターミナルに向かう一同。だが、ここでもまた事件が発生してしまう。

 

そう、お察しの通りバスも何故かシティ行きのものだけが全て停止していたのだ。冷や汗をかきながら職員の人に尋ねてみるも、帰ってくる言葉は決まって申し訳ございませんの一言のみ。理由を聞いても、職員ですらよく分からないと話す始末だった。結果、現在こうして歩きで帰ることになっていたという訳である。

 

「とんだ災難だぜ全くもう…家に帰ったら爆速で爆睡だなこれは。」

 

「そう?私はまだまだ余力があるのだわ。」

 

「それはカノンが電車でめっちゃ寝てたからだろ。」

 

「あー…そ、そうかも………ん……」

 

何気なく発言したことが、思わぬ墓穴を掘ることとなったカノン。

 

そうだ、気が緩んで進の肩に頭をかけて寝ていたのを思い出した。その寝顔もバッチリと見られていたのだ。

 

思い出すとまた途端に気恥ずかしくなる。カノンは少し進から目を逸らしてちょっぴり俯いた。そんな他愛のない会話をしながらも、周囲の景色は次々と変わっていく。長い道のりだと思っていたが、その実そうでもなかったように感じる。気づいた時にはどこか見た事のある景色が目に入ってきており、それが旅の終わりを予感させていた。

 

「貴方と沢山歩いたせいか、この程度の距離では最早何も感じなくなってしまいましたね。」

 

「ん、そうかぁ?どっちかって言ったら話すのに夢中になりすぎてただけのような気もするんだが。」

 

「どちらの理由も有りうるって、そういうことなんじゃないかしら。でもね、私…今回の旅行が今まで生きてきた中で一番時間の流れを早く感じたのだわ。多分…いえ、私はきっとこの旅行が何よりも楽しかったんだと思う。」

 

デュエマだってそうだ。仲間とするデュエマほど時間を忘れるものはない。楽しいから、夢中になれるから、その行動が既に手馴れたものだから……一同の挙げる要因の全てが詰まった結果が今回の旅行だったのだろう。

 

「だな。」

 

「…ですね。」

 

カノンの言葉に静かに頷く二人。どこか満足気な表情になっている一同だったが、そこからまたしばらく歩いた後に進が声を上げた。

 

「じゃ、俺こっちだから。」

 

「うん……な、何だか…いざ終わるとなるとしんみりしちゃうのだわ。」

 

「聞いたことがあります。こういう時に陥る感情のことを、切ないと言うと。」

 

「切ないか…なぁ、カノンは俺の故郷にまた行きたいか?」

 

その問いは、何処か寂しげな気がした。

 

「勿論!あんなに心休まる場所なんてそうそう無いもの。人々も親切だし、なんて言うか地域全体が優しく温もりの溢れた所だったのだわ。」

 

「…そうか。…溢れた場所、ね。ありがとな、そう言ってくれると俺も嬉しい。」

 

一瞬、進の顔が強ばったような気がした。だが、カノンはそれに違和感を覚えることはなかった。だって───あの顔が、どうしても悪いようには見えなかったのだから。

 

「わ、私もとても良い環境だったと思います!機会があれば是非次回もお願いしてほしいですね。」

 

「おぉっ、何?どうしたのウェディング。すっげぇ食い気味じゃんか。珍しいな。」

 

「あっ…いや、これはその……」

 

「ズバリ当ててやろう……お前、もしかしなくともこの旅行が名残惜しいんじゃないのか!!?」

 

「っ……えっと、まぁ……恐らく…?は……」

 

分かっているような、分かっていないような…ウェディングは自身の抱いている感情に困惑しながらも、進の指摘に同意した。理由は、本人もそんな気がしたからである。

 

「お、おぉう…急に素直だな。」

 

「素直と言われましても…分からないのだからしょうがないでしょう。」

 

らしくない態度に面食らう進。だが、当の本人は未だ首を傾げたままで、戸惑いを隠しきれていなかった。

 

だけど…このモヤモヤは───何となく、悪いよう物じゃない気がした。

 

「とにかく、二人ともお疲れ様!急に誘ったのに来てくれてありがとうな!うん……楽しかった、本当にな。んじゃ、また時間があれば遊ぼうぜ!じゃあな!」

 

「えぇ、私も楽しかったのだわ!」

 

「また今度、機会があればよろしくお願いしますよ。」

 

「あぁ!」

 

別れ道、そこで交わした今日最後になるであろう言葉。さよならを伝えて、あるべき場所へと帰って行く。そんなやり取りをした後に、進は街の中へと消えていった。その瞬間、カノンとウェディングは謎の達成感のようなものを感じたという。

 

 


 

 

「進の言うとおり、旅行が終わったって思ったらどっと疲れが出てきたのだわ。」

 

「情報量という話も強ちありえなくはない、ということですね。」

 

「そうね。……あー…楽しかったなぁ。」

 

遠くを眺めながら感傷に浸るカノン。

 

「そうだ、ねぇウェディング?今日お家に帰ったら、早速入浴剤を試してみない?」

 

「良いですね。帰ったが為に培った疲労も癒して貰いましょう。」

 

何気ない雑談を交わす二人。シティを黙々と歩くのもいいが、折角なら今回の旅の感想を言い合いたかった。だが、その時間も長く続くことはなかった。

 

「……?」

 

カノンが楽しげに話しているのを横目に、ウェディングは得体のしれぬ空気感を感じ取る。

 

「どうしたのだわ?」

 

パートナーの僅かな変化を見逃さなかったカノンが、ウェディングの様子を伺うようにして問う。

 

「ええと…余り水を差したくは無いのですが……」

 

言いづらそうにしながらも、ウェディングはその重い口を開いた。

 

「その…なんだか少し……いえ、全くと言っていいほど人気がない気がするのは私の考えすぎですかね。」

 

「…ウェディングも思った?」

 

「っえ、えぇ…と言いますか、"も"と言うことは…?」

 

「うん…私も本当にさっき気づいたんだけど、こんなに街中を歩いているのに人一人見当たらないなって思ったの。」

 

「そうでしたか。」

 

神妙な面持ちで辺りを見回すウェディング。シティには勿論、人通りの少ない場所もある。だが、ここまで静かだったことが未だかつてあっただろうか。否、誰もがそれを否定するだろう。森の中でもない限り、見回せば必ずどこかに人はいる。街の住民はきっとみな一様に口を揃えてそう言うはずだ。

 

「ね、ねぇ…私、進を追いかけた方がいいんじゃないかしら…」

 

形容しがたい不安に襲われるカノン。

 

「まだ私達の勘違いである可能性も捨てきれません。白守進はあぁ見えてかなり疲労を体に蓄積させていました。変に呼び止めても迷惑がかかる事でしょう。」

 

「そっ…か…うん、そうよね。進だって……疲れてるんだもんね。」

 

この判断が正しいのかどうか、それは誰にも分からない。一つ言えるのは、あの一件以来カノンが進の身を案じることが確実に増えたことだけだ。

 

不気味な程に静まり返っているシティ。目に見える売店ももぬけの殻であり、まるで生活している途中に突然人が消えたのではと錯覚してしまう。

 

低い気温が身体を蝕み、僅かながらその思考をネガティブなものへと変えていく。そんな時、二人は信じられないものを目にすることとなる。

 

──空が、紅く染まったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇ…!卑怯だろうが!」

 

シティに鬼丸の怒声が響き渡る。深手を負っていたとは思えないほどの迫力に、ルピコは僅かに体を震わせた。

 

周囲を見渡すと、いつの間にか大勢のクリーチャー同士の争いも終わっていたようで、静かになっている。そこには、不自然に地へと伏していたメタルアベンジャーの姿もあった。

 

「手段を選ぶバカが何処にいる。天才は、使えるものはなんでも使うんだよ。覚えておけ。」

 

「ギュウジン丸……!これは流石に…度が過ぎているッッ!!!」

 

Q.E.D.は握り拳を作り腕を怒りで震わせていた。その他にもギュウジン丸を避難する声が聞こえてくるが、本人は全くと言っていいほど意に介していなかった。

 

一体、ギュウジン丸は何をしたのか。それは、次に声を上げる人物により明らかとなる。

 

「プ、プレイヤーさ───」

 

「おっと、少しでも妙な真似をしてみろ。」

 

『ひっ…!』

 

ルピコがプレイヤーに目を合わせ、何かしらの会話をしようとした時、一同から少し離れた場所にて誰のとも分からない声が響き渡った。そう、ギュウジン丸は今──

 

──シティの住民を人質にしていたのだ

 

「あ…うぅ……」

 

目を伏せ、静かに項垂れるルピコ。申し訳なさとやるせなさで、みるみるうちに元気がなくなっていくのが目に見えて現れていた。

 

よく見ると、そこにはカスミやジャスミン、コットンといった非戦闘要員の者までおり、その誰もが怯えた表情をしている。

 

「最終手段として残しておいた戦術だったが、上手くいって良かった。」

 

悪趣味な笑みを浮かべているギュウジン丸を、一同は鋭い目で睨みつけることしか出来ない。

 

「…少ないとは言え、警備はつけていたはずだ。」

 

「…っそうだ!ジャマー団にだって手伝ってもらってるんだぞ!それがこうも簡単にやられる訳…」

 

「ふむ……ジャマー団、というのはもしかしてコイツらのことかな?」

 

「っ!?な、んだと…!?」

 

カイトの指摘に、ダピコが同調するかのように言葉を重ねる。信頼している仲間が負けたと思いたくないのか、少々現実逃避気味なダピコ。だが、そんなダピコに追い討ちをかけるかの如く、残酷な現状をギュウジン丸は叩き付けた。

 

「ごめ、ん……っ、みんな…守り…きれなかった…ぐうっ…」

 

「キョウカさん!?」

 

「酷い…」

 

クリーチャーの一体が、心身共にボロボロになっているキョウカを地面に放り投げた。

 

ジャマー団。ロイ・マッカラン率いるそこそこの規模に収まる組織。元はかなり大規模な組織で、ルピコ達と一度敵対したこともある。その時はロイ・マッカランがトップだった訳ではなく、一構成員の中でも上位の者だと言う立場だった。だが、総統がある事件をきっかけに居なくなり、元々正義感が強く熱い人望に恵まれていたロイ・マッカランが組織を再編。以後は、善行を行っているという、なかなか数奇な成り立ちを持つ組織だ。

 

その中でも、キョウカは実力がかなりある方だった。何でも出身地が特殊らしく、忍術なるものが使えるとか何とか。それに加えて、今回はなんとクリーチャーを召喚する技術を用いることにも成功しており、更に強くなっていたはずだった。

 

「どういう事じゃ。お主の戦力は一体ずつじゃと、大したことは無い。アリーナの戦力が少ないとは言え、押し負ける程でもなかった筈…」

 

「って言うか、全然こっちの方が強いって!!」

 

納得できない様子のプリンプリン。それに、チュリンの言う通り、力の差もギュウジン丸の手下と比べ歴然なのは明らかだった。

 

「はぁ…馬鹿め、私がこんな雑魚共だけで構成された戦力で貴様らに挑むわけがないだろう。おい!そろそろ姿を見せろ──」

 

デッドゾーン

 

しかし、そんな疑問はギュウジン丸の呼んだ、デッドゾーンというクリーチャーのせいで解消されてしまうこととなった。

 

「グォォォォォ…!!」

 

「な、何よ…あれ…」

 

「チッ…そう簡単にはいかないってことね。」

 

姿を見せるは、全長約五メートル程の真っ黒なバイクの様な体のクリーチャーだった。だが、それも辛うじてそう認識できるだけでほぼバイクとしての原型は保っていない。それに、個としての意識は持って無さそうに見えた。

 

「デッドゾーン。我が侵略ウィルスによって稼働している優秀な手下の一体だ。奴は、『不死』の力をもっている。だから倒そうが殺そうが意味は無いのだよ。」

 

(なるほど…このクリーチャーのせいでメタルアベンジャーの応答が無かったのですね。)

 

「あ、はは…そういう、ことか…ぁ……っ…道理で、弱らないと思ったよ…!!」

 

悔しげに呟くキョウカ。それを最後に、キョウカは意識を深い闇の中へと沈めていった。

 

「まって……パパ、パパはっ!?」

 

「?誰だそれは。」

 

「えーっと…こう、体が大きくって凄くかっこいいおじさんの事よ!」

 

錯乱するJJを他所に、首を傾げるギュウジン丸。当然と言えば当然の反応だった。ギュウジン丸がこの世界の相関図を全て把握しているわけがないのだから。

 

JJの言うパパとは、それ即ちロイ・マッカランのことである。血の繋がった親子ではないが、両者ともに本当の家族のような関係を築いてる。だがらこそ、ジャマー団を仕切っていたロイ・マッカランの身をJJは酷く案じていたのだ。

 

「ふむ…ガタイが良いと。デッドゾーン、そんな人間見たか?」

 

「ヴゥゥゥゥ…がぁあぁぁぁ!!!」

 

「っ!!何っ!?ぐぅっ!」

 

「グレンモルトさん!!」

 

アリーナを制圧したであろうデッドゾーンに、何か知らないか質問をするギュウジン丸。だが、その質問を無視しデッドゾーンは目にも止まらぬ早さでグレンモルトを襲った。数々の修羅場を潜ってきたグレンモルトは、その戦いの勘だけで攻撃を受け流した。ルピコが悲鳴にも近い声をあげるも、グレンモルトがすかさず

 

「皆!気を緩めないほうが良い!」

 

と声を張り上げ警告した。流石にグレンモルトはまだまだやれるらしい。心配していたルピコはほっと胸を撫で下ろした。

 

「おっと、すまないな。デッドゾーンはS級侵略者。故に制御が少し難しいのだ。その分力もあるにはあるんだがな。」

 

そう言って口角を上げるギュウジン丸。内心、イライラを抑えきれない者も少人数だがいた。だが、寸でのところでその感情を抑えおり、ギリギリ正面衝突は免れている。

 

そうだ、今一同の背後には住民達が居るのだ。背後と言ってもそれは決して近い距離などではなく、その周囲には無数のクリーチャーが跋扈している。確実に、一同の誰かが何か妙な動きをした瞬間に彼らは凄惨な末路を辿ることだろう。

 

「ル、ルカ姉……」

 

「大丈夫よ、きっと…きっとね。あの人がそう簡単にやられると思う?平気だから…落ち着いて、今は目の前の敵に集中するのよ。良いわね。」

 

「そう…よね!うん、パパのことだもん。きっとまた何かあるんだ。私はそう信じてる!」

 

「ふん。希望を信じるのは結構だが、時には現実を見ることも大事だぞ?」

 

「うるさいっ!元はと言えばアンタのせいでしょ!」

 

(くっ…となると……リュウセイもやられた可能性が高いの。彼奴の事だから生きてはおるじゃろうが…心配じゃ。)

 

考えられるは、アリーナへの放置。キョウカは見せしめのために連れてきただけで、その他は倒された地でそのまま伏している可能性。そんな事を一人推測するプリンプリン。

 

そんなプリンプリンの不安を知る由もないJJは、ギュウジン丸の言葉に猛反発する。その表情は、先程までの不安を感じさせない様な勇ましい者へと変化していた。

 

「それで…貴方は、そのデッドゾーンとやらを使い私達を倒すつもりなのですか?」

 

「はぁ…Q.E.D.、さっきも言っただろう。私は飽くまで互いに手を引くことを望んでいるだけだ。デッドゾーンはその取引に使ったに過ぎない。」

 

「意味が、分かりません……襲っておいて停戦を申し出る等…常人の発想じゃない。」

 

ここで初めてQ.E.D.は目の前の男に対して明確な恐怖を覚えた。

 

未知数だ。あまりにも未知数過ぎる。何を考えているのか全く理解できない。目的も不明、行動原理も不明、情報も足りていない。そんな状況の中『引き分けにしないか?』なんて提案をするものだから、最早考察する余地など無く、ただひたすらにドン引きするしかなかった。

 

(生物が最も恐れるもの…それは、『謎』……そう、ミステリーです。死んだらどうなるのか、この世界とは一体何なのか。考えても仕方がないことを考えるほど生物は恐怖心を抱く。ギュウジン丸という存在は、今それにとても近しいのかもしれません…正直、ゾッとしますよ…)

 

叡智を司るQ.E.D.だからこそ感じる恐怖。そんな彼女は、若干冷や汗をかきながらギュウジン丸をじっと睨みつけていた。

 

「一体どうしたら…」

 

ルピコがふとそんなことを呟く。現在の状況はほぼ詰みに等しい。こちらからできることは何も無く、かと言って引き下がる訳にもいかない。それほどまでに、住民の人質というのは酷く大きな存在だったのだ。

 

それに、結局VV-8の攻略法も見つかっていない。少しだけグレンモルトの剣先が当たっただけだ。これ以降判明したものは何もなく、ひたすらに時間だけが過ぎていく。

 

住民達は皆恐怖に支配され一言も声を発さない。ルピコ達も、会話一つでどうなるのか分からない以上、できることが限られてしまっていた。そんな中、ギュウジン丸だけが誇らしげに胸を張ってこちらの返答を待っている。住民解放の取引条件である、お互いの引き分け。それを口にするかどうか一同は悩み続ける。静寂の中生まれる微かな絶望に、誰もが終わりを幻視していた。

 

そんな、時だった。

 

「え?」

 

ルピコの目の前に、突如謎の亀裂が走る。ぽかんとしていると更に突然、その亀裂から強烈な光が漏れだした。

 

「な、何だ!?」

 

ダピコが驚きの声を上げる。すると次の瞬間、信じられない光景が目の前に広がった。

 

「よっとと…!っしゃー、やっと来れたぜ!」

 

「さぁ、今回はどんな戦いが待っているんだ!!?」

 

「フール、出来れば戦いなんてしない方がいい。」

 

「良かった…!何とか出来たみたいだね!」

 

「……はぁ?」

 

ルカが思わず声を出す。その声音は疑問によって固められており、多分相当なアホ面を晒していたと思う。

 

「え、えぇぇええぇぇ!!?!?」

 

「わっ、びっくりした。ってルピコお姉ちゃんだ!」

 

「へ?ど、どうして私の名前を…?」

 

突如現れた謎の四人衆。その中の内の一人が、ルピコの名を呼んだ。

 

「良かった…この世界はまだ無事だったんだね。」

 

「ヴィヴィ、それよりも周りをもっと良く見た方がいい。」

 

「え?周りって、えーっと……あれ、シティの皆!?ま、待って、ルカお姉ちゃんとJJお姉ちゃんも居るんだけど…!?」

 

「ブハハハハ!こりゃあ珍しいな!被害という被害がまっったく見られん!うむ、どうやら面白いことになってるようだ!」

 

「オイオイ、あんなにここ来ンのに手間取ってたってのによォ…今まで見てきた中で一番平和みてェだなァ?」

 

「い、いやいやいや!アンタたち一体何者!?それにヴィヴィって…」

 

好き勝手に会話をする四人。その時、この場にいた全員が呆然としている中、唯一ハッと我に返ったJJが至極当然のツッコミを披露した。

 

「あっ…そうだよね。混乱しちゃうのも無理ないか。」

 

うっかりしていたと、笑み浮かべながら頭をかくヴィヴィに似た人物。

 

「って…あれ?私の名前、分かるの?JJお姉ちゃん。」

 

「わ、分かるって言うか…ん、まって?名前が分かってるって、それって…」

 

「うん。私の名前はヴィヴィだよ!よろしくね、えーっと…この世界のJJお姉ちゃん!」

 

「も、もう…ワケわかんない…」

 

怒涛の情報量に、思わず頭を抱えるJJ。それを見ていたヴィヴィ?は『あぁ!余計に混乱させちゃった………』と思わず呟いていた。

 

「ん?……へっ、おいヴィヴィ。」

 

「どうしたの?」

 

「見てくれは平和そうだったけどよ、どうやらそうでもなかった見たいだぜ?」

 

そういう彼女…もといデッドゾーンは、ヴィヴィに対しあそこを見てみろと指を指す。そこには

 

「お父さん…やっぱりここにも居るんだね。」

 

「お、お前は…」

 

状況が上手く呑み込めていないギュウジン丸の姿があった。

 

「ヴィヴィ、かなり力を使ってしまったけど動けそう?」

 

「大丈夫、意外と平気だったよ。」

 

「そうかそうか!!なかなかヴィヴィも根性がついてきたな!」

 

ブハハハハ!と豪快に笑う彼の名は、サンマッド。ヴィヴィの身を案じているのはアダムスキーという。

 

「しゃぁ!!んなら話は早ェ、とっとと決めちまおうぜ!」

 

「ま、待ってくれ!」

 

「あァん?何だよ?」

 

デッドゾーンがいざ行かんと息巻いていたところに、ダピコが慌てて声をかけた。

 

「何だよ、じゃないだろう!?お前たちが私達に敵意がないことは何となく分かった。でも、幾らなんでも唐突すぎる!少しは説明くらいしてくれたって……」

 

「そんな時間、今はない。」

 

「っ、無いって…それってどういう──」

 

「デッドゾーン!あの人たちにクリーチャーが近づいてるよ!」

 

「はっ!良いねェ!肩慣らしには丁度いいッッ!!」

 

「!?」

 

ダピコが言葉を続けようとした時、ヴィヴィがデッドゾーンに対してとある報告をする。その瞬間だった。

 

「ヒャッハー!!!」

 

「……マジかよ。」

 

デッドゾーンの狂気的な雄叫びと共に、住民の周りにいたクリーチャーが殲滅されていく。誰の声か、その圧倒的な力に絶句している様子が伺える反応を示していた。

 

「チッ、流石に多いな。おいヴィヴィ!」

 

「何かな!?」

 

「オレだけじゃこの数相手に限界がある。ヤるのは危なそうなクリーチャーだけにするぜ。」

 

「え〜…しょうがないなぁ。」

 

「相変わらずのデッドゾーン。あの強さで戦闘狂じゃなければ凄く便利だったのに。」

 

「あァ!?オレは物じゃねぇ!撤回しろ!」

 

「りじぇくしょん、きょひする。」

 

「意外とコミカルな集団じゃの…」

 

狼狽えるプリンプリンを他所に、デッドゾーンは目にも止まらぬ早さでギュウジン丸のクリーチャーを圧倒していた。

 

「大方、コイツラ人質か何かにして自己中な計画進めようって魂胆何だろ?」

 

「じゃないと、こんな大勢の人達がいることに説明がつかない。」

 

「ほォー、やはりどの次元でもギュウジン丸は陰湿だな!」

 

「ぐっ…ぽっと出のヤツらがイキイキと……!」

 

先程まで優位に立っていたはずのギュウジン丸が、感情を明らさまにむき出している。その表情は心底悔しそうにしており、知略をせめぎ合っていた姿がまるでなかったかのような変化を見せていた。

 

「……キリコ、今まで見てきた未来にはこの四人は観測していたか?」

 

「少なくとも、見てはいない。」

 

「そうか……もしかして、彼女らこそが観測できなかった理由なんじゃないのか?」

 

「その可能性も……ありえないことじゃない。でも──」

 

「でも?」

 

「この位の時空の歪みならキリコでも頑張れば観測できる。問題なのは、数ある可能性のその多くの未来が全く観れなくなったこと。」

 

謎の少女、"ヴィヴィ"とその仲間たちの登場。同じ名を冠する者に、加えて姿形は全く違うがデッドゾーンと呼ばれてた彼女。

 

「ふむ……益々謎めいてきたな。一体何が原因なんだ。」

 

「一つ考えられるとしたら…やっぱり、この世の理を超えた、因果をも超越する何かがこのシティの未来に干渉しているとしか思えない。そう、イレギュラーが存在する。」

 

「それなら、禁断が当てはまるんじゃないのか?どんなに行動を変えようと、必ず来る未来が待っている。正に因果を超えた存在だと思うが。」

 

「それは多分、違う。そしたらキリコが禁断を観測出来た説明がつかなくなる。禁断は飽くまでも、未来を確定させることしか出来ないのだと考えている。」

 

「なるほどな…ならば尚更あの四人が怪しいものだが……頑張れば観測できる程度の事象に、イレギュラーを当て嵌めるのは些か納得もできないな。」

 

「でも、わかることも一つだけある。それは──イレギュラーは、シティの関係者で間違いないということ。これだけは確信してる。」

 

キリコは思い出していた。あの時盗み見ていた彼らの様子を。感じたことの無い悪寒に襲われたあと瞬間を。

 

(……でも、裏付けが弱すぎる。決めつけるのはまだ早計…未来のことを考えると、キリコの仮定は話さない方が良い……多分。)

 

胸の内に、誰にも言えぬ秘密を抱えるキリコ。本当ならば言ってしまいたかった。だが、未来という不安定な乱数を目の前にして、そんな賭けにも近い行為をする度胸は彼女にはなかったのだった。

 

「よぉし!俺様もそろそろ暴れるとするか!アダムスキー、お前はどうする?」

 

「考えもなしに突っ込むなんて、そんなバカな真似はしない。ギュウジン丸の事…きっと何かしら企んでる。だから私はこのまま少し観察させてもらう。」

 

「はっ、慎重なヤツ。」

 

「まぁまぁ、アダムスキーらしくて私はいいと思うな!それに救われたことだって少なくないしね。」

 

「それは…まァな。」

 

珍しく意見を尊重するデッドゾーン。その態度に三人は少しだけ驚きはしたものの、長い時間共に過ごしてきた為に生まれた信頼が彼女をそうさせたのだろうと思い、野暮にツッコむことはしなかった。

 

「幾らクリーチャーが居んのか知らねェが、これで一先ず人質は気にしなくていいな。」

 

「だけど、移動はさせない方がいいと思う。」

 

「だね、私たちの目の届く場所に居てもらったほうが安全…そうでしょ?」

 

「ブハハハハ!その通りだ!任せておけ、俺様は攻守共に優れているからな!!」

 

そういうと同時に、四人は構えをとる。本格的にギュウジン丸と敵対するつもりなのだろう。話の流れ的にはデッドゾーンとサンマッド、そして恐らくは……もう一人のヴィヴィが戦いに参加し、それをアダムスキーが観察する形を取るはずだ。一触即発、そんな雰囲気の中だったがそこで誰かが声を上げた。

 

「あ、あのっ!」

 

「ん?どうしたの、ルピコお姉ちゃん?」

 

「その、えっと……わ、私達にも協力させてください!」

 

「ハァ?余計なお世話だ、お前らは大人しくそこで人質でも見とけ。」

 

「ねぇ、そんな言い方は無いよ!」

 

「うるせェ!第一、お前らどこからどう見ても劣勢だったろうがよ!ダメージ一つ与えた形跡もねェってんのに、手伝える訳ないだろうが!」

 

ヴィヴィが咎めるも、それを気にもとめず真っ直ぐに言葉をぶつけてくるデッドゾーン。言い返せない事実にルピコが言い淀んでいると、アダムスキーが割って入った。

 

「ソーリー、デッドゾーンは正直じゃないの。さっきの言葉を翻訳したら、ここは危ないから皆はシティの人々を守ってあげてねって言ってることにな」

 

「黙れッ!それ以上言ったら殺す!!」

 

「?…みーぺぺむぺぺ……ん、援軍呼ぼうと思ったけどここじゃ電波が届かない。」

 

「テメェとぼけんなっ!」

 

「あ、あはは……」

 

「こ、これは…コミカルどころじゃないわね。」

 

束の間の寸劇に、ルピコは思わず苦笑する。ルカも若干顔が引きつっていた。

 

(まだか……まだなのか?!いつ到来するのだ、禁断は!!)

 

そんなやり取りなど眼中ないギュウジン丸は、未だ来る気配のない禁断の存在に焦りを感じていた。

 

突如目の前に現れたVV-8とその他のクリーチャー。一人はデッドゾーンとよぱれていたのを察するに、恐らくこの三体は過去に製造計画をしていたS級侵略者に違いない。途中で全てを投げやり、デッドゾーンだけ中途半端に完成させたっきりの計画だったコイツらが、何故ここにいるのか。

 

(恐らく、奴らは時間が崩壊したきっかけとなった者に違いない…!不味いぞ……別の私を狂わせた実績があると考えると、私のVV-8やデッドゾーンよりも遥かに上の力を持っているはず。組み替えても組み替えされるか、そもそも効かないか、そのどちらかがオチになるのが目に見えるッ!)

 

完全なる誤算だった。

 

この次元を見つけた時、ギュウジン丸は非常に運がいいと思っていた。何故なら、万が一があろうと多次元からこの世界に渡ってきて邪魔をする者などいないと考えていたからだ。

 

そう……………………"邪魔"されないのだ。

 

(力量を見誤った…!VV-8の力を、その可能性をッ!厄介な特性だが…VV-8は禁断クリーチャーでありながら、経験によって更なる成長をする可能性を秘めていたのだ……!想定を超えてた…私は…禁断を、機械だからといって舐めていた…!!)

 

「───ってことだから、アンタ達気をつけてよね!」

 

「ったく…注文が多いぜ、全くよ。」

 

「それに関しては同感。こんな次元は初めて。」

 

「面白い!ある意味では、俺たちに縛りが設けられた訳だ!やりがいがあるじゃないか!」

 

「JJ、お姉ちゃん……やっぱり、どの世界でもお姉ちゃんは優しいんだね。」

 

ヴィヴィが少しだけ声を震わせながら、それでも引き締まった表情でそう呟く。

 

「か、勘違いしないでよっ!この考えは一応、ルカ姉と一緒に決めたことなんだから!」

 

「!!そ、っかぁ……ルカお姉ちゃんも…あーあ……なんだか久しぶりに、会いたくなってきちゃったなぁ…」

 

「?あ、会いたいって言うか…私はその……こ、ここに居るけど…?いやでも、貴女とは初対面のはず、よね…?」

 

「え?あっ!え、えっとね!んーっと…そ、そういうことじゃなくてね!?そ、そのー…説明がちょっと難しいっていうか、なんというか……うぅ…口に出ちゃってたみたい…」

 

いつの間にか吐露してしまった本音に対し、ルカが珍しく天然な反応を示す。超常的な現象に思考力が鈍ってしまった結果なのだろうが、それがヴィヴィからすると恥ずかしくて仕方がなかった。

 

あっちの世界の皆に心情を知られるのはまだしも、事情も何も知らないこの世界の皆にまでルカお姉ちゃんやJJお姉ちゃんらを恋しがっているなんて、理解されてなくても恥ずかしい。

 

「と、兎に角っ!あの私を傷つけずにお父さんを何とかすれば良いんだよね!?」

 

「う、うん。そうだけど…」

 

「まかせて!きっと、二人の…いや、みんなの望む結果にしてみせるから!」

 

「ヴィヴィが珍しくやる気。任務遂行に捗りそうで助かる。」

 

「前々から思ってたんだけどよ、分かりやすいよなアイツ。カオに出まくってるぜ。」

 

「ブハハハハ!どの次元だろうと、見知った者の、それも強く好いている者に出会えれば嬉しいに決まっているだろう!俺様はそんなヴィヴィも単純だから好きだがな!」

 

「もうっ、からかわないでよ!はぁ……皆。」

 

準備はいい?

 

「「おう」」

 

「じゃあ…行くよッッ!!」

 

急に現れた四人組を見て最初に抱いた感想。それは、その場にいた誰もが持ったものだった。

 

なんだか雰囲気が良くて、和やかな集団。個性が皆バラバラで、見ていて飽きない。

 

これが大抵の者が抱いた感想だった。だが、そんな考えは次の瞬間覆されることとなる。ヴィヴィが掛け声をかけた途端、四人の空気が一変したのだ。圧倒的な威圧感、闘気、そして存在感。さっきまでふざけていたのとは明らかに違う雰囲気に、本能で察した。この四人は、とてつもない強者なのだと。それも、諸悪の根源であるギュウジン丸やその隣にいるVV-8と呼ばれる機械仕掛けの少女よりもだ。

 

「なっ、は、早」

 

「いやいや、作ったのお前だろ。」

 

そんなどうでもいいことを考えていた次の、僅か二秒後。ギュウジン丸の驚愕した声と、デッドゾーンの呆れた物言いが辺りに木霊した。

 

「嘘……あ、アイツ…もう倒しちゃったよ…?」

 

その次に声を発したのは、グレンモルトの隣にいたアイラだった。絶句する彼女の目の前には

 

「アガッ……ゴァァァ…!」

 

もう一体の、クリーチャーと言う謂れに近い容姿をしていたデッドゾーンが、地に倒れ伏している光景が広がっていた。

 

「しょうもねェー。これがこの世界のオレかよ。キメェな…中途半端にオレを造りやがって。なんたってギュウジン丸がこんな手を抜くような真似すんだ?」

 

「どうやらそれだけじゃない様だな。俺様やアダムスキーの姿がないぞ。理由は分からないがな。」

 

「単純に、製造が間に合わなかっただけだと思う。デッドゾーンを出しておいて、私達を出さない理由がない。それに、ギュウジン丸の今までの行動の傾向を考えても、隠すなんて行為は絶対にしない。」

 

「っ……!」

 

「凄いねアダムスキー。お父さん、図星みたいだよ。」

 

(何っ!?今の一瞬で見透かされただと…!?)

 

アダムスキーの指摘に見せた些細な表情の変化。それをヴィヴィは見逃さなかった。

 

内心、ヴィヴィは『何回お父さんを相手にしていると思ってるの。』と思っていたが、それを口にすると激怒されそうなので辞めておいた。というのも、幾ら性格や本人の本質が変わっていようが、どの次元においてもその人物の持つ思考回路や癖は余り変わらないらしいのだ。これは最近ヴィヴィが見つけた法則である。だからこそ

 

「お父さん、覚悟してね。」

 

このギュウジン丸は救えない。そう、倒すべき敵なのだ。

 

「なっ、うぁっ……!?」

 

次の瞬間、ギュウジンの体が宙に浮いた。驚きのあまり、声にならない悲鳴を上げるギュウジン丸。それと同時に、自由の効かない己の肉体に対し焦りを隠しきれない。

 

「ギュウジン丸、貴方が何も企め無いような状況なのは理解した。……ゼログラビティ。貴方はこの無重力空間に耐えられる?」

 

たった数秒の観察で、危険性の有無を判断したアダムスキーが能力を使いギュウジン丸を無力化する。

 

「ぶ、VV-8!なんとかし」

 

「いや〜、なんと無様なことか!まだ何かに頼るのか。まぁ多分……意味は無いと思うがな。」

 

いつも能天気な受け答えをしていたサンマッドが、ギュウジン丸が出すVV-8への指示内容を冷たくあしらった。

 

「皆〜!もう一人の私は無力化したよ!」

 

「…はっ!?」

 

思考する暇もなく、すぐ次の瞬間にはサンマッドの言葉通りのことが起きてしまった。一瞬理解が追いつかなかったギュウジン丸が、驚愕の顔色に染まる。

 

無力化したと、そう宣言したのは別次元のヴィヴィだった。

 

(バカなっ!あのVV-8が戦いを宣言してからまだ30秒も経っていないんだぞ!?私が浮かされ、VV-8に指示を出す……たったこれだけの間に、私のVV-8を攻略したとでも言うのか!?)

 

言ってしまえばデタラメな考察。先程までのピリピリとした緊張感のある会話などを全て無に返す、前代未聞の事例の仮定だった。

 

「どうして、って顔だね。」

 

「っ、キサマ…!私を愚弄するのもいい加減にしろっ!!」

 

「……そんなこと、言える立場じゃないくせに。」

 

「黙れぇ!!何故だ!何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!!VV-8が攻略される訳がない!!何かの……間違いだっ!」

 

VV-8を全幅の信頼を置いていたギュウジン丸は、VV-8の制圧という事実が酷く精神を乱していた。

 

「ううん、これは現実だよ。お父さんは私の力を全能だと思っている節があるのかもしれないけど……時間操作って、万能じゃないんだよ?」

 

「な、んだと?」

 

「このお父さんがどんな人生を歩んできたのかは知らないけど、兎に角詰めが甘かったね。」

 

そう言うと、ヴィヴィは一瞬の内に無力化したVV-8のいた場所からギュウジンの元まで迫って行った。

 

(あ、あいつも早い!私でも目で追うだけで精一杯だぞ!?)

 

ダピコは、目の前にいる少女の強さを再認識する。この戦いは最早、己のついていける領域ではないのだ。そう自覚するのに時間はあまりかからなかった。

 

「ひゅ〜…殲滅完了っと!今までに無いくらいの数だったぜ。」

 

「ブハハハハ!やっと終わったか、デッドゾーン!」

 

「やっとだァ?なんか鼻につく言い方だなァ?第一てめェ何やってたんだよ!」

 

「うん?見てなかったのか?お前がデッドゾーンを倒している間、俺様はその辺の雑魚を一掃しておったのだがな。」

 

「あ゛?嘘つけ。んじぁ俺が殲滅した奴らは何だったんだよ。滅茶苦茶居たんだぜ?」

 

「何を言う!あの程度、大量にも満たない数だったろう!俺様の金槌を前に奴らは大体二、三振りで消え去ったが?」

 

「んな訳ねェだろ!サボってただけじゃねェのか!?……あ、あれか!お前、確か数字が三くらいまでしか数え切れなかったんだっけか?本当はもっと振ってたんだろ。」

 

「ブハハハハ!面白いことを言うな、デッドゾーン!どうだ、ここは一つ勝負をしようとするか?!」

 

「まだ終わってないのに争わない。見ての通り、私は今重大なミッションをこなしている。集中力が途切れるから邪魔だけはしないで。」

 

同時刻、ヴィヴィがギュウジンに迫っていた頃ちょうどデッドゾーンが戻ってきた。どうやら、あまりに多すぎた敵軍の数に少々手こずっていたらしく、珍しく息を吐いていた。

 

思ったことを口に出すサンマッドに、半ばからかわれているような形で言葉を掛けられ、それにイラッときているデッドゾーン。そこからなし崩し的に口論へと発展していき、またくだらない喧嘩が勃発していた。因みに、サンマッドの話していたことは全て真実である。

 

ギュウジン丸を頑張って無力化していたアダムスキーの近くで喧嘩しそうになるものだから、アダムスキーは頭を抱えて忠告をしていた。

 

「こんな……ふざけた連中に…私が、負けた…?」

 

空中で呆然とするギュウジン丸。何も出来ずに悔しがる白衣の天才など、少しシュールな絵面な気もする。だが、誰もこの状況下でそんなことを考えるほどの余裕はなかった。

 

「うん、負けたね。」

 

淡々と、その事実を突きつけるヴィヴィ。

 

「……そう、か…ふっ、は、ハハハハハハ…!」

 

「恨むならお父さん自身を恨んで。私の感想だけど、今回戦った私…いや、VV-8はなんだか───少し、弱く感じたよ。」

 

「っ……!」

 

「…私だって、本当はこんなことしたくない。でもね、人を傷つけるお父さんを説得できたことなんて、一度もなかったんだ。……今ここでお父さんを見逃せば、絶対にまた繰り返す。だから、さよなら。」

 

勝敗は呆気なく決した。

 

ヴィヴィはイマイチ手応えのなかったギュウジン丸に、己の実力の成長を感じる。思えば、多くの次元を渡る度にギュウジン丸が彼女達を対処しようとしてくるので、それに慣れてしまったのかもしれない。

 

(正直に言うと、あの時私は特に何もしてないんだけどね。)

 

違和感と呼んでも良いほどの決着。VV-8と対峙したヴィヴィは、なるべく時を組み替えずに勝とうと思っていた。これには明確な理由がある。

 

(皆には強がっちゃったけど…本当は、この次元に入るのにかなりの力を使っちゃったんだよね…平気なのは嘘じゃない けど。)

 

心の中でため息を吐く。心配されたくない。気を使わせたくない。そんな思いでついついてしまった小さな嘘。だが、ヴィヴィには目の前にいる自分自身を制圧できる自信があった。戦いにおける勘と言うやつだろうか。兎に角、そんな気がしたのだ。

 

そして、それは現実となった。

 

ヴィヴィもこの結果には正直驚いていた。時間操作を使わせない事が重要になると考えていたヴィヴィは、結論として力勝負に持ち込もうと思っていた。なので、敵対した瞬間ヴィヴィはVV-8から時間操作という択を強制的に外す為、全速力で接近してみた。するとどうだろうか。どれ程の差があったのかは分からないが、VV-8は反応しきることができず結果として、簡単に抑えられてしまった訳なのだ。あとは簡単だ。時間操作をする余裕もないくらいにダメージを与えて、戦闘不能にすればいい。VV-8の頑丈さは自分が1番知っている。JJお姉ちゃんに言われた通り、完全には倒さずかなり手加減をした。

 

「お…とう、さ……」

 

「っ…」

 

我ながら随分と不気味である。ギュウジン丸にトドメをさそうとするヴィヴィを、VV-8は横たわりながらも鋭い目で睨みつけていた。思わず目を逸らすヴィヴィ。

 

禁断に呑まれ暴走する前のVV-8は、こうもギュウジン丸に従順だったのか。

 

そう思うと少しだけ…寒気がした。

 

(あぁ……私の運命も、これまでか。だが、垣間見た未来の結末とは違うだけでも…良しとした方が───良いのかもしれないな。)

 

何処かで、何かがポキリと折れた音がした気がする。ギュウジン丸は、初めて諦めた。そう、諦めてしまったのだ。未来に絶望し、それでも天才的な頭脳で抗い、でもどうにも出来なかったことに……酷く、打ちのめされてしまったのだ。

 

抵抗虚しく抗った結果得られたものが、未来は歪な形に変化するという情報だけ。それだけでも心を折るには十分だったというのに、加えて結末は変わらないときた。自分自身が滅ぶという、呪いにも似た結末が。過程がいくら変わろうが、結末だけは変えられなかったのだ。

 

圧倒的な力を前に、静かに目を閉じるギュウジン丸。次にくるであろう痛みを想像しながら、襲いかかってくるであろう攻撃を受け入れようとしていた───その時だった。

 

(…………なんだ?)

 

いつまで経っても、痛みが感じられない。

 

というか、さっき迄聞こえていた騒々しい声が何一つとして聞こえてこなかった。

 

 

まさか、もう既に私は死んでいるのでは。

 

 

と、そんな柄にもない考察をするギュウジン丸。思考を瞬時に一転するも、だからと言って抱いた疑問が解決できる訳でもなかった。

 

幸い、五感は全て機能している。そう思ったギュウジン丸は、その閉じていた瞳をゆっくりと開こうとする。その瞬間だった。

 

オォオオオォオオオオオォォ!!!!

 

シティに、唸り声とも言えない轟音が木霊し───

 

「あ……え…?」

 

ザクッ

 

とヴィヴィの掠れた声とともに、何かが地表へと突き刺さる音がギュウジン丸の耳に入ったのだった。

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