グォォオォオオォ!!!!
「チッ…!なんつー出鱈目な力してんだ!」
「風圧ですらこの威力とは…!只腕を大きく振るっただけとはとても思えぬ。」
衝突
多対一の攻勢で、シティは数的有利を取っていた。だが、相手は正体不明の禁断と呼ばれる存在。通常のクリーチャーと比べ明らかに大きいその体躯と、常軌を逸している単純なパワー。幾ら数的有利を取っていようが、そのハンデはあってないようなものだった。
「まるでっ、効いてる様子がっ、ねぇぞっ!!」
「当然だよ!こっちが情報集める前に来たんだから!対処法も何も無いって!」
グレンの愚痴にチュリンが突っ込む。シティに足をつけた禁断は、その大きさ故に動きを見せるだけで簡単に街並みが崩壊してしまう。その様子を見せつけられている一同は、尚更焦燥が加速していっていた。
「なァ!あれ本当に俺たちが知ってる禁断かよ?」
「ブハハハハ!!知るかそんなこと!」
「ヴィヴィは何か知ってる様子だった。今すぐにでも問いただしたい…けど、今は目の前の正体不明の禁断に集中すべき。えたにてぃすりーぷ……永遠の眠りを経験したくなければ尚更。」
「ケッ、結局分からずじまいかよ。ま、でも───腕はなるよなァ…」
どこまで行っても戦闘狂のデッドゾーン。流石のアダムスキーも頭を抱えていたが、デッドゾーンはそんな事など全く気にする様子もなく目の前の敵に集中力を割いていた。
S級侵略者の知る禁断の形とは、一体何なのか?それはとても簡単な答えだった。
(デッドゾーンの疑問……確かに、不可解な点。引っかかる事でもないかもしれないけど…嫌な感じがする。)
アダムスキーは一瞬だけ考え込む。
彼らの知る禁断はヴィヴィの他にあと一体しかいない。その一体とは───星
そう、この世界に衝突せんとする巨大な星のような見た目の禁断しか知らなかったのだ。というより見たことがない。てか倒してる。微かな記憶にある情報でも、ギュウジン丸がとある龍との戦いにて敗れた禁断のこと位しか頭に残っていなかった。
どの次元でも、キリコの観測した未来に現れる禁断はその星の形をしている。これは今までの旅で聞いてきた事なので間違いない筈だ。だから尚更、その姿に違いがあるのが気になっていた。
ガァ!!!
「!くっ…」
「どうした?らしくないぞアダムスキー。」
「別に…何でもない。」
考え事をしていたアダムスキーに、禁断の凶悪な攻撃が迫った。手を鉤爪の様な形にして、バレーボールをスパイクする見たいに振るう禁断。滅茶苦茶な動きが故に、その動きは見切りやすく簡単に避けることはできた。
サンマッドに心配されたことが癪なのか、平然を装うアダムスキーだったが、その態度も攻撃後を見ると一変してしまう。
「なっ、これは……なんて、威力…」
「お〜……危なかったなぁ!!アダムスキーよ!」
まるで子供が砂場を手で掘ったかのように、ゴッソリと地面が削り取られてしまっていたのだ。若干顔が引き攣る二人だったが、直ぐ様真剣な表情へと戻り改めて禁断と対面した。
だが、侵略者組が加勢した所で戦況が変わるはずもなく時間だけが過ぎていった。
(当然、だよね…相手は禁断。幾らS級侵略者の皆が強くても、越えられない壁は存在………しちゃうんだろうな。でも、信じたくないっ…!)
徐々に体力を消耗している仲間たちの姿に、ヴィヴィは言いようのない焦りを感じていた。
この時間軸のシティは、ヴィヴィのいたシティに比べてかなり弱い。そう確信できる要素はただ一つ、場数の経験の少なさだった。
本来であれば、今のシティは革命軍と侵略者の攻防によって混沌を極めていたはずである。それにシティの住民は巻き込まれ、そしてプレイヤーたちは精神と共に物理的にも成長する訳だ。だが、この次元は違った。
革命軍が何故か存在せず、何故かシティ側が突然の出来事のはずである異変に対応できてしまっているのだ。本来であれば禁断襲来とギュウジン丸の侵略はシティからすると唐突に起きた災厄の様なものである。だからこそ、そのイベントを乗り越えられたあの時空では皆が大きく成長でき、そして勝てたのである。
ゴールデンエイジと呼ばれていた気がする組織に終盤に少しだけ力を貸してくれたはずのドラグナーたちが既にいるのだ。それに、前の次元と比べて人がバラバラになるなんて状況にも陥っていない。いくら別の時間軸だからと言っても、ここまでの差があるものだろうか。
(そもそも、この次元に行くまでの間、全部何か変だったような…)
どうも引っかかることが多い。しかし、今はそんな事を考えている余裕はない。ヴィヴィは結論を導き出す前に思考するのを辞め、とにかくみんなの役に立てないか戦いを観察することにした。
「こんなにタフなクリーチャーを相手にするのは初めてだな。それに加え、純粋なる暴すら凄まじいときた。チュリンよ、今回の戦は少々厳しいものとなりそうだ。」
「バルガライゾウがそんな事を言うなんて余っ程だね…僕も何となく分かってはいたけど。」
「……どうしたものか。」
自然とは、力の象徴である。そして、全ての生命が生まれる場でもある。万物の生命は最期、自然へと還る。これが世の理であり摂理なのだ。
自然文明の力を持つバルガライゾウ。そんな彼が、今こうして弱音を吐いている。それは、この禁断という存在が如何に危険で恐ろしい存在なのかを示唆していた。
「……足りない」
「え?」
「エレナ、もう既に勘付いているはずです。奴を葬るのには、決定的なナニカが必要なのだと。」
「……」
「申し訳ないですが、このままでは確実に勝てな」
「スペル・デル・フィン。」
「っ…はい?」
申し訳なさそうに進言するスペル・デル・フィンを制止するエレナ。あまり踏み込んだことを言うべきでなかったかとスペル・デル・フィンが考えていると、エレナが口を震わせながら話を続けた。
「私は、信じたいんです。」
「…エレナ?」
「いつものように、皆さんの力を合わせればきっと悪に打ち勝てるのだと。絆の力は、何者をも凌駕するのだと。きっと……今回も上手くいくんだって。」
「……」
「……ダメなことは、重々承知の上ですけど…ね。」
「!……そう、ですね…」
エレナが物悲しそうに視線を落とした。あの強かな彼女が、ドラグナー達と強気に交渉していた彼女が、スペル・デル・フィンとパートナーになったあの日、彼女の見せてくれた心強い意思の表れを示してくれた……あの彼女が。諦めにも近い言葉を吐き、一瞬だが力なく項垂れていた。
それを見たスペル・デル・フィンは、只純粋に───悔しいと、そう思った。
「ピィ……ほ、本当に倒せるのでしょうか?」
ルピコは弱々しく呟く。クリーチャーとしての本能からだろうか。その体は猛獣を前にして怯える小動物のように震えていた。プレイヤーの手をギュッと強く握りしめるルピコに対して、プレイヤーは
「絶対に、大丈夫……ですか?」
力強く、手を握り返しながら笑顔で答えた。
「で、でも───いえ、ダメですよね。シティの皆さんを守ると決めた手前、こんな弱気になってちゃ。すみませんプレイヤーさん。私、少し変でした。」
えへへ、とはにかむルピコ。何時もならここで調子を取り戻し、勇猛果敢に立ち向かうのがセオリーだろう。しかし、今回の彼女はそれでもどこか弱々しい雰囲気が残っていて──プレイヤーもまたその違和感に気づくことができなかった。
「……ルカ様。」
「ル、ルカ姉…」
ネロ・グリフィスとJJが不安げに名前を呼ぶ。ネロ・グリフィスは主の身を案じ、JJは禁断の力を前に感じた不安をルカにぶつけるように。それぞれが別の意味で呟いていた。
「…どっちにしろ、やらなきゃやられるわ。それに……私からすると、アイツの事よりアイツに負けた時の方が怖い。それにまだ、ヴィヴィと全然話せてないもの。未練を残して死ねないわ。」
「…ですね。」
「だねっ」
「──行くわよ。」
力強い彼女の言葉には、有無を言わさない確かな威圧感があった。
「嫌な、感じだぜ…」
「あぁ…非常に不味いね。」
「味方全体の士気の低下を確認。マスター、このままでは勝敗に関わる程重要な欠点を抱えてしまうことになる。」
「わかってる。私としても、こんな所で諦めるなんて考えてはいない。それは皆も同じだろう。だが──事実として、禁断に対しての決定打が無いのは確かだ。」
「……やっぱか。手応えが全くねぇもんなぁ。」
自信なくそう呟くグレンに、ゼロ・フェニックスが近づく。
「ハァ……全く、不甲斐ないな。今までのお前は幻だったのか?それとも、白守進の一件で燃えたぎっていた熱が冷めたのか?」
「…かもな。」
「なっ…!グレンッ、つまらん戯言はよせ。」
「戯言じゃねぇよ。あと、熱が冷めた訳でもねぇ。ただまぁ……昔より考えることは増えたかもな。」
何処か冷たい瞳。その奥には以前彼が見せていたような燃え盛る炎が、今は消えているようにゼロ・フェニックスの目には写った。
「ッ!!…らしくないぞ!!俺の認めたグレンはそんな女々しい人間ではない!!」
「なら、それはお前の勘違いだっただけかもな。俺にはそういう側面もあったってことだ。」
「これ以上俺を失望させるな!分かっているのか?お前が堕落すればする程、比例して俺の格も落ちるのだぞ?つまり、今お前は俺を愚弄しているのと何ら相違無いということなのだ。」
ゼロ・フェニックスが認めた人間。それが火の守護者グレンである。何事にもめげず挑む強靭な精神。広い器で何もかもを受け入れる豪胆さ。何事にもなんの隔たりなく、毎日を全力で生きているのが──ゼロ・フェニックスから見たグレンなのだ。
頭は少し弱いが、その生き様は正しく強者のソレだ。だから認めた。勿論、出会った時の印象も強く残っていはいる。諦めの悪さ、だがそれでいて芯の通った強い意志を持っている。そして何より、恐怖とは無縁だと感じさせる能天気な性格。様々な要因が重なって今があるというのに、そのグレンが今どうなっている?
ゼロ・フェニックスの解釈と違った思考をし、そして停滞している。いつも突っ走っていたあのグレンが、この有様だった。
故に、グレンを認めてしまったゼロ・フェニックス自身もまた己の存在を蔑むしか無くなってしまう。見る目を間違えた愚かな不死鳥として、そのレッテルを一生自分自身に貼り続けて生きるしか無くなってしまうのだ。
そんなことは、ゼロ・フェニックス自身が許さない。だから、そんなグレンにひたすら慣れない叱責をするしかないのだ。
「今は身内同士で争っている場合じゃない。」
「……キリコか。黙れ、これは俺の尊厳に関わる問題だ。」
「尊厳?世界の破滅が近い状況でそんなことに拘るなんて信じられない。」
「言ってろ。俺の心情など機械風情に理解できるか。」
「理解どうこうじゃない。士気が下がってると言った筈。貴方の発言は状況を悪化させるだけ。つまりデメリットでしかないということ。」
「止めないか二人とも!!!君達のやり取りが一番生産性の無い会話だ!そんな事して……グレンがどんな気持ちで二人を見ていると思って」
「良いんだ。」
最早蚊帳の外となっていたグレンが、ひとこと言う。
「っ……すまない…」
哀愁漂うグレンの物言いに、仲裁に入っていたカイトは余計なことをしてしまったのかもしれないと後悔した。
「キリコ、庇ってくれるのは嬉しいが…俺もそんなにやわじゃ無い。守られ続けても惨めになるだけだ。気持ちだけ受け取っとくぜ。」
「……ごめんなさい。」
自身の発言が、如何にグレンの感情を揺さぶっていたのか察するキリコ。視線を落とし、シュンとしながら謝罪するキリコだった。
「……」
バツが悪そうにするゼロ・フェニックス。その顔を真っ直ぐと見据えグレンは
「お前の言うこと……正直刺さったぜ。」
「…ふん。」
あくまでも冷静に物事を伝えた。グレンらしくない話し方に動揺するカイト。しかし、次の瞬間カイトはその認識を改めることとなる。
「俺らしくない……分かってる。あぁ分かってるさ。進の件で熱が冷めたってのも、言い得て妙ってやつかもな。」
「…どういう、意味だ?」
カイトは実直に思ったことを口にする。
「怖ぇんだ。」
明らかにグレンの声のトーンが下がる。
「別に禁断の事が怖いんじゃねぇ。その……もし皆を守れなかったらって思ったら、な。またあの時見てぇになる可能性もあるだろ?不意をつかれて〜みたいにな。何しろ相手は正体不明のクリーチャーだ。サスペンスみたいにわからねぇ事の方が多いんだぜ。」
「あぁ……」
「ゼロ・フェニックスは多分、俺の事を奮い立たせようとしてくれたんだろ?」
「……チッ。」
「…悪いな。」
舌打ちしながら目を逸らすゼロ・フェニックス。それはつまり、イエスと言うことでいいのだろう。
「…そんな意図が……」
キリコの表情が曇る。グレンの話が事実ならば、キリコはゼロ・フェニックスの作戦を無駄にしてしまったという事になる。察せなかったとはいえ、彼なりに考えた行動を踏み荒らす行為をしてしまった事にキリコは罪悪感を覚えていた。
「えっと、その……」
「……いい。」
「え?」
「気にするな。俺も少し……い、言いすぎたからな。幾ら作戦とはいえ…な。」
喧嘩両成敗。余計に口出ししてきたキリコと、やり方が少し強引すぎたゼロ・フェニックス。どちらにも多少なりとも非が存在していた。
謝罪はしない。何故なら、本来このような喧嘩などする必要がないからだ。原因は全て禁断とギュウジン丸にある。だから謝らせるなら───せめてギュウジン丸にさせよう。
二人の間にある共通認識。それが上手く噛み合い、これ以上の会話をすることはなかった。
「兎に角、お前の言葉マジで突き刺さった。でも俺……目、覚めたぜ。どんな野郎でも、俺達ならきっと大丈夫…あぁ、大丈夫だ!今までだってそれで乗り越えてきたんだ!お前ら、やってやろうぜ!!」
「…ふん。全く、この俺にこんな苦労をかけさせるな。」
「あぁ、悪かったな!」
「ふっ、元気になった途端煩いな、お前は。」
ゼロ・フェニックスが微かに笑みを浮かべる。その変化に誰も気づくことはなかった。
「君の気持ち、私もよくわかるよ。何せ、今預かっている命が余りにも多すぎるからね。」
「そうか…お前も当事者だったもんな。」
「恐らく禁断の強大な力に対しての不安と、私たちの過去の経験から来る微細なトラウマ的要因で、無意識的に恐怖を感じていたんだろう。これがキリコの士気低下観測の結果の理由だろうな。」
その証拠に、あからさまに元気がなくなっていたのはサスペンスの事件に関わっていた者たちだけだった。グレンモルトやアイラ、Q.E.D.にプリンプリン達とダピコまで。彼らは全くと言っていいほど禁断に対して怖気付いていない。
「取り敢えず良かったよ、グレンの気持ちに気付けて。」
「悪いな、迷惑かけちまって。」
「ふっ…謝る必要なんてないさ。それよりも今は──あれだ。」
グレンの件はひと段落ついた。その次はどうしようかとカイトが禁断を眺めながら呟く。
向かっていく仲間たち。デッドゾーンの猛攻、サンマッドの強襲、グレンモルトとアイラの連携攻撃。プレイヤーとルピコ、そしてダピコの攻撃。ルカにJJ、ネロ・グリフィスにエレナとスペル・デル・フィン……ここまでしても全くダメージが通っている気がしない。それを見てカイトは頭を抱えた。
「にしても、ルカは気合い入ってんな。」
「確かにそうだね……だが、何処か危うく見える。何を彼女があそこまで必死にさせるんだろうか。」
「ルカの口振りからして恐らく…VV-8に相当な肩入れをしているのが原因だと思う。VV-8を守りたいという気持ち──それが今のルカは人一倍強い。」
キリコの考察にグレンが反応する。
「でもよ、別にそれって良くないか?やる気があるのはいい事じゃねえか。」
「さっき、ゼロ・フェニックスが貴方のことを貴方らしくないと言ったこと、覚えてる?」
「あ、あぁ……覚えてるけど…それがどうしたんだ。」
その問いにキリコは神妙な面持ちで話を続けた。
「禁断を前にして貴方の調子が悪くなったように、今のルカも少しだけまともじゃなくなってる。」
「なっ、それって…」
「うん。ルカの場合はそれが顕著に現れてる。何時も冷静に物事を判断しているのに、今ではまるでグレンみたいと言うこと。」
淡々と説明するキリコの姿に一同は、先程のグレンの変化を目撃した時のような不安を抱くことをはなく──『でも……』と続きを話すキリコの言葉に、逆に安心することとなった。
「これは、良い変化。寧ろ一番頼もしい。」
「フッ…そうか。」
カイトがニヤリと笑う。
これ迄、たくさんのことがあった。辛いこと、苦しいこと、決断を迫られること……どれもこれも、あり過ぎたと言っても過言では無い。抱えてしまう悩み事だって、一般のそれと比べるときっと並大抵のものではない筈だ。だが、それでもここまで何とかなってきたのだ。
だからこそカイトは嬉しいのだ。今までの経験が、こうして明らかに目に見えてきているから。こんな逆境に飲まれてしまうことなく、勇敢に立ち向かう人間がこんなにもいるのだから。
(そう考えると、プレイヤーは異常な程の精神の持ち主だ。)
一度たりとも諦めた姿を見たことのないプレイヤーに対して、最早畏敬の念すら覚えるカイト。
(私達もかなり精神面では強いと自負している方だが……流石に負けるな。)
そんなどうでもいいことを考えながらカイトは、状況を安定させるべくとある行動に移すことにした。
「皆ッ!!!!聞いてくれ!!」
「何っ、かしらッッ!!!」
最初に反応したのはルカだった。
いつの間にか一人になっていた──いや、正確には隣にキリコがいるが──カイトは、大きな声でチーム全体に呼びかける。
禁断の咆哮が響き渡る中、カイトはそれにも負けず劣らずの勢いで声を出す。
「我々はッ!!!この戦いを、必ず勝利しなければならない!!!!」
「っ…カイト、さん。」
顔に曇りを残すルピコが、その名をつぶやく。
「だからこそ!!!私の考えを聞いて欲しい!!!!」
柄にあっていないその大きな声を 、カイトは喉を潰さんとする勢いで酷使し続ける。
「奴を倒すには、今のままでは確実に無理だ!!!理由は圧倒的な火力不足にある!!」
度々話題に上がっていた決定打の話。この認識を共通のものにする。それが、カイトの狙いだった。
「だが、力を合わせ一点に攻撃を集中させればいけるかもしれないんだ!!!!」
「ハ、ハハハ……ハハ…!!馬鹿め…禁断に、そんな隙などある訳が無いっ!!」
ギュウジン丸が横から余計な口を挟む。その声音には何処か悲壮感に満ちていた。
「っ、それは……すまない、皆。攻撃を加える方法はまだ…見つかっては居ない。だ、だが!!!私の考えは恐らく間違っていない筈!!だから頭の中に入れておいてくれ!!少しでも隙が出来たら、それと同時に強力な攻撃を同じ場所に与えるんだと!!!!」
もしかすると勝てるかもしれない。先の見えない道に一筋の光が見えてきた。そう感じたチームは、僅かだが確かな希望をこの戦いに見出すことが出来るようになっていった。士気も上がり、連携もさらに上手く行くようになることだろう。
カイトの機転により状況はほんの少しだが回復した。後は隙をどうするかだ。そう考えた一同は、禁断の攻撃で話し合う暇がないため孤独に思考する。誰と相談することもなく、黙々とだ。先のカイトのように大声を出してもいいが、そんな暇はもう無い。声を出すのにも多少なりとも体力を使う。今はシティの人々を守っている最中だ。もう余計なことはできないと一同は感じていた。
(うるっさいわね禁断ってのは…!!)
叫び続ける禁断を前に、ルカが内心舌打ちをする。
連携とは、作戦や共通の思惑があることで成り立つものだ。その中でも最も大切なのが"会話"である。会話する暇さえ作れない自分自身にも、常に工事現場にいるのかと錯覚させてくる禁断にも、憤りを感じられずにはいられないルカ。それはまるで、自身の無力さを象徴しているような気がした。
目標を見つけたものの、それを達成する術を持ち合わせていない一同。消耗した体力が思考力を奪っていく中、尚も禁断の咆哮とギュウジン丸の絶望しきった笑い声が淡々と響き続ける。シティの住民の中には、幼い年齢の者が涙を流しているという姿も散見されてきている。今まで禁断の圧で声一つすら発せなかった人々が、今になってやっと事態を理解してきたのだ。
焦燥だけが募っていく。未だ隙を作れずにいた一同を見ていたヴィヴィは、一瞬でも油断してしまった過去の自分を強く恨んでいた……そんな時だった。
「────!!!!」
『!?』
ナニか……とてつもない咆哮が、鳴き声が場を支配した。その突然のことにルピコ達は愚か、あの禁断ですら動きを止めた。
「皆さん!この私をお忘れですか?」
次に聞こえてきたのは、聞き馴染みのある声だった。
「あ、あなたは…!」
ルピコの表情がぱぁっと明るくなる。
「なんだ、アレは…?」
「あぁ!アレ見たことある!確か……」
ギュウジン丸が素っ頓狂な声をあげる。その少し離れた場所で、封印されていたヴィヴィが虚をつかれたような顔をしながらも、どこか嬉しそうに呟いた。
「Q.E.D.さん!!!」「オール・オーバー・ザ・ワールド!!」
「すみません、調整に少し遅れてしまいました。」
「─────!!!!!!」
禁断にも引けを取らない…いや、禁断よりも 遥かに大きい巨大な龍が再び鳴く。ニヒルな笑みを浮かべているQ.E.D.は、オール・オーバー・ザ・ワールドをまるで従えているかのように地を歩き現れた。
「これは…驚いたな。」
「そういえば…途中から何か足りない気がしてたけど……」
「一体いつの間に…?」
「なんじゃ!?もしや、アレが以前お主らの話しておった世界を半壊させる程の力を持つという…?」
各々の反応を見るに、オール・オーバー・ザ・ワールドの存在は禁断との戦いで使用されることすら想定されていなかったことが伺える。様々な疑問を唱える一同だったが、それを
「私が禁断の対策をしないとでも?」
とQ.E.D.は得意げな表情で一蹴した。
「元より、禁断の存在そのものは知っていました。だから私は壊れてしまったコレの再開発を進めていた。その作業も終盤に差し掛かった時、丁度よく貴方たちが私に相談してくれた訳です。ならば当然、予め開発を終わらせておくのが筋というもの。安心してください、以前のように暴走することはありません。禁断の突然の襲来には少々肝は冷えましたが……私は天才ですからね。あっちの世界に置いていたオール・オーバー・ザ・ワールドを短時間でこちらの世界に連れてくるなど、造作もないことなのです!」
「ブハハハハ!!物言いは鼻につくが、随分と頼もしい味方が来たな!」
「完全に予想外…まさかまた拝むことになるなんて。」
「それくらい緊急事態ってことなんだろ……癪に障るけどな。」
「これなら…これなら勝てるよ!!」
ヴィヴィ達は一度実戦で禁断と戦う際、力を貸してくれたオール・オーバー・ザ・ワールドを知っている。だからその実力は理解していた。それはルピコ達もそうである。知らないのはゴールデンエイジの面々位だろう。
そして、これで全てが分かった。
「足りないナニカとは……この事だったんですね。」
「えぇ、恐らくは。」
スペル・デル・フィンの発言が点と点で繋がった。求めていたのはこの力だったのだ。そう理解した瞬間、弱気になりかけていたエレナの心に熱い闘志が灯る。
「話は全て聞きました。隙を作れなくて困っているのですよね?」
「あぁ、そうなんだ。」
「ならば簡単な話です──頼みますよ。」
「───!!!!」
カイトの返答を聞いたQ.E.D.が、オール・オーバー・ザ・ワールドに最早指示にもなっていない指示を出した。また大きく鳴くと、次の瞬間
グゥゥウゥ!?
オール・オーバー・ザ・ワールドを警戒していた禁断が、呻き声を上げながら固まってしまった。
「な、何が起きたんだ!?」
鬼丸が驚いているとまたもや得意げな表情をしたQ.E.D.が自信満々に答えた。
「オール・オーバー・ザ・ワールドは元々ドラグハート・フォートレスのクリーチャーです。その力の一部…龍魂教会ホワイティの力を使ったに過ぎません。禁断程度、動きを封じるなど容易に可能な」
『今だぁぁぁぁ!!!!!』
……前言撤回、答える前に全員突撃し始めてしまった。
「ってえ!?み、皆さん私の説明は!?」
「うるせェ!長ェんだよ!」
「そんな!これでも結構苦労したのに!」
「いいからさっさとお前も手ェ貸せ!」
「うぅ…なんか私何時も不憫じゃありません?」
しゅんと落ち込みながらも、Q.E.D.は再びオール・オーバー・ザ・ワールドに指示を出す。
──特大の攻撃を加えろと。
『はぁぁぁぁぁ!!!!!』
突如発生した好機。逃す訳にはいかない。雄叫びをあげながら一同は禁断へと向かっていく。そして力の籠った一撃が禁断の腹部辺りに衝撃を与え遂に
グゥ!?ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ア゙ァ゙!!!!
禁断は絶叫しながら消滅した。
「ハァ、ハァ……」
「や、やった…のか?」
息が絶え絶えのルピコ。 その横でダピコが静かに呟く。
「敵性反応、消滅……ミッション、コンプリート。」
キリコが淡々と語る。
「ってことは…!」
JJが期待を込めて言葉を発し
「終わった、と言うことね。」
ルカが戦いの終わりを告げた。
『おぉおおおぉぉ!!!!』
「バカな…バカな…!!ありえ、ない!!そんなバカなことが!!」
シティの住民が、歓喜の雄叫びをあげる。その裏でギュウジン丸が膝を付き両手を地面に叩きつけながら現時逃避をしていた。
「ギュウジン丸さん。」
「……」
ルピコが声をかけるも無視するギュウジン丸。
「貴方の言う禁断は、私達が倒しました。」
「…っ」
肩を震わせるギュウジン丸。それは悔しさから来る震えなのか、それとも禁断から開放されたが故の安心感からくる震えなのか。この場にいる誰もが知る由もないことである。
「……しろ」
「……はい?」
「…好きに……しろ…」
相当ショックだったのだろうか。力なく呟くそれは、まるで別人のように感じられた。
「煮るなり焼くなり…好きにすればいい。」
「!!ダメッッ!!!!!」
「え?…ピィィ!?」
所謂燃え尽き症候群と言うやつだ。ギュウジン丸の努力がなんの意味もなしてなかったと理解した為、無気力となりルピコに好きにしろと、そう言った。だが、それを聞いていたVV-8が目を見開き全力でルピコへと迫る。
驚きの余り尻もちを着いてしまうルピコ。思わず目を瞑ってしまうルピコだったが、ガキン!と金属と金属が激しくぶつかりあったような大きな音が目の前から聞こえてきた。それに再び驚きつつも、ゆっくり目を開けるとそこには
「大丈夫ですか?」
「ほっ……助かりましたぁ…ネロ・グリフィスさん。」
ルカのパートナーであるクリーチャー、ネロ・グリフィスが佇んでいた。
「良くやったわね。」
「ふふっ、このくらいお易い御用ですわ。それよりも──どうするつもりですの?」
語気を強めるネロ・グリフィス。ルカのことが大好きな彼女のことだ。そのルカが大切に思っているシティを滅茶苦茶にされたのだから怒るのも当然だろう。
「くっ…!」
「…まだまだ元気そうですわね。もう少し痛めつけなければ気がすまないのでしょうか。」
呪文による障壁か、ネロ・グリフィスの前にある不思議な力によってVV-8の手は彼女の寸前で止まっていた。体制から見るに、ルピコに殴りかかろうとしていたようだ。
止まったままの腕を震わせながら力を込めるも、一向に進む気配はない。ヴィヴィの活躍もあり相当な弱体化がなされているようだった。
「やめなさい。手出しは無用よ。」
「ふむ……分かりました。」
「ヴゥゥ…!!……!?…アァ!?」
まるで獣のような唸り声を上げているVV-8。だが突然あったはずの壁が無くなり困惑……と思った瞬間、VV-8は謎の力で胴体を強く縛り付けられた。
「悪く思わないで下さいまし。苦しい思いはさせないであげるので。……何ですプレイヤー。辞めてください、手は出してないですわ。少し拘束しただけです。」
VV-8が表情を歪めるのでプレイヤーがネロ・グリフィスに近ずくも、危害を加えていないと知り安堵する。それはルピコも同じであった。
「ヴゥゥ!!お父、さんはっ…!やらせ、ない…!!!」
「ちょっと落ち着きなさい。まだルピコは何も言ってないでしょう?」
「!で、でもどうせ…!」
「別に抵抗するなら構わないわ。けれど…それじゃあ自分の首を締めるだけよ。」
「…?」
「…ふふ、機械なのに案外ポンコツなのね。」
何を言っているのか分からないと言った顔でルカを見つめるVV-8。
「あそこにいる貴方のそっくりさんが何をしたのか知らないけど、恐らく貴女は今力を使えない。違う?」
「……」
「その状態で抵抗しても無駄に体力を消耗するだけ。ここはお互いのためにも、一旦冷静になるのが得策だと思うのだけれど。」
「…くっ」
諦めたのか、VV-8は力無く項垂れた。
「貴方達の処遇については私やルピコだけじゃ流石に決められないわ。だけど貴女の様子を見るに…なるべく早くした方が良さそうね。ここで待ってなさい、話し合ってくるから。続きはその後でね。ネロ・グリフィス、ヴィヴィの感じを頼むわ。ルピコ、プレイヤー。私達はみんなの元へ一旦集まるわよ。」
「了解しましたわ。」
「分かりました。行きましょう、プレイヤーさん。」
ルカはそう話すと、ネロ・グリフィスを置いてルピコ達と共に仲間の元へと歩を進めようとした。
それを遠目で眺めている存在がいた。その存在とは
「なぁ、この槍抜けないのか?」
「うーん…それがちょっと難しくて。」
「ム、少しだけ嘘を吐いているニオイがする。」
「うぇぇ!?な、なんの事かな〜!?」
「ブハハハハ!目が泳ぐ泳ぐ!相変わらずヴィヴィは嘘を隠すのが下手だな!」
「う、嘘って…私がどんな嘘ついたっていうの。」
「そんな証明は簡単。ヴィヴィは封印解除を途中で忘れてルカ達のやり取りを見ていた。どう?」
「うっ…」
「びっくり。カマかけただけなのに当たった。」
「えぇ〜!ひ、酷いよアダムスキー!」
「わっかりやすいな〜お前。」
「もう〜デッドゾーンまで!」
絶賛バカをやっているヴィヴィであった。
「それにしてもアイツ何だったんだ。見た事ねェ禁断クリーチャーだったよな?」
「そうだった。ヴィヴィ、あれは一体何?貴女は何か思い当たる事がありそうだった。」
二人に言い寄られるヴィヴィは、今だ解けぬ封印のせいで直立不動まま答えることとなる。その姿は些か不自然で、何とも不思議な光景だった。
「う〜ん…私も全部知ってるって訳じゃないんだけどね。あれは確か──ドキンダムX、って名前だったかな。」
「ドキンダムX?」
聞き覚えのない名に首を傾げるサンマッド。
「そう。私達が倒した禁断の星は覚えてる?」
「うん。」
「禁断の力の大元はあの星なのはわかると思う。そして、そこから派生して禁断の力を持つクリーチャーが生まれてくるって言うのも。私もその一体だしね。ドキンダムXは、その生まれてくるクリーチャーの中で最も純粋な力を持った、言わば王道的なクリーチャーなんだ。」
「成程、でも王道と言っても具体的にはどう言った部分がそう言えるの?」
「えっと…例えば、禁断クリーチャーで言うと私もそうだと思うかもしれないけど……その出自は異なるよね。」
「あぁ、確かにヴィヴィはギュウジン丸ありきの存在だもんな。」
「そう。そこがポイントでね、私の力は純粋な禁断の力に誰かの手が加えられたモノで、ドキンダムXは禁断の星から生まれた誰からの手も加えられてない純粋な存在なんだ。言っちゃえば私は邪道で、ドキンダムXが王道。こういう事だよ。」
「じゃあ、そこにある明確な違いは何?時間組み替え?それともドキンダムXが貴女に使った封印?」
「大体そうかも。正確に言うんだったら、本来禁断の力は暴力性が高いもので、そこに封印能力がある感じ。でも私の場合は、禁断の力を応用して利用してるから、その力を機械で制御して自由に時間を組み替える能力を使ってるみたいな…だと思う。」
「…つくづく思う。ギュウジン丸は天才なのにその才能を活かしきれなくて勿体ないって。考えても仕方ないけど。」
「…だね。」
「うーむ……サッパリ分からん!要はドキンダムXはヴィヴィよりもパワーがあるって事でいいのか!?」
「はぁ……ンなのゾンビでも理解できるぜ。」
やれやれとデッドゾーンが呆れていると、話し合いが終わったのかルカ達がVV-8へと近づいて行くのが見えた。その表情などこか優しげである。
(別の私が救われるなんて初めて見るかも。今は凄く警戒してるみたいだけど……きっとルカお姉ちゃんなら大丈夫だよね。こっちの私、大変だろうけど頑張って!)
ルカならVV-8、もといヴィヴィを必ず救ってくれる。ヴィヴィにはそんな自信があった。これまでの旅で初の事象だけれど、不思議と悪い気はしない。やはり心のどこかでヴィヴィは別の己自身を倒すことを嫌っていたのだろう。
それにそんな事よりも──
(お父さんは……どうなるんだろう。)
「クソ…クソッ……私は、私は一体何のために生きて来たのだ……」
事件を起こした張本人、ギュウジン丸が生き延びたことが気になっていた。
過去にも善良とまではいかずとも、悪の心を持たないギュウジン丸はいたにはいた。だが、そのどれもが悲惨な末路を辿るのだ。それが運命だとでも言うように。恐らくギュウジン丸とは、禁断と共に有る存在なのだろう。運命共同体と言ってもいい。
どれだけ抗おうと禁断と共に散るか、禁断が倒される前に消え去るかのどちらかが確定しているのだ。可哀想だと思う、悲劇だと思う。だが……ヴィヴィはもうそれは仕方の無いことなのだと、受け入れてしまった。だからこそまだ先がありそうなギュウジン丸の存在が気になって仕方がない。
(でも……しでかしたことの罪は重い。良くも悪くも、シティの皆次第だろうな。)
この次元のギュウジン丸は少なくとも悪よりの思考の持ち主なのは間違いない。だが、その中にも微かな迷いが見受けられた。それが何なのかは分からないが、兎に角心が不安定なのは分かっていた。
封印解除の作業を進めつつヴィヴィは目の前の光景を眺める。ルカが拘束されているVV-8へと近づき、何かを告げようとしている光景が広がったその瞬間───事件は起きた。
『あ、あぁぁ!?』
「っ!?ひ、悲鳴!?」
それまで賑わっていたシティの住民達の中から一人の叫び声が聞こえてきた。 それに驚くヴィヴィ。それと同様の反応を見せる面々だったのだが、次の瞬間一同はその驚きを超える光景を目にし一瞬だけ頭が真っ白になる事となった。
『う……うえ…』
「───え?」
乾いた声を漏らすヴィヴィ。その視線の先は、先程叫んだ人物の指さす空に向かれていた。
「……ハハ。」
「…笑えんな。」
「…エ、エマー…ジェン、シー……?」
侵略者組はひたすら困惑するのみ。何故ならそこには
「……嘘、だよ。」
ヴォオオォォオオオ!!!!
グォォォォォォ…!
ア゙ア゙ァ゙ぁアァ゙ァ゙ァ゙あ!!!!!!!
空を覆う星のように、無数のドキンダムXが大量に鎮座していたからだった。
空が赤く染まる。絶望は、何時も予告無しに起きる。それが最悪のタイミングで……起きてしまった。