女性だらけの逆転世界でコンビニで働いてる男。   作:夏のミカン

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3話

 

19時を回り、辺りも暗くなり始める。

柊木さんが「残りの仕事は私がやっておくから西原君は先に上がっていいよ」と言ってくれた為、今日は定時で上がらせてもらう事になった。

 

「すみません、柊木さん。ありがとうございます。お言葉に甘えて先に上がらせてもらいますね。お疲れ様でした」

 

「いーよー!そんなの全然気にしないで!それじゃ、また同じシフトの時にはよろしくね!」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

「ふふっ、絶対(・・)だからね?千里お姉さんとの約束だぞー?」

 

「そんなに念を押さなくても理解してるので大丈夫ですよ、柊木さん」

 

人懐っこい笑顔を見せながら俺に手を振る柊木さん。挨拶を済ませて店内を後にする。外はすっかり夜の帳が下りていた。

 

「お腹空いたな……。スーパーに寄っていくか」

 

コンビニで働いてるんだからコンビニで弁当でも買えばいいじゃない、と思う人もいるかも知れないが、俺は自炊派なので、いつも帰りに行きつけのスーパーに立ち寄り、夕飯の買い出しをしている。

 

カート置き場にカゴを乗せて、野菜コーナーへ向かう。店内は右を見ても左を見ても女性のお客さんしかいない。

 

「…え? 男性がいる…幻?」

 

「めっちゃイケメン……気だるげな雰囲気と合わさってもう色々ヤバい……あ、鼻血が…ズズ…」

 

「目を合わせるのは失礼よね……じー…」

 

「いや、言ってる事とやってる事が矛盾してるじゃねーか!」

 

などというヒソヒソ話が聞こえてくる。

中にはスマホを構えて俺の事を撮影する人までいた。

 

それ普通に肖像権の侵害なのでは……?人生を棒に振る前に早くやめた方が身の為だと思うが…。

 

男性の許可なく体を触っただけでも逮捕される世の中だ。写真なんて撮ったら即逮捕だろう。そういや、電車で男子学生に猥褻な行為をしていた痴女が捕まったとニュースで言ってたっけ。

 

「あ、卵安い…」

 

今日の特売品の中に卵を見つけた。俺は財布を取り出し、残金を確認する。ふむ、今日はオムライスにしよう。

 

献立が決まったところで、買い物を続ける。今日の夕食は簡単に作れる様に冷凍食品コーナーでご飯だけ購入して、後は出来合いのものをいくつかチョイスしてレジへと向かう。

 

「いらっしゃ…あっ、貴方は! いつも当店をご利用いただきまして誠に有難う御座います!」

 

黒髪でミディアムヘアーの女性の店員が俺の顔を見ると、途端に笑顔で接客を始める。

 

この女性店員さんの名前は瀬嶋 楓(せじま かえで)さん。おっとりした性格で、右目の下の泣きボクロが大変セクシーな人だ。僕よりも年上の32歳。実際の年齢よりも若く見える容姿をしており、身長は160cm後半くらい。

 

童顔気味な為か、年齢より若く見られる事が多いと、以前嬉しそうに話してくれた事がある。

 

「瀬嶋さん、お疲れ様です。お仕事大変かも知れませんけど、頑張ってください」

 

「…うっ!あ、いえ何でも。ははは…。西原さんぐらいですよ。そんな優しいお言葉を投げ掛けてくださる方は。そういえば、相変わらずコンビニでアルバイトをしてるんですか?」

 

「そうなんですよ。同僚や店長には『男性は働かなくても国からお金が貰えるんだから、無理に働かなくてもいいんじゃない?』って言われたりもしますけどね。どうも家でじっとしてると落ち着かないんですよ。ワーカーホリックなのかも知れません」

 

「ふふっ。西原さんは面白い方ですね。男性で働いている方が珍しい時代ですし、西原さんは本当に立派な人ですよ。あ、合計で4355円になります」

 

財布から千円札四枚と小銭を取り出す。

 

「…はい、丁度お預かり致します。レシートのお返しになります」

 

「ありがとうございます」

 

「あの……良かったら、今度御一緒に…いえ!何でもありません! ありがとうございました。またお越し下さいませ」

 

何かを言おうとしていた瀬嶋さんだったが、俺が振り返ると同時に言葉を途中で飲み込み、営業スマイルを浮かべながら頭を下げていた。

 

レジ袋をぶら下げてアパートまでの道を歩く。途中、すれ違うOLのお姉さん達がチラリと俺を見つめてきたり、わざとらしくぶつかってきたりしたけど、特に何も起きなかった。

 

「今日も一日疲れたなぁ…」

 

歩くこと10分弱。自分が暮らしているアパートに辿り着き、階段を登る。そして、部屋の前に着くと、自分の部屋の前にスーツをビシッと着た女性が扉に寄り掛かっているのに気付いた。

 

「…マヤ姉?」

 

「ユウ!良かった!連絡しても全然返信が返って来ないから心配してたのよ」

 

「あ…ごめん。買い物に夢中で全然スマホ見てなかった…」

 

「だと思った。まあ、いいわ。とりあえず中に入れてくれない?」

 

「うん、分かった」

 

彼女は俺のお姉さんで、名前は西原(さいはら) 麻耶香(まやか)。通称はマヤ姉。身長が170cm後半でモデルの様にスラっとした体型をしている美人なお姉さんだ。

 

長い黒髪を後ろで纏めて、黒縁眼鏡を掛けているせいか、クールな雰囲気を感じさせている。それに加えて常に無表情でつり目なのもあってか、周りからは怒ってると勘違いされるらしい。

 

後、これは余談なのだが…、前世で俺の姉だった姉さん(・・・)に顔がよく似ている。母さんの顔もまんま前世と瓜二つで開いた口が塞がらなかった。

 

前世じゃ俺達の家族関係はお世辞にも良いとは言えなかったが、この世界の姉さんと母さんは、俺にベタベタに甘い。過保護と言ってもいいかも知れない。それが逆に違和感だった。

 

「……? ユウ、どうかしたの?」

 

「ううん。何でもないよマヤ姉」

 

正直に言うと、俺は母さんとマヤ姉が苦手だ。理由は前世の家族と同じ瓜二つの顔をしているのが原因だった。何で転生しても西原家なのは変わらないんだ?

 

違う部分なんて俺への対応ぐらいだ。

 

何か理由があるのか?

 

ガタガタ…

 

無意識にドアノブを持つ手が小刻みに震え出す。

 

(……あーもう!落ち着けよ俺!この人達はあの人達とは違うだろが。大丈夫だって。顔がそっくりなだけの別人なんだからさ。それに、何時までもトラウマを引き摺ってたって仕方ないだろ…)

 

そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと深呼吸をしてドアノブを捻る。

 

「ユウ、本当に大丈夫?」

 

「うん。平気だよマヤ姉」

 

「そう…。後で母さんにも連絡しておきなさい。かなり心配していたみたいだから」

 

「う、うん。あ、そうだ。マヤ姉って夕食は食べた? 良かったら作るけど…」

 

「いいえ。ずっと扉の前に立ってユウの事を待ってたからまだ食べていないわ」

 

「…そっか。じゃあ直ぐに作っちゃうから少し待っててよ」

 

俺は台所に立ち、さっそく夕飯の準備に取り掛かる。レジ袋から先程スーパーで買った卵とご飯のパック。そして出来合いのものを幾つか取り出した。

 

「オムライスで良いかな?」

 

「いいわよ。私、ユウが作るものだったら何でも大好きだから」

 

「了解。ちょっと時間かかるかもだけどゆっくりしてていいからね」

 

「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわね」

 

そう言うと、マヤ姉はソファーに腰を掛けてテレビのリモコンを手に取った。

 

俺は慣れた手つきでフライパンに油を敷いて温める。その間にご飯と卵を混ぜてオムライスを作っていく。

 

前世でも料理を作るのは割と好きな方だったので、一人暮らしをしていた頃は自炊に勤しんでいた。

 

「はい、出来たよ。オムライス」

 

「相変わらず早いのね。流石だわ」

 

「そう?別に普通だと思うんだけど」

 

「普通じゃないわよ。そもそも男が女に嫌悪感を持ってないだけでも珍しいのに、その上料理まで作れるなんて…。私は世界一幸せ者だわ」

 

「大袈裟じゃない?それより冷めないうちに早く食べようよ」

 

「ええ。いただきます」

 

両手を合わせて挨拶をすると、スプーンで卵とチキンライスを一口掬い、それをパクッと口に運ぶ。

 

うん。今日はかなりいい出来かも知れない。

 

「美味しい…」

 

無表情だったマヤ姉の顔が綻ぶ。笑った顔とか本当に前世の姉さんによく似ている。俺があの会社に就職して5年経つ頃には、色々あって家族関係が悪化したから、全然笑ってくれなくなったけど…。

 

「うわ…着信とメールが一杯…」

 

スマホを覗くと、母さんから連絡が何十件も届いていた。

 

「当たり前よ。母さんも私もユウをとても大切に思ってるもの。何かあったら心配するのは当然でしょ?」

 

そう言いながら、再びオムライスを口に運んでいく。

 

「コンビニのバイト…。今も辞める気はないの?」

 

「うん。今更他のアルバイトをやるのも面倒だし、それにあの職場は結構気にいってるかなって」

 

「ユウが働かなくても言ってくれれば仕送りだってなんだってするのに…」

 

そう言うと、拗ねる様な素振りを見せる。

母さんもマヤ姉も、俺がコンビニのバイトをしている事に凄く反対している。俺が男だからという事が原因なのだが、正直、そんなに過剰に反応しなくても良くないか?と思わないでもない。

 

いや、大事に思ってる息子が一人暮らししてて、バイトをするからと言っても特に何も言わない家庭の方が、この世界からしたら異常と言えるのか。

 

「付きまとってくる女とかはいない?ユウは素直で可愛いからとっても心配だわ。やっぱり私も一緒に暮らした方がいいんじゃ…」

 

「マヤ姉の心配性な所は相変わらずだなぁ…」

 

「ユウは女に優しいから、いつか付け込まれないかと心配になるのよ」

 

「大丈夫だよ。それに今日、同僚の人に男護の事を教わったし」

 

「ユウ…貴方今まで男護の存在を知らなかったの?」

 

マヤ姉は驚いた顔で僕を見つめてきた。やっぱり男護って知ってて当たり前な知識なのか…。

 

「……ごめん」

 

「謝らなくていいわ。知ってるものだと勝手に思ってしまっていた私が悪いの。…あ、そうだわ。私の親友が男護だから今度紹介する?貴方さえ良ければだけど…」

 

「え、マヤ姉の友達が……?うん、是非会ってみたい!」

 

「わかったわ。ちょっと待ってて…」

 

マヤ姉はスマホを取り出すと、操作を始める。暫く待っていると、電話が繋がったのか、マヤ姉は誰かと会話を始めた。

 

「もしもし。ルナ、久しぶりね。紹介したい人がいるんだけど、大丈夫かしら?」

 

一言二言言葉を交わした後、俺の方に向き直し、通話を切る。

 

「ユウのRainのアカウント、私の友達に教えても大丈夫?」

 

「Rainの?うん、良いよ」

 

「ありがとう。これが私の友達のアカウントよ」

 

【☆ルナ☆】

 

可愛らしいクマのキャラクターがアイコンになっているプロフィール画面が表示される。

 

「追加っと。これでよし」

 

「じゃあ、私は一旦家に帰るわね。本当は泊まって行きたいけど、生憎とお泊まりセットを用意してきてないから」

 

マヤ姉は俺の部屋に泊まりに来る時は、必ずお泊まりセットなる物を用意して来る。化粧水に乳液、そして下着等々…。俺もマヤ姉も知らない男の精で生まれた試験管の子供だ。

 

前世では同じ父親から生まれた姉弟だったが、今世では種違いの姉弟…という事になる。

 

不安や戸惑いはあったが、今世のマヤ姉と母さんは、俺を常に気に掛けてくれるので心には大分余裕がある。

 

今は兎に角、トラウマを少しづつでも良いから克服していこう。

 

前世では理解し合えなかった、家族の大切さ。この世界ではその壁を乗り越える事が出来るのだろうか?

 

「うん。今日は来てくれてありがとうマヤ姉」

 

「急に押し掛けてしまってごめんなさいね。でも、元気なユウの姿を見ることが出来てほっとしたわ」

 

マヤ姉は玄関で靴を丁寧に履きながら、俺に謝罪する。

 

「またいつでも来ていいからね。今度顔を見せに家に帰るよ」

 

「分かったわ。それじゃあ、またね」

 

「うん、また」

 

マヤ姉を見送り、部屋に戻る。

 

「またね…か。前世じゃロクに会話なんてしなかったのに。今世だと、ちゃんと話せてるんだよなぁ」

 

嬉しい様な、悲しい様な複雑な気持ちになり、思わず溜息をつく。

 

「ま、いっか。それよりマヤ姉が紹介してくれた男護の人にRainしないと…。えーと、『初めまして。姉さんの弟の悠斗です。よろしくお願いします』っと…。いや待てよ?言葉が簡潔過ぎないか?もうちょっと何か書き加えた方が……」

 

文字を打っては消し、打っては消しを繰り返して、最終的に最初に打った文章をルナさんに送る。

 

「ああ…送っちゃった…。やっぱり口下手過ぎたかな…? 」

 

ピコン!

 

「って、返信早ァ!?」

 

Rainを送ってからまだ数分しか経っていない筈なのに、ルナさんからメッセージが届いた。

 

『こんにちは!いつも麻耶香から君の話は聞いてるよ〜!こちらこそよろしくねん(o´艸`)』

 

派手な見た目ってマヤ姉が言ってたから、ギャル系の人なのかって勝手に想像してたけど、文面を見る限り優しい年上のお姉さんって感じがするな。

 

ちょっと安心したかも…。





主人公が作るオムライスですが、描写で『ご飯と卵を混ぜてオムライスを作っていく』とありますが、炒飯と間違っている訳ではありません。

タレントのタモリさんが作る、『タモさん流オムライス』を参考にさせていただきました。
それがご飯と卵を一緒に炒めて作る、かなり変わったオムライスなんです。
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