世界樹と巨神と上帝の異聞   作:b畜農家

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王座を下りし王、最果てへ

 

 そうして、自壊を行う我を残して天ノ盤座を降りた我であるが、一つの問題が生じた。

 魔物の攻撃が鬱陶しいというわけではない。魔物・・・というか、ここを守る機械兵らは我の所有物。よって攻撃されることはないのだが。

 

「出力が高すぎるな・・・」

 

 剣兵の残骸を見下ろしながら思わずひとりごつ。

 出力が高すぎるというのはこの光刃のことだ。

 この光刃は大気に散布したナノマシンが発する粒子エネルギーをストックに蓄積。線形状フィールドの『型枠』に沿って放出・収束させることによって形成される(俗な言い方をすれば)ビームサーベルと呼ぶべき武装である。そのためこれを用いた攻撃は『切断』『圧壊』というより『融解』となる。

 

 ・・・つまりそういうことだ。戦闘能力のテストも兼ねて試し斬りに剣兵を相手にしたのはいいが、まるで熱したバターを切るようにあっけなく両断せしめてしまった。

 相手がただのデクも同然であるというのもあるが、これでは自分の戦闘能力を正確に測れぬ。

 

 物の試しに剣兵の鎧を切り取って弄んでみたが、曲げる、ちぎる、などのことはできなかった。機械兵らは容易く壊れないように作ったのだから当然だ。鉄片を人工皮膚へ突き立てるなどしてみたところ傷一つつかなかったので、防御面において問題はないようだ。

 

「人に限りなく近づけて鋳造した躯体であるが、災害や魔物の襲来に備えて防御力を過剰なまでに強化したからであろうな」

 

 アサルトライフル、マシンガン、ZAPミサイルなど、このボディを使うことを想定していたのならそういった武装を搭載することも考えたろうが、無いものをねだったところで仕様がない。だいいち、銃などの兵器を搭載したところで剣や棍棒などと違って継続的な戦闘能力に欠けるし*1、現代では過剰戦力であろうゆえ、よからぬ関心を惹きつけるだろうしな。

 

 ともかく光刃は非常時の切り札として、この剣兵から武装を剥ぐでもしよう。我は歩き出した。まずこの世界樹の(ふもと)にある国へ向かい、情報を収集するつもりだ。

 

 あの国は、我と袂を分かったかつての同胞が築いた国だ。一度は捨てた大地に戻っていった者たちの作り上げた国。

 ──いまさら子孫に口出ししようだなぞ思いはせぬ。我の狂気についていけなくなった彼らと、今を生きている彼らの子孫は違うのだから。

 ただ、城を出たら死んでしまうと声が枯れるほど呼びかけたにも関わらず、出て行った彼らの血筋が今にまで受け継がれていると考えると、安堵と誇りが胸に広がる。

 

「う・・・む。樹海地軸か。想定より早くついたな」

 

 桃色の燐光をはらはらとこぼす柱の中に入り、いくつかのプログラムを入力する。

 懐かしい。同胞と一つ屋根の下で暮らしていたころは、こうして(みな)を地軸に乗せ、下界に似せた風景を楽しんでもらっていたのをつと思い出した。

 

 我はこうして任意の階層に転移するプログラムを知っているが、今の時代の人間たちはどうやって登っているのだろうか。暁の王とまで呼ばれた我がこのような表現を使うのも些かけったいであるが、『えっちらおっちら』と登っているのだろうか。それとも危険を承知でこの地軸を利用しているのか?

 

 別に雑に使ったところで爆発四散するような危険なシステムではないが(同胞たちの将来も考えて組み立てていたゆえに子どもにもわかりやすい作りだ。・・・当時の文明レベルで、だが)よくわからないものを使っているのだとしたらその蛮勇は理解不能だ。

 

 だがそういう蛮勇も冒険者にとって必須の能力なのかもしれない。我を倒した者たちも、何なのかわからない果実を食べたり、あからさまに古い水を飲んだり、ザリガニと無意味な戦闘を繰り広げそうな顔をしていた。あれらほどではないにせよ、蛮勇は身に着けるべきなのやもしれぬ。

 

「え?君・・・一人ですか?」

「うん?」

 

 樹海地軸から出てきた我に、鎧を着た男はそう声をかけてきた。

 

 冒険者──というわけではないようだ。冒険者と違い、き奴らは装備が充実しており、統一性がある。

 おおかた麓の国の兵士か何かであろうと見当をつけている我に、彼らは声をかけてきた。

 

「はぐれたのですか?」

「何を言っている。我はもともと一人だ」

「えっ、声低っ・・・ す、凄腕なんですね。それなら所属しているギルドの名前を言ってもらえませんか?」

 

 組合(ギルド)

 冒険者という通称が浸透しているほどなのだから、彼らは落伍者、アウトロー、ならず者の類であると考えていたが、ひょっとしたら彼らは国に管理されているのやもしれぬ。管理識別のために各々で名称が登録されているのだとしたら、我はどう見えるか。

 

 樹海にいるにも関わらず冒険者として登録されていない人物。そんなものが国家の所有物である世界樹に登っていれば。最悪、不法侵入者として捕縛、尋問の末国からつまみ出される可能性もありえる。

 そこで我は一計を案じた。

 

「我はニーズヘグ・・・『燃える蛇(ニーズヘグ)』の者だ」

「ニーズヘグ?そんなギルドあったかな・・・」

「聞いたことない名前だよな」

「どうする?念のために本部で確認するか?」

「でもさあ、もしもあの子が違法冒険者とかだったら俺たちの監視不行き届きってことでギルド長にこってり絞られるぞ。最悪減給されたっておかしくない」

「い、いやだ・・・ ゲンコツを喰らうのも甲斐性なしってかかあに怒鳴られるのも」

 

 衛兵たちは一塊になってひそひそと話をしているつもりだろうが、丸聞こえだと言ったらどんな顔をするか。

 そのとき、見分けのつかない衛兵の一人がポンと拳を叩いた。

 

「───・・・よし、現状注意だけに留めよう!ただし、上に報告はしない方針で。それならギルド長に怒られないし、あの子も次からは誰かのギルドに入ってくれるだろ」

「賛成」

「異議なし」

「目指せ平和な樹海と優しい衛兵」

 

 ・・・あの男たちの意識の低さはある意味美すら感じる。

 だが、誰もが生きるために必死だった千年前と違って自己保身に走ろうとする程度に精神的なゆとりのある生活と言うのは、きっとかつての者たちなら羨ましがったことだろう。

 

 彼らの意識の低さは衛兵としてはいただけないが、交渉する相手としてこれほど楽な相手はいないし、自分から弱みを晒した彼らはそこをつつけば容易く協力してくれることだろう。

 会議を終わらせた衛兵たちは、ぞろぞろとこちらにやってきた。

 

「あー、とりあえずわかったよ。今日はその・・・大目に見ておくけど、今度からは誰かのギルドに入って世界樹(ここ)に来てね。あ!それと僕たちが君を見逃したことも他言無用で・・・ね?」

「ならば我に協力せよ。ギルド長に報告されるのがいやなのだろう」

「はい?」

「我はスペインの世界樹へと向かいたい。汝らは穏便にことを進めたい。お互い損得は同じであると思うが」

「き、脅迫・・・?あー、わかった。私たちにできる範囲でなら協力するよ。それからその・・・すぺいんって何処?」

「そうか、スペインを知らないならよ──────知らないだと」

 

 我が無所属と知ってから口調が砕けすぎだという点には目をつむるとして、スペインを知らない?

 

「県都マドリード、バルセロナ、バレンシア。これらに聞き覚えはあるか」

「ううむ・・・」

「知らないなぁ・・・・」

 

 衛兵たちは唸って首を傾げ、それを答えとした。

 汚染によって滅びたか、それとも再興後、国としてのカタチを保てなかったか。

 ───・・・・・だとしても。スペインと言う有名国が人々の記憶から薄れてしまうほど、千年という月日はそんなにも。

 衛兵たちはまたひそひそと話を始めた。

 

「すぺいんってどこだ?村とか?」

「俺のじいちゃんは世界中回った旅人らしいけど、スペインなんて聞いたこともないぜ」

「変わった子だよな、喋り方もあの角も、このへんじゃちょっと見ないしさ」

 

 角・・・か。

 これは厳密には排熱パーツであるが言ったところで伝わるわけがない。だが悪目立ちするというのはよくない、後で頭巾でも見繕うか。

 なに、バックパックに先ほどの剣兵の破片をいくらか詰めてある。どんな時代でも鉄の価値は変わらぬ、店に持ち寄ればそれなりの値段で売れるはずだ。

 

「すぺいんがどこなのかはわからないや。力になれなくってごめんね」

「ならば世界地図はあるか」

「世界地図・・・ ああ、それを見ればすぺいんがどこなのかわかるもんね」

「五つくらい前の地図なら家にあるぜ、俺」

 

 五つ前?

 疑念が生じたが、それを聞けば不自然に知識が欠けていることで更に怪しまれるだろうので黙っている。

 五つ前の地図があるという衛兵は、小走りで出口らしき方角へ走っていった。

 

「ていうか、この子もついてったらよかったんじゃ?」

「衛兵が知らない女の子と一緒だったら変に思われるだろ、バカ」

「あっ、こいつはうっかりだ」

「もう一つ質問がある」

「はい!」

「遠い土地へ向かう場合、陸路・海路・空路、どれが一番適任だ?」

「う"ーんん・・・ 一般的には歩きか馬車かなぁ。船や気球艇はお金がかかるし、個人で所有するには申請が手間だし」

「そうか」

 

 予測通り文明レベルはかなり後退しているようだが、船や、飛行機に該当するものが存在はしているようだ。

 ききゅうてい。

 綴りは『気』『球』『艇』でよいのだろうか。

 とにかく、疑念は晴れた。

 まだ質問はあるか、という言葉に我は首を振った。

 

 

 

 

「・・・」

「・・・あの、目当ては見つかった?」

「読めぬ」

「え」

「二度も言わねばわからぬか」

 

 なんだこのミミズがのたくっているような文字は。

 我は木の枝を拾い、地面に文字を書いた。無駄だとわかっていながらも。

 

「これが読めるか」

「・・・・・・あっ、古代文字だね。じいちゃんが古文書の写しを集めてたから知ってるよ。読めないけど」

「そうか」

 

 言葉というものは難解であればあるほど薄れやすい傾向にあるが、ロシア語もまたその宿命からは逃れられなかったか。

 

「読めないなら私が読むわ。ええっと、これがエトリアでしょ、ハイ・ラガードでしょ、アーモロードでしょ、タルシスでしょ、ああ、あとゴダムも・・・」

「いや、ゴダムは世界樹ごと無くなったからいいんじゃないか?」

「そうだわね」

「待て」

「なにかしら」

()()()()()()()()()()とはどういうことだ?」

 

 世界樹が無くなるなど、そんなことがあるのか。それが外的要因であれ内的要因であれ、もしも世界樹を消滅させられる方法があるのだとしたら魔物にしてしまった者たちを救う近道になるやもしれぬ。

 

「よくわからないのよ。実際に見たわけじゃないから真偽は怪しいけど、なんか、光の柱がバアッと降って来たと思ったら世界樹ごとゴダムが『消えてた』んですって。まるで地面をくり抜いたみたいに」

「・・・わかった」

 

 その情報から推測できる原因に、我は空を仰いだ。

 恐らく、衛星からのレーザーによる滅却だろう。汚染を充分吸い上げた世界樹を一帯ごと焼き払う手段。本部(日本)が計画を立て、大多数の研究員に反対されながらも強行されたはずと記憶している。

 そんな手段は本当に進退窮まったときの最終手段だ。我が消えるのはとにかく、我について来た者たちが暮らしていたあの城ごと世界樹を焼き払うなど考えられぬ。

 

「・・・ごめんなさい、そんなにショックを受けるなんて、軽率に言うことじゃなかったわね」

「ム?」

 

 ショックであったのは確かだが、そこまでではない。

 我の表情を作っている人工筋肉は如何様な動きをしたのか。

 いや、そんなことはどうでもよい。

 

「ここがタルシスであるのなら、なぜ世界樹から離れている」

「さあ・・・ 街を作った人に聞いてくれとしか」

「そうか」

「タルシスに行くつもりかい?」

「ああ」

「そんならちょうどいいかもね。アッチでも冒険者を募っているらしいし、タルシスに向かうっていうのならお金もある程度までなら向こうが負担してくれるし」

「渡りに船・・・か」

「ただ、申請書にサインをする必要があるよ。代筆可能なところでならシトト交易所ってトコがおすすめだけど・・・よければそこまで僕が案内しようかい?」

「ああ、そこまで案内するがよい」

「ただ、君が世界樹にいたってことは秘密にしてよね」

「我が約束を違えるような不埒者に見えるか、戯け」

 

 

 

 交易所の中は薄緑の灯りに包まれ、並べられた鉄兜や剣を滑らかに照らしている。

 

「おーい!エクレアちゃん!タルシスへの申請の人を連れてきたんだけどー!」

 

 はーい、と、聞こえてきた声は幼かった。

 小走りでやってきたのはまだ十代前半の域を出ていないあどけない女児であった。

 ・・・フム、文明が変われば労働環境も変わるということか。

 

「申請しに来たのはこの人でいいですね?」

「うん。この子読み書きができないみたいでさ、代筆、よろしくお願いするよ」

「はいっ」

「じゃあ、僕はこのへんで。タルシスでも頑張ってね」

「そうだな。またどこかで会おう」

 

 まあ、もう二度と会うことはないだろうので、これはただの社交辞令のようなものだが。

 兵士は店から出てゆき、残されたのは我と女児のみ。

 

「我はなにをすればよいのだ」

「えっ、男の人の声っ・・・ ええっと、お名前を聞かせてください。それから職業も」

 

 我は一瞬考えたが、このボディのAIの演算能力はそんなことごときで迷うような低レベルなものではない。

 

「イシュだ。我の名前はイシュ。職業は・・・ソードマンでよかろう」

 

 翼人は我のことを父なるイシュ、全能なるヌゥフと呼んでいた。安直な名前だが、彼らは第四階層を棲み処としている。そう簡単に我の名前の由来が露見するようなことにはなるまい。

 

「イシュさんですね、ではその名前でサインさせていただきますっ。それから、武器以外のお荷物で危険物に該当するものはありますか?」

「危険物・・・そうさな」

 

 我はバックパックを開き、その中の鉄片を出した。

 女児の目がこぼれ落ちんばかりに大きくなる。

 

「えっ!?こ、これって第五階層の魔物の素材・・・ですよねっ!?こんなにたくさんっ!?」

 

 小さな体からは想像もつかない大声に思わず渋い顔になった。そんな我を見た女児は慌てて咳ばらいをすると説明を始めた。

 

「ごほん。・・・樹海から持ち帰った金属類は国からの認可を得た店でしか売却できません。今すぐ売却するか、タルシスで売却するか、どちらになさいますか?」

「ならば今すぐ買うがよい」

 

 このボディは飲食が“可能”であって“必須”ではないので食事にかける金はいらぬ。服や靴も、見かけよりはるかに頑丈だ。

 よって路銀は実質不必要であるが、それでも武器が破損した場合にはそれなりの金が求められるはずだ。ならば今のうちに売れるものは売っておくべきであろう。

 

「かしこまりました。では金属片が合計で一二五〇エンになります。代筆が終わり次第お金をご用意いたしますので少々お待ちくださいね」

「ああ」

 

 女児はことのほかしっかりした娘なようで、手早く代筆や料金の準備をしつつも、明日の正午にタルシス行きの馬車が出るのでそれに乗るのが一番早いだろうと説明をしてきた。

 しかし、なんともあっさりと許可をもらえた。手間が省けるのでよいが。

 

「そうだ、頭巾を一つ買いたいのだがいくらかかる?」

「それならこれはいかがでしょうか。一枚五エンになります」

 

 女児が棚から持ち出したのは、ふちをレースで装飾した赤を基調とした頭巾だ。同胞の中には物資に事欠いてもなお洒落こむのに余念のない者もいたが、その頭巾を見ると彼のことを思い出してノスタルジーに浸りそうになる我がいた。

 排熱パーツを隠すように頭巾を頭に巻き付け、金具で留める。

 

「すっごく似合ってますよ!」

「うむ、そうか」

 

 ボディを褒められると嬉しくなる。それは、かつてこの体に収めるはずだった誰かのことを遠回しに褒められているからだろうか。

 ともあれ、スペインもといタルシスの世界樹に向かう準備はできた。

 全ては順風満帆だ。

 

 

 

 

 何事もなく乗り込んだ馬車に揺られてかれこれ数ヶ月。

 かつてなら飛行機やテレポート装置で瞬時に移動せしめた各地方にも、文明再興後の現代ではこうも時間がかかるのかとなんとも新鮮な気分になった。

 尤も、長旅もそう悪いものではなかった。草原を撫でる爽やかな風、雲が流れていくどこまでも澄んだ空などが我の鼻を、目を楽しませてくれた。かつては汚染物質によって出歩くことすらままならなかった大地は緑に満ち、川の水は冷たく甘やかであった。

 

「もうすぐタルシスが見えてきますよ」

「そうか」

「そんなにこの景色が珍しいですか?旅人さん」

「ああ、そうだな」

「へぇ・・・」

 

 御者は不思議そうな顔をしていたが、この時代の人間にはわからぬか、この景色の素晴らしさが。我にとってこの風景は、夢にまで見たものであるのだ。

 

 ・・・あとは彼らがこの景色にいてくれたなら・・・

 

「おっ、タルシスだ」

「ほう、あれが・・・」

 

 御者の指さす方向には、ここからでもわかるほど巨大な風車塔と、城壁に取り囲まれた街があった。

 

「随分守備に力を入れているようだな」

「このへんは魔物も多いですからねえ」

「そうか」

 

 城壁はスペインカスティーリャ州のアビラ城壁を彷彿とさせる造りであった。ロシア語が廃れたというのに建築様式は継承されているのを見るに、まこと文化というものは『わかりやすさ』が重要なのだなと実感させられる。

 

 しかし、魔物か。

 道中それらしい原生生物を見た際は遠回りを選んでいたし、意味ありげな鈴を鳴らしていた。魔物と熊が同じ生き物であるなど眉唾な考えであるが、あの鈴に魔物避けの効果でもあるのやもしれぬ。それにしても世界樹の外に魔物を出してしまうのならば、制御の研究は上手くいってはいないのではないのか、と、暗澹たる思いがうごめく。

 

「世界樹からかなり離れた位置にあるのだな、タルシスは」

「まあ、エトリアとかハイ・ラガードとか、他の街に比べればそうですね。その辺は辺境伯に聞けばわかるんじゃないでしょうか」

「ああ」

 

 冒険者志望の旅人は、まず辺境伯に会わねばならぬ。そこで支援を受けるための諸々の手続きを受けるのだそうだ。その手順を踏むことで初めて冒険者になれるという。世界樹に関して得られる情報は辺境伯が一番詳しかろう、そこで情報を集めるのが先決だ。

 その時、街道を進む馬車を飲み込むような大きな影がかかった。

 

「うん?」

 

 見上げれば、空に船を括りつけたような奇妙な気球が飛び、大地にまだらな影模様を作っている。

 

「おお、やってるなぁ」

「あれは気球か?」

「ええ。ハイ・ラガードでは見ないですよね、気球艇」

 

 ・・・さりげなく訂正された。無知を指摘されるのは学者としてありがたい話であるが、我にも羞恥心というものはある。

 

「俺には空を飛ぶなんてこと、おっかなくって無理だけどなぁ。忘れ物はないですか?」

「ああ、問題ない」

 

 かつての我なら時間の無駄だと憤懣やるかたない気分になっていたであろう長旅も、この体になると好意的に受け止められる。こういった感性も、かつての我が調整を加えた結果か。千年前よりはるかに昔、まだ戦争が起きる前であれば肉体を変えることによる精神の変質について論文を一枚したためていたやもしれぬ。我ながらいいデータが取れた。

 いよいよタルシスに入り、世界樹についての調査が始められる。まだ計画の最序盤であるが、スムーズに物事が進むと心地いい。

 空もまた、我を祝福するがごとく晴れ渡っている。

 

 さあ、まずは辺境伯の屋敷に・・・

 

 屋敷に・・・・・・

 

 

 

 

 しまった。どこなのか聞いていない。

 振り向く。

 御者は行ってしまっていた。

 

 

*1
弾丸を撃ち切れば銃器はただの文鎮である




・クソどうでもいいバーローコソコソ話・
 光刃の説明はまんまガンダムのビームサーベル。ピクシブで検索すれば一発で出てくるよ。こっちよりあっちのほうがずっと面白いので見てみてね。
 角はかっこいいから、というより排熱パーツということにさせてみました。眼鏡アンドロちゃんの排熱パーツっぽいアレみたいに。狂う前のきれいなバーローならそういうのを優先しそうだなあって思って。原作レイプ?そうだね。
 描写はしてませんがハイ・ラガードからタルシスまでの旅、バーローは最低限の睡眠と飲食を取っていました。「眠りも飲み食いもしない・・・?おのれ怪しい奴!」と思われないためにです。
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