ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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お気に入り件数が2000……まーーじでありがとうございます。嬉しさでモチベが爆上がりです。あと毎回誤字訂正してくれる方、非常に助かります。ありがとうございました。

今後も定期的に投稿していくのでよろしくお願いします。



09 プロキシ→パシリ←サメ

リンからの話はプロキシとしての彼女自身のアピールと売り込みについてだった。

 

簡単に言うと仕事を手伝わせてほしい、という感じだろうか。

 

普通の会社が相手ならお帰りいただくところだが、あいにくと既にリンは公的には知られていないヴィクトリア家政という存在を調べ上げ、自らの足で拠点内まで入り込んで来てしまっている。

 

流石にその鮮やかな手腕を見せつけられてしまっては、ライカンも軽々しく追い返すことは出来なかったらしい。

 

またホロウ内の地図であるキャロットが不足しているところへ熟練プロキシの到来。

 

まさに渡りに船という状況だった。

 

「で、アンタがここに居るってことは……。」

 

「無事、リクルートが成功したってこと!というわけでこれからよろしくね!」

 

「うっそでしょ……ボス、本気?」

 

「ご主人様の判断です。確かに彼女は本物の『パエトーン』のようでしたので……。」

 

騒動から2日後、拠点にはエレンとライカン以外にリンの姿があった。

 

ちなみに彼女は正式加入したスズツキとは違い、あくまでも依頼相手のため、メイド服までは着ていない。

 

今は任務の説明を改めて行なおうと、他のメンバーを待っているところだ。

 

「り、リンさん?」

 

「あっ、スズツキ君だ〜!」

 

ギスギスとし始めた空間へ緩衝材が放り込まれる。

 

個室よりひょっこりと顔を出してきたのは私服からメイド服への着替えを終えたスズツキ。

 

先に動いたのはリンの方だった。

 

彼を視界に捉えた途端、猛禽類の如く、すぐさまガバリと両腕を広げ、眼前の女装メイドを捕まえようとする。

 

もちろん逃がすことは無い。

 

「わっ……ふむっ!?」

 

「久しぶり〜!会いたかったよ〜!」

 

「りんしゃ……くるし……。」

 

ビデオ屋の時より大胆にホールドされ、直に伝わってくる柔らかな感触と鼻腔一杯の芳香にスズツキは目を白黒とさせた。

 

幸せな空間であるかもしれないが、状況を堪能する前に首根っこを掴まれると、リンの捕獲から解放される。

 

背後にはピキピキと青筋を立てた、明らかに不機嫌な様子のエレンが仁王立ちしていた。

 

「あのさぁ、キモいことすんのやめてくんない?」

 

「えぇ?私は至って健全なスキンシップをしてるだけだよ?エレンってば何考えちゃってるわけ?」

 

「チッ……なら私もしていいよね。」

 

「えっ、おぶっ!?」

 

両肩を掴まれたかと思えば、ぐるりと1回転。

 

次にスズツキの視界に映ったのは目の前一杯に広がる、縦にボタンが並んだ黒い布地と、それを押し上げている双丘だった。

 

直後、またしても顔を通して直に伝わってくる、厳密には先程とはまた違った柔らかな感触と鼻腔一杯の芳香。

 

スズツキは顔を真っ赤にしながらも、今度はハッキリと状況を理解し、反応を抑えながら感覚の徹底的な記録を開始する。

 

思春期真っ盛りということから、サカった雄猿と化したスズツキだったが、外では彼を他所に修羅場が繰り広げられていた。

 

「ちょっと、そんなに乱暴に扱わないでよ。スズツキ君が怪我でもしたらどうするつもり?」

 

「大丈夫、アンタのシリコンよりデカいし柔らかいから。」

 

「お婆ちゃんみたいに長くて垂れてるよりは良いと思うけどね?てかシリコンじゃないし。正真正銘、天然モノ100%だし。」

 

「ふげっ。」

 

リンもエレンに負けじと背後からスズツキにしがみつく。

 

2人が至近距離でゴリゴリと額をぶつけてメンチを切り合えば、間のスズツキが更に圧迫されていってしまう。

 

「は?垂れてないから。長くないし、丁度良いくらいだから。」

 

「どうせ中の靭帯がすぐダメになるって。」

 

「ぶっ……く、くるし……。」

 

助けを求める視線を外へと向けるスズツキだったが、いつの間にかライカンの姿はどこかへと消えていた。

 

代わりにカリンがバトラーボンプを抱えながら個室より顔を覗かせていることに気付く。

 

しかし目が合うと、すぐに引っ込んでしまった。

 

もはや助かる術は無いのかと諦めかける。

 

が、その時、凄まじい圧と共に優し気な声が聞こえてきた。

 

「あらあら、何をやっているの?」

 

「げっ!?」

 

「わっ!?」

 

いつの間に距離を詰めてきていたのか、すぐ真隣に素晴らしい笑みを浮かべたリナがこちらを覗き込んでいた。

 

彼女の説教を知っているエレンはもちろんのこと、面識が余りないリンですら放たれてくる圧倒的なオーラに怯んでしまう。

 

「ブリーフィング、そろそろ始めましょうか?」

 

「はいっ!」

 

「い、イエスマムッ!」

 

ニコリとした有無を言わさぬ笑み。

 

分かるように言語化すると、ガタガタ言わずに黙って従え、しばくぞ、という感じ。

 

2人が離れると解放されたスズツキはカリンが回収した。

 

「す、スズツキさん……大丈夫ですか……?」

 

「ああ……カリンちゃん……桃源郷ってあんな感じなんだね……まじ最高……まじおっぱ……もがっ。」

 

「スズツキちゃん?お客様の前ですよ?」

 

「……ふぁいっ!?」

 

事態が収束するとタイミングよくライカンが戻ってきて、任務の概要を話し始めた。

 

要約するとリンが操るイアスを連れてデッドエンドホロウへと突入、可能な限り戦闘を避けながらデッドエンドブッチャーを捜索。

 

対象を発見し次第攻撃からの撃滅、あとは離脱という感じだ。

 

「任務の開始時刻は明朝〇六〇〇とします。最大活動時間は300分。以降は必ず侵食抑制剤を使用し、脱出を最優先事項とするように。何か質問は?」

 

「あ、あのー……。」

 

手を挙げたスズツキは遠慮がちといった雰囲気で口を開く。

 

「えっと……僕はこれで戦うんですかね?」

 

取り出したのはいつもの相棒である一七式拳銃。

 

前の戦闘では雑魚エーテリアス相手には十分に対処可能だったが、一部変異型には効かない場合があった。

 

今回の撃破対象はその更に上のランクである要警戒型であるため、効果は余り期待出来ないと考えられる。

 

既に通常版の倍以上に高額な特別モデルの二六型を与えられているとはいえ、命が掛かっている以上、遠慮はしていられない。

 

そんなスズツキの訴えに対してライカンは思い出したような顔をすると、近くのクローゼットから大きなガンケースを取ってきた。

 

「すみません、失念していました。本当なら一昨日に渡すはずだったのですが……。」

 

「ま、まさか新しい武器ですか……?」

 

「ええ、今後、スズツキには中長距離支援の役割を担ってもらいます。これはその装備のひとつです。」

 

スズツキはプレゼントを貰った子供のようにワクワクとした様子でケースの蓋を開ける。

 

「拳銃の次はライフル?」

 

「うわ……本当にスズツキ君がこれを使うの……?」

 

目に入ってきたのは拳銃とは比べものにならないほど大きなシルエットを持つ、いわゆる自動小銃や擲弾発射器のようなイカつい見た目をした銃器。

 

銃身の下には並行して更に太い銃身が伸びており、ピストルグリップと引き金もそれぞれ2つあることから複数種類の弾丸を発射可能なことが分かる。

 

興味津々といった視線を向けているとライカンが口を開いた。

 

「『九八式6.8mm短小銃』、通称『サプレッサーK98k』です。スリーゲート軍工のサプレッサーK22を南部重工が正規軍向けに改良、東亜重工がより実戦的なエーテル封入弾と発射器を開発し、装備させたのがK98a。これはスズツキが扱い易いように小型軽量化したK98kです。」

 

「サプレッサーK22って治安局の?色も真っ黒ですし、随分と見た目が違いますね。」

 

「ええ、あれは市民の前で持ち歩けるように相手の脅威に合わせて分解と組み立てが現地で行えますが、軍ではその必要が無いので変形機能はほぼ省略されています。また幅も無駄に大きいとのことで、擲弾の弾倉をシリンダー式から単発式に……。」

 

「これ、もしかしてエーテルを使ったエネルギー弾ですか?世間に出回ってるのとは……。」

 

「……に対抗できるように大容量のバッテリー式の弾倉を使用。また内部機構を変えれば一七式と同じように通常の6.8mm実体弾を……。」

 

新しい高額装備(オモチャ)に話が盛り上がるスズツキとライカン。

 

周りでは他の女性陣が会話に置いていかれていた。

 

「うぅ……何を言っているのか分からないです……。」

 

「夢中になるスズツキ君も可愛いなぁ……ふへっ……。」

 

「どうして男ってのはこんなのが好きなんだろ?全部同じじゃん。」

 

「ふふ、殿方とはそんなものよ。ライカンも同性と話す機会が今まであまり無かったから嬉しいのかも。」

 

「あ、確かに。」

 

下の方に目を向けると、ベルトが巻きつけられた白い尻尾がいつもより速めに振られていた。

 

「へー……ボスも意外と分かりやすいんだ。」

 

「そうね。」

 

リナはエレンがスズツキと話す時は尾びれが揺れていたり、スズツキが隣に居ると尻尾全体が彼を回り込むように動いていたことを話そうとしたが、口を噤む。

 

それからもオタク同士の会話はしばらく続き、リナ達が紅茶とお菓子を片付けたところでようやく終わった。

 

「んん"っ……つい夢中になってしまいましたね。説明は以上です。明日に備えて準備と休息を済ませておくように。」

 

「はーい。」

 

「スズツキ、軽く撃ち方を教えます。着いてきてください。」

 

「はいっ!」

 

恥ずかし気にそそくさと部屋を出ていくライカンと、ライフルを両手に持ち、目を輝かせながら後をついていくスズツキ。

 

エレン達それぞれにとって美味しい光景が展開されていた。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

地平線に太陽が顔を覗かせたばかりの早朝。

 

ビルの地下駐車場から1台の白いバンが出てくると、まだ車の少ない大通りをデッドエンドホロウのある方向へと進み始めた。

 

中ではハンドルを握るライカンと外を眺めるリナ、スヤスヤと寝息を立てているカリンとエレン、新しい相棒を胸に抱きながら必死に睡魔と格闘しているスズツキの姿があった。

 

貨物スペースには充電用のバッテリーに繋がったバトラーボンプと、今任務の要であるリンのボンプ、イアスがスリープモードで待機している。

 

リナはふと後ろを向くと、ちょうどスズツキの頭がカクンと下がり、九八式の銃身におでこをぶつけたところだった。

 

コンと、小さくも痛そうな音が響く。

 

「っっっ………つぁぁあ……!」

 

「あらあら、大丈夫?」

 

「だっ、大丈夫です……寝てませんから……。」

 

「到着にはまだかかるわ。いいから寝ていなさい。」

 

「じゃ、じゃあ……遠慮なく……。」

 

寝息とエンジン音を除いて今度こそ車内が完全に静かになった。

 

リナは瞼を閉じている3人を見て軽く微笑む。

 

「ふふっ……こうして見るとやっぱり子供よね。そうは思わない?」

 

「ええ、我々大人には無い活力と純粋さがあります。そういえば、スズツキへの指導は上手くいっていますか?」

 

「もちろん。一通りメイドの基本的な作法は身に付けさせたわ。挙動の癖を減らしたおかげでますます可愛らしくなってきて……うーん、やっぱり『あっち』の作法も覚えさせるべきかしら……男の子とはいえ男の娘だし……。」

 

記憶を辿りながらニタリとした笑みを浮かべていたかと思えば、今度は真剣な顔で何かについて熟考し始めるリナ。

 

隣ではライカンが彼女の珍しい奇行に目を丸くしていたが、我に返ると慌てて訂正に入る。

 

「り、リナ、我々ヴィクトリア家政は依頼主に対して奉仕しますが、その……『そういう』奉仕はしないと決まっていて……。」

 

「あっ……ご、ごめんなさい……毎回ストレスを溜めさせてくるボンボンの生意気なクソガキ共としか接してこなかったから……あんな良い子は久しぶりで……じゅるっ……。」

 

「リナ……口が汚いですよ……。」

 

ライカンは毎回頼りにしていた筈の仕事仲間の豹変具合に、厳密には彼女の素が顔を出して来たことに頭を抱えた。

 

思えばスズツキが来てからヴィクトリア家政のメンバーは良くも悪くも変わってきている。

 

エレンは先輩先輩と慕われて素行が良くはなったものの、スズツキが絡むと途端に沸点がヘリウム並みに低くなってしまう。

 

リナも教育係として良きメイド足らんと頑張ってくれてはいるが、時折り先ほどのような怪しい笑みを浮かべている時がある。

 

カリンは少なくとも現時点までに大きな変化は見られない。

 

しかしエレンとスズツキを羨やむ視線を向けていることが散見された為、何かしらの思いはあると考えられる。

 

そして最後に、突如として現れたリンというイレギュラーな存在。

 

彼女もスズツキの知り合いということから彼が連れて来たに等しい。

 

「はぁ……。」

 

ライカンはメンバーの癖の強さに小さく溜め息を吐いた。

 

唯一の救いは問題の中心に位置するスズツキ本人には性格や能力に関して、特に気になる点が無いことだろう。

 

つまりは彼がしっかりしている限り、これからもヴィクトリア家政は上手く回っていくに違いない。

 

「スズツキ……大変だとは思いますが……どうか頑張ってください……。」

 

ライカンは自身に出来ることは何も無いからと、せめていつか高級レストランでも奢ってあげようと考えながら、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「おい、例の件はどうなった?」

 

「はい、先ほどヴィクトリア家政が駆除のために動き出したとのことです。」

 

「よしよし……目標の現在地は?」

 

「観測班の報告によれば旧カンバス通りを徘徊中。予定通りデコイに引っかかっています。」

 

「爆薬の配置は?要警戒型の足元を吹っ飛ばせるだけでいい。進捗具合はどれくらいだ?」

 

「現在、全体の30%の工程を完了。地下空間の完全な爆破は不可能ですが、少なくとも『隠蔽工作』だけは可能です。」

 

「それだけ出来れば十分だ。もうひとつの方の連中は?」

 

「全員が東カンバス駅に設置した避難所へ集まりました。彼らには要警戒型が徘徊しているという理由から退避作業が遅れていると説明しています。もちろん電波妨害は継続中です。」

 

「分かった……ああ、そうだ。保険は?」

 

「エリー川の河口付近にて強襲揚陸艦がLCACを展開中です。目標のどちらかを処理し損なった場合、即座に川を遡上し、ホロウへ部隊を投入。対象の処分と回収を行います。」

 

「途中の橋は?」

 

「建設局へ金を握らせました。既に『一斉点検』という名目で本日一杯は全ての橋桁が上がります。」

 

「うん……もちろんまだあるよな?」

 

「はい、あと半日ほどで所定の海域に到着するとのことです。」

 

「ふふふ……全ては順調だ……明日になれば我が社はより安全な環境で施工を開始し、確実に事業を成功させることでTOPSに一歩近付く。今後面倒になるであろう組織は消える。軍との太いパイプは形成される。表向きにはホロウを縮小させた英雄となる……はっはっは!笑いが止まらんな!」

 

「パールマン社長、実行前の皮算用はフラグですよ?」

 

「馬鹿!そーゆーこと言うなっ!」

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「すぅぅぅ……ふぅぅぅ……ぐへへ……。」

 

「あれ、リン?こんな明け方から何やってんの……?」

 

「あ、お兄ちゃん?今ね、イアスに入りながらスズツキ君の膝に乗ってるんだぁ!すごく良い匂いがして……ふへ……。」

 

「へ、へぇ……そうなのか……あー、涎垂れてるよ?」

 

「ん、ずるっ……お兄ちゃんもやってみる?」

 

「いや、僕はこの前ダイブしたばかりだし、遠慮させてもらおうかな……。」

 

「そう?じゃあ私は依頼に戻るねー。」

 

「……フェアリー、我が妹は大丈夫なのか?」

 

[問題ありません。おそらく貴方が手の施しようが無いハイパー朴念仁な分、彼女が欲に忠実な行動力の塊になっただけでしょう。]

 

「どういうことだ?」

 

[この店の客層は男女比が6対4です。しかし常連客に絞ると過半数が10から30代の若い女性となります。理由が分かりますか?]

 

「リンのプロデュースが良いんだろうな。」

 

[何故同じ家に住んでいる兄妹間でここまで差が発生するのか不思議でなりません。まあ、貴方があのようになるよりかは遥かにマシだとは思いますが。]

 

「よく分からないが、馬鹿にされていることは理解出来た。」

 

[そんなことはありません。では、おやすみなさい。]

 

「ああ、情報屋との待ち合わせ1時間前になったら起こしてくれ。あとリンのサポートは頼んだよ……。」

 

[お任せください。]

 

 

 





バンの中)

スズツキ(………何か重い。)







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