戦闘パートということから、つい筆が乗って色々書いてたら何か1万字超えちゃいました。それで無駄を削ぎ落としまくって改変を続けてたら時間もかかりました。
というわけで今回から本格的に対ヴィジョン戦となります。
旧『カンバス通り』、その中でもデッドエンドホロウの活性化によって内部に飲み込まれていた区画は酷い有様と化していた。
再開発予定地だった地下街と地下鉄の一部が突如として爆破され、大規模な崩落が発生。
大通りにあった構造物の大半が地下空間に飲み込まれてしまい、現場には僅かに残った建物がかろうじて立っているのみだった。
「おい!見つけたか!?」
「こっちには居ません!」
「俺は向こうを探す!お前達は引き続きここの周囲を洗え!」
ドタドタと幾つもの足音がすぐそこに近付いてきては遠ざかっていく。
スズツキの姿は曇天の光がさし込んでいる、ビルの大きな瓦礫が折り重なって出来た小さな隙間にあった。
そこらじゅうに舞い上がったコンクリート片の白粉で髪とメイド服を真っ白にしながら、必死に息を殺す。
先程から仕切りに近くを通り過ぎていくのは対ホロウ用の特殊装備を全身に纏った治安官。
……のように見えるが、よくよく観察してみると彼らが手に持っているのは偽装が施された
見た目は治安局の正式採用ライフルであるツァスタバだが、マガジンの湾曲具合やセレクターの位置、ダストカバー周りの拭い切れない古っぽさなど違う点は多々あった。
「治安官に扮してる……?」
何故わざわざそうしているのかは分からない。
だが待っていたかのように崩落から僅か数分でわらわらと湧き上がってきたことから敵であることは確かだろう。
スズツキは四角形の消音器を銃口に取り付けると、そっと瓦礫の隙間からライフルを覗かせた。
スコープを覗き、十字のレティクルを敵に合わせる。
相手は動きを止めており、距離は20mも無い。
当てることは十分に可能だ。
しかし引き金に指を添えようとした時、横から白い手が銃身を押さえてきた。
「スズツキちゃん、駄目よ。」
そこに居たのは、浮遊によって足音が発生しないという特性を活かして今まで近辺の偵察を行なってきたリナ。
あと周囲を回るお付きのドリシラとアナステラ。
スズツキが崩落において怪我を免れたのはリナと、この2体のボンプのおかげだ。
「リナさん……ですが……!」
「ダメ、ここはライカン達との合流が最優先。仕返しは後でいくらでも出来るわ。」
ちなみに今のリナは突然こんなことをされてご機嫌斜めなのか、説教される時とはまた違う苛立ちが感じられる。
むしろ今すぐ敵にやり返したいのはあちらの方なのかもしれない。
スズツキは大人しく引き金から指を離した。
「……はい。」
「良い子、さ、行きましょ。こっちに抜け穴があったわ。」
先導するリナに着いていき、車や瓦礫、線路、配線と廃品でグチャグチャになった空間を進んでいけば、彼女の言う通り、敵がまだ居ない場所に出る。
崩落現場の端っこまで来ると、引きちぎられた四角いトンネルが目に入ってきた。
中には幾本もの線路が通っており、旧エリー都で用いられていた地下鉄であることが分かる。
「暗いですね。」
「ええ、暗視ゴーグルを着けて。ライカンの反応はこっちから来ているわ。」
「わ、分かりました……。」
「あら、もしかして怖かったりする?」
「こっ、怖かないですよ……!」
ベルト付きの双眼鏡みたいな装備を頭に乗せると、勇気を振り絞って暗闇へと足を踏み入れた。
隣に白く表示されているリナを常に視界へ納めながらトンネルの中を進んでいく。
ホロウ災害が起きてからずっと放置されていた影響で空気はジメジメとしており、汚れた内壁には苔がむしている。
まさにお化け屋敷といった雰囲気に恐怖感は収まらず、気付けばほとんど彼女に寄り添うような位置に居た。
「ふふ、やっぱり怖いのね。ほら。」
「うぅ……すみません……。」
リナから差し出された手を握る。
彼女の手はひんやりとしていて気持ちが良かった。
人肌に触れて安堵していると、前方に何かの構造物が見えてくる。
「駅……?」
「そのようね。皆んなはあそこに行ったのかも。」
「や、やっと外に出られる……。」
リナにお姫様抱っこをされながらホームに着地すると、同じく電気ひとつ無い駅の構内を進んでいく。
ここで白黒の世界に動きがあった。
何かが通路の奥を横切ったのだ。
「り、リナさん……見ましたか?」
「何を?」
「いや……あそこに誰かが……!」
「ん?ああ、あれは……。」
その時、後ろからスッと一組の手がスズツキの顔を挟み込んだ。
スズツキは一度隣のリナと彼女の両手の位置を確認する。
そして息を一杯に吸い込み。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
「あっ、ちょっ、バカ、叫ぶなって。」
「ふぐっ!むごごっ!!?」
悲鳴を上げようとするスズツキだったが、今度は固く口を押さえ込まれる。
背後の暗闇から現れたのは同じく暗視ゴーグルを装着したエレンだった。
何かが居たという通路の奥の方からはカリンとバトラーボンプがひょっこりと顔を出してくる。
「あらエレン、ダメじゃない。スズツキちゃんはこういうの弱いんだから。」
「ちょっとからかっただけ。スズツキも、まあその……無事みたいで良かった。」
「むぐ……り、リナさんのおかげですよ。しかし一体誰がこんなことを……。」
「詳しいことは奥で話そ。ボスが待ってる。」
エレンに背中を押されながら到着したのは駅員室。
そこは非常電源が生きていたようで、古びた蛍光灯が淡い光を放っており、懐中時計を眺めるライカンを照らしていた。
室内に入ってきたスズツキ達に気付くと、パチンと蓋を閉じる。
「リナ、スズツキ、怪我はありませんか?」
「いいえ、滞空しながら降りたから大丈夫よ。それより私は貴方達の方が心配だわ。」
「見ての通り問題ありませんよ。」
「ん……あれ?リンさんは?」
ふと部屋を見回すが、そこにイアスの姿だけが無かった。
スズツキはある考えに至り、ひゅっと息を詰まらせる。
「もしかして瓦礫の下敷きに……。」
[スズツキくーん!]
「おわっ!?」
だが次の瞬間、パタパタと小さな足音が聞こえてきたかと思えば、視界の外から軽い衝撃が伝わってきた。
スズツキの背中にしがみ付いたそれは器用に肩と腕を伝って回り込んでくると、最終的に胸へ到達する。
毎度ビデオ屋で見た時とは挙動が違い過ぎるボンプ、イアスがそこに居た。
「リンさん!何だ、無事だったんですね。」
[うん!今はちょっと外を見てきただけ!それにしても、この匂いと温もり……やめられんわぁ……。]
「おい変態、早く離れろ。」
[やーだー!私はここに住むのー!]
どうにか剥がそうとするエレンと、必死にスズツキの胸に張り付くリン。
結局、リナのわざとらしい咳払いによって双方は即座に矛を納め、イアスの位置もスズツキの腕の中に収まった。
場が落ち着くとライカンが口を開く。
「さて、我々は今、少し厄介な状況に立たされています。プロキシ様が通信を傍受したことにより、襲ってきた敵集団は我々ヴィクトリア家政の始末が目的であることが確定しました。」
「アイツら何なの……まじムカつく……!」
[軽く万死に値するよね……スズツキ君に手を出そうとするなんて……。]
それぞれ顔に怒りと殺意を滲ませるエレンとリンだったが、その理由は言わずもがな。
しかし当の本人は気にせず疑問を口にする。
「けどどうしてこんなことを?まず敵は誰なんでしょうかね?」
「見当もつきません。ヴィクトリア家政に表立った敵対勢力はほとんど存在しない筈なのですが……。」
顎に手を当てながら唸るライカン。
そこへイアスがぶんぶんと手を上げる。
[はいはい!敵はヴィジョンだと思いまーす!]
「まあ、普通に考えたらそうだよね。今回、ウチに関係している組織はそれ以外に考えられないんだし。」
「でも裏切る理由が分からないです……。」
「それでも現に敵は襲ってきているわ。きっと私達を始末する以上の益が敵にあるのでしょうね。」
幾ら考えども情報が少な過ぎる現状では碌な推測も出来ない。
結局、分からないことを今考えてもしょうがないだろうと、敵の正体については置いておくことにした。
「で?これからどうすんの?」
[敵を捕まえて締め上げる?]
「いえ、我々の目的はデッドエンドブッチャーの撃破であり、既にそれは達成されています。まずは脱出を優先すべきでしょう。」
「敵勢力についてはどうするつもり?さっきの崩落した場所だけでも相当な数が居たようだけど。」
「ええ、なので……。」
ライカンから出た指示はこうだった。
地上には沢山の敵が徘徊していることから、このまま地下のトンネルを進み、ホロウへ入ってきた時とはまた違う場所から脱出するというもの。
一度外に出てしまえば空から迎えを呼んで拠点へ戻ることが出来る為、敵の正体を探るのも帰ってからということに決まった。
少しの休憩を挟んだ後、一行は再び線路へと降りると、暗い空間を奥に向かって歩き出した。
⬛︎
出発から数分ほど。
トンネルは奥へ進めば進むほどその不気味さを増していた。
暗視ゴーグルを装着したスズツキは相変わらずビク付いており、対照的に他のメンバーは一才動じないままズンズンと足を動かしていく。
エレンは独り遅れ気味になっているスズツキに気付くと、少し足を止めた後に鋏の柄で彼の尻を軽く叩いた。
「ひっ……!?」
「また怖がってるし。相変わらずビビりだね。」
「だ、だって……!」
「はぁ……こんなの全然怖くないじゃん。さっきも駅まで来れたでしょ?」
「あれはその……リナさんが手を繋いでくれたからで……。」
ピクリと、エレンの動きが、尻尾も含めて全て停止する。
そしてスズツキの横合いからぶっきらぼうに手が突き出されてきた。
「……ん。」
「あ……じゃあ……その、失礼します……。」
「ほんっとしょうがないんだから……。」
軽く握り込むと今度は高めの体温が肌を通して伝わってくる。
これなら安心して進めると胸を撫で下ろすスズツキだったが、次の瞬間、頭上より首元へ冷たいものが降りかかって来た。
「ひゃう!?」
「っ……驚かさないでよ。てか大きな声出すなっての。」
「スズツキ、どうかしましたか?」
「す、すいません……水滴が首に当たって……。」
[あー、そゆこと……ん?]
先導役をしていたリンは足元にぐちゅりとした水っぽい感触を覚えた。
見下ろせばコンクリートの表面で黒い何かが波打つ。
手で触ると、冷たい感触と共に指が濡れた。
[うっそ……浸水してる。]
「ち、地下鉄は常にポンプで地下水を排出し続けないと短い時間でダメになるってのは聞いたことがあります。ここ、傾斜してますし、もしかすると……。」
スズツキの予想は見事に当たった。
見えて来たのはトンネルに対して斜めに溜まった大量の水。
専用の自給式水中呼吸装置がない限り進めないのは明らかだ。
「えー、ここまで来たのに戻る感じ?」
[一応あっちには別のトンネルがあるみたいだよ。]
「あ、ホントだ。」
幸いなことに少し戻ると、5本の線路の中で一番端っこだけが別のトンネルへと繋がっていた。
そちらを覗くと傾斜から水平へ戻るように奥へ伸びており、地下水による浸水は発生していない。
[こっちも外に繋がってはいるね。予定のルートからは少し外れるだろうけど。]
「それなら早く行きましょう。我々には時間がそこまで残っていません。」
「スズツキ、ここからは武器を持っといて。いつ敵が来るか分かんないし。」
「は、はい。」
スズツキは渋々繋いでいた手を離すと首から下げていた小銃を手に取り、エレンに続いて別のトンネルへ足を踏み入れる。
それは地下水に浸っていた線路とは違った方向へ続いており、途中、また別の線路と合流した。
ここでスズツキはふと足元の線路を眺めてみる。
「……ん?」
「何かあった?」
「ちょっと気になることがあって。ボス、ライトを使っていいですか?地面を照らしたいんです。」
「ええ、どうぞ。」
スズツキは暗視ゴーグルを上げると、九八式のサイドレールに取り付けられた軍用のフラッシュライトを点灯する。
照らした先にあったのは先ほど別のトンネルから合流してきた隣のレール。
表面を観察してみれば、今まで見てきた線路が完全に赤く錆び付いているのに対して、こちらは比較的真新しかった。
トンネルの内壁にも光を向けてみると、汚れはあるが、補修の跡がちらほらと見える。
何年も、いや、それ以上の間、放棄されていたにも関わらず、最近までに人の手が加えられていることは明らかだった。
「ボス、このレール、今も使われてます。もしかしたらこのまま進むのはマズいんじゃ……。」
スズツキはライトを消すとライカンの方を向く。
しかし彼は何も言わず、明後日の方向へ、ジッと視線を送っていた。
「ボス?」
「敵が来ました。早く逃げましょう。路線図によれば確か付近に駅があった筈です。」
「えっ……。」
言われるがままに走り出し、カツンカツンと甲高い足音がトンネル内に木霊する。
だがその時、自分たちの走る音の他にも遠くから別の大きな騒音が、金属の軋むようなものが耳に入って来た。
同時に暗視ゴーグルの視界が背後を真っ白に映し出す。
「で、電車!?」
「敵が乗ってるやつに決まってんじゃん!駅まで走り続けて!」
「はいぃ!」
現れたのは型番が少し古めな電車。
それは逃げるスズツキ達に気付いたようで、スピードを緩めると、車両側面の乗車口を開け放ってきた。
ドアからは治安官が、正確には治安官モドキがずいと身を乗り出してくる。
手に何を持っているかは言うまでもない。
直後、複数のマズルフラッシュの輝きと共に口径7.62mmの鉛弾がコンクリートの表面を抉る。
トンネルは左へ曲がった後に直線へ出る形になっており、自分達が遮蔽に使えそうなものは何も無い。
これはマズいとスズツキはポーチから擲弾を、先ほど使いそびれた高性能エーテル炸薬弾を取り出すと、銃身下部の発射器に押し込んだ。
足を止めると、後ろを振り向き、照準器を覗き込む。
「スズツキ!?」
「食らえっ!」
引き金を絞ると、軽い音と共に擲弾が撃ち出された。
それは緩やかな放物線を描きながら列車正面へと飛んでいくが、徐々に右の方へと逸れていってしまう。
だがここで遅延信管が作動した。
エーテルを混ぜ込んだ特殊な炸薬が電車の側面で起爆し、ガソリン顔負けの予想以上の大爆発を引き起こす。
「ふおっ!?」
ゴバッ!!と轟音が響き、数十m以上離れているにも関わらず、向かってきた爆風が髪と服を激しくはためかせた。
ガラスを突き破って車内へと侵入した真っ赤な火焔はそのまま内部を突き進んでいき、あっという間に先頭車両を丸焼きにしていく。
炎を纏いながらジタバタとのたうち回る何かが扉から姿を現し、そのまま力無く線路の上に落ちる。
へたりと尻餅をつきながら、唖然とその様子を眺めていると、エレンとイアスにそれぞれ腕を引っ張られた。
[ナイス反撃!]
「ほら、早く行くよ。」
「え……あ……は、はい!」
スズツキは立ち上がると近場の駅に滑り込む。
もちろん敵はまだまだ残っており、スズツキ達が駅へ逃げ込んだのを見ると、非常ブレーキを使って電車をホームへ停車させた。
後ろに繋がった車両から先程の倍以上の構成員が湧き出てくる。
「ライカン!敵が追ってくるわ!」
「ふむ……ここなら迎え打つことも可能ですね。」
「ボス、やるの?」
「ええ、どうせならついでに尋問も済ませましょう。」
「りょーかい。」
駅構内を走り、遮蔽の多い上階に出ると、逃げから一転、全員が敵への攻勢を開始した。
数が多いとはいえ、要警戒型エーテリアスよりは遥かに弱い敵構成員を前に、ヴィクトリア家政が負ける筈が無い。
「ぐへっ!?」
「なっ……ま、待ち伏……あばばばば!」
「ひいっ……ぶふぉ!?」
ある敵はライカンの蹴りによって脳を揺らされ、そのまま勢いよく壁へ激突させられる。
またある敵はリナの操るドリシラとアナステラに頭突きを食らった挙げ句、放たれた電撃に意識を飛ばす。
またまたある敵はカリンの回転鋸に銃を両断され、面の部分で階段下へと殴り飛ばされてしまう。
いつも通りに淡々と処理を済ませていくライカン達。
スズツキとエレンはイアスとバトラーボンプを先に改札の向こう側へ行かせると、追ってきた敵に銃撃と斬撃を加えていく。
「この、邪魔っ……!」
「はぁ……はぁっ……!」
スズツキは引き金を引くことに抵抗を覚えながらも、相対する敵をどうにか無力化し続ける。
それから少しの時間が経てば、けたたましい破壊音が消え、奥の方からヴィクトリア家政の残りの全員が出てきた。
ライカンの燕尾服はもちろん、リナとカリンのメイド服まで一切の血痕が無く、戦闘前の綺麗な姿のままだった。
「は、離してくれっ……!」
更にはお土産まで持ってきたようで、ライカンの手には足を掴まれて逆さ吊りになった敵の姿があった。
ジタバタと暴れる敵の構成員だったが、ライカンはそのヘルメットを引っこ抜いてから、ぽいと床へ雑に投げ出す。
見えてきたのは頭皮が涼しめな中年の男。
彼は床へ身体を打ち付けた痛みに軽く悶えた後、対侵食装備が無いことに気付き、ワタワタと慌て始める。
「あっ……お、おいっ!返してくれっ!それがないとエーテリアスになっちまう!」
「ご心配無く。ホロウに入ることが出来る人間なら変異が現れるまで最低でも15分はかかります。それまでにこちらの……。」
「話す!何でも話すから返してくれ!俺のエーテル耐性値はEマイナスなんだ!装備がなけりゃ数分とかからずに侵食が……!」
ゲホゲホと苦しそうにうめく男。
それを前にライカンとリナは不思議そうに顔を見合わせた。
都の条例において、ホロウの中が現場となる職業に就くためには最低でもエーテル適性の評価がCプラス以上は必須なのだ。
Eマイナスともなれば防災庁指定のCBRNホロウ内活動用装備品を用いたとしても、僅か数時間しか動くことが出来ないだろう。
「ふむ……仕方ありませんね。」
エーテリアスになってもらっては困る為、ライカンは仕方なくヘルメットを被せ直した。
だがその代わりにエレンとカリンがそれぞれの得物を構えながら、男の周囲に回り込む。
「さて、装備は返しました。代わりに色々と吐いてもらいましょう。」
「げほっ……はっ……はぁ……わ、分かった……。」
男は荒く呼吸をしながら、ぽつりぽつりと話し出す。
普段はフリーターで今までホロウとは無縁の存在だったこと。
だが非正規雇用の現場作業員としてヴィジョンに雇われると、言われるがままに治安官風味の装備を持たされて、電車に乗ったこと。
カンバス通りの拠点で警護をすると説明されていたが、突然、工事エリアに侵入した不審者の射殺に指示が変わったこと。
そして指定区域へ移動する途中でいきなり先頭車両が爆発し、ヴィクトリア家政と戦闘に入ったこと。
「……ってな感じだ。俺もそれ以上は分からない。」
「やっぱりヴィジョンだったのね……。」
「ふむ……拠点とはホロウの中に位置しているので?」
「ああ、確かカンバス通りの近くにある車両基地とか何とか……。」
「なるほど……分かりました。」
話が終わり、男を解放させようとする。
だがその時、彼が胸に着けていたトランシーバーが音を発し始めた。
[3班、3班!聞こえるか!?そっちに別のホロウレイダーの一団が向かった!見つけ次第即刻射殺しろ!『カンバス通り』には絶対に近付けるな!]
ライカンはそれを手に取ると、通話用のボタンを押し込む。
「こちら3班、ホロウレイダーの特徴を教えられたし。」
[人間の女が2、機械人が1、猫のシリオンが1、あと黄緑のボンプだ!]
「……誰かしら?」
「我々には関係無いかもしれません。」
通信の内容に首を傾げる一行だったが、唯一リンだけは覚えがあった。
[……ニコ?]
「えっ?」
[邪兎屋の皆んなが居るみたい!早く助けなくちゃ!]
「ちょっ……リンさん!」
出口に向かって走り出したイアスにスズツキ達も後を追う。
外に出ると、ちょうど銃声らしきものが街中に木霊しており、比較的近い位置に居ることが分かった。
「ねえ!どこ行くつもり!?」
[だからニコ達を助けるんだってば!]
「ライカン、どうするの?」
「仕方ありません。我々も後を追いましょう。」
ポテポテと走り出したイアスに着いていくと、目的の人物達はすぐに見つかった。
露出多めなツインテピンク髪、水色短髪のブレード少女、2丁拳銃持ちの知能機械人、見知らぬ猫のシリオン、全身黄緑の片目ボンプ。
前回の任務時に邂逅した邪兎屋+αがヴィジョン構成員から逃げつつ、交戦をしているところだった。
イアスが遮蔽に隠れながら近付いていくと、トランクケースに内蔵した短機関銃を乱射していたニコがこちらの存在に気付く。
「誰……ってプロキシ!?」
[詳しい説明は後で!逃げるならこっちだよ!]
「分かったわ!ビリー!アンビー達を呼び戻して!」
「えっ……て、店長!どうしてここに!?」
「助けに来てくれたのよ!いいから2人を呼んで!」
「おうよ!」
全員が集まると、イアスの先導で今度は路地裏へと駆け込む。
時折りヴィジョンの構成員と遭遇したが、これはライカンとリナが手早く始末してくれた。
「店長!ホントにこれ大丈夫なんだよな!?もう
「疲れたにゃ〜……!」
[もうすぐでホロウの外に繋がる裂け目があるよ!そこまで頑張って!]
路地を抜けるとショッピングモールに入り、動かないエスカレーターを駆け上がっていく。
重い装備を抱えての全力失踪は中々に応えたが、どうにか最上階に辿り着くことが出来た。
「あっ!あそこよ!」
「敵が集まってきてます!」
[早く飛び込んで!]
一行は荒れたフロアに開いた空間の裂け目へダイブした。
軽い浮遊感と共に視界が暗転するが、瞬時にそれはまた別の景色を映し出し、同時に身体への重力が復活する。
「はっ!カッコ良く着り……ぶっ!?」
「いだっ!」
「っと。」
「ひえっ!?」
最初にビリーが華麗にヒーロー着地を決めると、その上からイアスと邪兎屋の残りのメンバーが彼を下敷きにする。
ライカンとカリンは受け身を取りながら、リナはふわりと落下の勢いを消してから足を地面につける。
エレンは普通に着地すると、遅れて落ちてきたスズツキを慣れた動きでキャッチした。
「あ……す、すいません、先輩。」
「全く……私が居ないとホントにダメなんだから……。」
[ちょっとそこ!何羨ま……んん"っ!ふ、フジュンイセーコーユーだよ!さあ、早く離れろー!]
「いったた……頭にたんこぶが出来ちゃうところだったわ。」
「ここはホロウの外かしら?」
「赤牙組の拠点は爆破されるし、治安官の集団には襲われるし、今日は碌なことが無いにゃー……。」
「な、なあ……そろそろ離れてくれると……。」
それぞれ騒がしい空間が展開される中、一行へゆっくりと近付いてくる小さな影があった。
「お姉ちゃん達、誰?」
「……えっ?」
「女の子……って、ここは……。」
全員が声の主に注目する。
そこに居たのは1人の幼い少女。
更に周りを見渡すと、老若男女を問わず、沢山の人間がこちらへ不思議そうな視線を向けてきていた。
スズツキはゆっくりと少女に近付き、目の前で屈み込む。
ガチガチに武装した威圧感マシマシの格好だったが、幸いにも容姿とメイド服のおかげか逃げられることはなかった。
モードをアゲハ仕様に切り替えると営業スマイルを浮かべる。
これもリナから教わったことだ。
「ぼ……私、アゲハって言うの。今までホロウの中を探検してたんだけど、何故かここに来ちゃったんだ。」
「へー、お姉ちゃん、ホロウレイダーなんだね。」
「そうそう、よく知ってるね。それでなんだけど、今居るここってどこなのかな?」
「カンバス通りだよ。皆んな電車を待ってるの。」
「……えっ。」
少女の口から出てきた言葉にスズツキはもちろんのこと、エレン達までが驚愕の表情を浮かべる。
「カンバス通り……確か爆破予定区域では……?」
[一応工事開始まではまだ余裕はあるけど……それにしたってもう少し避難が進んでいるべきだよね……。]
「……ここだけでも100人近く居るわ。奥からも声が聞こえてくるし、おそらくもっと多いわね。」
「親分、まさかだけどよ、ネットでよく言われてたヴィジョンのコストカットは……。」
「そんなまさか……い、いくら何でも非人道的過ぎよ。」
各々が現状に困惑する中、眼前の少女が再び話しかけてくる。
「お姉ちゃん?」
「……ん、何かな?」
「大丈夫?どこか痛いの?」
「ああ、いや……大丈夫だよ、ありがとう。」
少女の頭を軽く撫でるスズツキだったが、改めて見ると、その瞳からは不安が感じられた。
⬛︎
「おいっ!例の件はどうなった!?」
「はい、先程、また別の部隊がヴィクトリア家政と旧京浜線のトンネル内で遭遇、交戦に入ったとのことです。」
「で、仕留めたんだろうな!?」
「いいえ、目標は逃亡し、対してこちらは構成員8名死亡、3名重傷、34名軽傷、車両が1両全焼の損害を受けました。現在、負傷者を乗せて前線拠点まで撤退したところです。」
「ぐうぅぅ……ゴキブリのようにしぶとい奴らだ……!爆破の崩落を生き残り、数でのゴリ押しにも耐えるとは……!」
「単純に装備と練度の差が桁違いです。
「うぐっ……ど、どうせ奴等は代えの効く存在だ!数に任せて押し続ければいつか……!」
「時間をかければ幾らでもストリートから回収出来るでしょう。しかしデッドエンドホロウ内に展開している人員には限りがあります。損耗率が半数を超えた今、もう人海戦術は使えません。」
「じゃあ、どうするというのだ?」
「もうお忘れですか?カードは残っているではありませんか。」
「……やはり、毒は、同じ毒をもって制するべきか。分かった。オブシディアン大隊の出動を要請しよう。」
「前に話したように、軍事転用が可能な要警戒型の死骸を狙う盗賊集団といった設定で行きますが、よろしいですね?」
「ああ、連絡は頼んだぞ。」
「承知しました。」
『高性能エーテル炸薬弾』
サプレッサーK98kの擲弾発射器に用いられる弾のひとつで、爆薬としての側面も持ち合わせるエーテル結晶を弾頭に封入している。
特にスズツキが装備していた個体は分離精製を幾度となく繰り返し、限りなく純度を高めた結晶体をふんだんに詰め込んだものである為、手の平サイズでありながら、その威力は携行式の対戦車誘導弾や無反動砲に匹敵する。
ちなみに通常のエーテル爆薬は爆発すると、不純物を含んだ結晶の残りカスが白い粉として周囲へ飛散するが、極度に純度の高いエーテル結晶の場合、飛び散ったエーテル物質全てが燃焼を引き起こすため、一切の物証が残らない。
また高性能であるが故に値段は非常に高価で、数発使っただけで新卒会社員の初任給を軽く超えてくる。
やったね!スズツキ君がファーストキル(×8)を取ったよ!
よろしければ高評価又は感想をお願いします。作者のモチベが爆上がりするので。
1話ごとの文字数ってどれくらいが読みやすい?
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8000字くらい
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6000字くらい
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4000字くらい
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それ以下