ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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何かまた長くなっちゃいました。

いよいよ反転攻勢のお時間です。



12 緊迫・敵拠点へ潜行せよ!

ライカンとリナは沢山の避難民がたむろしている駅構内を高所から見下ろしていた。

 

「スゴい人の数……。」

 

「爆破工事が始まるまでにはもう少し期間があるとはいえ、この大人数の場合、移動にかかる時間を考えれば今からでも退避は始まっている筈……むしろ確認作業も含めれば遅すぎるくらいですね。」

 

「ええ、まるでこの人たちを『避難させたくない』みたい……。」

 

「異常事態と考えて良いでしょう。我々はとてつもない陰謀を前にしているかもしれません。」

 

ライカンがそう呟いた時、パタパタと複数の足音が聞こえてくる。

 

そちらを向けばスズツキとイアス、邪兎屋のメンバーが階段を駆け上がってきていた。

 

「ボス!」

 

「スズツキ、何かありましたか?」

 

「今、皆んなで手分けして下の人たちから話を聞いてきたんです!そしたら……!」

 

避難民によれば、やはりというか彼らに接触してきていたのは銃を持った『治安官』だった。

 

電車による退避はまだ準備に時間がかかるので、あともうしばらくここで待機していてほしいと。

 

そのように言われたのが既に5日も前とのことらしい。

 

「現場には女子供、老人も大勢居ました。寒さと飢えはまだどうにかなっているみたいですが、少し前からインフラが止められたおかげで水が尽き始めているようです。このままでは……!」

 

その時、スズツキの隣から猫のシリオンの少女が割って入ってきた。

 

驚くライカン達に向かって彼女はいきなり頭を深々と下げる。

 

「このままじゃ爆破云々の前に死人が出る!どうか皆んなを連れ出すのを手伝ってほしいんだにゃ!」

 

「ふむ……まず貴女様のお名前を伺っても?」

 

「猫又!猫又っていうにゃ!ここは私の育った場所で……!」

 

「はいはい、ちょっと落ち着いて。」

 

切羽詰まった様子の猫又を押さえて今度はニコが前に出てくる。

 

彼女はライカンに向かって手を突き出した。

 

「ニコよ。邪兎屋の社長をやっているわ。」

 

「ライカンと覚えていただければ……それで何故このような状況に?」

 

軽い握手を済ませると、ニコは今までに邪兎屋の目線で起こったことを説明し始めた。

 

猫又からの依頼の一環でデッドエンドホロウに入ったこと。

 

しかし目的地であった旧カンバス通りの一部が目の前で崩落したこと。

 

その後、集まってきたヴィジョンの構成員に追われ、何やかんやでヴィクトリア家政と合流したこと。

 

全てを話し終えるとライカンは顎に手を当てながら考え込んだ。

 

一方、ニコは言葉を続ける。

 

「助ける義理なんて無いのは分かっているわ。でもアンタ達が、見るからに荒事に長けている貴方達が居てくれれば成功率は格段に上がる。ここは人助けと思って手を貸してくれないかしら?」

 

「そうですね……エレン。」

 

「……ん?」

 

近くの柱の影からサメの尾びれだけがひょっこりと顔を出す。

 

「確か、以前の回収任務ではぐれた際に助けてもらったと?」

 

「あー……まあ、うん。」

 

「スズツキもその解釈で合っていますね?」

 

「は、はい!」

 

2人の返事を聞くとライカンは再びニコへ向き直る。

 

「どうやら、我々は貴女に借りがあるようです。では、今回はそれを返させてもらうことにします。」

 

「!ありがとう。感謝するわ。」

 

今後の大まかな方針が決まると、全員で情報の共有を始めた。

 

ライカン達も今回の任務について全て開示し、その後に治安官の姿をした敵に襲われたことを話した。

 

分かっていることを全て統合すると、徐々に敵の目的が浮かび上がってくる。

 

「まず私達がデッドエンドブッチャーを討伐したら……。」

 

[手柄を横取りするために爆殺する。またはカンバス通りについての情報が漏れないように徹底的な口封じってところかな?]

 

「そして安全になったホロウ内で悠々と爆薬を仕掛けて……。」

 

「カンバス通りの人を丸ごと処分する。」

 

「これで危険なデッドエンドホロウ内で要警戒型を討伐しつつ、低コストで工事を完了させたスーパー企業の完成ってわけだ。」

 

「我々も随分と舐められたものです。それにやっていることは邪悪そのものだ……!」

 

スズツキはふと隣を見ると、いつも冷静沈着なライカンが、握り締めた両の拳をワナワナと震わせていることに気付いた。

 

リナもそうだったように、やはりこんな仕打ちを受けては幾ら彼でもご立腹になるらしい。

 

人間らしい一面を垣間見て思わず笑みが溢れる。

 

「ふふっ、ボスも怒る時はあるんですね。」

 

「っ……すみません。私としたことが……。」

 

「いえ、悪に対して激昂するだけの良心を持ち合わせてるってことですよ。優しいんですね、ボスは。」

 

「そ、そうですか……///」

 

表情を隠すようにフイとそっぽを向くライカン。

 

しかし背後の尻尾からは相変わらず正直な感情が滲み出ており、今はぶんぶんと左右へ振られていた。

 

そのギャップにリンやエレン達はもちろんのこと、邪兎屋の面々までが生暖かい視線を彼に向ける。

 

「ん"っ……んん"っ……!話が逸れました。それで今後についてですが……。」

 

状況を明白にしたところで、いよいよ避難民を爆破エリアから脱出させる為の作戦会議が始まったが、こちらはすぐに話がついた。

 

というかこんな大人数を脱出させる方法はひとつしかなかった。

 

「……電車しかないよね。」

 

「そうね、非エーテル適応体質者も居るから脱出時はホロウ内のトンネルを通っていくしかないわ。」

 

「つまり列車を確保する必要があるってことですか……それも今すぐに動かせるようなものを……。」

 

[となると、ヴィジョンとの戦闘は避けられないね……。]

 

TOPSに劣るとはいえ、そこらの会社が束になっても勝てない大企業と真正面からぶつかるということから、一行に不安感が蔓延し始める。

 

しかしここでニコの自信に満ちた声が響いてきた。

 

「やってやろうじゃないの!TOPSの成り損ないなんて今の私達にとって敵じゃあないわ!」

 

「親分の言う通りだぜ!俺達が負ける筈がねえ!」

 

「そうだ!奴等なんかボコボコにして終わりだにゃ!」

 

ニコ達の自信満々な雰囲気にヴィクトリア家政やリンの面々は緊張感がほぐれていくのが分かった。

 

「では、作戦について決めましょう。」

 

近場の机に路線図と地図を広げる。

 

反撃の時が、今始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

作戦内容は単純だ。

 

ここから少し離れた場所にあるとされている旧東エリー総合車両センター、厳密にはそこを流用して作り上げられた敵の監視拠点。

 

その拠点にカチコミをかけて列車を強奪し、同時にヴィジョンが企てていた計画について何か有益な物的証拠がないか探すというもの。

 

後者に関しては、どうやら邪兎屋はヴィジョンに対して裁判を起こそうと画策しているらしい。

 

ちなみにリンはフェアリーによる企業への直接的なハッキングを独り考えていたが、時間がかかり過ぎることと、パエトーンの素性の露呈を指摘されて断念した。

 

今は委任状がどうたらと言って避難所に残ったニコとアミリオンを除いて、邪兎屋とヴィクトリア家政、猫又、リンの9人で動いている。

 

そして早速目標地点を発見したところだった。

 

近くの雑居ビルの屋上から観察してみると、どうやらヴィジョンは敷地の中央に位置する建物を拠点として使っているようで、周囲を巡回する沢山の敵の姿が見えた。

 

「では、話した通りに。」

 

「スズツキ、気を付けてよね。」

 

「はい、先輩も。」

 

「よっしゃ!行くか!」

 

ここで一行は二手に分かれた。

 

アンビーとビリー、猫又、スズツキ、イアスが敷地の側面に周り込み、残るヴィクトリア家政の全員が正面から進んでいく。

 

ライカン達が先に内部へ潜入し、派手に暴れることで陽動を開始。

 

その隙をついて残るスズツキ達が施設中枢に斬り込みをかけるのだ。

 

「ん?ぐえっ……!?」

 

「なっ……て、敵……ぐあっ!?」

 

早速中へ入り込んだライカン達は遭遇した敵を手当たり次第に潰していく。

 

最初は気付かれていなかったが、流石に何人も居なくなればヴィジョン側も襲撃に勘付いたようで、最初の会敵からそう時間が経たないうちに、けたたましいサイレンが施設に鳴り響いた。

 

暇潰しとして、映画の話に花を咲かせていたスズツキ達も警報音に気付くと、行動を開始する。

 

[うわぁ……皆んなスゴい暴れてる……。]

 

「私達もそろそろ行くべきね。」

 

「だな!スズツキ!行くぞ!」

 

「はい!」

 

アンビーが得物の単分子カッターでフェンスを切断すると、そこから中へ侵入を開始する。

 

何本も横に並んだ線路を乗り越え、停められた車両を遮蔽に隠れながら先へ進む。

 

幸いにも陽動が上手くいったおかげで、敵の姿はほとんど無く、戦闘を行わずに建物へ到達することが出来た。

 

「ここから敵に会う可能性が高くなるわ。気をつけて。」

 

「おうよ。」

 

「は、はい……!」

 

ドアの鍵とノブを破壊すると、アンビーを先頭に団子になって、侵入を開始する。

 

ビニールハウスのような円筒形の即席のエアロックを抜けると広い空間に出た。

 

「あっ……!」

 

最初に目に入ってきたのは今の自分達が一番欲しているもの。

 

先程トンネルの中で遭遇した列車だった。

 

この路線の場合、本来なら10両編成で走るところだが、どうやらこれは運用の簡略化を考慮しているのか、中途半端にたった3両だけしか繋げられていなかった。

 

それも前から制御車、動力車、付随車と何とも不恰好な姿をしている。

 

おおかたホロウ内に放置されていたこれら車両のレストア代をケチったのだろう。

 

「早速見つけることが出来たわね。」

 

[あとは帰るだけ……と、言いたいところだけど……。]

 

「……これ、動くのか?焼きすぎた秋刀魚みたいになってるぞ?」

 

電車を見つけたは良いものの、実は致命的な問題があった。

 

肝心の先頭車両が見事なまでに黒焦げになっていたのだ。

 

運転席を覗いてみれば、全ての計器と操作盤が高温によって溶けており、少なくとも操作出来るような状態ではなかった。

 

スズツキは思い当たる節が多すぎて頭を抱える。

 

「あー……さっき榴弾を撃ち込んで燃やしたんでした……ハイ……。」

 

[しょ、しょうがないよ。あの時は非常事態だったし、ね?]

 

「そうよ、次を探しましょ。」

 

「もう1個くらいあるって。」

 

「……ですね、行きましょう。」

 

探検を続けていると、何やら今度は事務所のような区画に入る。

 

そこにはヴィジョンの関係者が居たが、こちらは治安官の装備を着た戦闘員ではなく、作業着を身に纏った純粋な社員だった。

 

スズツキとビリーがそれぞれ銃口を向けると、彼らは一目散に部屋から逃げ出していく。

 

もぬけの殻となった室内には電源が点いたままの各種端末や、施工発注に関する書類などが山ほどあった。

 

つまりはヴィジョンに関する情報が剥き出しの状態で放置されていた。

 

「おほっ!こりゃいい!」

 

「宝の山だにゃ!」

 

「意外とあっさり行くものですね。」

 

鼻息を荒くしたビリーと猫又は早速そこらの書類を手に取り、爆破工事に関する項目を探そうとする。

 

しかしすぐに襟首をそれぞれアンビーに掴み上げられてしまった。

 

「ちょっ……な、何すんだよ!?」

 

「はなせー!」

 

「私達の任務は脱出の為の足を探すことよ。それに貴方が文字と睨めっこして理解出来るの?」

 

「でも証拠を集めてこいってニコが……!」

 

「餅は餅屋よ。ここはプロキシ先生とスズツキに任せて良いかしら?」

 

「分かりました。」

 

[はーい!]

 

3人が先に行くと、スズツキは取り敢えず一番偉そうな席に座り、置いてあった大きなノートパソコンを手当たり次第に漁り始めた。

 

しかし彼に機械関連の技術はほぼ皆無な為、非効率な作業に悪戦苦闘していると、待っていましたと言わんばかりにイアスがウキウキとした足取りで近付いてくる。

 

[スズツキ君、ちょっと失礼するねー。]

 

「わっ……リンさん、これが分かるんですか?」

 

[当たり前だよー。プロキシなんだからPCのひとつやふたつお手のものだって。まあ見ててよ。]

 

スズツキの膝によじ登ったイアスはそのまま腰を下ろすと、PCから別の端末に繋がっていたケーブルを引っこ抜き、その片方を自身の接続ポートに挿し込む。

 

ちなみにリンに情報系の技術は無いわけではないが、ハッカーほどではないことから、解析するのはフェアリーの役目だ。

 

だがそれを知らないスズツキからすれば、リンが沢山のファイルをあっという間に選別、処理したと見える。

 

いつの間にか彼の瞳には憧れの輝きがあった。

 

「す、スゴい……何をしてるかはよく分かりませんけど……!」

 

[えへへ、なら褒めてほしいな〜。]

 

「流石は伝説のプロキシです!本当に頼りになりますね!」

 

[ふへへ……。]

 

スズツキがイアスの頭を撫でると、感覚を同期しているリンはボンプならではの体験に涎を垂らした。

 

しかしそこへ例の人工音声が割り込んでくる。

 

[マスター、嘘をつくことは良くありませんよ。]

 

「いいじゃん、誰も損はしていないしー。それより何か良い証拠は無かった?避難民の処分についてとかさ。」

 

[民間人は既に大半が退避を済ませていると書かれた報告書を発見しました。しかしそれ以外は施工に関することのみです。おそらく現場の社員も彼らについては知らないのかもしれません。]

 

「うー……そう簡単には行かないか……やっぱり企業へ直接ハックは……無理なんだよねー……。」

 

先程も話したように、時間がかかることと、それなりのリスクを伴ってしまうことが問題だ。

 

唸るリンだったが、そこへフェアリーが解決策を提示してくる。

 

[いえ、この会社所有のPCを利用すれば工程をかなり短縮出来ます。足跡を残すことも無いかと。]

 

「ホント!?じゃあ早速やって!」

 

[はい、ではそのまま動かずに接続状態を維持し続けてください。]

 

「分かった!」

 

フェアリーがハッキングを始めると、今までぴょこぴょこと動いていたイアスの挙動が全て停止した。

 

「リンさん?」

 

[大丈夫!解析に集中するために他の機能を落としただけ!少し時間がかかるから周りを見張っててくれない?]

 

「了解です!」

 

スズツキはライフルを手に持ち、階段の付近へ移動した。

 

壁にもたれると、ここまで順調に事が進んでいることに安堵の息を漏らす。

 

が、ヴィジョンの『保険』は既に発動しており、知らず知らずのうちにスズツキ達の足元へ迫ってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「……ん?」

 

最初に異変を感じたのはエレンだった。

 

倒れ伏した敵構成員から足を退かすと、近くの壁に張り付き、そっと周辺の様子を伺う。

 

ライカン達も彼女の様子から何かを察し、開けた場所から何かしらの遮蔽付近へ移動していく。

 

「ボス、また誰か来た。」

 

「ええ、新手かもしれません。」

 

そのままジッと身を隠し続けていると、複数の人影が現れた。

 

ダミーではない本物の正式採用ライフルと装備を持ち、統率された動きで周辺をクリアリングしていく集団。

 

国家の所有する最強の暴力装置、正規軍だった。

 

「やっば……軍が介入してきた……!?」

 

「まさか彼らもヴィジョン側に?これは厄介ですね……。」

 

「ライカン、どうするの?」

 

「ここは引くべきでしょう。いくら我々でも軍隊をマトモに相手取ることは悪手です。」

 

撤退を考えたその時、頭上よりひとつのカメラがライカン達を映し出した。

 

同時に聞こえてきたうるさいプロペラ音に誰もが斜め上へ視線を向ける。

 

「ドローン!」

 

「ボス、スズツキを早く……!」

 

直後、正確無比な弾幕が遮蔽に使っていたトラックへ浴びせられた。

 

ライカンが建物のトタン板を無理やり蹴破ると、その破口から室内に逃げ込む。

 

一方、銃声はスズツキにも聞こえていた。

 

先ほどまでのカラシニコフとは違う、発射レートが高めな高速小口径弾の発砲音。

 

すぐに別の敵と判断すると、机の間に身体を収め、そっと九八式を覗かせる。

 

「あっ……!」

 

接敵はすぐだった。

 

繋がった破裂音がしたかと思えば、付近の書類が一斉に弾け飛んだ。

 

これは堪らないと匍匐しながらイアスのもとへ急ぎ、PCごと回収すると机の下に隠しておく。

 

「リンさん、リンさん!」

 

[す、スズツキ君!怪我は無い!?]

 

「僕は大丈夫です!それより残り時間は!?」

 

[数分くらい!]

 

「分かりました!時間を稼ぎます!」

 

スズツキは余っていた擲弾をポーチから取り出すと、片っ端から発射器に詰めて乱射し始めた。

 

空中炸裂弾、散弾、催涙弾、照明弾と擲弾のルーレットが敵に浴びせられる。

 

そして今度は身体を出すとエーテル弾を横薙ぎにばら撒いた。

 

たちまち事務所の中がぐちゃぐちゃになっていく。

 

「ぬあっ!?」

 

「くっ……馬鹿、下がれ!」

 

だが相手は流石の軍隊といったところで、狼狽えることなく、すぐに隠れてしまった。

 

スズツキが弾切れで頭を下げると、敵は煙幕を焚き、盾を持った兵士を先頭に突入してくる。

 

「はっ……はぁっ……くそ……!」

 

再び匍匐して場所を移動したスズツキは発射器に高性能エーテル炸薬弾をはめ込んだ。

 

おそらくこれを使えば部屋が吹っ飛ぶが、現状を打開するには仕方ないと引き金に指を添える。

 

しかしその時、背後より首元に何かを突き付けられた。

 

「っ……!?」

 

「下手な抵抗はしない方がいいわよ。銃を置いて、ゆっくりとこっちを向きなさい。」

 

大人しく言われた通りにすると、後ろから伸びてきた手に小銃を持っていかれる。

 

後ろを向けば一見してアンビーに似た少女が立っていた。

 

しかしよく観察すると様々な箇所が違う事が分かる。

 

髪は色が同じでも斜め後ろで1つに縛っており、服もこちらはオレンジがベースカラーだった。

 

「私の名前は11号。貴女は?」

 

「す、スズツキです……。」

 

「そう……思っていたより随分と若いのね。」

 

11号と名乗った少女の背後から、わらわらと兵士が出てくる。

 

彼らに銃を突き付けられながら立たされると、拳銃や手榴弾など、他の装備もリグごと外されてしまう。

 

「サプレッサーK98にIRゴーグル、クラスⅤのボディーアーマー。特戦群並みの装備をどうして貴女のようなホロウレイダーが使っているのか気になるところではあるけど……まあ、いいわ。今は早く行きましょう。」

 

「ちょっ……行くってどこにですか?」

 

「治安局に引き渡すわ。貴女達が盗ったデッドエンドブッチャーの死骸の一部を回収してからね。」

 

「盗ったって……僕達は何もしていませんよ!ただ人助けを……もがっ!?」

 

兵士に口を押さえられ、後ろ手に手錠をかけられる。

 

状況を理解出来ないまま外へ連れ出されると、到着したのはとある大きな倉庫の前だった。

 

壁は弾痕だらけになっており、中には爆発で黒く煤けている箇所も。

 

そして周りを兵士達が取り囲んでおり、彼らに混ざって二足歩行型の思考戦車の姿まであった。

 

「ぷはっ……こ、ここは?」

 

「貴女のお仲間が居るわ。既に私の部下が10人もノックアウトされてる。投降するように説得をお願い出来るかしら?」

 

「うくっ……。」

 

11号は背面のブレードを手に取ると、スズツキの首へ突き付けてきた。

 

どうやら選択肢はハナから存在しないらしい。

 

「うぅ……。」

 

背中を押されながら倉庫の正面まで歩いていく。

 

ここで建物に空いた小さな窓から見知った赤い瞳と機械の眼が覗いていることに気付いた。

 

視線が交差すると、それらは焦ったようにすぐどこかへ行ってしまう。

 

「さあ、早く。」

 

「……分かりました。」

 

スズツキは意を決すると、息を吸い込んだ。

 

もちろん説得なんてするつもりはない。

 

自分はほっといて早く逃げろと、そう叫ぶつもりだった。

 

が、次に響いたのは彼とはまた別の声だった。

 

[デッドエンドブッチャーはヴィクトリア家政に処分させたら、そいつらも厄介払いと口封じをする。それは良いんだが、ウチの構成員だけで可能なのか疑問が残るな……そうだ!コネを使って軍を動員するのはどうだ?]

 

[良いお考えです。パールマン社長。]

 

いきなりスピーカーを介して聞こえてきた男の声にスズツキや11号を含めた誰もが困惑する。

 

何故なら、連日のニュースに出てくるほどに注目されている人物だったからだ。

 

会話の記録はそれからも続く。

 

[カンバス通りの立ち退き指示は……やはりコストがかかるし面倒だ。どうせビンボーな連中しかいないんだし、まとめて処分しても構わんだろう。治安局への根回しは任せたぞ。ああ、饅頭の詰め合わせか金色のお菓子を忘れるなよ?]

 

[何?爆薬の威力が足りない?なら軍用のエーテル爆弾を横流ししてもらえ。お上には工業用エーテル爆薬ってことにしとけば大丈夫。]

 

[デッドエンドブッチャーの死骸か……ブラックマーケットに流せば高く売れるな……。]

 

贈賄、横領、不作為、職権濫用、改竄。

 

ありとあらゆる不正行為が会話の中に詰まっていた。

 

時代劇のビデオに有りがちな悪代官と越後屋のシーンを詰め合わせたような音声記録を前に兵士達も唖然としてしまう。

 

もちろん記録の中には軍幹部との会話も含まれており、ヴィクトリア家政を盗賊という体で処分することが話し合われていた。

 

全ての音声が流れ終えると、今度はリンの声がスピーカーから流れてくる。

 

[軍の皆さん、聞こえてますか?これで誰が真の敵かは分かりましたよね?だからそこに居るスズツキ君をどうすべきかは分かりますよね?ちなみに間違った行動をしたら……。]

 

怒気を含んだようなリンの声が途絶えると、周囲の思考戦車が命令を無視して勝手に動き出し、胴体上部の重機関銃を兵士達へ向ける。

 

いきなり状況がひっくり返ったことにスズツキは仰天していると、手首にかけられた手錠が外された。

 

「11号……さん?」

 

「軍人は上官の命令に従うことが絶対よ。でもそれを遵守することで、無辜の人々を殺す手伝いをするのは論外だわ。」

 

11号が手を上げると、周りの兵士達が銃口を下ろし、倉庫の包囲も解かれた。

 

建物のドアが開き、ライカンやビリー達が出てくる。

 

中でもエレンはスズツキに気付くと、いつにも無く深刻そうな表情を浮かべながら駆け寄ってきた。

 

「スズツキ!」

 

「せんぱ……いぶっ……!?」

 

「怪我は無いよね?何かされたりしてないよね?」

 

「だ、だいじょぶ……れす。」

 

両手で顔を鷲掴みにされると、グニグニとこねくり回される。

 

ふざけている様に思われたが、エレンの双眸は非常に真剣なものだった。

 

「全く……何で捕まったりなんかしたのよ……。」

 

「いやまあ……リンさんを援護しようと思ったら……おうふっ……。」

 

「馬鹿……!」

 

ぎゅっと抱き寄せられ、覚えのある柔らかい感触が伝わってきた。

 

そのまま身を任せていると、何かが背中に飛び付いてくる。

 

[スズツキくーん!大丈夫だった?]

 

「リンしゃん!はい、僕は……うぶっ……。」

 

回された腕に力が入り、更に力強く抱擁される。

 

[エレンー?早く離してほしいなー。スズツキ君を助けたのは私なんだから優先されるべきは私だよねー?]

 

「うるさい、早い者勝ち。」

 

[なっ……この……離れろー!]

 

スズツキを挟んでいつも通りの争いを展開し始めるリンとエレン。

 

側から見れば小柄で可愛らしい女の子をボンプとサメ少女が取り合っているという百合空間が展開される。

 

そろそろ苦しくなってきた時、今回は11号が話しかけてきたことで何とかスズツキは脱出に成功した。

 

「何?」

 

「ごめんなさい。任務だったとはいえ、無実の貴方達を攻撃してしまった。」

 

[まあ、結果的にこっちに被害は無かったからいいよ。上からの命令はしょうがないことではあるし。]

 

「そう言ってもらえると助かるわ。お詫びと言っては何だけど、私達に手伝えることはないかしら?」

 

11号からの申し出にリンとエレンは顔を見合わせる。

 

そして悪そうな笑みを浮かべた。

 

「じゃあさ、カンバス通りの避難民を助けるの手伝ってよ。」

 

「ええ、お易い御用だわ。」

 

[あと、ヴィジョンの社長と話すことは出来る?どうせならハッキングより正規の回線が良いかな〜って。]

 

「?多分だけど、ホロウの入り口に中継機が置いてあるわ。私達の指揮通信車を使えばそれを経由して本社へ連絡出来る筈。」

 

[んふふ〜、なら早速行こうか!]

 

11号の案内の元、リン達は移動を開始する。

 

予期せぬ障害があったが、今度こそヴィジョンに一発かますチャンスが巡ってきたようだ。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

蓄えられた白い髭と小太りな体形が特徴の男、チャールズ・パールマンは広い社長室の中でゆったりと椅子に座っていた。

 

するといきなり彼のポケットから電子音が漏れてくる。

 

「……ん?」

 

取り出したのは私用の携帯電話。

 

限られた相手にしか番号を教えていない為、何事だろうかと首を傾げながら出てみると、聞こえてきたのは覚えの無い少女の声だった。

 

[あー、もしもし?聞こえてる?]

 

パールマンは間違い電話と推察し、ほっと胸を撫で下ろす。

 

が、直後に顔を真っ青にした。

 

[先にこれだけ言うね?カンバス通りの避難民、ヴィクトリア家政、デッドエンドブッチャー……何のことか分かる?]

 

「な……なっ……!?」

 

[あっ!やっぱり繋がってたみたいだね!良かったー!]

 

電話の向こう側から嬉しそうな声が聞こえてくるのに対して、パールマンは動揺が止まらなかった。

 

思考を何とか整理すると、恐る恐る口を開く。

 

「お、お前……何者だ……!?」

 

[何者って……そりゃあ……。]

 

ここでまた別の低めな声が割り込んできた。

 

[アンタらが殺そうとした相手だけど?爆弾で吹っ飛ばして、武装した社員送り込んで、果ては軍を使うとか……必死だね。]

 

「ヴィクトリア家政……!」

 

再び話す人間が変わる。

 

[ふ、ふふん!僕達に手を出したのが運の尽きです!このお返しはたっぷりとさせてもらいますからね!]

 

[避難民を脱出させたらそちらへ行かせてもらうわ。私の上官と一緒に裁判所へ送ってあげるから首を洗って待ってなさい。]

 

「ちょっ……わ、私は……!」

 

[うっさい。]

 

碌な言い訳もさせてもらえないまま、ブツリと切られてしまう。

 

あまりの突然の出来事に呆然とするパールマンだったが、今度は青くしていた顔をタコの如く真っ赤に染め上げた。

 

行き場の無い怒りに苛まれながら、ワナワナと震える手で端末を操作し、別の電話番号を選択する。

 

2コールほど呼び出し音が鳴ると、いつもの秘書の声が聞こえてきた。

 

[はい、私です。]

 

「保険だ!今すぐ2つ目の保険を使え!」

 

[『ノーチラス』が所定の海域に到達するまであと1時間ほどかかります。まずどこへ発射するおつもりで?]

 

「カンバス通り一帯だ!ヴィクトリア家政も避難民もオブシディアン大隊も全て吹き飛ばしてしまえ!」

 

[……承知しました。]

 

電話が切れると、パールマンは落ち着き無く部屋の中をいそいそと歩き回る。

 

そして机に座り、両手を顔に当てた。

 

「大丈夫……アイツらを処分すれば丸く収まる……大手メディアは全て買収済みなんだ……まだ終わったわけではない……!」

 

どっと脂汗をかきながらもパールマンは口角を上げる。

 

その笑みにはもはや狂気が含まれていた。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

『それ』はぼんやりとした微睡みの中にあった。

 

時間をかけて意識がはっきりとしてくると現状を確認する。

 

どうやら大きな瓦礫がいくつも身体へ覆い被さってきているようで、全くと言っていいほど身動きが取れなかった。

 

しかし今は既にエーテルの吸収が十分以上に済んでいる為、大した問題ではない。

 

『それ』はふっと力を込めた。

 

たちまち各所の傷が塞がっていき、同時に背中がばっくりと割れ、中の黒々としたコアが剥き出しになる。

 

その出力が規定値を超えると、全身の筋肉が徐々に膨らんでいき、更には2本の腕以外にまた別の、これまた禍々しい腕が肩部より生えてくる。

 

積み上がった瓦礫がグラグラと揺れ出し、直後、下から突き上げられるような衝撃が発生すると、一気に崩れ始めた。

 

たちまち白い粉塵が舞い上がり、辺り一帯を丸ごと包み込む。

 

それが収まると、見えて来たのは瓦礫の上に屹立する大柄な影。

 

「なんだぁ……!?」

 

「あっ、あれ……!!」

 

「い……生きてる……?」

 

何事かと集まって来たヴィジョンの構成員はその見たことのない恐ろしい姿を、圧倒的な威圧感を前にして立ち尽してしまう。

 

そして我に返ると手に持った銃器を乱射し始めた。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「う、撃て!撃ちまくれ!」

 

だが『それ』は飛んでくる鉛弾を意に介さないまま、のっしのっしと歩き出す。

 

かと思えば煩わしさを感じたのか、その足を一度止めた。

 

背部のコアの出力が上がり、『それ』単体で消費するにはあまりにも過剰すぎるエネルギーが蓄積され始める。

 

『それ』は新たに生えた2本の腕をコアの付近に掲げると、広げた手の間に極彩色の丸い物体を発生させた。

 

「ひっ……も、目標の内部に高エネルギー反応!何か来ます!」

 

「退避!全員退……!」

 

次の瞬間、眩い光と共に極限まで圧縮されたエーテルのエネルギーが撃ち出された。

 

極太のレーザーと化したそれは瞬く間に周囲を焼き尽くし、身の程を知らずに歯向かってくる蝿を影も残さずに蒸発させていく。

 

「あっ……!」

 

「ぎゃあっ……!?」

 

攻撃が通った跡には次々と爆発が発生し、仕留め損なった獲物をも綺麗に片付けてしまった。

 

照射が終わると、周囲一帯に立ち込める火炎と爆煙の中から『それ』は姿を現す。

 

ただでさえ爆破の崩落によってぐちゃぐちゃになっていた現場は、無事だった区画まで破壊の限りを尽くされていた。

 

文字通り瓦礫の山と化した街の中、『それ』は再び足を進め始める。

 

目標は先ほど攻撃してきた蝿と同じ矮小な存在。

 

今まで傷ひとつ付けられなかった自分に損傷を、額のど真ん中に穴を空けて来た忌まわしき人間。

 

『それ』はゆっくりとした足取りながらも、沸々とした怒りを抱えながらどこかへと姿を消した。

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「ありました!ありましたよ!今すぐに動きそうな列車!それもスゴくパワフルなやつです!」

 

「パワフル?何それ?」

 

「いいから行きましょ!ほらカリンちゃんも、早く早く!」

 

「わわっ……待ってくださいぃ……!」

 

「はいはい、分かったから。」

 

「あらあら、スズツキちゃんの目が輝いているわ。あっちで何か見つけたのかしら?」

 

「おそらくスズツキの趣味嗜好からして近未来的な……いや、現状を考えると非常に古典的なものでしょう。それなら私も以前動かしたことがあります。」

 

「何か分かったの?」

 

「ええ、リナ、今晩は入浴と洗濯で忙しくなると予告しておきます。特に私が大変なことになるでしょう。」

 

「?まあ、頑張ってちょうだい。」

 

「……はい。」

 





ちょっとぐだぐだと長くなってますが、ヴィジョン戦は次で最後です。以降は日常パートになる予定です。

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