ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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13話に入り切らなかったパートです。

今後もこのような短い小話を出していく予定です。本編と分けた方がやりやすい場合もあるので。



二章幕間
14 ケモ上司との裸の付き合い


あれからヴィクトリア家政一行はどうにか治安局の目を盗み、ニコや11号たちを置いて現場を離脱すると、車で拠点まで帰ってきた。

 

スズツキは個室に入り、初陣でかなり酷使されてしまった九八式と今回はほとんど出番の無かった一七式を机に置く。

 

その他の装備も全て外し、完全なメイド姿に戻ると椅子に座った。

 

「はぁ……。」

 

ゴタゴタのおかげで興奮気味だった頭が急速に熱を失っていき、同時にドッと疲れが襲ってくる。

 

机に突っ伏していると、その時、開いたままのドアからリナが顔を覗かせてきた。

 

「スズツキちゃん、今日は泊まっていくのかしら?」

 

「あ……はい、そのつもりです。」

 

「それなら先にお風呂に入っちゃいなさい。ススの汚れが沢山残っているわ。」

 

「いいんですか?」

 

「ええ、任務の功労者を労うのは当然のことでしょ?」

 

「じゃあ……お言葉に甘えて……。」

 

スズツキは拳銃から弾を抜き取ると、他の備品はそのままに風呂場へと向かった。

 

ちなみに拠点には普通に寝泊まりすることが可能で、なんならそこら辺の下手な高級ホテルよりも良い設備が整っている。

 

今日のように遅くなった日は自宅に誰も居ない場合に限り、使わせてもらっているのだ。

 

「あー……疲れたー……。」

 

脱衣所に入るとエプロンを脱ぎ、頭に乗せたホワイトブリムも取る。

 

ウィッグと、その下の地毛をまとめるネットを外すと、スズツキの髪型がミディアムからベリーショートへと変わった。

 

「ぬっ……くく……。」

 

首の後ろのホックを外し、背中のファスナーを下ろそうとするが、これが中々上手く行かない。

 

鏡を見ながらやっとのことでワンピースを脱ぐことに成功する。

 

「うわ……ここまで真っ黒だし……。」

 

ススと煤煙に汚れた服はクリーニングに出すとのことなので、適当にハンガーにかけておくと、残りの下着類も脱いでいく。

 

一応補足をしておくと、パンツもインナーシャツもスポーツ系の男物だ。

 

もちろん任務時における実用性を考えてのことでもあるが、決して普段から女物のほっっそいパンツを履いているわけではない。

 

ブラジャーに至っては論外である。

 

「……よし。」

 

素っ裸になり、その白い肌を惜しげもなく晒したスズツキは寒くなる前にと扉を開け、白い湯気が立ち込めている広々とした風呂場に足を踏み入れる。

 

そして最初に身体を洗おうとシャワー前の椅子に座った。

 

だがここで自分以外の気配に気付く。

 

「……スズツキ?」

 

「えっ……おわっ!?」

 

モコリと、白い泡の塊が動いた。

 

いや、正確には石鹸で全身を洗っているライカンがすぐ隣に居た。

 

もちろん互いに何も身に纏っておらず、局部も全て露出したままだ。

 

「あ……ご、ごめんなさいっ……!」

 

急いで現場を後にしようとするスズツキだったが、その手を掴まれる。

 

ゆっくりと後ろを向けば、ライカンの赤い隻眼と目が合った。

 

「いえ、その……私は気にしません。もちろん、スズツキが嫌と言うなら止めはしませんが……。」

 

「なら……失礼します……。」

 

スズツキはライカンの隣に座り、汚れた身体を洗い始めた。

 

髪と顔を先に済ませ、泡立てたボディタオルを背中に当てようとすると、それがひょいと手から離れる。

 

「左を向いてください。背中を流してあげます。」

 

「すみません。」

 

言われた通りにすると、ボディタオルが背中に押し当てられ、痛くない程度の強さで擦られる。

 

「スズツキ、今日はお疲れ様でした。」

 

「はい、ボスも。本当に長い1日でしたね。まさか依頼主に襲われるなんて。」

 

「流石に予想がつきませんでした。ここまで身体を動かす羽目になったのは久しぶりです。」

 

「ええ、僕も銃をこんなに撃つことになるなんて……。」

 

話しながらライカンは眼前の、その軽く力を込めるだけで折れてしまいそうな薄い背中や細い腰を丁寧に擦っていく。

 

肩に差し掛かった時、ピクリと、僅かに痙攣を感じ取った。

 

最初は単にくすぐったいだけかと推察したが、それからも時折り微弱にスズツキの肩が震えていることに気付いた。

 

「……スズツキ?」

 

「つ、次は僕がやりますよ……!」

 

洗い終えたところでライカンは口を開くが、スズツキは誤魔化すようにボディタオルを手に持つと彼の背面に回り込む。

 

そして巌の如く鍛えられた筋肉で盛り上がった大きな背中を擦り始めた。

 

「い、痛くないですか?」

 

「……丁度良いです。」

 

以降は無言の時間が過ぎていき、室内にはナイロンの布で肌を擦る音と、シャワーヘッドから水滴が滴る音のみが響く。

 

だが途中からそれに嗚咽が混ざってきた。

 

ライカンの背中を擦る手が止まる。

 

「ご、ごめん……なさい……その……。」

 

「……先に湯船へ入りましょう。ここでは風邪を引きます。」

 

「はい……。」

 

残った前面を擦り、シャワーで泡を全て洗い落とすと、円形の湯船に張られたお湯にゆっくりと肩まで浸かる。

 

ライカンの巨体が入ってくると、水位が一気に上がる。

 

少しして、先に言葉を発したのはスズツキの方だった。

 

「ボス……。」

 

「はい。」

 

「僕……人を殺しました。焼き殺しました。松明みたいに。」

 

「……はい。」

 

「敵が銃を撃ってきて、隠れる場所が無くて、逃げるより攻撃した方がいいと思って、弾を込めて、撃って……。」

 

再びポロポロと涙を流し始めるスズツキ。

 

「そうしたら……見えたんですよ。車内で暴れる何かが。扉からも1つ落ちてきて……バタバタ動いてて……。」

 

「スズツキ……。」

 

「ボス、僕、人殺しですか……?」

 

そう言うと、ライカンは太い腕を伸ばしてきて、こちらの頬に伝った涙を拭ってくる。

 

「……貴方が人を殺したことは紛れも無い事実です。しかし殺していなければ私達の誰かが殺されていたかもしれません。貴方のおかげで、我々は遮蔽の無い50mの直線を無事に走り抜けることが出来ました。これもまた確固たる事実です。」

 

ライカンの大きな手がスズツキの頭に乗せられた。

 

「この仕事はその職務内容からして、どうしても他人の命を手にかけることがあります。それとどう向き合うかは人それぞれです。私やリナのようにご主人様の為と割り切るか、エレンのように自然と慣れるか、カリンのようにそもそも気にしないのか……まあ、簡単なことではないですね。」

 

「そう……ですか……。」

 

「単に人を殺した、結果的に自分や仲間、護衛対象を守った、どちらで考えるかはスズツキ次第です。私は教えることしか出来ません。」

 

サワサワとスズツキの頭を撫でながらライカンは一度間を置くと、再度言葉を続ける。

 

「しかし少なくとも今回の件について、私は貴方に感謝すると同時に誇りに思っていますよ。まだ対人戦闘の訓練や経験も無かったというのに、迫り来る脅威に誰よりも素早く対応し、立ち向かっていった勇敢さを、万人には無いそれを貴方が持っていることを。」

 

向けられるライカンの目は優しいものだった。

 

スズツキは少しの間固まると、小っ恥ずかしさで頬を赤くする。

 

いつの間にか涙は途絶れ、悲壮感もどこかへと消えていた。

 

「ボス。」

 

「はい。」

 

「惚れました。」

 

「……はい?」

 

「ボスが皆んなから信頼されるのも納得ですね。というわけで責任とってください。」

 

すっかりいつものテンションに戻ったスズツキはライカンに擦り寄り、彼の腕に半身を預ける。

 

対してライカンは流石に予想外だったのか、ワタワタと慌てたような反応を見せてきた。

 

「わ、私はご主人様に仕える執事です。色恋沙汰にかまけて業務に支障をきたすわけにはいけないので……///」

 

「ふふっ、冗談ですよ。ボス、顔真っ赤にし過ぎですって。」

 

普段の凛々しい姿とは真逆のそれを前にスズツキは笑みを溢す。

 

その様は完全に煽り要素マックスのオスガキだったが、幸いにもライカンが色々と疎かったおかげで問題は起こらなかった。

 

これがエレン相手なら様々な方法で徹底的に分からされた挙句、パシリとして使い倒されていただろう。

 

「そういうことは冗談でも軽々しく使うべきではありません。意中の相手が出来た時に取っておくべきで……///」

 

「ボスって意外と純情ですね。ちなみにリナさんとは何か無いんですか?ずっと一緒だと先輩から聞いたんですけど。」

 

「彼女はあくまでも背中を任せることの出来る仲間です。いや、むしろ上司というか監視役というか……。」

 

うーむと渋い顔をしながら考え込むライカン。

 

予想していた反応が得られなかったことにスズツキは少し残念がるが、ヴィクトリア家政でのヒエラルキーを改めて考えてみるとすぐに納得した。

 

「確かにリナさんって地味に発言権は一番強いですよね。ボスも先輩もカリンちゃんもリナさんの言うことには黙って従ってるし……。」

 

「スズツキ、ひとつ良いことを教えておきます。」

 

「は、はい……!」

 

いきなり表情と口調を真剣なものへと変えたライカンを前に、スズツキは居住まいを正す。

 

「リナに何か言われた場合、返事は全て『はい』か『네』か『Yes』か『Ja』か『Oui』です。下手に口答えすると擦り潰されますよ。」

 

「そ、そんなにですか……?」

 

「ええ、普段は穏やかな人間ほど怒ると怖いものです。」

 

ライカンの様子は至ってマジであり、とてもふざけているようには思えない。

 

「なるほど……肝に命じておきます。」

 

「スズツキは……大丈夫だと信じたいところです。」

 

それからも男同士の裸の付き合いはしばらく続いた。

 

半透明の扉に映る小さな影に気付かないまま。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

『それにしてもボスって筋肉スゴいですねー……!一体どれだけ鍛えたんですか?』

 

『今までずっと毎日です。筋肉は日々の鍛錬の賜物、全ては継続ですよ。スズツキは……。』

 

『うひっ……く、くすぐったいです……!』

 

『ふむ……最初の時よりかはついていますが、まだ少し細いですね。』

 

[ライカンさん羨ましいなぁ……いや、私もこの姿なら混ざれるかも……!?]

 

「フツーにアウトだよ馬鹿。」

 

[じゃあイアスの状態で行くから!]

 

「感覚を切ってもどうせ視覚情報で覗き見るつもりでしょ?絶対行かせない。」

 

[わー、離せー!やだー!]

 

「うっさい、ほら行くよ。」

 

「あらあらあら、ライカンってば擦り潰すなんて大袈裟ね。私はせいぜい捻り潰すくらいなのに。」

 

「ひぃ……それほとんど変わらないですぅ……。」

 




ちな補足:ヴィクトリア家政内でのヒエラルキー

リナ>ライカン>カリン=エレン>>>>>スズツキ


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