ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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第一章 男の娘×メイド×銃
01 ボーイ・ミーツ・サメガール


時刻は夜、ここは新エリー都ルミナススクエアの近辺に位置する人通りの少ない裏路地。

 

突然だが、今現在自分はそこで事件に巻き込まれており、危機的立場にあった。

 

状況は至って単純で、背後より走ってきた悪人に拘束されてしまったのだ。

 

「あ、暴れんな!大人しくしろ!」

 

「ぐっ……かふっ……!」

 

太い腕が背後より巻き付けられ、首元を締め上げてくる。

 

更にはこめかみへ硬い物体がグリグリと押し付けられた。

 

それが何かは言わずもがな。

 

おそらく後ろの野郎が右人差し指を引き絞れば、鉛弾が自分の脳漿を周囲に飛散させることとなるだろう。

 

「女!いいから黙って着いて来い!ブチ抜かれたいか!」

 

「ぼ、僕は男……。」

 

「うるせぇ!黙ってろ!」

 

「ひいっ……。」

 

みっともない声をあげてしまうが、一方で銃を突き付けてくる男も一見して非常に焦っているようだった。

 

誤魔化すように怒鳴り散らかしてはいるものの、あからさまに声が震えており、息はぜぇぜぇと荒く、身体は汗ばんでいる。

 

あとちょっと臭い。

 

何故かは知らないが、怯えていることは確かだろう。

 

「うぅ……。」

 

通り魔的な無差別殺傷や強制猥褻又は性交が目的ではなかったことに少しだけ安堵するが、依然状況は最悪のまま変わりない。

 

体験したことのない恐怖に涙を流しながら男の言われるがままに引っ張られていく。

 

時折り建物の間に車の通る道が見えるが、こちらに気付く者は居なかった。

 

このままどうなってしまうのかと、息が詰まる。

 

が、そんな極度の緊張状態は意外にもすぐに終わった。

 

「はぁ〜……やっっっと追いついた……逃げ足早すぎ……。」

 

「ぬわっ!?」

 

「……えっ?」

 

カツンカツンとヒールの音が響き、前方の曲がり角から人影が、大昔のメイドを連想させるような格好の少女が現れる。

 

魚の尻尾のようなものが背中から生えていることからシリオンだろうか。

 

「ねぇ、もう諦めてくんない?鬼ごっこもダルいしさ。」

 

「ぐっ……。」

 

彼女が近付いてくると、背後の男が狼狽えるのが分かった。

 

だが直ぐに人質のことを、つまりこちらの存在を思い出したようで、ニタリと引きつった笑みを浮かべると、再び拳銃を向けてくる。

 

「へっ、へへっ……う、動くんじゃねえ!今の俺には人質が居るんだ!下手をすりゃコイツが死ぬことになるぜ!」

 

「あー……うん……。」

 

「おい!まずはその武器を捨てろ!」

 

「ちょっと、今話してるから黙ってて……。」

 

メイド風の少女は耳に手を当てて何か二言三言会話すると、手に持っていた大きな刃物を構え直した。

 

それを前に悪人はもちろんのこと、ついでに自分までポカンとした表情になる。

 

「てっ、てめえっ!分かってんのか!?」

 

「え……ちょっ……。」

 

「分かってる。さっさとアンタをしばいて、そのバッグに入っているものを返してもらう。そしたらこの長い残業も終わり。」

 

「だからコイツを……!」

 

男が言い切る前に少女は走り出した。

 

慎重さの欠片も無い行動にギョッとしてしまう。

 

「この……!」

 

だが意外にも彼女の判断は良い方向へ動いた。

 

自らの安全と引き換えに何ら関係の無い人質を殺すという選択を男は取らなかったようで、突き付けてきていた拳銃を正面へと照準し直したのだ。

 

隙が出来たのを認識すると、反射的に野郎の腕へ噛みつき、人間の中で最も強力な筋肉である顎に力を込める。

 

「いだだっ!」

 

拘束が緩んだ隙に無我夢中で逃げ出す。

 

直後、敵にメイド少女が襲いかかった。

 

ハサミを彷彿とさせる大型の刃物が瞬時に銃身を切り飛ばすと、返すように男を斬りつけようとする。

 

しかし相手は咄嗟に持っていたバッグを身体の前に出してガードした。

 

「あっ、俺の金!」

 

スパンと革製のそれが容易く切れ、中に入っていた札束がポロポロと落ちてくる。

 

これに対して下へ目を向けてしまう男。

 

その隙をついて少女は武器の()の先端部分を勢いよく相手の股間へ叩き込んだ。

 

「はうっ!?」

 

「うわぁ……。」

 

ドスっ、と大きい音を立てて男の股にめり込んでいく棒。

 

同性として恐ろしい光景を前に背筋へ悪寒が走り、何もされていないというのに思わず息子の周りを手で隠す。

 

「あっ……あぁぁあぁ……。」

 

彼は目を見開くと、言葉にならない呻き声をあげながら地面に崩れ落ち、胎児のように丸まった。

 

「ようやく終わった……ねえ、怪我してないよね?」

 

「えっ、あっ、は、はい。」

 

「ならもう行って。」

 

少女はそれだけ言うと、こちらに背を向けて男の荷物を漁り始めた。

 

魚の尻尾、形状からしてサメの尻尾がゆらゆらと動く。

 

思わず見つめていると、再び振り返ってきた彼女と目が合った。

 

「ほら、早く行けって。見てたって何も無いから。」

 

「ああ……いや……その……助かりました。ありがとうございます。」

 

「ただのついで。次からここには近付かないでよ。」

 

「もちろん。それでは。」

 

軽く会釈をすると急いでその場を離れる。

 

その日は無事家に帰りつくことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

あの少女はいったい何者だったのだろうかと、家に帰ってからも気になってしょうがなかった。

 

眠い目をこすりながらいつも通り制服に袖を通し、学生鞄を手に取ると、通学路へ足を向ける。

 

未だに彼女のことが頭から離れず、歩きながらしばらく熟考していたが、意外にも答えは向こう側から来てくれた。

 

やはりこの世界は狭いらしい。

 

「あっ……すいま……せん?」

 

「……げっ。」

 

立ち止まって携帯端末で検索をかけていると、歩いてきた誰かと肩がぶつかる。

 

すかさず謝ろうと頭を上げれば、昨日ぶりの顔とサメの尾が目に入ってきた。

 

お互いにその場でフリーズし、あちら側の連れ、おそらくは友人達に声を掛けられて双方共に再起動を済ませる。

 

「……き、昨日のメイぶっ!?」

 

「あの男みたいに金的されたい?というか去勢するよ?今この場で。」

 

目にも止まらぬ速さで口を掴まれると、ガチ目なトーンで、尚且つ殺気立った怖い顔で、互いの額がぶつかりそうな程の超至近距離から脅される。

 

ちなみに背丈は相手の方が上だ。

 

もちろんここまでされて首を縦に振らない選択肢は無い。

 

「むぐっ……むごっ……!」

 

「……昼に屋上ね。来ないと殺す。あと他の奴に喋っても殺す。」

 

そう言うと少女は驚く友人達を連れて先へ行ってしまう。

 

どうやら自分はヤバいものに片足を突っ込んでしまったかもしれない。

 

心中は恩人にまた会えた嬉しさと今後に対しての不安の半々に分かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

[なるほど、昨日の青年にまた会ってしまったと。]

 

「どうすればいい?」

 

[現場を既に見られています。もし敵対勢力に彼の存在を知られると悲惨な目に合うことは確かでしょう。何か手を打つ必要がありますね。]

 

「例の新開発されたガジェットは?使えるんじゃない?」

 

[または上手くこちらに取り込むか……ん、彼についての情報が出ました。]

 

「どうせ特徴の無いただのモブでしょ?まあ、強いて言うなら可愛い見た目してたくらいで……。」

 

[ふむ……非常に興味深いですね。彼は掘り出し物かもしれません。]

 

「は?あれが?」

 

[ええ、私はご主人様に報告をしてきます。追って連絡をするので、端末は点けたままにしておくように。]

 

「はーい……。」

 

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