ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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Sアンビーに向けて配布も含めればギリギリガチャ券90個揃えられそう……けどトリガーまでの分をピックアップの期間だけで集められるか……。

どうも零号ホロウを始めとした更新されないタイプのタスク報酬を掘り尽くした作者です。

R-18版を投稿したのでよかったら見てください。

内容は今までの流れからお察しの通り、か弱い被食者が猛獣の群れに囲まれて酷く食い散らかされる話です。

時間軸や設定は本編と共有しています。



三章幕間
22 無ケツ、お見合いの危機


例の一件があった日、H.A.N.Dと軍は強行偵察任務の目標を急遽ニネヴェから地震の震源地へと変更し、ガーディアン隊の陽動の元、対ホロウ六課が零号ホロウの奥地へと突入した。

 

経路上のエーテリアスを斬り払い、目標地点に到達した彼女達が目にしたのはクレーター状の巨大な崩落跡地。

 

本来なら機材と人員を投入して詳しい調査に当たるべきだろうが、あいにくとここはただでさえ危険な零号ホロウの、それもかなり奥に位置している。

 

とても非戦闘員を連れて来れるような場所ではない。

 

よって六課は写真を数枚だけ撮ると、すぐに踵を返して撤退してしまった。

 

が、このことは私達にとっては有利に働いた。

 

何故零号ホロウに居たのか、という聴取に対して迷ったという言い分が通る結果となったのだ。

 

証拠が無ければ疑うことすら不可能である。

 

ちなみに例のロボットは六課の友人によると、あの後どこから聞きつけたのか、見知らぬ集団が正当な権利書をお土産に前線基地へ現れ、トラックで颯爽と回収してしまったらしい。

 

ちなみにアレについても余程の圧力がかかったのか、それとも例の彼女……いや、『彼の組織』が手を回したのか、道中で偶然拾ったというこちらの言い分が通っている。

 

もちろんだが、表向きにはホロウを散歩していたことになったため、巨大な敵組織を丸ごと壊滅させた功績に対する賞与や昇進は何も無い。

 

まず令状無しに独断で突入を図り、捜査や裁判も無しに敵構成員の大半を核の熱線と衝撃波であの世送りにしてしまったのだから、治安官としてアウトだろう。

 

まあとにかく彼が行った大胆な証拠隠滅のおかげで、5日が経った今も私は何食わぬ顔で出勤することが出来ていた。

 

勘の良い一部の仲間にはバレているようだったが。

 

「朱鳶、そういえばお主何かあったか?」

 

ここは治安局のルミナ分署のオフィス。

 

朱鳶はパソコンのキーボードを叩いていると、近くのデスクから部下兼先輩の青衣がそう聞いてきた。

 

対して彼女は即座にとぼけたフリをする。

 

「いえ、何もありませんが?」

 

「ふむ……いつもより書類の捌き具合が早かった気がしてな。それにどこか活き活きしている。」

 

「き、気のせいでは?」

 

「そうか……零号ホロウでの地震発生と密造銃の流通数の激減、1丁のサプレッサーK22といくつかの弾倉が先週末に保管庫から無くなっていたのは関係していないか……。」

 

朱鳶はギクリと、思わず身体を強張らせてしまう。

 

その変化を青衣は見逃さなかった。

 

「はぁ……お主、相変わらず分かり易いの。もっと誤魔化したらどうなんだ。」

 

「い、いや、何も言ってないですよ?」

 

「挙動不審で丸わかりだ。まあ、別にこのことを上に告げ口するつもりは無い。先程申したことも上手く隠蔽したから安心しろ。少なくとも悪事は働いていなそうだからの。」

 

「す、すみません……。」

 

話は終わりかと思われたが、青衣はここからが本題だと言わんばかりに椅子から立ち上がると、興味津々な表情を浮かべながら近づいてくる。

 

「それでだ……お主何かあったのか?」

 

「いや、だから何も……。」

 

「違う、仕事のことじゃあない。若者風に言うのなら『コレ』だ。」

 

青衣はピッと手の小指だけを伸ばす。

 

それが何かを理解すると、途端に異性と触れ合った記憶が、忘れる努力をしたことで意識の外へ追いやっていたその記憶が瞬時に蘇ってきた。

 

朱鳶の頬が朱色に染まっていき、それに対して青衣の口角が上がっていく。

 

「あ……その……。」

 

「そうかそうか!遂に堅物班長にも春の訪れが来たか!これはめでたい!」

 

「先輩!」

 

顔を真っ赤にしていると、別のデスクから部下の、ヤマネコの耳と尻尾が特徴の『セス・ローウェル』が顔を覗かせてきた。

 

「班長?何かあったんですか?」

 

「せ、セス君!何でもないわ!うるさくしてごめんなさいね!」

 

「ぬっ。」

 

純粋ゆえに今はまだ話の内容を理解出来ていないとはいえ、彼に事情を聞かれるわけにはいかないと、朱鳶は青衣の腕を掴むと外に連れ出す。

 

誰も居ないトイレまで来ると、念入りに扉を閉めた。

 

「はぁっ……はぁ……先輩、どういうつもりですか……!?」

 

「好奇心が湧いたのでな。それで?そのお相手とはどう知り合ったのだ?」

 

「え、えっと……。」

 

目の前の先輩に隠し事は効かないと渋々事情を話す朱鳶。

 

対して青衣は目を見開いた。

 

「ほう……!これは予想以上だ……!」

 

「そ、そんなにですか……?」

 

「せいぜい興味を持ったか、知り合った程度と思っていたが……まさか触れ合った上に相手を投げ飛ばさなかったとはな……!」

 

「もう……先輩は私のこと何だと思っているんですか……!?」

 

「自走式自動異性投射機。」

 

「……ぐうの音も出ません。」

 

ガックリと項垂れる朱鳶の肩に青衣はポンと手を置く。

 

「朱鳶、ともかく触れることが出来たというのは大きな進歩だ。今後もその殿方に『あたっく』してみるべきだろう。」

 

「そんな……無理ですよ……!」

 

「問題ない。聞いた限りではあるが、お相手は善人と見る。主に良からぬことはしないだろう。」

 

「で、でも……。」

 

職場での凛とした態度とは真逆の、初心な少女のような反応を見せる朱鳶を微笑ましく思う青衣だったが、ここでまだ聞いていなかったことを思い出す。

 

「そうだ。その協力者の殿方とやらは何歳くらいだ?年上と年下では対応が違ってくるからの。」

 

「と、年下の子です。中性的な顔立ちで、可愛らしい雰囲気があって……。」

 

「ほう……勇ましい類の者かと思っておったが……具体的な年齢差は?」

 

「おそらく……8、9歳くらいかと……。」

 

「ふむ……ん?」

 

青衣は入ってきた情報に対して一瞬フリーズを起こした。

 

年上でその年齢差なら30代の男性となり、普通に納得出来る。

 

が、朱鳶が言っていたのは年下、つまりまだ10代の未成年。

 

コンマ数秒後、青衣は溜め息を吐きながらガックリと肩を落とした。

 

「朱鳶、お主が恋愛で初心なことは分かっている。だがな、あちらからの場合ならまだしも、初心な少年を狙うのは犯罪だ。我はお主を縄にかけたくはない。」

 

「だ、だから言ってるじゃないですか!無理だって!」

 

「まだまだ冬は続きそうじゃの……。」

 

「うぅ……どうせ私は万年おぼこですよ……!」

 

青衣は如何にも残念そうに踵を返す。

 

それから彼女がこのことについて蒸し返すことは無く、朱鳶の生活においても恋愛や異性に関する話題が挙がることは無くなった……かに思えた。

 

その日、治安官としての仕事を終え、両親の居る実家へと帰った朱鳶は退勤時のスーツから私服に着替えると、夕食の良い匂いが漂ってくるリビングへ足を運ぶ。

 

部屋に入ると目に入ってきたのはテーブルに並べられた夕食と、そこに座っている、どこかいつもと雰囲気の違う彼女の両親。

 

特に父が歯を食い縛っており、何かに対して必死に耐えているようだった。

 

怪訝に思いながらも椅子に座ると、母が話を切り出してくる。

 

「朱鳶、最近仕事はどう?上手くやってるの?」

 

「ええ、相変わらずデスクワークばかりだけどね。」

 

本当は数日前に命をかけた銃撃戦を行い、敵のアジトを核で吹っ飛ばしてきたのだが、保身という面ではもちろんのこと、家族の安全の為にも、そのことについては言わない。

 

こちらの返答に両親は安堵したような表情を見せてきた。

 

心が痛いが仕方の無いことだ。

 

「それで、さっきから何をそんなに固まってるの?」

 

「ああ……えっとね、朱鳶……貴女、男の友達の1人くらいは作っているのかしら?」

 

「……えっ。」

 

予想外の言葉に朱鳶は思考が停止してしまう。

 

ここで補足だが、彼女は職業柄とその性格からあいにくと男っ気は皆無に等しく、更には本人の性格も相まって異性と接触する機会はゼロだった。

 

男とは距離をとって話すことが限界で、身体に触られようものなら誰彼構わず即座に背負い投げを食らわせてしまうのだから致命的だ。

 

どうやらそのことについて、とうとう両親は介入を決意したらしい。

 

案の定、母が提示してきたのは『お見合い』についてだった。

 

「あのね朱鳶、今は仕事が大変なのは分かるわ。でも、結婚は早めに対策すべきだと思うの。別に退職しろとか子供を産めなんて言わないわ。ただ早めに探し始めるだけ。」

 

「誰かアテがあるの?」

 

「私とお父さんで良い人を見繕ってきたわ。まずは会ってみるだけでもどうかしら?」

 

「……私の悪癖については知ってるでしょ?」

 

「もちろん。でもいつかは必ず直さなければいけないわ。私達は貴女に兄弟姉妹を作ってあげられなかった。老後に独りだけの人生なんて送ってほしくないの。」

 

母の目は至って真剣で、孫の顔が見たいとか、介護してもらおうとか、そういった自らの欲求については含まれていなかった。

 

単に一人娘の行く末を心配しているだけだった。

 

が、やはりお見合いなんて受ける気にはなれない。

 

朱鳶は誤魔化すことを決意した。

 

同時に、いつもの自分とは違って今は誤魔化す為の材料が、全てではないとはいえ、ある程度は揃っていることに気付く。

 

勝手にネタとして使わせてもらうその相手に心の中で謝りつつ、真実と嘘のネタを頭の中で織り交ぜると口を開いた。

 

「か、母さん……気持ちは嬉しいんだけど、お見合いはちょっと待ってほしいかも。」

 

「やっぱりダメかしら?」

 

「いえ、違うの。実を言うとね、その……今仲良くなっているというか……気になっているというか……。」

 

「何!?そんな奴が居るのか!?」

 

バン!と、今まで黙っていた父が卓上を叩きながら立ち上がる。

 

しかし直後に母の無言の凄まじい眼力を受けて渋々と椅子に座った。

 

彼女は般若一歩手前の顔から一転、にこやかな笑顔を浮かべると朱鳶へ話の続きを促してくる。

 

「す、少し前に同じ仕事をしてから知り合うようになって……。」

 

「うんうん、どんな人なの?」

 

「勇敢で優しい人よ。犯人との銃撃戦に巻き込まれた時も、自ら突っ込んでいって……。」

 

「何!?そんな危ないことをしているのか!?」

 

どこから取り出したのか、フルサイズのポンプアクション式ショットガンにスラグ弾を込めていた父がまたもや立ち上がる。

 

血圧が高まっているようで、顔が真っ赤だった。

 

「お父さん!!!」

 

「…………はい。」

 

母の一喝で父は再び小さくなった。

 

「なるほどね……その人は同じ治安局の人?」

 

「ええ、そんなところよ。」

 

「ふむ……貴女は彼に気があるの?」

 

「あ……いや、そんな……知り合って日も浅いし……ま、まだお茶くらいの関係だし……。」

 

思わず視線を逸らす朱鳶だったが、無意識のうちに彼女の頬は少し赤くなっていた。

 

彼女の両親は、初めて見る乙女らしい娘の反応に片や満足そうな笑みを浮かべ、片や涙を流しながらテーブルに崩れ落ちる。

 

「う、嘘だ……私と結婚すると言ってくれた朱鳶が……!」

 

「あらあら、これは良い意味で予想外だったわね。私達は余計なお世話だったみたい。」

 

「は、はは……。」

 

それ以降、両親の口からお見合いの言葉が出てくることはなく、どうにか難所を乗り越えた朱鳶だった。

 

…………なんて、上手くは行かなかった。

 

嘘をつけばその後も継続して嘘をつき続ける必要があり、時間の経過と共にそれは荒唐無稽なものへと肥大化していく。

 

朱鳶の場合は既に最初の嘘の半分以上が虚構であった為に、母からの質問に対して早速ボロが出始めようとしていた。

 

[朱鳶、最近はフユヅキさんとどうなの?お茶から何か進展はあった?]

 

「えっと……昼ご飯を一緒にしたくらいかな……?」

 

[いつ?]

 

「き、昨日も……。」

 

[あらあら、良いじゃない!今後も頑張って!]

 

「うん……。」

 

朱鳶は電話越しに聞こえてくる母の嬉しそうな声に罪悪感から心を抉られる。

 

今や彼女が創り出したイマジナリーボーイフレンド、通称『フユヅキ』とは連絡先を交換した上に、頻繁に食事を共にする関係まで進んでいた。

 

もちろんではあるが、そんな人物は存在せず、全て朱鳶の妄想だ。

 

しかし嘘だと自白しようものなら即座にお見合いが決行されることとなるだろう。

 

「はぁ……。」

 

数日後の夕方、場所は変わって、ここはヤヌス区六分街に位置するラーメン屋『滝湯谷・錦鯉』。

 

スーツ姿の朱鳶はカウンターに座りながらラーメンを啜っていた。

 

仕事終わりのご褒美という名目で外食に来ていた彼女だったが、例の一件が頭から離れず、時折り重い溜め息を吐いてしまう。

 

どうしたものかと唸っていると、その時、背後から複数人の会話が聞こえてきた。

 

「あーもう……盛大に啖呵を切ったくせに負けたー。」

 

「へへっ、スネークデュエルで俺に挑んだのが運の尽きだったな!」

 

「ビリーは大人気ない。もっと手加減すべき。」

 

ふと後ろを見ると、視界に映ったのはゲームセンター『GOD FINGER』から出てくる3人の人物。

 

背の高い機械人と短髪の少女、そして小柄な青年。

 

最初はただの赤の他人かと思ったが、すぐに強い既視感を覚えた。

 

そのまま視線を向けていると、あちらも気付いたようで目が合う。

 

しかし次の瞬間、目の前の道路に白い軽自動車が停まったことで相手の注意がその車の方へ行った。

 

やはり感じた既視感は気のせいだろうと、再び前を向いてラーメンを啜る。

 

だが少しして背後より声をかけられたことで、気のせいではなかったと判明した。

 

「朱鳶さん?」

 

「えっ……あっ……スズツキ……くん……?」

 

「はい、先週ぶりですね。」

 

「ほ、本当に男の子……だったんですね……。」

 

「もちろんです。今は流石に男に見えますよね?」

 

「あー……まあ、言われたのなら、はい。」

 

「むぅ……そんなに女っぽいですか……?」

 

すぐそこに立っていたのは学生服のブレザーに身を包んだ1人の青年。

 

髪型や服装こそ違ったものの、あの時のメイドと同じ可愛げのある顔つきをしていた。

 

メイクや追加の外装パーツを使っての女装ではなく、素でここまで中性的だったことに驚いていると、彼は隣の席に腰掛けてくる。

 

「チョップ大将、白鉢豚骨ラーメンの並で。」

 

「あいよ!」

 

「朱鳶さんは仕事帰りですか?」

 

「ええ、週末のご褒美にと……先ほどの人たちは……?」

 

「友達です。ゲームセンターで偶然会ったので一緒に遊んでました。」

 

「……学校帰りに?制服からして良いところのようですが。」

 

こちらの発言に対してギクリとした表情を浮かべるスズツキ。

 

「へへ……それは言わないでいただけると……。」

 

「治安官に声をかけたのが間違いでしたね。まさか補導対象が自ら自首しにくるなんて、私も運が良いです。」

 

「ま、まだ日は沈んでないしいいじゃないですか。それにお互い秘密を抱えている中でしょ?」

 

「何のことでしょう?私はホロウの中で迷っただけですよ?それよりもスズツキ君の方が色々と抱えているのではなくて?」

 

「うわー、こういう時に取り締まる側なのズルいですー。」

 

「ふふっ、冗談です。私も同じ穴の狢ですから。」

 

それから朱鳶はラーメンを食べながらスズツキとたわいもない話を続けた。

 

プライベートな空間で異性との会話なんぞ久々であった為、時折りしどろもどろになってしまうが、どうにか持ちうる思考力を総動員して話を繋げていく。

 

しかしいつも以上には会話が出来ており、そのことを嬉しく思っていると、ある時、朱鳶は自身の現状について思い出した。

 

恥ずかしい限りだが、自身の身の上話を打ち明けられる異性の人間は考えうる限り彼しかいない。

 

部下のセスという選択肢もあるにはあるが、おそらくは眼前のメイド以上に初心であることから問題の解決には至らない可能性が高いだろう。

 

もう後が無いからと、朱鳶は覚悟を決めた。

 

嘘の材料集めに付き合ってほしいと、頼み込むために。

 

「スズツキ君……あの……!」

 

「んぐ……どうかしまひたか?」

 

「えっと……その……つ、付き合ってください!」

 

「ぶっ……!?」

 

突然の告白に鼻から麺を吹き出すスズツキと、自身の発言に重要な部分が足りないことに気付いて顔を真っ赤にしたままフリーズする朱鳶。

 

「おやおや……これは良いトコ見ちゃったねぇ……。」

 

カウンターの向こう側ではチョップ大将がニタニタと今日一番の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

あれから半時間後、スズツキと朱鳶の姿は近場の喫茶店の中にあった。

 

テーブルを挟んで座っている制服姿の小柄な青年と、スーツ姿の長身OLという絵面は少し怪しい臭いを醸し出していたが、時間的にギリギリ変な目は向けられていない。

 

食後のコーヒーを啜りながらスズツキは先ほどまでのことを、目の前で頬を赤くしながら俯いている治安官の必死の弁解について再度確認する。

 

「えー……付き合ってほしいってのは嘘に織り交ぜるための実際の経験を集めるということで合っていますか?」

 

「はい……そうです……。」

 

蚊のような、今にも消えてしまいそうな小さな声で返事をする朱鳶。

 

大の大人が公衆の面前で子供相手に何やっているのかと、彼女の心境は羞恥心で一杯になっており、その姿に普段の凛々しさは一欠片も残っていない。

 

一方、困惑の表情が未だ取れていないスズツキだったが、前回の潜入時には見られなかった朱鳶の雰囲気を前に余程深刻なことなのだろうと判断した。

 

携帯端末を取り出すと少しの操作の後、彼女の前へそれを置く。

 

「……これは、デートスポット?」

 

「はい、どこに行きます?僕なんかで良ければ付き合いますよ。明日から休みですし。」

 

「えっ……ほ、本当ですか!!」

 

意外な反応を受けて思わずガタリと身を乗り出す朱鳶。

 

直後、周りの視線を一斉に受けると、再び顔を赤くしながら腰を下ろす。

 

「あ、ありがとうございます……その、助かります……!」

 

「ええ、でもずっと嘘をつく訳にはいかないですよね?そこはどうするんですか?」

 

「適当に話を引き延ばしたら別れたか、疎遠になったことにします。そうすればまた時間が稼げると思うので。」

 

「分かりました。じゃあまずは……で、デートについて決めましょうか。」

 

意識したものではないだろうが、視線を逸らし、恥じらいの表情を浮かべるスズツキ。

 

対して朱鳶はその初心さに少しだけ安心感を覚える。

 

それからはネットで調べながら行く場所や、デートの日時などについて具体的に決めていった。

 

気付けば日は落ちており、窓の外はすっかり暗くなっていた。

 

「あっ、もうこんな時間……いけない、ご家族が心配してしまうわね。」

 

「それなら大丈夫です。家には誰も居ないですし。」

 

「え?」

 

「ああ、もちろん生きてますよ?ただ今日も帰ってこないだけです。父はホロウ調査員で母はH.A.N.Dの職員ですから、仕事が大変なのでしょう。」

 

そう話すスズツキはどこか寂しげだった。

 

「……立派なご両親ですね。」

 

「ええ、自慢の親です。僕が良い学校生活が送れるのも、女装出来る容姿があるのも、零号ホロウに生身で入れるエーテル適性を持っているのも2人のおかげですから。」

 

「ちなみにスズツキ君の仕事のことは……。」

 

「ハウスキーパーのバイトとは言ってます。嘘ではないですよ?事実、ウチの表向きの顔は一般の家政サービスですし。」

 

「そうですか……でも無理はしないでくださいね?貴方が怪我でもしたらご両親は悲しみます。」

 

「問題ありません。ウチのボスは危ない橋は渡らないので。それより明後日行く場所はここで良いですか?」

 

「はい、あとは私がしておきますね。」

 

話が決まると朱鳶とスズツキは駅で別れた。

 

それぞれ反対方向の電車に乗り、帰路へと就く。

 

朱鳶はふと携帯端末を取り出し、連絡先の欄を眺めた。

 

「……ふふっ。」

 

そこに映っていたのは両親や同僚、友人の名前と、先ほど新しく増えたスズツキもとい『フユヅキ』の文字。

 

嘘をつくための擬似的な関係とはいえ、朱鳶はいつにもなくワクワクとしていた。

 




後半に続きます。

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