ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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おひさです。またぼちぼち更新していきまつ。

今回は作者が個人的に推しのネズミが出てきます。某宇宙大戦争を盛大に転けさせた(一部除く)ネズミではありません。ミステリアスおねーさんの方です。



幕間
26 家にネズミが湧いた話


スズツキの家はヤヌス区の住宅街に、中でも高所得層の割合が多い区画に位置している。

 

「ただいまー。」

 

時刻は夜、今日も『喫茶店でのバイト』を終えたスズツキは立ち並ぶ一軒家のひとつへと入っていく。

 

しかし家の各所に電気は点いておらず、玄関から中に入った彼の声に反応する者は誰もいない。

 

リビングに入ると、家を出た時と変わらない、生活感のあまり無い広い空間が彼の視界に映った。

 

「まだ仕事か……。」

 

本来なら誰かしら家族が居るところだろうが、両親は週末でも職場に残っているらしい。

 

スズツキは拠点に泊まっておけば良かったかと後悔した。

 

少なくともあそこなら独りで夜を過ごすことは無い上に、朝は美人のメイド長がモーニングコールをしてくれる。

 

まあ、唯一の問題点は狼執事か電鋸メイドが起きていなかった場合、朝食に生物兵器が提供されることだが、孤独になるよりかは随分とマシだろう。

 

「ふーんふーん……。」

 

部屋着に着替えたスズツキは、小腹が空いたからと適当に冷蔵庫を漁ろうとする。

 

その時、一昨日に依頼先で貰った高級スイーツ店のどら焼きの存在を思い出した。

 

「どこに置いたっけ……これか。」

 

冷蔵庫の隅っこに置かれた白い小さな箱を手に取ると、ワクワクとしながら蓋を開ける。

 

そして落胆の声を漏らした。

 

「……えぇ?」

 

目に入ってきたのは1つだけのどら焼き。

 

問題は本来それがもう1つあった筈であることと、残っていた1つも紙が使われた包装袋が破られており、中身が半分ほど齧られていたことだ。

 

「お父さんか……?」

 

首を傾げながらもそれを口に運ぶと、値段相応の素晴らしい甘みが口の中へと広がっていく。

 

結局、その美味しさから犯人探しなんてどうでもよくなったスズツキは、次に風呂へ入ろうとする。

 

誰かが使ったのか微妙にぬるい湯を温め直し、脱衣所で服を脱いでいると、横のドラム式洗濯機に女性の下着がかけられていることに気付いた。

 

もちろん言うまでもなく母親のものだろう。

 

よってスズツキは特段気にすることなく風呂へ入ろうとしたが、そこで違和感を感じた。

 

「あれお母さんのか?」

 

脱衣所に戻り、洗濯機の蓋にかけられていたブラジャーを手に取る。

 

もちろんスズツキは母親が持っている下着を全て把握しているわけではない。

 

気になったのはそのサイズだ。

 

スズツキの母は顔つきも身体つきも彼に似ており、つまり何が言いたいのかというと、ポジティブな言葉で表せばスリムでスレンダーと言える。

 

そして今スズツキの手にあるものは明らかにデカかった。

 

また布地が黒のレースと、大人の色気を感じさせてくるものだった。

 

「いや、気のせいだな。」

 

きっと間違って買ったのだろうと、いつまでも母の下着を握っているわけにはいかないと、スズツキは下着を放置して風呂へ入る。

 

それからは特に何も無く、いつも通りに寝る準備を済ませると、2階にある自室のベッドへ潜り込んだ。

 

「ふぁ……寝るか。」

 

電気を消せば、家から光源が全て無くなる。

 

聞こえてくるのはスズツキの寝息と、せいぜいが家の前を通る車の走行音だけ。

 

おそらくは明日も明後日も同じような夜が続くだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

………と、なる筈だった。

 

スズツキが眠ってから半時間後、母親の私室でひとつの影が動き出す。

 

それは足音を一切立てないまま移動を開始すると、部屋を出て1階のキッチンへと向かった。

 

何をするかと思えば冷蔵庫を開け、中のチーズやハム、ナッツなどを片っ端からつまみ食いし、牛乳をラッパ飲みする。

 

更には戸棚の食パンを齧り、缶に入っていたクッキーを頬張る。

 

はぐはぐと一心不乱に食べるそれには顔の側面より生えている丸い耳と、背面で揺れている長い尻尾があった。

 

腹が満たされたのか、それは立ち上がると、今度はソファーに寝転がってくつろぎ始める。

 

端末をいじったり、テレビを見たり、挙句にはシャワーを浴びると、新品の歯ブラシを拝借して歯を磨く。

 

時計の針が丑三つ時を指すと、それは再び2階へ上がる。

 

だが元居た部屋には戻らず、隣のドアを開けた。

 

そこは趣味一杯の、如何にもな男の子の部屋。

 

ベッドの上では掛け布団の下にひとつの盛り上がりが出来ている。

 

それはベッドへゆっくりと近付いていった。

 

「すぅ……すぅ……。」

 

寝台に横たわり、瞼を閉じているのはサメ柄のパジャマを着たスズツキ。

 

それは少しの間彼を眺めると、軽い身のこなしでスルリとベッドへ入り込む。

 

「すぅ……ん……。」

 

「ふふ……おやすみ。」

 

背後から身体を密着させると、体温が高めなスズツキの暖かさが伝わってくる。

 

それは彼を湯たんぽ代わりにしながら目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

スズツキは目が覚めると、最初に感じたのは胸の上に感じる重みと、どこかから漂ってくる芳香だった。

 

最初は母がすぐそこに居るのかと思った。

 

何故なら視界の下端に見えた腕はとても父のような太いものではなかったのと、嗅いだ匂いは母が使っているシャンプーのものと同じだったからだ。

 

まさか寝ている間に帰ってきてくれたのかと、期待を持ちながら隣を確認する。

 

そして自らの目を疑った。

 

「…………っ!?」

 

そこに居たのは母でも父でもなかった。

 

スラリとした長い手足と整った美しい顔立ち、男を魅了する凹凸の激しい身体付き。

 

そして一番の特徴がその側頭部から生えた一対のネズミの耳と、尾骶骨の辺りから伸びている1本の長い尻尾。

 

スズツキはあまりにも予想外のことに、飛び上がるどころか、もはや声すらも出なかった。

 

目の前の女性は彼にとって記憶に新しく、とても印象的な、また二度と会うことは出来ないと思っていた人物だった。

 

名前を、あくまでもコードネームに過ぎないのだろうが『ジェーン・ドゥ』という。

 

こう見えて治安局の特務捜査班所属の犯罪行動外部顧問、つまり潜入捜査官のエリートだ。

 

「あ、あの……。」

 

スズツキは恐る恐るといった様子でジェーンに話しかけた。

 

しかし彼女は姿勢を変えただけで、起きる気配は無い。

 

横向きから仰向けになったことで、胸周りの豊かな双丘が重力の向きに合わせて形を変える。

 

「……ごくっ。」

 

スズツキは思わず息を呑んだ。

 

今までは部屋の薄暗さによってハッキリとは見えてはいなかったが、よく観察すると、ジェーンはスズツキの長袖シャツにショーツだけという刺激的過ぎる格好をしていた。

 

もちろんサイズが合っておらず、ピチピチである。

 

また洗濯機にかけられていた下着も彼女の物だったとすれば、おそらくはノーブラだろう。

 

「……起きるか。」

 

このままだと目に毒だからと、スズツキは身体を起こす。

 

前屈みになっているのは彼女を前に反応したとかそういうのではない。

 

男が毎朝遭遇する生理現象ことメンテナンスが行われているだけだ。

 

「うえっ……!?」

 

しかしベッドから降りたところで背後から長い尻尾が伸びてくると、スズツキの身体へ巻き付いてきた。

 

先端に取り付けられた金属製の鋭利な突起が眼前に突き付けられる。

 

身動きが取れずに固まっていると、ゆらりと背後で何かが立ち上がり、スズツキの首へ腕を回しながら寄りかかってきた。

 

布を介して背中へ伝わってくる2つの柔らかな感触。

 

顔から耳まで真っ赤にしていると、妖艶な声で囁かれる。

 

「おはよ、スズツキちゃん♪」

 

「お、おはようございます……ジェーンさん……。」

 

「ごめんなさいね。急に押しかけちゃって。」

 

「こういうのは不法侵入って言うんです……まあ訳アリなら下で聞きますよ。それより……は、早く離してください。」

 

スズツキの要請に対して、ジェーンはむしろ体重をかけると、更に身体を密着させる。

 

「あら、恥ずかしいの?」

 

「僕が男ってことを考えてください。このまま無理矢理襲われちゃっても良いんですか?」

 

そう目一杯の威嚇をしたつもりのスズツキだったが、あいにくと本物のゴロツキ共と渡り合ってきたジェーンにとっては子犬が可愛らしく唸り声を上げているようにしか見えなかった。

 

「ふふ、そうだったわね。小さなヒーローちゃん。」

 

「か、揶揄わないでください……朝食は?」

 

「頂かせてもらおうかしら。セットにスズツキちゃんはある?」

 

「ありません。あいにくと非売品です。」

 

「あら残念。」

 

ジェーンが拘束を解けば、スズツキはそそくさと、僅かに前傾姿勢を維持しながら部屋を出ていく。

 

悶々としながらも1階に降りると、手早く朝ごはんを作り、テーブルに並べた。

 

だがご飯と味噌汁、その他おかずを2人分配置したところで、スズツキは自分が不法侵入者へ当たり前のように朝食を準備していることに遅まきながら自覚する。

 

いよいよ感性が毒されてきたのだろうかと、思わず笑いが溢れた。

 

ジェーンが席に着くと、お互いに手を合わせる。

 

「いただきまーす。」

 

「いただきます。」

 

それから少しの間、部屋には箸の音だけが響いた。

 

ジェーンは最後に残していた味噌汁を飲み切ると、ポツリと呟く。

 

「……自分以外の人間と食卓を囲むなんて久々ね。」

 

その表情と声色に演技めいたものは見られず、スズツキは意外に思った。

 

同時に少し親近感を持った。

 

「逆に……いつも1人なんですか?」

 

「そんなものよ。潜入捜査で味方は居ないから気は抜けないわ。」

 

「そうですか……僕も似たような状況ですね。朝ごはんを食べる時に目の前に誰かが居るのは新鮮な気分です。」

「親御さんは?」

 

「2人とも仕事ですよ。まあ、おおかた零号ホロウ案件で駆け回ってるんでしょう。」

 

「じゃあアタイ達のせいってことね。」

 

「……そうかもです。」

 

「ふふっ……すっかりスズツキちゃんも『こっち』側ね。」

 

ジェーンはどこか嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

対してスズツキは軽く溜め息を吐く。

 

「ええ、知りたくはなかったかもです。」

 

「どう?新エリー都の裏側を覗いた感想は?」

 

「僕が如何に世間知らずか分かりましたよ。まさかあんな映画みたいな世界がここから100km圏内に存在してるなんて……。」

 

「まあ、まだアイツらはマシな部類よ。治安局に目をつけられないように残虐なシノギはしていなかった。世の中にはもっとヤバいのも居るんだから。」

 

「でしょうね。人の家に不法侵入して好き勝手した挙句、僕が楽しみにとっておいたどら焼きを食べる人とか。」

 

「あら、バレちゃってた。」

 

テヘッと、あざとく舌を出すジェーンだったが、やはり食べ物の恨みは強いようで、スズツキに動じた様子は無い。

 

空になった茶碗を置くと、某司令のように両肘をつきながら口元で手を組み、事態の追及をし始める。

 

「それで、何があったんですか?いきなりウチに転がり込んでくるなんて。」

 

「えっとね……アタイの前職は覚えてる?」

 

「山獅子組の幹部、ですよね?」

 

「そう、けれど親衛隊幹部のジェーン・ドゥは山獅子組の消滅と共に死んだ。今のアタイは書類上この世から消え去ってるの。」

 

「なるほど、じゃあ目の前のジェーンさんはゾンビですね。」

 

「嫌よあんな気持ち悪いの。せめて幽霊が良いわ……まあ、それは置いといて、ともかく今はリセット中ってこと。」

 

「次の任務の為にですか?」

 

「ええ、人使いが荒いわよねぇ……。」

 

ウンザリしたように肩を落とすジェーン。

 

この時ばかりは彼女が妖艶でミステリアスな潜入捜査官ではなく、残業に疲れたOLのような印象を受けた。

 

意外な彼女の姿を前に一瞬、同情しかけるスズツキだったが、すぐにどら焼きの件を思い出す。

 

「で、そのリセット中にどうしてウチに侵入して、僕が楽しみにとっておいたどら焼きを食べたんですか?」

 

「あー……それはー……。」

 

ジェーンは全力で目を逸らし、顔を俯かせると、少し唸る。

 

そしてモジモジと指先をいじりながら小さな声で呟き始めた。

 

「えっと……実は前回のこと、上に報告してないのよね……というかスズツキちゃんの車を襲った辺りから勝手に動いてたし……表向きは再潜入の為の作戦準備兼休暇って名目で……。」

 

「えぇ……つまり僕達の冒険は独断専行だったと?」

 

「そ、そゆこと……今、アリバイ作りと証拠隠滅で家と私物が全部無くなっちゃって、お金もロンダリ……オトモダチに預けてるからほぼ文無しなの……。」

 

「なんか不穏な単語が聞こえたような気がしましたけど……まあいいです。それで今までどうやって生活してたんですか?」

 

「放浪と野宿。」

 

「ホテルは?」

 

「文無し身分証無し戸籍無しで入れるかしら?」

 

「で、ウチに行き着いたと。」

 

「アタイの素性を知ってて、かつ治安局に繋がっていない信頼出来る知り合いなんてスズツキちゃん以外に居ないもの。少しだけでいいから匿ってくれない?」

 

「……なるほどです。」

 

スズツキはそう言うと席を立ち、皿をキッチンへと持っていく。

 

対してジェーンは流石に出ていけと言われるだろうかと、早めに今後の予定を考え始めた。

 

しかしそこへ何かが、小さいスプーンとヨーグルトのカップが彼女の目の前に置かれる。

 

前を見ると、ぷんすかと頬を膨らませながらヨーグルトを頬張るスズツキの姿が。

 

「デザートです。それ美味しいですよ。」

 

「これを食べたら出てけと?」

 

「流石に知り合いの女性を身の着のまま外に放り出すほど、男として腐っちゃいません。例え僕より遥かに強くてもね。」

 

「………ありがとう、スズツキちゃんはやっぱり優しいのね。」

 

ジェーンの言葉に対してスズツキはそっぽを向く。

 

「お、親にバレないようにしてくださいよ。見つかったら絶対に面倒なことになるんですから。」

 

「心配無いわ。そういうことは私の十八番だもの♪」

 

「マジで頼みますよ……?」

 

しおらしい印象から一転して元気になったジェーンを前に、スズツキは早速自らの選択を後悔しかける。

 

ただ悪い気はしなかった。

 

目の前に自分以外の誰かが居る。

 

それだけでいつもと気分が違った。

 

「……ま、どうにかなるか。」

 

スズツキは頭を切り替えると、さっさと残りのヨーグルトをかき込み、朝食の後片付けを、ジェーンの分も含めて始める。

 

今、訳アリ度マシマシのミステリアスおねーさんとの共同生活が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「あー、もう、面倒な依頼だなー……報酬が良くなかったら即行で蹴ってたところだよ、まったく……もしもーし。」

 

[私だ。久しぶりだな。そっちからかけてくるとは。]

 

「うん、久しぶり。今はイヴリンだっけ?」

 

[ああ、ただのマネージャー兼ボディーガードだよ。それで要件は?]

 

「依頼を手伝って。」

 

[ほう、お前が手を焼くほどに大きなヤマなのか?]

 

「いや、とにかく数が多い。情報の書き換えと証拠隠滅。あとマネロンも。」

 

[わざわざ面倒な仕事を受けるなんてお前らしくないな。]

 

「しょうがないでしょ。報酬に偽造じゃない正規の身分証と戸籍をくれるって言うんだし。」

 

[信用していいのか?つまり政府や治安局に繋がりがあるってことだろう?]

 

「そういう人じゃないから大丈夫。軽く調べたけど、マジで『何も無かった』から。」

 

[………まさか組織か?]

 

「いや、少なくとも私達の古巣ではないと思う。ただ似たような仕事をしてる人間だろうね。深入りはやめとくべきだよ。」

 

[違いないな。それと、手伝うからには貸しだぞ?]

 

「はいはい、分かってるよ。」

 

[じゃあ後でな、レイン。]

 

「うん。」

 

 




ヒューゴ?ああ、あの赤髪ツインテの女の子のことですよね?


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