ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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見て!橘福福出たよ!ネコのシリオンの子!

えっ?橘福福はトラ?体毛は黄色で尻尾は太いのが1本?2本ではない?どこぞのΛドライバ搭載してるロボットみたいに膝に単分子カッターは装備してない?

い、いや、そんな筈はない……あれは橘福福だ。誰が何を言おうと橘福福なんだ。




第四章 ホロウの中心で愛を叫んだ男
28 エマージェンシー・ミッション


ジェーンとの一件から少しして、相変わらず新エリー都には平和な時間が流れていた。

 

ヴィクトリア家政に舞い込んでくる依頼にも物騒なものは無く、スズツキ達も普通の家政サービスを提供している。

 

そして今日、スズツキの姿は星見家本邸の縁側にあった。

 

彼は庭に干してあった洗濯物を籠へ取り込み、畳んで積んでいく。

 

本来なら専属の女中さんがやっているところなのだが、今はライカンを除いて暇だからと、手伝う羽目になったのだ。

 

しかし綺麗な庭園を眺めながら、時折り涼しい風が吹き込む心地良い空間での作業は悪くはなかった。

 

むしろのんびり風流を味わっていると、背後に気配を感じた。

 

直後に視界の両端からそれぞれ誰かの手が伸びてくると、こちらの頬を軽く摘んでくる。

 

最初は作業を面倒がってどこかへ行ったエレンが戻ってきたのかと思い、そのまま放置していたが、手付きがいつもと違うことに気付く。

 

そこから相手の予想がついた途端、反射的にピシリと背筋が固まった。

 

「あー……み、みやびしゃま……?」

 

「スズツキ、来ているなら早く言わないか。」

 

「しゅ、しゅいまへん……えっ、でも今の時間って……。」

 

スズツキは後ろを向くと、目に入ってきたのは前回とは違って私服ではなく六課の制服を見に纏った雅の姿だった。

 

ちなみに今は平日の真昼間である。

 

「……失礼ながらお仕事は?」

 

スズツキの言葉に雅は無表情のまま固まった。

 

少しの沈黙の後に彼女は再び口を開く。

 

「家に最速で帰る修行だ。」

 

「人はそれをサボりと言うんです。」

 

「失礼な。これはあくまでも修行の一環であり、決して怠けているわけではない。」

 

「えぇ……。」

 

呆れるスズツキの隣に雅は腰を下ろしてくる。

 

「そう言うお前こそ学校はどうした。まさか欠席しているのではあるまいな?」

 

「露骨な話題逸らしですね……まあ、休みですよ。こうやって駆り出されてますけど。」

 

「それなら良い。学生生活というものは人生において唯一無二の存在だ。今のうちに満喫しておくべきだぞ。」

 

「雅様も学生の時があったんですね。」

 

まるで年長者のような雅の発言を受けて、スズツキは思わずそう呟く。

 

対して雅は相変わらず無表情ながらも、いつもとは僅かに違う視線を彼へ向ける。

 

「む……私を何だと思っているのだ。」

 

「い、いえ……雅様があまりにも大人びているので、女学生だった姿を想像しにくいなと。」

 

「大人びているも何も、私は大人だ。酒だって飲める。」

 

「条例で21歳未満の飲酒は禁止ですよ。」

 

「歳は今年で24になる。」

 

「サバを読まないでください。貴女が飛び級をしたことは宗一郎様から聞いていますよ。だからまだ未成年であることも。」

 

「酒の経験もある。事実、時折り朱鳶と……いや、旧友と酒を交わしている。」

 

「ジュースをでしょう……って。」

 

聞き覚えのある名前にスズツキは顔を上げた。

 

「朱鳶さんと知り合いなんですか?」

 

「知っているのか。」

 

「はい、この人ですよね?」

 

スズツキは端末を取り出すと写真のフォルダを開く。

 

そして以前遊園地へ行った時の一枚を見せた。

 

雅の狐の耳がピクリと動く。

 

「…………ほう、人の縁は意外なところで繋がっているものだな。ちなみに彼女とはどういった関係なんだ?馴れ初めは?」

 

「えっ……い、いや、別に……。」

 

何故か突然食い気味に詰め寄ってくる雅。

 

ちなみに朱鳶とジェーンで山獅子組を壊滅に追い込んだことは機密扱いとなっており、例え雅相手でも口外は許されていない。

 

どうやって誤魔化したものかと考えていると、彼女は言葉を続けてくる。

 

「まさか朱鳶もお前に目をつけているのか。治安局に来いと言われたか?」

 

「あ、あくまでも個人的な関係です。そんなこと言われてません。」

 

「それは良かった。お前の力を最大限発揮出来るのはやはり我々H.A.N.D.だからな。」

 

「僕は行くつもりは無いですって。まだ高校生なんですし、両親だってこんなのは……。」

 

「心配するな。私が推薦状を書いてやる。お前が六課に入れば内部部局のお母様はもちろんのこと、調査協会のお父様もきっと喜ぶ筈だ。」

 

「いやその……へっ?ちょ、ちょっと待ってください。」

 

雅の発言にスズツキは背筋を凍らせる。

 

「ま、まさか母に僕のことを……?」

 

「先ほどな。ああ、だが適性についてだけで、家政の件は話してはいない。」

 

「えぇ……絶対怪しまれるやつじゃないですか……。」

 

「そうか?」

 

「そりゃそうですよ!新エリー都の英雄が自分の息子のこと話してたら気になりますって……!」

 

「ふむ、そうなのか……迂闊だったな……。」

 

母に詰問されたらどう誤魔化したものかと頭を抱えるスズツキ。

 

すると雅が何かを思い付いたのか、ぽんと拳を叩く。

 

「そうだ。スズツキ、良い案があるぞ。」

 

「……何ですか。」

 

「六課のインターンを受けていたことにすればいい。H.A.N.D.に興味があって、偶然私を通じて現場の体験をしていたということならお母様も納得するだろう。」

 

「その『偶然』が有り得ないんですよ……。」

 

「問題ない。話の辻褄はこちらでも合わせておく。どうだ?」

 

ずいぃと今まで以上に迫ってくる雅。

 

スズツキは背後に手をついてまでして身体を傾け、どうにか距離を取ろうとするも、遂には目の前に彼女が迫ってきた。

 

ちなみにだが、狐は肉食寄りの雑食で、主に小動物を捕食する。

 

もちろんスズツキは見た目通りの小動物だ。

 

よって取れる選択肢は逃走か捕食かの2つに1つである。

 

しかし結局のところ、彼が捕獲されることはなかった。

 

「あ、あのっ!」

 

「ちょっといい……ですかぁ?」

 

横合いからの殺気に雅は顔を上げる。

 

そこに居たのはメイド姿のエレンとカリン。

 

おそらくは一応仕えている相手の前だからか、控えめにはなっていたものの、黒々とした何かが2人から滲み出ていた。

 

しかし雅に動じる様子はない。

 

姿勢も首の向きを除いてスズツキに迫ったままの状態で固まっており、彼がこっそり逃げようとすると、ノールックで腕を掴んだ。

 

「ひっ。」

 

「スズツキ、まだ話は終わってないぞ。で、お前達の要件は何だ。」

 

()()、回収しにきましたー。」

 

「ら、ライカンさんが集まれと……!」

 

「彼には少し遅れると伝えてくれ。話が終わり次第、すぐに向かわせる。」

 

そう言うと再び視線をスズツキへ戻す雅。

 

だが簡単に引き下がるエレンとカリンではなく、スズツキの腕と肩をそれぞれ引っ掴むと、無理矢理引き摺っていこうとした。

 

だが負けじと雅もスズツキの足を掴んで引っ張る。

 

「ちょっと、手ぇ離せ。」

 

「す、スズツキさんは返してもらいます!」

 

「先程からすぐに返すと言っている。彼が首を縦に振ってからな。」

 

「いでででででで!」

 

まるで子供同士がおもちゃを取り合うような状況になっていると、ここで運良く双方の保護者的存在が現れてくれた。

 

足音も声も発していないというのに、周囲に漂い始めた強い覇気を前に全員がピタリと動きを止める。

 

そしてギギギと錆びついたロボットのようにゆっくりと顔を背後へと向けた。

 

「3人とも、ご主人様がお待ちですよ?」

 

「課長、まだまだ仕事は残っています。」

 

2つの微笑みがそこにあった。

 

にこやかなそれらは、場面さえ違っていれば素晴らしい笑みだったろう。

 

しかし悲しいかな。

 

目の前の2人、リナと柳は静かに怒るタイプなのだ。

 

そのことをよく理解しているようで、すぐさま雅とエレン、カリンは大人しくスズツキを畳に置く。

 

「良い子、さ、行きましょう。」

 

「はいぃ……。」

 

「はーい。」

 

「早く行きますよ。車は既に回してあります。」

 

「むぅ……。」

 

渋々と柳に着いていく雅だったが、部屋を出る前に振り返ってくる。

 

「スズツキ。」

 

「あ、は、はい。」

 

「話の続きはまた今度だ。良い返事を期待しているぞ。」

 

「…………善処します。」

 

そう言うと雅は柳に、スズツキはリナにそれぞれ牽引されていった。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

スズツキ達はメンバー全員が集まると、車に乗ってどこかへ向かい始めた。

 

少し不機嫌気味に寄りかかってくるエレンとカリンに後部座席で挟まれること半時間ほど。

 

到着したのは政府庁舎の並ぶ新エリー都中央区に位置しているヴィクトリア家政の拠点のひとつだった。

 

内装はいつものと似たり寄ったりだったが、唯一違う点が、とある部屋の存在だった。

 

書斎の本棚に隠されていた重厚な鉄扉を抜けると、見えてきたのは家具の無い殺風景な部屋。

 

中央の台には旧式の有線電話とビデオカメラだけが置かれていた。

 

全員が室内に入ると、リナが扉を閉じる。

 

「先輩、この部屋って……。」

 

「『ご主人サマ』と話すの。スズツキは初めてだっけ?」

 

「えっ……まあ、はい……。」

 

その時、電話機が着信の電子音を鳴り響かせた。

 

ライカンは受話器を取らず、代わりにボタンのひとつを押し込む。

 

するとスピーカーから1人の男の声が聞こえてきた。

 

[もしもし、ライカン君、聞こえているかね?]

 

「はい、市長閣下。」

 

「しちょっ……!?」

 

「……しーっ。」

 

ご主人様の意外な正体を前に、思わず声を上げそうになるスズツキだったが、すぐに背後からリナの人さし指が口へ添えられた。

 

まあ彼が驚くのも無理はない。

 

市長というと都市国家である新エリー都のトップ、つまり旧世界で言うところの首相や大統領に相当する。

 

てっきり名だたる貴族や大企業の社長を予想していたスズツキにとって、全くの畑違いの超大物が出てきたことは完全に虚を突かれた形だった。

 

[うむ、どうやら例の新人君も居るようだね。]

 

「はい、任務遂行の為の能力と経験は最低限持ちうると判断した次第であります。」

[それは良かった。今後の活躍を期待させてもらうよ。]

 

「ほら、スズツキちゃん。」

 

「スズツキ。」

 

べしべしと尻をサメの尻尾で叩かれる。

 

自分のことを言われているのだと理解すると、スズツキは慌てて口を開いた。

 

「はっ、はい!ぜ、全力を尽くさせてもらいましゅっ!」

 

[ふふ、頼もしい返事だ。今回の任務でも頑張ってくれ。では話に入らせてもらうとしよう。]

 

ここでご主人様もとい市長の声色が真面目なものへと変わる。

 

[まず、今回は第三者からの依頼ではなく、私からの正式な命令だ。よってこれから話すことは特定秘密分野に相当する。この場に居る人間を除いて絶対に口外はしないように。]

 

「承知しております。スズツキ、分かりましたか?」

 

「は、はいっ!」

 

スズツキは生唾を飲み込んだ。

 

特定秘密と言えば国防や対テロ、防諜など、国家の安全保障に関わる非常に重要な、トップシークレットの情報である。

 

一体どんな内容なのかと緊張しながら耳を傾けていると、スピーカーから市長の声が再び聞こえてきた。

 

[さて……例のヴィジョンの一件、それと有力な情報提供を受けて、ある複数の単語が浮かび上がってきた。星見家の協力で裏付けも取れている。]

 

市長は一度言葉を切り、ゆっくりとした口調で呟く。

 

[『サクリファイス』………誰か聞き覚えがあるかな?]

 

スズツキは首を傾げる。

 

周りのエレンやカリン達も同じような反応をしていた。

 

[まあ、誰も知らないだろう。実を言うと私も知らない。どんな意味なのか、何を指しているのか、皆目検討もつかないが、少なくとも確定していることはそれが奴らにとって……『讃頌会(さんしょうかい)』にとって重要ということだけだ。]

 

知らない単語がまたもや出てきたことに疑問符を浮かべる。

 

[任務の内容は単純明快、その『サクリファイス』が『讃頌会』にとってどんなものなのかを調べてほしい。]

 

「市長閣下、もし『サクリファイス』が危険物だった場合、破壊は選択肢に入りますでしょうか?」

 

[判断は君達に任せる。回収が難しいのならその場で処分しても構わない。では検討を祈る。]

 

直後、電話はブツリと切れてしまった。

 

話の内容がよく分からないままでいると、ライカンが補足を入れてくれる。

 

「讃頌会とは指定テロ組織のカルト集団のことです。しかし詳しくはまだ分かっていません。なので代わりとして入手したサクリファイスに関する手がかりを元に捜索を行っていく予定です。」

 

「ボス、情報提供者って?」

 

「それは……スズツキならよく知っている人物です。」

 

「えっ。」

 

「へぇ……。」

 

ゆらりと黒いオーラを発するエレン。

 

太い尻尾がスズツキに巻き付き、彼女の方へ抱き寄せる。

 

ライカンは軽く咳払いをすると、説明を続けた。

 

「情報によれば、どうやら『ホルス・ベロボーグ』という人物が関係しているようです。」

 

「あら、それって確か……以前ニュースで見たような……。」

 

頬に手を当てて考え込むリナだったが、そこへ浮遊ボンプのドリシラとアナステラが立体映写機を持ってくる。

 

空中に映し出されたのは、ひと昔前のワイドショーだった。

 

コメンテーターの手前に表示されたテロップに書かれていたのは『多額の資金横領』の文字。

 

そして……。

 

「白祇重工?」

 

「何それ、建設会社?」

 

「今現在、ヴィジョンに代わって地下鉄のプロジェクトを進めている企業です。ホルス・ベロボーグはその創設者とのこと。」

 

「じゃあ、その会社へ会いに行けば終わりってことですね。」

 

意外に楽そうな任務だと、スズツキは胸を撫で下ろす。

 

しかしすぐにそれは否定された。

 

番組内のVTRとして表示された映像の中に容疑者としてホルス・ベロボーグの名前と顔写真が出たのだ。

 

また指名手配をしているにも関わらず、未だに見つかっていないということも。

 

「あー……塀の中に居るってことですか?」

 

「いいえ、彼は今現在も行方不明のままです。こちらでも手を尽くしましたが、情報はありませんでした。」

 

「だから直接会社へ殴り込む、と……。」

 

「別に手荒な真似はしません。あくまでも潜入です。」

 

ライカンがそう言うと、スズツキは少し前の経験から今後の予想がついた。

 

「ボス、偽装した下請け会社として入り込むつもりですか?」

 

「よく分かりましたね。そういうことです。」

 

「えー、つまり力仕事ってこと?メンド……。」

 

ゲンナリとした表情を浮かべるエレンと、力仕事と聞いて不安を抱えるスズツキ。

 

それを汲み取ってか、ライカンが先回りして口を開く。

 

「いえ、我々は手を動かしません。他のことを行います。」

 

「何だ、良かった……。」

 

「ああ、スズツキは除きますが。」

 

「……え"っ。」

 

まさか独り肉体労働をやらされるのかと、スズツキは戦々恐々していると、ライカンから端末を渡される。

 

「スズツキにはこれに乗ってもらいます。」

 

「こ、これに……ですか?」

 

「はい。現状、パイロットは貴方だけなので。」

 

「マジすかぁ……。」

 

スズツキは画面に映っていたものを前に嬉しさと不安から表情筋がおかしくなっていた。

 

そこに表示されていたのは見覚えのある角ばったシルエット。

 

ただ違うのは表面の黄色と黒の警告色だった。

 





「ごらんなさい。あなたが写真アプリに保存していたスクリーンショットだ。何が写ってます?」

「確かに写ってたんだ……俺の橘福福……がおーって、可愛らしく吠えて……。」

「残念ながら貴方のアカウントから確認出来たのは、1凸された猫宮又奈だけでした。お気の毒です。」

「…………あぁぁぁあぁぁ!!!」


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