ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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02 主人公、メイド(♂)になる

新エリー都在住の一般的な高校生である自分、『スズツキ(涼月)・ナイドハート・グナイゼナウ』には悩みがある。

 

それは『男らしくない』ということ。

 

主な要因となっている容姿は黒髪の下に覗く中性的な顔立ちと、きめ細かい肌、平均的な女子並みに小柄で華奢な体躯、貧弱な細い手足。

 

ひと言で表すなら庇護欲を掻き立ててくる小動物のような見た目だった。

 

それでいて性格も大人しめということが拍車をかけている。

 

これは双方共に母親の血を良くも悪くも色濃く受け継いだ結果であり、おかげで今までに女と間違われた回数は数知れない。

 

しかしこんな自分にも唯一誇れるものがある。

 

現役のホロウ調査員である父から授かった特性。

 

ホロウ内での長時間活動を可能にする高度な『エーテル適性』だ。

 

「……で、これが健康診断の時の結果です。貴方様のもので合っていますか?」

 

「は、はい……確かに僕のですね。」

 

「うわ……耐性率9割強とかバケモンじゃん……。」

 

今は生徒達が束の間の休息を楽しむ昼休みの時間。

 

自分はというと朝に遭遇したサメガール、『エレン・ジョー』と名乗った上級生に言われた通り、校舎の屋上に来ていた。

 

待っていたのは飴を加えながら壁に寄りかかる彼女ともう1人。

 

白いふさふさの体毛の上から、執事服のような黒いスーツを身に纏ったオオカミのシリオンだった。

 

彼は『フォン・ライカン』と軽く自己紹介をすると、次にこちらの名前や住所、家族構成に個人的趣味などから本人確認をしてきた。

 

自分より遥かに大柄な彼を前にして少しビビりながらも肯定を繰り返して行き、今しがたエーテル適性について言及されたところだ。

 

「それで、僕なんかに何の用で……?」

 

「では本題に入りましょう。スズツキ様、昨日の件についてです。」

 

「助けてもらったことですか?」

 

「はい、スズツキ様を襲ったあの男は公式に存在していない、いや、存在してはいけない人物でした。今はもう解決しましたが、貴方様が奴を『見た』こと自体が最後に残った懸念事項なのです。」

 

「あー、つまり口止めの確認みたいな……?」

 

「そう考えてもらって構いません。然るべき『処置』を行わせていただきます。」

 

「は、はい。」

 

おそらくは誓約書のようなものを書くのだろう。

 

例を挙げるならこの前見た映画の劇中で、当局の強行的な捜査を目撃した主人公が、後々になって『捜査は全て法律に則って行われた』と認める書類を書いたように。

 

しかしライカンはペンと書類は出さずに言葉を続けた。

 

「……ですが、その前にもうひとつの選択肢を提示させてもらいます。」

 

「そっちなら処置をしなくても良いと?」

 

「はい、双方にとって有益に成り得るかと。それで先程も確認したように貴方様は非常に高いエーテル適性を持っていますね?」

 

「ええ……あいにくと使い所はありませんが……。」

 

「私のご主人様は優れた人材を、特に潜在的な能力を秘めた若い人材を求めています。そしてスズツキ様のことをお気に召されたようです。」

 

「あー……それは……。」

 

「我々『ヴィクトリア家政』の新たなメイドとしてスカウトしたいのです。」

 

「……………は?」

 

予想外のことに思わず固まってしまう。

 

聞いたこともない組織からの突然のスカウト。

 

そしてこちらの正しい性別を知っているにも関わらず、その指定先は『メイド』。

 

家政というなら執事やお手伝いさん辺りだろうが、何故かメイド。

 

ライカンの言葉を完全に理解するのに5秒ほどの時間を要した。

 

「あの……ちなみにどんなことをするんですか……?」

 

「表向きは家事代行サービスです。」

 

「はぁ……?あとメイドって……僕は男なんですけど……。」

 

「はい、承知しております。」

 

「……まさか女装しろと?」

 

「はい、貴方様の容姿は業務をこなす上で色々と役立ちます。ご主人様もそこに着目されておられました。」

 

平静な淡々とした反応に冗談ではないことを理解する。

 

だが対して自分の答えはもちろんノーだった。

 

誰が嬉しくて竿付きメイドになりたいのか。

 

それに家事代行サービスにどうして高エーテル適性の人材が必要なのか。

 

怪しさ満載である。

 

「えっと……すいませんが、遠慮させてもらって……。」

 

その時、横合いにヘッドセットのような何かの機械が突き出される。

 

隣を見ればエレンが早く取れと言わんばかりの視線を向けてきていた。

 

「な、何ですかこれ?」

 

「さっき言ってた処置、ちょっと記憶をいじくるやつ。これをアンタの頭につけて昨日のことを忘れてもらう。」

 

「申し訳ありませんが、口外しないとの約束のみでは双方の安全を担保出来ないためです。」

 

「冗談……じゃないですよね…….?」

 

「はい、現代の技術では脳から記憶を読み取ることも難しくありませんので。」

 

そう話すライカンの顔は至って真剣なものだった。

 

ならばしょうがないと機器を受け取り、頭に装着する。

 

が、ここでエレンが衝撃的な補足をしてきた。

 

「あ、ちなみにこれ開発段階のプロトタイプで、細かい調整が出来ないから消える記憶はここ1ヶ月分ね。あと終わったら多分酷い記憶障害を起こすと思うけどガンバ。」

 

「……え”っ。」

 

「学校や病院には階段から落ちて頭を打ったと説明しておきます。それと諸々の経費は全てこちらが持ちますので、どうかご心配なく。」

 

「ちょっ……待って!タンマ!」

 

恐ろしい副作用を聞いて、慌てて機器を頭から外す。

 

「どうかしましたか?」

 

「……ほ、他の方法はないんですかね?」

 

「無い。まあ、強いて言うなら死ぬことくらいか。」

 

「エレン、言葉が過ぎますよ。スズツキ様、我々にも取れる選択肢は少ないのです。どうかご理解いただけると幸いです。」

 

「ぬぅ……。」

 

今から治安局に通報しようかとも考えたが、即座に制圧されて終わりだろう。

 

やはりここは頷くしかないのか。

 

「ち、ちなみに職場環境は……。」

 

「ウチはそこらへんしっかりしてるよ。装備代とか交通費とか、あと任務中のジュースとお菓子も全部経費で落としてくれる。」

 

「緊急出動がありますが、学業を妨げない程度の余裕は保障します。」

 

「なるほど……。」

 

明らかに家事代行サービスではない単語がちらほらと聞こえてくる。

 

というかこんな機器を持っている時点でマトモではない。

 

しかし心の中では僅かに興味が湧いていた。

 

もしかすると好きな映画みたいにカッコ良いことをするのではないかと。

 

使い所のなかった自分の特性を活かせるのではないかと。

 

心の中で賛成派が過半数を超えていく。

 

結局、軽い気持ちでメイドになることにした。

 

「なら……やっぱりよろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

そうして始動したメイド生活、外部にはバイトという名目で始まったヴィクトリア家政での仕事だったが、早速試練にぶち当たっていた。

 

ここは組織の使う建物の一室。

 

如何にも洋風で、高そうな調度品が各所に置かれた小綺麗な部屋の中、自分の目の前には大きな鏡が立てかけてある。

 

「……本当にこれ着るんですか?」

 

「ええ、そうですよ。きっと似合うと思いますわ♪」

 

背後で微笑んでいるのは全体的に柔らかな雰囲気が特徴の女性、メイド長こと『アレクサンドリナ・セバスチャン』。

 

皆んなからは通称『リナ』と呼ばれている。

 

彼女の手には黒い布地に白いフリルがあしらわれたメイド服が握られており、着せ替え人形のように当ててきては、すぐに別のデザインのものをハンガーラックから引っ張り出してくる。

 

まずは制服から決めるとのことらしい。

 

「うぅ……。」

 

「あら、もしかしてメイド服はお嫌い?」

 

「い、いやその……やっぱり普通男はボスみたいな燕尾服を着るんじゃ……。」

 

「せっかくこんなに可愛いのに勿体ないですわ。それに、スズツキちゃんにはメイド服を着るお仕事がありますから早めに慣れておかないと。」

 

「仕事?」

 

「ふふっ、いずれ分かる時が来ますよ。」

 

「は、はぁ……?」

 

それからもされるがままにファッションショーは続く。

 

結局、シンプルな黒いタイプのものが選ばれた。

 

「うん、やっぱり私の見立ては間違っていなかったみたい♪」

 

「へぇ……意外といいじゃん。」

 

「股が涼しい……///」

 

試着室の仕切りの向こう側から現れたのはスカート丈の長いクラシック風味の如何にもなメイド服に身を包み、顔を真っ赤にしたスズツキ。

 

ご丁寧に軽い化粧と黒髪ロングのカツラまで施されており、一見して男とは思えない。

 

むしろそこら辺の女子より可愛かった。

 

「ただいま戻りました。おや……スズツキ、よく似合っていますよ。」

 

「わぁ!スズツキさん、お似合いです!」

 

「ど、どうも……///」

 

何かの箱を抱えて戻ってきたのはライカンともう1人。

 

同僚のメイドで年下の『カリン・ウィクス』だった。

 

彼女の純粋な反応を受けて思わず苦笑いを浮かべる。

 

「そっ、それで……次は何をするんですか……?」

 

「今、貴方の装備品を取ってきたところです。カリン、それをテーブルに置いてください。」

 

「はい!」

 

装備と聞いて少し驚く。

 

慣れないスカートと靴に苦戦しながらも何とかテーブルにまで辿り着いた。

 

「さて、これからは渡すものは今後の任務において一番頼りになる、言わば相棒と呼べる存在です。手入れは欠かさないように。」

 

ゴトリと目の前に何かが置かれる。

 

ライカンの大きな手が離れると、現れたものを前に目を見開いた。

 

マットな黒で構成された四角い銃身とゴムカバーのついたピストルグリップ。

 

フィクションではお馴染みの拳銃というやつだった。

 

「南部重工製一七式拳銃二六型、執行機関向けの特別モデルで、口径の9mmとなっています。」

 

「遂にウチにも銃が来たかー。」

 

「め、メイド業でこんなのを使うんですか?」

 

「主に自衛用です。自分の身は自分で守れるようになってもらわなければ。」

 

スズツキは置いてある拳銃を手に取ってみた。

 

見た目とは裏腹に随分と軽く、自身の小さめな手に上手くハマってくれる。

 

薬室は空で、弾倉は入っていない。

 

だが謎の威圧感を感じた。

 

「あの……ボス、ここは本当は何をする組織なんですか?」

 

「ご主人様がお望みになったことです。そのため、業務内容は多岐に渡ります。」

 

「なるほど……。」

 

つまりこれを使うような事態になるということだ。

 

実際に数日前、ルミナススクエアの裏路地で目撃したように。

 

自分もいずれはああやって戦う羽目になるのかと、軽く緊張してしまう。

 

だがその時、部屋の黒電話が鳴り響く。

 

我に返ると、既に周囲のメンバー達は動き出していた。

 

「えっ、えっ?」

 

「スズツキ、出発の準備をしてください。」

 

「ど、どこに行くんですか?」

 

「研修です。」

 

ライカンは少し笑みを浮かべながらそう言うと、電話の受話器を取った。

 




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