ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

31 / 44

すり抜けたら終わりだ……頼む!すり抜けないでくれ!頼む!

福福に続いて柚葉が欲しい作者です。ホント、マジですり抜けないで。財布の中身とアリスが消えることになるから。



30 ビフォー・ザ・バトル

「ハンスとグレーテル、フライデーの全機が暴走……その後はホロウ内に逃げたか……。」

 

部屋の中は重苦しい空気に包まれていた。

 

今から数時間前、白祇重工の保有する完全自律式の重機3台が突如としてコントロールを離れ、一斉に暴走を開始。

 

敷地内を荒らしながら現場より逃走し、ホロウの中へ消えたのだ。

 

不幸中の幸いだったのが、社員や一般市民を含めて死傷者が一切出なかったことだろう。

 

しかしホロウ内の作業における重要な役割を担っていた彼らが居なくなったことで、施工のスケジュールに大幅な遅れが発生する可能性が浮上してきたことは致命的だった。

 

最悪の場合、白祇重工による工事そのものが中止され、他の企業に横取りされるかもしれない。

 

その場合、会社は大きく信用を失うことになるだろう。

 

「……クソッ!!」

 

クレタは行き場の無い怒りを拳に込め、勢いよく机に叩き付けた。

 

隣にいたグレースが宥めようとするも、彼女は止まらない。

 

「やっぱりアイツのシステムを転用するなんて間違ってたんだ!例え時間がかかっても堅実にやっていれば……!」

 

「おチビちゃん、そんなこと言わないでくれ。きっと何かの軽いバグさ。心配しなくてもすぐに解決する。」

 

「何を根拠にそんな……!」

 

「社長、今は文句を言っても仕方ないぜ。気持ちは分かるが、今後のことを考えるべきだ。」

 

アンドーにそう諭されると、クレタは一度黙り込む。

 

「そうだな、すまん……だが、最後にこれだけは言わせてくれ……なあ、今回の件、今度はアンタらが関係しているとかはないよな?」

 

クレタの鋭い視線が部屋の中央へ向けられた。

 

そこに立っていたライカンは瞬きひとつせず、淡々と答える。

 

「失礼ながら、暴走事件の犯人として我々を疑っているのでしたら、とんだ検討違いです。私共はあくまでも試験機の整備と運用データの収集しか行っていないので。」

 

「……そうか、分かった。」

 

「あっ、おチビちゃん……!」

 

何も言わず、ツカツカとその場を離れるクレタ。

 

すぐにグレースが後を追おうとしたが、ベンに止められる。

 

「グレース……今はそっとしてやるべきだ。」

 

「……そうだね。」

 

「そちらも、疑うようなことをしてすまなかった。ウチの社長も普通はあんなことは言わないんだ。許してほしい。」

 

ベンが深く頭を下げると、ライカンは少し慌て気味に彼へ頭を上げるように言う。

 

「本当にすまなかった。」

 

「いえ、私は大丈夫ですので。それより先ほど、今回もと、おっしゃっていましたが、今までにもこのような出来事が?」

 

ライカンの質問を受けて、ベンは重々しく口を開く。

 

「ああ、最近になってからのことだよ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

プレハブの事務所を出たクレタは傾き始めた日の光に照らされながらアテもなく敷地の中を歩く。

 

すると背後から見知った人物が現れた。

 

「……スズツキか。」

 

「社長……その……。」

 

「聞いていたのか?」

 

「ええまあ……復旧作業が終わったことを伝えに来たら……。」

 

「そうか……。」

 

スズツキにとって今のクレタは明らかに様子がおかしかった。

 

今までの貫禄が全て剥がれ落ちており、非常に弱っている印象を受けた。

 

スズツキは只事ではないと、彼女に近付く。

 

「社長……だ、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫……じゃない。」

 

「ちょっと座りましょう。その……もしよろしければ事情を教えてもらえませんか?」

 

「……お前に言ってどうする。」

 

「コレがあります。もしかしたら役に立てるかも。」

 

スズツキは少し離れた位置に鎮座しているガーディアンもどきこと『鍾馗(しょうき)』を指さす。

 

対してクレタは首を縦に小さく降った。

 

昼と同じ場所に座ると、彼女はポツポツと事の顛末を話し始めた。

 

「お前んとこを疑ってた理由はな……最近ウチが他社から妨害行為を受けてるからなんだよ。」

 

「妨害?工事を止める為に?」

 

「ああ、そんな感じだ。銀行の融資を止めさせたり、雇ったホロウレイダーを現場に送り込んできたり、建設に関する各種書類を意図的に止めたり……汚ねえ連中だよ……。」

 

「つまり今回の暴走も誰かの犯行と?」

 

「それは分からん。もしかしたら単なる暴走かもしれない。姉貴もアイツ自身が一から作ったわけじゃないから、原因はまだ分からんとさ。」

 

「じゃあ、その作った人に助けを求めるってのはどうですか?」

 

スズツキの提案に対してクレタは一度黙り込んだ。

 

少しの間を置いて、彼女は再び口を開く。

 

「無理だ。アレの基礎技術は私の親父が作ったんだ。」

 

クレタの発言からスズツキは最初の説明を思い出す。

 

ホルス・ベロボーグという、今から11年前に白祇重工の資金を横領して行方をくらませた人物の名前を。

 

また直後に『あの災害』が起こったことで、捜索も起訴も有耶無耶になり、公には死亡扱いになっていることも。

 

「すみません……変なこと聞いて。」

 

「……知ってるんだな。アイツのこと。」

 

「はい、白祇重工のスキャンダルが昔あったって、テレビのワイドショーで……。」

 

「そうだ。アイツのやらかしで白祇重工の名声は地に落ちた。資産も社員も契約も失ったと思えば、その後の『旧都陥落』で今度こそ全部無くなった。」

 

「社長も巻き込まれたんですか?」

 

「ああ、会社に唯一残ってた姉貴とベン、アンドーと、最低限の荷物だけ持って必死に逃げたよ。」

 

「そうだったんですか……。」

 

スズツキは対比するように、あの時の自らの状況を思い出す。

 

記憶にあるのは身体に回された母の腕の温かさと、隣でテレビを見て驚愕の表情を浮かべている父の顔だった。

 

話によれば当時の都心から離れた郊外の安い土地に家を建てたことで、災害による諸々の被害は一切受けなかったらしい。

 

おかげでスズツキにとって、今までの辛い記憶と言えば、お気に入りのプラモデルを壊したことくらいだった。

 

「私達は何も無い状態からここまで積み直した。新エリー都拡張の下請けから始めて、ようやくここ数年で機械製造に手を出せるまでになった。これから、これからなんだってのに……!」

 

「だからこそどうにかする必要があるんじゃないですか。まだ諦めちゃ駄目ですよ。」

 

「でもよ……アイツらを探そうにも何層にも分かれた広大なホロウへキャロットひとつだけで挑むってのは……。」

 

「むぅ……。」

 

実はスズツキに手はあった。

 

だが自分がやろうとしていることはヴィクトリア家政の任務とは何ら関係が無いことも分かっていた。

 

普通なら大変ですねで終わりだろう。

 

しかし結局、あいにくとスズツキはクレタ達を、真っ当な良い人である彼女達を見捨てる気にはなれなかった。

 

「よしっ!」

 

「……スズツキ?」

 

決意を固めたスズツキは、膝を叩いて立ち上がった。

 

そしてクレタの方を向く。

 

「社長、自分の知り合いに腕の良いプロキシがいます。値は張りますが、きっと今回の物探しには役立つでしょう。」

 

「プロキシ?だが、アイツらはちょっとばかしキャロットの扱いに長けているだけだぜ?」

 

「いえ、自分が知っているのはただのプロキシではありません。『伝説のプロキシ』です。」

 

スズツキは胸を張りながら自信満々にそう言うが、対してクレタは鼻で笑う。

 

「……はっ、インターノットの都市伝説を馬鹿正直に信じている奴は初めて見たよ。」

 

「社長、信じてください。絶対に悪いことにはなりませんから。」 

 

「ほぅ……そこまで言うか。」

 

クレタは顔を上げ、ジッとスズツキの目を見つめる。

 

対してスズツキも負けじと、視線を合わせ続ける。

 

数秒後、先に動いたのはクレタの方だった。

 

「気休めの嘘だったらブッ飛ばす。本当なら明日以降に呼び出せ。」

 

「は、はい!」

 

「よし、そうと決まれば作戦会議だ。お前のアレ……鐘馗にも動いてもらうぞ。」

 

「もちろんです……と、言いたいんですけど……。」

 

「何だ、言い出しっぺは動かないつもりか?」

 

「いえ、条件があります。あくまでも僕は組織の末端に過ぎません。ボスが納得するような見返りがないと、鐘馗を動かす許可は出ないかと。」

 

「あぁ……つまり金か?」

 

「いいえ、情報が欲しいです。とても個人的な……会社や社長のプライベートにも関わるかもしれない情報が。」

 

スズツキは恐る恐るそう言い切る。

 

だが意外にも返答はすぐに返ってきた。

 

「そんなことならハンス達を連れ戻した後にいくらでも話してやるよ。」

 

「い、いいんですか?」

 

二つ返事で了承が得られたことに目を丸くしているスズツキを前に、クレタは揶揄うような笑みを浮かべる。

 

「なんだ、私のスリーサイズでも教えればいいのか?」

 

「いえ、どうせ全部同じでしょうからグレースさんのを……。」

 

「あ?」

 

「是非とも拝聴させていただきます。」

 

「冗談だ、馬鹿。まず女同士でそんなこと知っても意味ないだろうに。」

 

「そ、そーっすネ……。」

 

「それより早く戻るぞ。まずは作戦の立案からだ。あとお前のボスの説得もやらないとな。」

 

「はい社長!」

 

スズツキはクレタに続いて事務所への道を歩き始める。

 

彼女の調子はいつの間にかすっかり元通りになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

次の日、クレタやグレースら白祇重工のメンバーの前に現れたのは正装姿のスズツキ達だった。

 

クレタは昨日までの作業着姿ではなく、フリル付きのメイド服を身に纏ったスズツキに近付くと、上から下までじっくりと眺める。

 

「違和感があると思ってたが、いつもこんなの着てたなら納得だわな。」

 

「へへ……やっぱりですか?」

 

「ああ、次に潜入するなら歩き方に気を付けることを勧めるよ。その点、お宅のボスは上手くやってたぜ。まあ、雰囲気までは誤魔化しきれてはいなかったけどな。」

 

それを聞いてか、人知れずライカンの尻尾がへにゃりと垂れる。

 

「それで?伝説のプロキシとやらは呼べたのか?」

 

「はい、今ここに向かっていると……あっ、噂をすればですね。」

 

その時、スズツキの背面から何かがよじ登ってくると、そのまま頭の上に乗った。

 

2つのウサ耳と短い手足、半円のディスプレイに表示された丸い目が特徴のマスコット、新エリー都ではありふれた存在のボンプユニットだった。

 

怪訝な表情を浮かべているクレタを前にスズツキはそのボンプを、『01』と描かれたオレンジ色のスカーフを着けたその個体を腕に抱える。

 

「リンさん?聞こえてますかー?」

 

「は?おいおい、これがプロキシ?冗談だろ?」

 

「リンさんってば、どうせ意識入ってますよねー?」

 

ふるふると揺さぶれば、スピーカーから機械じみた合成音声が聞こえてくる。

 

[起動には専用のプロトコルが必要です。額に熱いキスをしてください。]

 

「なあ……からかってるわけじゃないよな?」

 

「いえいえ、違いますから。ねえ、リンさん?答えてくださいよ。」

 

[キスをしてください。キスをしてください。キスを……。]

 

壊れたように同じ言葉を連呼し続けるボンプだったが、ある時、それは急に止まる。

 

そして遠くから誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 

周りを見渡せば、敷地の入り口付近に停められた車からエレンが誰かを引き摺り出しているところだった。

 

「痛い痛い!分かった分かったから!耳から手を離してよぉ!」

 

「変態め……だから呼ぶのは嫌だっつったのに……!」

 

「別にいいじゃん……ボンプにキスくらいするでしょ?」

 

「その時の感触をデータ化して記録するのはアウトだよ。」

 

「おぉ、よく分かったね。流石エレン。」

 

「うっさい、早く仕事しろ。」

 

「はーい。」

 

エレンに背中を押されて前に出てきたのは毎度恒例の伝説のプロキシ、通称パエトーンことリンだった。

 

「アンタがプロキシなのか?」

 

「そうだよー。貴女が今回の依頼主?」

 

「ああ、少しばかりホロウで物探しをしたい。」

 

「事情は聞いてるよ。要するにその重機?を見つければいいんだよね?」

 

「そういうわけだ。頼んだぞ。」

 

「もちろん!任せて!」

 

それからリンはイアスを置いてビデオ屋へと帰っていき、クレタ達4人もホロウに入るための準備をする。

 

しかしヴィクトリア家政の全員は着いていかず、行くのはスズツキだけだ。

 

メイド服から専用のパイロットスーツに着替えたスズツキは鍾馗のコックピットに収まると、グローブを嵌め、ヘルメットを被ろうとする。

 

するとハッチの外からヌッとライカンが身を乗り出してきた。

 

「あ、ボス。」

 

「スズツキ、昨日言ったことは覚えていますね?」

 

「はい、絶対に無理はせず、安全を最優先にする、ですね。」

 

「ええ、その機体は貴重だからという意図も含まれていますが、本命は貴方の身の安全を考えてのことです。もし、何かあった場合は……。」

 

「リンさんを通じて言うか、機体の信号弾を撃ち上げる。」

 

「そうです。リナとカリンがデッドエンドホロウの上空で待機しています。信号を確認次第、私とエレンがティルトローターでホロウへ突入し、機体を回収するので。」

 

ライカンは最後にスズツキへ手を伸ばし、大きな手で軽く頬を撫でる。

 

「スズツキ、任務の為に自ら考えて動くことは良い心がけです。しかしどうか怪我だけはしないように。いいですね?」

 

「もちろんです。手早く終わらせて手掛かりを掴みましょう。」

 

「ええ、そうですね。では、私はこれで。」

 

ライカンの姿が消えると、スズツキはハッチの開閉ボタンを押す。

 

だがその時、ハッチの隙間からイアスが、厳密にはリンの操作するイアスが滑り込んできた。

 

「あ、ちょっ……!?」

 

[ふぃ〜、ナイス滑り込み……あと特等席ゲット〜♪]

 

イアスは計器類とスズツキの間の僅かな隙間に入り込むと、満足そうに腰を落ち着かせた。

 

「せ、狭いんですけど……。」

 

[私はスズツキ君の体温を直に感じられてイイけどね。あとそのスーツ、なんかおじさん臭い?]

 

「昔あった戦闘機の耐Gスーツを改造した急拵えのお古だからしょうがないです。それよりここ、かなり揺さぶられますよ。」

 

[大丈夫!気合で何とかするから!]

 

「もう……気持ち悪くなっても知りませんからね……?」

 

スズツキはバイザー付きのヘルメットを被ると、機体を起動させる。

 

するとヘルメット内部の視界一杯に周囲の情景が映し出された。

 

台座が起き上がっていくと、眼下にライカンやクレタ達の姿が見えてくる。

 

[おわぁ……スゴい景色……。]

 

「ですよね……って、早速システムをジャックしやがりましたね。これ一応、軍事機密の塊なんですけど。」

 

[あらら、エーテル反応炉って……確か発電所以外には使っちゃダメなやつじゃなかったっけ?]

 

「旧エリー都時代の遺物なのでノーカンです。絶対に黙っといてくださいよ。」

 

[はーい。]

 

台座が完全に起き上がると、鍾馗はゆっくりと足を踏み出した。

 

右前腕にテーザーガン、腰回りに使い捨てのネットランチャーを装備し、出発の準備が完了する。

 

ちなみにどちらもグレースが民生品を転用して作った非加害性の武器だ。

 

一夜でここまで実用的なものを作ることが出来るのは流石というべきだろうか。

 

「社長、聞こえますか?」

 

[おうよ。じゃあ、家出した奴らを探しに行くか。]

 

[はあぁ……!私の子供達も心配だけど、目の前のコレも分解したい……!]

 

[早く行こう。グレースがおかしくなる前にな。]

 

それからクレタ達一行とスズツキの鍾馗はホロウへと足を踏み入れた。

 




ーー昨日の事務所の中ーー

「ボス!」

「スズツキ、どうかしましたか?」

「あのガーディアンの名前を考えたんです!『鐘馗』ってどうですか?」

「ふむ……魔除けの神の名前とは中々に渋いチョイスですね。」

「ええ、あれで皆んなを悪い奴らから守るんです!」

「おやおや、それは頼もしい限りです。期待していますよ。」

「えへへ。」







「お"っっほぉぉぉ……長身ケモイケメンと女装ショタの組み合わせやべぇ……マジ尊死ぃ……。」

[マスター、盗撮の為にイアスを使うのはやめてください。それより早く帰らせて充電することをお勧めします。おそらく明日についての依頼が来るかと。]

「ふへ……今の記録してくれた?」

[はい、ファイル15に動画と静止画で保存しました。]

「はぁ……スズツキ君、早くまた会いたいよー!]

[マスター、彼と最後に会ったのは……。]

「5日も、経ってるの!早くあの匂いを直に吸わないと……!」

[……やはり天才と馬鹿は紙一重なのでしょうか。]

「何か言った?」

[何でもありません。]



よろしければ高評価又は感想をお願いします。作者のモチベが爆上がりするので。

1話ごとの文字数ってどれくらいが読みやすい?

  • 8000字くらい
  • 6000字くらい
  • 4000字くらい
  • それ以下
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。