ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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見て!浮波柚葉出たよ!赤髪でツインテの子!

えっ?柚葉はロリ系じゃなくてJK枠?背中にアライグマがしがみ付いてる?眼帯は着けてない?どこぞの敵役ガンダムフレームみたいにスラスター付きのハンマーは装備してない?

い、いや、そんな筈はない……あれは浮波柚葉だ。誰が何を言おうと柚葉なんだ。



31 ハード・チェイス

昨日、スズツキはライカンへ自身の意見をハッキリと伝えた。

 

白祇重工を積極的に助ければ直に情報をくれると、もうコソコソする必要は無いと。

 

まあ実行すれば今までの潜入作戦が全てオシャカになってしまうことが懸念点だったが、手がかりに関する碌な成果が出ていなかった以上、ライカンも反対するだけの材料が無かった。

 

結局、スズツキ達は全ての偽装を解除すると、改めてヴィクトリア家政として白祇重工を支援することとなった。

 

そして現在、スズツキの操る有人式ガーディアン『鐘馗』と、クレタ達はホロウに入ってから早半時間が経過していた。

 

全員でタンクデサントならぬロボットデサントをしながらグレースの探知機で大体の方向のアタリをつけつつ、リンの詳細な案内の元、ホロウの奥地へと進んでいく。

 

「姉貴、反応はどうだ?」

 

「徐々に大きくなってるよ。近くに『ハンス』が居るね。」

 

「うっし……いよいよだな!」

 

その時、遠くから何かが崩れる音が聞こえてきた。

 

クレタは鐘馗の頭の上によじ登ると、周囲を見渡す。

 

おそらくは今探している機体、デュアルショベルのハンスによるものなのか、遠くに立ち昇る粉塵が見えた。

 

「何か向こうに居るぞ。アレじゃないか?」

 

「誰かと戦っている?」

 

「スズツキ、急いでくれ。もしかしたらエーテリアスに絡まれているかも。」

 

[分かりました!掴まってください!]

 

両腕と頭にそれぞれクレタ達を乗せたままスズツキは機体を歩行から駆け足へと移行させる。

 

やはり2つの脚は荒れた場所で役立つようで、道路を塞いでいる車や建物、時にはエーテリアスまでを楽々と踏み越えていく。

 

そして到着したのは建設途中の建物が並ぶ開発地区だった。

 

そのひとつに、まだ床と天井すら張っていない鉄筋だらけのビルの中に4本足の大きな影が見える。

 

「いたいた……!」

 

「何だ?ビルを解体しているのか?」

 

「よし、こっから降りるぞ。スズツキ、お前は私達の後ろで待機だ。有事になればソレで拘束してくれ。」

 

[了解です。]

 

クレタ達4人は地面に降りると、ハンスへ近付いていく。

 

「よう、案外元気そうじゃねえか!」

 

そうアンドーが話しかけると、あちらも気付いたようで、腕を止めると振り返ってきた。

 

[ハッ、やっと来おったか。待ちくたびれたぜ。]

 

搭載されたスピーカーより発せられるハンスの声だったが、それを耳にしたクレタ達は驚きから目を見開いた。

 

何故なら前日まで彼の声は大人しい口調の合成音声だったからだ。

 

どこかアンドーを彷彿とさせるような、ここまで血気盛んな荒々しい要素は一欠片もなかった。

 

「おいおい……随分と偉そうな口調じゃあねえか。一丁前に声まで変えやがってよ。」

 

「お前、やっぱり論理コアが壊れてるな。ほら、早く帰って姉貴に点検を……。」

 

「社長!危ない!」

 

直後、ハンスは返答の代わりに左腕のグラップルバケットでコンクリートの塊を持ち上げると、クレタ達に向かって投げ付けた。

 

すかさずベンが持ち武器の巨大なダンピングランマーを抱えながらクレタの前に割って入ろうとする。

 

だがコンクリート片は最終的に彼女達へは直撃せず、代わりにハンスの手から離れた途端、轟音と共に空中で粉々に砕け散った。

 

ある程度離れていたおかげで爆発の衝撃波は食らわなかったとはいえ、キーンと耳鳴りがする中、クレタは後ろを見上げる。

 

そちらでは背部に外付けされた75mm榴弾砲から白い硝煙を燻らせた鍾馗が佇んでいた。

 

[大丈夫ですか!?]

 

「ああ、すまん。にしても……。」

 

「わ、我が子とはいえ、これはオーバーホールの必要が出てきたかもねえ。」

 

ふらふらと立ち上がるクレタ達の前ではハンスがやる気満々といった風に左右のバケットとグラップルを、拳と手を打ちつけ合うようにぶつける。

 

[点検だぁ?ふざけんな!俺ちゃんは堂々たる(おとこ)や!病院にガキ連れてくんとちゃうんやで!]

 

そんなハンスの叫びにピクリとアンドーが反応する。

 

「テメェ、漢を語るか……漢ってモンはなぁ!そんなガキみてえに駄々をこねるもんじゃねえんだよ!」

 

[じぶん言ってくれるやんけ。だが会社に戻るつもりはあらへんで!]

 

「ほう、仕事に飽きたってのか?」

 

[そうだ!俺ちゃんには立派な夢がある!ただのつまらん解体作業に収まる器ちゃうねんぞ!]

 

そう言うと、両腕のアームで何かのポーズを決めるハンス。

 

一方、そんな彼の様子をコックピットの中から眺めていたスズツキとイアスはどこか既視感を感じていた。

 

「ねえリンさん、これって……。」

 

[うん、完全に思春期の中学生だよね。多分、自我が生えてグレちゃったのかも。この性格もビデオに影響されたのかな?]

 

「AIも親に反抗するもんなんですね……。」

 

そのまま観察を続けていると、遂には漢同士の勝負と言ってアンドーとハンスが一騎打ちを始めてしまった。

 

スズツキは慌てて右前腕に装備したコンテナ式の大型テーザーガンを構え、ハンスの胴体下部にある脚の駆動系を狙って照準を定めようとする。

 

しかしここでアンドーから待ったがかかった。

 

[スズツキ!手助けは不要だぜ!社長もな!]

 

[おい、大丈夫なのか?]

 

「そうですよ!いくらなんでも……!」

 

[こいつは漢同士の真剣勝負なんだ!分かってくれ!]

 

「……了解です。」

 

スズツキは漢という言葉に感化されたようで、大人しく腕を下ろした。

 

[本当に助けなくても大丈夫なのかな?]

 

「リンさん、漢の闘いを邪魔するのは野暮ってモンですよ。」

 

むふー、とスズツキはしたり顔でそう語る。

 

相変わらず可愛らしい見た目に反してカッコいいものには目が無いらしい。

 

[スズツキ君ってホント男らしさが好みだよね。いっつもライカンさんとかお兄ちゃんに尻尾ふりふりしちゃってさぁ。]

 

「じ、事実だからしょうがないです。」

[別にスズツキ君はそのままで十分良いんだよ?いや、むしろ今以上に男の娘の道を爆走してほしい!]

 

「……心配しなくてもリナさんとジェーンさんに現在進行形で改装されてます。スカートに慣れきってる自分が怖いですよ。」

 

2人がそう話している間にもアンドーはハンスと拳を交わし続けていた。

 

彼は振り回される鈍器の塊を軽い身のこなしで避けながら一気に距離を詰めていく。

 

「オラオラ!そんなものなのか!?」

 

[ぬぐっ……すばしっこい野郎だ……!]

 

「わきが甘いぜ!ハンス!」

 

[そのダッサい名前で呼ぶな!メンツ丸潰れだろうが!]

 

どうにかハンスはアンドーの間合いから抜け出そうと、大きな脚で飛び跳ねて距離を取る。

 

だがその時、ハンスの背後から複数の影が飛びかかってきた。

 

人型やまん丸など形は様々であったが、それら全てに藍色の丸い物体が頭部に備えられた、エーテリアスの一群だった。

 

[なっ!?エーテリアス!?こ、こんな時に……!]

 

ハンスはもがいてエーテリアスを振り落とそうとするも、次から次へと機体へ取り付かれてしまう。

 

まさに万事休すといった場面。

 

すると目の前から迫ってくるアンドーの姿が目に入ってくる。

 

回避しようにも、この状態では不可能だろう。

 

[畜生……ひと思いに頼むぜ……。]

 

ハンスはエーテリアスに侵食されるよりかはと、敢えて動きを止め、その身をさらけ出した。

 

すぐそこにアンドーのドリルが迫る。

 

次の瞬間、ガリガリガリッッ!!っとドリルが勢いよく、深々と突き立てられた。

 

[………ん?]

 

ハンスに……ではなく、ハンスの表面に張り付いていたエーテリアスの1体に。

 

そしてアンドーは無力化した敵を蹴り飛ばし、すぐさま別のエーテリアスにドリルを打ち込んだ。

 

「おいおいおい……随分と諦めが早ぇじゃねぇか。」

 

[な、何故助けた……!?]

 

「お前、言ってたじゃねえか。立派な夢があるって。だからこんなところで、足を止めるのは、勿体ねぇと……思っただけだ!」

 

アンドーは残っていたエーテリアスを全て片付けると、ハンスの目の前に降り立つ。

 

「それに、俺とお前の勝負、まだ決着はついてないだろ?」

 

[……フッ、ハハハッ!せやったな!じふん……いや、アンドーの兄貴!]

 

「おうよ!兄弟!」

 

ハンスとアンドーはバケットと拳を打ち付け合う。

 

一方、ギャラリーの面々はというと、スズツキがウンウンと感慨深く頷いていたのに対し、リンやクレタなど他の面子は全員が冷めたような、困惑したような視線を向けていた。

 

[あー、これは解決したってことでいいんだよね?]

 

「ええ、万事解決です!」

 

[男ってのはよく分からないな。]

 

[全くだね。]

 

帰順の意を示したハンスはそれからアンドーと一緒に先にホロウから出ることとなった。

 

1人と1機の姿が見えなくなると、スズツキ達は次の目標に向かって進む。

 

まだ回収すべき無人重機はあと2機残っているのだ。

 

鐘馗は再び3人を両腕と頭にそれぞれ乗せて歩き出す。

 

[グレースさん、次はどんな機体を探しているんですか?]

 

「正式名称が自律式Ⅲ型汎用多脚重機デモリッシャー、通称『グレーテル』って子さ。ハンスと足回りは全て同じに、胴体上部の装備だけを破砕作業用に換装してる。」

 

[設備に互換性があるんですか?]

 

「もちろん、やろうと思えばハンスと同じバケット付きのアームも装備出来るよ。まず彼らはウチが元々作っていた多脚重機のパーツを……。」

 

変に話題をズラしたおかげでグレースの話に熱が入り始める。

 

いつもなら誰も理解出来ずにどこかで打ち切られる流れだったが、今回は別のロボット繋がりで専門用語を理解出来たスズツキがそのまま話に乗ってしまった。

 

いつぞやのライカンとスズツキの時のように話に置いていかれる女性陣。

 

気付けば目的地は間近に迫っていた。

 

[そういえば量産性と整備性を考えてシステムも統一してるって言ってましたけど、つまりグレーテルもハンスみたいに熱血漢になってるってことですか?]

 

「んー、それは私にも分からないな。今まで3機それぞれの違いはせいぜい生まれた時期と合成音声の種類くらいだったし……あ、ちなみにグレーテルは名前の通り女の子の声で設定されているから、ハンスと同じ影響を受けているとすればスケバンになっているかもしれないね。」

 

[へぇ、じゃあ自己学習の内容次第で変わると?]

 

「そうだね。まあ、他の媒体に触れている素振りは無かったんだけど……やはり子供は親の知らないところで知識をつけていくものなのかな。昔のおチビちゃんもあんなに純粋無垢で可愛かったのに、いつの間にかこんなになっているんだし。」

 

「おい、こんなってどういう意味だ?」

 

「いや別に?ただお姉ちゃんって呼んでくれなくなったなと。」

 

「当たり前だろ。もうガキじゃねえんだ。」

 

「まったく……同い年のスズツキとどうしてここまで違うんだか……。」

 

その時、建物の間から黄色いボディが動いているのが見えた。

 

「社長!グレーテルだ!」

 

「よし、行くぞ!スズツキ、何かあったら頼んだ!」

 

[了解!]

 

グレーテルが居たのはまたもや建設現場で、こちらは作りかけのアパートがあった。

 

その天辺に陣取った彼女の大きな姿が見える。

 

クレタ達が敷地内に入ると、グレーテルはすぐに顔を覗かせて来た。

 

「おーい、グレーテルー。」

 

[来ないで!ここは私と真白くんだけの花園なの!]

 

「花園?おい、もしかして……。」

 

「熱血漢の次は恋する乙女か……。」

 

呆れたようにクレタとベンが頭に手を当てている一方、グレースは目を輝かせていた。

 

「グレーテル、会わない内に乙女になっちゃって……それで真白くんってのは誰なんだい?」

 

彼女の問いに対してグレーテルは怒ったように返してくる。

 

[見て分からないの!?ここに居るじゃない!]

 

「どこだ?」

 

「んん?」

 

[あー、もしかしてそのスカスカの建物が真白くんってこと……じゃないすかね?]

 

スズツキの推測はすぐに当たりだと分かった。

 

何故ならグレーテルがブチ切れた様子で飛び降りてきたからだ。

 

[だぁ〜れぇ〜がぁ〜……スカスカですってぇ!!?今の言葉、取り消しなさいよぉ!!]

 

「うおっ……!?」

 

[豹変するタイプかぁ……。]

 

[ハンスの時みたいには行かなそうだね。]

 

直後、グレーテルはチェーンソー型の破砕機を向けて突っ込んできた。

 

慌ててクレタ達はそれぞれ左右へ回避し、スズツキも鐘馗を横に飛ばせてどうにか突進を避ける。

 

[社長!発砲許可を!]

 

「なるべく無力化で頼むぜ!」

 

[了解!]

 

スズツキは鐘馗の右前腕に装備したテーザーガンを構える。

 

しかし照準を定める前にグレーテルが再度突進してきた。

 

「ぐっ……闘牛じゃないんだから……!」

 

[うえぇ……気持ち悪いぃ……。]

 

繰り返される急加速と急制動に目をグルグルさせているイアスを他所にスズツキはどうにか隙を狙おうと回避を続ける。

 

火器管制システムのおかげで即座にロックオンと発砲が出来る榴弾砲やチェーンガンとは違い、グレースが資材を転用して作ったネットランチャーとテーザーガンは直に『目』で狙う必要があるのだ。

 

「こなくそっ……!」

 

スズツキは勘で照準を合わせると、操縦桿の隣にダクトテープで固定したスイッチ群のひとつを押し込んだ。

 

するとバシュン!と、モナカのように分かれたコンテナの蓋のひとつを突き破って、円形のマグネットとそれに繋がるワイヤーが撃ち出される。

 

しかし目で追える程に弾速が遅い上、移動による偏差の修正が上手く出来ていなかったようで、あっさりと避けられてしまった。

 

[あぶなっ……ちょっと、女の子に手を上げるなんてサイテーよ!]

 

「戦いに男も女もあるかっての……!」

 

振り回される破砕機をどうにか避けながら後退を続けるスズツキ。

 

背部の榴弾砲と頭部のチェーンガンを使えば、非装甲のグレーテルなんぞあっという間に制圧出来るが、生け捕りという都合上そうも行かない。

 

対処に戸惑っていると、その時、グレーテルの言う『真白くん』こと作りかけのアパートの中にクレタ達3人の姿が見えた。

 

「社長!?何してるんですか?」

 

[スズツキ、もう少し時間を稼いでくれ!そしたら私達が隙を作る!]

 

[テーザーガンを撃ち込むならグレーテルの顔の付近を狙うと効果的だよ!]

 

「りょ、了解です!」

 

クレタ達はがらんどうのビルの中でセメントの袋を探していた。

 

おそらくこの場所は災害時に何もかもそのまま放棄されたようで、すぐに見つけることが出来た。

 

「社長!こっちにもあったぞ!」

 

「よし、持ってきてくれ!これだけあれば十分だな!」

 

「おチビちゃん、私も準備出来たよ!」

 

ベンとクレタは手に持ったセメント袋の中身をそれぞれのプラスチック容器に流し込む。

 

そしてハンマーとダンピングランマーをバットのように構えた。

 

「スズツキ、私たちの下にグレーテルを誘導してくれ!隙を作ったら頼んだぞ!」

 

[はい!]

 

言われた通り、スズツキの鍾馗はグレーテルをクレタ達の足元へと誘導してきた。

 

十分に距離が縮まったのを見ると、クレタは声を大きく張り上げる。

 

「せえのっ……!!」

 

ベンとクレタはタイミングを合わせると、それぞれ両手で握った己の得物を思いっきりフルスイングした。

 

クレタのハンマー本体に内蔵されたスラスターが作動し、打撃に更なる加速をかける。

 

「おらぁっ!」

 

「ふんっ!」

 

ゴスッ!!っとセメントを満載した容器が空中へ打ち出された。

 

2つの容器は破損しながらセメントを空中にばら撒き、さながら煙幕のように広がっていく。

 

そして時間差でグレースが円筒形の物体、彼女特製のスタングレネードをグレーテル目がけて投げ付けた。

 

[ん?煙幕……ってあばばばばば……!]

 

セメントの煙幕を前に足を止めるグレーテル。

 

そこを突き抜けてコン、とグレーテルの頭に当たった特製グレネードは、直後に高電圧の眩いアーク放電を放ち、全身へ大量の電流を流された彼女はその場で固まった。

 

しかしグレネード内部のコンデンサの電気が瞬時に食い尽くされ、1秒も経たない内に放電は止まってしまう。

 

だがスズツキがテーザーガンの狙いを合わせるには十分な時間だった。

 

「これで仕舞いだっ……!」

 

バシュン!と鍾馗から放たれた第2射は隙だらけのグレーテルの身体、顔が表示されたモニターのすぐ隣へ命中し、先端のマグネットが強力な磁力によって吸い付く。

 

そしてスズツキは同じくダクトテープでコンソール傍に固定した大きな赤いボタンへ拳を叩き込んだ。

 

直後、ビリビリビリィ!!と、先程のアーク放電には及ばないものの、機械に対しては十分過ぎる量の電流がワイヤーを伝ってグレーテルへ流し込まれていく。

 

そうして数秒後、ワイヤーに繋がったバッテリーの容量が無くなり、電撃が止まる。

 

グレーテルはシステムが落ちたようで、4本足を折り曲げながらガクリとその場に尻餅をついた。

 

[や、やったの?]

 

「リンさん……それフラグです。」

 

[大丈夫、グレーテルは沈黙しているよ。]

 

[ナイスだったな!スズツキ!]

 

「社長とベンさんも良いスイングでしたよ。野球ならホームランだったんじゃないですか?」

 

[へへ、そうだったか?会社同士の野球クラブに参加してみるのもアリかもしれないな。]

 

[勘弁してくれ。会計士の肩には荷が重いよ。]

 

緊張が解けてすっかり終わった気になっていたスズツキ達一行。

 

だがグレーテルはまだ完全に沈黙してはいなかった。

 

ピクリと足先が動き、顔面のモニターに起動のコード画面が表示される。

 

[わ、私と……真白くんの……2人だけの世界は……!]

 

「ん?おい!スズツキ!]

 

「嘘!?自分で再起動をかけた!?」

 

[ちょっとリンさーん!]

 

[えっ、これ私が悪いの?]

 

驚くスズツキ達の前でグレーテルはよたよたと起き上がる。

 

スズツキは慌てて電流を流す赤いボタンを再度押し込むが、既にバッテリーは使い切ったおかげでうんともすんとも言わない。

 

あいにくと急造品であるため、予備のカートリッジは無い上に、そもそも現場で交換出来るように作られていないのだ。

 

[絶対に……ぜったいにぃ……!]

 

「スゴい……愛のパワーは凄まじいね。」

 

「感心してる場合か!スズツキ!ワイヤーをパージして逃げろ!」

 

[は、はい!]

 

スズツキは後付けのスイッチのひとつ、専用の赤いカバーに覆われていたものを開いて押し込んだ。

 

すると右腕を覆うように装着されていたアルミ板とそれに固定されたテーザーガンが、ボン!と分離ボルトの破断音と共に鍾馗の腕から外れる。

 

そして残っていたネットランチャーを構えようとするスズツキだったが、その前にグレーテルが突っ込んできた。

 

[邪魔……させないんだからっ!!!]

 

「おわっ!?」

 

スズツキは装甲の一部をぶつけながらも、間一髪でその突進を避けた。

 

安堵する暇も無く、すぐに次の突進へ備えんと、ネットランチャーをグレーテルへと向ける。

 

だが後ろを向いた時、目に入ってきたのはどこか様子のおかしいグレーテルの姿だった。

 

[あっ……!?きゃああっ!!]

 

どうやらグレーテルは完全に機能が回復していなかったようで、突進の勢いを落とすことが出来ないまま右へ左へとフラつき、最終的に『真白くん』へ派手に突っ込んでしまった。

 

大質量のボディプレスによって1階の天井と柱を粉砕しながら彼女はようやく止まる。

 

[いたた……あっ!?ご、ゴメンね真白くん!私、ちょっとふらついちゃって……。]

 

おそらくグレーテルにとっては乙女ゲーでありがちな、足を挫いたところを優しく抱き止められたシーンのように映っているのだろうか。

 

さて、しかし現実を見ると今の『イベント』によって、建物の基礎部分がだいぶ破壊された。

 

残った柱に建物全ての荷重がかかり、ミシミシと音を立てる。

 

そして緩やかな変形すら許されず、次の瞬間、バキリと一気に脆性破壊を起こしてしまった。

 

「おいおいおい!?」

 

「マズいぞ社長!このままじゃ崩れる!」

 

[皆さん!早くこっちに!]

 

スズツキは鍾馗の両腕を伸ばし、そこに3人が掴まると、急いでその場を離れた。

 

ガラガラと『真白くん』は音を立てて崩れ落ち、凄まじい量の粉塵と破片を周囲に撒き散らしていく。

 

別の建物の影に隠れたクレタ達は鍾馗を盾にしながら必死に目を瞑り、手で口と鼻を覆った。

 

轟音が収まると、クレタは顔を上げる。

 

「……げほっ、グレーテルはどうなった?」

 

「社長、まだコンクリートの粉末が漂ってる。もう少し収まってから行こう。」

 

「そうすべきだね。多分、彼女もただでは済んでないだろうし。」

 

それから少しして、瓦礫でぐちゃぐちゃになった『真白くん』の跡地を訪れると、灰色の瓦礫に混ざって黄色いボディが見えて来た。

 

更には彼女の泣き声も聞こえてくる。

 

[ううぅうぅ……あぁぁぁんまりよぉぉおぉ……!]

 

「と、特徴的な泣き方をするんだな……。」

 

「シッ!今は変なこと言わない方がいいぜ。また豹変したら何をしてくるかわかったもんじゃねえ。」

 

[うわあぁぁぁ……!わたしの真白くんがあぁぁあぁ……!!」

 

それからも人目を気にせずオイオイと泣き続けるグレーテル。

 

別にいきなりスッとする様子も無く、どうしたものかと対応に困っていると、グレースが何も言わずにグレーテルへと近付いていった。

 

「お、おい……グレース……!」

 

「グレーテル、自分を責める必要は無いさ。むしろ今は喜ばしい状況とも取れなくはないか?」

 

[え”っ。]

 

[ちょ、ちょっとグレースさん……!?]

 

「しまった。姉貴の恋愛観は壊滅的なんだった……!」

 

思いっきり地雷を踏むようなグレースの発言にスズツキとクレタ達はジリジリと後退りをする。

 

しかし彼彼女らの心配とは裏腹にグレースとグレーテルの会話は続いていた。

 

[ど、どういうこと?喜ばしい状況って?]

 

「ほら、見てごらん。真白くんは君の飛び込みに、こうやって全身で対応してくれた。建物にとっては一度しか出来ない抱擁を彼は迷いなくやってくれたんだ。良い恋人じゃあないか。」

 

[ま、真白くん……!]

 

「それに心配しなくても、まだこれが今生の別れとは決まっちゃいない。せっかく彼が身体を張って君の恋人としての覚悟を見せてくれたんだ。私達もそれに応えて、彼をホロウ外の、エーテル侵食の及ばない安全な土地に建て直してあげるべきとは思わないかい?」

 

[うん……うん……!私……また真白くんに会う……!]

 

「そうだね。じゃあ、今日は一緒に帰ろうか。」

 

[ぐずっ……あだじ……かえる……うわあぁぁあぁん!!]

 

それからグレーテルは呆気なく矛を納め、会社へ戻る意思を見せてきた。

 

スズツキ達はというと、続いて3機目の回収へ……というわけには行かず、一旦ホロウから出ることに。

 

グレーテルの、特に駆動系の損壊が酷く、ホロウの外まで保たない可能性が高かった為、本来は鍾馗が損傷した場合の回収役だったライカンを呼んで彼女を運搬してもらうことになった。

 

緊急時のバックアップが居なくなる以上、もうこれより先に進むことはリスクを伴うからと撤退することになったのだ。

 

ティルトローター機に懸吊された状態でグレーテルが運ばれていくのを見届けると、スズツキ達は踵を返して帰路についた。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

スズツキ達は無事、建設現場まで戻ってくることが出来た。

 

トレーラーの荷台に鐘馗を駐機させると、スズツキはコックピットから降りる。

 

するとそこへクレタが駆け寄ってきた。

 

「スズツキ、今日は本当にありがとな!」

 

「ええ、お役に立てたのなら幸いです。この調子で行けば、あと1機も楽勝ですね。」

 

「おう、また頼むぜ!」

 

そう言うと、クレタは片手を掲げてくる。

 

ハイタッチかと判断したスズツキは右手を伸ばすが、予想とは反対にガシリと手を掴まれると、そのまま軽くハグをされた。

 

ふわりと、至近距離から鼻腔に広がる甘い匂い。

 

途端に感覚が鋭敏になり、彼女に触れた箇所を通じて異性特有の柔らかさが伝わってくる。

 

今更ながらクレタが白祇重工の社長である他に、同年代の女子ということをスズツキは理解させられた。

 

「じゃ、また明日な!」

 

「は、はい……。」

 

屈託の無い笑顔を浮かべながら離れていくクレタを前に、スズツキはただポカンとしながら手を振る。

 

意識が現実に戻されたのは、背筋が震え上がるような強いオーラを3つほど、自分のすぐ後ろから感じた時だった。

 





またすり抜けました、ハイ。現在、急ピッチで戦力の再編と拡充を行なっています。

遂にポリクロームブラックの投入も見えてきましたね。もう払う金も無いのに、猫又とクレタだけが吐き出されてくる……。

そういえばシードとかいう僕っ娘でロボット乗りのキャラが発表されましたね。しかもロボット側の声優が某顔面破壊大帝と。

こりゃあ面白くなってきましたねぇ!(空っぽの財布を後ろ手に隠しながら)


よろしければ高評価又は感想をお願いします。作者のモチベが爆上がりするので。

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