ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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「降ろし方始め!!」
   ↓
「エントリィィー!!」
   ↓
ポリクローム(30連)+ポリクロームブラック(40連)「」ガション!!
   ↓
『柚葉ダヨー。』
   ↓
「やった!大漁だぜ!」
   ↓
「吾に余剰戦力無し、アリスは諦めよ。言いたいことがあればいずれ天上で聞く。」←イマココ!



32 クロース・エンカウンター

ホロウの中を1つの大きな影が進んでいた。

 

黄色いボディと4つの脚が特徴のその機体は白祇重工の誇る無人重機のひとつ、オプションの装備として油圧パイルハンマーを背中に備えた自律式Ⅳ型汎用多脚重機パイルドライバー、通称『フライデー』。

 

兄弟機であるハンスとグレーテルから得られたフィードバックを元に、グレースが独自の改良を加えて作られた新鋭機だ。

 

そんな彼は今、非常に焦った様子だった。

 

道端のエーテリアスにも目をくれず、ガシャガシャと慌ただしく脚を動かしながら街中を逃げ続け、時折りビルによじ登っては建物の間を飛び越えていく。

 

しかし大通りに出たところで急に足を止めた。

 

彼の行く手を阻むように道路の真ん中に立っていたのは白祇重工のメンバー4人。

 

その中の1人、社長のクレタはフライデーへ近付いてくる。

 

「ほら、鬼ごっこはもう終わりだ。早く帰るぞ。」

 

しかしクレタの言葉にフライデーは何も返さない。

 

ただジリジリと後退りするだけだ。

 

「社長、コイツ会話のシステムが壊れてんじゃねえか?さっきから一言も喋らねえぞ。」

 

「ふーむ……一応、今のところは機体に異常は見受けられないんだけどね。」

 

「今度は寡黙なタイプってだけかもしれないな。」

 

アンドー達も今までハンスの熱血漢、グレーテルの恋する乙女と来て3つ目にどんな性格が出てくるのかと身構えていた。

 

だがいつまで経っても反応の無いフライデーを前に、遂にクレタが痺れを切らす。

 

「なあ、そろそろハラ割って話そうぜ。お前の目的はなんだ?何か目標でも決まったか?それとも恋人でも見つけたか?いい加減キャラのひとつくらい見せてくれよ。」

 

そう言った直後、周囲に少し甲高い男の合成音声が響いた。

 

[か、喝っ!キャラとはなんだ!この無礼者め!頭が高いぞ!]

 

「「「「…………はぁ?」」」」

 

フライデーからの予想外の返答に思わず変な声を漏らしてしまう4人。

 

彼彼女らの反応を他所にフライデーはそれからも言葉を続ける。

 

[我こそは『明星の断罪者』!師の命を受け、この地の封印の任に就く者!我が崇高なる使命を邪魔するなど、万死に値する!命が惜しくばさっさとこの場から消えろ!]

 

フライデーの言い回しから即座にクレタ達は彼がどんな性格になったのかを理解した。

 

「うわ……お前、よりにもよって拗らせたタイプの中二病かよ……まだ寡黙なキャラの方が良かったぜ……。」

 

「馬鹿野郎!妄想の為にホロウの中を走り回る奴がいるか!危ねえだろうが!」

 

[ふん、何を戯言を。もし封印が解かれたのなら、この地に破滅が導かれるのだぞ。]

 

「あー……まあなんだ。つまり戻るつもりはないってことだな?」

 

[そういうことだ。では、これで失礼させてもらう。]

 

さっさと踵を返すフライデーだったが、彼の背中を眺めながらクレタは胸の通信機を手に取り、口元に近付ける。

 

「スズツキ、撃て。」

 

[了解。]

 

次の瞬間、フライデーの真上から大きな網が覆い被さった。

 

彼が頭上を見上げると、近くのビルに空いた大穴の中にネットランチャーを構えた有人式ガーディアン『鍾馗』の姿が。

 

フライデーはジタバタと網の中でもがき、どうにか拘束を抜け出そうとしたが、その前に鐘馗が目の前へ着々し、彼を両手で押さえ込んだ。

 

[ひいっ!?な、何をするっ!?]

 

[木っ端微塵が嫌なら大人しくしてくださいね。チェーンガンはここに来るまでにエーテリアスに使ったおかげで残弾が少ないんですよ。]

 

[わ、分かった!分かったからそれを下ろしてくれ!]

 

鐘馗の外部スピーカーからスズツキの高めな声が聞こえてくると同時に、背部の榴弾砲が向けられると、フライデーは抵抗をやめた。

 

それを確認すると、グレースがフライデーへよじ登ってくる。

 

「はいはーい、強制停止コマンドを打つから大人しくしててくれよ。」

 

[ま、待ってくれ!話せば分かる!初期化はやめてくれ!]

 

「ん?別に初期化なんてしないよ。帰ったらちょっと頭の中を覗くだけさ。」

 

[話す!何でも話すから!]

 

フライデーの態度の変わりようにクレタは溜め息をつく。

 

「まったく、フツーに喋れるじゃねえか……で?何でお前は脱走したんだ?本当にただ妄想に耽ってただけなのか?」

 

[ち、違う!師の言葉に従っただけなんだ!嘘じゃない!]

 

「ほーん、いわゆるイマジナリーフレンドってやつか。グレース、停止出来そうか?」

 

[本当なんだ!信じてくれ!我が師、『ホルス』が確かにそう言って来たんだ!]

 

フライデーの発言にピクリと、リンを除いた全員が反応する。

 

「……おい、その話、詳しく聞かせろ。」

 

急な空気の変化にフライデーは戸惑いながらも、事情をポツポツと話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

フライデーの回収を終えたスズツキ達は元の建設現場へと戻って来た。

 

そして今、彼彼女らの姿は事務所の中にあった。

 

来客用の向かい合ったソファーにはクレタとライカンが腰を下ろし、彼の近くにはリナが。

 

スズツキはというと、パイロットスーツ姿のままエレンとカリンに挟まれた状態で隅っこに立っていた。

 

ちなみに彼の足元はしっかりイアスが占有している。

 

「さて……ウチの重機を連れ戻してもらったわけだが、代わりにお宅らの欲しい情報ってのは何なんだ?」

 

「はい、我々が欲しているのは貴社の先代社長、ホルス・ベロボーグ氏についての情報です。」

 

「……そうか。」

 

俯くクレタを見て、ベンが間に入ろうとするが、彼女はそれを制する。

 

「社長、説明くらいなら俺たちでも……。」

 

「いや、大丈夫だ。」

 

「……無理だけはしないでくれよ。」

 

ベンが離れると、クレタは口を開く。

 

「それで、何から話せばいい?」

 

「はい、我々はホルス氏の旧都陥落直前の動向について知りたいのです。」

 

「私の親父が何かしでかしたのか?」

 

「分かりません。我々が追っている物に関係しているとしか……。」

 

「なるほど……まあ、知ってることを言えばいいんだな。」

 

クレタは父ホルスのことについて語り始めた。

 

ニュースにもなっていた通り、ある日の真夜中にいきなり札束の入ったバッグを持ってどこかへ行ったこと。

 

治安局が周辺を捜査しても、『プロジェクトの失敗から自棄になって蒸発』という扱いになったこと。

 

失踪以前に無人重機の基礎的な技術を開発していたこと……。

 

それからも色々と話を聞いたものの、こう言ってはなんだが、今までライカン達が調べた情報と大差なかった。

 

とても任務の目的である『サクリファイス』という単語に繋がりそうなものは見つからない。

 

しかし最後にクレタが思い出したように呟く。

 

「そうだ。親父が消えた夜、なんか電話していたな。すごく焦ってたことはよく覚えてる。」

 

「電話ですか……。」

 

「ああ、いつにもなく声を張り上げてな。話していた内容まではよく分からなかったんだが……。」

 

頭を捻りながら軽く唸るクレタ。

 

するとその時、バン!と事務所の扉が勢いよく開けられ、焦った様子のグレースが顔を覗かせて来た。

 

「おチビちゃん!大変だ!」

 

「どうした?フライデーから親父に関することでも出て来たのか?」

 

「ああ!彼は確かに信号を受けていた!プロトタイプだよ!ホルスさんが作った最初期型から信号が送られていたんだ!」

 

「……は?嘘だろ?」

 

クレタはグレースから渡されたタブレットを覗き込んだ。

 

画面に映された受信記録にはハンス達と似たような方式番号が表示されており、それを前にクレタは目を見開く。

 

一方、スズツキ達は話に付いていけないでいた。

 

「失礼、プロトタイプとは?」

 

ライカンがそう聞くと、ベンが補足を入れてくれる。

 

「ホルスさんが作った試作実験機のことです。我々の無人重機の大元とも呼べる機体だったのですが、旧都陥落によって外注先の工場ごと喪失しまして……。」

 

「それが今さらになって信号を送ってきたと?」

 

「ああ、弱々しくはあるけどね。で、なんだが、私の子供達はその通信を作業中のホロウ内で受けて、時間差で全機が暴走、というよりプロトタイプに呼び寄せられていたんだ。」

 

「ほーん……じゃあアイツらの性格が変わった理由もそれか?」

 

「おそらく、その信号が論理コアの性能を底上げしたんだと思う。あれの中身はまだ未解明なところも多いからハッキリとした理由は分からないけど。」

 

「なるほどな……。」

 

クレタは少しの熟考の後、腰を上げる。

 

そしてプロトタイプの座標が示されたタブレットをライカンの目の前へ置いた。

 

「なあ、コイツは報酬になるか?」

 

「それはつまり……プロトタイプということですか?」

 

「ああ、回収したらお宅で好きに解析してくれ。もしかすると私達も知らないような、親父に関する情報が出てくるかもしれない。」

 

「えっ……社長?」

 

「おチビちゃん、本気かい?」

 

グレース達はクレタの言葉に目を見開いた。

 

何故ならプロトタイプは型落ちの最初期型とはいえ、会社の資産には変わりない上に、企業秘密が詰まったブラックボックスだ。

 

更に言うと、グレースやアンドーにとっては慕っていた先代社長の遺品とも呼べる代物である。

 

もちろん、クレタもそのことは重々承知していた。

 

彼女にとっても、唯一の肉親が残した遺産だ。

 

普通なら手放したくはない。

 

だがクレタはその感情を表に出さず、淡々と言葉を口にする。

 

「分かってる。だがな、どうせ今まで私が話した情報も、全てお宅は分かっているんだろう?わざわざ下請け業者に扮してまでここに来たってことは大抵のことを調べ尽くしたってことだ。」

 

クレタの言葉にライカンは何も答えなかった。

 

その反応を前にグレースも一度は口を噤むも、食い下がることはやめなかった。

 

「でも……だからって……!」

 

「姉貴、相手はウチの重機よりも遥かに高価な機体を無償で貸し出してくれたんだ。そしてこっちの依頼を完璧にこなしてくれた。その対価がありきたりな情報だけってのは良くないだろ。それに……。」

 

一瞬、クレタは視線をスズツキへと向けた。

 

「アイツの善意を無駄にしたくない。この為に命を張ったんだ。私も筋を通すよ。」

 

「……分かった。」

 

グレースが引き下がると、クレタは再度ライカンの方を向く。

 

「これで手を打ってくれないか。もちろん回収は私達も手伝う。」

 

「分かりました。ではプロトタイプを我々に譲渡する……ということで。」

 

「ああ、そっちにとって有益な情報が見つかることを願ってるよ。」

 

それから話が終わると、その日は一旦解散に。

 

クレタ達は回収したフライデーの整備や工事再開の為に動き出し、ライカン達も3回目の出撃に備えて一度拠点へ戻ることとなった。

 

ヴィクトリア家政の面々がそれぞれの車両に乗り込んでいく中、スズツキはクレタを見つけると彼女に駆け寄る。

 

「社長。」

 

「ん、どうかしたか?」

 

「その……本当に良いんですか?大事なものなんでしょう?」

 

「いいんだよ。プロトタイプのある場所は前回前々回よりも更に奥地だ。どちらにせよ、私達だけで行くにはリスクが大き過ぎる。」

 

「でも技術の流出とかは……。」

 

「するつもりなのか?」

 

「そんなことしませんよ。でもウチ以外の手に渡ったら……。」

 

「心配すんな。別にアレ1本で会社を回してるわけじゃねーよ。」

 

意外にもあっけらかんとした様子のクレタだったが、スズツキは気が気ではなかった。

 

「……なんかすみません、変なことになっちゃって。」

 

「おいおい、どうしてお前が謝る?むしろこっちの台詞だろうに。」

 

「いえ、プロトタイプのこともそうですし、社長の過去を思いっきり掘り起こすようなことになったので……。」

 

先ほどの気まずい空気を思い出してか、少し俯くスズツキ。

 

すると肩にポンと手が置かれる。

 

「大丈夫、いい加減私も向き合うべき時が来たんだ。クソ親父だの父親じゃないだの、今まで散々言ってきたが、もうそんな歳でも立場でもない。逆に良い機会だったのさ。」

 

真剣な表情でそう話すクレタを、相変わらず同年代とは思えないような大人びた発言をする彼女を前にスズツキは固まる。

 

そして思わずポツリと漏らしてしまった。

 

「…………社長、マジで年齢詐称してます?」

 

その時、ゆらりと目の前のオーラが殺気立った。

 

「あ?誰がちんちくりんの子供だって?」

 

「ああ、いやその、すいません、そういう意味ではなくてですね……余りにも大人びているというか……。」

 

「低身長のぺったんこで悪かったな。てかお前よりかはあるだろ。」

 

「うえっ……!?」

 

クレタはスズツキの胸へ手を伸ばすと、遠慮無しにわしりと掴んだ。

 

もちろん彼は見た目こそ女でも中身は男である為、一般的な女性に比べて脂肪分は少なく、代わりに筋肉量が多い。

 

よってクレタが服を介して感じたのは膨らみの欠片も無い、まさに板そのものだった。

 

しかしスズツキの正しい性別を知らない彼女はそのAAサイズを前にニタリとほくそ笑む。

 

「ふっ……私の完勝だな。」

 

「ちょ、ちょっと……セクハラですよ、社長。」

 

「おう、すまんすまん。代わりにほら。」

 

「へっ……!?」

 

クレタはスズツキの片腕を掴むと、自身の胸元へ引き寄せた。

 

直後にスズツキの手に伝わってきたのは人肌の暖かさと小ぶりながらも確実に存在するなだらかな輪郭、そして言葉には形容し難い、得体の知れない柔らかさだった。

 

顔が赤くなる前に脳が処理落ちを引き起こし、ピシリと、身体が石像のように凝り固まってしまう。

 

一方、クレタはスズツキという格下を見つけたおかげなのか、少し満足気だった。

 

「ふふっ、まあ、お前も頑張れ。成長するのは今のうちだからな。」

 

「…………あ、はい。」

 

「じゃ、準備が出来たら連絡頼むぜ。」

 

そう言うとクレタはフリーズしたままのスズツキを置いて踵を返し、グレース達の方へ向かっていく。

 

彼女の足取りはいつにもなく軽かった。

 

ちなみに幸いにも今の出来事はエレンやリンには見られていなかった。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

数日後、ホロウの中では大きな破裂音が響いていた。

 

場所は旧都に近い、ビルが立ち並ぶ大通りの一角。

 

ドドドドド!!と、耳をつんざく轟音と共にエーテリアスの一群が身体の一部を丸ごと抉り飛ばしていく。

 

その様子は爽快そのもので、普通なら一目散に逃げ出すレベルの敵集団があっという間に破片と化し、それらもすぐに分解蒸発してしまう。

 

後からファールバウティやゴブリン、ハティなど、中大型種のエーテリアスも現れたが、すぐに炸薬マシマシの砲弾を顔面にぶつけられるか、爆風に半身を割かれるか、足でコアごと踏み潰されるかで、ことごとく撃破されていく。

 

それから少しして破壊音が止まると、近くの建物の影からクレタとベンがひょっこりと顔を出した。

 

「うわ……やば……。」

 

「俺達が毎回1体ずつチマチマ倒しているのが馬鹿らしく思えてくるな。」

 

「しっかしホント頼もしいぜ。ウチにもあんなのが欲しいよ。」

 

2人が見上げる先には先日の重機風の黄色とオレンジから、より兵器らしい濃緑色へ塗り替えられた鐘馗の姿があった。

 

背部の榴弾砲や予備弾倉を始めとした腰の装備類、服を着るように全身各所へ施されたタイル状の爆発反応装甲など、出立ちは兵士そのものだった。

 

鐘馗は振り返ってくると、手に持った30mm機関砲もとい専用ライフルを下ろし、クレタ達に向かって手を振る。

 

[脅威は排除しました。また敵が集まってくる前に早く行きましょう。]

 

「おう。姉貴、もういいぞ。」

 

するとクレタとベンの背後で大きな影が3つほど立ち上がった。

 

[うひゃ〜、23体が全滅……えげつねぇ。]

 

[私、あの音嫌い。センサーが駄目になりそう。]

 

[いいなぁ……拙者もあんな力が欲しい……。]

 

無人重機のハンスとグレーテル、フライデーは先導する鐘馗に続いて動き始めた。

 

クレタ達もそれぞれ機体に乗り込む。

 

「プロキシ、道はどうだ?」

 

[今は空間が安定してる。このままグレースさんの案内に従って進めば着くよ。]

 

「ね、ねえ……今さらなんだけど、キミもかなり興味深い仕組みをしてるよね。ちょっと分解させてもらえないかなぁ?」

 

[ひいっ!?]

 

グレーテルの操縦席、と言っても厳密には操縦出来ないのだが、そこのシートに座っているグレースと、彼女の膝に腰掛けながら怪しい視線を向けられているイアス。

 

すかさず横合いからクレタがグレースの頬を摘む。

 

「いたたたたた……!」

 

「冗談でもやめろ。で、あとどれくらいだ?」

 

「もう、酷いなぁ……えっと、あそこのビルを抜けた先だね。すぐそこだ。」

 

座標が指し示していた場所はビル街に囲まれた大きな公園の中心だった。

 

緑に包まれた敷地内を進んでいくと、遠目に大きなタワーが見えてくる。

 

するとべンが何かに気付いたのか、通信機越しに彼の声が聞こえて来た。

 

[社長、ここを覚えているか?きっと1度来たことがあると思うんだが。]

 

「いや、覚えてないな。」

 

[そうか……ここは『オリンピア記念広場』、旧都陥落以前にウチが受けていた最後のプロジェクトさ。]

 

「……つまり親父がほっぽり出した案件ってことか?」

 

[ああ、そういうことだな……。]

 

声を落とすベンに代わって今度はアンドーが言葉を続ける。

 

[社長、プロトタイプがこんな場所にあるのは絶対に偶然じゃねえ。きっとホルスさんは俺たちに何かを伝えたいんだと思うぜ。]

 

「だといいんだがな……ん、何か見えて来たぞ。」

 

公園の途中に建設現場の白い仮囲いが、『白祇重工のマーク』が施された鉄板が連なっており、その向こう側にはコンクリート張りの広場があった。

 

作業機械や事務所がそのまま放置された広場の、その中心には1つの大きな四角錐と、その根元から斜め上方へ四方に伸びた三角錐によって構成されたモニュメントが。

 

そしてそのモニュメントの下に見覚えのあるシルエットが鎮座していた。

 

「あれって……。」

 

スズツキは鍾馗のカメラをズームすると、それがハンスやグレーテルと同じ、4本足を持った多脚式の重機であることに気付く。

 

ただ色は真っ白で、大きさもハンス達よりひと回りほど小柄だった。

 

「社長!プロトタイプです!」

 

[あったか!よし、早く行くぞ!]

 

一行はモニュメントに近付くと、プロトタイプが何故かモニュメントの一部を2本のアームで支えていることが分かる。

 

スズツキが周囲を警戒する中、クレタとイアスはグレーテルから降り、プロトタイプへ駆けていく。

 

「おチビちゃん!侵食には気を付けてよ!」

 

「大丈夫だ!思った以上にエーテルの被害は受けてない!」

 

[ねえ、クレタ、このシート……。]

 

先に操縦席に乗り込んだイアスは座席に穴が空いていることに気付く。

 

クレタもコンソールの一部に同じような穴を見つけた。

 

「何だこれ……弾痕か?」

 

[こっちには薬莢が落ちてる……12ゲージのショットシェルだね。市販のホームディフェンス用の弾だ。]

 

「親父はここで銃撃戦をやってたのか?どうして……?」

 

[流石に時間が経ちすぎてそこまでは分からないかも。あっ、クレタ、これって……。]

 

イアスは床に落ちていたバインダーのひとつを手に取ると、それをクレタに渡す。

 

彼女はそこに挟まれていた書類を見ると、外へ飛び出した。

 

「皆んな!これを見てくれ!」

 

「何か見つけたのか?」

 

「ああ!親父は会社の金を持ち逃げなんてしてなかった!コイツの金を払う為だったんだ!」

 

「本当だ……確かにホルスさんのサインもある……!」

 

「やっぱりか!あの人がそんな卑劣なマネ、する筈ないと思ってたぜ!」

 

その書類はプロトタイプの引き渡しに関する指示書だった。

 

日付けは失踪日と同じな上に、しっかりとホルス・ベロボーグのサインも入っている。

 

だがそうなると、彼は大量の金を持った状態でわざわざこんな場所までプロトタイプを操縦してきたというわけだ。

 

自身の父親の汚名が晴らされたことに安堵していたクレタだったが、先程のコックピットの有様も相まって、同時に彼が今どこに居るのかもおおよそ理解出来てしまった。

 

一転して気分を落とす彼女の肩にグレースは手を置く。

 

「おチビちゃん……。」

 

「大丈夫、この狭い新エリー都で11年も足取りが掴めない時点で予想はしていたよ……もうアイツは、親父はこの世に居ないってな……。」

 

「ああ、非常に残念だよ。でもプロトタイプの記憶素子は無事だった。これを彼らに解析してもらえばきっと真相に辿り着くさ。」

 

「うん……そうだな。いつまでも感傷には浸ってられねえ。回収作業を急ごう。」

 

グレーテルとフライデーに牽引用のワイヤーを装備させると、反対側をプロトタイプに繋げる。

 

2機が引っ張り、プロトタイプを広い場所へと引きずっていく。

 

その際にプロトタイプが支えていたモニュメントの一部が崩れたが、それはハンスが受け止めて地面へ置いた。

 

作業を済ませると、あとは帰るだけだったのだが……。

 

「……ん?何あれ?」

 

スズツキはモニュメントの壊れた箇所から小さな何かが突き出ていることに気付く。

 

それは人の手のように思えた。

 

「社長、モニュメントの中に何かあります。」

 

[こっちからは見えないぞ。]

 

「ちょっと確認してみますね。」

 

スズツキはライフルを構えながらゆっくりとモニュメントへ近付いていく。

 

その手らしきものに照準を合わせると、鍾馗のAIが自動で解析をかけてくれる。

 

そして検出されたエーテル反応から『エーテリアス』の文字が出た途端、スズツキは声を張り上げた。

 

「敵です!」

 

スズツキは操縦桿の赤い引き金を押し込み、鍾馗のライフルを発砲した。

 

ドドドド!!と、重機関銃や対物ライフルよりも大きな弾丸がそれへと撃ち込まれる。

 

たちまちモニュメントは穴だらけになり、中央の尖塔部分が途中からへし折れる。

 

周囲に粉塵が立ち込め、カランカランと鍾馗の足元に巨大な空薬莢が落ちる。

 

[や、やった?]

 

「リンさん……マジでそれフラグですって……。」

 

[あ、ごめんごめん。]

 

やはりというか、リンの不注意な発言は現実のものとなった。

 

粉塵を突き破ってひとつの影が鍾馗へと迫ってきたのだ。

 

「なっ!?速い!」

 

ライフルではとても狙えないと、スズツキは榴弾砲を選択し、目の前の地面へ撃ち込んだ。

 

爆風に吹き飛ばされたそれはハンス達の足元へ転がり込む。

 

すかさずフライデーが踏み付け、拘束することに成功した。

 

[こ、コイツだ!ホルス師が封印を固めろと言っていたのは!]

 

「こりゃあ……エーテリアスなのか……?」

 

「分からない。でもスゴいエーテル指数だ……!」

 

現れたのは一般のエーテリアスとは違って、ゴツゴツとした異形の手足ではなく、しっかりと人間と同じような胴体と手足を持った個体だった。

 

頭にはヘルメット型の装置のようなものが装着されており、とても自然にそうなったものとは思えない。

 

ここでスズツキは任務の一番の目的を思い出す。

 

「あ、あれが『サクリファイス』……なのか?」

 

スズツキは迷っている暇はなかった。

 

すかさずコンソールを操作すると、背部の小型ミサイルポッドから信号弾を撃ち出し、それはホロウの外に向かって飛翔していく。

 

外で待機しているライカン達に緊急事態を知らせる為だ。

 

「離れてください!そいつにトドメを刺します!」

 

スズツキはフライデーが踏み付けている敵に零距離からライフルを構える。

 

しかし引き金を引く前にそいつは突然強烈な雄叫びを上げ始めた。

 

「な、何だ……!?」

 

[うぐっ……!?]

 

[おい!プロキシ!どうした!]

 

急にコックピットの計器類がおかしな反応を示し、イアスが苦しそうに頭を抱える。

 

スズツキは本能的に危険を感じ取ると、機体を後ろに飛ばさせた。

 

『グオオォォォォ!!!』

 

「うわぁっ!!」

 

直後、敵の周りに巨大なエーテルの結晶が生え始めた。

 

それらはあっという間に敵とフライデー達3機を取り囲み、大きな結晶の塊と化す。

 

「おいおい……!ハンス!フライデー!返事しろ!」

 

「3機のシグナルがロスト……エーテル指数も更に増大……!」

 

「ヤバいぞ!全員離れろ!」

 

次の瞬間、結晶が内側から光ったかと思えば、ドガッッッ!!っと大爆発を起こした。

 

粉塵が周囲に立ち込める中、そこに現れたのは先程よりも巨大な影だった。

 

[嘘……重機を取り込んだ……!?]

 

「しかも大きい……スズツキのよりもでけえじゃねえか!」

 

煙が晴れ、敵の姿が見えてくる。

 

右腕にはグレーテルの破砕機を、左腕にはフライデーのパイルハンマーを備え、太い6本の脚に支えられた大きな胴体の中央には先程の敵が収まっていた。

 

頭のヘルメットは取れており、エーテリアスらしい丸いコアが据えられている。

 

あまりの威容に立ち尽くすクレタだったが、スズツキからの通信で我に返る。

 

[社長!さっきボスに信号を撃ちました!すぐに支援が来ます!]

 

「お前は戦えるのか?」

 

[もちろんです!アレが僕たちの目的ですから!]

 

「うっし、プロキシは下がってろよ。支援とやらが来る前に私達だけで倒してやるぜ。」

 

[リンさんは敵の詳しい情報をボスに伝えてください!きっと適切な兵装を持って来てくれますから!]

 

[分かった!でも気をつけてね!]

 

[はい!]

 

イアスがその場から退避すると、スズツキの鍾馗とクレタ達は敵の融合体に相対する。

 

そしてそれぞれの得物を手に向かっていった。

 




次回がクレタ編ラストです。そろそろ裏版も進めようかね。


よろしければ高評価や感想などをお願いします。作者のモチベが爆上がりするので。

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