ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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これでクレタ編は終わりです。裏版に移行しまーす。



33 スズツキ・アタック

クレタの意識は微睡みの中に沈んでいた。

 

身体に伝わる人肌の暖かさと微弱な揺れが心地良さを誘ってくる。

 

一度は周囲の状況を確認しようとしたが、すぐにやめる。

 

開きかけた瞼を再び下ろし、温もりに身を任せていると、頭上から誰かが自分の名前を読んでいることに気付く。

 

『……レタ、クレタ、起きてくれ。着いたぞ。』

 

その声には非常に聞き覚えがあった。

 

同時に懐かしさを覚えるほど、長らく聞いていない気がした。

 

一体誰なのだろうかと、クレタは懸命に思い出そうとするが、何故か思考が上手く回らない。

 

眩しさに耐えながら目を開けると、視界に映ったのは1人の男の顔と、その後ろに鎮座した巨大な機械のようなもの。

 

彼は目が合うと、自慢するような口調で話し始める。

 

『クレタ、見てくれ。コイツは自律式汎用多脚重機、その試作実験機さ。これが実用化されれば危険なホロウ内での作業がより安全になる上に、昨今の人手不足にも対応可能になる。』

 

あいにくと話の内容は欠片も理解出来なかったが、少なくとも目の前の人物が非常に嬉しそうなことだけは分かった。

 

『それでなんだが、彼に名前を付けてやってくれないか?社員達は物騒な名前しか持って来ないんだよ。』

 

不思議と最後の言葉は断片的には理解出来た。

 

名付け親になってほしいと、そう認識したところで異変が起こる。

 

身体が勝手に動き、視界が例の機械を映し出した。

 

『何か案はあるかい?』

 

名前の候補はすぐに上がった。

 

いや、以前から既に考えていたと言った方が正しいだろうか。

 

既視感の絶えない状況に首を傾げていると、今度は口が勝手に動き、何かの単語を発しようとする。

 

しかしその後に言ったことは分からなかった。

 

『なるほど……うん、良い名前だ。じゃあ、コレが完成した時はその名を呼んであげてくれ。きっとクレタの役に立つよ。』

 

男がそう言った直後、バツン!と、テレビの電源を落とすように視界が真っ暗になった。

 

そして今まで感じていた不思議な感覚が無くなり、よりリアルな触覚が全身へ戻ってくる。

 

どうやらまた誰かが自分のことを呼んでいるらしい。

 

「…………長!社長!起きてくれ!」

 

「ん……んん……なんだ……?」

 

[あっ、クレタ!大丈夫!?]

 

クレタは瞼を開けると、アンドーとイアスの顔が視界いっぱいに映り込んだ。

 

怠げな身体を起こすと、自分の頭にふかふかの茶色い体毛が触れていることに気付く。

 

「これ……お、おい!ベン!」

 

「ああ、社長か……無事なようで何より……。」

 

後ろを見ると、エーテルの結晶体を背に座り込むベンの姿があった。

 

ここでクレタは今の状況を思い出す。

 

融合体と戦っていた際に反撃を食らって吹き飛ばされ、融合体が変異時に作り上げた巨大な結晶の中に突っ込んだことを。

 

また、その直前にベンが衝撃から庇ってくれたことも。

 

「ああ、畜生……!すまん……私のために……!」

 

「いいんだ。俺は……大丈夫だから。」

 

「大丈夫なわけないだろ。は、早く治療を……どこか痛いところは……。」

 

らしくもなくオロオロと慌てるクレタだったが、それをベンは手で制する。

 

「社長、クマのシリオンは脂肪が分厚いんだ……これくらい何ともない……それより……。」

 

ベンはクレタの背後を指さす。

 

そちらでは今まさにスズツキの操る鍾馗が敵の融合体と戦っているところだった。

 

パワー負けすることを見越してなのか、正面からぶつかるようなことはせずに距離を取って機関砲と榴弾砲を撃ち込んでいたが、決定打に欠けていた。

 

「スズツキ君を……支援するんだ。さっき、ライカンさんがこっちに向かってると、報告が入った……彼が来るまで、時間を稼いでくれ……。」

 

「……分かった。少し待っててくれ。すぐ終わらせてくるから。」

 

ハンマーを手に取り、外に出ようとするクレタだったが、その手をイアスが掴む。

 

[クレタ、ちょっと待って!1人じゃ無理だよ!]

 

「でもスズツキを見捨てるわけにはいかないだろ。」

 

[分かってる!だからアレを使うの!]

 

イアスは短いボンプの手で、とある方向を指し示す。

 

その先にあったのは1つの巨大な影。

 

クレタはそれを前に目を見開くと、そちらへ足を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

オリンピア記念広場とその周囲の公園は戦場と化していた。

 

いくつもの爆発が引き起こされ、連続した破裂音が遠くまで響き渡っていく。

 

その渦中にスズツキの鐘馗と敵の融合体の姿はあった。

 

「ちっくしょう……!」

 

現状、スズツキは押されていた。

 

敵の融合体は図体が鐘馗以上にデカいだけあって、お世辞にも機動力は良いわけではなく、その点ではスズツキに有利だった。

 

しかし火力や防御力など、それ以外では明らかに不利だった。

 

「うおっ!?」

 

融合体の背中から伸びたケーブルのような尻尾、その先端についたコの字型のアームからレーザーが放たれ、鐘馗の足元を焼き、すかさず追撃のミサイルも迫ってくる。

 

スズツキは頭を揺さぶられながら回避行動に徹したが、1発を肩に被弾してしまう。

 

しかし直後に爆発反応装甲(ERA)が作動したおかげで、被害は少なかった。

 

ただ今までの繰り返しの被弾によって、鐘馗のERAからなるドレスは半分以上が破けてしまっていた。

 

美少女キャラで状況を表すと、セーラー服の所々に穴が空き、スカートに至ってはほとんどパンツ丸見えのような状態だろうか。

 

「こんにゃろめ……!」

 

やられてばかりはいられないと、スズツキは鐘馗を走らせ、融合体の背後へ回り込むと、武装の30mm機関砲と75mm榴弾砲を連続で撃ち込む。

 

それらは動きの鈍い融合体の背面へ直撃し、肩のミサイルコンテナが誘爆したのか、少しの間を置いて大爆発を引き起こした。

 

「やった!」

 

歓喜の表情を浮かべるスズツキだったが、爆煙が晴れてくると、見えてきた光景に目を見開く。

 

何と爆発によって大きく抉られていた背中と肩が、時間を巻き戻すように綺麗に直っていったのだ。

 

被弾箇所が完全に修復されると、融合体は余裕そうにゆっくりと鐘馗の方へ振り向いてくる。

 

「ボス……もう長くは保ちそうにないですよ……!」

 

ライフルから空の弾倉を抜き取ると、背面のバックパックに装備していた予備弾倉を、最後のそれを機関部にさし込む。

 

肩の榴弾砲もあと数発撃てば、ただの文鎮と化すだろう。

 

そうなれば残る武装は頭部のチェーンガンと近接戦闘用の切断トーチだけだ。

 

スズツキはこの場には居ないクレタとライカン達の救援を願いながら、再び敵へと向かっていく。

 

するとその時、融合体の背後にあった巨大なエーテル結晶、敵がフライデー達を取り込んだ際に発生させた結晶体の残っていた部分を突き破ってひとつの大きな影が飛び出す。

 

それは融合体の背後から襲いかかると、アームのグラップルバケットを畳んで融合体の腕の接続部に突き刺し、足で蹴って切り飛ばした。

 

右腕のチェーンソーが宙を舞って地面に落ち、融合体はよろめく。

 

[悪いスズツキ!遅れた!]

 

「社長!それ、動かせたんですね!」

 

[ああ、何とかな!]

 

通信機越しに聞こえて来たのはクレタの声。

 

彼女の姿は今、プロトタイプのコックピットの中にあった。

 

何故かこの機体だけは敵に取り込まれておらず、グレースの応急処置でどうにか再起動させたのだ。

 

[くっそ……せっかく切断したってのに、もう再生してやがる……。]

 

「凄まじい回復力ですよ。もうただのロボットじゃありませんね。」

 

スズツキとクレタの前では、切り落とした融合体の腕が独りでに動き、本体との切断面同士がぐちりと繋がったところだった。

 

傷跡がすぐに塞がると、何事もなかったかのようにチェーンソーの歯を回転させ始める。

 

[どうする?このまま攻撃しても回復されるだけだぞ。]

 

「なら本体を狙ってみましょう。都合よくむき出しになってますし。」

 

[それしかないな。よし、私が正面からぶつかって敵を足止めする。お前はその隙に零距離から鉛玉をブチ込め。]

 

「分かりました。気をつけてくださいよ。」

 

[おう!]

 

クレタは両手の操縦桿を握り直し、足のペダルを強く踏み込む。

 

プロトタイプは両腕でガードしながら勢いよく融合体へと飛び込んだ。

 

すかさず融合体がチェーンソーを振りかざしてくるが、クレタはそれを左のグラップルで掴み、反対側のバケットで融合体のパイルハンマーを押さえ付ける。

 

「スズツキ!!」

 

[はい!]

 

敵の動きを止めたところでスズツキの鍾馗が前に出てくると、ライフルを融合体の本体へと向けようとする。

 

しかし意図を察した融合体が残った尻尾をぶつけて来た。

 

「うわっ!?」

 

鍾馗がよろめいたところで融合体は尻尾のアームからレーザーを放とうとしてくる。

 

エーテルのエネルギーが丸く圧縮され、眩い光を放つ。

 

コンソールから警告音が響く中、スズツキはもう回避は間に合わないと、大胆に動いた。

 

「間に合えっ!」

 

スズツキはライフルをアームに噛ませ、両手を自由にすると、融合体の尻尾を掴んだ。

 

直後にライフルを焼き切りながらレーザーが明後日の方向へ放たれていく。

 

「社長、もうちょっと耐えてください!」

 

[なるべき早く頼むぜ……!]

 

尻尾を押さえながらスズツキはジリジリと融合体に迫り、至近距離から頭部の7.62mmチェーンガンを融合体の本体に撃ち込む。

 

30mm機関砲に比べれば豆鉄砲もいいところだが、ダメージは通っているようで、敵は嫌がるように身じろぎをする。

 

続いて残弾少ない榴弾砲を向けると、流石にマズいと思ったのか、クレタへの攻撃をやめて距離を取ろうとした。

 

しかしスズツキは尻尾を引っ張ってそれを阻止し、引き金を連続で引き絞る。

 

至近距離から榴弾が撃ち出され、融合体の中央で複数の爆発が起こる。

 

だが敵の動きは変わらず、腕をぶつけて鍾馗を弾き飛ばすと、よろめきながらも後ろに下がった。

 

再び爆煙が晴れると見えて来たのは、地面にへたり込みながらも吹き飛んだ半身を再生させている敵の姿。

 

単に本体を叩けば良いわけではないようだ。

 

「やっては……いなさそうですね……。」

 

[足や手が吹っ飛ばされた程度じゃ回復されちまう……つまり全身を一気に吹っ飛ばすか、再生出来ないほどの損傷を継続して与えればいいってことか。]

 

「でも残ってる武装はもうこれくらいしか……。」

 

スズツキは棍棒のような形をした切断トーチを手に持つ。

 

チェーンガンも残弾は僅かしかない。

 

しかしクレタはやる気満々といった様子でアームのバケットとグラップルを打ちつけ合う。

 

「大丈夫だ!お前の仲間が来るまで持ち堪えればいい!」

 

[ええ、そうですね……って、噂をすれば……。]

 

その時、ババババ!!と、遠方からけたたましいローター音が聞こえてきた。

 

頭上を見上げれば、遠目に小さく1機のティルトローターが確認出来た。

 

同時にヘッドセットを介してエレンの声が耳に入ってくる。

 

[スズツキ!まだ生きてるよね!]

 

「生きてます!ただ武器がありません!」

 

[デリバリーならフルコースであるよ!ご希望は!?]

 

「『デカくて大胆』なのを頼みます!」

 

[りょーかい!降下して落とすから援護してよ!]

 

「はい!」

 

スズツキが再び前を向くと、前方では融合体が身体の修復を完了させたところだった。

 

そしてあちらも援軍に気付いたようで、上をジッと見上げる。

 

[スズツキ!囮になるぞ!撃ち落とされちゃマズい!]

 

「ええ!」

 

クレタの予想通り、空に向かってレーザーを放とうとする融合体だったが、鐘馗とプロトタイプが体当たりをカマしたことで、大きくバランスを崩した。

 

派手にもんどりうって転倒する融合体と、それに巻き込まれるスズツキとクレタ。

 

モニュメントを完全に破砕し、公衆トイレを半壊させ、公民館に大穴を空けてようやく止まる。

 

ひっくり返ったコックピットの中、スズツキはズレたヘルメットを被り直す。

 

「いたた……や、やば……早く起きないと……!」

 

機体を起こすと、目の前では先に起き上がっていたクレタと融合体が組み合っている状況だった。

 

スズツキは近くに転がっていた切断トーチを拾うと融合体の背後から迫ろうとする。

 

だがクレタに止められた。

 

[スズツキ!ここは私に任せてお前は武器を回収しに行け!]

 

「えっ……でも1人じゃ……!」

 

[少しくらいは持ち堪えられる!それより早く!]

 

「……す、すみません!」

 

スズツキは機体を反転させ、降着ポイントへと駆け出す。

 

公園の真ん中に到着すると、高度を下げたティルトローターがスズツキの方に迫って来ていた。

 

待機していると、通信機にライカンの声が入る。

 

[スズツキ、状況はプロキシ様から聞いています。これから敵に有効と考えうる『デカくて大胆』な武器を投下します。受け取ってください。]

 

「期待してもいいですか?」

 

[ええ、こんなこともあろうかと、私がしっかりと選定したものなので。」

 

ティルトローターの後部ハッチが開き、鍾馗の頭上を通り過ぎると、すれ違い様に1つのコンテナを落とす。

 

それは減速用のパラシュートを開き、地面に落ちると、公園の芝生を削り取りながら滑っていく。

 

木にぶつかってようやく止まると、スズツキは機体を操作してコンテナのハッチを開けた。

 

「おぉ……!」

 

[お気に召しましたか?]

 

「はい!これなら倒せそうです!」

 

[それは良かったです。では、どうかご武運を。]

 

そう言うとライカンは再びティルトローターの高度を上げ、安全圏に退避した。

 

スズツキは鼻息荒くコンテナの中にあったものを左手で掴むと、コンソールを操作する。

 

すると鍾馗の右肩から下の腕がボン!と音を立てて分離した。

 

無くなった腕の代わりに『それ』を接続し、鍾馗は再び立ち上がる。

 

そのシルエットは先ほどよりも3割増しでゴツくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「来い!化け物め!」

 

クレタはひたすら融合体の攻撃を回避することに徹していた。

 

ボクシングのジャブを避けるように機体を右へ左へと後退させ、時折りアームのバケットを使って打撃を受け流していく。

 

隙が生まれると果敢に反撃も繰り出してはいたが、どうにもパワーが足りず、決定打に欠けた。

 

「くそっ……やっぱ整備無しの試作機じゃコレが限界か……!」

 

コンソールに映された計器上ではまだ余裕はある筈なのに、中々上がらない出力に歯噛みしていると、視界の端にスズツキの鍾馗の姿が見えた。

 

そしてその出立ちにギョッと目を剥いた。

 

[社長!お待たせしました!]

 

「お、お前それ……脳筋過ぎるだろ!」

 

[再生出来ないほどの損傷を継続して与えるならコレがピッタリですよ!]

 

スズツキが持って来たのは右腕と一体化した大柄な武器。

 

鍾馗の腕よりも太くて長い鋼鉄の杭を火薬の力で打ち出すパイルバンカーだった。

 

高性能爆薬やレーザー砲などを予想していたクレタはライカンらしからぬチョイスに唖然としていたが、すぐに我に返ると、融合体の身体をアームで押さえ込みにかかる。

 

「スズツキ!それをコイツの背後から打ち込め!私ごと貫かないように角度は考えろよ!」

 

[了解!]

 

プロトタイプは融合体の足元にしがみ付き、動きを無理やり止めさせる。

 

対して融合体が振り解かんと攻撃をしてくるが、クレタは操縦桿をそのままに耐え続ける。

 

一方、スズツキはその隙をついて融合体の背後から迫った。

 

「食らえっ!!」

 

発射時の衝撃が強すぎて肘が折れるという理由から二の腕に直付けされたパイルバンカーを正面へ向け、杭の先端を融合体の背中へ突き刺そうとする。

 

しかし杭の先端があと少しで到達する時に、頭上から融合体の尻尾がアームを広げて突っ込んできた。

 

「うわあっ!?」

 

[スズツキ!!]

 

パイルバンカーを打ち出す直前、コの字のアームは鍾馗のコックピットを真上から挟み込んだ。

 

だがスズツキは怯まず、操縦桿の引き金を強く引き絞る。

 

直後、ドッッッ!!と、装薬の燃焼による高圧のガスが鉄製の杭を勢いよく前方へ押し出した。

 

融合体へ見事に刺さったそれは体組織の内部を突き進み、分厚い胴体の反対側を目指す。

 

しかし、あと1歩足りなかった。

 

「畜生……浅い!」

 

融合体に刺さったパイルは本体までを完全に串刺しにするには至らなかった。

 

ずるりと杭が引き抜かれ、鍾馗は尻尾のアームに掴まれたまま背後の建物に叩きつけられる。

 

「ぐっ……あっ、ま、マズい!侵蝕が……!」

 

[スズツキ!ヤバいなら脱出しろ!]

 

「無理です!ハッチが結晶で覆われて!」

 

おそらくはフライデー達を取り込んだ時と同じ仕組みなのだろうか。

 

アームに掴まれた部分から、鍾馗の表面にエーテルの結晶体が発生していく。

 

コックピットはそれによって包み込まれていた。

 

「か、カメラまで……!」

 

次第にセンサー類や操縦系が駄目になっていき、手足を始めとした駆動系も動かなくなっていく。

 

クレタの側から見ても侵蝕のスピードはすさまじいものだった。

 

何かやれることはないかと考えを巡らせる彼女だったが、ここで鍾馗のパイルバンカーが目に入ってくる。

 

「スズツキ、その杭打ち機はまだ使えるのか!?」

 

[は、はい!でも機体を動かすことが……!]

 

「そのまま高く掲げとけ!あとは私がコイツを押し込む!」

 

クレタはペダルを名一杯踏み、融合体を鐘馗の方へと押し進めていく。

 

だが意図を察した融合体も負けじと押し返してきた。

 

「スズツキ!早く脱出しろ!」

 

[やって……爆発ボル……動しな……!]

 

「くそ……くそっ!もっと動け!動けってんだよ!」

 

細切れになっていくスズツキからの通信にクレタは焦りを覚える。

 

するとその時、コンソールにひとつのフリップが表示される。

 

『リミッターの解除』と書かれた赤い文字が目に入ってくると、クレタはすぐさまそれを押し込んだ。

 

だが次に出て来たのは『専用の音声プロトコルを入力しろ』という内容の文。

 

「プロトコルって……ひ、開けゴマ!オープンセサミ!アブラカダブラ!ベホマ!バルス!」

 

片っ端から思い付く単語を並べていくも、コンソールは何も反応しない。

 

こんな状況下でクイズをさせられることに苛つきを隠せないクレタだったが、一度落ち着いて考える。

 

「親父が考えそうなこと……。」

 

ここでクレタはスズツキとの会話を思い出した。

 

2人であのガーディアンの名前を考えたことを。

 

同時に掘り起こされる古い記憶。

 

自分の父親の、ホルスの腕に抱かれながら初めてプロトタイプを見た時のこと。

 

「ったく……親父のやつめ……。」

 

クレタは息を吸い込む。

 

そして大きく声を張り上げた。

 

「『ギローイ』!ブチかませ!」

 

彼女の叫びにプロトタイプ、もといギローイは応えてくれた。

 

作業用に設定されていたリミッターが全て解除されると、主機が甲高い唸り声を上げ、出力が一気に上昇していく。

 

すると押されていた状況から一転、今度は融合体を押し始めた。

 

徐々に鐘馗へ迫り、パイルバンカーの先端が近付いてくる。

 

これには融合体も焦りを感じたようで、両手でギローイを攻撃し、鐘馗を掴んでいた尻尾も離すと、今度はクレタの乗るキャビンを鷲掴みにしてきた。

 

「ぐっ……まだまだぁ!」

 

対侵蝕効果付きの複合装甲で覆われた鐘馗のコックピットとは違い、ただの鉄骨とガラス1枚で挟まれたギローイのキャビンはたちまちエーテルの結晶で包まれていってしまう。

 

しかしクレタは構わず操縦桿を握り続ける。

 

ミシミシ、メキメキと、キャビンが歪み、目の前のフロントガラスにもヒビが入っていく。

 

だがそんな危機的状況にも関わらず、クレタは勝利を確信した笑みを浮かべていた。

 

「へへっ、諦めな。あいにくとお前の負けだ。」

 

クレタの言葉の意味を融合体が理解したのはすぐだった。

 

背後で起き上がる1つの影と、直後に背中へ感じた鋭利な鉄の感触。

 

慌てて尻尾を戻そうとするも、とても間に合わない。

 

次の瞬間、ドゴッッッッッッ!!!っと、大きな破裂音と共に融合体と、その本体の腹を突き破って太い杭が現れた。

 

融合体の背中にぴったりとくっ付いていた鐘馗はパイルバンカーの打ち出したパイルだけをパージする。

 

身体に大穴が空いた状態で再生も出来ないとなれば、融合体は徐々に弱っていき、最後にはガクリと力無く項垂れた。

 

頭部の丸いコアがバラバラと崩れていき、身体もただの抜け殻と化していく。

 

[え、エーテル反応値……ゼロになりました……。]

 

「はあぁ……終わったか……。」

 

緊張が解け、クレタはシートにズルズルともたれかかる。

 

鍾馗もギローイも侵食をかなり受けており、まさに間一髪の状況だった。

 

それぞれの機体に張り付いた結晶を払いながらスズツキはふと聞く。

 

「社長、ギローイってどういう意味なんですか?」

 

[ぐ……聞いてたか……。]

 

「ええ、ブチかませ!とか言って、カッコよかったですよ。通信記録の聞きます?」

 

[お前っ……それ絶対消せよ……消さなかったら……!]

 

「冗談です。冗談ですから、僕の声しか残ってませんよ。」

 

[まったく……ギローイは『ヒーロー』って意味だ。親父のやつ、私がこれにつけた名前をリミッター解除の暗号にしてやがった。]

 

「へぇ……親父さんも粋なコトしますね。」

 

[ホントだよ……私以外が乗ってたらどうするつもりだったんだ……。]

 

大きく溜め息をつくクレタだったが、その時、コンソールの上に置いてあったファイルの束から飛び出ている小さな紙片を見つけた。

 

引き摺り出してみれば、在りし日のクレタを抱き上げている彼女の父、ホルスの姿が写った写真だった。

 

クレタは自分の父が裏切り者や守銭奴などではなく、昔のまま、自分の知っている通りであったことに少しだけ口角を上げる。

 

今の彼女は肩の荷が降りたような、非常に晴れやかな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

それからはもう滅茶苦茶だった。

 

ホロウの中で戦争が起こっていると通報を受けた治安局は特化車両部隊を、偵察衛星から異変を感じ取った軍はガーディアンを含めた機甲部隊を、どこぞの虚狩りが異変を感じたからとH.A.N.D.及びH.S.O.は対ホロウ六課を、それぞれ現場に投入してきた。

 

オリンピア記念公園の中には戦車や装甲車、ロボットにヘリと様々な勢力で入り乱れ、今は融合体の遺骸を取り囲みながら誰が回収するかをギャアギャア言い争っているところだ。

 

そんな様子を隅っこで眺めながらヴィクトリア家政と白祇重工の面々はそそくさと撤収の準備を始めていた。

 

ちゃっかり回収してきた融合体の本体をティルトローターの貨物スペースへ押し込み、侵蝕の影響で駆動系にガタが来ていた鍾馗へ懸吊用のワイヤーを引っ掛ける。

 

その作業をスズツキとクレタは大きなコンクリート片に腰掛けながら眺めていた。

 

過度の緊張が解けてアドレナリンが切れたおかげなのか、2人の顔には疲労が強く出ていた。

 

「ん。」

 

「あ、どうも……。」

 

クレタは懐から取り出したペットボトルに口をつけると、それを隣のスズツキへ差し出す。

 

対してスズツキも気にする余裕は無かったのか、躊躇いもなく中身を煽った。

 

再びペットボトルを返した時、クレタは口を開く。

 

「本当にアレは持っていかなくていいのか?」

 

「はい、敵の手がかりどころか敵そのものが見つかった以上、必要はないかと。それに記憶素子まで貰っちゃいましたし、社長もハンス達の穴を埋めるのにプロトタイプ……ギローイが必要でしょう?」

 

「まあ、ウチとしてはあると助かるわな。Ⅴ型のロールアウトには調整含めてまだ時間がかかるだろうし。」

 

ちなみに融合体へ取り込まれたハンス、グレーテル、フライデーの3機はあんな状態になっても中枢部だけは無事だったようで、近々量産規格型のV型の身体へ載せ替えるとのこと。

 

グレースは彼彼女らの無事に泣いて喜んでおり、今も融合体の遺骸に張り付きながらタブレット片手にオイオイと涙を流している。

 

目と鼻と口からそれぞれの液体を垂れ流すその姿に美人の面影は欠片も無いが、我が子との感動の再会と考えればまあ理解出来なくもないだろう。

 

「それで、任務は完了か?」

 

「無事完遂です。本当に助かりました。ありがとうございます、社長。」

 

「……いいってことよ。」

 

クレタは少し寂しそうに俯いた。

 

かと思えばそっぽを向き、小っ恥ずかしそうに頬を掻きながら口を開く。

 

「なあ、社長ってのはやめにしないか?堅苦しい言い回しも。せっかく一緒に戦った……その、戦友(ダチ)なんだしよ。」

 

クレタの言葉に一度固まるスズツキだったが、すぐに笑顔で応える。

 

「クレタ、これでいい?」

 

「……おう!」

 

クレタが拳を掲げると、スズツキも自身の拳を伸ばし、コツンと軽くぶつけ合う。

 

そしてスズツキは腰を上げ、ライカン達の待つティルトローターへと足を進めていった。

 

それぞれのエンジンに取り付けられた2つのローターが回り始め、風と共にけたたましい音が周囲に響き渡る中、クレタはスズツキの背中へ再度話しかける。

 

「スズツキ!」

 

「ん?」

 

「何かあった時はウチに来いよ!いつでも待ってるぜ!」

 

「ここをクビになったら行かせてもらう!それまで会社を存続させといてね!」

 

「言われなくても!」

 

「またね!」

 

「……ああ!!」

 

スズツキは手を振りながらティルトローターに乗り込み、ハッチの向こう側へ消え……なかった。

 

乗り込む直前で3つの人影がそれを遮ったのだ。

 

ボスンと、柔らかい何かにぶつかるスズツキ。

 

鼻を押さえながら見上げれば見知った顔が3つほど。

 

「えっ、あー……お、お久しぶりです。朱鳶さんに雅様、あと11号さん……。」

 

「ええ、久しぶりですね。スズツキ君。」

 

「半月ぶりだな、スズツキ。」

 

「覚えていてくれて嬉しいわ。」

 

ニコニコと笑っていない笑みを浮かべている朱鳶。

 

興味津々といった様子を隠し切れていない雅。

 

何気に知り合いに接触したら、虚狩りとかいう傑物が現れたことに困惑している11号。

 

少なくともこの中では朱鳶に捕まったら面倒なことになるのは確かだ。

 

「スズツキ君?状況を、一から、全て、説明してくれますよね?」

 

「スズツキ、あれはどうやって倒したのだ。まずあれは何だ?説明が欲しい。」

 

「スズツキ、我々防衛軍としても説明を求めるわ。あれだけの強力なエーテル反応値、零号ホロウでもない限り早々発生するものではないわ。」

 

「み、皆さん、一度落ち着いて……。」

 

スズツキは後退りすると、横合いに回り込んで封鎖の突破を試みたが、すぐに雅が腕を掴んできた。

 

すかさず明後日の方向を向き、大きな声で叫ぶ。

 

「あっ!空飛ぶメロン!」

 

「何っ!?」

 

雅がフェイントに釣られると、スズツキはティルトローターの機内に飛び込んだ。

 

直後、機体は地面から離れ、鍾馗を吊り下げたまま高度を上げていく。

 

開いたままのハッチからはスズツキが手を振っていた。

 

「むうぅ……次会ったら絶対問い詰めるんだから……!」

 

「くっ……メロンに釣られるとは不覚……。」

 

「相変わらず大胆な連中ね。」

 

三者三様の反応を見せている3人だったが、そこへクレタが近付いていく。

 

「なあ、アンタらスズツキの知り合いなのか?」

 

「えっ、いや、まあ、個人的な間柄というか……。」

 

「彼は私の部下……ではないが、いつかはそうなる人間だ。」

 

「彼とは少し前に共同戦線を張っただけよ。」

 

「ふーん……ん?」

 

特殊な組織であるため、人間関係も特殊になるのだろうと、クレタはすぐに納得した。

 

しかし今の会話に明らかな違和感があったことに遅れて気付く。

 

「待て、待ってくれ。『彼』ってどういうことだ?『彼女』じゃないのか?」

 

クレタの困惑した様子に対し、朱鳶は同情の視線を向け、雅はただコクリと頷き、11号は何を当たり前のことを言っているのだと首を傾げる。

 

「まあ、初見は勘違いしますよね……。」

 

「そうだ。ああ見えてスズツキは男だ。」

 

「身体付きはもちろん、挙動からして男以外に考えられないわ。今はまだマシになってたけど。」

 

「へ、へえぇ……。」

 

確かに女にしては、という部分が所々見受けられた。

 

しかしグレースという女として更にレアな存在があった為、別に気にしていなかった。

 

「ああ、あぁ……!」

 

クレタは今までのスズツキに対する自分の行動を振り返った。

 

同年代の同性だと勘違いして最初から距離感を近めにしていたのはもちろんのこと、自らハグしたことや、あまつさえ胸を触らせたことなど。

 

それら行為の相手が全て異性に切り替わった途端、凄まじいまでの羞恥心が湧き上がっていく。

 

また同時に相手へ感じていた友愛や親愛の感情が、また別の気持ちへと変容し始めていた。

 

クレタは様々な感情から顔を茹でダコのように真っ赤にし、両目をグルグルとさせながらも、どうにか声を絞り出す。

 

「な、なあ……アンタら、現状について私らが知っている限りの情報提供をするからよ……スズツキとかいうバカのことについて教えてくれないか?」

 

「うむ、いいだろう。」

 

「いいわよ。」

 

「ちょっ……2人とも……!?」

 

わなわなと拳を握りしめるクレタ。

 

彼女は心に強く誓った。

 

絶対に責任を取らせると。

 





「姉貴っ!あ、アイツ!スズツキの野朗、男だったぞ!」

「ん?そりゃあそうだろう。男なんだから。」

「……は、はぁ?気付いてたのかよ!?」

「気付くも何も、骨格が明らかに違ったじゃあないか。分かりやすいのは骨盤の大きさだろうね。男の生殖器もあったし。」

「なっ……ど、どうして言ってくれなかったんだよ……!」

「いや、気付いている上であんなに仲良くしているものだと思って……まずそれどころじゃなかったしね。」

「うぅ……そこは言ってくれよぉ……!」

「おやおや、そんな顔を真っ赤にして、彼と何かあったのかい?」

「な、何でもないっ!」

「ふむ、これが思春期というやつなのかな。しかしスズツキか……久々に語り合えた良い子だったなぁ……。」






「へっきし!」






アリス出たよ。やったね。

あとゲローイを『герой』の発音に寄せてギローイにしたよ。だから誤字じゃないよ。

何で変えたのかって?いや、だって……その……ゲローイってなんか吐瀉ぶっ((殴


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