ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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お久しぶりです。皆さん、ガチャ引けてますか?私はオルペウスをゲットすることが出来ました。

一瞬、猫みたいな少女が出た気がしましたが、きっとすり抜けに対する恐怖が幻覚を生み出したのでしょう。ポリクロームが払底していることとは関係ないハズ……。

今回の話はクレタが出てきます。




四章幕間
34 レベルカンスト中学生(上)


クレタら白祇重工と協力し、謎の融合体を撃破してから数日。

 

ヴィクトリア家政は思いがけず大量の収穫があったことから事の後始末に追われ、少しの間、外部からの新たな依頼は受け付けないこととなった。

 

ちなみに『サクリファイス』に大きく関連すると思われる融合体、その発見と駆除に貢献したスズツキは市長から直々に感謝された。

 

一方、修復したてでピカピカだった鐘馗をオーバーホールが必要なまでに侵蝕まみれのボロボロ状態にしたことは富嶽重工と東亜重工のメカニック双方から少しお叱りを受けた。

 

まあ、良い実戦データが取れたからと許してはもらえたのだが。

 

その後は難しい雑務をライカンとリナに任せて、スズツキとエレン、カリンは元の学生生活へと戻っていった。

 

つい先日まで人型兵器に乗りながらエーテリアス相手に機関砲をブッ放していたとは思えないほどの平和な日常が過ぎていく。

 

そうして更に1週間ほど経ったある日、スズツキのクラスへある行事の話が持ち上がった。

 

それは『1日職場体験』というもの。

 

スズツキの学年では毎年恒例の行事で、実際にそれぞれの仕事現場で行われる本格的なものだ。

 

ここで補足だが、新エリー都は旧世界の先進国並みの文明を有しながらも完全に独立した都市国家で、同時に人類最後の砦だ。

 

故に交易相手の国が存在せず、幅広い業界を自分達だけで維持しなければならない。

 

行政や司法、防衛、治安維持、インフラ整備など都市の根幹を成す公的な仕事はもちろんのこと、農業や工業、教育、娯楽など都民の生活に深く関わる第一次産業から第三次産業まで全てだ。

 

また残念なことにホロウ災害という定期的に、無差別に人を間引いていく最悪なイベントがある。

 

旧都陥落がその最たる例だろう。

 

よってTOPSなどの一部超大手企業を除いて慢性的な人手不足が続いており、若い人材は喉から手が出るほど欲しい。

 

しかし専門的知識を持った、即戦力となり得る大学生は全てTOPSに持っていかれてしまう。

 

ならば学歴に関わらず、頭の柔らかい少年少女を先に囲い込んで育てれば良いと、中高生へ積極的にアピールしているのだ。

 

その甲斐あって、中学までの義務教育を終えた生徒の3割程度が就職し、高校を過ぎると、卒業生の6割が社会への道を選ぶ。

 

一部は幹部候補生向けの士官学校や企業お抱えの専門学校など、職に就いた上で更なる教育を受ける場合もあるが、大半が現場へ赴き、社会の一端を担うこととなる。

 

最終的に大学へ進むのは、まず大学の数が少なく、難易度が高いことも相まって3割未満らしい。

 

「あー、マジでどこにしよう……。」

 

「やっぱ安定のTOPSじゃね?俺はポーセルメックスかジョナサン財団がいいな。」

 

「官公庁ってのもアリだよね。」

 

「そうかぁ?お堅い役所なんか見てもつまらねぇだろ。」

 

ここは昼休みの教室の中。

 

スズツキは机に座りながら友人達と就業体験について話していた。

 

どうやら体験先は今後発表されるようで、行ける人数にはそれぞれ定数があるとのことらしい。

 

何が来るのかワクワクしていると、それは帰りのHR中に知ることとなった。

 

先生が黒板に書き出したラインナップを前に生徒達はガヤガヤと騒ぎ出し、クラス委員長のもと、希望先の争奪戦がジャンケンによって行われていく。

 

最も倍率が高かったのが、『何故か今年だけ』『スズツキの学校からのみ』体験生の受け入れを表明してきた対ホロウ事務特別行動部ことH.S.O.だった。

 

これには主に一部の男子と女子が鼻息荒く手を上げ、あっという間に枠は全て埋まってしまった。

 

目を血走らせた彼彼女らの目的がどこぞの虚狩りや副課長なのは言うまでもない。

 

もちろんスズツキはその争奪戦には参加せず、安牌として両親と同じ公務員系を志望した。

 

しかし悲しいかな。

 

友人達と一緒にH.A.N.D.とHIAを選んだものの、彼だけがジャンケンに負けてしまった。

 

そうして余り物から選ぶ羽目となったのだが……。

 

「え……マジでこれだけしかないの……?」

 

「うん、黒潮重工はさっきのジャンケンで決まっちゃったし、岐神開発も今やってる途中だから……。」

 

「あー……ならこっちで……。」

 

スズツキが消去法で指を指すと、クラス委員の女子は彼の名前をプリントの空欄へと書き込む。

 

その上には非常に見覚えのある建設会社の名前があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

それから数日後の朝。

 

地下鉄再開発現場に位置するプレハブの事務所の中では彼女、クレタ・ベロボーグが憂鬱そうにプリントを眺めていた。

 

「はぁ……。」

 

そこに書かれていたのは学生の職場体験について。

 

白祇重工も人手は欲しいことから1ヶ月前にイベントに応募したものの、具体的な案内はベンかアンドー、ボンプのゴアンゼンに任せる予定だった。

 

しかし昨日、訪問してくる生徒が分かった途端、何故か彼らは例のゴタゴタによる工期の遅れを取り戻す為と言って、案内に関する仕事を全てクレタへと押し付けてきたのだ。

 

ちなみにグレースはハンス達の再生とプロトタイプの整備にかかりきりとなっている上、まず彼女に案内役は務まらないだろう。

 

「こんなことになるんだったらやめとくべきだったぜ……。」

 

仕事は代わりにやっておくから対応は任せたと、半端逃げるように去っていったベンとアンドーを思い出しながらクレタは溜め息を吐く。

 

「私が子供のお守りねぇ……。」

 

そう呟いた直後、自分もその子供と同い年であることに気付き、思わず自嘲の笑みを漏らす。

 

その表情には僅かな羨望が含まれていた。

 

先程も述べたように新エリー都での就職年齢は若めとはいえ、子供の過半数は高校での青い日々を過ごす。

 

義務教育の終了と共に早々と社長へ就任したクレタにとっては全くの未知なる体験であり、今後味わうことも無い。

 

別に昔の選択を後悔するわけではないが、羨ましくないと言えば嘘になる。

 

「高校か……。」

 

クレタはもしもの世界を想像する。

 

朝起きて朝食を摂り、制服姿で登校すると、教室で授業を受け、放課後は部活や遊びに勤しむ。

 

その情景にはクレタ以外も映り込んでいた。

 

通学路では彼女の隣を歩き、授業中は彼女の隣の席に座り、放課後では彼女の隣で遊んでいる人物。

 

その姿がより鮮明になると、クレタは途端に顔を真っ赤にした。

 

「ば、馬鹿やろっ……私ってば何を……!」

 

黒歴史を思い出した時のように苦しみ悶えるクレタだったが、そんな彼女へ誰かが声をかける。

 

クレタはビクリと瞬時に反応し、慌てて後ろを向いた。

 

「……えっ。」

 

「お久しぶりです、社長。」

 

そこに立っていたのは今まさに自分が頭に思い浮かべていた人物だった。

 

違いと言えば、想像していたより少し長くなった髪型と、制服が詰襟からブレザーに変わっていたことくらいだろうか。

 

クレタは予想外のことに目を見開く。

 

「スズツキ……なのか?どうして?」

 

「職業体験です。学校から連絡が来てませんでしたか?」

 

「あっ、ああ……もちろん……。」

 

会社のデスクトップを開き、学校側から送られてきたメールを見ると、そこには確かにスズツキの名前があった。

 

そして半信半疑だった性別については、やはり『男』と明記されていた。

 

今のスズツキは選択制の制服からブレザーとズボンを選んだ、ベリーショートのボーイッシュ少女のような印象を受けるが、どうやらこれでも男らしい。

 

「ベンとアンドーめ……こういうことかよ……!」

 

クレタは嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちで頭がパンクしそうになるが、どうにか平常心を保つ。

 

「そういえばお前……お、男だったんだな。」

 

「あー、まあ……はい。その方が任務で役立つからと……。」

 

「まったく……完全に勘違いしてたじゃねえか。紛らわしいったらありゃしないぜ……!」

 

途端にフラッシュバックする、勘違いによる奇行の数々。

 

スズツキも思い出したのか、2人揃って黙り込んだ。

 

先にクレタが頭を振って沈黙を破る。

 

「んん"っ……で、お前だけなのか?」

 

「は、はい、ジャンケンで負けました。」

 

「なるほど、ウチは余り物と……。」

 

「いえ、元々募集の数が生徒よりも倍近く多かったんです。枠が余るのは必然でしたよ。」

 

「相変わらず人手不足なんだな、どこも。」

 

「TOPSだけは依然人気ですけどね。」

 

「無人化と省人化が進むわけだ。あとお前、最後に話したこと……忘れたのか?私との関係というか……。」

 

クレタは少し恥ずかしそうに頬を掻きながらそう聞く。

 

対してスズツキは意外そうに目を見開くと、少し嬉しそうに自分の制服を摘み、口を開いた。

 

「分かってますよ。ただ今の僕は職業体験に来た学生です。相手が友人とはいえ、見学先の社長にタメ口で話すのはおかしいかと思いましてね。」

 

「どうせここには2人しか居ねえよ。堅苦しいからやめてくれ。」

 

「そう?まあクレタが言うなら……。」

 

スズツキの返答にクレタは満足そうに頷く。

 

「じゃ、体験とやらに行くか。」

 

「りょーかい。」

 

席を立つクレタだったが、スズツキの姿を見ると、出口とは反対方向に踵を返した。

 

「忘れてた。そのままの格好じゃ危ないし、汚れちまうな。ほら。」

 

「わっ。」

 

クレタはロッカールームに入ると、自分のロッカーから予備の作業着を取り出し、スズツキに投げて渡す。

 

「それでも一番小さいやつなんだ。サイズは合わんかもしれんが、まあ我慢してくれ。」

 

「ありがと。」

 

スズツキはクレタと同じ作業着に着替え、白祇重工のマークが描かれたヘルメットを被る。

 

上着に袖を通すと、ふわりと甘い香りが漂ってきた。

 

「どうした?早く行くぞ。」

 

「ああいや……良い柔軟剤を使ってるなと……。」

 

「……そっ、そうか。」

 

ちなみにその予備の作業着はクレタは少ししか使っていない為、洗濯はまだ一度もしていない。

 

クレタは何気にやった自分の行いを改めて理解すると、赤くなった頬を隠すようにそっぽを向き、さっさと外へ足を運んだ。

 

工事現場に着くと、周囲を行き交う作業員の中でも一際大きな背中に声をかける。

 

「よう、ベン。」

 

「社長か。おっ、スズツキ君も。先日ぶりだね。元気そうで何よりだよ。」

 

「はい、ベンさんも怪我は大丈夫でしたか?」

 

「クマのシリオンを舐めちゃ困るね。あれくらいへっちゃらさ。」

 

そう言うとベンは豪快に胸を叩く。

 

やはり一見して彼の方が社長らしいと感じたスズツキだったが、もし口に出せば隣の友人が不機嫌になることは確定である為、出かかった言葉は飲み込むことにした。

 

それでも何故かジロリと視線を感じたことは気のせいだと信じたい。

 

「そうだった。これから体験か。」

 

「どうせならスズツキが担当しなかった区画に案内しようかと思ってる。ここらへんじゃ地味だしな。」

 

「それが良いね。今なら昼休憩に向けて作業度合いもそれほどじゃないし。」

 

「りょーかい。スズツキ、行くぞ。」

 

「はーい。」

 

それからクレタの案内による職業体験が始まった。

 

とはいえスズツキにとっては数日前まで見ていた光景だった上に、学生に任せられる作業というのも単純なものだけだった。

 

しかし今回は歩行型火力支援ユニットこと鍾馗というチートアイテムは無く、全て己の腕力でやらなければならない。

 

そして早速ヴィクトリア家政最弱の細い手足は悲鳴を上げ始めていた。

 

「ぐえぇ……重いぃ……。」

 

「おいおい、この前までは鉄骨を楽々持ってたじゃあねえか。もうギブアップか?」

 

「あれは鍾馗があったから出来たことでしょ……というか前より手作業が増えた?」

 

「ハンス達がコアだけになっちまったからな。今までアイツらがやっていたことに有人式重機の大半を回してる。その分、多少の雑務は手でやる必要が出てきたってわけだ。」

 

「まじ……そっちも大変だねぇ……。」

 

幸いなことにあくまでも体験という名目だったことから、すぐに作業は切り上げられ、次の場所へと向かった。

 

暫定的な光源が設置されたトンネル内を進んでいけば、新たな分岐を作っているようで、大柄な機械が鎮座しているのが見えてくる。

 

「これは……シールドマシン?なんか尊厳破壊されたハンスに見えるんだけど……。」

 

「ああ、本来ならV型の論理コアを乗せる予定だったんだが、例のゴタゴタで開発が後回しになった。代わりに今はボンプが直接操作してる。」

 

「グレースさんはこんなデカいものにまで頭と口をつけるつもりなのか……。」

 

「な、ここまで来るとゲテモノ臭が漂ってくるぜ。」

 

「いや、普通にカッコよくない?ひとつの任務に特化した機体って。」

 

「……そういやお前はそっち側だったな。」

 

それからも2人は複数の現場を周った。

 

周りの社員達は普段は見ない年相応の社長の姿に一瞬は目を丸くするも、すぐに状況を察し、見守ることに徹する。

 

「ん……あっ、おチビちゃん……。」

 

テント式の簡易的なハンガーの中、グレースの姿は整備中の試作無人重機、プロトタイプもといギローイの上にあった。

 

白から黄色に塗り替えられた機体に腰掛けていた彼女だったが、ふと視界の端にスズツキとクレタが映り込む。

 

連れ立って歩く2人の姿を見て、グレースは微笑ましく思った。

 

そして同時に安堵していた。

 

あいにくと白祇重工の社員達は大人と呼べる年齢層ばかり。

 

だからグレースとしては同年代の居ない環境に置かれたクレタを少し心配に思っていた。

 

自分達だけでは友人が居ないことに対する孤独は埋められないのではないかと。

 

「ふふ……おチビちゃん、良い顔してるねぇ。そう思わないかい、ギローイ?」

 

[はい、この場合、角が取れているといった表現が当てはまるでしょう。]

 

「うんうん、おチビちゃんはまだちょっとツンツンしているところがあるからね。ああやって心を開く相手が増えたことは良いことだ。」

 

[はい、別の表現を用いるのなら『雌の表情』というヤツでしょうか?]

 

「なっ……!?ギローイ!私はそんな破廉恥な言葉を教えた覚えは無いぞ!?」

 

すかさず手元の端末を操作し、ギローイの頭の中を覗き込もうとするグレース。

 

彼女の行動から即座にギローイも反応すると、弟妹達と同じくその場から逃げ出そうとする。

 

まあ、幸いにも脚は換装中で外されていた為、胴体が固定された台が少し揺れただけであった。

 

「……アイツ、またやらかしてないか?」

 

「多分反抗期が来たんじゃない?」

 

「冗談よしてくれ。もうあんな騒ぎは御免だよ。」

 

本当に嫌だったのか、クレタはウンザリとした表情を浮かべた。

 

騒がしいハンガーを尻目にプレハブへ戻ると、昼休憩を挟み、午後からは座学での説明を受ける。

 

とはいっても部屋にはスズツキとクレタしかいないのだが。

 

「てな感じでウチは今後とも製造事業をだな……おい、何笑ってやがる。」

 

「いや、プロジェクトの内容から今後の会社の展開まで全部把握していて、クレタって本当に白祇重工の社長なんだなぁって……同い年なのに凄いや。」

 

「あ、当たり前だろ。お飾りとでも思ったか?」

 

口ではこう言っているものの、クレタは上機嫌そうに胸を張る。

 

「まあ、ある意味では?皆んなのマスコット的な……。」

 

「あ?」

 

「はい、すみません今のは大変失礼な発言でした。」

 

一転してジロリと至近距離からガンを飛ばされて縮み込むスズツキ。

 

だがクレタが眼前に居ることで、彼女の白い肌はきめが細かくてすべすべしているだとか、燃えるような赤い瞳は少しオレンジがかっていて、琥珀みたいで綺麗とか、良い匂いがするだとか、関係ない思考が入り込んでくる。

 

一方、クレタの方も見つめられていることに遅れて気付き、慌ててスズツキの顔面を掴んだ。

 

「うべっ……!?」

 

「な、何ジロジロ見てやがる。変態め。」

 

「近ぢゅいてきたのそっちぃ……。」

 

「まったく……。」

 

クレタは悶々としながらも講義を続け、途中からは質問という名目での雑談が行われた。

 

日常のたわいもないことについて駄弁っていると、気付けば窓から見える日が傾き始めていた。

 

つまりはもうお別れの時間である。

 

「……明日も学校なのか?」

 

「また勉強の毎日に逆戻りだよ。今日はありがとね。色々楽しかった。」

 

「うん……そいつは良かったよ。」

 

クレタは寂しさを感じていた。

 

少し肩を落としたような、明らかにしょぼんとした姿にスズツキも彼女の異変に気付く。

 

「クレタ?」

 

「あぁ……いや、なんでもない。」

 

「なんでもなくはないでしょ。何か悩み事?」

 

「悩み事って程でもないさ……ただ……何というか……。」

 

「愚痴なら聞くよ。一介の学生で良ければだけど。」

 

「そ、そうか?」

 

「うん。」

 

クレタは一度考え込むと、ポツポツと呟き始めた。

 

「まあ……ちょっと思っただけさ。私が進学を選んでいたら、今とはまた別の日々を過ごせていたのかなって。」

 

「そっか……もしクレタがクラスメイトだったらすごく頼もしい存在になってただろうね。」

 

「どうしてだ?」

 

「だってクレタにはカリスマ性があるじゃん。きっとクラスの皆んなを引っ張っていってくれそう。」

 

「……褒めたって何も出ねーぞ。」

 

「本当のことを言ってるだけだよ。事実、現場でも指示は的確だし、理不尽なことはしないし、お礼は小さいことでも言うし、逆に間違ったら謝ることも忘れないし……。」

 

スズツキからの突然の賞賛に、クレタは他人から認められたことに対する嬉しさと、色々と観察されていた恥ずかしさから頬の赤みと口角の緩みを抑えきれなかった。

 

再びそっぽを向き、どうにか表情を隠す。

 

「潜入してた時も社員さん達、クレタのこと褒めちぎってたよ?骨を埋めるとか宣言してる人まで居たし。」

 

「そりゃ……良かった。」

 

すっかり縮こまってしまったクレタだったが、それを横目にスズツキは考え込む。

 

「ねえ、クレタ。」

 

「な、何だ?」

 

「もし、本当に高校を体験出来るならどうする?」

 

「……正気か?」

 

「そのつもり。『体験入学』ってのがあるからね。」

 

クレタはスズツキからの突然の提案に笑みを漏らしたが、彼の表情は至って真剣なものだった。

 

それを前にクレタも一度熟考する。

 

確かに高校に興味はある。

 

だが目的はあくまでも学業ではなく……。

 

「……なあ。」

 

「うん?」

 

「そこに……お、お前は居るのか?」

 

クレタは恥ずかしそうに小さく呟く。

 

対してスズツキは笑顔で応えた。

 

「もちろん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

職業体験から少しして、スズツキは変わらぬ学校生活を送っていた。

 

「いってらっしゃーい。」

 

先に出勤する両親を見送ると、急いで朝ごはんを掻き込み、歯磨きや着替えを行う。

 

今日はとあるイベントがある為か、昨晩は上手く寝付くことが出来ず、寝坊気味となってしまったのだ。

 

出発予定時間が迫る中、慌ただしく家の中を行き来していると、インターホンの電子音がリビングから聞こえてきた。

 

「ん?宅急便か?」

 

急な来訪者にスズツキは首を傾げるも、取り敢えず玄関の扉を開ける。

 

ドアガードの隙間から見えたのは1人の少女だった。

 

しかしあいにくとその格好と髪型に見覚えはなく、似た背格好の友人は居ても、雰囲気がまるで違う。

 

スズツキが半端警戒していると、少女が顔を上げた。

 

「お、おはよ。」

 

「……え"っ。」

 

見えてきたのは赤い隻眼と黒いアイパッチ。

 

まさにクレタ・ベロボーグその人だった。

 

服装は清楚な印象を受ける白のセーラー服となっており、髪型も単に癖っ毛を縛っただけではなく、ストレートに整えられた赤髪をツインテールにしていた。

 

スズツキは一度扉を閉じると、すぐにロックを外して再度開く。

 

「く、クレタ!?クレタだよね!?」

 

余りの変化に驚きを隠せないスズツキだったが、彼の反応を前にクレタは呆れの表情を浮かべる。

 

「何だ?アタシの判別方法はツナギとカチューシャってか?」

 

「あっ、良かった。クレタだ。」

 

「まったく……って、おい。」

 

スズツキは物珍しそうにジロジロとクレタを観察する。

 

彼女の周りを一周し、更に二週目へ入ろうとすると、またもや顔を鷲掴みにされた。

 

「いだででで……!」

 

「ほぅ……この格好がそんなに面白いかよ。」

 

「いやその……いつも作業着だったからギャップというか……とにかく可愛かったから見惚れて……ほぎゅ……!?」

 

「な、何言ってやがる……!始業時間が迫ってるぞ。早く準備しろ……馬鹿っ。」

 

「あ……た、確かに!」

 

スズツキは急いで家の中に戻った。

 

彼の姿がドアの向こう側に消えると、クレタは頬を赤らめながらホッと安堵の息を吐く。

 

そして少し離れた曲がり角、コンクリート塀から顔を覗かせているグレースとリンに向かって親指を立てた。

 

片や目を輝かせ、片や血涙を流している。

 

ちなみに前者が髪型と服装のコーディネート、後者が体験入学の為の手続き(偽造)担当だ。

 

それから数分後、不審者2名に見守られながらスズツキとクレタは学校へ出発した。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「けどびっくりしたよ。いきなり家の前に居るんだもん。」

 

「どうせなら登校からやっときたかったしな……迷惑だったか?」

 

「まさか。でも住所はどうやって知ったの?」

 

「プロキシに聞いた。」

 

「なるほどね……。」

 

「すまん、どうせなら驚かせたいと思って。」

 

「十分驚かせてもらったよ。あと、謝るならこっちの方かな。」

 

「何でだ?」

 

「すごく今さらだけどさ……性別を騙すようなことして、ごめんね。」

 

「あぁ……いいさ、別に気にしちゃいない。」

 

「でもせっかく友達って言ってくれたのに……。」

 

「女でも男でもダチはダチだ。むしろお前が男で良かったかもな。」

 

「どうして?」

 

「そりゃまあ……それ以上になれるし……やっぱ何でもない。」

 

「え?なんて?」

 

「うっさい、馬鹿!」

 

「おっ、おほっ……!」

 

「……何だよ。」

 

「ね、ねえ……『あんたバカァ?』って言ってみて。」

 

「お前、馬鹿なのか?」

 

「おぉ……。」

 

「ビクつくな。気持ち悪い。」

 

「あっ……おまけ付き……。」

 

「やっぱお前、姉貴みたいなところあるな。」

 

「天然コスプレしてくるクレタが悪い。」

 

「誰がコスプレだ。てか時間って大丈夫なのか?」

 

「げっ!?そうだった!」

 

「ほら、早く行くぞ。今なら早歩きで間に合う。」

 

「はいぃ……あっ、そうだ。学校では僕が先輩だからよろしく。」

 

「そうかい。なら昼飯もジュースもゲーセン代も全部奢ってくれるよな?センパイ?」

 

「……や、やっぱ無し。そのうちボコされそう。」

 

「おいおいおい、面白くねぇな。せっかく下剋上しようと思ったのに。」

 

「勝てない勝負には乗らない主義なの。」

 

「ふーん……じゃこっちから仕掛けるとするか。」

 

「えっ、冗談っすよね?パイセン?」

 

「脂の乗った美味そうな獲物が目の前に居るとなりゃあ、逃すわけにはいかないだろ。」

 

「……お、お手柔らかに。」

 

「善処する。」

 





「あぁ……おチビちゃんもやれば出来るじゃあないか……。」

「うぐぅ……これはスズツキ君との時間を確保する為……決して敵に塩を送ったとかそういうのじゃあない……!」



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