ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

36 / 45

最新のメインストーリーで涙腺へのコマンド攻撃を受けた作者です。もちろん決壊しました。

リュシアは餅も含めてブラックポリクロームを動員して引きました。よってイドリーはすり抜けたら終わりです。

今回の話は前回の続きです。盛り過ぎてほぼ2話分みたいになってます。



35 レベルカンスト中学生(下)

クレタによる高校への臨時登校。

 

スズツキが考えた手法は単純だった。

 

彼の通う高校では、毎年『次年度の受験生向けの体験入学』が行われている。

 

その制度を利用して、クレタを『中学三年生』として申し込んだのだ。

 

もちろん、年齢は一歳ずれている。

 

だが、別に貶すつもりはないが、彼女の見た目のおかげで、誰も疑いはしなかった。

 

「じゃ、また後でね。」

 

「おうよ。」

 

スズツキはクレタと職員室前で別れ、先に教室で待つ。

 

既にクラスメイトたちは『体験生が来る』という噂でざわついていた。

 

男子はそわそわと落ち着きがなく、女子は冷ややかな視線を彼らへ送っている。

 

「ふふ……もう来る頃かなー?」

 

スズツキは友人の到来を楽しみに待っていると、その時、教室のドアが開かれ、担任の先生が入ってきた。

 

男子連中はらしくもなく静まり返り、女子達も無意識に背筋を伸ばす。

 

「えー、皆さん、既に知っている人も居ると思いますが、今日から2日間、中学生の体験入学が行われます。そしてこのクラスにも1人来ることとなりました。」

 

先生の発言にたちまちザワザワと喧騒に包まれる教室。

 

それを先生は手で制すると、ドアに向かって手招きをした。

 

直後、ガラリと扉が開き、1人の少女、クレタが入ってくる。

 

彼女を前に男子はもちろん、今まで静観していた女子まで目を奪われていた。

 

それくらい今のクレタの姿は可愛らしいものだった。

 

「へぇ……。」

 

「可愛い……お人形さんみたい……!」

 

「あの海賊みたいな眼帯は何だ……?」

 

再びザワザワと騒がしくなる教室だったが、先生が軽く咳払いをする。

 

「じゃあクレタさん、軽く自己紹介を。」

 

「クレタ・ベロボーグだ。今日から2日間、よろしく頼む。」

 

その短い言葉と、落ち着いた声。

 

低いトーンに、真っ黒な眼帯という印象的な装飾もあってか、教室は一瞬で静まり返った。

 

まるで数学担当の怖い先生が来た時のように、普段はうるさい男子までが大人しく黙り込む。

 

流石は会社を束ねる社長といったところだろうか。

 

見た目は中学3年生で通っても、その覇気の強さはそこらの大人よりも遥かに勝っていた。

 

圧倒される生徒達だったが、後ろから聞こえてきた声で我に返る。

 

「はいっ、クレタさんに質問です!」

 

誰もが緊張の面持ちをしている中、唯一、スズツキだけが平然と手を挙げていた。

 

「……あ、ああ、スズツキ君、どうぞ。」

 

「好きなものは何ですか?」

 

スズツキに気付いたクレタは目を見開いた。

 

対してスズツキがニタニタと笑みを浮かべながら軽く手を振れば、彼女はふいと視線を逸らす。

 

「す、スイーツ……です。」

 

「具体的には?輝磁コーナー?富士家?バーキンロビン?」

 

「……ゴルバチョコです。最近では特にプレアデスカップケーキがお気に入りです。」

 

「おぉ、確かにあそこのスイーツは美味しいですよね。まあ、ちょっと高いのがネックですけど。」

 

スズツキの臆さない姿勢に驚くクラスメイト達だったが、質問に対するクレタの解答を聞いて態度を軟化させた。

 

更にはスズツキが行けたのならと、続いて手を挙げる生徒が現れる。

 

クレタも辿々しいながら返答を繰り返していけば、段々とクラスの彼女に対する印象が変わっていった。

 

「ふぅ……。」

 

どうにかクレタの第一印象を良い方向へと修正出来たことにスズツキは安堵の息を吐く。

 

軽い紹介が終われば、先生がクレタの席を指定する。

 

すると案の定というか、隣に座っていた友人と交代する形で彼女が腰を下ろして来た。

 

「や、久しぶり。」

 

「10分しか経ってねーよ。」

 

2人のフランクな間柄をクラスメイト達は物珍しそうに眺める。

 

例えるなら歴戦のエリート特殊部隊員と、制服姿のほんわかとした美少女が親しくしている感じだろうか。

 

どちらがどちらかは言うまでもない。

 

それからはクラス中の視線を受けながらの授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

授業中はクレタに教科書を見せる必要があった為、机をくっつけながら先生の話を聞いた。

 

今は数学の時間、スズツキは早速方程式の理解を放棄すると、真横に居るクレタへ小声で囁く。

 

「ねえ、内容分かる……?」

 

「舐めんな……計算くらい楽チンだよ……。」

 

「おぉ……じゃあ教えてくれない……?」

 

「……しょうがない先輩だな。」

 

やはりクレタは社会を渡ってきただけあって、実務に関する知識や技能は豊富に揃えていた。

 

また知らないことでもすぐに理解出来た。

 

よって理系科目ではスズツキが教えられる場面が多く、逆に文系科目の授業では船を漕ぐ彼の頭をクレタが何度も叩いた。

 

そんな先輩顔負けのスーパー中学生(書面上)を前に、クラスメイト達は次第に興味を持っていった。

 

「ねえ!クレタちゃんってどこから来てるの?」

 

「何か好きなこととかある?」

 

「どうしてここの学校を選んだの?」

 

昼休みになった途端、クレタの周りを男女問わず沢山の生徒が取り囲み、彼女を質問攻めにした。

 

隣ではスズツキが弁当を片手にこっそりと脱出を図ろうとしたが、すぐにクレタの手が彼の襟首を鷲掴みにする。

 

「逃げんな。」

 

「ハイ、イエ、閣下の昼ご飯を買ってこようカト……。」

 

「なら焼そばパンとメロンパン、おにぎり系1つな。5分以内で頼むぜ。」

 

「イエス、マム。」

 

「あ、牛乳もだ。」

 

「御意。」

 

小間使いのように颯爽と教室の外へ姿を消すスズツキ。

 

その様子を見て、1人の女子が好奇心を抑え切れなかったのか、小さな声でクレタへ聞いてきた。

 

「ね、ねえ、授業中もそうだったけどさ……スズツキ君とはどんな関係なの?すごく仲良さそうだけど……?」

 

「アイツはダチだよ。」

 

「ダチって……友達のこと?」

 

「友人……ってわけでもないな。もっと特別な間柄だ。」

 

クレタとしては背中を預け合って巨大な敵を倒した、いわば戦友的な意味合いで言ったつもりだった。

 

しかし思春期真っ盛りの、恋バナ大好き星人である女子連中はそうは受け取らなかったようだ。

 

途端に合法百合だの推しカプ誕生だの、キャーキャーと黄色い声をあげ始める。

 

その隙にクレタは現場からの離脱を図った。

 

教室から出たところで、スズツキが息荒く駆け寄ってくる。

 

「はい……焼そばパンと鮭おにぎり、メロンパンは無かったからフルーツサンドだけど……。」

 

「ご苦労、なんか手慣れてんな。」

 

「パシリの経験はあるんでね。それより場所を変えようや。教室じゃ騒がしいでしょ。」

 

「アテが有るのか?」

 

「うん、いつも使ってるところ。」

 

スズツキが案内したのは図書館棟の2階だった。

 

長い廊下にポツンと置かれたベンチへ2人は腰を下ろす。

 

「へぇ、中々に良い場所じゃねえか。」

 

「でしょ?図書館棟は遠いから誰も来ないんだよね。」

 

スズツキは持参の弁当を、クレタは購買のパンをそれぞれ食べ始める。

 

そしてある時、スズツキは弁当の中から唐揚げを摘むと、隣から視線を向けられていることに気付く。

 

そちらを向けばクレタと目が合った。

 

「欲しい?」

 

「えっ、あぁ……いいよ。お前のだし。」

 

「いや、むしろ味見してくれない?」

 

「スズツキが作ったのか?」

 

「うん、この唐揚げ、昨日仕込んだんだ。味について意見が欲しいかも。」

 

「ふーん……じゃあそこまで言うなら……。」

 

クレタは一度焼きそばパンを膝に置く。

 

すると彼女の口元へ箸に摘まれた唐揚げが突き出された。

 

「はい。」

 

「えっ。」

 

「……あっ。」

 

クレタの戸惑う顔を前にスズツキは自分がやっていたことを理解し、慌てて手を引っ込めた。

 

「ごっ、ごめん……つい癖で……。」

 

「だ、大丈夫だ……。」

 

やはり食べておけば良かったかと、軽く後悔しかけるクレタだったが、直前の会話から強い違和感を覚えた。

 

途端に彼女の声色がワントーン下がる。

 

「……待て、癖ってどういうことだ。こんなことをしょっちゅうする相手が居るのか?」

 

クレタはずいとスズツキの目を覗き込む。

 

対してスズツキは、エレンを想起させるようなその威圧感を前に誤魔化す勇気さえ湧かなかった。

 

「えと……その……先輩に……。」

 

「先輩ってあのサメか?」

 

「そ、そう……おかずをよく掻っ攫っていくから……。」

 

「ここをよく使ってるとも言ってたな?いつも一緒に食べてるってことか?」

 

「毎日じゃないよ?週に2回くらい……。」

 

「2人きりで?」

 

「さ、3人で……。」

 

「あぁ……確かにもう1人居たな。」

 

「ハイ……。」

 

「ふぅーーん……。」

 

スズツキが返答をする度にクレタの不機嫌度が上がっていく。

 

一連の聴取が終わる頃にはクレタはすっかりご機嫌斜めだった。

 

どうしたものかと頭を抱えるスズツキだったが、直後、ドンと隣から肩がぶつかってくる。

 

そちらを向けば、半身をぴったりと寄せて来るクレタの姿が。

 

「な、何?」

 

「ほら、早く寄越せよ……唐揚げだよ。」

 

「あ、うん、はい。」

 

言われた通り、箸と弁当箱を渡そうとする。

 

しかしそれを手で押さえられた。

 

理解が及ばず、頭上に疑問符を浮かべていると、クレタがじれったそうに自分の口を指さす。

 

ここでようやく彼女の言わんとすることを理解した。

 

「まじ?」

 

「何だよ。先輩には出来てアタシには無理ってか?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど……。」

 

「なら早くしろ。」

 

んあ、と小さな口を開くクレタ。

 

スズツキは僅かな背徳感を覚えたが、目の前の隻眼が半目になる前に唐揚げをさし出す。

 

彼女はそれをひと口で頬張り、もっちゃもっちゃと、両の頬いっぱいに含みながら咀嚼する。

 

その見た目は、単なる見た目だけで言えば、リスやハムスターのようで可愛いらしいものだった。

 

「どう?美味しい?」

 

「んぐ……ごくっ……ああ、美味いぜ。味付けはバッチリだ。」

 

「そっか。それは良かった。」

 

クレタの反応に、ホッと2つの意味で安堵するスズツキ。

 

それからは特に何事も無く平和に昼休みの時間を過ごし、適当なタイミングで教室へと戻る。

 

だが実は彼らの背中を見つめ続ける人物が居た。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

学生の本分は勉強と遊びだ。

 

よって授業が終わった放課後の時間も重要である。

 

それはスズツキにとっても例外ではない。

 

「クレタ、早く帰ろ!」

 

「はいはい。」

 

直帰勢のスズツキはクレタを急かしながら学校の外を目指す。

 

だが昇降口で2つの影が行く手を阻んで来た。

 

見覚えのあるサメの尻尾と、その隣の小柄なシルエット。

 

お馴染みのエレンとカリンだった。

 

「遅いじゃん。」

 

「こ、こんにちは……スズツキさん。」

 

まるで昼ドラのワンシーンの如く、瞬時にその場がヒリついた緊張感に包まれた。

 

突然のことに固まるスズツキへ、ツカツカとエレンが迫る。

 

だが彼女の前にクレタが立ち塞がった。

 

「スズツキに用か?」

 

「アンタには関係ない。」

 

「コイツはアタシのダチだ。何かあるってんなら、こっちを通してほしいね。」

 

「スズツキはアンタのじゃない。部外者が出しゃばんないで。」

 

エレンの鋭い眼光が光るが、クレタも臆さずに睨み返す。

 

あたかも龍と虎がぶつかっているかのような、凄まじいオーラが周囲を圧倒した。

 

1秒が1時間に感じるほどの緊張感が続く。

 

張り詰めた空気の中、先に口を開いたのはクレタの方だった。

 

「おい、アイツどこいった。」

 

「ちっ……カリンちゃんめ……。」

 

気付けばスズツキはどこにも居なかった。

 

ついでにカリンの姿も見当たらない。

 

急いで外に出ると、スズツキを肩に担ぎながら校門へ向かうカリンを見つけた。

 

もちろん即時確保からの連行だ。

 

「……早いね。」

 

「当たり前だ。てか何逃げてんだよ。」

 

「たらし野朗……あとどんだけ増やせば気が済むの?」

 

「うぅ……今日こそは独り占め出来ると思ったのに……。」

 

ギスギスとした空気の中、スズツキは3人に拘束されながら帰路に就く。

 

そして駅に着くと解放……とは行かなかった。

 

スズツキにクレタがついていくと、一度は離れたエレンとカリンも回れ右をして戻ってきたのだ。

 

「おい、何でここにいやがる。お前らは反対方向だろうが。」

 

「別に。気分というか。」

 

「ま、間違えてしまっただけで……。」

 

「なら次の駅で降りろよ?」

 

「アンタに命令される筋合いは無い。」

 

「まあまあまあ、落ち着いて。」

 

間に入るスズツキだったが、3人からの強い視線に小さくなる。

 

どこに寄るかといった論争が巻き起こり、ああでもない、こうでもないと意見が飛び交う。

 

結局、決まったのは安牌の六分街だった。

 

定番のゲームセンターへ入ると、早速エレンとクレタが火花を散らし始める。

 

「アンタ、ちょっと調子乗ってるよね。数日の間にスズツキと何したのか知んないけど。」

 

「へっ、ただ背中を預け合っただけさ。まあ?単なる先輩とはワケが違うかもしれねえけどな。」

 

「は?今までアイツのお守りをやってきたのは私だから。ぽっと出のちんちくりんが出しゃばんないで。」

 

「ほぉ……?スズツキも大変だぜ。こんな面倒臭いヤツがいつも周りをウロチョロしてんだからな。」

 

2人が両手に持ったのはエアホッケーのスマッシャー。

 

誰もが目を見張る超速のバトルが始まった。

 

ちなみにスズツキは漁夫の利を得たカリンに連れられて、一緒にプリクラを撮っていた。

 

それからも何やかんやで対戦型ゲームを楽しんだり、カラオケ屋で熱唱したり、何故か現れたリンに連れられて映画を観たりした。

 

気付けば空はすっかり暗くなっていた。

 

というか早く帰らないと補導されそうな時間帯だ。

 

「じゃ、また明日ね。」

 

「さようなら。」

 

駅でエレンとカリンと別れ、スズツキとクレタは同じホームで電車を待つ。

 

スズツキは隣のクレタを伺うと、彼女は満足気な様子だった。

 

「ねえクレタ、今日は楽しかった?」

 

「ああ、すごく楽しかった。ありがとな、スズツキ。」

 

「うん、まあ今回僕はほとんど何もしてないけどね。手続きとかはリンさんとグレースさんがやってくれたし。」

 

「馬鹿、そうじゃねえよ。」

 

クレタは一度口籠もる。

 

誤魔化すように頬を掻くと、彼女は小さな声で言葉を続けた。

 

「まず言い出しっぺが居なきゃ今日のことはなかった。それに……お前が居たから楽しかったんだろうが。」

 

クレタの発言にスズツキは目を丸くする。

 

どう返せばいいのか固まっていると、沈黙に耐え切れなかったクレタが肘で小突いてきた。

 

「ぐえっ。」

 

「何か言えっての……!」

 

「く、クレタが楽しめたのなら良かった。でも今回で終わりってわけじゃないからね?」

 

「分かってる。明日まであるからな。」

 

「違うよ。こうして遊ぶこと。また暇な時はどこか行こ?」

 

「っ……ああ!」

 

スズツキからの笑顔にクレタはそっぽを向く……ことはせず、今度は同じ笑顔で返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

次の日もスズツキはクレタと一緒に登校した。

 

教室に入ると、何やら男子連中が興奮気味に騒ぎ立てており、対照的に女子達は心配そうにソワソワとした様子だった。

 

スズツキは隣のクレタに話しかける。

 

「ねえ、今日って何かあったっけ?」

 

「お前なぁ……。」

 

クレタは呆れながらもファイルから1枚のプリントを取り出す。

 

そこには『ホロウ内実習』の文字が。

 

「どうやらホロウ災害に備えて、避難訓練みたいなのをするみたいだな。」

 

「ほーん……そっかぁ……。」

 

プリントを眺めながらスズツキはニタァと、得意げな笑みを浮かべた。

 

すかさずクレタがその緩んだ頬を引っ張る。

 

「おい、馬鹿なことは考えるなよ。本来はライセンスの無い一般人がホロウに入ることは違法だからな。」

 

「わ、分かってる。守秘義務だってあるし。」

 

「まったく……こういうのは普通お前の方が神経質なもんだろうに……。」

 

「えへへ……まだ新人なもんですから……。」

 

その時、教室に先生が入ってくる。

 

案の定というか、HRの内容はホロウ実習についてだった。

 

この後、近場の小規模ホロウに入り、ホロウの環境を体験した上で、災害時の対応を学ぶとのこと。

 

その際にHIAの職員が同行してくれるらしい。

 

危険性に関しては、HIAの仮拠点までしか行かない為、限りなく安全だと先生は話していた。

 

「なあ……これ大丈夫なのか?」

 

「小さいホロウならだいぶエーテリアスの数も少ないよ。よほど奥へ入り込まない限り安全な筈。」

 

「だといいんだがなぁ……裂け目とかありそうだし……。」

 

「大丈夫だって。心配無いよ。」

 

スズツキはそう言うものの、クレタの中で懸念は払拭されなかった。

 

そして数時間後、それは現実となる。

 

ホロウでの脅威はエーテルとエーテリアスに限らなかった。

 

金の為に違法行為を繰り返す犯罪者集団、ホロウレイダーの一団に目を付けられてしまったのだ。

 

彼らはHIAの拠点へ現れると、銃やバットを突き付けて脅してきた。

 

「おい!ガキども!動くんじゃねえぞ!」

 

「てめえもだ先公!妙なマネはしない方が身のためだぜ!」

 

コピー品の耐侵蝕装備を身に纏った野朗共がスズツキとクレタを含めた生徒達を取り囲む。

 

先生やHIAの職員達も生徒が人質に取られては、碌な対応も出来なかった。

 

結局、全員が大人しくひと塊になって地面に座る。

 

大半の生徒が今の危機的な状況に顔を青くしていたが、スズツキとクレタだけは平然としていた。

 

「どーしてこうなるかな……?」

 

「どうする?このままじゃヤバいぞ。」

 

「うん……僕とクレタはまだまだ余裕だろうけど、クラスの皆んながしんどいと思う。保って1時間じゃないかな。」

 

「だがすぐには終わらなそうだぜ。連中、身代金とか話してる。単にHIAの施設を荒らしただけじゃ物足りねえみたいだ。」

 

「でも通報しようにもここはホロウだし……。」

 

ホロウの中でも通信が可能な例のプロキシの有能さを改めて感じていると、クレタが何かを思い付いたのか、ハッと顔を上げる。

 

「いや、ある。通信手段はあるぞ。」

 

「リンさんはここには居ないよ?」

 

「違う。ウチもホロウ内で仮拠点を使うんだけどよ、その時、外部との連絡の為に親機をホロウの外に置いてるんだ。多分、有線で繋がった受話器がどこかにある筈。」

 

「空間が組み替えられて線が切られないの?」

 

「ここはまだ外縁部だ。余程の大規模ホロウかエーテルの活性でもない限り空間は安定している。」

 

「なるほど……。」

 

スズツキは少し離れた場所にあるHIAの施設へ目を向ける。

 

問題はあそこまでどうやって行くかだ。

 

「よし、分かった。トイレ作戦で行こう。」

 

「……そこはこっそりでいいだろ。」

 

「大丈夫、こういうのには経験あるから。」

 

スズツキはクレタの手を引いて立ち上がると、近くのホロウレイダーへ近付いていく。

 

すぐに相手の男も反応してくるが、対してスズツキは覚悟を決めると、視線と仕草を調整しながら口を開いた。

 

「あ、あの……私達、トイレ……行きたくて……。」

 

口元に手を当て、上目遣いと半トーン高い声色を意識する。

 

イメージは庇護欲溢れる小動物だ。

 

別に元からそこまで変わってないとかは言ってはいけない。

 

だが結果的にその効果は十分以上に発揮された。

 

本物の女子生徒が一部ズボンを履いていたことも相まって、相手の男は警戒する素振りも見せず、顎でHIAの施設を示す。

 

「トイレならあそこだぜ。監視はさせてもらうがな。」

 

その下衆な笑みを見て、クレタはスズツキに耳打ちする。

 

「……シメる。」

 

スズツキは小さく頷くと、施設へ足を運ぶ。

 

背後では男が他のメンバーにアイコンタクトを送っていた。

 

彼の笑みに仲間は何かのジェスチャーを返す。

 

少なくとも碌なことではないのは確かだろう。

 

「逃げようなんて考えるんじゃねえぞ。」

 

「……はい。」

 

建物内に入ると、女子トイレへ足を運ぶ。

 

ただ便器はひとつしかなかった。

 

先にスズツキが個室へ入ろうとするが、ここで背後の男が態度を豹変させた。

 

ヘルメットを脱ぎ捨てると、個室へ押し入り、スズツキの口を押さえる。

 

「っ……!」

 

「へへっ、叫んでもいいが、助けは来ないぜ?」

 

男は欲に塗れた笑みを浮かべ、スズツキの細い身体へ手を伸ばそうとする。

 

しかしスズツキの視線は男を向いていなかった。

 

彼の双眸が捉えていたのは、両手でデッキブラシを振り上げるクレタの姿。

 

その顔は無表情で、彼女の赤い瞳にも光は無かったが、憤怒の感情が全身から滲み出ていた。

 

直後、ゴン!と、男の後頭部へ強い衝撃が走った。

 

すかさずスズツキは頭上の棚を開け、中にあったスプレーやトイレットペーパーを床へ落としながら叫ぶ。

 

「い、いやっ!何するのっ!やだっ!やめ……んーっ!んー!」

 

ガンガンと壁を蹴りながら時折り男の顔面にも膝打ちを入れ、自らの口元を押さえてフェイクの喘ぎ声を続ける。

 

完全に男が伸びると、雑巾で猿轡(さるぐつわ)を噛ませ、テープで拘束した。

 

「……ふぅ、これでよし。」

 

「おい、大丈夫か?変なとこ触られてないか?」

 

ひと息付いていると、クレタが先程とは一転して、らしくもなくオロオロとした様子で手を伸ばしてくる。 

 

「大丈夫、問題ないから。」

 

「そうか……なあ、コイツ殺していいか?いいよな?」

 

「まあまあ、落ち着いて。それより早く行こう。」

 

「ああ……クソッタレ……私のに傷付けやがって……ぜってぇブタ箱にブチ込んでやる……。」

 

ブツブツと何かを呟きながら男の股間を蹴っているクレタを横目に銃器を回収すると、トイレを出る。

 

室内を探し回ると、確かに電話線の繋がった機器を発見した。

 

「で、これからどうする?今からHIAを経由して治安局が来ても時間がかかり過ぎるぜ。」

 

「だよねぇ……。」

 

残り時間が迫る中、スズツキは唸る。

 

直後、降って湧いたように妙案を思い付いた。

 

受話器を手に取り、番号を打ち込むと、相手が出るのを待つ。

 

だがその時、スズツキ達の背後に不穏な影が迫っていた。

 

「スズツキ、電話は任せた。」

 

「了解……!」

 

クレタは部屋を出ると、入り口付近の壁に張り付く。

 

どうやら敵の仲間が近付いてきたようで、窓越しに黒い影が見えた。

 

クレタは無力化した男から奪った棍棒を両手に握り、身を屈めながらドアの影で息を殺す。

 

「おーい、まだお楽しみ中かぁ?連れてくガキも決まったし、迎えのトラックもそろそろ到着するってよ。」

 

別の男がドアを開けて室内へ入ってくる。

 

彼はスズツキの声に気付いたようで、別の方向に注意が向く。

 

その隙をついてクレタは動き出し、相手の背後から勢いよく棍棒を振り下ろした。

 

「うがっ……!?」

 

ガァン!と、大きな音が響き、男のヘルメットがひしゃげる。

 

しかし昏倒には至っていないようで、男はふらつきながらも背後のクレタを捉えると、懐の拳銃を抜こうとしてきた。

 

「この……ガキ……!」

 

「やっべ!」

 

クレタは棍棒を投げ付けると、近くの机の下へ滑り込む。

 

直後、連続した破裂音と共に机上の書類が弾け飛んだ。

 

「ブッ殺してやる……!」

 

男は手当たり次第に机に向かって発砲し始めた。

 

マグカップが割れ、パソコンに穴が空き、紙片が宙を舞う。

 

クレタは這いずって進み続け、どうにか被弾を避ける。

 

「……クソッ、弾切れか!」

 

その時、カチカチと、引き金を引く金属音だけが室内へ響く。

 

男の拳銃はスライドが後退しており、弾を撃ち付くしていた。

 

しめたとばかりにクレタは再び動き出す。

 

今度は鉄製のペン立てを手に机の下から這い出た。

 

「このやろっ……!」

 

すると拳銃に替えのマガジンを挿し込んだ男と目が合う。

 

これにクレタは再度身を潜めようとした。

 

だが次の瞬間、ダダダン!と、耳をつんざく銃声が響き渡る。

 

クレタは床へ倒れ込みながら、思わず目を瞑った。

 

「——?」

 

だが今度の銃撃ではクレタの周りに跳弾はなかった。

 

代わりに男が呻き声を上げながら床へ倒れ込む。

 

「クレタ!」

 

「す、スズツキか……?」

 

「ごめん!遅れた!」

 

クレタが身体を起こすと、見えたのはカービンタイプのカラシニコフ自動小銃を構えたスズツキの姿。

 

銃口からは白い硝煙を燻らせている。

 

そして男の服には赤黒いシミがゆっくりと広がっていた。

 

呆然とそれを見つめるクレタだったが、急にスズツキに肩を掴まれると、床へ組み伏せられた。

 

スズツキの顔が眼前にあることに反応する間もなく、今度は屋外からの銃撃音がしたかと思えば、壁中に風穴が空き始める。

 

「クレタ!今、助けを呼んだ!あとは耐えるだけ!」

 

「で、でも、こっからどうするんだよ!」

 

「僕が囮になるから、皆んなをここから逃がして!」

 

そう言うと、止める間もなくスズツキは建物を出て、どこかへ行ってしまった。

 

残されたクレタは仕方なくクラスメイトの元へ戻る。

 

見張りもスズツキの方へ向かったようで、周囲に敵の姿は見えない。

 

「全員立て!早く逃げるぞ!」

 

「えっ……で、でも……。」

 

「身売りされたくなきゃ走れって言ってんだ!」

 

怯え切っていた生徒達だったが、クレタの剣幕に尻を叩かれると、ホロウの外に向かって逃げ出した。

 

先生とHIAの職員もそれに続いたのを確認すると、クレタは銃撃音が聞こえてくる方向へ踵を返す。

 

そして一方、スズツキは苦戦を強いられていた。

 

「畜生……いつもの装備ならもっと上手く出来るのに……!」

 

扱う方法は以前にライカンから教えてもらったとはいえ、慣れない銃器での実戦は難しいものだった。

 

だからひたすら適当に撃って全力で逃げるの繰り返し。

 

マトモな撃ち合いなんてとても出来ない。

 

「弾もこれだけか……。」

 

廃墟のアパートの一角に座り込み、残りの弾を数える。

 

状況は良くはないが、当初の目的の、敵を人質から引き剥がすことは成功している。

 

あとは助けが来るまで遅滞戦闘を行えばこちらの勝ちだ。

 

「うぅ……1人って辛いなぁ……!」

 

いつもの頼れる仲間が居ないことに不安を覚えるも、どうにか自分を奮い立たせる。

 

そして銃口を窓の外へ向けた。

 

「あのガキ、どこ行きやがった?」

 

「野郎……ちょこまかと……!」

 

追ってきた敵のホロウレイダーの1人に照準を合わせる。

 

目標は相手の脚、その外側。

 

射殺よりも戦闘不能を狙って相手戦力を削ぐのだ。

 

狙いを定めると、引き金にかけた指を強く引き絞る。

 

ダァン!と、破裂音が響き渡ると同時に敵の1人が倒れ込んだ。

 

狙い通り脚に当たっており、すぐに別の1人が助けようと銃を下ろし、もう1人がスズツキの居るアパートへ乱射してきた。

 

スズツキはすぐに階段を登り、射点を変える。

 

あとはヒットアンドアウェイを繰り返した。

 

「落ち着け……助けは来るんだ……絶対に……。」

 

1発でも被弾すれば即アウトという状況に、緊張感から息を詰まらせながらも、順調に敵の数を減らしていく。

 

だが屋上へ到達したことで、逃げ場が無くなってしまった。

 

階段の手すりから下へライフルを向け、最後の敵を待つ。

 

「来た……!」

 

四角い螺旋の一部に敵の姿が見えると、躊躇わずに引き金を引く。

 

しかしカチリと小さな金属音がしただけで、弾は発射されない。

 

どうやら不発弾だったようだ。

 

「なっ……これだからコピー品は……!」

 

ボルトハンドルを引きながら頭を引っ込めると、下階から敵が撃ち上げてきた。

 

跳弾が天井を抉り、パラパラとコンクリート片が降り注いでくる。

 

慌てて屋上の外へ転がり込むと、ジャムを起こしていた不良弾を手動で排出させる。

 

しかしマガジンに次の弾は入っていなかった。

 

「……マジか。」

 

スズツキは仕方なくライフルのハンドガードを両手で持ち、バットのように構える。

 

カツン、カツンと敵の足音が迫ってくる。

 

音に集中したいというのに、心臓が非常にうるさかった。

 

そして遂に足音がすぐそこで止まる。

 

ゴクリと生唾を吞み込んでいると、次の瞬間、ドアから白い腕が突き出され、手を振ってきた。

 

「おーい、スズツキ、居るかー?」

 

「クレタ……!?」

 

「お、居た。」

 

ひょっこりとクレタが姿を見せてくる。

 

「敵は?」

 

「心配すんな。下で伸びてるぜ。」

 

「そっか……。」

 

スズツキは安堵から壁にもたれかかった。

 

すると目の前からツカツカとクレタが近付いてくる。

 

そして頬を鷲掴みにしてきた。

 

「いで、いででで!にゃっ、にゃに!?」

 

「馬鹿野郎!危なかったじゃねえか!」

 

突然の怒声にスズツキは縮こまる。

 

「ご、ごめん……もっと銃を上手く扱えてたら……。」

 

「ちげーよ!アホ!」

 

頬から手が離されると、ドンと、軽い衝撃が身体に走った。

 

鼻腔へ漂ってくる甘い芳香。

 

肌を通して感じる人の暖かさ。

 

抱き締められていることに遅れて気付く。

 

思わず固まっていると、啜り泣くような、小さな声が聞こえてきた。

 

「あんな大勢相手に無茶して……お前に何かあったら……どうするつもりだったんだ……!」

 

「いや、クレタを危険に晒すわけにはいかないと思って……。」

 

「だからと言ってお前が危険に晒されて良いわけねえだろ……馬鹿……!」

 

「ご、ごめん……。」

 

スズツキは壁を背に腰を下ろし、クレタの頭を撫でる。

 

さっきとはまた別の意味で心臓の音がうるさかった。

 

少しの間、そのままの姿勢で居ると、クレタがポツリと呟く。

 

「なあ……お前は居なくならないよな?今も居るよな?」

 

彼女の声色は日中とは正反対の、非常に弱々しいものだった。

 

スズツキは言葉を選びながら、ゆっくりと口を開く。

 

「大丈夫……僕は居なくならないし、今もちゃんと生きてる。心臓が動いてるでしょ?」

 

「……ああ、お前の心音が分かる……よかった。」

 

クレタはスズツキの胸元へもたれかかる。

 

その顔は目元を赤く腫らしながらも、安堵に包まれていた。

 

「……スズツキ。」

 

「ん?」

 

顔を上げてきたクレタと目が合う。

 

今の彼女は涙を浮かべた、単なる眼帯美少女となっており、不意にドキリとしてしまった。

 

ジッと見つめていると、クレタも理性が戻ってきたようで、頬を赤く染める。

 

また肘打ちでもされるかと思ったが、意外にも手を出されることはなく、代わりに互いの間へ特別な雰囲気が生じた。

 

クレタの手がスズツキの頬へ添えられる。

 

そしてゆっくりと2人の顔が近付き……。

 

 

 

 

 

「スズツキ、随分と探したぞ。」

 

 

 

 

 

「へあっ!?」

 

「うおっ!?」

 

真横からの突然の声にスズツキとクレタは飛び上がる。

 

そちらを向けば、狐耳が特徴の少女、対ホロウ六課の『虚狩り』こと星見雅が立っていた。

 

2人は慌てて距離を取る。

 

「雅様?どうしてここに?」

 

「お前がお前の母に電話しているところを『偶然』聞いたのでな。こうして助けに来た。既に賊は全て拘束し、生徒も保護している。後はお前たちだけだ。」

 

「そ、そうでしたか……。」

 

屋上から下を見下ろすと、H.A.N.D.の職員に連行されていくホロウレイダーの姿があった。

 

だが職員の中に他の六課のメンバーが居ないことに気付く。

 

「あれ?柳さんとか蒼角ちゃんは居ないんですか?」

 

「……私は単独で先行したからな。仲間は後から来るだろう。」

 

雅の口調は普段通りだったが、目が少し泳いでいた。

 

きっと会議か事務仕事をサボったのだろう。

 

「雅様……まあ、おかげで助かりました。ありがとうございます。」

 

「うむ、それでなのだがな、スズツキ……。」

 

雅はスズツキの方へ足を進めてくる。

 

どこか彼女は怒っているように見えた。

 

「職業体験……来てくれなかったのだな。」

 

「えっ。」

 

「本来、このイベントにH.S.O.は参加しないのだが、柳に無理を言って教育省に話を通してもらった……その際、今後の会議に必ず出るという辛い条件を飲んだというのに……。」

 

「いや、そりゃ働く大人として当たり前だろ……。」

 

「く、クレタ……!」

 

「そうか……やはりお前はその女の元へ行ったのか……。」

 

ぷくー、と小さく頬を膨らませている雅にスズツキは必死に弁解を試みる。

 

やれ倍率が高かったの、知り合いとバレるのはマズかっただの、本当は行きたかっただの。

 

一通りの言い訳を述べる頃には雅も仕方がないと納得していたが、今度はスズツキの背後で真っ赤な隻眼が不機嫌そうに半目になっていた。

 

「へぇ……じゃあ何だ?つまり本命はコイツだったけど、ジャンケンに負けて嫌々ウチに来たってか?」

 

「えっ、いや、そうじゃない……というわけでもないけど……!」

 

「ふーん……そっか……私は2番目か……。」

 

「そうだ。スズツキは我々六課に入る。彼の高いホロウ適性は六課でこそ最大限に発揮されるだろう。」

 

「へっ、どんな仕事に就こうがアイツの勝手さ。だがな。」

 

クレタはスズツキの前に割り込むと、正面から雅へメンチを切る。

 

そして彼女の耳元へ囁いた。

 

「アイツは、アタシのだ……いいな?」

 

「色恋に興味はない。好きにしろ。」

 

「そうかい、なら良かった。」

 

クレタは踵を返すと、スズツキの腕を取る。

 

そして雅へ見せつけるようにぴったりと身を寄せた。

 

「じゃ、雅サンよ、アタシらはここで失礼させてもらうぜ。」

 

「あ……ちょっ……み、雅様!失礼します!」

 

ズルズルとクレタに引き摺られていくスズツキ。

 

アパートを出ると、荒涼としたホロウの中を出口に向かって歩いていく。

 

色々と濃密な時間を過ごした2人の顔は疲労感で溢れていた。

 

「……こりゃ、午後の授業は無いな。」

 

「良かったじゃん。サボれるし。」

 

「またどっか行く気か?」

 

「ルミナスクエアは?今日からイベントやってたよ。」

 

「何の?」

 

「確か果物とかスイーツのフェアみたいなのが……。」

 

「よし、行くぞ。早く行くぞ。」

 

スイーツと聞いてクレタは元気を取り戻す。

 

そしてスズツキの腕を掴んで引っ張った。

 

「わ、分かった。分かったから。落ち着こ?スイーツは逃げないし。」

 

「何言ってやがる。スイーツは逃げるぞ。客の腹の中にな。」

 

その時、スズツキの反対の手が誰かに掴まれた。

 

「その女の言うとおりだ。早く行かなければ私のメロンが無くなってしまう。」

 

「雅様!?」

 

「げっ、いつの間に……!」

 

風のように現れた雅を前に驚くクレタ。

 

彼女が手を離した隙に、雅はスズツキを両手で抱き上げた。

 

「うえっ……!?」

 

「あっ、何しやがる!」

 

「すまないな。やはり興味が無いと言ったのは嘘かもしれん。」

 

「そうかよ……あぁ、敵が多くて困るぜ……!」

 

「まったくだな。」

 

「てめっ……待ちやがれ!」

 

それから3人の姿はホロウの境界に消え、波瀾万丈のクレタの体験入学は終わりを迎えた。

 

ちなみに彼女の名前は犯罪者から生徒達を守った英雄として、または攫われたスズツキ姫をその身ひとつで救い出した王子様として、広く校内で知られることとなったそうな。

 

通称『レベルカンスト中学生』として。

 





「スズツキ、このメロンパフェは中々に美味だ。お前もひと口食べてみろ。」

「ただのメロンよりこっちのパンケーキが良いぜ。ほら、早く口開けろ。恥ずかしいだろうが。」

「ふ……ふぐ……くち……いっぱい……。」





「課長?やるべき仕事はまだまだ残っていますよ?」

「美味しそうなの食べてんじゃん。私にも分けてよ。」

「スズツキ君……昨日の今日で、また新しい女の子を侍らせるなんて、お姉さん関心しないな〜。」

「うぅ……まさか雅様までライバルになるなんて……。」




次回はようやくヴィクトリア家政ですね……もう出てるけど。

よろしければ高評価や感想などをお願いします。作者のモチベが爆上がりするので。

1話ごとの文字数ってどれくらいが読みやすい?

  • 8000字くらい
  • 6000字くらい
  • 4000字くらい
  • それ以下
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。