ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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新しい予告番組来ましたねー。ダイアリンに盤岳、葉瞬光……こりゃあ大変ですわぁ……。

ちな作者は引ける希望が出てきました。なんとイドリーが10連で出て来たのです!これでダイアリンを捨てずに済む……!



第五章 闇夜の楼閣、陰謀再び
36 束の間の休息


ここは摩天楼の一角に位置するヴィクトリア家政の拠点。

 

絨毯の敷かれた広いリビングルームの中。

 

そこへ悩むような、低い呻き声が響く。

 

「うぅむ……。」

 

パジャマ姿で椅子に座ったスズツキの目の前。

 

そこにあるのはまるで巌のような、筋骨隆々の大きな背中だった。

 

今しがたドライヤーとブラシをかけている、背中から尻尾にかけてのフワフワな白い体毛は心なしか倒れており、元気が無いような気がする。

 

怪訝に思ったスズツキは手を止めた。

 

「ボス、何かありました?」

 

むくりと眼前の背中が動き、その奥からライカンの顔が見える。

 

「いえ……前回手に入れた記憶素子、覚えていますか?」

 

「はい、白祇重工の無人重機から回収したものですよね?」

 

記憶に新しい、謎の敵との戦い。

 

クレタの操る最初期型汎用多脚重機、プロトタイプこと『ギローイ』とスズツキの歩行型火力支援ユニット、通称『鐘馗』の活躍によって敵融合体を撃破することに成功した。

 

敵の遺骸はH.A.N.D.へ、プロトタイプから回収した記憶素子はヴィクトリア家政を経由して市長の手へ渡った。

 

そしてそれら成果物は直ちに解析に回されることに。

 

全ては『サクリファイス』という単語の意味を知る為。

 

——だったのだが。

 

「えっ、解読出来なかったんですか?」

 

「はい……もちろん、政府にはその手のエキスパートを豊富に揃えています。ただ、今回の件は特定秘密の分野です。情報を開示出来る資格を持った人員の中に熟練の技術者が居なかったという事情だそうでして……。」

 

「なるほど……。」

 

スズツキは一度顎に手を当てながら考える。

 

そして新しい案を思い付くも、先回りしてライカンが口を開いた。

 

「ええ、いわゆるアングラな手も考えました。しかし信頼出来る相手ともなればかなり数は絞られます。」

 

「でも、きっと居ますよ。なら信頼出来る人に紹介してもらうってのはどうですか?例えば……。」

 

「『ジェーン・ドゥ』は山獅子組の壊滅と共に死にました。私が知っているのはその時の彼女ですから、今は接触不可です。」

 

「あー……。」

 

スズツキは次の選択肢を考える。

 

しかしライカンが唸る程なのだから、他の方法も全て駄目だったのだろう。

 

ならばもうお手上げに違いないと、思考を放棄しようとするスズツキだったが、あることを思い出した。

 

「ボス、ジェーンさんなら大丈夫なんですね?」

 

「はい、ですが連絡手段が……。」

 

「ありますよ!ちょっと待っててください!」

 

スズツキは椅子から立ち上がると、自分に割り当てられた部屋へ入り、目的の物を棚から取り出す。

 

そしてライカンに手渡した。

 

「プリペイド携帯ですか……まさかこれが?」

 

「はい、ジェーンさんの連絡先です。」

 

ライカンの大きな手に乗っているのはミニサイズの、最低限の機能のみを有した簡易的な携帯端末。

 

スズツキがジェーンに連れられてカジノで遊んだ時、連絡用として渡されたもの。

 

もし彼女の言葉通りなら、今も使える筈だ。

 

「じゃあ早速……あっ。」

 

スズツキは携帯端末の電源を点けようとしたが、直前に横合いから奪われてしまう。

 

見上げればサメパジャマに身を包んだエレンが立っていた。

 

彼女は訝しげに端末を眺めながら、保湿クリームを片手にソファへ腰掛ける。

 

「ふぅーん……あのネズミ女に繋がるホットラインねえ……ソイツ、本当に信用出来るの?」

 

「ジェーンさんなら大丈夫ですよ。ねえ、ボス?」

 

スズツキが目を向けた先ではライカンが顎に手を当てながら、真剣な様子で考え込んでいた。

 

少しの間を置いて、彼は口を開く。

 

「……いえ、今回はやめておいた方がいいかもしれません。」

 

「えっ、どうしてですか?」

 

「はぁ……まったく……。」

 

明らかに残念そうな表情を浮かべるスズツキを前に、エレンはムッとしながらも言葉を続ける。

 

「アイツ、本当は治安官でしょ。下手に機密を開示すれば、治安局に漏れる可能性が出てくるじゃん。」

 

「それだと何か問題ですか?」

 

「ありまくり。どこに敵の耳があるかも分からないってのに、軽々と部外者を引き込むのはリスクが高過ぎる。ヴィジョンに協力してた連中のこと、忘れたの?」

 

ちなみにエレンの中で、これらの意見は建前に過ぎなかった。

 

本音はただジェーンが現れることに『とある私的な理由(スズツキを近付けたくない)』から反対していただけだ。

 

しかしそんなことは露知らず、エレンの最もらしい説明にライカンはウンウンと頷く。

 

「エレンの言う通りです。ここはやはり慎重に動くべきでしょう。」

 

「むぅ……でも他に裏に通じてそうな、信頼出来る人なんて……。」

 

スズツキは再び考え込む。

 

その時、遊び仲間の機械人と猫のシリオン、映画通のハンバーガー少女が頭の中に浮かび上がった。

 

ついでに身近なプロキシ兄妹、その兄のガールフレンドも。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

それから少しの日数が経過した。

 

スズツキはとあるバーガーショップのカウンターで、ひとり立っていた。

 

自分の番号が呼ばれると、店員から渡されたトレーを、ハンバーガーやポテトがこんもりと積み上がったそれを持って席へ向かう。

 

キョロキョロと周りを見渡せば、店内の一角に見覚えのあるシルエットを見つける。

 

目が合うと、あちらが手を振ってきた。

 

「お待たせー。」

 

「おぉ!待ってました!」

 

「は、ハンバーガー……!」

 

テーブルに置かれたバーガーの山に目を輝かせる2人の少女。

 

片や猫耳と2つの尻尾が特徴の猫のシリオン、猫宮又奈こと猫又。

 

もう一方がヘッドホン装備の銀髪少女、アンビー・デマラ。

 

双方共に何でも屋、通称『邪兎屋』の構成員だ。

 

そしてもう1人。

 

ハンバーガーに対しては何ら興味を持たず、お預けを食らった子供のようにウズウズとしている。

 

「な、なあスズツキ……俺のは……?」

 

「分かってる。ちゃんと持ってきたから。」

 

スズツキはリュックから複数の四角い缶を取り出し、ゴトリとテーブルに置く。

 

ラベルに書かれたのは『機械人向け高純度オイル』の文字。

 

それを前に赤いジャケットを着た長身の機械人、同じく邪兎屋のメンバーであるビリー・キッドはキラキラと目を輝かせた。

 

「おいおいおい!よりにもよってモンテフィーノ・モービルの純正品じゃあねえか!」

 

「今度の依頼先がそこだったから、ついでに安く売ってもらったんだけど……それで大丈夫だった?」

 

「ああ!最高以外の言葉が見つからないぜ!」

 

「なら良かった。さ、どうぞ。冷めないうちに。」

 

スズツキがそう言うと、3人は嬉々として手を合わせた。

 

「「「いただきます!」」」

 

ポテトを両手で口に放り込んでいく猫又。

 

ハンバーガーへ大胆にかぶり付くアンビー。

 

ストローで機械油を吸い上げるビリー。

 

まさに一心不乱な様子の友人達を前に、スズツキは苦笑せざるを得なかった。

 

「あー……やっぱり最近も家計が苦しい感じなの?」

 

「むぐ……そ、そういうわけじゃない!嗜好品を買えるだけの余裕が無かったってだけだ!」

 

「……猫又が買ってきた情報がハズレだった。それだけ。」

 

「ちょっ……オマエ……!」

 

「何かしら?私は本当のことを言ったまでよ。」

 

いつものように火花を散らし始めた猫又とアンビーを横目にスズツキはビリーへ話しかける。

 

「で……どう?例の件、上手く行ってる?」

 

「レインには4日前に接触出来たぜ。ブツも渡したからもう終わってる頃だとは思うんだが。」

 

「そっか。」

 

ビリーからの返事にスズツキは安堵の息を吐く。

 

およそ1週間前、ヴィクトリア家政は邪兎屋を通じて『レイン』という人物を紹介してもらった。

 

目的はもちろん記憶素子の解析。

 

直接は会っていないが、ビリー達によればハッカーとして相当な実力を持っているとのことらしい。

 

ちなみに今のハンバーガーとオイルはいわゆる前金……という建前の個人的な差し入れだ。

 

「ありがとね。そっちも今は大変な時期だろうに。」

 

「いや、そーゆー小難しいことはほとんど親分に丸投げだよ。おかげで碌に依頼を受けられずに居たから、むしろこっちが助かったぜ。」

 

「貴方のところは本当に金払いが良いのね。プロキシ先生の羽振りが良くなる筈だわ。」

 

「うへへ……給料まだかな〜。」

 

その時、背後のテレビから気になる文言が発せられた。

 

内容は『元ヴィジョンの社長、パールマンの裁判』について。

 

スズツキはテレビの方を向く。

 

画面にはちょうど治安局の本庁に入っていくパールマンが映り込んでいた。

 

ニュースキャスターによれば、彼は明日の早朝に司法府の飛行船で裁判所へ移送されるらしい。

 

「ん、もう明日からなんだ。皆んなも証拠人として裁判に参加するんだよね?」

 

「正確にはニコよ。私達は付き添いで行くだけ。」

 

「ああいう言葉の投げ合いはニコの得意分野だからな〜。」

 

「それにしても飛行船って乗るの初めてだから楽しみだぜ。」

 

少し前、ヴィジョンによって発生した例のゴタゴタ。

 

表向きには主に邪兎屋が解決したこととなっており、市民からのヴィジョンへの訴えも彼女達が担当していた。

 

おそらく示談金か慰謝料をヴィジョンからふんだくるつもりなのだろう。

 

「じゃあ、頼んだものは明日以降になりそうなんだね?」

 

「すまないな。まあ、レイン次第なんだが。」

 

「何か連絡は来てないの?」

 

「ああ、まだ特にはな……ん?」

 

ビリーは自身の携帯端末が、誰かからのメールを受信していることに気付く。

 

同時に猫又とアンビーの端末からも着信の音が響いた。

 

「なんだぁ?悪戯メールか?」

 

「いや……これ、レインから送られて来てるわ。1回だけ事務的なメールを以前に送ってる。」

 

「アンビーならまだしも、私は連絡先すら教えてない筈なのに……。」

 

まさかの送り主は今しがた話していたレインだった。

 

スズツキも画面を覗き込むと、そこにあったのは空欄だけが打ち込まれたメール。

 

しかもそれが今なお、幾つも送られてきている。

 

「……ふざけてるわけじゃないよね?」

 

「さあ?少なくともそんなヤツじゃあなかったぜ。」

 

メールの内容は最後まで空欄のみで、文字のひとつも無かった。

 

全員でその意味を考えてみるも、さっぱり分からない。

 

結局、ライカンに聞くのが一番だろうと、スズツキは席を立つ。

 

もちろんメールの画面を撮ることも忘れない。

 

「じゃ、僕は行くね。上に報告してくる。」

 

「おうよ!奢ってくれてありがとな!」

 

「ご馳走様!またなー!」

 

「この恩は忘れないわ。また今度、映画でも見に行きましょう。もちろん、代金は私持ちで。」

 

「うん、なるべくホラーは無しでよろしくね。」

 

スズツキはビリー達に手を振ると、店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

空を仰げば目に入ってきたのは蒼穹に浮かぶ白い雲。

 

そしてビルの隙間から見える藍色の巨大な球体、共生ホロウ。

 

今日も新エリー都は活気に満ちており、街には沢山の人が行き交っていた。

 

スズツキは人混みに紛れながらヴィクトリア家政の拠点を目指す。

 

「……ん?」

 

だがある時、違和感に気付いた。

 

背後から誰かが着いてきている気がしたのだ。

 

まさかと思ったが、確かに相手は一定の距離を取って、後ろを歩いていた。

 

身体付きの分かりにくい格好をしており、顔もサングラスのおかげで確認出来ない。

 

「嘘でしょ……。」

 

スズツキは突然のことに焦りを覚えた。

 

まさかレインという人物に起こった異変と何か関係があるのだろうかと。

 

「焦るな……まだそう決まったわけじゃない……。」

 

スズツキは一度息を整え、ライカンからの教えを思い出しながら動く。

 

右に曲がると、再び右に曲がり、更に右に曲がる。

 

それでも尾行者らしき姿は消えない。

 

完全にクロだと判断したスズツキは逃げに転じた。

 

敢えて人混みの多い大通りへ入ると、次に地下の駅へ繋がる階段を駆け下りていく。

 

まるで迷路のような地下道を通り、シャッターの閉まった商店の並ぶ道を走り抜ける。

 

そして再度地上へのエレベーターに乗ろうとした。

 

しかし次の瞬間、目の前の分岐から人影が現れた。

 

「なっ……!?」

 

反応する間もなく、相手の姿が視界一杯に映り込む。

 

慌てて距離を取ろうとするも、時既に遅し。

 

相手の手元で何かがキラリと光った。

 

「ぐっ!?」

 

あっという間に背後を取られ、首に腕を回される。

 

どうにか逃げ出そうともがくも、目の前の腕は全く動かない。

 

「だ、誰だ……うっ……!?」

 

ヒヤリと、鉄の冷たい感触を首筋に覚える。

 

背後の人物はシリオンなのだろうか。

 

何かの長い尻尾が身体へ絡みつき、刃を四方に展開させた先端部を眼前へ突き付けてくる。

 

だがその追加アタッチメントには覚えがあった。

 

鼻腔に感じられる、甘い香水の香りにも。

 

「……ジェーンさん?」

 

恐る恐るそう聞くと、尻尾の刃が収納された。

 

同時に首へ回された腕の力が弱まる。

 

「ふふっ……スズツキちゃん、久しぶりね。」

 

聞き覚えのある声、ジェーン・ドゥのもの。

 

それが耳元へ囁かれると、スズツキは軽く身震いしながらも、ホッと胸を撫で下ろす。

 

後ろを向けば、確かに久方ぶりの顔があった。

 

「お久しぶりです……ジェーンさん。」

 

スズツキはそっと、ジェーンの拘束から抜け出そうとした。

 

しかし直後、身体に回されていた彼女の腕へ再び力が入り、ギュッと強く抱き締められてしまう。

 

緊張が無くなったおかげで、背中を通して感じる柔らかさと鼻腔へ漂ってくる良い匂いが意識され、スズツキは顔を真っ赤にした。

 

「ちょ、ちょっと……ジェーンさん……!」

 

「すうぅ……少し待って。久々のスズツキちゃんの匂い、補充してるから……。」

 

「あぅ……くすぐったいです……!」

 

ジェーンの手が身体をまさぐってくる。

 

更には耳をはまれ、チクリと軽い痛みが走った。

 

「ひっ……!?な、何を……!」

 

「んっ……あむっ……んん……。」

 

「やあっ……耳……食べないでください……。」

 

すっかり脱力してしまったスズツキをジェーンは通路の端っこ、薄暗い非常階段の中へと引き摺り込んでいく。

 

まるで捕食者が餌を巣に運ぶように。

 

スズツキが現状に気付いた時、眼前には据わった目をしたジェーンの姿があった。

 

背後は壁、左右は彼女の腕に阻まれて逃げ場は無い。

 

「ジェーンさん……あの……そろそろ……。」

 

「もう、いけずねぇ……アタイとの仲でしょ……?」

 

「ひゃあっ……!?」

 

ジェーンの顔が視界の端に消え、彼女の両手が背中に回される。

 

そして今度は首筋へ、くすぐったさと共にヌルリとした生暖かい感触を覚えた。

 

更には服の内側へジェーンの手が入り込む。

 

「あっ……ま、待って……!」

 

「スズツキちゃんが悪いのよ?あんなこと言ったくせに、アタイから逃げようとしたんだから……これはそのお仕置き♪」

 

「そ、そんな……。」

 

哀れな子羊は今まさに悪い狼によって食べられようとしていた。

 

だがそこへ狩人が到来する。

 

カチリと、ジェーンへ銃口が向けられた。

 

素晴らしい笑みと共に。

 

「ジェーン?待ち合わせ場所に来ないと思ったら、こんな場所で油を売っていたとはね。それも白昼堂々と未成年の子を襲うなんて度胸あるわ。」

 

「あらら……邪魔が入っちゃった。」

 

「しゅ、朱鳶さん……!」

 

「スズツキ君、もう大丈夫ですよ。」

 

現れたのはいつもの治安官の制服ではなく、黒スーツにコート姿の朱鳶だった。

 

こめかみに青筋を立てた彼女は拳銃を下ろすと、笑ってない笑みを浮かべながらジェーンに詰め寄る。

 

「で、説明してくれる?」

 

「道端でスズツキちゃんを見かけたから、ちょっと驚かせようと後をつけただけよ。そしたら思いの外逃げられちゃって……。」

 

「捕まえた勢いで襲ったと?」

 

「冗談だって。ほら、反乱軍の情報だってちゃんと持ってきたわ。」

 

ジェーンは小さなチップを朱鳶に手渡す。

 

朱鳶は黙ってそれを受け取り、自身の端末に差し込んだ。

 

「……今も奴らはそこに?」

 

「ええ、3日前からずっと。やけにコソコソしてる。」

 

「他組織との接触は?」

 

「無い。連中だけ。」

 

「そう……。」

 

会話が終わると、朱鳶の視線が今度はスズツキへ向けられた。

 

「スズツキ君、貴方は今、何も聞かなかったし、誰にも会っていない。それでいいですね?」

 

「は、はい……。」

 

大人しく首を縦に振るスズツキだったが、そこへスルリとジェーンが割り込んでくる。

 

「ちなみにだけど、案外スズツキちゃんも関係あるかもしれないわよ?」

 

「……どういうこと?」

 

「スズツキちゃんなら覚えがあるんじゃない?『レイン』って言えば分かるかしら?」

 

「あっ……!」

 

ジェーンが取り出したのは彼女の携帯端末。

 

その画面には先ほど、ビリー達に送られたものと同じような内容のメールが表示されていた。

 

スズツキの驚いた表情を前にジェーンはくすくすと笑う。

 

「ふふっ……適当に言ったつもりだったけど、当たったみたいね。スズツキちゃんはもっとポーカーフェイスを学ぶべきだわ。まあ、すぐ顔に出るところも可愛いんだけど。」

 

「ジェーン、どういうこと?」

 

「スズツキちゃんのトコ、私の知り合いに接触してたみたい。で、その知り合いからSOSが私に送られて来たの。一緒に添付されていた座標が……。」

 

ジェーンは階段を上がり、上階の扉を開ける。

 

そして外の一点を指差した。

 

街の都心部を横断する川の向こう側、摩天楼の奥にそびえる巨大な半球状の物体、共生ホロウ。

 

そこから1棟、ビルの頭だけがチラリと覗いている。

 

「——バレエツインズ。アタイ達が追っている反乱軍もあそこで動いてる。これって偶然とは考えられないんじゃない?」

 

ジェーンの言葉に、スズツキは引きつった笑みを浮かべた。

 

どうやらまたまた面倒ごとらしい。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

1つの机と2つの椅子だけが置かれた薄暗い部屋の中、そこには1人の男の姿があった。

 

小柄で小太りな体型と口元に蓄えた白い髭が特徴的な人物。

 

名前を『チャールズ・パールマン』という。

 

一時期、世間を騒がせたスーパーゼネコン『ヴィジョン』の前社長だ。

 

彼はデッドエンドホロウに隣接する再開発区域の住民を爆破工事のついでに処理することで、立ち退き費用と交渉期間の節約を企んでいた。

 

だが並行してヴィクトリア家政へ、ホロウ内の工区を徘徊する要警戒エーテリアス(デッドエンドブッチャー)の駆除を依頼し、また彼らを今後の脅威として排除を試みたことが悪手だった。

 

結果は言わずもがな。

 

パールマンが送り込んだ部隊はスズツキ達によって全て返り討ちにされ、彼のコネによって動員された11号ら正規軍は間違いに気付いて寝返り、トドメのミサイルも効かなかった。

 

最後には、あわや避難民を乗せた機関車に轢かれそうになり、ズボンを濡らした状態で治安局へと連行されていった。

 

今は諸々の取り調べがようやく終わり、明日の裁判に備えているところだ。

 

「あぁ……くそっ……弁護士はまだか……出発まであと1時間も無いというのに……!」

 

独りパールマンは悪態をつく。

 

するとその時、ガチャリとドアのオートロックが解除され、誰かが部屋に入って来た。

 

パールマンは苛ついた様子で顔を上げるが、直後に驚愕から目を見開く。

 

そして今度は顔を真っ赤にした。

 

「なっ……きっ、貴様!サラ!」

 

パールマンの前に現れたのは赤と黒を基調としたスーツを身に纏った女性。

 

少し前までは彼の隣で秘書として動いていたサラその人だった。

 

「今までどこに行ってた!ワシだけ置き去りにしおってからに!」

 

声を張り上げるパールマンに対し、サラは特に反応することもなく、彼の対面に腰を下ろす。

 

そして書類が束ねられたファイルを投げて渡した。

 

「サラ!聞いているのか!」

 

「パールマン社長……いえ、今はもうただのパールマンさんね。私も今は秘書ではないの。というか、最初から秘書なんて肩書きも無かったのだけど。」

 

「な、何を戯れ言を……!今更ノコノコと現れて、ワシに何の用だ!」

 

「それよ。」

 

サラは今しがた渡したファイルを指差す。

 

警戒しながらもパールマンは内容物に目を通せば、それはとある宿泊施設のパンフレットだった。

 

部屋は広く、館内はネットを含めた各種娯楽設備を完備。

 

食事に関しては三食フルコースで、もちろん飲酒も可能。

 

警護も完璧で、24時間体制で警備員が周囲を巡回している。

 

ただまあ、その警備員はまたの名を『看守』というのだが。

 

「なっ……これは牢屋じゃないか!」

 

「そう。パールマンさん、貴方には法廷で罪を全て認めてほしいの。そうすれば私達がそのVIP用の刑務所を手配するわ。」

 

「ふっ、ふざけるな!」

 

「パールマンさん……少しは賢く動くべきよ?貴方と繋がってた他の省庁や治安局の人間は、全員もれなく臭いブタ箱行きになったわ。連中の親玉である貴方がどうなるかは言うまでもないわよ?」

 

「ワシはお前とお前の上の指示に従っていただけだ!濡れ衣を着せる気か!」

 

強硬な態度を取るパールマンに対し、サラは不気味な笑みを浮かべる。

 

「ふふふ……勘違いしてほしくないわね。パールマンさん。」

 

「な、何がおかしい!」

 

「私はあくまでも『工事』を指示しただけよ。邪魔な市民を処理して工期の短縮を図ったのも、要警戒型エーテリアスを排除しようと言ったのも、ましてや軍を動員させたのも、全て貴方が考えて命令したことじゃない。」

 

「それはお前が銃を突きつけながら期限を急かしてきたからだ!このろくでなしめ!」

 

「そんな野蛮なことやっていないわ。ただ、ヘマをすれば『交代』してもらうって言っただけ……。」

 

威圧的な言動を取るサラだったが、意外にもパールマンには余裕が見受けられた。

 

溜め込んだ怒りを吐き切っても、折れる様子の無い彼にサラも表情を強張らせる。

 

「……何か望みでも?」

 

「分かっていないようだな。ワシが裁判でお前達のことを証言すればどうなるかくらい。」

 

「先方が貴方の言うことを信じると思って?」

 

「それが信用するんだな。何せワシには『証拠』がある。」

 

今度はパールマンがニタリと笑みを浮かべた。

 

その異様な自信を前にサラは押し黙る。

 

「そっちも随分と大変そうなのに大丈夫なのか?装備を整える為に多額の投資をした山獅子組は何故か壊滅、例の怪物も知らん連中に横取りされた挙句、H.A.N.D.に回されたらしいじゃないか。」

 

「……何のことかしら。」

 

「とぼけたって無駄だぞ。ワシは知ってるんだからな。あのオリンピア広場にも地下鉄の再開発計画があったことを。ハナから地下鉄なんて無いってのにだ。」

 

「あくまでもこちらの提案は飲まないつもりなのね。」

 

「どうせ食事に遅効性の毒薬を盛られて寝ている間に心臓発作がオチだからな。」

 

「ヒドいわねぇ……そんなに信用出来ない?」

 

「当たり前だ!」

 

「そう……なら次会う場所は法廷かもね。」

 

結局、話は決裂だとサラは席を立ち、部屋を後にした。

 

彼女は非常階段を降りながら耳元のデバイスに話しかける。

 

「話は聞いていたかしら?対象の懐柔は無理だったわ。少し癪だけど、彼が持っている情報と実力は本物ね。」

 

そう言うと、端末越しに相手の声が返ってくる。

 

「ええ、分かっているわよ。もちろん万全を期すつもり……その路線で行くわ。」

 

サラは電話を切った。

 

そして次に懐から別の端末を、打って変わってゴツい大きな通信機を取り出すと、ボタンを押しながら口元へ持っていく。

 

「誰かそこに居るかしら?」

 

[はい、チームは待機状態にあります。]

 

「出動よ。作戦内容に変更は無し。予定通り行動を開始して。」

 

[了解。]

 

通信が途切れると、サラはドアから外に出た。

 

彼女は広いロビーを、治安局の庁舎の中を堂々と歩く。

 

自動ドアを通り過ぎると、見えてきたのは朝日をバックにした高層ビルと、その天辺に位置する空路用の旅客ターミナル。

 

そしてそこに接舷している巨大な影、司法府の所有する飛行船。

 

それを眺めながらサラはポツリと呟く。

 

「全ては始まりの主のために……。」

 

直後、彼女はどこかへ姿を消した。

 

入れ違いに道端へ治安局の車列が停まり、武装した治安官の集団がゾロゾロと降りて来る。

 

だがよく見ると、停まったパトカーと護送車の、青と白からなる塗装の一部に()()があった。

 

しかし誰もそれに気付かない。

 

彼らはパールマンの居る部屋へと向かっていった。

 





「すうぅ……あぁ……任務のストレスが消えていく……。」

「あ、あの……ジェーンさん……その……そろそろ離してもらえると……。」

「だぁめ……今のスズツキちゃんは私の抱き枕なの……制圧した相手をどうしようがアタイの勝手でしょ?」

「うぅ……朱鳶さん……助けてください……。」

「それなら前回の事の顛末、全て教えてくれますか?アレのおかげで三徹する羽目になったんですが。」

「ひぃ……目が笑ってない……!」

「もう、カリカリしちゃって……朱鳶も吸う?中々に効くわよ?それに拒絶反応も少しは和らぐかもしれないし。」

「……スズツキ君のせいなんですからね。」

「えっ……ちょま……ふぎゅっ……。」

「どう?」

「……悪くないかも。」





ハイ、というわけでバレエツインズへ行ってらっしゃい。

ホントは飛ばしてシーザー編に行く予定だったのですが、改めてストーリーを見直すと、重要な点が多過ぎたのでやめました。

まあ、いつもよりは短くなるかもです。


よろしければ高評価や感想などをお願いします。作者のモチベが爆上がりするので。

1話ごとの文字数ってどれくらいが読みやすい?

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