ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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今回は前の話に入れる予定だったけど、キリが悪かったから独立させたものとなってます。よって短めです。



40 明かされた記録

バレエツインズの一件において、反乱軍の企ては見事に失敗した。

 

今回も手柄は邪兎屋のものとされ、新聞にはピースをしたビリーの姿が小さく載っている。

 

ただ予想外だったのが、事件のどさくさに紛れてパールマンが飛行船で逃走したことだ。

 

幸か不幸か上空に厚い雲が溜まっていたおかげで、治安局の追跡を振り切って逃げ仰せたらしい。

 

おかげでどこぞの治安官が駆り出される羽目になったのだが、そんなことは露知らず、スズツキ達は本来の目的の為に動いていた。

 

「はいこれ、依頼のヤツ。ついでに原本も。」

 

「ありがとうございます。」

 

ここはルミナスクエアの裏路地。

 

私服姿のスズツキはコソコソと隠れるようにレインからUSBメモリを、記憶素子を解析したものを受け取っていた。

 

彼の背後には同じく私服姿のエレンが仁王立ちしており、警戒の視線をレインに向けている。

 

「それにしても、レインさんはどうして反乱軍なんかに?」

 

「ああ……まあ、甘い条件でホイホイ釣られてね。今度からは気を付けることにするよ。」

 

「是非ともそうして。普通、次なんて無いんだから。」

 

「えっ……ちょっ……!?」

 

エレンは用事は済んだとばかりにスズツキの肩をガシリと掴み、無理矢理引っぱっていく。

 

その鋭い眼光からは絶対に渡さないという強い意志が感じられた。

 

ひとり残されたレインは肩を震わせる。

 

「おーこわっ……てかあの子、女の子じゃなくて男の娘だったんだ……。」

 

心の中で少し興味を持ちかけた彼女だったが、今度は背筋に悪寒を感じた。

 

まるで捕食者の蔓延るジャングルに足を踏み入れようとした時のような、本能的なそれ。

 

「いや……もう面倒ごとは御免なんだった。」

 

レインは頭を振ると、今の思考は全て消し去ることにした。

 

——かに思われたが。

 

「でも、個人情報を調べることくらいなら問題ないよね?」

 

取り出したのは自身の携帯端末。

 

右眼に付けたコンタクトレンズ——実は偽装したカメラレンズを通して得られた映像を表示させる。

 

治安官のボディカメラのように、自分の正面にスズツキの姿が、意識を向けていなかったエレンも含めてよく映っていた。

 

その中性的な可愛らしい顔立ちを眺めながら、レインはスズツキの顔周りをトリミングする。

 

そして検索をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

記憶素子は元々ホルス・ベロボーグの乗っていた最初期型汎用多脚重機から発見されたものだ。

 

よって中身を一度確認した後に、彼の娘であるクレタにも見せることとなった。

 

スズツキはとあるセーフハウスに彼女を連れてくると、2人でテレビの前に座る。

 

「クレタ、準備はいい?」

 

スズツキがそう聞くと、クレタは覚悟を決めたようで、コクリと頷いた。

 

「ああ、いつでも行けるぜ。」

 

「じゃあ開くよ。」

 

テレビの画面と同期させたノートパソコンを操作し、データを開く。

 

中に入っていたのは1つの動画だった。

 

記録された日は今から11年前。

 

旧都陥落以前の日時を示していた。

 

先に動画をクリックすれば、画面は真っ暗なまま、音声だけが流れてくる。

 

[ゲホッ……ゴホッ……うぅ……!]

 

聞こえて来たその呻き声にクレタはサッと顔を青ざめた。

 

「お、親父の声だ!負傷しているのか……!?」

 

発見時、プロトタイプの操縦席には銃撃戦の跡があった。

 

その時の負傷なのか、動画のホルスの声は苦しそうなものだった。

 

[ゲホゲホッ……ふぅ……どうやら、私は君達を見くびっていたらしい。まさかこんなことに……なるとは……。]

 

[そちらもよく頑張ったじゃあないか。たった1人での大立ち回り。我々の構成員をちぎっては投げ、ショットガンを片手でぶっ放しながら撃ち合う。まるでビデオのヒーローだ。]

 

[ふ……ヒーローか……いいな。]

 

弱々しくなっていく父の声色を前にクレタは歯を食い縛る。

 

スズツキは心配に思いながらも、パソコンはそのままにした。

 

[言っただろう。娘の為に……ゲフッ……あんなものは、放っておけないと……。]

 

動画はそこでブツリと切れた。

 

スズツキは隣のクレタに慰めの言葉をかけようとしたが、その前に彼女が口を開いた。

 

「なあ、スズツキ。」

 

「何?」

 

「親父をヤった連中を追ってるんだよな。」

 

「うん。」

 

「じゃあ、そいつらのこと、必ずしばき倒してくれ。二度と悪事なんか働けないくらい、ボッコボコのギタギタに。」

 

「うん……約束する。」

 

「頼む……。」

 

クレタは項垂れると、隠すように目元を自身の腕へ押し付ける。

 

スズツキが背中を摩れば、彼女の啜り泣く声が聞こえた。

 

少しすると落ち着いたのか、目元を赤く腫らしたクレタが上体を起こしてくる。

 

「……すまんな。」

 

「大丈夫だよ。落ち着いた?」

 

「ん……まだ……かも……。」

 

「なら……。」

 

スズツキは自身の膝の上をポンポンと叩く。

 

クレタは一度ぱちくりと瞬きをするも、恐る恐るといった風に、ゆっくりとスズツキの太ももへ頭を乗せた。

 

すると頭を優しく撫でられる。

 

「あっ、触っても大丈夫だった?」

 

「……もうちょい上。」

 

「りょーかい。」

 

クレタは柔軟剤とスズツキの良い匂いを感じながら目を閉じる。

 

乱れていた感情が急激に沈静化していく一方、回復し始めた理性が状況に対する恥ずかしさを懸命に訴えてくる。

 

結局、彼女はそう時間が経たない内に再び身体を起こした。

 

「よ、よし……仕事に戻るとしますかね。」

 

「もういいの?」

 

膝を叩いて立ち上がるクレタを前に、スズツキは心配そうな視線を向けるが、彼女はニカリと笑う。

 

「今はメソメソしてるヒマはねえからな。親父の為にも会社をもっと大きくしていかねえと。」

 

「そっか、クレタは強いね。」

 

「そんなんでもねえよ。周りに恵まれてるだけさ。ああ、それでよ……。」

 

クレタは視線を逸らし、指で頬をかく。

 

「その……さっきみたいなことはやるのか?ご主人様とやらに。」

 

「今のところは無いね。家事をするよりライフルを撃ってる方が多いかも。」

 

「ふーん……。」

 

そっけない反応を見せるクレタだったが、隠しきれない安心感や嬉しさが声色から漏れ出ていた。

 

「なあ、またいつか……やってくれるか?さっきのこと。」

 

「いいよ。いつでも空いてるし。」

 

「約束だぞ。空けとけよ。」

 

スズツキは玄関でクレタを見送った。

 

リビングに戻ると、ソファーに見知ったひとつの影が。

 

大きなサメの尻尾が不機嫌そうに揺れており、スズツキが近付くと、早く座れと言わんばかりにソファーの座面をべしべしとヒレで叩いてくる。

 

大人しく隣に腰を下ろせば、ドスンと頭が、エレンのそれがスズツキの太ももに乗っかってきた。

 

「クサ……また臭うんだけど。」

 

「そりゃあクレタが寝てましたからね。」

 

「……ならあと1時間はこのままだから。おやすみ。」

 

「えっ、拠点に戻らないとですよ?」

 

「集合は1時間半後、こっから30分で行けるでしょ……。」

 

そう言うと、あっという間に寝息をたて始めるエレン。

 

スズツキはひとつ溜め息を吐くと、テレビのリモコンを手に取った。

 

するとそこに表示されたのはパソコンに入っていた映像とはまた別の『編集前のもの』。

 

拠点で一度見てはいたが、ヒマだからとそのまま流す。

 

画面には血が滲んだ計器が映り込み、床に空のショットシェルが転がっている。

 

聞こえてくるホルス・ベロボーグと何者かの会話は先程と同じだったが、わずかに最後だけが違った。

 

急に打ち切られず、代わりにホルスの絞り出すような声が続く。

 

[なあ……最期に教えてくれ……あのモニュメントには何があるんだ……あの、ヒトのような何かは……?]

 

[いいだろう。冥土の土産に教えてやる。あれは……。]

 

次に聞こえてきた単語にスズツキは息を飲む。

 

今まで追ってきたことがそこにあった。

 

[——我々の研究の成果、『サクリファイス』だ。]

 

今度こそ映像はそこで途切れた。

 

スズツキは眼下のエレンへ視線を落としながらポツリと呟く。

 

「先輩、敵は何をするつもりなんでしょうかね?」

 

「知らないよ……それより早く……。」

 

「はいはい。」

 

スズツキは大人しくエレンの頭を撫でる。

 

すると立っていたサメの尻尾がリラックスしたようにスズツキへもたれかかってくる。

 

そのザラついた肌触りを感じながら、ただ静かな時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

ヴィジョンの一件はそれなりの期間が経った今でも、未だ多大なる影響を周囲へ与え続けていた。

 

特に不正を行った人間は官民問わず全て吊るし上げられ、次々と人員の刷新が行われていった。

 

各組織の顔ぶれがすっかり新しくなり、もう事態は収束したかと思われたが、そうもいかない。

 

単にガワだけを直すだけではなく、再発防止に努めなければ意味が無いのだ。

 

そしてまず行われたのが、組織の内部監査。

 

事件に大きく関わっていた省庁はもちろんのこと、事業に手を貸していた民間企業まで。

 

もちろんTOPSも一部が僅かとはいえ関わっていた以上、例外ではない。

 

ただ唯一違う点が動く人間が政府とは違うこと。

 

彼らには彼ら専門のスペシャリストが居るのだ。

 

「ふわぁ……ダイアちゃん、そっちはどう?」

 

「シロ、ですね。今のところは真面目にやってるみたいです。」

 

ここはとある貸しオフィスの中。

 

ズラリと並べられたパソコンとデスクからなる列の一部では2つの影が動いていた。

 

少女……と表現すべきなのかは定かではないが、まるでぬいぐるみのようなモフモフの身体と短い手足、ウサギの耳が特徴のシリオン、『(ザオ)』はPCから顔を離すとグッと腕を伸ばす。

 

そこへもう1人の少女、左右で色の違う白黒のツインテールが特徴の『ダイアリン』がドサリと書類の束を置く。

 

「コレ、今回の分の報告書ですので、私はこれでっ……!」

 

足早にその場を離れようとするダイアリンだったが、すかさず彼女のツインテの白い方を照が掴んだ。

 

「ちょいちょいちょい、ダイアちゃん、まだ帰るのには少し早いんじゃないのかな〜?」

 

「いやぁ……やるべきことは終わったからいいかなーと……。」

 

「まあさ、ボスも帰ってきてないし、もう少し待とうか。」

 

「えぇ……ヒマじゃあないですかぁ。」

 

「なら暇つぶしにこれ見てよ。」

 

照はPCのモニターにとある画像を出す。

 

そこには武器を持った何人かのグループが映っていた。

 

「ん……なんですか?コレ。」

 

「例のヴィジョンの一件に関わってたとされる連中。パールマンを逮捕した時、たまたま周辺の監視カメラに映ってた。」

 

「ああ、邪……なんとか屋みたいな名前でしたっけ?」

 

「それはこっち。」

 

照は今日の新聞を取り出し、パールマンの顔写真が載った表紙の隅っこを指さす。

 

そこには小さくニコ達の写真があった。

 

もちろん画面の人物とは似ても似つかない。

 

「え?じゃあ誰なんですか?」

 

「それを調べてるの。別に直接的な脅威があるわけじゃないけど、少し気になったからね。」

 

「単なるホロウレイダーという線は?」

 

「ツテのある複数の情報屋に確認しても不自然なまでに報告が無かった。それに装備類がパッと見でも桁違い。レイダーじゃないことは確かだね。」

 

照はカチカチとマウスをクリックしながら画像を流していく。

 

両脚を機械化したイヌ科らしき長身のシリオン、ボンプを携えながら宙に浮いた女性、海洋類のシリオン特有の大きな尻尾を持った少女、小柄な体躯に見合わない大きな電鋸を担いだ少女。

 

そしてゴツいライフルを装備した少女。

 

画像の画角や精度が悪いおかげで、顔までは分からなかったが、少なくとも戦う集団であることは確かだろう。

 

「この人、浮いてませんか?幽霊みたいですね。」

 

「多分、ホバーパッドを使ったやつじゃない?スリーゲートがホバークラフトで実験してたじゃん。」

 

「あー、試験艦の他に存在しないロゴス号とハンマー号があった件——浮いた金をポケットナイナイしてた。」

 

「そそ、つまりまだ一般化されていない最新の軍事技術を使えるような連中ってこと。」

 

「けれど少なくとも私兵の保有が禁止されたTOPSではないことは確かですよね?もしそうなら私達が動くことになってましたし。」

 

「するとあとは……。」

 

照は顎に手を当てて考え込む。

 

そしてダイアリンと同じタイミングで口を開いた。

 

「軍の特戦群。」

 

「治安局の秘密スパイ!」

 

意見がぶつかると、お互いがお互いの主張を鼻で笑う。

 

「あのねぇ、ダイアちゃん……多分『スパイポリス大作戦』を観たのかもだけど、新エリー都じゃ治安局と情報局は畑違いだよ?一応、潜入捜査官はあるかもだけど、ここまでゴテゴテに武装しないし、派手に動いたりしないって。」

 

「いやいや、武器を扱う軍と言えど、実用化されてないTOPSの技術を扱えるとは限らないじゃないですか。あんな金しか目に無い連中が、ホイホイと技術を明け渡す筈がありません。」

 

それからも2人の論争という名のレスバは続いた。

 

ちなみに決着はつかなかったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「ねえ、リナ。」

 

「何かしら?」

 

「スズツキがさ、またリナの手料理食べたいだって。」

 

「あらあら!でも今は準備が忙しいから……そうね、次の依頼の時にしましょう。自然豊かな場所へ行くことですし。」

 

「分かった。そうスズツキに言っとく。」

 

「待って、エレン。ここは秘密にしておいた方が良いのではなくて?」

 

「そお?まあ、リナが言うなら。」

 

「ふふふ……久々に腕が鳴りますわぁ……。」

 

 




ハイ、というわけでバレエツインズ編は終わりです。

今後はシーザー編に繋がりますが、その前に裏版をやります。まだ本編の方は書けてないし。



よろしければ高評価や感想などをお願いします。作者のモチベが爆上がりするので。

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