ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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ロスカリファの学生寮に越して、さあ寝ようってところで1週間が経過した作者です。



45 人生最悪最高の日

到着した先は、モンテフィーノグループが管理しているオアシスの町だった。

 

どうやら近隣に製油所があるようで、採れた原油を精製し、新エリー都や郊外の各所へ売っているらしい。

 

一行はコテージのひとつを貸し与えられると、バイクを始めとした装備一式を運び込む。

 

日が落ちると、光原の無い荒野は真っ暗になった。

 

ガレージで作業していたスズツキとライカンの元に、リナが階段を降りてくる。

 

ちなみに執事やメイドの格好をすると目立つため、今回は全員が郊外らしいラフな服装をしていた。

 

「あらあら、ライカンさんもスズツキちゃんも真っ黒。もう遅いのだし、残りは明日にしたら?」

 

「もうそんな時間ですか。熱中すると、時の流れが早いものです。ではここまでにしましょう。スズツキ、そこのスパナを取ってください。」

 

「これですか?8mmの?」

 

「ええ。」

 

ライカンはボルトを締めると額の汗を拭う。

 

彼の目の前にあるのは非常に巨大なバイクだった。

 

隣に置いてあるリバーストライクよりも一回り近く大きい。

 

もしスズツキが乗ろうとすれば、そもそも足がつかないだろう。

 

「さて、整備は一旦完了です。工具を片付けて、シャワーを浴びましょう。」

 

「はい。」

 

スズツキとライカンは後片付けを始める。

 

ライカンが工具箱を持って隣の倉庫に消えた時、スズツキは残されたままのレンチを見つける。

 

手に取ろうと姿勢を屈めるが、その時、ガレージの外からガサリと音がした。

 

「……?」

 

スズツキはシャッターの外を見る。

 

ズボンの内側に収まっているリボルバーに手をかけようとしたが、それ以上の物音はしなかった。

 

ただ風が吹いただけだろうと、倉庫へ足を向けようとする。

 

だがその瞬間、背後から影が迫ってきた。

 

口を手で塞がれ、薬品の臭いが鼻をつく。

 

「……スズツキ?」

 

カランと、金属音がガレージに響く。

 

ライカンが倉庫から顔を覗かせると、そこにはレンチが1本落ちていた。

 

彼はそれを手に取り、辺りを見渡す。

 

しかしいくら目を凝らそうとも、スズツキの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「——よ?」

 

「なんだっ——な指示を?」

 

「俺が知るはずがな——少なくとも、コイツらを先んじて潰そうって——。」

 

スズツキは微睡みの中にあった。

 

しかしライカンやエレン以外の聞き慣れない声を耳にすると、ハッと意識を覚醒させる。

 

目に入ってきたのは豆電球のぶら下がった薄暗い部屋。

 

窓は固く閉じられており、外は見えない。

 

椅子に座ったまま手足が縛られており、口にも猿轡が噛まされていた。

 

「むぐ……むご……!」

 

もがいていると、視界に2つの人影が入り込んでくる。

 

現れたのは男女のシリオンだった。

 

頭の耳と背後の尻尾からして、それぞれ狼と猫だろうか。

 

どちらもマスクをしており、顔の全容は分からない。

 

「ちょうど起きたようだな。」

 

「なら見張りを頼める?」

 

「あまり痛めつけるなよ。知らずのうちに虎の尾を踏みつけてたってオチは御免だからな。」

 

「はいはい。」

 

狼シリオンの男はレバーアクションライフルを手に取ると、ドアの向こう側に消える。

 

そして猫シリオンの女が近付いてきた。

 

電球に照らされて、黄色と白の毛並みが見えてくる。

 

「さて……お嬢ちゃん、ちょっと私とおしゃべりしようか。」

 

口のタオルが外され、口内に押し込まれていた布も引き抜かれた。

 

「えほっ……ぐっ……な、何者ですか……!」

 

「ただの傭兵だよ。安心しな、命までは取らないさ。まあそれは……。」

 

その時、視界の下端に銀色の鈍い輝きが映ると、スズツキの顎に金属の冷たい感触が伝わった。

 

カチリと、女の親指が撃鉄を引き起こす。

 

「……そっちがちゃあんと質問に答えてくれたらの話、だけどね?」

 

「こ、後悔しますよ……な、仲間がすぐに来ますから……。」

 

「あーあー、子犬が可愛く吠えちゃって……唆らせるじゃん。」

 

「ひうっ……。」

 

女の手がスズツキの顔を掴み、長い指で頬を撫でてくる。

 

マスクの上に見えるその目付きは、そんじょそこらのチンピラとは訳が違った。

 

例えるならジェーンのような、場慣れした『本物』の目。

 

それに至近から見つめられて、スズツキは縮み上がってしまう。

 

怯えを嗅ぎ取ったのか、女は嗜虐的に目元を緩ませた。

 

「自分の立場を理解できたみたいだね。賢い子は嫌いじゃないよ。」

 

女は手に持った銃——大型のリボルバーをスズツキの頬へ軽く当てる。

 

「ちなみに、話さなかったら……場所を変えて延長だよ。いつも暑苦しい男共の相手ばっかだから、アンタみたいな可愛い子をイジメられるのは逆に新鮮で楽しいかもね。」

 

「……っ。」

 

スズツキはすっかり震え上がっていた。

 

エーテリアスに立ち向かう勇気はあっても、同じ人間に対する恐怖まではカバーしきれなかった。

 

ただただ硬直することしか出来ないスズツキに、女は言葉を続けてくる。

 

「質問ってのは至極単純。アンタらについて教えて?何の組織なのか、何が目的なのか、誰の命令で動いているのか……全部ね。さ、早いとこ吐いて楽になることを勧めるよ。」

 

女はスズツキの周りを歩き、時折耳元へ囁いてくる。

 

その度にスズツキの背筋が跳ねた。

 

緊張で息が詰まり、頭の中が真っ白になっていく。

 

「え、えと……僕たちは……。」

 

スズツキは何もかも話して楽になりたかった。

 

しかし、唯一残っていた意地がそれを許さない。

 

喉まで出かかっていた『ヴィクトリア家政』という単語を引っ込める。

 

「僕たちは、モンテフィーノ社の……エンジン部門の人間です。レースに参加して、郊外の利権を……その、手に入れるというか……そんな目的で……むぐっ!?」

 

適当な言葉を並べるスズツキだったが、再び顔を掴まれた。

 

女と無理やり目を合わせられる。

 

「嘘を言うな。バレないとでも思った?どう見たって、企業の人間じゃないでしょうに。まあ、アンタは見た目相応だけど。」

 

「ほ、本当……でしゅ……!」

 

「ふぅーん……なら、次の手段に出るしかないね。」

 

「あっ!?」

 

女はスズツキを椅子ごと持ち上げると、そのまま持っていった。

 

外は岩だらけの場所で、周囲には道路すら走っていない。

 

スズツキはバイクの荷台に括り付けられた。

 

いつの間にか男が姿を現す。

 

「終わったのか?」

 

「いいや、お持ち帰りコース。」

 

「はぁ……なら適当にそっちでやってくれ。俺はあっちの仕込みに入る。」

 

「了解。」

 

男はバイクに乗り、どこかへと消えた。

 

女もスズツキを乗せたまま、バイクを発進させる。

 

ゆらゆらと目の前で揺れる尻尾を見つめながら、どうにか逃げ出す方法を考えていると、自分のリボルバーの存在を思い出す。

 

しかし、先回りするように女が口を開いた。

 

「もしかして、この可愛いリボルバーをお探し?」

 

女の手にはスズツキの短銃身リボルバーが握られていた。

 

「……か、可愛くない!マグナムだぞ!」

 

「38スペシャルを詰めたなんちゃってマグナム?」

 

「ぬぐ……。」

 

カチリと、女のリボルバーが腹部に押し当てられた。

 

スズツキのものと比べて遥かに大きい。

 

「いいから黙ってな。死にたくないならね。」

 

スズツキは言う通りに黙り込んだ。

 

もはやなす術は無いのかと、もうみんなに会えないのかと、不安と絶望が心を埋め尽くしていく。

 

しかし次の瞬間、猛烈な熱波と強烈な眩しさに意識を引き戻される。

 

バイクは急ブレーキをかけ、横滑りしながら止まった。

 

「なっ……これは……!?」

 

何と、進行方向の道路が激しく燃え上がっていた。

 

それも漂ってくる臭いからして、燃料を燃やした炎だろうか。

 

とても自然発生するものではない。

 

すると、炎の中から1つの人影が現れる。

 

「ふーふふーん♪今日も良い燃えっぷりだね♪」

 

金髪をツーサイドアップにまとめ、頭に星型の派手なサングラスを乗せた若い女性。

 

目を引くのが、その両手に握られた軍用の火炎放射器だ。

 

本来は両手持ちのそれだったが、彼女は銃身を切り詰めたものを両手に1つずつ持っている。

 

「アンタ、そこを退いてくれると嬉しいんだけど。」

 

「んー?あっ、すごーい!猫ちゃんだー!ふかふかで柔らかそうー!」

 

火炎放射器を振り回しながら、その人物は目を輝かせる。

 

場違いなほど飄々とした態度を前に、逆に猫シリオンの女が狼狽えると、今度は背後から眩しい光が放たれた。

 

そちらを向くと、バイクのヘッドライトの中に複数の人影があった。

 

「くっ……待ち伏せか……。」

 

「え……えっ……?」

 

スズツキは訳も分からず、ただオロオロとしていると、背後から聞き覚えのある声が響く。

 

「おい!そこの傭兵!攫った子を今すぐ放してもうらおうか!」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「しゃあないな。その時はもちろん……。」

 

直後、会話を遮るように別の声が割り込んできた。

 

「シーザー!もういいですわ!貴女はいつも暴力に頼ろうとするんですから……まったく……バーニス!貴女も今は大人しくなさい!もう火は十分ですの!」

 

「えぇ……はぁい……。」

 

バーニスと呼ばれた人物——『バーニス・ホワイト』は渋々と火炎放射器を止め、後ろに下がる。

 

代わりに1人の小柄な少女が近付いてきた。

 

サイドテールにした金色の髪、燃えるような赤い目、特徴的なピッケルハウベ。

 

昼にダイナーで見たルシアーナその人だった。

 

「貴女、『プルクラ・フェリーニ』ですわね?」

 

「……よく知ってるじゃないか。」

 

「有能な傭兵はマークしておくのが郊外の常識ですわ。それで?今は誰に雇われて動いているのです?」

 

「雇い主をバラすことは、傭兵にとってタブーってことを知らないのかい?まず私がアンタらに迷惑をかけた覚えはないけど?」

 

プルクラはあくまでも冷静な態度を崩さない。

 

だがルシアーナも言葉を荒げずに、淡々と口を開く。

 

「ええ、直接的には関係ないですわ。しかし、我々の『協力者』が()()の知り合いのようでしてね。こちらとしても動かざるを得なかったのですわ。」

 

「アンタらも、コイツに興味があるってわけかい?」

 

「いいえ、私達は頼まれただけ。だから、貴女が何を考えていようが、誰に雇われていようが、こっちにとってはどーでもいいですの。ただ、引き渡しさえしてくれれば。」

 

ルシアーナがそう言い切ると、プルクラは少しの沈黙の後に、あっさり両手を上げた。

 

「カリュドーンが出てくるのは予想外だったね……まったく。」

 

「賢明な判断ですわ。」

 

プルクラはバイクから降りると、スズツキを荷台から下ろし、拘束具を全て外す。

 

するとその時、シーザーの足元を通って、小さな影がスズツキの胸元へ飛び込んできた。

 

丸っこくて柔らかいボディに短い手足、頭から伸びる2つの耳。

 

そして首元に巻かれた『01』という刻印入りのオレンジのスカーフ。

 

「うわっ……あ、あれ……イアス?」

 

[ンナナ……ンナァ……!]

 

「えっと、君がいるってことは……つまりリンさんも?」

 

[ンナ!]

 

イアスはスズツキの胸元に抱かれながら、地平線の向こうを指さす。

 

きっとあっちに居ると伝えたいのだろう。

 

「さ、早く行こうぜ。もうこんな時間だ。」

 

「あの……ありがとうございます、えと……シーザーさん。」

 

「いいってことよ。」

 

スズツキはシーザーに連れられて彼女のバイクに乗る。

 

ルシアーナも踵を返すが、そこでプルクラが思い出したように口を開いた。

 

「そうだ。銃を預かったままだったよ。お嬢さんに返しといてくれ。」

 

「ん?ああ、承知しまし……。」

 

ルシアーナはプルクラから差し出されたものを見て、目を大きく見開いた。

 

プルクラは怪訝に思うが、ルシアーナはすぐに我に返る。

 

そして、そのライノ・リボルバーを受け取った。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「スズツキ君!無事で良かった〜!」

 

「おうふっ!?」

 

『カリュドーンの子』の拠点、ブレイズウッドの一角にスズツキは連れてこられた。

 

バイクから降りた途端、2本の腕に抱き締められ、顔いっぱいに柔らかさと良い匂いが広がる。

 

次に離された時、そこにはリンの姿があった。

 

「あっ、えと……どうしてここに……いや、僕の居場所が分かったんですか?」

 

「んー?そりゃもちろんつけてたからね。ドローンを使って。」

 

「その……ありがとうございます。リンさんが見つけてくれなかったら……僕……。」

 

スズツキの瞳が潤むと、リンはこれ幸いと再び彼を強く抱擁した。

 

一方のスズツキもそれを抵抗なく受け入れる。

 

十分に頭を撫で回されると、普段の恥ずかしさが戻ってきたのか、スズツキは自ら離れた。

 

「あーん、もっと温もりを味わいたかったのに……。」

 

「あの、電話を貸してくれませんか?ボスに連絡しないと。」

 

「ああ、それなら大丈夫。さっきライカンさんにしたよ。もう今日は遅いし、夜道は送る側も危ないから、ここに泊めさせるって。いいでしょ?」

 

「すみません、何から何まで……。」

 

「いいって、役得……んん”っ、私とスズツキ君の間でしょ?」

 

リンは慌てて口元の涎を拭った。

 

彼女は誤魔化すようにスズツキの背中へ手を回すと、建物の中へと案内する。

 

「シーザー、シャワーを借りていい?」

 

「ああ、奥にあるぜ。」

 

「ありがと。スズツキ君、シャワー浴びてきなよ。私はもう1回ライカンさんに電話してくるから。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

スズツキは独りシャワールームに入ると、砂だらけの服を脱ぐ。

 

シャワールームとは言っても、防水シート1枚で隔てただけの簡素なものだった。

 

「ふぅ……疲れたぁ……。」

 

頭から温水を浴び、石鹸の泡で身体を包んでいく。

 

だがある時、ガラリと背後で部屋の扉が開かれた。

 

スルスルと衣擦れの音が聞こえてくる。

 

「えっ、あ、あの……入ってます。」

 

念の為にそう言うと、すぐに快活な声が返ってきた。

 

「大丈夫、オレ様だよ。ちょっと失礼するぜ。」

 

バサリと、カーテンをくぐって現れたのはシーザーその人。

 

首から下は肌色一色だった。

 

スズツキは声にならない悲鳴を上げながら、そっぽを向く。

 

「いやぁ、今日は災難だったな、スズツキ。わざわざ街から来てくれたってのによ。」

 

「え、ええ……まったくです。」

 

「ちなみによ、レースはどこ推しだ?もちろんウチだよな?」

 

シーザーがスズツキへ顔を近付けてくる。

 

視界の端に立派なものが映り込んだ。

 

スズツキは必死に目線をシーザーの顔に合わせながら、引きつった笑みを浮かべた。

 

「え、ええ、もちろんですよ。応援してますから。」

 

「おう!ありがとな!」

 

シーザーは高らかに笑う。

 

誤魔化せていることに安堵するスズツキだったが、災難はまだ続いた。

 

またもや部屋の扉が開き、今度は複数の声が聞こえてきた。

 

ひゅっと息が詰まる。

 

「バーニス、派手に燃やし過ぎですわ。燃料代だって馬鹿になりませんのよ?」

 

「えー?でも派手じゃないと面白くないよー?」

 

カーテンをめくって、3人の人物が現れる。

 

バーニスとルシアーナ。

 

もう1人は知らない人物だったが、小柄な見た目の割に、妙に貫禄がある気がした。

 

「ん?」

 

「……あ。」

 

その人物と視線がぶつかる。

 

慌てて目を逸らしたが、ぺたぺたと足音が近付いてきた。

 

「よう、お前さんが助け出されたスズツキ姫かい?」

 

「は、はい……。」

 

「まあ、無事で良かったよ。ああ、あたしはパイパー、『パイパー・ウィール』ってんだ。よろしくなぁ。」

 

「どうも……。」

 

スズツキは軽く会釈だけすると、すぐにそっぽを向く。

 

対してパイパーは怪訝に思うと、スズツキの背中を上から下までじっくりと眺めた。

 

そしてニヤリと不適な笑みを浮かべる。

 

彼女はそっと、スズツキの耳元へ顔を近付けた。

 

「えっちな姫様だねぇ……いや、王子様か。安心しなぁ、別にバラしはしないよ。あたし達が後から入ってきたんだしね。」

 

「……っ。」

 

「良かったねぇ。こんな美味しいこと、人生でそうそう無いからねぇ。じっくり味わいなぁ、少年。」

 

そう言うと、パイパーは離れていく。

 

幸いにも、シーザー達は汗と砂を流すことだけが目的だったようで、髪は洗わずにさっさと出ていった。

 

最後にルシアーナがカーテンから出ると、ホッと胸を撫で下ろす。

 

だが直後、声をかけられた。

 

「ちょっと貴女、よろしくて?」

 

「うえっ!?」

 

ビクリと、背筋を跳ねさせる。

 

後ろを向こうとして、視界の端に肌色のシルエットが見えた途端、バネ仕掛けのように首を高速で前へ向けた。

 

もし後ろを向けば、依頼主に殺されるに違いない。

 

「聞いているのかしら?」

 

「え、ええ、はい。」

 

「そう……なら単刀直入に聞かせてもらいますわ。このリボルバー拳銃、どうして貴女が持っていますの?」

 

カチリと、金属音が耳に入る。

 

撃鉄を——正確にはコッキングレバーを引いた時のものだ。

 

スズツキは背筋を凍らせた。

 

「この拳銃は父が若い時に使っていたものですわ。既製品をベースにオーダーメイドで装飾を加えた一点物……世界に2丁とない一品をどうして貴女が?そう聞いているのです。」

 

「えと……い、言っている意味が……。」

 

「分からないと?モンテフィーノ家の刻印が施されているにも関わらず?貴女……怪しいですわね。」

 

ルシアーナは銃を突き付けながら、ゆっくりとスズツキへ近付いてくる。

 

「スズツキといいましたわね。両手を頭の後ろで組んで、こっちを向きなさい。これはお願いではありません。命令ですわ。」

 

「そ、それは……出来ません……。」

 

「いいから向けと言っているのです!」

 

「あっ、ちょっ……!?」

 

ルシアーナの手がスズツキの腕を掴む。

 

必死に抵抗するスズツキだったが、背中に金属の冷たい感触が走ると動きを止めた。

 

「手荒な真似はしたくありませんの。お分かり?」

 

「……はい。」

 

スズツキは大人しく両手を上げて、ルシアーナに向き合った。

 

目だけは逸らそうとしたが、彼女に顔を掴まれる。

 

「私を見なさい。変なことは考えない方が身のためですわよ。」

 

「……はぃ。」

 

スズツキは泣く泣く言う通りにした。

 

どんなに焦点を虚空に合わせても、視界から肌色は消えない。

 

ルシアーナは拳銃を向けながら、数歩下がる。

 

「さて、改めて聞きますわ。この拳銃をどこ……で……え?」

 

「うぅ……。」

 

ルシアーナの視界に映った物体。

 

最初はイボかデキモノの類いかと思ったが、それにしてはあまりにも大きい。

 

知識に自信のあった彼女だが、この時ばかりはフリーズした。

 

そして脳内から1つだけ似たようなものが検出される。

 

それは保健体育の教科書に載っていた、ωとυを組み合わせただけのような、極度にデフォルメされた器官。

 

全てが繋がった時、ルシアーナの顔は真っ赤になっていた。

 

「あ……あ……ああ"……!」

 

拳銃の引き金に人さし指がかけられる。

 

次の瞬間、スズツキは動いた。

 

「い、いや……むうっ!?」

 

「しーっ!」

 

ルシアーナの口を手で押さえ、拳銃の引き金の裏側に指を押し込んだ。

 

しかし直後、彼女の足が勢いよく動き、どことは言わないが、スズツキの下半身へ重い一撃を加えた。

 

じわり、じわりと痛みが広がっていく。

 

「お、おご……あ……あぁ……!」

 

「ぷはっ……この変態!ケダモノ!」

 

力なく床へ倒れ込むスズツキ。

 

だが悶えながらも、ルシアーナに手を伸ばす。

 

「ま、待って……これには……事情が……!」

 

「事情?淑女の裸を覗くことが?」

 

「それはそっちが勝手に入ってきただけ……じゃなくて、僕は君のお父さんから依頼を受けた……。」

 

「私の監視かしら?」

 

「ち、違う……レースに……出ること……。」

 

「貴方が?」

 

「そう……昼の……あの仲間と……。」

 

「ふむ……。」

 

ルシアーナは数秒かけて顔から熱を引かせると、冷静に状況を整理していく。

 

そして辻褄が合ったらしい。

 

彼女は銃を下ろした。

 

「なるほど、私の実家がレースに出ると聞いた時は驚きましたが、まさか貴方みたいなのを派遣してくるとは。父の目も老いたものですわね。」

 

「我ながら、任務に……合っていないと……思うよ……。」

 

「ふん、命拾いしましたわね。あと確かに、貴方が入っているところに私達が押しかけた形ですわ。非はこちらにありますわね。急所をついたことは謝りますわ。」

 

「どうも……。」

 

「では私はこれで。ああ、あと5分はそのままでお願いしますわ。目を開けたら天国へ行く羽目になるので、ご承知を。」

 

「あぃ……。」

 

それから10分ほど経って、スズツキはシャワールームからよろめきながら出てきた。

 

ルシアーナが言いふらしているのではないかと戦々恐々だったが、何も言われず、あっさり部屋に通された。

 

ベッドにダイブすると、疲れが一気に襲ってくる。

 

「はあぁ……疲れたぁ……。」

 

緊張が解けたおかげか、心に余裕が生まれてくる。

 

すると途端に記憶が鮮明にフラッシュバックしてきた。

 

「あんな感じなんだなぁ……初めて見た……。」

 

チンピラに絡まれて、誘拐されて、銃を突き付けられて、急所に打撃を食らって……。

 

そんな散々な一日だったが、先程の状況と引き換えと考えるならば十分かもしれない。

 

「ふへ……。」

 

そう結論付けたスズツキだった。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「ライカンさん、スズツキちゃんは?スズツキちゃんはどうなったの?」

 

「今、プロキシ様から電話がありました。どうやら彼女も郊外にいるようで、ブレイズウッドに保護していると。」

 

「そう……良かった……本当に良かったわ……。」

 

「ええ、間一髪でした。『彼』はもういいでしょう。」

 

「そうね。エレン、カリンちゃん?」

 

「ねえ早く吐けよ。スズツキをどこにやったか聞いてんの。やっぱりリナの電撃だけじゃ足りないかな?」

 

「エレンさん!ここは思い切って腕の1本をいきましょう!カリン、切断は得意ですから!」

 

「ま、待て!やめろ!俺は本当に知らないんだ!」

 

「エレン、カリン、もう十分です。スズツキはカリュドーンに保護されたそうですよ。」

 

「えっ、ホント?」

 

「それは良かったです!」

 

「明日スズツキを迎えに行くためにも、今日は帰りましょう。では『モルス』様、我々はこれで失礼させてもらいます。」

 

「お騒がせしましたわ。」

 

「くそったれ……俺が虎の尾を踏んだわけじゃねえのに……もうやってられるか……!」

 





ハイ、誘拐からラッキースケベまで、色々と忙しい回でした。まあ、一気にフラグが乱立しましたね。もう助からないゾ♡


よろしければ高評価や感想などをお願いします。作者のモチベが爆上がりするので。

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