ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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タグに一応ヤンデレを追加しました。



04 サメとパシリ、ビデオ屋へ行く

ライカンから聞いたところによると、ヴィクトリア家政は一般のホロウレイダーやプロキシとは違って、依頼を受ける頻度はそこまで無いらしい。

 

前回の護衛対象であったあの老人のような、如何にも富裕な人々が顧客なら納得だろう。

 

というわけで、先日の一件から一月近くが経っても任務に関して呼び出されることはなく、普通の学校生活を送ることが出来ていた。

 

厳密に言うと、以前とはまた状況が変わっていたのだが。

 

「はぁ……はぁ……。」

 

スズツキは校内の階段を登っていた。

 

ひとつ上の学年が使う階層に辿り着き、並んだ教室のひとつに入る。

 

最奥の机には頭から突っ伏した例の先輩の姿が。

 

他の生徒を避けながら近付くと、こちらの雰囲気を感じ取ったようで、姿勢は変わらないままサメの尻尾だけがゆらゆらと動き出す。

 

「……おそい。」

 

「無茶言わんでください。あんな混んでるのに。」

 

「言い訳無用……で、買ってきたの……?」

 

「ええ、ええ、大変でしたけどね。」

 

現状、スズツキは彼女のパシリと化していた。

 

仕事について色々と教えてあげるから、代わりに小間使いになれとのこと。

 

今も学食でのパンの争奪戦に参加し、揉みくちゃにされながら戦利品を獲得してきたところだ。

 

「ん。」

 

「どうぞ。」

 

突き出されたエレンの手に焼きそばパンとクリームパン、よく冷えた牛乳のパック、余ったお釣りを置こうとする。

 

が、直前で引っ込めた。

 

「早く……友達が帰ってきちゃうでしょ……。」

 

「前々から思ってたんですけど、先輩の尻尾を触ってみたいなと……。」

 

「……床とのキスなら今すぐにさせてあげる。」

 

「冗談です。」

 

すぐさまパン2つとお釣りをエレンの手に置く。

 

だがここで悪戯心が芽生え、残った牛乳を彼女の首に乗せた。

 

「ひゃっ!?」

 

良い悲鳴が聞けたことに満足しながら急いで退散をする。

 

しかし教室を出る直前に、背後から飛んできた消しゴムが後頭部にクリーンヒットしてしまう。

 

普通に痛かった。

 

「つ、次やったら金的だから……!」

 

「へーい……。」

 

まあ、そんな感じに平和な毎日を過ごしてはいたが、あいにくと失念していることがあった。

 

それは彼女、エレン・ジョーは様々な面で校内でもかなりの有名人ということ。

 

見ず知らずの野郎が近付いていれば噂にならない筈がない。

 

「なあスズツキ。」

 

「え、何、そんな真剣な顔して。」

 

「お前、あのサメの先輩と付き合ってんのか?」

 

「ぶっ……へ、変なこと言うなよ……!?」

 

友人の予想外の発言にお茶を吹き出しかける。

 

こちらの反応を前に彼はニタリと笑みを浮かべながら言葉を続けてきた。

 

「いやぁ、だってよ、あの先輩と毎日顔を合わせてるって噂が流れてるぜ?なんなら一緒に帰ってるところも見たって……。」

 

「別にあれは訓練……いやその……。」

 

秘密を漏らしそうになり、慌てて口をつぐむ。

 

対して眼前のクラスメイトは口角を更につり上げた。

 

「ふーん……否定しないってことは……。」

 

「ち、違う!何も無いって!」

 

「いやー、女っぽいとか馬鹿にして悪かったよ!お前も歴とした雄なんだな!」

 

「ちーがーう!」

 

全力で否定をするスズツキだったが、一方で同じ校舎の1つ上の階でも同様の会話が行われていた。

 

こっちに至っては3対1であり、恋バナが大好きな年頃でもあることから、質問攻めは更に苛烈であった。

 

「被告、エレン・ジョー!詳しい説明を求めます!」

 

「そういうことは興味無いとか言ってなかったっけ?」

 

「よりにもよって『あの』グナイゼナウ君かぁ……。」

 

ちなみにスズツキもエレン程ではないが、それなりに顔が知られている。

 

中でも特に女子の間で認知が広まっていたため、エレンの友人達、ルビーと凛、モナは鼻息荒く彼女へと詰め寄っていた。

 

「ねえねえ、それでどんな感じ?」

 

「べ、別に何にも無いよ。アイツはただの後輩。」

 

「2人で下校してたって話は?」

 

「……一緒に帰ってたのはバ先に向かってただけ。」

 

本当は顔出しついでにスズツキの射撃訓練やらリナによるメイドの授業などを見ていただけである。

 

やましいことなど欠片も無い。

 

「じゃあバイト繋がりってだけ?」

 

「何も。」

 

「ホントに?」

 

「ないない、ある筈が無い。」

 

ふーん、とルビー達の興味を失ったような反応を前にエレンは少し安堵した。

 

しかし次に聞こえてきた言葉にピクリと反応する。

 

「ならさ、グナイゼナウ君はまだフリーなんだね。」

 

「あんな可愛らしい子が彼氏になったらそれはそれで……。」

 

「ぶっちゃけ穴場だよね……イケメン達は既に他の女子が手を付け始めてるし……。」

 

関係無いと思っても耳を介してハッキリと聞き取ってしまう。

 

自然とモヤモヤとした未知の感情が心中に渦巻いていく。

 

我に返ったのは肩を揺さぶられてからだった。

 

「エレン?どーしたの?」

 

「何かあった?」

 

「いや別に……スズツキのことなんか考えてないよ。本当に。」

 

無意識のうちにそう口走ってしまう。

 

これが良くなかった。

 

どうやらルビー達は既に彼とは関係の無いまた別の話題について話していたようで、現に凛の携帯端末には昨日のお笑い番組の一幕が映されていた。

 

そのことを理解するが、もう遅い。

 

顔を上げると、ニタァァとした笑みが3つ並んでいた。

 

「きゃー!もうエレンったら!」

 

「彼のことで頭いっぱいになってたんだー!しかも名前呼び!」

 

「ふふ……やっぱりエレンも乙女なんだね。」

 

「ちょっ、違う!違うから!///」

 

エレンは必死になって否定するが、十分な証拠を提示してしまったからには中々止まらない。

 

それからしばらくの間、というより放課後まで彼女への詰問は続いた。

 

「はぁ……疲れた……。」

 

下校の時間になってようやく解放されると、校舎を出て校門に向かう。

 

ここで前方のロータリーに見知った小柄な背中を発見した。

 

最初は無視しようとも考えたが、溜まった鬱憤を彼で晴らしてやろうと声をかけることに。

 

「ねえ。」

 

「……あ、先輩。」

 

こちらよりも少し低い位置でスズツキが振り向いてくる。

 

その双眸からは疲労を感じられた。

 

もしかしなくても彼も同じような目に遭ったのだろうか。

 

「アンタのせいで色々と疲れた。何か奢って。」

 

「嫌ですよ。大方付き合ってるとかどうとかですよね?そもそも先輩が僕を毎日パシるのが良くなかったのでは?」

 

「う、うるさい。いいからお菓子でも奢れ。」

 

「代わりに尻尾触らせてください。」

 

「やだ。」

 

「じゃあ無理です。あと僕はこれから行く場所があるので。」

 

「どこに?」

 

「これです。」

 

スズツキは肩にかけた鞄から1つの記憶媒体を取り出す。

 

ホロウ災害に見舞われるこの世界で、形の無いクラウドとは違い、手に持って長く保管出来ることからアナログながらも官民問わず重宝されているVHSだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

学校最寄りの地下鉄の駅から乗ったのは、通学に使ういつもの副都心線ではなく、また別の方向へと向かっている東西線。

 

ヤヌス区に位置する六分街に到着するとスズツキとエレンは電車を降りた。

 

「へぇ……何か面白そうな街だね。」

 

「色んな店があって楽しいですよ。この辺りはまだ複合商業施設の侵略を受けていないんです。」

 

「侵略って……ショッピングモールをホロウみたいに言うじゃん。」

 

「お気に入りの玩具屋が潰されたことがありましたので。」

 

それからはこじんまりとした、少し手狭な街角を歩いていく。

 

すると前方にレンガ造りの家が見えてきた。

 

「着きました。あれです。」

 

「ん……『RandomPlay』?」

 

「ええ、値段がお手頃で、世間の流行にも過敏なので他のチェーン店より色々と優れてるんですよ。」

 

「ふーん……映画ねぇ……。」

 

最後に見たのはいつだっただろうかと、エレンは追憶に浸る。

 

だがスズツキの姿が扉の向こうに消えたことに気付き、遅れて店内に入った。

 

そして目に入ってきた光景を前に固まってしまう。

 

「あっ、ちょ……り、リンさん。やめてくださいよ///」

 

「ちょっとくらいいいじゃーん。スズツキ君を愛でることなんて偶にしか出来ないんだしー。」

 

いきなり視界に捉えたのは店員らしき少女と、彼女に頭を撫でくり回されているスズツキの姿だった。

 

やめろと言いながらも、まんざらでも無さそうな様子の彼。

 

苛立ちを感じたのは気のせいだろうか。

 

「…………あの。」

 

「うりうり〜……ん?」

 

その店員、おそらくは年上で、青みがかった短めの髪の少女と目が合う。

 

互いに数秒ほど停止したのち、先に動いたのは相手の方だった。

 

「もしかして……彼女さん?」

 

「あー……えっと……。」

 

学校で散々イジられたことがフラッシュバックし、返答に詰まってしまう。

 

その間にスズツキが訂正してきた。

 

「違います。違いますよ。ただの学校の先輩です。」

 

「スズツキ君の?」

 

「ええ、着いて来ただけです。」

 

「ふーん、そう……私、リンって言うの!ここのオーナーやってるんだ!よろしく!」

 

「エレン……よろしく。」

 

品定めをするようにじろじろと見られたかと思えば、今度は満面の笑みをセットに手を差し出される。

 

対してエレンは少し躊躇いながらも軽く握った。

 

「エレンは映画とかは見る?会員カード作ろうか?」

 

「いや……私は別に……。」

 

「まあ店内のは自由に見て良いからさ、もし気分が乗ったら声を掛けてね。」

 

「……分かった。」

 

ぶらぶらと歩きながら店内を見渡してみる。

 

店自体が小さめなこともあって、ビデオの本数もそこまで多くはなかったが、若者向けが主に配置されているようで、中には興味を引かれるものもあった。

 

「『人喰い鮫襲来』ねぇ……。」

 

如何にもB級なパッケージに勢いのみのストーリーが特徴の安っぽそうなビデオ。

 

しかし頭を空っぽにして視聴出来るかもと手に取ってみる。

 

「ねえ、借りるのは……って居ないし。」

 

見渡せる範囲にリンとスズツキの姿はなかった。

 

カウンターに座るボンプに目を向けると、彼は『STAFF』と書かれた扉を小さな手で指し示す。

 

そこに耳をすませば何かの会話が聞こえてくる。

 

何故かは知らないが、無性に癪に触った。

 

すかさずドアノブを握り、門番をしていた別のボンプごと扉を押し込む。

 

「へぇ〜!アキラさんがこれを?」

 

「うん、それでね……!」

 

中ではスズツキとリンが隣り合ってソファーに座っていた。

 

何やら彼は手に持ったビデオに目を輝かせており、リンはそれを微笑ましく眺めている。

 

が、よく見ればそのボディタッチの表面積があからさまに多いことに気付く。

 

半身はべったりとくっ付いており、彼女の手は彼の脚の上に置かれていた。

 

エレンはそんな2人の極度に近い距離感に不快さを覚える。

 

「すいません。」

 

「……何かあった?」

 

「このビデオ借りたいんですけど。あとカード作ってください。」

 

「おっ、はいはーい!ちょっと待ってて〜。」

 

リンがすれ違いに出ていくとエレンは部屋の中に足を踏み入れる。

 

室内にはビデオの在庫や各種書類などの他に何かの大掛かりな機材があった。

 

レンタルビデオ店には余り似つかわしくないものを前に、少し怪訝に思ったが、今は気にせずソファーに腰を下ろす。

 

「アンタさ、あの店員と知り合いなの?」

 

「ええ、もうここには通い始めて半年弱くらいになります。あとリンさんは店長ですよ。兄妹で店をやってるんです。」

 

「ふぅーん……客を事務室に連れ込んでセクハラ三昧の店長ねぇ……。」

 

「?何て言いました。」

 

「何でも。それより何してたの?」

 

「ふふ、実はですね……これを注文したんです!」

 

途端にキラキラとした瞳で1つのビデオを見せつけてくるスズツキ。

 

パッケージには『超時空機動戦艦、大銀河零号:回生篇』と、長々しい題目が何らかのSFチックな挿絵と共に書かれていた。

 

少なくとも絶対に興味が無いことは確かだろう。

 

「映画館で見ればいいんじゃ……。」

 

「もう3回見ました。これは保管用ってやつです。」

 

「ふーん……面白いの?」

 

「そりゃあもちろん!まずこの話は……!」

 

待ってましたと言わんばかりに嬉々として作品の魅力を語り出すスズツキだったが、歳に見合わぬ子供のような姿につい微笑ましく思ってしまう。

 

まあ、ストーリーに関してはさっぱり分からなかったが。

 

「……という感じです。分かりましたか?」

 

「私には無理そうってことは。ねえ、何か他のはないの?私でも分かるようなさ、例えばこのサメ映画みたいなやつとか。」

 

「難しいこと考えないタイプですね。なら沢山ありますよ。例えば……。」

 

会話は意外にもよく弾んだ。

 

こんなのも悪くないと思っている自分がいた。

 

しかしリンが会員カードと登録用のQRコードを持って来たことで中断を余儀なくされてしまう。

 

「楽しいとこ失礼しますよー。はいこれ。あと貸出期間は13泊14日だから忘れないようにね?」

 

「……ありがとうございます。」

 

「さて、スズツキ君はお姉さんとお話の続きをしよっか!」

 

スズツキを挟んでソファーの反対側に座ってくるリン。

 

エレンは自身の中に再び不快感が込み上がってくるのが分かった。

 

どうにか彼を連れ出せないかと思案する。

 

が、ここで事態は彼女の方へ好転した。

 

手首に着けていた端末が機器への着信をバイブレーションで知らせてきたのだ。

 

液晶に表示された『B25:ASAP』の短い文を見て思わず笑みを浮かべる。

 

この時ばかりはライカンに感謝した。

 

「スズツキ、もう行くよ。」

 

「えっ、何ですか?」

 

端末の画面をチラリと見せると、スズツキの腕を掴んで立ち上がる。

 

そして彼を先に行かせて、少しだけ後ろの方を向く。

 

すると面白くなさそうな顔をしたリンと目が合った。

 

「……お邪魔しました。ではまた2週間後に。」

 

「じゃあねー。ちなみにビデオの返却は本人以外でも大丈夫だから。例えばスズツキ君とか。」

 

「自分で返しに来るので大丈夫です。」

 

平凡な会話とは裏腹に女同士の圧の応酬が繰り広げられ、間に居たボンプが堪らんと部屋から逃げ出す。

 

結局、それから2人が言葉を交わすことは無く、そのままビデオ屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「あーあ、こんな時に出頭命令かぁ……。」

 

「ねえ、次からあのビデオ屋に1人では行かないで。」

 

「何でですか?」

 

「いいから。先輩命令。」

 

「えー、学校帰りの行きつけなんですけど。」

 

「行くなとは言ってない。1人で行くなっつってんの。」

 

「じゃあ先輩が着いてきてくれると?」

 

「気が向いたら。」

 

「尻尾触らせてくれたら考えます。」

 

「……触らせないと駄目?」

 

「わ、分かりましたよ。従いますから。」

 

「うん、よろしい。あとお菓子奢って。」

 

「尻尾触らせ……。」

 

「やだ。」

 

「じゃあ無理です。」

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「ただいまリン、例の依頼を受けてきたから次のダイブは……っていつにもなく不機嫌だね……。」

 

「……あっ、お兄ちゃーん!聞いてよー!私のスズツキ君に変なのがついてたー!」

 

「スズツキが来ていたのか。例のビデオは渡してくれた?」

 

「ちゃんと渡したよ!それより女連れてた!私より背が高くておっぱいもデカかったー!」

 

「女って……まあ彼も青き春の真っ盛りだし、恋人を作ることがあってもおかしくは……。」

 

「私のだもん!先にツバつけてたもん!うわーん……!」

 

「…………じゃあ、今日は焼肉にでも行くか?」

 

「やった!お兄ちゃん大好き!私カルビとタンが食べたい!」

 

「はいはい、失恋も経験のうちだからね。」

 

「ん?私、諦めるなんてひと言も言ってないけど?いつか絶対モノにするから。」

 

「うん……なあリン、やっぱり焼肉は無しに……ふごっ。」

 

「さ、早く行こ!18号、6号、イアス、店番よろしくね〜!」

 

「ンナンナ〜。」

 

「ンナ、ンナナナ?」

 

「ンンナ、ンナンナナ……ンナ。」

 

 





訳) 

18『いってらっしゃーい。』

イ『ねえ、何かあったの?』

6『まあその、女同士の争いって怖いね……ホントに。』




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