ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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レミエール、シグリッド、クラレッタと来て、育成素材とディニーが底をつきました。ガチャ券もカッツカツっす。どうか皆さん、課金は計画的に……。



51 見合い阻止大作戦

スズツキとルーシーの乗る車は高速道路の高架を走っていた。

 

道路の周りには摩天楼がひしめいており、様々な企業のホロ看板が高々と掲げられている。

 

その中には『モンテフィーノ・グループ』のロゴもあった。

 

キャンペーンガールと共に2シーターの真っ赤なスポーツカーが映っている。

 

それを眺めながら、ルーシーは忌々しそうに息を吐いた。

 

「……まったく、あんなものにまで手を出すなんて。父はアホの極みですわね。」

 

「でもロマンあって良いじゃないですか。内燃機関って。今どきEVじゃない車を探す方が難しいんですし。」

 

「それは否定しませんわ。でも、エンジンに札束を貼り付けたような下品な車は嫌いですの。」

 

「前に一度乗ったことありますけど、カッコいいし快適でしたよ?お嬢様のお父さん、良い仕事してますね。」

 

「ふん……ああでも私の父ですから。」

 

ルーシーはぷいとそっぽを向く。

 

そして誤魔化すように話題を変えてきた。

 

「それより、ですわ。下僕、自分のやるべきことは分かっていて?」

 

「ええ、お嬢様が話をしている間、隣にずっと立っている、ですよね?」

 

「くれぐれも余計なことは言わないように。あと何かわたくしが言ったら、適当に合わせてくださいまし。」

 

「承知しました。偽装工作ですね。」

 

「それもわたくしの人生が掛かった大事な案件ですわ。心に留めておきなさい。」

 

「はい。」

 

車は高速道路を抜けると、スロノス区の高級住宅街へと入っていく。

 

普通の家が5個は入りそうな大きな家ばかりが立ち並んでいる。

 

しかし目的地はその更に奥だ。

 

地図上ではすでに都市の外縁部だったが、低所得者層の住むスラムやストリートは見えてこない。

 

ただのどかな自然の風景が広がっていた。

 

途中、牛や羊を放した広大な牧場や、豚を飼育する厩舎が通り過ぎていく。

 

歴史の教科書で見たような昔ながらの牧畜にスズツキは目を見開いた。

 

「スゴい……家畜をこんな広い場所で飼ってるなんて……。」

 

「狭い工場で薬漬けにするのとでは味に雲泥の差が出ますの。フードプリントとは……言うまでもないですわね。貴方、最後に天然肉を食べたのは?」

 

「今度の郊外のラム肉ですね。もちろん、ひっさびさでしたよ。冗談抜きに頬が落ちるかと思いました。都市ではほとんど合成品ですし。」

 

「ふふ……当たり前ですわ。郊外一帯に流通するラム肉はわたくしがプロデュースしてブランド化させたものですの。ブレイズウッドの主要収入源のひとつでもありますのよ。」

 

「ええっ、スゴいですね。食にも通じているんですか。」

 

「元々モンテフィーノ家は食品系が本業ですわ。わたくしの得意分野でしてよ。」

 

「へえ……流石はお嬢様です。」

 

「これくらい出来て当然ですわ。」

 

そう言いながらも、ルーシーの口の端は微妙に上がっていた。

 

幸いにも前方の景色の変化によって、スズツキに気付かれることはなかったが。

 

「ん?壁?」

 

「門ですわ。家へ着きましたの。」

 

「え……。」

 

スズツキは目を凝らす。

 

視界に映ったのは草原を横断するように設営された鉄製の大きなフェンスだった。

 

道路に繋がる位置には豪奢な門が構えており、よく見ると、フェンスの上に等間隔でカメラらしきものが並んでいる。

 

だが問題は門の先に何もなかったこと。

 

まるで広い草原の真ん中に、門だけが唐突に置かれているようだった。

 

「えと……家はどこに……?」

 

「もちろんこの先に……ああ、庶民にとっては身近ではありませんものね。心配しなくても、庭だけ広くて家はバラックなんてオチじゃありませんわ。」

 

「えぇ……まだ土地が続くんですか……?」

 

話している間に前方で門が勝手に開いていく。

 

門を通り過ぎる寸前、入り口に立っていた警備の知能構造体らしきものが目に入ってくる。

 

その腕には明らかに12.7mmクラスの重火器が装備されていた。

 

「……おっかねぇ。」

 

「地位と名声を得れば、それだけ妬みと僻みも買いますわ。治安局に頼らない自衛力は必須でしてよ。特にここは場所は違えど、郊外には変わりありませんもの。」

 

「警備系の会社が繁盛するわけですね……。」

 

門を抜けると、長く続く一本道を走っていく。

 

そして丘を越えた時、ようやく本邸が見えてきた。

 

「すげ……。」

 

「はぁ……遂に目的地ですの……。」

 

スズツキが目を見開いているのに対し、ルーシーは重い溜め息を吐く。

 

現れたのは広大な庭園と荘厳な屋敷、そしてその奥に鎮座する巨大な湖だった。

 

以前に訪れた別荘とは違い、こちらは伝統を感じさせるような古風な装飾が施されていた。

 

庭園で作業をしていた庭師たちはルーシーに気付くと、一斉に帽子をとって頭を下げ始める。

 

かと思えばどこか慌てた様子で去っていった。

 

「そこのロータリーに停めてくださる?わざわざ駐車場まで行ってる暇は無いですの。」

 

「いいんですか?」

 

「ここはわたくしの実家、何をしようがわたくしの勝手ですわ。ほら、そこで停まりなさい。」

 

「は、はい。」

 

車はロータリーの中央で停まった。

 

ドアを開けてもらうまでもなく、ルーシーは自ら車を降りると、ツカツカと歩いていく。

 

スズツキはエンジンを切ると、慌てて彼女の後を追った。

 

「下僕、最終確認ですわ。貴方の役割は?」

 

「えと……お嬢様の隣で待機すること。基本的には口を閉じつつも、お嬢様から話を振られた場合に限って答える。ただし話は合わせつつも余計なことは言わない……で、合っていますか?」

 

「良い子。さあ、大ボスの登場ですわよ。」

 

ルーシーの視線が道の先、本邸の正面玄関に佇む人物に向けられる。

 

何人ものメイドを背後に控え、斜め後ろには古くからの使用人である男、アンドレアが。

 

この屋敷の主人で、ルーシーの父——ヴィットリオだった。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

ルーシーとヴィットリオと顔を合わせるのは、彼女が家を脱走して以来だった。

 

まさに久々の再会ではあったが、両者の間に感動的な空気は流れていない。

 

最低限の挨拶を除いて、碌に会話も交わさず、そのまま屋敷の応接間に通される。

 

豪華絢爛な見た目通りに伝統的で厳しい家なのかと思えば、アンドレアを始めとした使用人たちはルーシーの訪問を嬉しそうにしており、主人との温度差が激しかった。

 

そして2人はソファーに座り、それぞれの斜め後方にアンドレアとスズツキが立つ。

 

先に口を開いたのはルーシーだった。

 

「さて、お父様……わたくしが遠路遥々ここに足を運んだ理由はお分かりかしら?」

 

「そうだな……アンドレア。」

 

「承知しました。」

 

ヴィットリオが手招きをすると、背後のアンドレアがファイルの束を持ってきた。

 

それを目の前のテーブルに置く。

 

「これは?」

 

「見合い相手の写真と経歴、家柄、その他諸々をまとめたものだ。情報の信頼性については心配しなくていい。治安局の照会と独自の身辺調査を通してある。」

 

「あら、随分と準備の早いこと……。」

 

ルーシーはファイルを見下ろすだけで手を触れようとはしない。

 

「でも、わたくしはコレを受ける気は毛頭無くてよ。」

 

「だろうな。しかし食わず嫌いは良くない。さあ、見るんだ。」

 

「自分の伴侶は自分で決めますの!どこぞのキモい豚オヤジに嫁がされるなんて御免ですわ!」

 

激昂するルーシーだったが、ヴィットリオは眉ひとつ動かさない。

 

言い争いが始まるのかと身構えるスズツキだったが、彼はただ首を傾げた。

 

「ふむ……アンドレア、候補の中に肥満体型の者はいたか?」

 

「いいえ、いません。全員が健康的で平均以上の体格をしております。」

 

「年齢層は?どの程度にまで分布している?」

 

「ルシアーナ様より3歳下から、10歳上までとなっています。」

 

「容姿が醜悪な者はいるか?」

 

「いいえ、いません。ちなみにその判断は私を含めた屋敷関連の使用人及び畜産職員一同の多数決によって行いました。好みに偏りは無いかと。」

 

「だそうだ。」

 

ヴィットリオは視線をルーシーへ戻す。

 

そしてテーブルの上からファイルのひとつを取った。

 

「それに、お前の伴侶を決めるのはあくまでもお前だ。私は押し付けることはしない。」

 

「そちらが提示した選択肢の中から選ぶことが?はっ、十分に押し付けですわ!」

 

「ふむ、これでもか?」

 

ヴィットリオはファイルを開くと、その中身を見せてくる。

 

ルーシーはもちろんのこと、後ろに立っていたスズツキもギョッと目を見開いた。

 

そこに載っていたのは見合い相手の一覧。

 

当初は数ページごとに1人1人の写真が載っているところを想像していた。

 

しかし実際に視界に入ってきたのは、証明写真のような正面から撮った小さな写真。

 

それがびっしりとホルダーの一面を埋め尽くしていたことだ。

 

可愛らしいショタから爽やかイケメン、男盛りのナイスガイと枚挙にいとまがない。

 

「確かにお前はこれから多くの男と出会うだろう。だが、魅力的な年齢層の男となれば別だ。家柄や仕事などを含めれば、更にその数は減っていく。このファイルに載っているよりも少ないことは確かだろうな。」

 

「だからといって、この表の中から選べと?バイクを買うのとは訳が違いますわ。」

 

「あと、私は今すぐ結婚しろとまでは言っていない。むしろゆっくり吟味するべきだ。」

 

「む……。」

 

ルーシーは何も言い返せないまま口を閉ざした。

 

試しにファイルのひとつを手に取ると、パラパラと適当に眺める。

 

そして直後に思った。

 

腹立たしい——と。

 

確かに全員の容姿は完璧だった。

 

ブスやデブは一人たりとも存在しない。

 

写真の裏にはコードが刻まれており、それを端末で読み込むと、写真の人物についての情報が画面に羅列されていく。

 

誰も彼も御曹司ばかりで、中には現役の若手社長や投資家もいた。

 

年齢、容姿、家柄、仕事、資産。

 

その全てが揃っている。

 

そして、それらの中から自由に選ぶ権利を与えられている。

 

まさに完璧と言えるような状況だろう。

 

「……そこまでして、わたくしを嫁に出したいんですの?家の繋がりを強めるために?」

 

「違う。」

 

ヴィットリオは即答した。

 

「人生に後悔が無いようにするためだ。今からしっかりと決めておけば、少なくとも致命的な失敗を避けることが出来る。」

 

「ふん……確かにそれは道理ですわね。」

 

珍しく打つ手が無いとばかりに視線を逸らすルーシー。

 

心配そうに彼女を見つめるスズツキだったが、ある時、その赤い瞳と視線が交錯する。

 

すると、ルーシーは何かを思い付いたのか身を乗り出した。

 

いかにも真剣な様子で話を切り出す。

 

「お父様が真剣だということは分かりましたわ。でも、それでもわたくしはこの見合いを受けられませんの。正確には、受けることは出来ないと言った方が正しいでしょうか。」

 

「……む。」

 

ピクリと、ヴィットリオの眉が動いた。

 

何かを察したのか、背後のアンドレアは驚いたように口に手を当てていた。

 

ルーシーは今までとは一転して、しおらしい雰囲気を出しながら、ゆっくりと口を開く。

 

「実は……実は、わたくしにはもう『恋人』がいますの。」

 

「……!?」

 

スズツキはギョッと目を見開くと、慌てて口を固く閉じた。

 

すぐに平静を保とうとする。

 

一方、ヴィットリオはというと、意外にも反応は薄いものだった。

 

だが僅かな間、銅像のようにフリーズすると、再び動き出す。

 

「……そうか。恋人が既にいたか。ならば、見合いを受けられないことも道理だな。」

 

「ええ、そういうわけですので……。」

 

「待て。」

 

席を立とうとしたルーシーは舌打ちを堪えながら、再度ソファーに腰を下ろす。

 

「何ですの?」

 

「その相手の名前を言ってもらおうか。」

 

「……はっ、はあぁ?」

 

「心配するな。危険人物ではないかを確認するだけだ。もちろん、それくらいは家を守るためには当然だろう?」

 

ヴィットリオの眼光がルーシーを射抜く。

 

きっとこの場で適当に名前を言っても、即座に調べ上げられた上で、関係性が皆無であることが露呈するだろう。

 

そうなれば見合い話も再燃するかもしれない。

 

どうしたものかと考えるルーシーだったが、そこでとあるカードの存在を思い出す。

 

それも手に入れたばかりの新品だ。

 

「……お父様。」

 

「何だ。」

 

ルーシーは傍らのスズツキの腕を掴むと、自分の隣に引っ張る。

 

不思議に思いながらもスズツキはそれに従った。

 

そして次の瞬間、ルーシーはさらりと衝撃的なことを言い放った。

 

「紹介しますわ。わたくしの下僕兼恋(・)人(・)のスズツキですの。」

 

「……えっ……あ”っ!?」

 

唖然とするスズツキの手の甲を、ルーシーの指がつまみ上げてくる。

 

話を合わせろということだ。

 

まさかのアドリブでの偽装作戦らしい。

 

「そ、そうですっ!お嬢様とお付き合いさせてもらっています!」

 

「彼(・)女(・)から熱烈なプロポーズを受けましたの……私をその気にさせた責任は重くてよ?」

 

「は……ひゃい!」

 

ルーシーはスズツキの手を取ると、自分の頬を乗せる。

 

どうやら恋人と言っても、単なるカップルではなく百合カップルという設定のようだ。

 

対してヴィットリオは変わらず黙り込んでおり、アンドレアは驚きを隠せていなかった。

 

「そうか……同性の恋人か……ならば尚のこと見合いは受け付けないな……。」

 

「そういうことですの。まさか跡継ぎがどうたらとは言いませんわよね?」

 

「うむ……実はタイムフィールド家のような令嬢の候補もあるにはあったが……まあいいだろう。そのメイドについては私も知っている。下手な赤の他人よりかは遥かに良い。」

 

何ひとつ進んでいないにも関わらず、ここでヴィットリオは初めて表情を緩めた。

 

彼は小さく手を振り、アンドレアがファイルの山を片付けていく。

 

見合いの話が終わったことにルーシーは内心ほくそ笑んでいた。

 

あとは適当に話を合わせて、また郊外に帰るだけ。

 

しかし彼女の気付かないところで問題が猛スピードで近付いてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

場所は変わって、屋敷から遠く離れた農園の一角。

 

そこでバイクに跨ったまま首を傾げるシーザーの姿があった。

 

「ありゃあ……アイツらどこいった?」

 

キョロキョロと辺りを見渡すが、あいにくと白いSUVどころか道路すらない。

 

代わりに背の高いトウモロコシ畑と、そこを縦断する農道だけが広がっている。

 

後ろを向くと、遠方の地平線に新エリー都の摩天楼が小さく見えた。

 

よって少なくとも来た方向だけは明確だ。

 

「あぁ……くそ……進むしかないか。」

 

取り敢えずシーザーは都市を背にバイクを発進させた。

 

しかしいつまで経っても景色は変わらない。

 

ただひたすらトウモロコシの茎がびっしりと並んでいる。

 

「うひゃあ……ルーシーの実家ってこんなにやべぇのかよ……。」

 

今更ながらに殴り込み先の強大さに足がすくむ……なんてことにシーザーがなるはずもない。

 

彼女の中では焼きトウモロコシ何年分くらいになるのかといった考えでストップしていた。

 

そしてその思考ですら情景の変化で消し飛ばされてしまう。

 

「お……今度は別の畑か。」

 

トウモロコシ畑が途切れると、今度はビニールハウスが立ち並ぶ区画に出る。

 

その時だった。

 

前方のビニールハウスのひとつ、その半透明の膜越しに、何かが蠢いているのが見えた。

 

人影——のようにも見える。

 

だが低い位置でうずくまり、時折肩だけが小さく揺れていた。

 

道を聞けるかもしれないと、シーザーはバイクのスピードを落として近付いていく。

 

「おーい!そこのー!」

 

返事は無い。

 

代わりに聞こえてきたのは、くぐもった妙な音だった。

 

ぐちゅ、しゃくっ——と、何か柔らかいものを噛み砕くような、水気を含んだ音。

 

シーザーの背筋に薄く寒気が走る。

 

相手はハウスの隅で背を向けたまま、何かに夢中になっていた。

 

肩がゆっくりと上下し、腕だけが絶えず動いている。

 

「な、なあ……ちょっといいか?実は道に迷っちまってよ。白い車を追ってきたんだ。なんか知らねえか?」

 

直後、シーザーの足元に何かが転がってきた。

 

反射的に一歩下がる。

 

それはべちゃりと湿った音を立てて止まった。

 

丸みを帯びた厚い皮。

 

果汁に濡れ、内側の果肉だけが綺麗にえぐり取られている。

 

「……メロン?」

 

周囲を見れば、同じものがいくつも散らばっていた。

 

食い尽くされた果皮が、まるで抜け殻みたいに転がっている。

 

「おいおい……お前……まさか……。」

 

シーザーは更に一歩下がると、バイク側面のラックの剣に手をかける。

 

その瞬間、相手の動きが止まった。

 

ぴくり、と2本の長い狐耳が揺れる。

 

少しの沈黙を経て、その人物は、ゆっくりと首をこちらへ向ける。

 

その真っ赤な瞳と果汁の滴った口元が見えてきた。

 

「む……何だお前は。」

 

「……そりゃこっちのセリフだぜ。」

 

いくら郊外生まれ郊外育ちなシーザーでも『彼女』の存在は知っている。

 

長い狐の耳に赤い瞳、そして腰に光る一振りの打刀。

 

単独において新エリー都最強の存在——虚狩りこと『星見雅』だった。

 

思わず身構えるシーザーだったが、雅は構わず手元のものを差し出してきた。

 

「お前も食べるか。これは中々に美味だぞ。」

 

「お、おう……?」

 

差し出されたのは、綺麗に切り分けられたメロンの一切れだった。

 

唖然とするシーザーの眼前で雅は別の一切れに豪快にかぶりつき、ガジガジと齧っていく。

 

試しに一口食べてみると、途端に強い甘味が口の中に広がっていった。

 

それも人工甘味料のような、舌に残る甘さではない。

 

非常に甘いにも関わらず、後味は爽やかでスッキリとしていた。

 

「う、美味い!」

 

自然と食べる手が進んでいく。

 

気付けばあっという間に無くなっていた。

 

「ふぅ……いいもん食えたぜ。」

 

「うむ、やはりここの農夫は良い腕を持っているな。」

 

「……それ、全部食ったのか?」

 

雅の足元には果肉を食われて、皮だけのメロンがいくつも転がっていた。

 

「ああ、ついメロンの匂いに釣られてしまった。お前が声をかけてくれなければ、自分の目的を忘れたままあと5個は食べていただろう。礼を言う。」

 

「そりゃどうも……って、ソレ大丈夫なのかよ?」

 

「代金なら後で払う。だが先に目的を……っ!」

 

次の瞬間、雅の右腕が動いた。

 

鞘から刀を引き抜き、宙に向かって振り上げる。

 

刀身が斬ったのは2本のワイヤーらしきもの。

 

先端の電極がポトリと地面に落ちる。

 

「なっ、何だぁ!?」

 

「……どうやらここは引いた方がいいらしい。」

 

雅とシーザーが後ろを向くと、空中にドローンが浮かんでいた。

 

一見して農業用のドローンだったが、問題はその下部に低致死性武器ことテーザー銃を引っ下げていたこと。

 

そしてドローンは1機だけではなく、後ろからも続々と集まってきていたこと。

 

「ふむ……お前、そのバイクは使えるか?」

 

「ああ!」

 

「私が斬る。お前は運転しろ。」

 

「頼んだぜ!」

 

シーザーは後ろに雅を乗せると、バイクを発進させた。

 

後ろからドローンも追ってくるが、攻撃を全て雅が弾いていく。

 

「なあ!これってこのまま進んでいいのか!?」

 

「問題ない。私の探している人物はこの先にいる。かすかに彼の匂いがする。」

 

「アンタも人探しか?奇遇だな!オレ様もだ!」

 

「ならば話は早いな。このまま行けば、人の集まっている場所に辿り着く。おそらくは家か何かだろう。お前の探し人もそこにいる可能性が高い。」

 

「そりゃいい!じゃあ捕まってろよ!振り落とされないようにな!」

 

シーザーはハンドルのグリップを捻る。

 

バイクはエンジンを唸らせながら加速するが、ドローンも負けじと追い縋ってきた。

 

「あぁもう!しつけーなぁ!」

 

「ふむ、では斬るか。後で弁償すればいい。」

 

「いや、まだ終わってねえぞ!」

 

シーザーはハンドル付近に備え付けたボタンのカバーを外した。

 

ボタンの配線の先にあったのは2本の細長いボトル。

 

彼女は躊躇いもなくボタンを押し込んだ。

 

軽い圧縮音が響いたかと思えば、一瞬の間を置いて、エンジンが爆発的な咆哮を上げた。

 

「ぬっ。」

 

「行くぜぇ!」

 

前輪が僅かに浮き上がり、まるで矢の如くバイクは急加速していく。

 

そしてあっという間にドローンを振り切っていった。

 





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