ヴィクトリア家政の女装メイド   作:ゆうぐれ

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アンケートの結果、オリ主の周りが更に混沌と化すことが決定しました。よって今までヒロインはエレンとリンのみでしたが、それ以外のキャラも積極的に出していきます。



第二章 メイドも歩けば陰謀に巻き込まれる
08 新たなる任務と新たなる修羅場


今日も普段通りの学校生活が続いていた。

 

制定鞄を持って通学し、教室で欠伸をしながら授業を受け、休み時間に友人達とたわいもない話で盛り上がる。

 

女装メイドになる前と同じ、平凡で平和な時間。

 

しかし厳密には1つだけ大きな変化が発生していた。

 

「ねえ、スズツキ居る?」

 

6限後のHRが終わり、生徒達が各々部活や帰宅の準備をしていると、突然教室のドア付近に一年歳上の上級生が現れる。

 

背部から伸びているその特徴的なサメの尻尾と、目を引く整った容姿に男女を問わず現場に居た誰もがざわめき出す。

 

そして彼彼女らの視線は教室の一点へと向けられた。

 

「……えっ?」

 

スズツキはいきなり自身に向けられた沢山の目に困惑していると、前方から見知った人物が近付いてきた。

 

「何ボーっとしてんの。早く行くよ。」

 

「あ、はい。」

 

「ほら、時間無いんだから。」

 

彼女、エレン・ジョーは後輩メイドの手をガッチリと掴み、有無を言わさず教室の外に連行していく。

 

2人の姿が見えなくなると教室は様々な色の歓声で包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

ここは拠点のあるビルの中。

 

スズツキとエレンは長い廊下を歩いていた。

 

「あの……。」

 

「何?」

 

「今日は召集ってありましたっけ?」

 

「昼にボスが直接口頭で伝えに来た。多分、メールでは話したくない大きな任務があるんだと思う。」

 

「なるほど……ただ僕を呼ぶのはもっと良い方法があった気がしましてね。電話とか……。」

 

「めんどい。どうせ今更だし。」

 

スズツキは明日教室に行けば絶対にイジられるだろうと、軽い溜め息を吐きながらエレベーターのボタンを押す。

 

対照的にエレンは雌どもへの牽制になっただろうかと、専用の特殊な鍵を取り出しながら心の中で満足気味にほくそ笑む。

 

「ふふ……。」

 

彼女は隣の後輩が自分以外の異性と親し気に接していた場合、非常に不快な気分を味わうことを近日の出来事から覚えていた。

 

特にリンという脅威に対しては高い警戒心を持っている。

 

だから再び第二第三の奴を生み出さないために牽制をかけたのだ。

 

今まで鬱陶しく思っていた自身の有名さを利用して。

 

他人の話のネタになるデメリットがついてくるが、少なくともスズツキに手を出す不届者は居なくなるだろうと。

 

「先輩、乗らないんですか?」

 

「ん、あ、ごめん。」

 

気付けばエレベーターの籠が既に到着していた。

 

エレンは中に乗り込むと、操作盤の一部のカバーを開け、そこにあった小さな穴に鍵を差し込んだ。

 

ガコン、とエレベーターが()に動き出す。

 

かと思えば今度は上昇を開始し、10秒ほどでチンと到着を知らせるベルの音が響く。

 

ドアが開くと、いつもの拠点に繋がっていた。

 

「あーもう……疲れた……!」

 

エレンはすぐさま革張りのソファーへダイブし、スズツキは適当な椅子に腰を下ろした。

 

待っている間、宿題でもしていようかと鞄を開くスズツキだったが、ソファーの向こう側からサメの尾びれが顔を出し、手招きするように前後へ振られる。

 

「ねえ、ちょっと来て。」

 

「何ですか?」

 

「いいから早く。」

 

「はいはい。」

 

言われた通りにすると、エレンはむくりと起き上がり、自分の隣を軽く手で叩いた。

 

どうやら座れということらしい。

 

「?何か話でも……。」

 

「皆んなが来たら起こして。」

 

腰を下ろすと、次の瞬間には覚えのある重みが太ももの上にのしかかってきていた。

 

眼下より甘い香りがふわりと上がってくる。

 

「えっ……ちょっ……!?」

 

「んん……。」

 

あっという間に膝を制圧し、すぅすぅと気持ち良さそうに寝息を立て始める彼女。

 

スズツキは呆気に取られながらも身体を楽にした。

 

「まったく……。」

 

しょうがないとリモコンを手に取り、目の前のテレビを点ける。

 

パチパチとチャンネルを変えていき、いつも観ている夕方のニュース番組を映す。

 

今は世間で話題となっていることが取り上げられているようで、スタジオ内の大きなスクリーンには白い髪と髭を蓄えた小太りな男性が表示されていた。

 

[先日行われた記者会見によると旧エリー都高速度交通営団の旧東急線跡地を用いた地下再開発プロジェクトは再来週をもって本格的に工事を……。]

 

アナウンサーがカンペを読み上げる背景に映っていたのは『ヴィジョン・コーポレーション』の社長である『チャールズ・パールマン』。

 

先日の会見において、彼が記者達を相手に胸を張りながら声高々に質問へ答えている場面だった。

 

スズツキは口に手を当て、訝しげな表情を浮かべる。

 

「ヴィジョンねぇ……。」

 

ヴィジョンはゼネラルコントラクター、いわゆるゼネコンと呼ばれている、建物の設計や施工、管理までを一括で行う総合建築業者だ。

 

その企業が先日、新エリー都一大民生プロジェクトである旧都再開発の一般競争入札においてライバルの南部重工や東亜重工、白祇重工など、様々な有名どころを抑えて契約を勝ち取った。

 

しかし不思議なことにヴィジョンは良くも悪くも至って平均的な企業であり、例に挙げた上記の他3社に比べて特筆すべき長所は無い。

 

一応今回の勝利の決め手は圧倒的なコスト安と公式に発表されてはいるが、その仕組みが怪しいと、何の費用を削ったのかとネット上では話題になっている。

 

[工事は『デッドエンドホロウ』を経由して行われる予定であり、施工期間はおよそ3年程と……。]

 

今回の再開発はホロウ災害時に放棄されたことで腐食と崩落が続いている旧地下鉄を爆薬を用いてリセットし、その後で使えるように再整備をするというものだ。

 

工事が行われる場所は共生ホロウのひとつであるデッドエンドホロウに隣接、というより半分入り込んでいる『カンバス通り』で、そこへ行くにはホロウの中を通る必要があった。

 

スズツキはネット上でデッドエンドホロウと検索をかける。

 

結果の一覧を眺めていくと、調査委員会の公式サイトが投稿した、とあるエーテリアスの写真が目に入ってきた。

 

「『デッドエンドブッチャー』……まじか。」

 

以前ライカンから教えてもらった要警戒エーテリアスのひとつ。

 

デッドエンドホロウ内を徘徊しているそれは身体の大きさや腕力、俊敏性など並みの個体とは比べ物にならないほど秀でており、非常に危険な個体だ。

 

とてもゼネコン1社が相手に出来る存在ではない。

 

正規軍にでも駆除を委託するのだろうかと考えていると、部屋のドアが開いた。

 

「おや、スズツキ、早いですね。」

 

「あ、ボス、こんにちは。」

 

現れたのはいつも通り優美な雰囲気を纏わせたライカン。

 

彼は両腕に沢山の物を抱えており、そのひとつに厚めのファイルがあった。

 

スズツキはそこに収まった沢山の書類を見て任務の存在を確信する。

 

「ボス、今度は何をするんです?」

 

「詳しくは後で話しますが、今テレビに映っていることに関係があります。」

 

返ってきた言葉を聞いて嫌な予想が脳裏に浮かび上がる。

 

「もしかして……デッドエンドホロウですか?」

 

「よく分かりましたね。」

 

「…………デッドエンドブッチャーですか?」

 

「はい。」

 

「うそぉ……。」

 

スズツキは頭を抱える。

 

しかしライカンはそんなスズツキの意図を読み取ったようで、ポンと肩に手を置いてきた。

 

「……ボス?」

 

「心配ありません。ご主人様は危険な任務も受けますが、しっかりと成功の確率を考えた上です。レイダーのような一か八かの賭けには出ません。」

 

「そ、そうですよね。なら良かったです。」

 

「ええ、スズツキにも追加の装備があるので、リナ達が来たら渡します。今はこの場から動けなさそうですしね。」

 

「あ……あはは……。」

 

膝を枕に寝息を立てているエレンに気付いたライカンは軽い笑みを浮かべ、気を遣うようにそそくさと離れていく。

 

「もう……そんなに良いんですか……?」

 

羞恥心に頬を赤くしながらスズツキは未だ目を閉じているエレンに語りかける。

 

すると彼の視界の外、ソファーからはみ出ていたサメの尾びれが肯定の意を示すように少しだけ揺れた。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

案の定というか、次の任務の内容はデッドエンドブッチャーの討伐だった。

 

ホロウ内での移動と作業をより安全化し、ついでにエーテリアスの活性率を下げてホロウを狭めることが目的とのこと。

 

依頼主はもちろんヴィジョンだ。

 

ヴィクトリア家政に頼み込んでくるくらいなのだから何としてもプロジェクトを成功させたいのだろう。

 

ちなみにこういった討伐依頼、それも要警戒エーテリアスが対象となった場合、依頼料は桁違いに跳ね上がる。

 

ライカンとリナによれば、

 

「ふむ……今度の宝くじの一等とほぼ同額と言えばよろしいでしょうか。」

 

「私達も色々と準備にかかってしまうの。これでも良心的な値段よ?」

 

とのことらしい。

 

最初はどうしてそんなに高いのかと疑問に思っていたが、話が続いていくとその理由が分かった。

 

「ふーん……それでいつから行くの?」

 

「まだ未定です。実を言うと、ひとつ問題が発生しました。これを見てください。」

 

ライカンはファイルから複数枚の写真を取り出し、机の上に並べていく。

 

それはデッドエンドホロウを撮った航空写真で、1ヶ月前と2週間前、1週間前のものがあったが、明らかにその濃紺の円は徐々に肥大化していた。

 

「うわ……エーテリアスが活性化しているじゃないですか。スゴいスピードですね。」

 

「はい、本来なら今までのキャロットを一部流用出来たのですが、これではマッピングをやり直す必要があります。」

 

「しかも今回は捜索と討伐が任務。回収や救出と違って沢山動き回れるように用意すべきキャロットは膨大だわ。」

 

「なるほど……だから依頼料が高いと……。」

 

「最悪、それでも赤字に転ずるかもしれません。依頼完了の為には仕方のないことですが、避けたいことではあります。」

 

「あと地図の作成には時間を要するわ。」

 

噴出してきた問題に顔をしかめるライカンとリナ。

 

だがここでカリンがおずおずと手を挙げた。

 

「あ、あのぅ……それなら、プロキシを雇ってみるというのは?費用も比較的安いといいますし……き、期間もかかりません。」

 

「なるほど……プロキシですか……。」

 

今までヴィクトリア家政はホロウ調査局から最新のキャロットを非公式なものまで含めて、全て横流ししてもらっていた。

 

だが取引相手が組織である為、費用と時間がかかるのに対してプロキシは非合法ではあるものの、基本的に個人であることから費用は安く済む上にリアルタイムでの案内が受けられる。

 

欠点をあげるならその能力と、ヴィクトリア家政についての秘密保持を完全に保証出来ないことだろうか。

 

「カリンちゃんの考えは良いと思うけど、どのプロキシに頼むかはサッパリね……ライカン、頼むとしたら誰かツテはあるかしら?」

 

「いいえ、あいにくとそちらは……。」

 

一行がどうにか解決への思考を巡らせる中、スズツキはプロキシという単語からある人物とのことを思い出す。

 

途端に視線を感じたかと思えば、何かでペシンと軽く尻をはたかれた。

 

隣を向くと、こちらを横目で見下ろしてくるエレンと彼女の背後でゆらゆらと動いているサメの尻尾が目に入ってくる。

 

そのルビーのような真紅の瞳は口を閉じろと無言の圧をかけてきていた。

 

コッソリと彼女に近付き、小声で囁く。

 

「……ダメですか?」

 

「駄目、絶対に駄目。」

 

「ボスに伝えるだけでも……。」

 

「アイツは信用出来ない。組織を危険に晒す可能性だってある。」

 

「リンさんはそんな人じゃないですって……!」

 

「うるさい、あんなのより良いのは他にも沢山……!」

 

軽く言い争いになりかける2人だったが、ここで双方共に周囲の雰囲気の変化を感じ取った。

 

顔を上げると、リナとライカンの険しい表情と鋭い視線がこちらへと向けられていた。

 

途端にビクリと、怒られた子供のように固まるスズツキとエレン。

 

しかしよく見ると彼らの視線が自分達の背後へ向けられていることに気付く。

 

後ろを振り向くと、見えたのは今居るリビングと隣のキッチン、その更に先へ位置するドア。

 

何も言わずにライカンとカリンが近くの遮蔽に身を寄せ、リナが2体の浮遊ボンプ、ドリシラとアナステラを手元に呼び寄せる。

 

「ンナンナ……!」

 

「あ、ありがと……。」

 

スズツキはエレンに引っ張られてソファーの影に隠れる。

 

バトラーボンプが拳銃を持って来てくれると、スライドを引き、ドアに向かって銃を構えた。

 

「リナ、警備システムは?」

 

「全て異常無し。監視カメラと音響センサーの識別にも引っかかっていないわ。各タレット群も沈黙したまま。一切破損していないのに。」

 

「し、侵入者ですか……!?」

 

「スズツキ、書斎へ行ってご主人様に緊急事態と知らせてきてください。無線機の位置と使い方は分かりますね?」

 

「はっ、はい!」

 

ソファーから離れると、言われた通りに独り奥の部屋へ向かう。

 

ドアを開け、並べられた本棚のひとつから紫と赤の辞書を引っ張り出すと、棚そのものが回転して大きな通信機が姿を現した。

 

椅子に座り、ヘッドホンを装着する。

 

以前に操作方法を教えてもらった時の記憶を辿りながら本部への緊急回線を繋げようとする。

 

「ああ……早く……早くっ……!?」

 

だがその時、何故かドアがガチャリと音を立てて閉じた。

 

ビクリと肩が跳ねる。

 

突然感じたのは何者かの雰囲気。

 

一瞬エレンかと思ったが、鼻腔に漂ってきた嗅ぎ慣れない香水の匂いに脳が危険信号を全身へと発してきた。

 

「っ……!」

 

すぐさま通信機の隣に置いた拳銃へ手を伸ばそうとする。

 

しかしこれは悪手だった。

 

背後より伸びて来た誰かの手がスズツキの口を押さえ、ぐいと強い力で後ろに引っ張れば、あと少しで届かなくなってしまう。

 

代わりにまた別の手が銃を取り、視界の端に消えると、首元へ四角い何かが強く押し当てられた。

 

既視感のある展開に冷や汗が流れる。

 

「シーッ……。」

 

「ふぐっ!?」

 

「チョット静カニシヨウカ……コチラトシテハ手荒ナまねハシタクナイカラネ……。」

 

おそらくはボイスチェンジャーを使っているのだろう。

 

ニュース番組のインタビュー時にモザイク音として使われているような、くぐもった低い声が耳元に囁かれる。

 

「久シブリダナ……私ガ誰カ分カルカ?」

 

「ん……?」

 

「分カラナイカ……なら、これはどう?」

 

一拍を置いて次に耳へ入ってきたのは先程より一転して非常に聞き覚えのある女性の声。

 

それも知り合いの中でも親しい存在であった。

 

「ふふっ……分かった?」

 

拘束が解かれ、押し付けられた硬い感触も無くなる。

 

恐る恐る後ろを向くと、これまた非常に見覚えのある顔が横合いからこちらを覗き込んで来ていた。

 

青みがかった短めの髪に幼なげな顔立ち、何らかの漢字がプリントされたTシャツ、Nの形をした髪留め。

 

行きつけのビデオ屋『Random Play』の店長であり『パエトーン』という名前で活動するプロキシ。

 

リンがすぐそこに居た。

 

「り、リン……さん?」

 

「やっほー、スズツキ君。あ、ヴィクトリア家政ではアゲハちゃんって呼んだ方が良いかな?」

 

「えっ……。」

 

正体がバレていたことに固まっていると、リンの顔がすぐそこに迫ってきていた。

 

身体同士が接触し、彼女の豊満な部位が押し付けられる。

 

「いやー、初めて会った時から可愛いとは思ってたけど、まさか女の子になっていたなんてねぇ……スゴく似合ってたよ?あのメイド姿。」

 

「な、何でここに入ってこられたんですか?普通の人は……絶対に無理な筈なのに……。」

 

「ふふっ、それは秘密。」

 

壁際に追いやられると、リンの手が頬や肩に触れてくる。

 

見下ろしてくる彼女の目付きは今までの余裕ある大人のそれではなく、無力化した獲物を前にして舌舐めずりをする肉食獣と同じものだった。

 

次第にその手つきがいやらしくなっていく。

 

「や、やめっ……。」

 

「スズツキ君は賢明だよ……もっと抵抗されることを想定してたけど、ちゃんと力で叶わないって理解してくれたみたいだね。」

 

「別に僕は……ひうっ……!?」

 

「あぁ、このまま食べちゃいたい……けど……。」

 

スズツキの尻に伸びかけた手が止まる。

 

リンはひとつ溜め息を吐くと、後ろへ視線を向けた。

 

「意外と早かったね、エレン。」

 

「今すぐにソイツから離れて。」

 

「せ、先輩……。」

 

「大丈夫、アンタは動かなくていいから。」

 

ドアのところに立っていたのは顔に怒りを滲ませたエレンだった。

 

「おー、怖い。殺気、出ちゃってるよ?」

 

「ふざけないで。胴体を亡き別れにされたい?」

 

エレンの大型鋏の先端がリンの鼻先に突き付けられる。

 

パキパキと刃の外縁に沿って霜が張っていき、ミリサイズの先端部を氷がより鋭利なものへと補填していく。

 

エーテリアスですら真っ二つに切断するのだから、人の肉体となれば碌に力を込めずとも、何なら鋏の自重のみでケーキのように切れてしまうだろう。

 

しかしリンは飄々とした態度を一切崩さず、わざとらしい仕草で両手を上に上げた。

 

「……何のつもり?」

 

「流石にエレンに勝てるとは思ってないよ。そこの……ライカンさんとリナさんにも……あとカリンちゃんだっけ?ただのチンピラならまだしもプロ4人を相手取るのはキツいって。」

 

「随分と物知りだね。けどカウントが1足りないんじゃない?」

 

「スズツキ君は傷物にしちゃ駄目だもん。しっかり無傷の状態で鹵獲してお持ち帰りしなきゃ。」

 

「へぇ……ならやっぱりここで『処理』すべきかな。」

 

エレンは鋏をゆっくりと両手で構え直す。

 

袈裟斬りの形で、右から斜めに左へ振り下ろそうとした時、えの部分を背後から大きな手が掴んだ。

 

「エレン、落ち着きなさい。」

 

「っ……ボス!離してよ!コイツは早くやらないと……!」

 

「相手はここの警備と偽装を全て突破してきた手練れです。既にこちらの弱みを握っているかと……そうですよね?」

 

「うんうん、経験者は物分かりが早くて助かるよ。まあさ、睨み合いを続けるのも何だし、取り敢えずお茶でもしない?」

 

リンは手に持っていたスズツキの拳銃からマガジンを外し、薬室から初弾を抜くと、ライカンに向かって突き出す。

 

対して彼はいつもの雰囲気を崩さないままそれを受け取った。

 

「その前に貴女様のお名前を伺っても?我々の拠点へ侵入されるなんて初めてのことでして……忘れないうちにブラックリストへ追加しておきたいのです。」

 

「私はリン、普段は『パエトーン』っていう名前でプロキシやってるんだ。聞いたことない?割と有名だと思うんだけど。」

 

「申し訳ありませんが、あいにくと存じ上げませんね。ちなみに私は……。」

 

「フォン・ライカン、身長198cm、ヴィクトリア家政のリーダー的な存在、得物はその機械化した義足、気を付けてることは抜け毛と尻尾の挙動……って感じ?」

 

「……下調べも万全のようですね。お聞きしたいことが色々と増えました。ではこちらへ。」

 

一触即発の事態だったが、ライカンが手で促し、エレンは渋々と鋏を下ろした。

 

しかし未だ緊張感が残ったまま、今度は応接間へと場所は移る。

 

リンはライカンと相対する形で席に座り、背後にはスズツキとエレンが立っている。

 

もちろん武装したままだ。

 

「まずはそちらの番です。我々に何の要求が?」

 

「えーっとね、単刀直入に言うと……私を雇わない?」

 

リンの発言に周囲の面々は固まってしまう。

 

そして最初に再起動したのはエレンだった。

 

「…………アンタ、馬鹿?」

 

「あっ、先輩、今のもう1回言っ……ぶべっ……!?」

 

「いや?私は至って大真面目だよ?」

 

何言ってんだコイツと怪訝な目を向けるエレン。

 

場違いな発言をしたことで、尾びれではたかれるスズツキ。

 

不思議そうにあざとく首を傾けるリン。

 

ライカンは今後、面倒な展開が待ち受けていることを確信した。

 

 




『Random Play』1階スタッフルーム)

フェアリー(フフン、私に突破出来ないセキュリティは無いのです!それにしてもマスターのあの手慣れた動き、プロそのものでしたね……プロキシよりレイダーの方が合っているのでは……?)

アキラ「あー……今月はかろうじて黒字かなぁ……。」

フェアリー(まあ、十中八九コイツの過保護が理由でしょう。)

アキラ「……何か言ったかい?」

フェアリー「いいえ、それよりマスターが今から帰るとのことです。どうやら大口の依頼を取り付けたとのことでして……。」






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