魔法少女規格交流編   作:三色団子13

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交流編 その11

 

 

 シルス達が結界にのまれた後、ハレル達は呪物によって怪異に変貌してしまった暴徒達に襲われていた。

 

「くっ!! 数が多い!!」

「碌な武装もないのでジリ貧ですねっ……とォ!!」

「おーおー頑張れ頑張れ」

「カルミア!! 貴方も手伝いなさいよ!!」

 

 ハレル達が奮闘する中、他人事の様に積み重なった瓦礫の山に座って高みの見物を決め込むカルミアに、リズエアは怒鳴る。現状、魔法少女として戦えるのはハレルだけで、リズエアも戦闘能力はあるが武装はなく。倒れた職員から拝借した鎮圧用のバトンを持って近づいてくる怪異達を叩き伏せていた。

 

「冗談だろう? 私はお前達の様に戦うなどできやしない」

「あのね! 冗談は顔だけにしなさい……よッ!!」

「ナイスシュート」

 

 カルミアに迫った怪異の頭部に、リズエアが投げたバトンが当たって山から落ちていった。

 

「有象無象の相手なんてしてられんからな」

 

 空中のバトンを器用に掴み。そのままリズエアに投げ返してみせる。

 

「しかし、キリがありません」

「二人がこの場に結界を張って内部にいるなら壊させるわけにはいかない」

 

 ハレル達がその場から移動しないのには理由がある。シルス達が再度、呪物を基点に結界を発動させた事で、現在ハレル達が守っている場所には出入り口とも言える呪物が鎮座しており、もしも呪物がその場から動いたり破壊される様な事があれば、シルス達は、結界内の崩落に巻き込まれるからだ。下手をすれば結界から外に出る際に元の座標からずれてしまう可能性もある。そうなればこの海底牢獄の外に放り出され、一瞬で深海の水圧によって圧死することになる。

 

 次元を切り離し、自らの領域とする高度な結界の術式には、ハレルも舌を巻く程だ。故に専門分野でない自分では無理矢理に干渉ができない。先ほどのカルミアが補助をしてくれれば助かるが、どうにも今の彼女にその気はないと思われた。しかし、ハレルは焦ってはいない。結界に飲まれる前にシルスに施しているコアの魔術使用制限は解除している。いざとなれば自身の術式を起動して荒っぽいが結界ごと飲み込んで出てくるだろうと考えているからだ。

 

「…………ふむ、終わったか」

「?」

 

 リズエアがカルミアのほうを見れば、すぐさま呪物が光を放った。

 

「でれた!!」

「シルス!!」

 

 呪物が光となって消えた瞬間、代わるようにシルスが飛び出てきた。リズエアが近づこうとしたが、それをハレルが手で制した。

 

「貴方、怪異……愛理と言いましたか。シルスに憑りついているようですね」

「なんですって?」

「ほう……」

「ああータイムタイム! 別にシルスの事乗っ取ったわけじゃないよぉ!! 『同化』? の術式で一時的に取り込まれてるだけーシルスには少し寝ててもらってるだけだよー」

「なるほど……しかしシルスの身体でその喋り方は面白いのでしっかりと録画しておきましょう。後で姉さんと本人を前に観ます」

「姉妹ねぇ……」

「ははは、そいつは面白いな! 見てみたいものだ」

 

 

 

 気の抜けたやりとりを繰り広げていると、暴動の騒ぎすらかき消すように牢獄内にサイレン音が轟く。

 

『施設内の破損を検知、職員は直ちに脱出経路を進み、退避してください』

 

 直ぐにそんな放送が繰り返す様に室内に響く。しかし、それでも暴動は変わらずに起こっている。既に人ではないモノに変貌してしまった彼らには関係ないのだ。襲い来る連中を捌きながら、ハレル達は直ぐ様に動き出す。と言うよりもカルミアがそそくさと、通路を歩き始めているのだ。追わないわけにもいかない。

 

「待ちなさい!! カルミア!」

「待て? おめでたいなリーズ。まさかこの状況で私を拘束するかしないか等というのか?」

「……勝手な行動は許さない。貴方が脱獄なんてすれば新しい被害が生まれる」

「ふん、……好きにすればいいが、脱出経路の案内はいるだろう?」

 

 顎で通路の先を指して、カルミアは鋭い視線をリズエアに向ける。カルミアの腕を掴み。進む様に促すが、そんな事は気にもとめずにカルミアは前進する。2人に続くようにハレル達が足早に進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 数分もせずに脱出路の終点である。小型潜水艦が姿を表す。

 

「艦内で遠隔操縦でハッチが開く。運転は貴様がやるといい」

「なんで偉そうなのよ」

「勿論、偉いからな」

 

 狭い潜水艦に乗り込みリズエアが運転を始める。隣で偉そうに足を組むカルミアにため息を吐きつつも、巧みに潜水艦を動かし、脱出してしまう。

 

「ふー何事もなくて良かったです。大体こういうのってうまくいかないのお約束ですから」

「……あそこにいた人達どうかるのかな?」

 

 シルスと一時的な精神の同化をしている愛理にはどうにもあの場で暴れていた者たちが気にかかっていた。

 

「ふん、彼処は自動で修復する。あの海底牢獄自体が聖遺物による物だからな」

「あ、あんな巨大な物が聖遺物!?」

「……あそこにいる連中は、既に呪物によって死んでいる。元よりカイナの人間含めて数人程度しかいない場所だ。他の脱出経路がある生きていれば使って出る」

 

 カルミアはそれだけ言うと、「疲れた寝る」とだけいって目を閉じてしまった。それにキョトンとした顔で、愛理は見ていた。

 

「気にするなって事だと思うわ」

「……私達にあの場で出来たことはありませんよ」

「……そうだよね」

 

 俯いてしまう愛理にハレルは、何とも言えない顔をする。

 

「……同化してるとはいえ貴方も怪異でしょうに……ソレよりシルスはまだ寝たままですか?」

「あ、うん。結界内の魔力を無理矢理注がれてたから肉体と精神が限界超えてて、暫くは起きないかも……ソレまでどうしよう?」

「今、ぶっ倒れられると困るので地上の病院に着くまで、そのまま面白い状態でお願いします。よいネタになるので」

「まだ録画してたッ!!」

 

 

 

 

 

 それから暫くして、ハレル達は今までが嘘のように何事もなく海面へと浮上し、救難信号を受け取った連合国の海上部隊の船に乗船していた。カルミアは態度こそ何一つ変わらなかったが、大人しく再度、拘束されていった。シルスも愛理に取り憑かれたままだが、今は治療を受けている。ハレルも諸々の説明を、海底牢獄については伏せつつではあるが話終えて、休息がてらに甲板の方へと来ていた。

 

 ボーッとして、1人静かに変わらない海面の景色を眺めていた。そこに、声がかかる。

 

「ここに居たのね。ハレル」

「リズエア博士」

「今回は、大変だったわね……」

「ええ、まぁ……最近だと然程代わり映えしませんねぇ」

 

 神妙な表情でハレルが唸る。元々、厄ネタには困らない自身の立場を考えても、ここ最近の彼女の周りは目まぐるしく、休む暇もないと言えた。

 

「ふふ……彼と一緒だと休む暇はなさそうね」

「その通りですよ! 知らない間に理由のわからない展開になっていますし、尚且つ私が事態を飲み込んだ矢先には既に二転三転してるなんてザラです! 私以上に問題積み上げてくるんですよ!!」

「あははは」

 

 指折り数える旅に苦い顔をするハレルにリズエアは笑う。それにジト目で睨む、リズエアはごめんごめんと謝罪を口にするが、笑いを堪えているままだった。

 

「ふふ、──でも、いい顔する様になったじゃない」

「? いい顔……私が?」

「ええ、昔の貴方は……なんとなくのぞみに似てたもの」

「……」

「大切にしなさい。…………こんな世界だもの……ああいう生き方は常に身を切るしかない……あの子もずっとそうやって生きてきた」

 

 リズエアの視線が空に向けられる。しかし、彼女が見つめる先は、空よりも何処か遠くに思い馳せているようだった。

 

「……本当は、あの子の、のぞみの隣にいてあげる方が良かったんでしょう……でも私も……リカも……自分が思っていた程、強くなかった。だから目を背けてしまった。他にやるべきことを理由をつけてそちらに逃げてしまった」

「……博士」

「はは、でも結局は因果応報……立ち向かう事を止めた逃走は……寄り添うことを諦めた逃避は……結局最悪な結果になった」

 

 悲しみを色濃く表情を歪める。暫しの沈黙の後、リズエアはハレルに改めて向き直る。

 

「……誰かの為に戦い続ける。それが希望になると……魔法少女とはそういうものだと、緑が言っていたわ」

「お弟子さんが……」

 

 ハレルは何とも言えない顔になる。──魔法少女が『希望』などと到底思えないからだ。遥か昔から人類は戦い続け、その果てが今の現状だ。そこには押し付け合いの正義しかない。誰かの為にだろうが、国の為だろうが、それこそ世界の為だろうと。結局の所、それらは一方的なもの。

 

 ハレルにとって魔法少女とは、『魔法少女規格』とは、所詮は戦いの道具、武装や兵器の一種でしかない。魔獣や怪異に対する物はまだいい。それ以外に目を向ければ、聖遺物の奪い合いによる国家間の闘争に、革命を説く内戦、企業同士すら醜い争いが絶えない。そうした中、そんな遍く闘争の中で生まれた一つの暴力装置、それが魔法少女なのだ。故に、そんな綺麗事に昇華するには、余りにも血なまぐさい代物すぎた。

 

「……そんな風には思えれないわよね。特に私や貴方みたいに争いに身を置いていた人間からすれば」

「……ええ、失礼ですが、現実をみていないとしか」

「そうね……私もずっとそう考えているわ。魔法少女が……それこそフィクションのようなモノになんて……ね?」

「私達なんて、一般人からしてみれば恐怖の対象でしょう」

「……ええ、だけど……あの子は、緑は、少なくともそんな考え方に疑問が生じるような結果を見せたわ……そして、今日、貴方とその相棒も、それを見せたくれた」

「や、やめてくださいよ……シルスは兎も角、私が」

 

 ありえないと言わんばかりに身体を強張らせる。リズエアはそれに首を横に振る。

 

「なら影響されてるってことかしらね?」

「むむむ」

「いいことじゃない。少なくとも、私は呪物である怪異が『希望』を選択するなんて信じられないわ」

「……それは……そうですけどぉ」

 

 何処か腑に落ちないと唸るが、現状何とかなってしまっている事実は消えないため、言い返す言葉がハレルには出てこなかった。

 

「私も改めて覚悟を決めるわ」

「……?」

「色々逃げて来た。だから今度は逃げない。全部に改めて立ち向かうつもりよ」

「そうですか。……私達も作戦に参加できれば良かったんですけど」

「……万全じゃないんでしょう?」

「はい、……シルスと同化している上に、本人はぶっ倒れているし……何より死の概念にまた触れさせるのは……絶対に避けたいのです」

「大丈夫よ私達がいる。それにアマネがいる」

「ええ、正直あの方がいるなら、私が出張るほうが返って足を引っ張りそうですよ……いや、ホントに」

 

 ハレルは思い出したくない何かを思い出しかけて、それらを記憶の引き出しの中に厳重にしまい込んだ。願わくば二度と浮上するなと。そんなハレルのトラウマには気づかず、リズエアは艦内に戻るため歩き出す。

 

「ハレル。あまり長いしないようにしなさい。身体を冷やすわ」

「はい、リズエア博士も……その、頑張ってください」

「……ええ、ありがとう。少し、安心したわ」

 

 ありがとう、と言われるとは思っていなかったリズエアは、驚きで目を少し開く。──昔の彼女を知るリズエアには、本当にハレルが変わったのだと確信する。

 

「?」

「ふふ、なんでもないわ」

 

 艦内に戻っていくリズエアを尻目に、何か変な事を言ったかと考えたがハレルには分からなかった。まぁ、良いかと結論づけ、ハレルはもう暫く空を眺めてから戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 ──────

 ────

 ──

 

 

 

 

 

 

「一体、なんのようですか?」

 

 

 無機質な灰色の部屋に低く警戒心を滲ませた少女の声が響いた。囚人服と呼ばれる簡素な服に身を包んだ緑髪の少女、沼野緑は透明なプラスチックの板を挟んだ向こう側に座る人物に、最大限の警戒心を持っていた。

 

「そう、邪険にするな沼野緑……私と君の仲だろう」

「…………」

 

 鋭い視線を持って此方を見やるのは、自身が服役する事になった原因とも言える人物、カルミア・マイヤーズだったからだ。

 

「そもそも、貴方どうして外に出ているんですか……」

「いやなに、色々と交渉した結果、条件付きで仮釈放中というわけだ」

「……」

 

 足を組み変えカルミアは、自身の胸を指で叩く。

 

「あれから調整もなにもしていないだろう? ……それを確認しにきた」

「その為に?」

「勿論だ。君の『奇跡』が想定していない進化をもたらしたのだ。本来ならもっと早く確認したかったところだ」

「……嫌です。今更、信用なんてできません」

「いいや、君は断れない」

「なにを言って……」

 

 カルミアの顔から軽薄な笑みが消え、まるで能面のように冷たい視線だけが緑に突き刺さる。──ゴクリと、無意識に鳴った喉の音がやけに室内に響いた。

 

「まずはそれを見ろ」

 

 視線で合図を送るカルミアにどういう事かと疑問に思うが、緑の横から1枚の紙が提示される。緑の背後で立会人をしていた刑務官が無表情のまま背後に戻っていく。緑は、もう考えても仕方ないと諦めて、渡された紙を手に取るとそこに書かれている文字を読み始めた。

 

 そして、数秒もしないうちに顔から血の気が引いて行くと、机に読んでいた紙ごと叩きつけるように両手で机を叩いた。その表情は冷めたままの表情でいるカルミアよりも、更に冷たく鋭くカルミアに問いただすような圧力が滲んでいる。

 

「……………………どういうことですか? のぞみ先輩が世界を滅ぼす?」

「そのまま、読んだその通りだ。奴は自身の身の丈に合わない強大な力に飲まれて、全てを滅ぼす天災となった」

「……嘘だ」

「そう思いたいならそう思えば良い。だが、事実だ。そして、それに対抗し、殺しうる存在はこの世界に指で数える程度だ。ナユタの異端共、そして、『奇跡』である君、沼野緑君だ」

「ふざけないでくださいッ!!」

 

 ついには我慢ならないとガラスを叩く。最後の立会人の刑務官が動こうとするのを、カルミアが手で制する。それが、更に緑の苛立ちを加速させる。

 

「先輩が世界を滅ぼす存在で? だから倒さないといけない? 何ですかそれ? 嘘でも冗談でも、馬鹿馬鹿しくて笑えませんよッ!!」

「事実だ。世界は人類はあと7日もすれば死を体現した存在によって滅ぶ」

「…………そん、な……嘘だ……」

 

 二人の視線は互いに逸らされる事なく睨み合いのまま微動だにしない。そして、数秒か、数分か、そうした後、緑の方がズルズルと項垂れるように身体が下に落ちていく。彼女の人知を超えた”聴覚“がカルミアの言葉が嘘ではないと分かったからだった。

 

「明日、コアの調整をする。それと君は今日づけで刑期を終えた事になる。英気を養うといい」

「…………」

 

 言いたいことだけ言ってカルミアは部屋から出ていく。緑は呆然としたまま床に落ちた紙を力一杯握り潰した。

 

 

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