ホワイト・ローズは、執務室に訪れた人物を前に胃が痛くなるのを感じていた。眉間にシワを寄せ、細身のフレームの眼鏡の奥には怒っていますと言わんばかりに目を細めた女性、
「ほんで? カルミアの条件飲んで、緑たちを全員無罪放免で出したそうやな?」
「……仮釈放の保護観察処分です」
「魔法少女モデルまで使用許可が下りとる」
「今回のペイルライダー殲滅作戦には彼女たちの協力が必要でした」
「……そうやとしてもや」
執務机を挟んで対面するリカは、両手をついてホワイトに詰め寄る。天野リカは歴戦の魔法少女の一人であり、リズエアや青川望と共に四騎士と呼ばれていた。現在は前線の戦いから退き、後進を育成するべく教官という立場として世界を飛び回っている。連合国や企業連、欧州最大の組織であるユニオンにも顔が利く。
ホワイトも、リカには普段から世話になっている上に、彼女も四騎士、ホワイトからすれば敬愛してやまない存在だ。そんな人物からの圧力に、顔を青くさながら事務的な返答をするしかなかった。胃が引き攣る鈍い痛みに襲われるが、気合で姿勢だけは真っ直ぐに伸ばしていた。
────早く終わってほしい。
そんな、思いもむなしくリカは眼鏡の位置を直してから口を開く。
「ペイルライダー……望が使っていたモデルは死を内包したエネルギーを打ち出す危険極まりない代物、そこにあの五人を……カルミアのやつが作ったモデルをぶつける。正直何が起こるか分からへん。それに、カルミア、アイツもペイルライダーについて情報を得ていたと聞いたで? 十中八九、なにかアイツの計画が進行しとるやろ」
「ええ、でしょうね」
「せやったら!!」
「それでも! 我々は今、アライアンスやユニオンの協力が得られない以上、それに匹敵する戦力が必要なんです! 例え、それがカルミアという危険な存在だとしても、背に腹は代えられない状況なんです……。ナユタという他から見れば過剰とも取れる戦力を得ても、私は今回の戦いは五分五分……いや、それ以下だと思っています」
「…………」
リカは言われて、ガシガシと頭を掻くと背を向けた。
「……すまん。私情やったわ」
「いえ、今言ったように毒を食らわば皿までのようなものです。カルミア・マイヤーズが何かを企んでいるのは分かっている。分かっていて飲み込みしかない。……それに、今回の作戦が成功しなけらば、カルミアの企みも意味をなさないでしょう。ヤツもペイルライダーという脅威は無視できるようなものではない」
「呉越同舟かぁ?」
「……希望的観測による結論ですがね。カルミアが此方に協力するという点を考慮すれば、人類滅亡は避けたいのでしょう」
ホワイトは、椅子から立ち上がりリカの傍に立つと握られていた物をリカに手渡す。
「? なんやこれ?」
「カルミアが牢獄に幽閉されたいた時に考えていたものを、ナユタと
「大丈夫なんか?」
リカは手の中にあるバツ印の入った透明の半球を裏返しながら眺める。
「複数人のナユタの巫女の確認を入れて、術式の刻印から組み立てまで此方で全てやりましたので、カルミアが何かを仕込むことはないです。……ボルテックスコア。これはペイルライダーの死の汚染を取り込み。それを撹拌して純粋な魔力に分けることが可能です。汚染物質である死は、そもそもが普遍的な概念。ペイルライダーが、青川望を依り代にして存在する物質として現実にしている。コレはそれを、死のエネルギーとしての性質を切離し実世界への干渉力を失わせるんです」
「現実から消えて、魔力が残るわけか……部隊への配備は?」
ホワイトはリカの問に首を横振る。
「……ボルテックスコアを運用できるモデルはスタンダードなエンジェルモデルでは出力が足りません。取り込む段階でコアが砕けてしまう」
「……ちっ! そこまでうまい話はないわな……」
「ですが、リカさんやカルミアが用意したミストモデルには搭載できます」
「最前線にでるウチらはある程度無茶が利くわけか」
「それでも受け続けるのは無理です。二、三回……撹拌が終わればですが、それでも次に受けるのにも数十秒はいる計算です」
リカが眉間を指で揉み解す。要するに初撃での死は回避できる程度だろう。が、あのペイルライダーの当たれば終わりの一撃を間隔を挟む必要はあるが受けれるのは、有難い限りだった。
「当たれば終わりの理不尽がなくなるだけマシ……か」
「……無茶苦茶な作戦を立ててる手前、気休め程度ですが」
ホワイトは、椅子まで戻ると静かに座り直す。リカはホワイトの言葉を聞いて苦笑いする。
「あーー。まぁ……せやなぁ」
「……本当に大丈夫なんでしょうか」
「言うても、ナユタ……アマネのヤツが考案して現状可能……成功率が一番高いんやろ?」
「……そうですけど……でも、でも……」
ホワイトは数日前にアマネから聞かされた作戦内容に、今だに大丈夫なのかと不安になっていた。
「…………月までペイルライダーを運ぶの前提なのってどうなんですか?」
「…………せやなぁ」
二人揃って頭を抱えたくなる。本当に上手くいくのか、ここまで不安になる事はないだろう。アマネが、何を考えてなのは分からない。しかし、連合国軍のシュミレーション等を駆使して導き出された解答は可能であるということ。
仮に地上のみで作戦を決行すれば、滅亡まではなくとも地上の8割が死の土地となる。それは、遅かれ早かれ、滅亡と変わらないだろう。なら可能な限り被害を少なくする必要がある。──だからって、月までとは如何なものかとホワイト思ってしまうのだった。