現在、南極大陸ではペイルライダーを封印しているアマノイワトを中心に、少しづつではあるが、汚染が周囲を侵食し始めていた。白い雪はヘドロと見間違える程に黒く濁り、空は死の汚染を受けて赤黒くなっていた。まるでこの世の終わりとでも言えば良いだろうか、もし終末が訪れるとしたらきっとこのような恐ろしい光景なのだろう。
陣地を構築している魔法少女や軍関係者たちは、それでも自身のやれることを必死に進めていた。汚染の流出を最小限に留めるために、ナユタの巫女が結界を構築し、それを二重三重と囲うように展開していく。魔法少女部隊は塹壕や土嚢を積み上げて、防御陣を組み上げる。
「急げッ! 作戦開始まで時間がない!!」
部隊の式をしている隊長格の少女が叫ぶ。その声に応えるように作業は加速する。しかし、時間の猶予は少なかった。アマノイワトから漏れ出る死の汚染を押し返し、結界を構築するのにもかなりの時間と労力がかかった。その上、強い生命に対してペイルライダーは反応するのか、上位の魔法少女に対して攻撃をしてくる。その為、ここいる魔法少女たちは肉体に強化手術を受けている者が大半である為、作業効率は低い。
「……せめて魔術だけでも使えればな」
肉体だけでは現代の陣地構築の効率には到底及びない。まるではるか昔の世界大宛らのありさまだ。モデルの洗浄機能も使えないまま泥にまみれても、黙々と土嚢を積み上げる部下たちの姿を横目に、少女は数十キロ先にあるアマノイワトの方から感じる悍ましい気配に、背中が冷汗で濡れる。気を抜けば、そのまま死んでしまいそうと感じてしまう。視認できる範囲にないというのにこれだ。これに耐えている前線のナユタの巫女たちは、同じく怪物と言える。
「しかし、それすらも軽く超える化け物がいる……」
作戦が始まったら、自分は正気でいられるだろうかと、恐ろしくなる。せめて使い物にならないような失態はしたくはなかった。
「あと2時間後には作戦が始まるッ!! 前線部隊は配置は完了させているな! 後方部隊は……──!?」
────言い終える前に、閃光と共に空が裂けた。
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「リカ教官」
「おう、ルージュ久しぶりやなぁ」
南極海の海上にて、どこか武人のような凄みを感じさせる褐色肌にハネっ毛の強い銀髪の女性、ルージュ・ローズと天野リカは久しぶりの再会を果たしていた。二人とも魔法少女モデルを着込み、リカはその肩に純白のマントを羽織っていた。四騎士天野リカ専用モデル、陸戦において無敵を誇るガイアハート。今回の戦い用に、特別な術式を組み込んだ決戦仕様だ。黒を基調とした制服姿は、ルージュのミストモデルと同じである。
違いがあるとすれば、ルージュの方はロングスカートとなっている所だろうか。
「……足はちゃんと立てるようやな」
「はい、カルミア社長に頂きました」
リカの視線の先、ロングスカートの隙間から見えるルージュの足は、鋼鉄の義足だった。カルミアが造り、ルージュの持つ超人的な五感の一つによって生身の足となんら脚色の無い性能を持つ義足だ。
「すまんな……足」
「やめてください。教官、これはあの時、自分の未熟さが招いた結果なんです」
「それでも、ウチがもっとキツく言っとけばって……考えてしまうんや」
「教官……」
「……認めたくないが……ルージュがこうして立って暮らせてるのを考えればわカルミアのヤツにはちょ──ーっとだけ感謝せんといかんか……したくないな」
「ふふ、社長も礼だけ言われるくらいなら時間の無駄だって言ってきそうですね」
「……想像できるからたち悪いわあいつ」
言ってリカが笑うとルージュも同意するように笑う。その時、甲板に緊急のアラートが鳴りびく。けたたましい音と共に作業員
が慌ただしく動いていく。
「……これは」
『リカさん、出撃準備をお願いします』
「ホワイトか!! なにがあったんやッ!」
リカの頭上のシグナル・エフェクトが明滅し、通信が繋がる。相手はホワイトで焦燥が滲んだ声が通信機越しに伝わってくる。
「アマノイワトの結界が崩壊しました」
「なんやて!?」
「ホワイト、出撃準備しながら詳細を聞くわ」
「姉さま……。──わかりました。お二人は準備を」
その後、準備をしながら二人はホワイトから説明を受けた。どうやら、本来なら作戦開始と同時にアマノイワトを取り除き、攻勢に出る流れだったが、ペイルライダーはその前にアマノイワトを破壊してしまった。算出された計画開始の時間を大幅にずれている事に、リカは苛立つ。
『二時間も早く、アマノイワトを壊され前線はかなりの被害がでています。ナユタの巫女が敷いた陣も長くは持ちません』
「現状は分かったわ。これは、前線の陽動作戦は機能せんな」
「できる限り急ぎましょう……」
「リカ教官、ルージュさん! 無人飛行の輸送機体を用意しました!! 発艦準備もできています!!」
作業員の声に二人が更に走る速度を上げた。甲板には戦闘機があり、中にパイロットの代わりに人型の無人魔術ユニットの機体が鎮座している。コックピットの横は掴まれるように改造されており、二人は、そこに飛び込む。
「機体は前線まで一直線ですッ!! お気をつけて!!」
作業員が離れ、機体が動き始める。コアが起動し、二人を風圧から守る。
『リカさん、姉様……ご武運を』
「任せとき!!」
「……行ってくる」
戦闘機が発艦し、みるみる速度を上げて赤い空の先へと消えていった。