アマノイワトを中心に半径一キロは地獄の戦場と化していた。前線で観測していた者たちは、壊滅は免れ奇跡的にも生き残り、アマノイワトから吹き出る死の汚染を物理的、魔術的に押し込めていた。ナユタの巫女たちは結界を更に多重展開させ、強固にする事で、アマノイワトの崩壊をギリギリの所で防いでいた。
しかし、それも長くは持たないと誰もが感じていた。砕かれそうになる岩石には既に数え切れない罅が入り、隙間からは黒い液体が零れ落ちて地面を焼き腐らせている。ピシリ、ピシリと破砕音が響く度に、現場で結界を押し留めている者たちの心すら砕かれていくようであった。
このアマノイワトは、結界に特化した権能を持つ聖遺物だ。遥か昔、太陽の神が自らを洞穴に隠すために、この大岩で穴を塞いだとされている。光を失った世界は、悲しみに溢れ、憂いた神々が太陽の神を洞穴から出そうと、様々な事で太陽の神の気を引いたとされている。そうやって、外が気になった太陽の神は岩から顔を出したのだと。
この大岩は、神が自己を封じる為に用いた物、封印されたモノの力を外と内に分ける事で、外界への干渉を断つ極めて強力な線引きをするのだ。故に、外側からの干渉は一切が出来ず、逆に言えば内側からは出ようと思えば出られる。──が、当然アマノイワトという聖遺物による結界を内側からこじ開けられる神聖を有する存在のみだ。出来なければ、アマノイワトの結界内で死に至る。
ナユタという組織において、このアマノイワトで自らを封じて内側から脱出できた者を、当代の守護者とし、聖遺物の蒐集と管理の全てを統括する大巫覡となる。ナユタ・アマネがそうだ。彼女は生まれて5年程で、アマノイワトを管理下に置いた。
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つまるところ神聖を得た強大な存在には、そもそも効力が薄いという性質的な、元々の原点から切り取られた弱点と呼べるものが存在する。それは、ペイルライダーが神聖を強めている証拠と言えるのだ。死を齎す神としての性質が表面化し、アマノイワトという権能を押し返している。いや、それすら破壊しようとしているのだ。
「アアアアアアアアアッ!! 無理だ!! もう持たない!! 死ぬッ!! 死んじゃう!!」「おい!! なにしてるんだ!!」「助けて助けて助けて助けて」「あは、あはは死ぬ。死ぬんだ。みんな」「結界を維持しろ!!」「お母さん……嫌だっ……お母さん……っ!!」「クソったれがぁ自殺するなッ!! するくらいならアレに向けて撃ち続けろッ!!」「…………かはっ」「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」
────阿鼻叫喚。現実に持ち込まれた地獄が、その場にいる人間を狂わせる。諦め、嘆き、恐怖し、理不尽に対する怒りで我を忘れる。それが大半を侵食していく。死が迫る。目に見える死神の手を目の当たりにして、平然とできる人間がいるだろうか? 答えは否だ。死とは生物が恐怖する根源的なモノ、抗うことが間違いだ。だからといって受け入れることも意味がないのだろうが。
──バキリ。
そして、最後の防波堤は呆気なく壊れる。結界を緩めたわけでも何でもない。誰もが死を前に逃げ出したからでもない。当然の帰結といえる。
黒が、空へと飛んだ。
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ホワイトは護衛戦艦の司令塔で、戦場の状況を確認していた。忙しなく飛び交う通信を、オペレーター達が捌いている。ペイルライダーによる汚染は精神にも作用しているのか、前線の兵士たちは部隊を維持できる状態にない。その上、映像による現場の把握も、死の汚染による影響か、モニターは何も映していない。
しかし、戦場の悲惨さは嫌でも分かる。現代の魔法少女を主流とした戦いは、魔法少女や兵士たちのバイタルは本部にリアルタイムで把握できる為に容易だ。その為、簡易で出している兵士たちの顔を出している空間モニターには、次々に正常を表す緑色から赤色の消失の信号に切り替わっていく。
「くそ!! なんということだッ!!」
「──ッ!? 司令ッ!!」
「どうしッ!? 何が起こっているッ!!」
ホワイトが叫ぶ。空間モニターに表示されていた多くの魔法少女や兵士のバイタルの色が、一瞬でに赤色に塗りつぶされてしまう。これには誰もが数秒、息すら出来ずに画面を見て固まってしまった。
「…………悪夢だ……こんなの……どうすれば」
「バカなこと言ってないで、部隊に少しでも情報を送りなさいッ!!」
「ッッ!!」
諦めていたオペレーターにホワイトが叱責を飛ばす。
「私達は前線を維持する部隊の生存率を少しでも上げるのよ。……それに、まだ天野リカたちがいる」
「はい!! ──後方部隊、聞こえますか! 前線の支援攻撃の座標は──」
増えたいく赤を見つめながら、ホワイトが奥歯を噛みしめる、耐えなければいけないのだ。元々、死を覚悟していた魔法少女たち、ならば情けなく嘆いているわけにはいかない。
「リカさん、ルージュ姉様……頼むみます」
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