死地を踏破せんと全力で駆け抜ける二つの影と、それを射殺さんと圧倒的な破滅が嵐となって、影を飲み込もうとしていた。数百キロメートル地点の時とは比較にならない暴力的なまでの死の嵐は、物理的な風の刃となって戦場を削り穿ち破壊の限りを尽くしていた。
それを前に怯むことなく全身全霊を持って挑むのは四騎士、天野リカと時空間魔術を操る超人、ルージュ・ローズの二人である。
大地を操り、時間を止める事でどうにか数メートルを無理矢理に突き進んでいく。
「なんつうヤツや!! ホンマもんのバケモンやんけッ!!」
迫る死の刃を数ミリの差で避け、ガイアハートの武装であるアームガードを盾にして受け流し、削られながらもリカは脚を進める。そうやって受けるたびにボルテックスコアの撹拌機構が、振り撒かれる死の汚染を浄化して魔力へと変換し結晶として外部に吐き出されていく。
現状、リカとルージュ共に相手の懐につくまではまともな攻撃手段がない。元々、近接が主体であるモデルである為に、半端な飛び道具は捨て、二人とも必殺の一撃を叩き込む為に、コアへの余計な管理リソースをなくしている。
ギリギリまで装備を削り、負荷を軽くして、やっとペイルライダーの脅威から、なんとか生き残れているのだ。
だが、それでも二人とも限界が近づいていた。前に前にと進むにつれて更に激しさは増していく攻撃に、途切れることのない必殺の刃が常に飛び交いそれに飛び込むという恐怖。そして、消耗し蓄積していく疲労が心を蝕み、肉体を鈍くする。
しかしそれでも、二人は瞬き一つもせずに遮二無二に前進し続けていた。人類の脅威を排除するため、リカにとっては親友が護っていたものを守るための戦い。折れるわけにはいかないのだ。
「待っとれ!! のぞみ!! 直ぐに行くからなッ!!」
吠えるようにしてリカが叫ぶ。飛んでくるエネルギー弾が当たる直前に、
白と黒の停止時間が始まる。ここに来て幾度も使用された魔術、そこにはルージュ以外の動く者は、存在しない。────本来ならば。
「う、嘘でしょう!?」
ルージュは目を見開く。静止した世界で動ける存在は居ない。ルージュを除いてだ。しかし、ルージュの視界の先、目標であるペイルライダーは
まるで動作確認をするかの様に体が錆びてしまった玩具の人形が無理矢理関節を可動させる様なぎこちない動きで、ゆっくりと軋みを上げて動いていた。
「──クソッ!!」
驚愕しつつ、停止限界が来たルージュは術式を解く。世界に色が戻るが、ルージュの顔色は血の気が引いて色を失ってしまっていた。しかし、ルージュも腐っても元は軍に所属していた身、動揺を抑え込んで、リカに向けて叫ぶ。
「教官ッ!! ペイルライダーは時間停止に対応し始めました!!」
「──ッ!?」
「あと数回もすれば停止時間で完全に動ける筈です!!」
「……ルージュ!! 一回離脱すんで!! こっちや!!」
「了解!!」
ルージュがリカの元に来る。同時にガイアハートの術式が起動して地面が二人を取り囲むように突き出て覆われて即席のシェルターが作られた。
「もって一分ほどや! 手短に言うで!!」
「はい!」
「ルージュ、時間停止はウチが合図出すまで使うな! 適応されたら大詰めで使えん」
「しかし、回避は」
「せや……だからこいつを使う」
言ってリカはコアから黄金に輝く蜥蜴などの爬虫類の鱗に似た人の顔ほどもある一枚の鱗を取り出した。
「……な、なんですかコレは?」
「こいつはな…………龍の逆さ鱗や」
「り、龍ッ!?」
ルージュは目を丸くした。リカが取り出した者は神秘の塊とでも言うべき代物だからだ。
────龍。この世界とは異なる。しかし隣り合わせに存在する龍域と呼ばれる次元に存在する超常生物の名称だ。
一度、この世界に龍域が開かれ龍が現れれば、都市を、国を滅ぼすとされる厄災。今でこそ、ごく一部の人間しか知り得ないが、古の時代には安易に使われ国が滅びたという歴史が存在する。
「……こいつで一度龍域を開けばこの世界で龍が暴れまわる。せやけどペイルライダーにとって強大な生命力と神秘を持つ龍は、ウチらよりも優先するべき対象になる」
「なるほど、現れた龍を囮に近づくわけですね」
「せや……せやけど本当は使いたくないんや……リスクが半端ない上に龍域は別の次元、この世界への干渉で何が起きるかわからん」
「ですが……」
「……わかっとる。それでも使わなウチらに待っとるのは死や」
二人を守る土の壁が崩れ落ちて行く。リカは目を閉じて心を落ち着けた。そして、壁が崩壊する直前、手の中の鱗を両手で握り潰した。
──────世界に怒りの咆哮が響き渡った。
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