それは、まるで火山の噴火のようだった。溜まりに溜まった溶岩が外に押し出されるように、圧倒的な力の噴出、大小様々な数の龍が、突如として出現した巨大な大穴から殺到していた。
火炎を身にまとった者、水そのものというべき者、複数の首を持つ者、巨大な身体を持つ者、古今東西のあらゆる伝承や書物に記載されているだろう強大な龍たちが、この次元を蹂躙するべく現れた。その全てが怒りを噴出させて狂っていた。
聖遺物、龍の逆さ鱗は文字通り、龍の逆鱗だ。触れればそれまで、龍域という次元の扉を開き、自分たちの領域に触れた愚者を殺す代物である。何故それを天野リカが所有していたのか定かではないが、ペイルライダー、生命にとって最大の天敵である死の具現にとっても、龍とは天敵になりうる存在だ。強大な生命力、死の汚染を通さない鱗、そして、一体一体が持つ神秘。それらを前にして、ペイルライダーの殲滅対象はリカたちの思惑通りに、龍という存在に切り替わった。
しかし、リカたちにとって誤算があるとすれば、それは、
──先頭を飛翔する翼を持った翼竜の姿をした龍の頭部が消失した。
同時に同じように跳んでいた数多の龍の首が消し飛び、断ち切れ、爆ぜていく。それを横目に、リカとルージュは地を進撃する龍達に紛れた。
「(そうか!! のぞみが戦ったクロッカは龍種を媒体に創られた怪物ッ!! とっくに龍に対して適応しとったんか!!)」
信じ難い光景に、リカは内心で舌打ちをした。青川のぞみが対峙した。人類の敵である魔神クロッカは龍を素体とした存在だった。不死と呼べる存在を殺す為に、アズールの力を出し尽くしたのぞみが相打ちで葬ったのだ。それを、ペイルライダーが学習していないなどあり得ない。これは当然の結果なのだ。
しかし、それでもリカたちを救ったのは龍域がいまだに閉じきらず、開いたままということだった。それによって本来なら逆鱗の元となる龍が現れるだけだが、囮になる分には十分な数の龍が南極の地にて溢れていた。
「(これなら、アイツの傍に行ける!!)」
なぜ、龍域は閉じないのか? それは、ペイルライダーという存在の影響が大きい。龍域が開かれた瞬間、龍たちは本能に突き進むまま動いていた。即ち、この先に存在する者は、自分たちを嬲り殺しにできる存在であり、自分たちの秩序を土足で踏み荒らす者であると認識したからだ。
ペイルライダーは殺到する破壊の嵐を前に、静かにゆっくりとその姿を変えた。異形の姿がはっきりと人の形をとった。馬体の上にあった髑髏に肉がつき、真っ白な皮膚が貼られる。真っ白な人型の異形がそこには居た。
そして、形作られたばかりの手を龍たちへと向けると、まるで鉄砲を撃つかのような動作をした。そして、強大なエネルギーの収束光線から、今度はまるでマシンガンを乱射でもしているのか、無数の球体が高速で飛んだ。
《ギャオオオオッ!!》
瞬く間に、数百、数千の龍が地落ちる。乱射される鉛玉が龍の肉体を簡単に貫通していく。まるで穴の開いたチーズのようになった龍が大地を埋め尽くしていく。
それでも龍たちは止まらない。狂気に取り憑かれたとでもいうように、ペイルライダーへと向かっていく。
そして、数十秒も開いていた龍域が閉じかけた瞬間、最後の一体が飛び出した。その龍はあまりにも大きかった。地面を抉るように大地を踏み締め走る。まるで山そのものが移動しているといってもいい程だ。リカたちは、その背後に周り駆け抜ける。
山のような龍の身体はペイルライダーの光弾を貫通することなく。寧ろ、その巨体と岩のような硬い鱗をもって弾いていた。
「(まだこの龍には適応してないッ!!)」
「(これなら残りの距離をここで埋めきれるで!!)」
残り数キロ、ペイルライダーとの距離は着実に縮まっていた。
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