ペイルライダーまでの気の遠くなる程の攻防も、後少しの所まできた天野リカとルージュ・ローズの二人は、山のような巨体を持つ龍を盾に進撃を行っていた。
「(後少しや!! 後少しで一撃をくらわせられるッ!!)」
はっきりと輪郭を捉えられる範囲まで来た二人は、龍の背後から左に展開した。地を駆ける巨龍の身体が地面に倒れ伏したのは、その二秒後だった。
「ルージュ!! 三秒後に時間を止めるんやッ!!」
「はい!!」
「──三!!」
数十メートル、魔法少女であるならば一呼吸でたどり着ける。リカの周りに並走していた龍をリカは殴り飛ばして、ペイルライダーの視界を遮る。
「──ニ!!」
殴り飛ばされた龍が二つに割れた。ペイルライダーが指先を振る動作でエネルギーの斬撃を飛ばしてみせたからだ。別れた龍の肉体の軌跡に、二人が現れる。左右からの挟撃に一瞬だけペイルライダーの攻撃の矛先がブレる。刹那の逡巡。しかし、この二人にとってはまたとない好機となる。
ボルテックスコアが、まるで悲鳴を上げるように稼働する。触れられる程の至近距離だ。たとえ龍種の絶対の神秘を持っても防ぐには心許ないだろう。
──ゴボ。ルージュの口、鼻、目、耳から血が溢れた。しかし、それでも止まらない。今この場に、この程度で膝を付く者はいないのだから。
「──一!! 今やァ!!」
「『時゛よ゛止゛まれ』ッ!!」
全てを吐き出す勢いでルージュの最後の時間停止が発動する。ルージュ以外、いやルージュとペイルライダー以外の全てが色を失い停止する。
迷っていたペイルライダーが現状の最大の脅威となったルージュへと、視線を向けた。眼前の生命を滅ぼそうと、無理矢理に肉体を可動させてルージュへと手を伸ばす。しかし、遅すぎた。あと数秒もすれば、完全に停止した世界に順応できただろうが、一手、ルージュたちが勝った。
ペイルライダーの顔となる部分にルージュの渾身の一撃が叩き込まれた。──ゴシャと、肉と骨が砕ける音と共にペイルライダーが吹き飛ぶ。時間停止が終わり、世界に急速に色が戻る。そして、ペイルライダーが飛ばされた先には、既にリカが拳を振りかぶっていた。
「──ガハッ!!」
「よぉやった!!」
ルージュがその場に膝を付く。頭部を破壊されたペイルライダーは再生によって無防備なままだ。そこにリカの渾身の一撃が振り抜かれた。捩じ切る様な鋭い右ストレートが、再生中の身体に突き刺さる。リカは手応えを感じていた。
「!?」
そのまま二撃目に入ろうとしたリカの右腕が、ペイルライダーの身体に固定されていた。ボコボコと肉体を肥大化させてリカの腕を拘束している。ペイルライダーはそのまま攻撃に転じるつもりでリカに腕を向けた。が、その前にペイルライダーの身体が爆ぜた。
「────ッ!?」
「腕の1本くらいくれてやるわッ!! こんボケェ!!」
リカはなんと取り込まれた右腕に過剰な魔力を流し込んで、即席の爆弾としてみせた。──二撃目をと動いた瞬間、ペイルライダーは弾けた身体を振り回してエネルギー弾を放った。狙いを定めてない暴れるような光線の照射が、地面を爆ぜさせリカたちを吹き飛ばす。満身創痍のルージュは受け身も取れずに地面に投げ出される。リカも二撃目を当てようと構えた隙を突かれてしまった。
「しまッ!!」
受け身を取ることはできたが、一瞬でも無防備となってしまった。ペイルライダーを前に、それは命取りとなる。不完全な再生のままだが、照準を向けているだろう腕がリカを捉えていた。ボルテックスコアによる撹拌は限界に近い。なによりも、収束された光弾に耐えられるとは、リカは思えなかった。
思考が引き伸ばされていく。これまでの人生が一瞬で思い起こされていく。
──ああ、これが走馬灯なのかと理解した瞬間、予期せぬ乱入者が飛び込んできた。
《ギャアオオオオオッ!!》
「なんッー!?」
生き残っていたのだろう龍が現れて、ペイルライダーの身体に噛みついた。突然のことに誰も動けない。そして、乱入者は龍だけでなかった。
「──やっと追いつけた」
龍の頭部に捕まるボロボロの少女がいた。ナユタの巫女特有の灰の様な銀髪が風で靡く。その手には
「お前が殺した全員からよ。遠慮なく受け取りなさい」
────ばら撒かれた弾丸が、死神の頭部を吹き飛ばした。
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