この場の誰もが予想だにしない乱入者によって、天野リカの窮地は救われた。そして、手痛い一撃を喰らい、頭部を砕かれた西瓜の様に弾けさせたペイルライダーが最初にとった行動は、自身の肉体に喰らいついている龍の処理だった。
高出力のエネルギーを肉体の内側から外に向けて射出し、龍の肉体を細切れにして絶命してみせると、破損した頭部の再生を開始させた。
キュルキュルと巻き戻されていくビデオテープの映像のように再生していく肉体、弾丸を放った乱入者である名もなき巫女は、龍の肉体が細切れにされた際の余波で数メートル吹き飛ばされ地面に倒れていた。
「それは悪手やろッ!!」
再生していく身体の直ぐ側に、天野リカは構えていた。ペイルライダーは、なによりも先に、この場にいる存在を全て処理するべきだった。身体を再生してから、この場にいる存在を殺せると判断した。
満身創痍の人間が3人いるだけ、既に追い詰めた獲物がいるだけと。しかし、それがペイルライダーにとっての最大の油断であり、天野リカの言葉通りに、──死神は間違えてしまった。
再生の途中に拳が、一度に六発叩き込まれた。腰に取り付けられた魔力管が、吐き出された薬莢の様に宙に舞う。
そして、それが地面に落ちる前に、引き戻した左から流れるように、先ほど爆ぜた右拳で殴りつけた。剝き出しの骨が再生中の肉体を抉る。ガイアハートによる肉体の修復よりも、ペイルライダーを削るために、一回でも多くの拳を叩き込んでいく。
殴りつける度に流れる血飛沫が霧となって辺りを赤く染め上げていく。残像が見えるほどの突きの応酬が、ペイルライダーの体を容赦なく打ちのめしていく。
「くたばれやッ!!」
下から上に向かって拳が振り抜かれた。グズグズになった肉塊が、空に落ちて地面に戻っていく。そこに待ち構えるようにリカが深く腰を落としていた。庇うように左手を添えている右拳に、深緑の極光が溢れた。
「───ッッ!!」
ガイアハートのコアがボルテックスコア越しに輝いていた。ガイアハートは、その名の通り星そのものから加護を得る。コアのOSには星そのものに干渉する権限を有している。
一度権限を行使すれば、星の生命エネルギーを自由自在に引き出す。それは星そのものになるのと変わらない。勿論、そんなものは人の身には生き過ぎた力だ。これは全開に捻った蛇口の水をいきなり胃に流し込むのと同じである。
膨大な星の生命エネルギーという魔力の流入加減を間違えれば、リカはその場で破裂してしまうだろう危険な行為である。普段ならば使用する時には、瞑想を行うようにゆっくりと肉体に満たしていく。星のエネルギーは肉体に満たすだけでも十二分な力を得ることができる。
しかし、ペイルライダーという星すら滅ぼしてしまう脅威の前に事前に蓄えていた魔力も、ミストモデルのデータから得た魔力管という備蓄だけでは、あまりにも足らなかった。本来ならそれらを使って、ペイルライダーを次の戦闘領域に押し出すつもりだった。
しかし、直接敵に触れる戦闘を余儀なくされる天野リカには、汚染処理の速度が想定よりも多く。先程の攻撃で蓄えた魔力を限りなく出しつくていた。ならば最早最後にとれるのは、自爆覚悟のガイアハートによる一撃以外にない。
《───────────ッッッ!!!!》
極限の集中力を持って、身体の中を蹂躙してくる魔力の渦を右腕に流して留めていく。溢れ出していた深緑の魔力光は、リカの髪を染め上げ、一点を見つめたままの瞳から緑色の光が溢れていた。
その姿を捉えたペイルライダーは悲鳴のような雄叫びを上げて吠えた。生命に死を与える死神としての性質が、目の前の光に反応したのだ。──必ず、必ず、滅ぼさなければと崩れる身体を無視して、攻撃に出ようとした。
その攻撃を、魔力コントロールだけに集中しているリカが避ける術はない。そして、死神の一撃は確実にリカよりも一手速く、更には近づかなければならないという点で詰みという状態だった。
────しかし、それは、天野リカが独りだった場合の話だ。
「……『時よ……止ま……れ』ッ!!」
世界が色を失う。ペイルライダーの身体が動きを止めたまま落下していく。適応寸前だったペイルライダーにとっての致命的な行動不能。うつ伏せに倒れ、血塗れになっているルージュが最後に起こした刹那の時間停止だった。
「オオオオオオッ────ー!!!」
《─────ッッ!?》
リカが叫ぶ。ルージュが時間を止めると確信していたのだろう限界以上に溜め込んだ魔力を帯びた右拳が吸い込まれるように、ペイルライダーへと叩き込まれた。
放たれ解放された星の生命エネルギーは、ペイルライダーの身体を包み込むようにして、ペイルライダーごと遥か彼方へと飛翔していく。膨大な魔力は、まるで拘束具のように作用して、ペイルライダーの動きを完全に封じ込めたまま、その場から急速に遠ざかって行った。
そして、それを見届けたリカは仰向けに倒れた。
「あ゛あ゛──ーしんどー」
鉛色の雲が引き裂かれてできた隙間から、久々の青空がリカの視界に広がる。
「…………後は頼むわ……リズ」
それを最後に、限界を迎えたリカは気絶するように意識を手放した。
フェーズ1終了
お気に入り、感想、感謝感謝。評価とか貰えたりしたら嬉しいなって。