魔法少女規格交流編   作:三色団子13

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那由多をこえて


前日譚 その3

 

 

 ────ああ、これは夢だなと、俺は感覚でそれを理解した。それもそのはずで、何せ今見ている夢は自分の子供の頃で、手を引く父の背中が、視界に映る。警察官だったあの人の鍛えられた体躯は、子供の自分にはとても大きく、頼りがいのある立派な背中だった。

 

 警察官として父は優秀で、父の書斎には様々な表彰状や、トロフィーが所狭しと飾れていた。地域でも老若男女に人気で、まるでドラマに出てくるような地域密着型な警察官だった。

 

 そんな父みたいになりたくて、俺は将来の夢に、父と同じ警察官になりたいと、目を輝かせて皆に言っていた気がする。

 

 父にも同じ事を言うと、あの人は照れくさそうにして、俺の頭を、その大きな手でよく撫でてくれた。俺はそれが堪らなく好きで、父に褒めて欲しくて色々な事を頑張っていた気がする。俺にとって数ある幸福の一つ。そして、もう二度と訪れない幸福でもある。

 

 ────場面が変わる。

 

 それは、ある日の事だ。いつもの何気ない日常。しかし、その日は不運に見舞われた。父とまだ小さい妹とで出かけた日だ。

 

 その日、俺達は偶々出会った通り魔に襲われてしまった。妹が通り魔の男に捕まり、父が男を宥める。暫くのやり取りの後、妹を手にしていた包丁で刺そうとした瞬間、父が咄嗟に犯人に組み付き、妹を引き剥がす。──だけど凶器は父の身体を刺した。俺は呆然と眺めているだけだった。

 

 ────あか、赤、朱、(あか)。血が流れる。溢れて、溢れていく。俺は両手を血に染めて流れ出る血を、父から、これ以上溢れないように必死に押さえる。しかし、それでも止まらない。俺の手が小さいからなのか? 指の隙間から止めどなく溢れるそれを見て、俺はどうすることも出来ずにいる。泣き叫びたいのを我慢してそうする事しか、その時の俺には出来なかったから。

 

 視界の中で、父が俺を見て安心した様に笑みを浮かべている。俺には、どうしてそんな顔が出来るのか理解出来なかった。

 今にも死にそうで、きっと苦しくて仕方ない筈なのに。父が、俺に何かを言っているが、それを聞き取る事ができない。そして、まるで全てを伝えきったと満足する様に、──父は死んだ。

 

 その後を、俺はあまり覚えていない。後で知った事だが、通り魔の男は父に凶器を奪われて、そのまま近くにいた人達に取り押さえられたそうだ。

 

 それからだろうか? 俺は、この光景をよく夢に見る。父の顔が焼き付いているからだ。そして、この時、父が何を言ったのか? 俺に何を伝えたかったのか。

 

 抜け殻の様になって塞ぎ込んでしまった当時も、今の曖昧な記憶しかない俺には分からない。

 

 ただ、この日のことは俺にとっての最大のトラウマとなったのは言うまでもない。

 

 ──────

 ────

 ──

 

 

 

 

 

 

 

「……シ……シル……ス……シルス起きなさい!!」

「…………ハレル?」

「? シルス大丈夫ですか? 先程から、かなりうなされてましたよ?」

「……そうか」

「とりあえず、ほらこれ」

 

 シルスは、言われてハレルから四角い布を手渡される。ハンカチだ。彼女の瞳と同じ青色を基調として、縁を白で彩ったシンプルなハンカチーフ。しかし、何故そんなモノを渡してきたのか、シルスは頭にハテナを浮かべて彼女を見た。ハレルは呆れた表情を浮かべてた後、口を開いた。

 

「……シルス、貴方、泣いているんですよ」

「……………………えっ?」

 

 言われて咄嗟に右手で頰に触れる。すると、ハレルに言われた通り、指先が濡れる感触があった。それを、理解して慌てて渡されたハンカチで涙を拭った。それから数秒して涙を拭い終わると、ハレルがハンカチをシルスの手から奪った。

 

「お、おい? 洗って返すから」

「良いですよ別に、私、気にしませんし?」

「いや、俺が気にするんだよ……」

 

 奪い返そうとするが、ハレルはさっさとハンカチをスカートのポケットに仕舞ってしまった。流石に、女の子のスカートを弄る事など出来るわけもなく。

 

 シルスは仕方なく諦めて、背中を今まで座っていた椅子の背に預ける。そして、首だけを動かしてドアガラスから外の景色を眺めた。軍用車両の外は海岸となっていて、その先には海が広がっている。太陽光が海面を反射して、此方を照らしていた。まだ残暑が厳しい季節な為、車内は冷房が効いている。

 

 悪夢を見て、寝汗で張り付いたシャツを摘んで、冷気を送りながら、右腕に取り付けられた腕輪型デバイスに、表示されている時間を確認する。どうやら2時間以上は寝落ちてしまったようだった。

 

 ふと、気になって右隣に座っているハレルを見る。彼女は、どうやら、誰かと通信しているらしく、頭頂部に取り付けられたシグナル・エフェクトと呼ばる光学通信端末が仕切りに、淡く発光しているのが分かった。確か、魔法少女モデルには、基本的な通信装置だったと聞かされていた。

 

 エモート機能だとか多言語自動翻訳とか、モデルの正常稼働の確認にも使用されていて、膨大なマギデータの通信受信機でもある。シルス、自身はあまり使用していないが、聞くだけで大変便利な代物だとは思っている。

 

「あ、すみません。眩しかったですか?」

「ん? ああ、大丈夫、誰と通信してるのか気になっただけだ」

「ああ、姉さんに定期連絡をしてました」

「アカネさんに?」

「ええ、普段そんな事ないんですけど、今回の任務に行く前に定期的に生存報告も含めて通信するようにと」

「……それは珍しいな」

 

 ナユタ・アカネは隣にいるハレルの実の姉で、ハレルとは違って、表情の変化が少なく光のない真っ黒な瞳が印象的な人だ。性格もサバサバしており、言いたいことは言う為、最初の頃は、少し見た目の雰囲気も相まって苦手な人だった。そんな、アカネはハレルに対する愛情が凄まじい。

 

 正直なところ、シルスは、それを羨ましいと思っている。それくらいハレルが大事だという事が理解できるし、優しい人だとも思う。だけど、過保護気味かと言われるとそうではない。

 

 ハレルの意志を優先して、自主的な行動を促している事が多い。だからこそ、普段ならこうして長期間の任務で頻繁に連絡するように、言うような人ではない。

 

 勿論、一切しないとそれはそれで怒られるだろう。少しの違和感を感じつつも、シルスはこの依頼をアカネさんから通達された時の事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 ──────

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 ──

 

 

 

 

 

 

「……二人には海底牢獄までリズエア博士の護衛の任務をお願いしたい」

「海底牢獄?」

「大昔に作られた超がつくほどにヤバい犯罪者を閉じ込めて置く施設です。太平洋の何処かの海底にあると言われています」

 

 聞き慣れない場所に、シルスはオウム返しするように聞き返した。すると、隣いるハレルから回答が返ってくる。

 

「水底にそんな施設設置してどうやって管理してるですか?」

「今はマギデータによる物質の送り出しは基本だから、ねぇ?」

「……しかし、本当に存在していたんですね。私、眉唾だと思ってました」

「はは、私もだよハレル。だけど実際に存在したしかなりの額の依頼金よ。勿論、口止め料込みだろうけど、ねぇ?」

「うげぇー!? そういう厄ネタは勘弁してもらいたいですよぉ!」

 

 ハレルがべーと舌を出して嫌な顔をする。確かに何かきな臭さを感じる。断れないのかとアカネに視線を送るが、彼女は困ったように肩をすくめた。

 

「ハレルは分かっているだろうけど、リズエア博士の護衛なんだ。何かとお世話になってる人の護衛依頼。しかも名指しで来てしまったとなると、断るのは、かなり良くないよ、ねぇ?」

「うぐ、分かってますよぉそれくらい、でも嫌なものは嫌なんですよぉ……やりますけど……」

 

 ハレルがそう言うと、アカネは口元だけを、ニッコリとさせて笑顔を向けてきた。

 

「いやぁ助かるよハレル。シルスは、勿論了承してくれるだろう?」

「はい、ハレルが受けるのなら俺は構いません」

「ははは、そう言ってくれるなら問題ない、ねぇ?」

 

 言ってアカネはハレルに棒状の何かを渡す。

 

「USBメモリ?」

「うわ! 旧世代の物理接触型メモリ。骨董品ですよ! 骨董品!」

「骨董品……」

 

 シルスは、自分の世界の技術力が、かなり置いて行かれてるんだなと改めて染み染みと感じた。

 

「それなら、専用の接続機器が無ければデータの流出は出来ないから、ねぇ? 古い物は古い物で使い道が在るんだよ。型が古すぎて術式や光学通信技術では基本弾かれるのよ」

「私達も中身見れませんよ?」

「見る必要はないよ。それはリズエア博士に渡してくれればいい」

「ああ、博士に渡すものなんですね?」

「そんな代物に入れてあるデータよ。決して無くしたり壊したりなんてしないで、ねぇ?」

「分かりました……シルス持っていてくれますか?」

「お、俺が?」

 

 ハレルに、ハイと言われて掌にUSBメモリを押し付けられる。シルスにとっては何気ない見慣れた記憶媒体機器なのに、とても危険で重要な物になってしまった。

 

 内心、驚きつつ任せましたよって顔をされてしまい。シルスは、何も言えずに、それを服に取り付けられた内ポケットの中に入れる。これなら即座に取られるような事はないだろうと思ったからだ。

 

「出発は明日の早朝0400(まるよんまるまる)今のうちにしっかりと休んで置くように」

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 ──────

 ────

 ──

 

 

 

 

 

 やはり、あの時のアカネさんは普段通りだったと、シルスは記憶していた。考えすぎか、とシルスは思考を止めて、再び景色を眺める事にした。

 

「目的地まで後、5分です」

「シルス! もうすぐつきますよ!」

 

 車両から合成音声がなり、シルス達に到着を知らせた。極秘の護衛任務の為、運転手不要の無人車両が使われていた。道中は気を使わう必要がなく、シルス的には快適な移動だった。

 車は道なりに進み、廃墟前とした町並みが広がっていく。そして、朽ち果てたと言っても過言では無い港と浜辺が見ててくる。シルスはそれを訝しむ。

 

「……寂れた港っぽいのしか見えないな」

「もーシルス分かってないですねぇ? 秘匿性の高い任務ですよぉ? 栄えてたら丸わかりですよぉ? そんなの素人丸出しですよぉ?」

 

 やれやれと、アカネの真似をするように肩を竦めて、此方を小馬鹿にしたように言うハレルの額を、人差し指と中指を立てたまま勢い良く小突く。妹をよくこれでお仕置きしていたのを思い出す。

「痛い!?」とハレルが額を押さえて悶えるが、無視して前方を警戒する。車は砂浜を突き進んでいきまるで止まる様子がない。シルスに嫌な予感が走る。

 

「……おい、なんか車止まる気配ないぞ? 大丈夫なのか?」

「? まぁ、海底牢獄ですから潜水艦あるんじゃ……止まりませんね?」

「……う、海に入ってくぞ?」

「水陸両用なんですよ!」

「こ、ここから深海まで何メートルで、どこまで車両って水圧に耐えられるんだ?」

「床下浸水始めましたね?」

「だ、出してくれ!! おい! 沈んでるって!!」

「目的地に到着しました」

「目的地ってなにも無いですけどね?」

「クソっ!! ロックされてるぞ!!」

 

 シルスは、焦りながら車のドアノブを引くがドアが開かれることはない。そもそも水圧で無理やり開くことも難しいだろう。こうなったらと、腰に取り付けたシルスの武器である警棒を取り出そうとした瞬間、乗っていた車両に光が照らされる。

 

「な、なんだ!?」

「これは……何とも大掛かりで面倒くさい事を……」

 

 冷静な態度で、ハレルが前方の物体を凝視している。海中に金属の擦れる音が鳴り響き、前方の物体が三方向に扉が開く様に開口した。そして、車両がそこに吸い込まれる様に進んでいく。

 

 その後、シルスは驚愕する。正体不明の物体に飲み込まれたと思えば、中には軍服を着た人間が、忙しく動き回っておいたからだ。放心状態のシルスだったが自動でドアが開かれ、ハレルが外に出たので慌てて出る。

 

「……ようこそナユタの神官殿に巫女様、我々は国連軍所属の海軍。私は、この秘匿魔術搭載型、護衛潜水艦そうりゅうの艦長です。ホワイト総督から護衛任務の仔細、承知しております」

「……どこのスパイ映画だよ」

「どうも、ナユタ・ハレルと言います。こっちは神官のシルス」

「……これは、ご丁寧に。リズエア様は館内の客室で寛いでおいでですので、お二人もそちらにご案内させていただきます」

 

 頭を下げて挨拶した二人に、少し驚いた表情をした艦長の男性だったが、直ぐに表情を正し、気持ちの良い背筋の伸びた動きで、シルス達にこちらですと、自分についてくるように促してきた。二人は特に何とも思わずに艦長についていった。

 

 

「──リズエア様、護衛の神官殿と巫女様をお連れしました」

「部屋に入って貰っていいわ」

 

 艦内を少し歩いた後、2つほど区画を超えた先に客室となっている部屋に二人は通される。艦長は部屋の入口で横にズレて、手で二人に進むように動作で示した後、私はこれでと言って来た道を引き返していった。

 

「時間通りね。ハレル」

「お久しぶりです。リズエア様」

「ど、どうも」

 

 室内には簡易な机と椅子が備え付けられていて、リズエアと呼ばれた女性は、そこで黒い液体の入ったカップを持っていた。匂いからしてコーヒーであることは、直ぐにわかった。リズエアが座るように言い。ハレルがリズエアの正面に座る。

 

「貴方は座らないのかしら?」

「はい、俺達は護衛で来てます。それに、ハレルは俺の上司なので座って話を聞くなら彼女が適任ですので」

「……なるほど、ちゃんと護衛任務についている意識はあるようね。頼りにしてるわ。──貴方名前は?」

「ナユタ・シルスといいます。ハレルの神官をしています」

「……教えてくれてありがとうシルス。私はリーズ・エア・トゥルース。リズエアか博士でいいわ」

「……でしたらリズエアさんと」

 

 シルスが、そう言うとリズエアは、笑顔をシルスに向けた。シルスは、その笑顔に頬が少し熱くなるのを感じた。今までに出会ったことない落ち着いていて、綺麗な女性に、年頃のシルスには何とも照れくさかった。

 

「おほん! ……リズエア博士、今回の護衛依頼ですけど、どうして私達を?」

 

 ハレルが、何故か咳払いをしてから会話を始めたのでシルスは首を傾げる。

 

「ああ、それね? 護衛依頼事態は、私が依頼を出したわけじゃないわ、総督であるホワイトが選んだみたいなのよ。私は、彼女の指揮能力や人を見る目は信頼しているから」

「なるほど、総督の采配ですか」

 

 それなら納得とハレルは頷いている。

 

「それと、シルス。姉さんから預かったていた物を」

「ああ、リズエア博士、これをアカネさんから」

「アカネが? ……これはUSBメモリ? しかもかなり古い形式ね」

「? ……何も聞いていないんですか?」

「ええ、もしかすると総督からの秘匿情報かもしれないわね……そうね。悪いけどシルス、海底牢獄から出た後に改めて渡してくれるかしら?」

「え? どうしてですか?」

 

 シルスは突き返されたUSBメモリを握ったまま尋ねる。リズエアは、少し考える素振りを見せてから口を開いた。

 

「カルミア、彼女に対面して会うのよ。重要な物はあまり身に持っておくのは危険、それとここに置いて置くわけにもいかないわ。ホワイトが言うには数人の人間が彼女に精神支配されてるもの、万が一を考えればこっちで管理した方が良い」

「そんなに危険な人物なんですか? その人は……」

「リズエア博士のお弟子さんが一人、彼女に手を貸して多くの被害が出たと聞いてます」

「お弟子さんが……」

「……当時の事を考えれば、あの子が……緑がカルミアに唆されたのは仕方ないことよ」

 

 リズエアは視線を下げ、下唇を噛んだ。その表情には後悔が滲み出ていて、シルスは彼女の弟子と言う緑がとても、大事に思われているんだなと感じた。

 

「その、緑と言う人は今は?」

「……緑は」

「違法モデルの使用と戦闘禁止区域での軍事的行動、違法入国及びテロ活動の諸々で、現在は連合軍統括区域の刑務所に服役中ですよ。──まぁ、終身刑を言い渡されてますけど」

「お、おい! ハレル、もう少しこう、言い方があるだろ!」

 

 流石に、もう少し手心を加えて欲しい。ハレルの物怖じしない所は、長所だがこう言うときには短所にもなるので困る。

 

「良いのよ……その通り緑は終身刑を言い渡されてる」

「……そういう心の隙をついてくるような相手でしょう? 落ち込まれても困ります」

「ええ……ええ、そうね。ありがとうハレル。カルミアならきっとこうやって動揺を誘うわ」

「…………終身刑の犯罪者と言っても、沼野緑は多くの人命を救ったと聞いています。ハワイ沖で魔獣掃討戦時にたった独りで奮戦し、守りきった。……その為、連合軍の魔法少女達が減刑の署名活動してるくらいです」

「……ハレル」

 

 ハレルは言うだけ言ってそっぽを向く。悪者を演じるには少々、というか向いていないなとシルスは思った。そうしてそっぽを向くハレルの頭に手を乗せるとワシャワシャと撫でた。「ぬわー!!」と気の抜ける叫び声を聞き流しながら、シルスはリズエアの方へ視線を向けた。

 

「それなら、きっとなんとかなりますよ。本当に悪い人間なら誰も何もしようとなんかしません」

「……ふふ、ええ、そうね。……きっとそう」

「何時までやってんですかー!!」

「かふっ!?」

 

 長い事やっていたせいかハレルの我慢も限界に来たようで、顎に思いっきりの良い一撃を貰ってしまった。リズエアは二人のやり取りが面白かったのか笑みを浮かべていた。

 

 それから、暫くは三人で警護中の行動や牢獄についた時のでの注意点等を話し合い。時折、他愛もない話をしていると、時間はあっという間に過ぎて、シルス達が目指していた海底牢獄まで目前に迫っていた。

 

 もうすぐ着くということで艦内に、アナウンスが流れ、シルス達も降りる為に準備を始めていく。簡易な荷物と、そして、腰に取り付けられたホルスターをシルスは左手て確かめるように振れた。そこに納められている鉄の感触を確認し、何時でも引き抜ける様に手に馴染ませる。

 

 警察官だった父が、使用していたものと同じ型のリボルバー。名称にさくらと名付けられた警察官が持つ、一般的な装備の一つだ。そして、シルスにとっては、あの時の大きな父の後ろ姿を思い出させてくれる。触れていると勇気が身体の奥底から、ふつふつと湧き立つ。

 

 ハレルに、わざわざ要望して造って貰ったが、かなり不評であった。アカネも呆れていた。““効率が悪い””と、確かに、シルスがいた世界では殺傷能力のある武装だったが、こっちの世界では魔法少女のバリアを傷つけるくらいで牽制程度の効果しか得られない。

 

 しかし、シルスはこれが良かった。いや、これで十分なのだ。戦う為の勇気、守る為の活力、異世界という別の世界からやって来た異邦人であるナユタ・シルスにとって、この世界を生き抜く為の、一種のお守りの意味も強いのだから、少しだけ深呼吸してから、準備を終えて待機していた相棒であるハレルへと近づく。

 

「さぁ、気合入れていきますよシルス」

「ああ、行こうハレル」

 

 

 二人が拳を打ち付け合う。──これから二人の長い長い激動の1日が始まる。

 

 

 

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