魔法少女規格交流編   作:三色団子13

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羊殺しの花


前日譚 その4

 海底牢獄、その名の通り、光も届かない海の底に建てられた囚人収容施設だ。リズエアから聞かされた情報によれば、この施設は、リズエア達が四騎士として数多の紛争を渡り歩いていた時代よりも、更に、過去に秘密裏に建設され、当時の建築技術や魔術的な観点からみても、謎が多く。どうやって完成させたのか、リズエアにも分からないらしい。

 

 魔法少女モデルや聖遺物も、その多くがまだ表立っていない時代の産物、仮説としては高次の存在が関わっている可能性があるとのこと。

 

 そんな斜め上を行く様な突飛な話をリズエアから聞かされつつ、3人はカルミア・マイヤーズの面会に向けて、海底牢獄の廊下を進んでいた。

 

 ──なんてことはない。創作物やドキュメンタリーなどでみるような海外の刑務所内、そのままの内装だ。これで海底にある事を除けば、ごく普通の刑務所といえた。リズエアがいうには、わざと一方通行にして人の出入りを簡単には出来ないようにしているらしい。

 

 更に、奥の方へと進んで行くに連れて、重々しい厳重なセキュリティがあり、都度、立ち止まってセキュリティを越えて行く必要があった。金属探知の良くある物からパスワード入力や生体認証と進むごとに、その質は高くなっていく。奥にはどんな危険なモノが収容されているのかと考えてしまう。

 

 こんなにも厳重なセキュリティに秘匿性の高い魔術で隠された場所にいるカルミア・マイヤーズとは、どんな人物なのかと、緊張で喉が鳴るのがシルスには分かった。 

 

 聖遺物と共に収容される存在、この世界にやって来て日が浅いシルスにも、その恐ろしさ、危険さは重々承知している。下手をすれば国一つが崩壊してしまう危険な代物と同等の人間がいるとなれば、緊張するなと言うのは酷とも言える。

 

 自分達を、先導する様に歩く相棒のハレルも、場の空気に飲まれているのか、海底牢獄についてからは、何時もの陽気な雰囲気は鳴りを潜めており、戦闘時の凍てつく様な圧を感じる。

 

「鬱陶しいですねぇ……」

「此処にはナユタに怨みをもってる連中も多いでしょうからね」

 

 まだ素人に毛の生えた程度のシルスには、二人が感じる何かは正確には判断出来ない。しかし、この場にいる事で感じる何かが、シルスにも向けられているのはわかる。二人は鬱陶しそうにはしているものの、そこまで気にはしていないようだ。暫く進めば、それまでに通った扉とは違い巨大で分厚い鉄の扉に行き着く。

 

「この先よ。二人共気を引き締めていなさい」

「はえーかなり頑丈な扉ですねぇ……術式も施してますし」

「それでも聖遺物に対してはあまり効果はないでしょうけどね」

「でしょうねぇ」

 

 ハレルが半眼で扉を睨みつける。聖遺物の理不尽さはシルスも知るところなので、ハレルと同じ様な顔をしている。リズエアは扉に手を触れ、手から魔力を流し込む。扉に刻まれていた線が光を放ったと思えば、そのまま見た目とは裏腹に、扉は簡単に左右に開閉した。

 

「──ッ!?」

 

 瞬間、肌を突き刺す程の異様な圧を受けて、シルスが一歩後退る。本能が警鐘を鳴らし、もう一歩足を後方に動かしそうになる。が、シルスはそれを同じ様に震える右手で足を叩いて無理矢理に止めた。

 

「……行きますよシルス」

「ああ」

 

 ハレルの呼び掛けに答えるつもりで、下がりかけた足を前に出して扉の奥へと向かう。数分程歩き、リズエアが足を止めた。

 

「ここね」

 

 ガラス張りになった部屋、中には明かりが灯っている。そこには一人の女が、部屋の中央で椅子に座って此方を見つめていた。癖の強い長い黒髪が片方の顔を隠している。口元は声を出せないようにする為なのか、拘束具が取り付けられている。

 

 そこにいる女性が面会相手となれば、つまり、目の前の人物は聞いていたカルミア・マイヤーズだろう。白い簡素な部屋には様々な絵がびっしりと描かれていて、異様な雰囲気が漂っていた。子供が落書きで描くようなものではなく。まるで、何かの儀式の様な繊麗された一種の芸術品に感じた。

 

 

「カルミア……今から話をするわ。その拘束具は面会中に限り解きます」

 

 リズエアがそう言うと拘束具の一部が輝き、器具が音を出してロックが解除された。拘束具が縦に開閉し、彼女の不敵な笑みが、そこには顕になる。

 

「リーズ。わざわざこんな所までご苦労だな。地上は随分と暇を持て余しているようだ」

「貴方と世間話をする気はないわ……貴女のことだから、こちらの要件はもう分かっているでしょう?」

「ミストモデルのOSのロック解除だろう?」

「ええ、貴女が造ったコアシステムの解除コード、それを教えなさい」

「──条件がある」

「貴女、自分が囚人である自覚あるのかしら?」

「海の底、倫理や法もないから、どうとでもなると言いたいのか? ……貴様はそういうのが一番嫌いだろう?」

 

 そう言われ、リズエアの目が細くなる。カルミアが条件を提示してくるのはリズエアも予想していた。問題は、何を要求するのかだ。カルミアは、そんなリズエアの考えが分かっていると言うように、相手を安心させるような声色で、直様、口を開く。

 

「そう嫌そうな顔をするな、リーズ・エア・トゥルース。貴様にとっても良い内容だぞ?」

「──もったいぶらずに言いなさい」

「条件はこうだ。私の部下、ルージュ、マリーゴールド、プリムラ、マーガレット、緑の五名を解放し国連軍の人員に加え、ペイルライダー殲滅計画に参加させろ。そうすればミストモデルのOSのロックを解除してやる」

「何故、貴女が、それを? ……いや、それよりも、そんな事がまかり通るとでも?」

「貴様らが、仮にミストモデルの汚染除去機構を調べられるとして、あと数日中に、それを実戦レベルに改良し、既存のエンジェルモデルを改修できるとでも? ……それよりも私の部下を使った方が効率的だ」

「それは……」

 

 リズエアの瞳が揺れる。実際の所、カルミアの要求はある意味で好条件だ。数日の内に、安全な機能を全体に処置を施すのは、不可能に近い。故に、ペイルライダーとの直接的な対峙は、リズエアを含めた数人の人間に絞るのが、人的被害を最小限に抑えられる。

 

「意外ですね? 自身が此処から出るという要求でも言うのかと思いました」

「はっ! そんな無意味な要求をして何になる? 私をそこらの凡人共と一緒にしてくれるな? ──ナユタ・ハレル」

「……」

「お前、なんでハレルの事を!?」

 

 牢屋の前に来て、ここまで会話に参加せずにいたハレル達だったが、どうやら相手は既に此方の情報を得ている。

 

 何処まで、いや、そもそも誰が、自分たちの情報を教えたのか、確実にこちら側に裏切り者がいる。その事実にハレルの眉間に皺が寄る。

 

「なに、私には大勢の協力的な人間がいるだけだ」

「……リズエアさん」

「…………今はその事は後回しよ。改めて聞き出す。それよりも貴女の要求だけど、今この場で決めることは出来ない」

 

 裏切り者という存在が組織にいる。普通なら直に対処するべきだろうが、今、リズエア達には時間がない。カルミアが尋問で簡単に情報を吐くことなどないと、リズエアは分かっている為の判断だった。優先すべきは差し迫った人類滅亡の回避だ。

 

「だから直ぐに総督に連絡をとる。ハレルと私で通信設備を借りに行く。シルスはここでカルミアを見張るように」

「警戒しすぎじゃないか? リーズ」

「黙りなさい」

 

 リズエアが睨みつけるとカルミアは、愉快そうに笑みを浮かべた。

 

「大丈夫か? ハレル」

「勿論ですよ。シルスの方こそ変なポカしないでくださいよ」

「善処する」

「設備まではそう遠くないわ。ハレル、行くわよ」

 

 足早に通路へと向かうリズエアを、ハレルが追いかけた。一度だけ振り返って、出ていく相棒の後ろ姿を見る。普段通りのハレルの背中が、そこにある。そう、何も不安になることは無い。しかし、何故か、シルスの心の奥底に一抹の不安が過る。ここに来る前に見た夢、この世界に来てからは、日々の目まぐるしい忙しさのおかげで見ていなかった。あの日の(トラウマ)が、シルスの心を酷く蝕んでいるのだ。

 

 ──嫌な予感がする。朧気になった自身の過去が、今になって何かを強く訴えている。しかし、そんな根拠のない理由でハレル達を止める事が出来ず。シルスは、視線をカルミアに戻した。

 

「どちらにせよ。今やれることをやる! ……だな」

「…………」

 

 今は任務に集中する、それが正しい筈と自身を納得させる。何よりも、目の前の人物は危険だ。こんな所に閉じ込められているにも関わらず、機密情報を得て、リズエアを動揺させるような人間なのだから。

 

 シルスが視線を向けたが、当のカルミアは此方に見向きもせず、暇そうに宙を眺めている。それは、まるでシルスの事など、何一つ気にする必要がないと態度で示しているようだった。

 

 

 ────さて、少しはこっちに意識を向けさせてやる。

 

 

 シルスの悪い癖が始まろうとしていた。

 

 





大変、時間がかかりました。間違えて消してしまったり、話の展開変えたりしてしまって、もう区切ってしまうことにしました。その5はできるだけ速く投稿します。
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