魔法少女規格交流編   作:三色団子13

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悪鬼羅刹


前日譚 その5

 シルスは、自身を無いものとしている眼前の女に、腹立たしい気持ちを押し殺して、改めてカルミアを見た。クセの強い黒髪から覗く切れ長な眼からは、先程の楽しそうな感情は無く。早く終わらないのか? という面倒くさそうな雰囲気が感じられた。

 

「なぁ、あんた、どうして部下の人達を解放するなんて言ったんだ?」

「……」

「そもそも、その人達はあんたのせいで捕まってるんたろう? 償いとかなのか?」

「……」

「それとも自分の都合で何か悪巧みでもする気か?」

「……」

「……」

 

 暖簾に腕押し、シルスの脳内にそんな単語が出てくる。話し掛けてもピクリとも反応されないというのは、これ程までに傷つくのかと、げんなりとした気持ちになる。このまま、ハレル達が戻るのを待ってるほうが良いのでは? 思ってきた程だ。しかし、ここで押し黙るのも、負けを認めたみたいで嫌だった。

 

「……あんた、緑って人の事知ってるだろ? リズエアさんから話を聞いたけど、あんたが唆したんだろ? 何でだ?」

 

 緑と聞いた時、ピクリと、カルミアの身体が小さく跳ねた。そして、宙を彷徨わせていた目線をシルスに向ける。──鋭い。まるで蛇を彷彿とさせる細く鋭く尖った威圧感のある視線が、シルスを射抜く。ぞわりと、背筋が粟立つ。それだけで、カルミアの地雷を踏んだのだと理解できた。

 

 しかし、シルスとしてはしてやったりと言えた。いないものから敵意を向けるべき対象として認識を改められたからだ。

 

「……やっと、視線合わせてくれたな?」

「藪をつつくなら覚悟を持つべきだぞ。ナユタの神官」

「覚悟ならあるさ、とっくの昔からな」

「……ふん、異界の人間は思考まで極まっていると見える」

「!?」

 

 シルスは自分がこの世界の人間ではない事を当てられ困惑する。動揺していると、カルミアに鼻で笑われた。

 

「何故、知っている? という顔をしているな? 貴様は、少しばかり感情を抑える方が身のためだぞ。まぁ、これについては、私、個人の異能の力とでも言っておいてやる。貴様の在り方(デザイン)はこの世界の人間と異なる。そもそも、貴様はナユタの人造人間共と違うしな……ただ、少しばかり面白いことに、貴様は根源的には同じだがな」

「…………どういう意味だ?」

「言った所で理解など出来んさ」

 

 それっきりカルミアは、シルスに興味をなくしたのか先程の圧も霧散させ、只々、何も無い空間を眺める作業に戻る。シルスは、問いただそうとも思ったが、開きかけた口を閉じた。聞いてはいけないような気がしたからだ。そもそも、カルミアがシルスの質問に答える気が無ければ聞けもしないが、自分から聞き返すのは、何か引っかってしまう為、躊躇った。

 

「沼野緑に会ったことはあるか?」

「……えっ?」

「その様子なら無いようだな」

 

 シルスは驚く。先程、あれだけの威圧感を出してきた話題だったのだ。あっちから話題を振られるとは思いもしなかった。

 

「……どんな人なんだ? 聞く限りだと良い人とは思うんだが」

「良い人か……正解ではあるが、正確ではないな」

「?」

「沼野緑、アレは狂っている。いや、壊れていると言ったほうが正確だ。自らを顧みず、他人の為に行動できる人間も少なからずいるが、それが極まるとあそこまで出来るのかと……私は驚かされた。自己犠牲も極まれば、あのような軌跡が生まれるのかと…………はっ! 元々人を超える事を目指していたが、あんな形で実現されるとは想像すらできない」

 

 カルミアは目を見開き、まるで幼子が憧れのヒーローを前にしているかのように瞳を輝かせる。しかし、直ぐにそれは憎悪を孕んだ怒りの形相に早変わりする。

 

「故に! 腹立たしい!! 絶対的な存在! それに至るのは私だったッ!! ……………………が、それも今となってはどうでもいい」

「お、おおう」

 

 早変わりする感情の発露に、シルスは怖気ついてしまう。何にせよ。これは、これ以上は本当に藪蛇になりかねないと思い。

 

 シルスが話題を変えようとした時、ふと、シルス達が“来た方の廊下とは逆の方から”、知った顔の人間がこちらに歩いてきているのに気がついたからだ。軍服に軍帽を被った男、潜水艦の艦長の男だった。

 

「おや? 神官殿、巫女様とリズエア様は一緒ではなかったのですか?」

「……ええ、連絡をとると言って通信機器を借りに」

「……そうでしたか」

「所で、何故ここに?」

「いえ、設備点検も我々の仕事なので」

「そうなんですか」

「ええ」

 

 艦長の男はにこやかな笑顔を浮かべている。シルスは、何か違和感を感じつつも納得する。しかし、横から声が発せられる。

 

「設備点検は原則、二人一組だ。特に今は私が来て更に厳重だぞ?」

「ああ、言ってますが?」

「……神官殿、その様な者の言葉を信じるのですか? 奴は重犯罪者、偽っているのです」

「くくく……まぁ、そうだな?」

「ええ、ええ、そうです。貴様はそうやって場を混乱させて楽しむ様な奴だ。さぁ、神官殿、──いい加減にそこを通して頂きたい」

 

 シルスは軍帽の位置を正しながら、こちらに視線を合わせようとしない男の行く手を阻む位置に立ち、男を通さないようにしていた。先程のカルミアの言葉もあるが、何故、この男は、自分達より先の通路からこちらに来たのかが、疑問だった。

 

「(リズエアさんはこの施設はわざと一方通行になる様に造られていると言っていた。なら俺達と一緒に行動していなかった艦長が先の通路から現れるのはおかしい)」

「…………神官殿は何か誤解をしている様子ですな。私はここについて、すぐにここに向かったのですよ」

「……艦長のあんたが、いの一番にこんなセキュリティの高い奥まで来るのか? 俺達がここに来るまでかなりの数のセキュリティや検問あったんだぞ。数十分はかかる……あんた、何してた? どうやってここに来た!」

 

 シルスは腰に備え付けられたホルスターから拳銃を引き抜き、何時でも引金を弾けるように、確りと狙いを定め、両手で構えた。

 

 男は、拳銃を突き付けられても口元には、余裕の笑みを浮かべたままだ。

 

「……これはこれは神官殿、物騒ですな? だが、ふむ、呑気な連中と思い、少しばかり行動が雑すぎましたかね? まぁ、バレるのは計画のうちなので、構いません。目的の物も手にしていますので、巫女様達が戻る前に事を済ませる事に致しましょう」

「動くな!!」

 

 シルスが銃口を突きつけるが、動揺する素振りもせず、男は軍服のポケットから赤く尖った角を取り出した。

 

「……ほう、呪物か」

「呪物?」

「その通り! 過去にナユタから離反したカイナが創り出した人工聖遺物、その中でも数多くの穢を内包したものを我々は呪物と、そう呼んでいる!!」

「まぁ、聖遺物とは似ても似つかない失敗作だがな」

「黙れっ!! 貴様に何が分かる!」

 

 男は態度を豹変させ、カルミアがいる独房のガラス張りの板を叩く。握っていた呪物のせいか血が床に滴る。

 

「この呪物の素晴らしさが分からないのでしたら、見せてあげましょう。本来なら巫女様達を相手にする時に使う予定でしたが、貴方は私の邪魔になりそうです」

「させるか!!」

「遅いんですよ! 神官殿ッ!!」

 

 男は、なんと握っていた角を自らの左目に突き刺すと言う蛮行に及ぶ。一瞬、うめき声を上げるが刺した角はまるで男に取り込まれる様に、眼の中に侵入していく。悍ましい光景だが、それだけでは終わらない。

 

 角が取り込まれると男の身体の筋肉が膨張し、それに耐えきれなくなった上半身の衣服が弾け飛ぶ。血管が肌に浮き上がり、潰れていない右目は白目を剥いて、口からあぶくを吐き出している。膨張に耐えきれず血管が切れて皮膚から噴き出るが、男から発せられる異常なまでの熱に曝されて、血煙となって蒸発する。しかし、それでも絶えず流れる血液が男の身体を染め上げていく。

 

 それはまるで例えるなら鬼であった。シルスの身の丈を有に超える大きさへと変貌し、最後には額から一本の紅い角が皮膚を突き破って、現れた。

 

「おいおいおい! 鬼になったぞ!?」

「呪物は基本的に自己範囲の変化しか起こせない代物だ。聖遺物の様に己の理を森羅万象に強制させる様な神秘はない、が、気をつけたほうが良いぞ神官。呪物はある意味で神秘に効果ありだ。生半に近づけようとして返って反転した物だからな」

「ご忠告どうもッ!!」

 

 シルスは構えていた拳銃の引き金を引く。全弾撃ち尽くして、全てを目の前の怪物に叩き込むも、鬼とかした男の身体にめり込むようにして、弾丸は止められ。直ぐに内側から押し出されるように、体から排出されてしまった。更には、与えた傷も排出されると同時に綺麗さっぱり消えている。

 

「……いや、ズルだろうそんな──ッ!!」

「があああアアアアッ!!!」

 

 怪物は丸太のように肥大化した腕を振り上げ、シルスを叩き潰すように振り下ろした。咄嗟に後方に飛び退いたシルスだが、さっきまでいた床は、圧倒的な威力の一撃を受けて、飛び退いたシルスがいる方まで床を粉々にした。瓦礫に変わった地面に足を取られてしまい。ほんの少し気を取られてしまう。───それが致命的だった。

 

「グオオオオッ!!!!」

「────かはッッ!!!」

 

 まるでトラックにでも、正面から全速力で追突されたかの様な衝撃が、シルスを襲い吹き飛ばされる。鬼の怪物は意識を反らしたシルスの油断を狙って、ラグビー選手のように肩からタックルを食らわせたのだ。異様なまでに発達、強化された肉体から繰り出されるその威力は、事前に破壊された床を見れば一目瞭然。ソレをモロに受けたシルスのダメージは計り知れない。激突する瞬間、咄嗟に後方に飛んだが、殆ど威力を軽減できていなかった。

 

「ぐ、あ……(確実に肋が数本折れた、それに、受け身に失敗して頭を打った。血が……視界が……マズイぞ、これ)」

「オオオオオッ!!」

 

 追い討ちをかけるように、床に倒れるシルス目掛けて怪物の拳が迫る。喰らえば確実に潰れたトマトの出来上がりだ。────しかし、ナユタ・シルスの本領はここらだ。

 

 ミサイルの着弾の如き轟音と破壊音が轟き、シルスがいた床を粉微塵にした。粉塵が舞い。視界が不明瞭になる。

 

「……グオ」

 

 鬼の怪物は舞い散った粉塵で見えない腕の先にあるべき筈の手応えが無いことに困惑する。

 

「……おい、こっちだバケモン」

「ガアッ!?」

 

 怪物は、シルスの声が、背後で聞こえて来たことに驚き困惑し、咄嗟に振り向こうとしたが、それよりも早く怪物の首が、シルスに、よって締め上げられる。腰につけていたホルスターとは、別に背中に装備している特殊警棒、それを怪物の首に押し当て気道を塞ぎ、警棒を両腕で固定して羽交い絞めの様にした。後は、シルスの全体重をかけて無理矢理に、絞め技へと持っていってみせたのだ。

 

「クソッ!! 暴れんなァ!!」

「グガアアッ!!」

 

 呼吸ができない苦しみに耐えられず怪物は、シルスを振りは払おうと暴れ回る。壁を、牢屋を、床を、天井を、身体を打ち付けながら藻掻く。しかし、そうやって暴れ回っても、シルスが腕を緩めることは無かった。徐々に怪物の顔が紅くなっていき、最後にはうつ伏せにその場に倒れ伏した。

 

「……ハァ……ハァ!!」

 

 失神し、完全に動かなくなったのを確認した後、シルスは怪物から離れた。

 

「ははは、凄まじい抵抗だったな……しかし、ほぼ生身で、よくもまぁ鬼とかした人間を絞め落とせたものだ」

「カ、カルミア!? ……クソッ! さっきぶつかった時に牢屋が壊れたのか」

「その通りだ神官」

 

 シルスに拳銃が突きつけられる。ゴクリと、シルスは唾を飲んだ。

 

「……撃った回数は頭に入れておいたほうがいいぞ」

「…………あんたの顔が迫真すぎてそんなの吹っ飛んでたよ」

 

 くるりと、持ち手を此方に向けて取るように促され、シルスは、カルミアから拳銃を受け取る。そして、痛む身体に、気合いを入れて無理矢理立ち上がった。

 

「しかし、絞め落としたのは、いい判断だったぞ。呪物で強化された者は、半端な武装では倒せないだろうからな」

「……って、なにしれっと自由になってるんだ!」

「いやなに、この牢獄も今日で機能不全になるだろうからな」

「何を言って……」

 

 シルスが、カルミアを拘束しようと動いた瞬間、廊下にけたたましい、警報が鳴り響く。設置されたランプが赤く光を放ち、シルス達を照らした。

 

「こ、今度はなんだよ!?」

「どうやらここ以外でも騒ぎが起きている様だぞ」

 

 いつの間にか廊下を進んでいたカルミアから、手招きされ、近づけば前の通路では囚人達が牢屋から出て、施設を破壊して周り、数人の職員を囲んで暴力を振るっており、暴徒と化していた。そして、そんな中、先程の艦長の男、同様に騒ぎの中心で、静観する者がいる。艦長と同じく、軍服に身を包んだ人間だ。

 どうやら、この暴動の原因は、シルス達を連れてきた潜水艦の連中で決まりだろう。

 

「ふむ、暴れ回る連中に紛れて脱出するか。既にセキュリティも機能していないだろう」

「やめろ!!」

「しまった。奴は善人だったな」

 

 職員を袋叩きにしていた囚人達をシルスは、即座に近づいて警棒を押し当て、内蔵されている電流を流し込み、無力化して一掃する。

 暴れ回る連中を鎮圧していけば、静観していた乗組員の男が、シルスに気がついた。

 

「──チッ、あいつ失敗したか」

「待て!! お前ら何を企んでる!!」

 

 静止を呼び掛けるが、そんな事知ったことかと乗組員は前の区画へと走り去っていく。慌てて追い掛けようとするも、囚人達が邪魔で前に進むことができない。

 

 ふと、視界の端で、一人の囚人がシルスの目に映った。男の手には禍々しい気配を放つ、包丁が右手で確りと握られている。戦慄が走る。シルスに、とって、包丁はトラウマだ。──しかし、それよりも慄いたのが、その囚人は、その包丁で自らの左腕を深く斬りつけ、始めたのだ。よくあるリストカットなんてものではなく。肉を、いや、骨さえ斬り落とす勢いだった。あんな事をすれば、大量出血により、死に至る事は確定だ。

 

 故に、最優先で走り抜けて、その狂気的な行動を止めようとした。

 

「死ぬぞ!! やめろ!!」

「──待て!! そいつが使っているのは呪物だッ!!」

「───なっ!?」

 

 

 ────包丁が禍々しい黒色の光を放ち、シルスの視界を黒に染めた。

 

 

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