魔法少女規格交流編   作:三色団子13

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愛別離苦


前日譚 その6

 夏、年々異常なまでに上がっていく気温、猛暑など連日連夜と当たり前で、丸一日の間30度を超えたままとあり得ない状況だった。クーラーなんていうものをつける事もできない家の家計を考えれば、子供の頃、よく熱中症にならずに済んだものだと、今更ながら恐ろしい環境だった。

 

 大量に作った氷を袋に詰め、身体に押し当てながら何とか耐えていた当時の俺と妹は、それでも母さんにクーラーを買ってほしいなどと我儘を言った方はない。あの人は、俺達二人を学校に通わせながら、寝る間も惜しんで朝から晩まで働いている。それを俺達は知っていたし、母さんから直接、そうしなければならない状況だとも説明を受けたいた。だから、迷惑にならないようにできる限り我儘を言わないようにしていた。少しでも母さんの負担が減ればそれでよかった。────良かったんだ。

 

「……過労で倒れてそのまま亡くなったそうよ」

「父親も前に死んだんでしょう?」

「引き取りて見つかってないそうよ?」

「……可哀想よねぇ。まだ小さいのに」

 

 両手で抱えた骨箱を抱えながら、遠くでそんな声を聞いた。妹はただ隣で泣いている。父さんが亡くなった時もそうだった。まるで、現実味がない。自分が世界から、切り離されてしまい。それを俯瞰してみているような感覚だった

 

「……?」

 

 ふと何かに引っ張られる様な気がして、視線を動かした。自分の服の裾を妹がギュッと握り締めているのが見えた。

 

「……お兄ちゃんはどっかいかないよね?」

 

 そこで、俺はやっと意識を取り戻した様な気がした。抱えた骨箱を落とさない様に気を付けながら、俺は妹の手を強く握る。泣き腫らして赤くなった眼が、俺を見つめている。そこには不安がありありと浮かんでいた。そんな妹に安心させるように、自分に誓う様に、俺は妹に視線を合わせる。

 

「大丈夫、俺は何処にもいかないよ」

「…………約束だよ?」

「──ああ、勿論約束だ!」

 

 そう言うと、妹が俺に小指を差し出す。指切りげんまんだ。それに自身の小指を絡めて約束する。

 

「「────針千本のーまーす、指切った!!」」

 

 そうして、指をきると妹は嬉しそうに笑みを浮かべた。俺もつられて笑ったと思う。これからは、二人で生きていかないといけない。だけど、二人ならなんとかなる。そう思った。

 

 

 ────妹は、それから暫くして行方を消した。

 

 

 

 ──────

 ────

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………夢、か」

 

 シルスは鈍痛のする頭を振ってから、ゆっくりと立ち上がる。しかし、体が思う様に動かず横にふらついてしまう。先程の夢と肉体的な疲労と怪我が原因だろう。乱れた息をゆっくりと深呼吸して整えると、シルスは改めて周囲を確認する。

 

 闇、それがシルスの視界に映る全てだった。他に何かないか目を凝らして見回したが、それ以外には何も無い。自分以外何も無い空間に、シルスはいつの間にかいるという状況に困惑することしかできない。これが、相棒であるハレルなら、もう少しは何かわかったのかもしれないが、生憎とシルスには、この世界の魔術などの知識は一般的な基礎知識しかなく。それ以上は元々いた世界の創作物に出てくる剣と魔法などだ。流石に、そんな知識は此方では無意味だ。

 

「確か呪物を使っていた奴に近づいて、闇に吸い込まれたのは分かるが……ならここは、その闇の中?」

 

 見渡すのも意味がないと思い。とりあえず向いていた方へと歩みを進めた。一歩踏み出してみて、底なし沼の様にならない事に安堵したシルスは、わかる範囲で情報を整理する事にした。

 

「カルミアが吸い込まれる直前にアレは呪物と言っていたし、ここは呪物による何ならかの現象。だけど呪物は自己範囲内で完結する物、なら外に向けて放出されたあの闇は……あの時の囚人のものか? なら、この空間は術式によるもの、だとすると脱出するなら……どうすればいい?」

 

 一応、解決できそうな答えは得たものの、魔術に対抗できるものを、シルスは現状持っていない。ここに、ハレルがいればと、この場にいない相棒の顔を再び思い描く。

 

「はぁ……駄目だな。ハレルにばっかりに頼る癖がついてしまった」

 

 この世界にやってきた最初のうちは、まともに会話もしてくれない彼女だったが、今では割と心を許してくれるくらいには信頼を得た。それに比例して、シルスも彼女に頼る頻度も増えてきている。悪い事とは思っていないが、こう言う時にでも相棒で何とかしようとしてしまうのは良くない。

 

 気持ちを切り替える為に、ホルスターに収めていた拳銃を取り出してグリップを握る。回転式弾倉の薬室の弾を確認してから、前に進む。

 

「……なんだあれ?」

 

 暫くしてシルスは暗闇の中に、切り取られた様に学校の教室が存在する場所に辿り着いた。そんな、ありえないものを目の当たりして、シルスは動揺する。廊下からみた教室の入口、横に連なる壁もよくみた光景だ。眼前のドアを開けば中には、教室の風景が広がるのか。──それとも、同じように暗闇か。

 

「開けてみないと分からないよな」

 

 意を決してスライド式のドアを動かす。そして、中に視線を向ければ、ありふれた教室の光景がシルスの前に広がる。周囲に罠がないか確認を怠らずに、ゆっくりと拳銃を構えたまま侵入する。

 

「……何かあるわけじゃないか」

 

 一通り室内を確認してから、シルスは構えるのを止めて適当な席に座る。

 

「ほんと何なんだよここ……俺がいた学校とかでもないし」

 

 無意識にため息が漏れて教室内に響く。ベランダ側のガラス窓の先は、教室の外と同じ暗闇だけが広がっていてるだけだった。

 

「……この机」

 

 ふと、座っていた席の机を見る。直ぐ様に後悔する。そこにあるのはおびただしい数の文字列だった。『死ね』『学校来るな』──。それ以上は認識するのも嫌になって目を逸らした。どうやら、この席の主は陰湿なイジメを受けていたようだ。

 

「ッチ……胸糞悪い」

 

 いきなり理由のわからない状況に追い込まれ、どうする事もできずにいるのに、此処で知らない誰かのこんなものを見せられては不快感が大きくなる。

 

「……はぁ」

 

 無視しておこうと思ったが、このままにする事が出来ずに、グローブに備えられたサブ用のコアを起動する。魔法少女が使うものとは違って本人の魔力を用いる為、あまり使用するのは良くないとシルスは言われていたが、躊躇することなく魔力を込める。

 

 これならばハレルと物理的に繋がっていなくとも、今のシルスでも魔法少女が扱う人造神格の加護である術式を起動させることが可能だ。

 

 そうしてマギデータ内から汲み取った術式、『造物』の力を引き出すと、汚れた机を新品同様に作り直した。

 

「無駄な魔力をってハレルやアカネさんに言われるだろうな」

 

 シルスの保有する魔力量は多くない為、こうして自分自身で術式を起動する事は悪手だ。ハレルが傍にいれば別だが、現状を鑑みれば無駄な魔力の消費は極力抑えるのが当たり前である。しかし、こんな気の滅入る原因になる物を放って置く方が、後々気になるのだ。例え、そのイジメの被害者が居るかも分からないとしてもだ。

 

「まぁ、これくらないならいいだろ」

 

 昔からの癖だ。誰かが困ってたら手を貸して、助けを求めるなら首を突っ込んでいく。それで酷い目にあったのは一度や二度ではない。自分に恥じることの無い生き方をする事は、シルスに取っては、もういない父に、何れ、あの世とやらで合わせる顔がないなんて事にならない為だ。

 

「ふーん? 君、優しいんだね」

「いや、ただの自己満足だ。結局自分の為……ッ!!」

「あ、ごめんね? 驚かせちゃったかな?」

 

 警戒をしていなかったわけではないシルスだったが、突如として不意に、自分以外の存在が自身の真横に現れ咄嗟に飛び退く。現れた人物は、シルスの素早い反応に驚いた顔をしている。

 

「わ! 君すごいねーびっくりしちゃった!」

「……一般人か?」

 

 シルスは目の前にいる少女に拳銃を向ける。少女は拳銃を突き付けられても特に変わった様子を見せない。この学校の制服なのか女子生徒ようの制服を着た少女は、綺麗な栗色の髪を両側で縛っており、それを両手で持ち上げて指先で弄っている。此方に警戒している様子はない。

 

「えーなになに? モデルガン? 危ないよ?」

「質問に答えてくれると有り難いんだがな……」 

「あ、私ね? 愛理っていうのー“愛情”の愛にー “理解”の理で愛理って言うんだぁ、ね? ね? 君の名前は? 愛理に教えて欲しいなぁー」

「……シルスだ。ナユタ・シルス」

「ナユタ・シルス……シルス、シルス、シルス……うん! 素敵な名前だね!」

「ど、どうも」

 

 投げた会話は彼女、愛理のマイペースな返答に飲み込まれてしまった。シルスは苦手なタイプだと思った。そんな人懐っこい明るい声や仕草、大袈裟な動きで独特な雰囲気を纏う少女だが、シルスは眼前の少女に最大限の警戒をしていた。

 

 何故かと問われれば、まずこんな場所に居ることもそうだが、何よりもシルスが警戒しているのは、先程からこうして会話になってない会話を繰り広げている筈なのに、シルスは気を抜くと愛理を意識から無意識に外してしまうからだ。明らかに何かしらの魔術による認識阻害が起こっている。

 

 暫くの間、シルスの名を確かめる様に呟いていたが、首に巻いたマフラーを少しだけ下げて少女、愛理はシルスの方に向き直った。そして、その紅い瞳を潤ませ、熱っぽい視線でシルスを見つめていた。

 

「あ! そうだ。シルスってどういう女の子が好き? 愛理? 愛理はねー優しい人! あ、シルスも優しいよねぇ。そう言うところ好感度高いって愛理的には思うなー。だって、基本的に男の子でそういう優しい人って、そうそういないでしょ? 大体下心とかあったり見せ掛けだけだったりするもん! でもシルスみたいに、知らない誰かの為にああいうこと、わざわざしてあげるって凄いことだよ! シルスの魅力が詰まっているって感じ! ね? ね? 愛理にシルスの事教えてよ? もしかすると愛理達、相性がいいかもしれないよ? きっと良い恋人……ううん、きっと夫婦になれるって思う! いや、なれるよ絶対!! そう、これは運命だと思うの、愛理とシルスは生まれた時から赤い糸で結ばれてたんだよ! シルスもそう思うでしょ? 思うよね? だってこんなにも愛理はシルスの事で頭がいっぱいで、心もシルスの事を考えるとドキドキが止まらないもん! もうこれは明らかだよね? シルスもそうでしょう? うんうん、やっぱり二人は愛し合う運命にあるんだよ! 嬉しいなぁ嬉しいなぁ。結婚式はどうしようか? 一生の思い出になるっていうんだし。盛大にしたいなぁ……和かな? 洋かな? どっちでもきっと、とてもとても素敵な思い出になるから、どちらでもいいかもしれないね。愛理的には洋だけど、シルスはどっちがいい? あーでも和装のシルスも素敵だろうなぁ……見たいなぁ、でもスーツもすっごい素敵ーキャー!!」

「…………」

 

 ──────ヤバい奴だ。

 

 シルスの警戒心は別ベクトルのモノに早変わりして、即刻この場から逃げるべきだと、本能が警鐘を鳴らしまくった。めくるめくラブロマンスな妄想に囚われている少女に気づかれない様に、ゆっくりと足早に教室を、後にしようとしたシルスは出入り口のドアに手を伸ばそうとした。

 

「──ッ!?」

「ねぇ? どうしてこここら出て行こうとするの? シルスは愛理の事どうでもいいの?」

 

 手を伸ばした先のドアに、禍々しい魔力を帯びた包丁が突き刺さっていた。投げてきたであろう愛理の方を向けば、彼女はいつ出したのか突き刺さっている包丁と、同様の物を手に握って此方に悍ましい程の殺意を漲らせていた。先程の妄想に耽っていた人物とは思えない程であった。

 

 シルスは、改めて眼前の少女の脅威を実感する。気を抜けば、包丁で串刺しにされるのは、自分であると容易に想像できる。

 

「そっかそうなんだ……シルスも愛理の事見捨てるんだ。うん、分かってる分かってたよ。愛理……独りぼっちだから……だから仕方ないよね? シルスが愛理の事捨てるなら、シルスを殺して、シルスを愛理のモノにするしかないよね? ね?」

「……………………勘弁してくれ」

 

 膨れ上がる殺意が、シルスの肌を突き刺す。カラカラに乾く喉から引き攣った息が漏れる。次の瞬間、シルスは教室のドアを蹴り破って外に飛び出した。廊下に出た時にはシルスがいた場所に、無数の包丁が突き立っていた。

 

「クソッ!! あいつ呪い師の類か!?」

「待ってよシルスー!!」

 

 狂気に染まった紅い双眸がシルスを捕らえる。三日月の如き笑みを浮かべた愛理が、手に持っている包丁でシルスを斬りつけてきた。反射的に腰に下げた警棒を、右手で引き抜き迫って来る凶器を受け止める。しかし、受け止めたシルスは上から押さえつけられる様に、力負けして膝をついてしまう。

 

「──ッ!? なん、つう力だ。お、押される」

「分かる? これが愛の重みだよ。愛理がシルスに対する愛の! 重み!!」

「うおおおおお!!」

 

 押し潰されそうになるのを、右側に流れる様に脱力してシルスは受け流した。受け流された愛理は、そのまま地面に包丁を突き刺すが、瞬時に別の包丁を右手に逆手で持って横に振るった。勿論、シルスも、次の一撃が来る事は予想してい為、右腕を使って身体を器用に捻ると、横の一閃を避ける。そして、回転の勢いを利用して愛理を横から蹴り飛ばした。

 

「きゃあ!?」

「──はぁ、はぁ!!」

 

 刹那の攻防にシルスは冷や汗を流す。蹴り飛ばした愛理の方を見れば、その場で蹲ってシルスを見つめている。

 

「蹴った……蹴った!! シルスが愛理を……酷い……酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い」

 

 壊れた機械の音声の様に繰り返し、『酷い酷い』とシルスを睨みつけていて、その目には大粒の涙が浮かんでいる。しかし、シルスは努めて冷静に愛理を見据える。相手のペースに飲まれる事は、命の奪い合いにおいて、致命的な事態に陥るのだ。それは、この世界に来て嫌と言うほど味わっている。故に、心を冷徹に保つ。相手は殺す気で来ているのだから。

 

「殺そうとして来る奴に同情してやるほど、聖人君子じゃないんだよオレは……」

「……シルスに教えてあげるよホントの愛を」

「結構だ」

 

 そう伝えると同時に、愛理に向けて拳銃を引き抜き早撃ちする。一瞬の内に、三発を撃ち込む。普段のシルスなら躊躇する場面であろうが、ハレルには術師に対して火器類で致命傷を与えるのは魔法少女でも無ければ難しいと言われている。寧ろ、無力化するには効率は良いかもしれないとも、その為、こうして遠慮なく引鉄が引けた。吸い込まれる様に弾丸が、愛理に飛んでいくが、愛理は手首のスナップを利かせて弾丸を、全て弾いて見せた上に、お返しとばかりに包丁を投げつけてきた。

 

「理不尽すぎるだろ!!」

「愛の前に不可能はないんだよシルス。シルスにも直ぐに分かるよ」

「こんなのわかってたまるか!!」

 

 廊下を疾走しながら、シルスはどうするか考える。相手は包丁を無尽蔵に生み出してくる上に、人外じみた怪力を持つ。正直、正面から立ち向かうのは悪手だ。シルスも此方に来て、ある程度修羅場をくぐり抜けた来たと言っても、それはハレルと一つになっていた為に対処できた。現状、シルス、単独でアレを倒すのはかなり困難であった。

 

「(だが、やるしかない)」

 

 牽制に鉛玉をお見舞いするが、難なく切り飛ばしていく愛理に戦慄を覚えつつ、シルスは廊下を突き進む。知らぬ間に空間が拡張されており、廊下以外にも他の教室や階段も構成されていた。愛理と会ってから空間が変化していることを考えれば、この空間は愛理の術式によって生まれているのだろう。

 

 シルスは前にアカネさんから教えてもらった結界の術式を思い出した。一定の空間を術者の有利になる様な効果を付与したり、内外に境界線作ることで他人からの認識を妨害するなど、応用力が豊富であり持って生まれれば、それだけで優遇される。

 

 この空間は、呪物である包丁を外の境界線として、内側であるこの空間に、対象を閉じ込める魔術だと仮定すれば、通常の結界術とは違い呪物による自己範囲内の拡張によるこの隔絶した強化は納得できる。

 

「(呪物による強化もあるだろうが、術者本人がこうまでして襲ってくるのはおかしい)」

 

 基本的に魔術には対価が必要である。触媒を使ったり生贄による儀式なんかも対価の一つと言えるだろう。この世界の科学技術による対価の変化は、魔術を容易に扱える様にしたが原則的なルールは何も変わっていない。結界術に置ける境界線を引く行為は、術者の行動の制限、詠唱や魔力を注ぐなど、様々な対価(デメリット)が発生する。

 

 人、一人を閉じ込める程の強力な結界、その境界線を引く為には、術者の愛理が魔術の行使に、リソースを多く割く必要がある。────つまり、この空間内には、愛理とは別に結界を維持する為の物が存在する。

 

「(アカネさんが結界術を行使する魔術師は、基本的に自分を境界線の核にする必要がある。そうすると術の行使に集中する必要があるから、あんな風には攻撃はして来ないはずだ。自分とは別に結界を維持する物が必ずある!)」

 

 しかし、問題がある。シルスは魔術に関しては素人だ。今まではハレルという魔術のスペシャリストが傍にいてくれたので、そっちは任せっきりだった。つまるところ、この結界を維持する物を見つける手段がない。

 

「あと1手足りない……俺がやれる事は」

 

 ハレルが外から結界を破壊するのを待つか。それとも、あの愛理を打ち負かして術を解いてもらうか。前者はいつまでか分からず耐久に負ければ死ぬ、後者は下手すると速攻で死ぬ可能性がある。グルグルと選択肢が頭の中で回るが、どちらも危険すぎる。

 

「考え事? 愛理のこと、ちゃんと見て欲しいなぁ!!」

「ぐっ!?」

 

 真横に接近して来た愛理が包丁を振るう。思考をしていた為、反応が遅れてしまったシルスの左腕が切り裂かれる。鮮血が舞い廊下を赤く染めた。

 

「シルスのせえだよ? 愛理はもっともっと痛かったんだよ!!」

「(駄目だ! このままじゃジリ貧だ!)」

 

 コアによる治癒を施しながらシルスは速度を上げていく。何か違和感のような物がないか、視線を動かし続け愛理の包丁の一閃を躱し、時には弾丸を浴びせる。しかし、ゆっくりとだが疲労が蓄積していく。少しずつ少しずつ、追い詰められていく。次には背中に包丁が突き立てられてもおかしくはない状況だった。

 

「どうする? ……何か、何かないのか?」

 

 廊下は無限にループしているのか、何度か廊下にさっきやられた血が廊下に広がっているのをみた。

 

「──!」

 

 それを確認した瞬間、シルスは“最初に入った教室”になだれ込んだ。そして、窓際を背にして後から入った愛理と対峙する。

 

「………………諦めたって事かなシルス?」

「そうだな……いい加減、こんな冷や汗の止まらない鬼ごっこには飽きたよ」

「じゃあ! 愛理のモノになってくれるってぇ……コト?」

「そんなのお断りだ!」

 

 シルスは近場の机の脚を掴むと、愛理に向けた投げつけた。

 

「わっ!?」

 

 手当たり次第に机や椅子を絶え間なく投げつける。愛理は突然の事に驚き、右往左往しつつ避けていく。

 

「なになに、なんなの?」

 

 自暴自棄になって暴れているのかと愛理は考えたが、直ぐに気がついた。自身の前に堆く積まれた机や椅子が愛理の前に壁として立ち塞がっていることに。そして、その奥で机の上に乗って、乗った机に向かって拳銃を構えたシルスの姿見えた。

 

「直しておいたのが功を奏したな。これだろう?この結界内の核はッ!!」

 

 シルスは最初に『造物』の術式を机に使用した事で、この結界内の核を探知できた。

 

「──ッ!? シルス待って! それは!!」

 

 シルスに向かって行こうにも壁となった机が邪魔であり、包丁を投げようにも積まれたそれらは、計算されたかのように包丁の軌道を遮っていた。

 

「とっておきの弾丸だ。たっぷりと味わうといいぞ」

 

 

 指先に摘んだ弾を弾倉に装填する。弾頭から薬莢までびっしりと文字が刻印された特別製であり、シルスの数少ない切り札の一つだ。コアがマギデータから術式を引き出す様に、何もデジタルだけが魔術の行使方法ではない。こうして、アナログで手ずから刻んだ物体に魔力を流し込むだけでも魔術は使えるのだ。

 

 指先から魔力を流し拳銃を通して、刻まれた術式を起動させる。刻まれた魔術、それは────『崩壊』。ナユタの神官にとって『造物』同様に基礎的な術式の一つ、ソレをシルスは机に向けて、叩き込んだ。

 

「駄目ェ──!!」

 

 愛理の叫びが響くが遅く。シルスが何らかの方法で気がついた様に弾丸を撃ち込んだ机は、最初にシルスが造物の力を使って直したものだ。

 

 陰湿な言葉と恨み辛みを溜め込んだ物体、言うならばアレも同様に呪物だといえる。『崩壊』の術式を刻んだ弾丸が机を分解していく。

 

 そして、分解された机を起点に穴が穿たれる。そして、飛び退いたシルスの前に青い閃光が煌めく。待っていましたとばかりに口角を上げたシルスの前に現れたのは、この世界に置いて最も信頼を置く相棒の姿だった。

 

「お待たせしました。──相棒(シルス)、状況を教えて下さい」

「待ってたぜ。──相棒(ハレル)、相手はたったの一人だ」

 

 二人は笑みを浮かべて再会を喜ぶ。飛び出していた光が二人を包み込む。そして、そこには二人で一人の────最強の魔法少女が現れる。

 

 

「さぁ、ここから反撃ですッ!!」

 

 

 

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