魔法少女規格交流編   作:三色団子13

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刃渡り2億センチ(前)


前日譚 その8

 

 

 

 愛理の結界が発動し再び暗闇が支配する空間内へと飲み込まれたシルス達。しかし、現在この空間内で動いている存在は、二人だけだった。この結界を創り出した怪異であり呪物である愛理、そして、その愛理と戦闘を繰り広げている呪物によって鬼と化した軍服の男だった。

 

 結界内に引き込む際に、位置をずらして拘束から抜け出した愛理は、崩れる身体を意に介さず、手にしている包丁を一振りだけ握り、軍服の男を斬りつけていた。

 

 しかし、何度も斬りつけているにも関わらず、男の身体にはほんの少し線が入るだけで、その肉、いや、皮膚すら断ち切るには至っていない。しかし、二人は拮抗している。軍服の男の方も強度の上がった身体機能を持ってして疾走する愛理を捉えきれないでいた為だ。

 

 結界内に校舎の壁を、再現して縦横無尽に動き駆けては、斬りつける。しかし、どちらも致命傷を負うことはない。

 

「やはり、素晴らしい性能ですな。数世紀前に生まれた呪物なだけはある。一体どれほどの生を贄にすれば得られるのか大変に興味深いところォ!!」

「……ッ!!」

 

 それならばと、男が腕を再び伸ばし、鞭のように撓らせた。一瞬にして加速した腕に愛理の身体がぶつかる。空気が破裂する様な音が響き、愛理の身体を引き裂く。怪異である彼女に血が流れることは無い。

 

 肉体を、ほぼ純粋な魔力でのみ構成する存在である愛理に血は通っていない。しかし、崩れた身体から魔力が漏れ出ていく。それは現状の愛理にとって致命的だ。

 

 なんせ、今の愛理は、大小に無数の穴が空いたジョウロだ。結界内にいることで、失われていく魔力をある程度補えるとは言え。穴は大きければ大きい程、数が多ければ多い程、失う量は増えて行く。

 

 補充される(魔力)が尽きれば愛理は肉体を維持する事が出来ずに砕けて死ぬだろう。そもそも、何をしなくても、既に漏れ出ているのだ。時間がかかればそれだけで力尽きるのだ。

 

 ジリ貧かつ、何時、切れるかもわからない時間制限までついた戦い。しかし、愛理は壁に打ち付けられ、追い打ちする様に迫って来た腕の猛攻を躱し、斬り伏せ、無理ならば身体を仰け反られせて、威力を殺してみせる。勝つことなど不可能、結果は火を見るより明らかだ。

 

 しかし、その瞳は今だに死んでなどいない。勿論、呪物である彼女に生の輝きなど自己矛盾も甚だしいが、そう表現するしかない。

 

 強化によって上がった視力で軍服の男は、愛理の余りにも眩しい光に、思考が鈍る。

 

 何故、折れないのか? そもそも、どうして人を呪う存在が、あの様な瞳を持って、自身と対峙しているのか? 疑問が思考を支配していく。────理解ができない。分からない。アレはなんだ? 本当に呪物なのか? 堂々巡りする思考は、男の攻撃の手を緩めていく。

 

「なになに、考え事ぉ?あ、もしかして愛理に見惚れちゃった?ごめんね?今はシルスの事しか考えられないんだぁ」

「シルス?……ああ、あの神官の」

 

 いつの間にか腕の波状攻撃から抜け出した愛理が、軍服の男の背後に回っていた。しかし、お互いに攻撃はしない。男も緩慢な動きを見せている。

 

 やる気を失っているのか愛理の言葉に耳を傾けた。

 

「貴様も、あの神官殿も、随分と癪に障る。……貴様、あの様な耳心地の良いだけの言葉で改心でもしたとでも? ハッ!それならば、どうやら頭に蛆が湧いている様だ。なんとも馬鹿馬鹿しい。…………貴様は、あの様な戯言に価値があるとでも?人と化け物が手を取って生きて行けるとでも?」

「……そう、だね。うん、そのとおりだね」

 

 納得する様に、それを、噛み締める様に、愛理は頷く。

 

 軍服の男の言うことは正しい。自分と彼とでは共存などできるはずはない。幾ら愛理が求めようと、幾らシルスが手を伸ばそうと、きっといつかは破綻する。

 

 周りが、世界が、きっと終わらせるのだ。そうやって嘲笑っていくのだ。惨めに這いつくばる様を見て冷酷に嗤うのだ。そう極々当たり前で、うんざりするほどに。そう、この世界は優しくない。

 

 ────それでも。

 

「──でもね。貴方に価値はなくても、愛理にはあるんだよ。誰にも必要とされなかった……居るだけで誰かを傷つけてしまう。でも、初めてだった……あんなふうに言われたの、こんな愛理(ばけもの)()()()()()()()()()をッ──だから、貴方は此処で愛理と死ぬのッッ!!」

「気狂いめッ!!」

 

 瞬間、愛理の身体から魔力が爆発的に溢れ出た。軍服の男は瞬時に理解する。愛理が死ぬ覚悟で来る事を、あの溢れ出る魔力から、この空間内の魔力を急速に無理矢理、自身に注いでいるのだ。満たせないのなら、常に溢れさせればいい。中身が満たされていれば問題ない。例え、注ぐ器が砕かれようとも。

 

 抑えられていた力も元に、いや、それ以上の出力が可能だろう。なんせ、崩れて広がり続ける穴を気にしないでいいのだから、自身の命を掛けた捨て身の行動なのだ。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!!」

「なんだーーーーオオオオオオッ!?」

 

 愛理の居た地面が爆ぜる。一歩、走り出した瞬間には軍服の男に突っ込み諸共に、吹き飛ばしたのだ。突き出た校舎の壁を数回突き抜けていく。しかし、何時までもされるままでいる様な相手ではない。

 

「ふざけるなよッ!!」

「離さないッ!!」

 

 組み付いている愛理の身体を、無理矢理に引き剥がして勢いを殺さずに投げた。しかし、愛理はそれでも軍服の男の腕を手で掴んだまま離さずに、なんと更に勢いを利用して軍服の男を背負い投げてしまった。

 

「グオッ!?」

「アアアアアッ!!」

 

 倒れた軍服の男の身体目掛けて、包丁を振り下ろす。それを寸前で掴み止めた。しかし、信じられない力が掛かり、愛理の手が軍服の男の心臓へと徐々に落ちていく。

 

「(何という力だ!!鬼の力を得た今の私の力を上回るとはっ!!)──ッガアアアッ!!!!」

「ア゛ア゛アアアッッ!!!!」

 

 愛理は全ての力を振り絞る。手は余りにも力を込めている為か真っ白になり、骨が悲鳴を上げる様に軋みあげていた。身体の崩壊も、腕を下ろしていく間に更に進み、崩れていこうとする。

 

 漏れ出る魔力が、身体を内側から打ち破るようにして(魔力)の柱を立てていく。口や目からもまるで血のように魔力が零れていく。

 

「貴様ッ!!本当に死ぬ気かァ!!」

「あはは、言ったでしょ? 貴方は愛理と死ぬんだよって…」

 

 柱が愛理の身体を飲み込んでいく。心臓に包丁の尖端が刺さる。軍服の男が叫ぶ。しかし、愛理には何も聞こえなくなっていた。ただこのまま死ぬ。それだけが分かった。

 

 

 

 

「……ああ、最期はシルスの傍が……良かったなぁ」

 

 

 

 それだけを零し、愛理の視界は闇へと溶けた。

 

 

 

────────

──────

────

──

 

 

 

 

 

 

 

「……くそ、開かない」

 

 シルスは独りで結界内に居た。飲み込まれる前、拘束されていたが抜け出していた上に、最初に結界内に入った時に見つけた校舎内の教室に居た。

 

 教室からは、何故か出ることが出来ず、武装を一通り試してみたが傷つくものの、直ぐに元に戻ってしまい。完全に閉じ込められた状態だった。前回の様に結界を打ち破るような核は、存在しない。正しく詰んでいる状況だった。

 

 疲れた身体を、其処らに転がる椅子を立てて座る。

 

「きっと愛理はあの男と戦っている」

 

 力尽くではどうしようもない現状に、シルスは焦る。万全の状態の愛理だったならば、まだ安心出来ただろうが、今の彼女は満身創痍、このままではやられてしまう。

 

 しかし、今の自分ではどうしようもない。それがずっと頭を延々と悩ませていた。

 

 打開策は無し。指を加えて待つしかない。

 

「待つだとかクソ喰らえだ!!」

 

 怒りにも似た感情が湧き出てきたシルスが、ドアに突っ込む。身体を叩きつける様に突進していくが、ドアは壊れることが無い。無意味と理解していても、じっとしているなどと言う選択肢はない。

 

「愛理!!聞こえてるなら此処を開けてくれ!!独りで戦うなんて止めてくれ!!」

 

 最後には拳を叩きつけた。

 

 ──何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 

 そうやって血が滲み、骨が皮膚を突き破ってもシルスは止める事をしない。自身の力の無さ。その無力感に支配されて拳を止めた。そうして、膝をついた。

 

「……どうして、どうしてだよ。何で俺はこんなにも弱いんだ。何で誰かを守ることすら出来ないんだッ!!」

 

 力なく拳がドアを叩く。それが切っ掛けなのかは分からないが、アレほどびくともしなかったドアは、教室の外側に向かって倒れた。拍子抜けする程、アッサリとシルスは外に出れた。

 

「……なんなんだよ……いや、ソレよりも愛理の所に!!」

 

 駆け出そうとしたシルスだったが足が止まる。というよりも止められてしまったのだ。踏み出そうとした足はなんと地面に埋もれる様に沈み込んでいたからだ。驚愕に目を見開くシルスだったが、抵抗をする前に一気に、その体が暗闇の中に吸い込まれていった。

 

 

 

 

「…………今度はどこだよ」

 

 一瞬、意識が飛んだが目を開けば、今度は教室のドアの前に居た。シルスは、開けようかと逡巡したが躊躇った。教室のドア窓は黒ではなく、紅く染め上げられているからだ。その為、先程のドアと違って教室の中の様子は伺いしれない。

 

「……どうなってるんだ」

 

 戸惑っていても仕方ないと、意を決してドアに手を掛けた。

 

「──開けてはいけません」

「──ッ!?」

 

 突然の声を掛けられて身体が硬直する。

 

「開けてはいけません」

「……ハレル?」

 

 しかし、その声はハレルに似ている。ハッキリと分かる前に、声は、再度シルスにまるで警告する様に言った。

 

「今直ぐに、そこから離れるんです」

「この先に何かあるのか?」

「……開けてはいけません」

「……悪いが俺は行くよ」

「………………」

 

 しかし、シルスは再度、扉に手を掛けて扉を横に押した。警告を受けてから感じている違和感と酷い頭痛がした。それでも、今のシルスに、この場で留まるという選択肢はないのだ。

 

 開け放たれた扉の向こうから極光が射し込む。堪らずに顔を腕で覆う。眩い光は魔力がエネルギーに変換されている現象だ。何度も見た光景だったが、これ程までの規模はシルスの記憶には無かった。

 

 ならば、それを行っているのは誰か? そこまで考えてから、眼前に広がる惨状に、シルスは考える前に走り出した。

 

「愛理ーーッ!!」

 

 そこには軍服の男に、包丁を突き立てる愛理の姿があった。内側から溢れる光が、愛理を砕いて溶かす。微かに愛理の身体が、シルスの声に反応を示す様に動いた。

 

 しかし、消えていく。致命の一撃を加えようとしたが、その前に両腕が消える。足が、胴が、砕けていった。

 

 そして、最期に頭が、自らに注ぎ込んだエネルギーに耐えきれずに、消えていく愛理がシルスの方を見た。

 

 

 

 ──その顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 





区切りが悪くなりそうなので一旦ここまで。
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