竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

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記録① 違う世界、同じ空

空を飛びたい───と、

 

少年の時に漠然と抱いた思いは、

 

大人になれば絶対に叶うと思っていた。

 

「俺は何やってんだろうな」

 

もじゃもじゃの俺の頭をかく。

気持ちにそぐわず髪の毛は元気だ。

 

いつからだろうか、

子供の頃見上げていた空は、

大人になる頃には見上げるのが辛くなっていた。

 

夢に見た操縦士の試験は落ち、

航空自衛隊の訓練は難しくて諦めた。

そして今ではホームセンターの仕事だ。

 

この仕事は嫌いではない。

 

毎日来る自転車の修理、

頭がイカれたお客の相手、

話し相手欲しさでくる爺との雑談、

 

思った以上に、この仕事は嫌いじゃない。

 

だが、ときたま思う。

 

(俺はホントにコレで良かったのかと)

 

◇◆◇

 

仕事からの帰り道、

夕日に照らされる河川敷を

いつも通りのチャリで漕いでいる。

 

河には、夕日が映り、鴨が呑気に泳いでいる。

 

その様子に、ふとチャリを止めてしまう。

 

「お前らは良いなぁ。呑気で」

 

ただ真っすぐに泳ぐ鴨は、

おじさんの心にはかなり刺さる

 

「俺もお前らのようになりた─────ッ」

 

突き抜ける音。

 

夕日が揺れ、

鴨たちは飛び立つ。

上に描くは飛行機雲。

 

「そういやここ飛行場が近かったけ......」

 

そんなことを言いつつ、

久しぶりに見上げた空は、

思った以上に綺麗だった。

 

俺は首を左右に回す。

 

「久しぶりに驚いて首が痛てェや────帰るか」

 

そう言葉をこぼし、

沈んだ空に別れを告げ、

俺は自転車にまたがる。

 

ペダルをひと漕ぎ、

 

ふた漕ぎ目を漕ごうとして、

 

足元の小石に気が付かなかったのは、きっと上を見上げすぎたからだろう。

 

その結果として、

自転車は小石に乗り上げ、

あらぬ方向にすすんでいく。

 

河川敷を、

転がるように下り、

目下、河の目の前である。

 

◇◆◇

 

冷たッ。

視界が黒から、

真っ白な色になる。

 

「───ほげ?」

 

頭の先から、

足の先までがびしょ濡れだ。

なんらコンクリートの地面まで水で濡れている。

 

(俺は水をかけられたのか?)

 

あーあー、

記憶が混乱する。

 

髪をかくと手に巻き付くは、白髪。

動かした手は30歳にしては、小柄。

濡れた地面にうつる素顔は、少女。

 

(やっと思い出してきた)

 

アレは、10年前の夢だ。

チビッコになるまえの俺の記憶。

まさか川に落ちて子供になるとは神も予想できまい。

 

「ようやく起きたかい、レコ助」

 

俺をレコ助と呼ぶは、

白のエプロンを身に着けた、

清掃のおばちゃんである。

 

「アンタぐらいだよ、呑気に滑走路で寝る馬鹿は」

「いいだろ、どうせ使ってないし」

 

俺が寝ていたのは、基地の滑走路。

日差しに照らされコンクリートは鈍く、

白いマーキングは今日も埃を被っている。

 

(ちょっと汚いけど、日当たりと風通しが最高なんだよなぁ)

 

俺は気持ちよくあくびをかます。

 

「あくびをする暇があるなら兵舎裏のゴミを片付けな」

「兵舎裏のゴミ?」

 

今日の朝の清掃は終えたはずだが?

 

「アンタが作った遊び場だよ」

「ゴミとは失礼な、アレは立派な射撃場で」

「その水鉄砲で遊んでいるガキがいうじゃない」

 

おばちゃんの視線は

横に転がるは高圧洗浄機。

コイツが今の俺の相棒である。

 

「午後掃除までにどうにかしな」

「へいへい」

 

レコ助こと俺。

別名、10歳の白髪少女、

現在の職分は───軍事基地の清掃ボランティアである。

 

◇◆◇

 

島流し、

そう皆に揶揄されるこの基地の名は【隠岐基地】

本土から北に80km離れた場所に存在する自然が豊かな基地だ。

 

万年人手不足に悩まされる隠岐基地は、

定期的に外部ボランティアを募集する。

 

軍隊の基地に民間人を入れる、

軍の守秘義務の点からすればどうなんだと思うが、

彼らからすれば出れるもんなら出て見ろという事らしい。

 

生まれ育った孤児院が、

経営難という訳ではないが、

社会福祉の一環として俺を島流しにして──早2ヵ月

 

(ようやく生活にも慣れてきたってもんだ)

 

「いや、まだ5時起きはツラいな」

「ぶつぶつ言う暇あるなら手を動かしな、手をッ」

 

現在、男子トイレの清掃中である。

 

背中に背負うタンクには水がずっしりと積まれており少女の体には重たい。

 

ブラシを片隅に置き、洗剤を流すために、

 

俺は高圧洗浄機を使って水を出す。

おばちゃんは手から水を出す。

 

ブシュ、ブシュと音を出す俺に対して、

水を出し続けるおばちゃん。

 

気づけば洗剤の泡は俺の周りだけになっていた。

 

「おそいよ、おそいよ」

「無茶言うなよ、おばちゃん」

「なんだい、何か不満かい?」

 

おばちゃんは手から出していた水を止める。

 

「やっぱり、それズルだろ」

「魔法が使えないからとかいう泣き言は聞きたくないよ」

「その泣き言は現代において致命傷だと思うんだけどなぁ」

 

俺の泣き言をしり目に、

おばちゃんは再び手から水を出し、

トイレ掃除を進めていく。

 

この世界は前世といくつか違う点がある。

 

車が右側通行だったり、

いまだに携帯電話が無かったり、

細かい違いを探せばいくらでありそうだが、

 

何よりも大きな違いは───魔法があること。

 

使えるのは国民の2割。

そして俺は残りの8割に属する方だ。

 

(検査で魔力ゼロと言われたときには泣きそうだったがなぁ)

 

魔力ゼロの人間が生まれる確率は1割を下回るというのが検査官の談だ。

 

「そっちの方でレアケースを引くなよ、馬鹿が」

「で、そのバカの仕事は終わったのかい?」

「あいあい、ちょうど終わったよ」

 

トイレの床はピッカピカである。

 

隅の泡一つさえ高圧洗浄機で撃ち落としておいた。

 

「レコ助、アンタ手際は良いのよねェ」

「なんだ、その詰まるところがある発言は」

「いいからさっさと次行くって話よ、レコ助」

 

おばちゃんはさっさと動く。

俺も清掃道具を片付け後を追う。

次の清掃場所は滑走路の向こう側だ。

 

(あいかわらずいい天気だな)

 

白一つない青空。

太陽は陽気に照っている。

そんな火照った滑走路に大きな影。

 

この世界にはもう1つ大きな違いがある。

 

それは、

鉄の塊が大空を飛んでいないこと。

この世界のライト兄弟は飛行機を作ることは叶わなかった。

 

理由は様々あるが、大半が魔力のせいである。

 

魔力による燃焼効率の低下、

生態系の異常による空路の危険性。

そして飛行機に変わるモノが存在するという事実。

 

こと東歴2000年代、大空を制するは人ではない。

 

「今日も元気に飛んでんなぁ」

 

大翼をはためかせ、空を舞う、竜こそが支配者である。

 

人は竜に乗れるのか? 

 

と、聞かれれば答えは──否。

 

竜は自由だ。

誰にも縛られず、

知恵をもって思慮深く生きる。

 

故に人々は空を駆ける為、竜の知恵を借り、鳥に乗る。

 

隠岐基地に存在する施設は5つ、

隊舎、指揮所、訓練施設、医療施設、

 

そして専用の格納庫──【翼納庫】である。

 

竜から預かった翼を収める場所と書いて、翼納庫である。

 

滑走路向こうに存在する翼納庫に、

俺はゆっくりと足を進めるのであった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
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