竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

10 / 44
記録⑩ 代償のある飛行

【隠岐基地・翼納庫】

 

天井には真新しい部分、外壁は一部が布で修復され、コンクリートに残った足跡は少ない。

応急的にだが本来の形を取り戻しつつある翼納庫。

 

普通なら作業員の作業音が聞こえるのだが、

 

今日聞こえたのは、歓声であった。

 

首をかしげる俺、特に変わらないトリノ大尉。

 

「いや、何事だよ」

「島の近くでドンパチやってりゃ、嫌でも気づく」

 

聞いた話だと、敵は基地からでも目視できる距離だったらしい。

 

基地の大鳥は出払っており、

残された隊員達は高射砲に祈るか、

死なないようにお教を唱えるかの二択。

 

そんな中、俺達の活躍はとても助かったという話。

 

「やるじゃねーか」

「いや、俺は信じてたぜ」

「俺だって、エース様をだな」

 

因みに上記の3人は、昨日までトリノ大尉の悪口を言っていた。

 

(助かった途端にコレかよ、現金な奴らだ)

 

まさに、掌平返しである。

 

「でも、嬢ちゃんもよくやるぜ」

「大鳥の診断の為に乗ってたんだろ」

「兵士じゃないのにあの機動によく耐えれたな」

 

完全にオマケだが、こうして褒められるのも悪くはない。

 

歓声の中にゲロの匂いが、とか聞こえるのは気のせいだろう。

 

(まさか、動きに耐えれず吐いたとはいえねぇ)

 

俺が墓まで持っていく決心をして、

 

周囲はワイワイと賑わっている中、

 

水を差す言葉が一つ。

 

「今度の道具は民間人ですか、大尉どの」

 

細目少尉の発言だ。

 

「おい、細目ッ」

「なんや、パーマ」

「言い過ぎだ」

「事実をいっとるさかい」

 

「不調を消すためか知らんけどな。

あんたほどの男が、民間人使って、

2人乗りとかいうセコイ手使って勝利?」

 

空での2人乗りは一般的ではない。

 

魔力の暴発が起きる可能性がある以上、その用途は緊急時、非常時に限られる。

 

例としては2つ、

1つ目は大鳥の検診。

2つ目は──救急活動。

 

「もう少しやり方ってもんがあるやろ」

 

細目少尉の表情は苦悶だ。

 

「なんか言ったらどうなんや、大尉どの」

 

確かに、俺達は後ろめたい事はしている。

 

しかし、行った戦闘に敵の躊躇は存在しなかった。

 

あるのは確実に殺すという殺意。

地上から見えた軌道は複雑で、

聞いた話だって激戦なハズだ。

 

(それぐらい分かるだろ.....ッ)

 

否、

 

細目少尉はそれを分かっている。

分かっている上で敢えて言っている。

トリノ大尉に『空を諦めさす』ために。

 

『(もう無茶なことせずに、休んでください)』

 

そう一言、空の生き方しか知らない男に言えたらどれだけ楽か。

 

この時の、少尉の苦悶が何よりも“それ”を物語っている。

 

だが、トリノ大尉の回答は

 

「......そうだ」

「俺はワザと2人乗りをした」

「もちろん、敵が躊躇することを念頭に入れてだ」

 

泥を被ってでも飛び続ける、それが彼の回答だった。

 

周囲がざわつく。

 

「聞きたいことは、それだけか」

「それで、ええんかッ......あんたはッ」

「ああ」

 

トリノ大尉は1人去る。

 

「おっさんッ」

「追うな、レコ助」

「でも、オル爺ッ」

「今追うとあやつの苦労が無駄になる」

 

トリノ・アグレッサー大尉。

先の戦争で。大鳥を5機以上撃墜し『エース』の名を持つ男。

 

だが、その名を得たとき、12機の編隊は彼1機しか残っていなかった。

 

静寂な翼納庫で、誰かが呟いた言葉は、やけに耳に残った。

 

「皆殺しのトリノ」

 

アメリアの空には味方を使い捨て、自分だけが生き残る疫病神がいる。

 

彼の去った基地には、そんな噂だけが残った。

 

◇◆◇

【隠岐基地・臨時食事場所】

 

かつて整備された運送路だったモノに雨が降り付け、瓦礫が詰まった排水溝には水が溜まる。外部に設置されたテント内部には雨水が浸水し、敷物には巨大な染みができていた。

 

トリノ大尉はコップに手をかける。

 

「なんで、ここにきた」

「オル爺にここにいるって聞いてな」

 

机には汁だけが残るランチプレートと、乱雑に置かれたドッグタグ。

 

「こんなところで食っても不味くなるだけだぞ」

「生憎、どこで食べても冷めてる仕様でな」

 

俺は弁当を取り出す。

 

弁当は基地の料理で構成されているが、兵士の食事と分けるため朝に作り置きされている。

 

そのため中身は3食ほぼ変わらず、夜には冷たい飯が食えるクソ仕様だ。

 

「もぐもぐ」

 

フォークを出して、おっさんを見ながら食べていると、

 

中身がないコップを置いた、トリノ大尉が口を開く。

 

「レコ、あのだ」

「なんだ、おっさん」

 

後悔、コップの底に映った顔は暗い。

 

「──降りても構わんぞ」

 

言葉が関を切ったのか、会話が始まる。

 

「今回実感しただろ、空は危険だ」

「まあ、確かに死にかけたしな」

「そんな場所に行かせるとは、俺もどうかしてたかもしれん」

 

目線をずらすトリノ大尉。

 

俺は関係なくもぐもぐする。

 

「で、俺がいなくなって、おっさんはどうすんだ」

「俺は......勝手に飛ぶ」

「一人で戦えんのかよ」

「それは......」

 

沈黙、つまりそういうことだ。

 

(なら、答えはでてんじゃねーか、アホおっさんが)

 

俺の目を受けてか、

言葉を濁すためか、

ドンッと机が揺れる。

 

「いいか、俺はお前を“道具”として扱っちまう。

今回の俺はおもちゃを手に入れてはしゃぎまわってたガキだ。

指摘されるまで、そんなことにすら気づかず、俺は戦っていた......」

 

おっさんは縋るように、祈るように、願うがごとく呟く。

 

「だから、お前も......」

「ええいッ、さっきからジメジメじめじめと──」

 

フォークを止め、細腕に力を込める。

 

「面倒だッ」

 

机を無理やりひっくり返す。

 

半回転、乗ってたモノも同じく回る。

 

弁当箱も、コップも、ドックタグも、全てが全てひっくり返る。

 

「自分で考えろって言ったのはおっさんだ。

あんたが道具扱いするとかはどうでもいい。

俺は、俺の意思で、俺の為に、おっさんの背中に乗る」

 

机に“ガンッ”と片足かけ、

からだは正面腕組キメ顔で、

ふりかぶった指は大きく振り下ろす。

 

指先は、もちろん、尻もちついてるおっさんだ。

 

「だから、さっさと引退しやがれ、老害野郎ッ」

 

眼をぱちぱち、

 

唖然を少々、そんな顔のおっさん。

 

3秒ほどの沈黙の後、声は大きく響く。

 

「......っふっふふふ、ははははっははッ」

「なーにが、おかしい」

「いや“ここまで”とは見切れなくてだな」

 

無骨な手で髪をわしゃわしゃされる。

 

立ち上がらずに撫でられるのは腹が立つ。

なんなら、白髪が鼻にかかってくすぐったい。

 

だが、“そう”言われると動けなくなる。

 

「俺の技を全て盗むと来たか、上等だ。

なら、先に引退する覚悟をしとくんだな。

明日から擦り切れるまで使ってやるから覚悟しろ。

 

──せいぜい、頑張れ初心者(ルーキー)

 

言ったおっさんは、満足そうな笑みを浮かべていた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
土日は投稿しないといったな、アレは嘘だ(金曜日分です)。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。