竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録 作:上殻 点景
【周波数77.7MHz】
『三度の飯より放送が命』
『1分間の放送に命を懸けろ』
『ジャスト、ユワタイムのお時間だァ』
『今日も刹那的にラジオを飛ばしていくよー』
『開戦から、はや2週間』
『食べ物は、飲み物は、明日の暮らしはッ』
『なんて危惧してたあの日も、今はどこかに』
『毎日、大鳥は飛んでるけど』
『結局、今日も仕事はなくならない』
『いやー、ありがたくはあるんだけどもね』
『こう、思ってたのとなんか違うというか』
『頑張ってるのに給料は上がらないというか』
『ねぇ、いつになったらこの仕事辞めれるんですかッ』
『給料を上げ──えっ、もう時間ッ』
『MCは、流星のラジオガール、シル──プチッ』
病室のラジオはお昼のニュースに切り替わる。
陽光が照らすは、男性。
「
ベットに横たわる男性だ。
右足は器具で吊り下げられ、
右手も首の下で固定されている。
現在、撃墜されてから5日目が経過している。
海で漂ってるところを漁船に拾われ、早4日。
来ている服はソブエト軍服ではなく、病院服だ。
日課としては、窓かドアの観察といったところか。
(まあ、外を眺めている方が気持ち的には楽だが)
だが、今回は珍しく、視線はドアに向かう。
「
「
白髭の爺
帽子、サングラス、アロハシャツ。
本国では見ない奇抜な格好をした爺だ。
「随分、癖がつよいソブエト語だな」
「そっちこそ、アメリア語喋れたのか、はっはっは」
左手にはペンを握っておく。
(厄介な拘束具をつけられちまった)
魔法は使えんが、無いよりはマシか。
ボールペンの先をゆっくり出す。
「安心しろ、ここは辺境の島の病院だ」
「隠岐という島か」
「よく知ってるな」
「爆撃対象だったものでな」
それもそうか、と唸る爺。
嘘くさい動き。
似たような狸を多くも見てきたが、特にだ。
だが狸なら密偵というよりは参謀向きか。
(殺れ──いや、今更だな)
敵基地で捕虜になってる時点で詰んでいる。
殺すのであれば殺されているし、
尋問されなかっただけ温情か。
「どうした?」
「いや、傷がな」
大げさに右腕を庇っておく。
他の奴らが見たら大層笑うだろ......な。
(寂しさを紛らわす為に、雑談も悪くないか)
そう思うと自然と口は開く。
「いるのは俺だけか」
「そうだ、記念すべき捕虜一号目だはっはは」
爺は懐をガサゴソ漁る。
3度のガラクタを経て、ようやくお目当ての物を見つけられたようだ。
「コイツは?」
「見舞い品だ」
差し出されるは、瓶に入った緑の液体。
ラベル名は『静岡オチャコーラ』
「飲むか?」
「体に悪そうだが」
「俺の健康の秘訣だぜ」
さて、押し付けられたモノをどうするか。
(まあ飲んで死ぬなら仕方ない)
仕方なしに瓶のフタを開ける。
ぷしゅッといい音。
香るはお茶。
刺激するは炭酸。
口に拡がるは未知の味。
「これは......」
意外と悪くない味であった。
◇◆◇
奇妙なコーラのおかげか、
白髭爺の口が上手いのか、
気づけば日は傾いていた。
「自分が若いころ」
「ワシの前でそれを言うか」
「なら自分がイケメンだったころだ」
「今の方がいいツラしてるかもしれんぞ」
なら仕方ない、と男性は言葉を変える。
「なら今から15年前。
1つの大きな国家間戦争があった。
空の戦いが今よりも野蛮だったころだ」
思い出すように男性は語る。
「大鳥の性能は同じ。だが敵のほうが、兵士の質がよかった」
「当然だ、向こうとこちらでは命に対する考え方が違う」
「だが上はそれを認めたくなかったらしくてな」
体がズキンッと痛む。
いや傷んでいるのはもっと奥の方か。
「それを覆すために組まれた作戦は今でも覚えてる」
「───飛行士を撃ち殺す作戦」
脱出した飛行士は殺さない。
そんな暗黙の了解を破る作戦であった。
「最初に狙われたのは当時戦果を挙げていた部隊の一つ」
「理由は詳しくは知らされていない」
「雲に隠れての奇襲は予想以上にうまくいった」
「一機、いやまた一人と殺していく」
「そして最後の一機。
いや、殺せなかった一機。
手負いの狼ほど怖いとはよく言ったもんだ」
「だが、あの時の怖さと言えば───」
語り終えた男性は、静かに口を閉じる。
日は既に沈んでいた。
「長い昔話だったな」
「久しぶりに思い出してな」
「そいつは落とされた感想か?」
「かも......しれんな」
手の包帯を眺める。
久しくこんなケガはしていない。
最後に大ケガをしたのは戦争のときか。
(いや、初心者の時に墜落したとき───)
思考は爺の質問で中断される。
本当に、よく口が回る爺だ。
「少女の方の感想はあるか」
「少女?」
「ほら、後ろに生意気そうな白髪少女が乗ってたじゃろ」
「いや記憶にないが」
そんなことはないだろ、思い出せ、と急かされる。
と、言われても落とされる直前の事だ。
大鳥が急旋回するより少し前
「あの瞬間、俺が見たのは」
風でたなびく似合わぬ服、
表情が一切変わらない顔、
こちらを射抜くような目、
なによりも異常なのは、その眼は“死”を知っていた。
人殺しだからこそ判るバケモノの瞳。
あれは少女ではない。
「───魔女だ」
爺の白髭は上に大きくうごく。
「ッ......そうかそうかっはははッ」
「随分うれしそうだな」
「子供の成長を喜ばん爺はおらんじゃろ」
「悪質な爺といっておこう」
「そいつは誉め言葉じゃな」
ドアは閉まる。
閉まった後も病室には笑い声が届くのであった。
◇◆◇
【情報部保管庫:第一種指定】
[ソブエト語の為、アメリア語への翻訳有り]
「最後に質問だ」
「何が聞きたい」
「なぜソブエトは大規模な先制攻撃をしなかった?」
「先制攻撃は開戦国の利点だ。
なぜ爆撃程度の攻撃しか仕掛けなかった。
今更、騎士道精神に溢れた訳でもあるまい」
「答えは簡単だ──できなかった、からだ」
「畑で兵士が取れるような国だぞ」
「数年前からだ。
新入りが引き抜かれ、シフトにも困り、
最後まで残ったのは俺のような古参ばかりだ」
「熟練者を残したってのか......解せんな」
「一介の兵士に意図は分からん」
「──だが気をつけろ、この戦争何か起こるぞ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今日は休憩日だから、外伝みたいなお話(基本は土日に休みたい)。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
ちなみに誤字報告があったので喜びました。