竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

11 / 44
記録⑪ 落ちた飛行士の会話

【周波数77.7MHz】

 

『三度の飯より放送が命』

『1分間の放送に命を懸けろ』

『ジャスト、ユワタイムのお時間だァ』

 

『今日も刹那的にラジオを飛ばしていくよー』

 

『開戦から、はや2週間』

『食べ物は、飲み物は、明日の暮らしはッ』

『なんて危惧してたあの日も、今はどこかに』

 

『毎日、大鳥は飛んでるけど』

『結局、今日も仕事はなくならない』

『いやー、ありがたくはあるんだけどもね』

 

『こう、思ってたのとなんか違うというか』

『頑張ってるのに給料は上がらないというか』

『ねぇ、いつになったらこの仕事辞めれるんですかッ』

 

『給料を上げ──えっ、もう時間ッ』

 

『MCは、流星のラジオガール、シル──プチッ』

 

病室のラジオはお昼のニュースに切り替わる。

 

陽光が照らすは、男性。

 

Eto to, yto hpabntcr nhoenuam(こんなものをアメリア人は好むのか)?」

 

ベットに横たわる男性だ。

右足は器具で吊り下げられ、

右手も首の下で固定されている。

 

現在、撃墜されてから5日目が経過している。

海で漂ってるところを漁船に拾われ、早4日。

来ている服はソブエト軍服ではなく、病院服だ。

 

日課としては、窓かドアの観察といったところか。

 

(まあ、外を眺めている方が気持ち的には楽だが)

 

だが、今回は珍しく、視線はドアに向かう。

 

Ewe ooctatoyho paho, ytoob meocectpb ycnenncobepwyb ooxoo(看護師の巡回には早い時間だが)

 

Mhe npocto nhtepcho, yto wa napehb ha etokynnncr (どんな奴が落ちてきたか気になってな)

 

白髭の爺

帽子、サングラス、アロハシャツ。

本国では見ない奇抜な格好をした爺だ。

 

「随分、癖がつよいソブエト語だな」

「そっちこそ、アメリア語喋れたのか、はっはっは」

 

左手にはペンを握っておく。

 

(厄介な拘束具をつけられちまった)

 

魔法は使えんが、無いよりはマシか。

 

ボールペンの先をゆっくり出す。

 

「安心しろ、ここは辺境の島の病院だ」

「隠岐という島か」

「よく知ってるな」

「爆撃対象だったものでな」

 

それもそうか、と唸る爺。

 

嘘くさい動き。

似たような狸を多くも見てきたが、特にだ。

だが狸なら密偵というよりは参謀向きか。

 

(殺れ──いや、今更だな)

 

敵基地で捕虜になってる時点で詰んでいる。

殺すのであれば殺されているし、

尋問されなかっただけ温情か。

 

「どうした?」

「いや、傷がな」

 

大げさに右腕を庇っておく。

 

他の奴らが見たら大層笑うだろ......な。

 

(寂しさを紛らわす為に、雑談も悪くないか)

 

そう思うと自然と口は開く。

 

「いるのは俺だけか」

「そうだ、記念すべき捕虜一号目だはっはは」

 

爺は懐をガサゴソ漁る。

 

3度のガラクタを経て、ようやくお目当ての物を見つけられたようだ。

 

「コイツは?」

「見舞い品だ」

 

差し出されるは、瓶に入った緑の液体。

 

ラベル名は『静岡オチャコーラ』

 

「飲むか?」

「体に悪そうだが」

「俺の健康の秘訣だぜ」

 

さて、押し付けられたモノをどうするか。

 

(まあ飲んで死ぬなら仕方ない)

 

仕方なしに瓶のフタを開ける。

 

ぷしゅッといい音。

 

香るはお茶。

刺激するは炭酸。

口に拡がるは未知の味。

 

「これは......」

 

意外と悪くない味であった。

 

◇◆◇

 

奇妙なコーラのおかげか、

白髭爺の口が上手いのか、

気づけば日は傾いていた。

 

「自分が若いころ」

「ワシの前でそれを言うか」

 

「なら自分がイケメンだったころだ」

「今の方がいいツラしてるかもしれんぞ」

 

なら仕方ない、と男性は言葉を変える。

 

「なら今から15年前。

1つの大きな国家間戦争があった。

空の戦いが今よりも野蛮だったころだ」

 

思い出すように男性は語る。

 

「大鳥の性能は同じ。だが敵のほうが、兵士の質がよかった」

「当然だ、向こうとこちらでは命に対する考え方が違う」

「だが上はそれを認めたくなかったらしくてな」

 

体がズキンッと痛む。

 

いや傷んでいるのはもっと奥の方か。

 

「それを覆すために組まれた作戦は今でも覚えてる」

 

「───飛行士を撃ち殺す作戦」

 

脱出した飛行士は殺さない。

 

そんな暗黙の了解を破る作戦であった。

 

「最初に狙われたのは当時戦果を挙げていた部隊の一つ」

 

「理由は詳しくは知らされていない」

 

「雲に隠れての奇襲は予想以上にうまくいった」

 

「一機、いやまた一人と殺していく」

 

「そして最後の一機。

いや、殺せなかった一機。

手負いの狼ほど怖いとはよく言ったもんだ」

 

「だが、あの時の怖さと言えば───」

 

語り終えた男性は、静かに口を閉じる。

 

日は既に沈んでいた。

 

「長い昔話だったな」

「久しぶりに思い出してな」

「そいつは落とされた感想か?」

 

「かも......しれんな」

 

手の包帯を眺める。

久しくこんなケガはしていない。

最後に大ケガをしたのは戦争のときか。

 

(いや、初心者の時に墜落したとき───)

 

思考は爺の質問で中断される。

 

本当に、よく口が回る爺だ。

 

「少女の方の感想はあるか」

「少女?」

「ほら、後ろに生意気そうな白髪少女が乗ってたじゃろ」

「いや記憶にないが」

 

そんなことはないだろ、思い出せ、と急かされる。

 

と、言われても落とされる直前の事だ。

 

大鳥が急旋回するより少し前

 

「あの瞬間、俺が見たのは」

 

風でたなびく似合わぬ服、

表情が一切変わらない顔、

こちらを射抜くような目、

 

なによりも異常なのは、その眼は“死”を知っていた。

 

人殺しだからこそ判るバケモノの瞳。

 

あれは少女ではない。

 

「───魔女だ」

 

爺の白髭は上に大きくうごく。

 

「ッ......そうかそうかっはははッ」

 

「随分うれしそうだな」

「子供の成長を喜ばん爺はおらんじゃろ」

「悪質な爺といっておこう」

「そいつは誉め言葉じゃな」

 

ドアは閉まる。

 

閉まった後も病室には笑い声が届くのであった。

 

◇◆◇

【情報部保管庫:第一種指定】

[ソブエト語の為、アメリア語への翻訳有り]

 

「最後に質問だ」

「何が聞きたい」

 

「なぜソブエトは大規模な先制攻撃をしなかった?」

 

「先制攻撃は開戦国の利点だ。

なぜ爆撃程度の攻撃しか仕掛けなかった。

今更、騎士道精神に溢れた訳でもあるまい」

 

「答えは簡単だ──できなかった、からだ」

 

「畑で兵士が取れるような国だぞ」

 

「数年前からだ。

新入りが引き抜かれ、シフトにも困り、

最後まで残ったのは俺のような古参ばかりだ」

 

「熟練者を残したってのか......解せんな」

「一介の兵士に意図は分からん」

 

「──だが気をつけろ、この戦争何か起こるぞ」

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
今日は休憩日だから、外伝みたいなお話(基本は土日に休みたい)。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。

ちなみに誤字報告があったので喜びました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。