竜も鳴かずは撃たれまい TS少女と鳥の空戦記録   作:上殻 点景

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記録⑫ 無理はムリ

【隠岐基地 翼納庫】

 

黄色いくちばしは、切創と焼痕が幾多もあり、綺麗な場所を探す方が難しい。

黒で染まった羽は、元来の由来ではなく、幾多の戦火を潜り抜けたからこそ黒煙で染まった。

 

そんな歴戦の大鷲は、現在微動だもできなかった。

 

「そこ、向きが違う」

「わかるかッ、そんなこと」

 

声の主は、おっさんと白髪少女。

 

つまり、トリノ大尉と俺である。

 

「レコ、もっと丁寧に綺麗にだ」

「わかってるつーの」

 

洗剤をつけた布で、丁寧に羽を拭いていく。

 

油分と埃と煤がついた翼は、黒く輝いていた。

 

アワアワした布でも簡単には綺麗にはできない。

 

「ちなみに擦りすぎると、爆発する」

「えッ」

 

泡が舞い、布が落ちる。

 

「冗談だ」

「し、心臓に悪い冗談やめろよッ」

 

布を拾い、

軽く泡を切って、

再び手を翼に近づける。

 

「だが気をつけろ。常に魔力を持った物は危険だと思え」

 

おっさんは、

あわに沈んだ羽を、

指先でひょいと拾い上げる。

 

日光をうけて、羽はほんのりと光る。

 

「一枚の羽に含まれている魔力は微量だ」

 

手から離れた羽は、泡に沈む。

 

「だが──」

 

今度は抜け落ちた羽を手ですくう。

 

「それが集まれば空だって飛べるようになる」

 

再び泡に落とすと、泡が“吹き飛んだ”。

 

「───ッ」

 

頬にはぬめっとした、洗剤。

 

もし飛んだのが石だった場合、頬から滴るものは別のモノであっただろう。

 

(やっぱり、魔法はヤバい)

 

体感するだけでこれである。

もし自分が使えたことを考えると......

やっぱり、使えなくてよかったかもしれない。

 

(まあ、魔法を使った道具って結構あるんけどなぁ)

 

例えば、清掃用の高圧洗浄機にも、魔法の技術はつかわれてたりもする。

 

「でもそんなこと言ったら、何でも危険じゃん」

「だからこそ必要なのは、見極めだ」

「魔力は眼にはみえねーぞ」

 

呆れ顔のおっさん。

 

視線はアホの子を見るようだ。

 

「レコ、お前が洗浄機で大鳥を洗わないのは、何故だ」

「何故って、そんなことしたら翼が傷つくだろ」

「そうだ。だが“それ”は知っているからできる判断だ」

 

幾度となく、大鳥を洗浄した、からこそ。

 

「お前はコンプレックスからか知らんが、魔力というモノに触れて無さすぎる」

 

「経験し、感じろ。それがお前の判断になる」

 

核心と助言。

 

その二つが来て、俺の心はちょっと荒れる。

 

「うぐッ───分かった」

「ならまずは基礎からだ」

 

おっさんは、俺の持つ布を取り上げる。

 

「タスク① 1人で大鳥を掃除しろ」

「いや、でも道具が」

「道具はあるだろ」

「いや、どこに」

 

おっさんは俺の“手”を指す。

 

思わずおっさんを2度見する。

 

(えっ、この巨体を1人で手で掃除すんの?)

 

ちなみに大鳥の横幅は7mである。

 

頷いた都合、

断るに断れない、

少女であった。

 

◇◆◇

 

「終わらない......」

 

作業開始から3時間、

ようやく背中が拭き終わり、

次はお腹周りの洗浄のお時間である。

 

「あれ? なんか足らない気が」

 

大鳥のふかふかのお腹には、ふさふさの羽があるのみ。

 

いつもならここに変身ベルトみたいな装置が付いているのだが。

 

「魔力補助装置か」

「そうそう、そんなの」

 

魔力補助装置。

 

魔法を()()()()()()ための補助装置。

本来、莫大な集中力がいる、魔法の持続。だが、補助装置が動作の代用することで、飛行士は細かい操作をしながら、空を飛ぶことができる。

 

「あれは今外してもらっている」

「なんだ、メンテか?」

「いや私用だ」

 

あとは上官に申請許可がな、というぼやきも聞こえる。

 

ふーんとばかりに聞き流していたら、

 

横の影は、後ろに移動していた。

 

「清掃サボるなよ」

「サボんねーよ、ばーか」

 

口ではこう言っているが、この少女、手を抜くつもりである。

 

単純に手で洗浄なんてしていたら時間がどれだけあっても足りないのだ。

 

こっそりと洗剤と布を使わして貰う。

 

(悪いがこれが大人のやり方だ)

 

見かけは少女の、ささやかな抵抗である。

 

「くくくっ───えっ、いや、あの」

 

不気味に笑っていると、おっさんの手が近づく。

 

「別に手をぬ──」

「なら、頑張りやがれ」

 

頭をくしゃくしゃ、

視界は白髪に覆われ、

目じりがちょっと熱くなる。

 

腕を振り舞わしたころには、背中はすでに遠く。

 

満足したトリノ大尉は去っていくのであった。

 

(クッソ、余計な事言いやがって)

 

絶対、手でピカピカにしてやる。

決心は十分である。

 

◇◆◇

【隠岐基地・運動場/射撃訓練場】

 

「レコ、ちょっとこっちこい」

 

掃除終わりに、トリノ大尉に呼び出される。

 

呼び出された場所は、屋外射撃訓練場。

 

「暑い」

「我慢しろ」

「我慢しても暑い」

 

いくら屋根があり、影とはいえ、

壁はなく、熱風が体をいためつける。

 

背中からでる汗が気持ちいいと感じるレベルだ。

 

(なのにおっさんは、汗すらかいてないし)

 

後に魔法で涼んでいると聞いて、ブチ切れるのは別のお話。

 

「さて、前回の反省だ」

「ゲロった話か?」

「いや、問題点の話だ」

 

真面目顔のおっさんに思わず姿勢を正す。

 

立てられる指は3本。

 

「1つ目、予想以上に二人乗りの魔力消費が激しいこと」

 

「2つ目、敵を見つけたらレコがお荷物になること」

 

「3つ目、少尉に目をつけられて同じような手段を何回も使えないこと」

 

「問題点、多すぎだな」

「そうだ、俺たちは飛ぶにも、飛んでからも問題が多すぎる」

 

「上記の2つは、一時放置。

解決策は後からでも問題ない。

問題はラストの1つ、これがネックだ」

 

「現状、2人乗りを続けるのは難しい」

 

「前回みたいに診察名目じゃダメなのか?」

「書類はそれで構わん」

 

「だが、現場は俺たちの姿を見る」

 

つまり、書類上はいくらでもごまかしは効くが、人の目だけはどうにもならないという事。

 

「少なくとも飛行士達を黙らす必要がある」

「黙らすって......」

 

思い出すは、胡散臭い細目。

 

あの細目が何回も飛ぶことを許してくれそうにはない。

 

「安心しろ、それについては“いい考え”がある」

「おっさん、それはダメな流れだ」

「なに軍歴40年の俺を信じろ」

 

な、謎の説得感だ。

軍歴40年もあるんだし、

円満解決の方法を知ってそうな安心感がある。

 

「それは、穏便な方法なのか」

「ああ、穏便だ」

「せ、成功の確率は?」

「過去の俺が証明している」

 

す、すごい。

これなら何とかなるかもしれない。

そんな希望を抱かずにはいられない。

 

「おっさんッ、それは、どんな方法なんだッ」

 

トリノ大尉は満開の笑みを浮かべる。

 

だがその笑みは邪悪。

 

悪魔寄りの笑みだ。

 

「力でねじ伏せる──なっ、簡単だろ」

 

穏便、とは?

 

「いいか、上官に歯向かうカスだろうが、なんだろうが空戦でわからせばいい」

 

何を言ってんだ、このおっさんは。

 

「穏便の『お』の字もないだろ......」

「肉体的ドッグファイトするよりは穏便だ」

「比較対象間違ってねえか」

「あの時は10人を病院送りにした」

 

何を、どこで、とは聞かない方が身のためだろう。

 

そんな不祥事を起こした人がどうして大尉になっているかは謎でいい。

 

「だがな、現状お前を乗せた状態でエース級と戦うのは厳しい」

「そんなにか」

「ハンデとして100kgの重りを背負っているモンだ」

 

100kgの重り。

 

俺の体重+座席の重さ。座席の下には脱出用のパラシュートが装備されており、重量の増加をまねいている。

 

たかが100kgと侮ることなかれ、大鳥の出力では、その差は旋回性能に大きく影響する。

 

「つまり......」

 

勝負は、全ての性能で劣った状態で戦うということ。

 

だからこそ、求められるのは、それらを覆す一手。

 

「だからな、レコ──」

 

おっさんは俺の肩に手を当てる。

 

顔はもちろん満開笑みのまま。

 

こういう時の笑顔はだいたい嫌な予感だ。

 

「──明後日までに魔法を使えるようになれ」

「無理だッ!!」

 

おっさん、俺の魔力0だぞ。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
おかしい今日は寝る予定だったのに......。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
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